貴方は英雄ですか? いえいえ。まだ一般ぴーぽーです   作:カルメンmk2

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 新年あけましておめでとうございます。年明け前に入れたかったのですが、新年に新たな世界に立つというのもおつだとは思いませぬか?

 文字数としてはこの位を意識しております。


爺、異世界に立つ

 

 渦を通った先は―――

 

 

「いやいや。それはいかんな」

 

 

 その先は何処かは知らぬ森の中、冥界の女神に送られてきた翁こと時雨永嗣は着物と丸腰のまま立っていた。

 緑の匂いが芳しい、自然の生命の息吹は老骨に力を与えてくれる。されど、重要な事がある。

 

「ここはどこじゃい」

 

 

 縁も所縁ゆかりも無い土地で、丸腰の老人が独り佇む。覆い茂る木の葉の隙間から日光らしきものが降り注いでいるあたり、夜ではないはずだ。ぽこぽこと根が地表に出ていたり、藪があったりと深い森らしい。

 女神いわく、異世界で英雄になるための経験を積んでこい、伝説を作ってこいと言っていたのだから争乱が起きる、あるいは起きている状況ではないだろうか?言いたいことはわかるはずだ。

 

 

「丸腰はいかんなぁ。うぅむ。実にいかんな」

 

 

 か弱い―――どの口がほざくのだろうか―――老人がただ独り。いやいや、東南アジアでは虎を殴り殺しているがそれもまだ四十代のとき、その三倍の年齢である自分は体力の衰えで、刀で熊を真っ二つにするぐらいまで弱っている。全盛期ならば、放り投げることもできた。

 大事なことだから二度言いたい。お前、本当に120歳の爺なのか、このやろー?

 

 

「ひとまずはコレでいいか」

 

 

 びりびりと着物の袖を破り、即席ではあるが投石布を作る。これは狩猟道具の一種で、銃が出てくるまでは戦場の主力兵器として運用されていたものだ。

 力の弱い女でも、この投石布を使えば当たりどころによっては兵士を殺せる。使い方としては投げるための持ち手を両端に結んだ長い布を用意し、その中央に石を包んで回すように振り回すこと。縦でも横でもかまわないが、然るべき勢いがついたときに片方の結びを放して投擲するのだ。

 

 

「何もなければええんじゃが―――――そうもいかぬか」

「何言ってんだ、てめぇ」

「何もなければ――」

「同じこと言えなんざ言ってねぇよ!!」

「知るか、そんなこと!!」

「逆に怒られた!?」

 

 

 まったく急に出てきおってからに。にしても、垢まみれで汚いのぉ。饐えた匂いがここまで届くではないか。

 

 髭面に、毛皮………………大きさからして熊の毛皮であろうものを着た大男と、木陰や藪を迂回しつつこちらを包囲するように動く気配が複数――――存外、頭がキレるようだ。

 

 

「敗残兵か?」

「……………………生かしちゃおけねェな、てめぇ」

「もう少し、猟師出身の賊というものを学んだほうがええ。お前さんら、明らかに規律が整いすぎじゃもの」

 

 

 毛皮の強烈な悪臭は周囲の臭いをごまかすため。足音も衣擦れも、葉と葉が擦れぬように動くことも相応の訓練が必要なものだ。猟師の可能性はこんな大集団で来る時点でない。彼らは五人ほどの集団で動き、熟練者はこやつらのような動きができる。だが、違うところが一つある。彼らは獲物を仕留めるその瞬間まで殺気を出さぬのだ。

 

 

「まだ改善の余地があるってことか、平時なら礼を言いたいところだが……………これも任務だ。悪く思うな」

「命は粗末にしたくないんだがのぅ」

「命乞いならもう遅ぇ。冴える頭を恨みな」

「ああ、いやいや。そうではない。そうではないのだ」

 

 

 ―――――儂が殺すってことだからだのぅ―――

 

 ――――――――狂風が吹いた。ただそれだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んんむぅ…………………汚れてしまった」

 

 

 ぱきり、ぱきりと肩を回せば、関節の鳴る音が耳朶を打つ。それとともに、鼻をつくような匂いが老人の周りを漂っていた。その発生源は言わずもなが襲い掛かってきた男たちである。

 誰も彼もがまともな骸になっていない。

 

 ある者は拵えていた上等な剣で木に磔になっていて……………。

 ある者は上顎と下顎を堺に真っ二つに引き裂かれ……………。

 ある者は腹に大穴を開けられて、はらわたが引き抜かれ……………。

 ある者はひき肉のような有様であった。

 

 すべて、この老人―――否―――

 

 

「しっかし、若返っておるとは面妖な」

 

 

 先程まで生きていた男が腰に帯びていた刀。その研ぎ澄まされた刃に映る己の顔は若かりし頃の己そのもの。眼は死んでいて、狂気しか孕んでいない狂人そのものだが、この頃は我武者羅に剣を振っていたはずだ。

 ―――――あの頃の自分が己を見たら………………どう思うのだろうか。

 

 

「――――詮無きことよな」

 

 

 上物の刀は戴くとして、他の武器は集めて売ってしまおう。二束三文でも、金になればいい。こやつらも金らしきものは持っていたから貨幣経済は存在するのだろう。

 

 

「だが、うむ。芯の通った兵だった。敗残兵ではない。忠義を誓った精鋭だった」

 

 

 拷問もどきをしても、頑なに人里の方向を言わなんだ。こんな狂人が人里など行ってしまえば、すぐさま地獄に変わるだろう―――とでも思ったか。

 刃向かわなければ……………というより、別に敵対しなければ命など奪わん。非常に面倒だ。

 

 

「次からは彼我の実力差を弁えることだ―――ああ、死んでおったの忘れてた」

 

 

 どうも、若返っても忘れっぽさがぬけん。妻が死んでからと言うもの、なんというかこういうことが非常に多くなって困る。

 ん? 儂、誰に対して忠告を………………まあ、いいか。

 

 

「気配がする方向へ行けばいいか。まばらだが、そうは遠くないかの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「隊長、ここです」

「うむ。…………………………モンスターの仕業か?」

「死体が持ち去られていないところを見ると、人間かと」

「ふむ。武器だけ…………剣が全て奪われているな」

「弓矢と槍は鉄くずとして不向きです。惨殺と拷問をしていますが金に変えるという知性はあるようです」

「……………………………足跡から街道へと向かったのだな?」

 

 

 おそらくは………………。血の跡らしきものが藪に残されている。それは、不幸なことにこの国―――ラキア王国の山道の一つに向かっている。だが、隊長と呼ばれたものは別のことを確認した。

 

 

「東と西、どちらだ」

「東です。目的地はオラリオではないでしょうか」

「ならばいい。この殺人鬼がオラリオで暴れてくれれば、彼らの死も無駄ではない」

 

 

 鬱蒼と茂る藪を超え、大きな街道へと出た隊長が見据えるのは天高くそびえる白亜の巨塔。憎きオラリオ、王に逆らう不届き者が跋扈する無法都市。

 

 

「あのゴミどもの数を減らしてくれればなおいい。そうであれば、最高の手向けとなる」





 さぁ、頑張っていきますぞー! 解説です。


『時雨永嗣』
 どうやら若返っていたという、テンプレが発生。四十代の頃というのは本人にとっても世界にとっても不幸が置き続けていた時代である。
 虎や熊を素手で殺せる時点で化物らしいが、ダンまちの世界では種族によっては軽々と行えるものが存在するため特にすごいことでもない。だが、元の世界ではかなり有名だった。

『投石布』
 スリングみたいなもの。説明が下手だが、極めて原始的な構造をしており、作ろうと思えば蔦や毛皮、紐でで作れる。
 振り回したときの遠心力を利用して投擲するもので、戦国時代(クレヨンしんちゃん アッパレ戦国大合戦より)でも運用されていた。ブレイクブレイドにてボルキュス将軍が最後は石の投げ合いというセリフはこのことだろう。しかし、石自体の質量と速度がそのまま攻撃力と飛距離になり、ちゃちな兜であればそのまま陥没、もしくは昏倒させられるだろう。

『山賊に扮した兵隊』
 そのままの通り、山賊に扮していたラキアの部隊。巡回任務をしていたらしく、永嗣が兵士と見抜かなければ適当に脅して開放していた可能性もある。
 全員、永嗣によって惨殺されている。

『ラキアとラキア軍の兵隊』
 年がら年中戦争をしている国家。当初は勝ち続けていたがあることを境に連戦連敗となり、損害が拡大し続けている。
 巡回中の部隊が帰ってこないため、確認に出た捜索部隊。特になし。
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