俺は、全部諦めた。
夢も理想も願いも、全部同じように聞こえるがそれぞれ違ったものを全部捨てて生きていた。
幻想郷で生きていた、仕事をしながら生きていた、けど...

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昔書いていたもののリメイク、知らない人は多分知らない。
ヒーローになりたかった男の物語...


夢捨てることできなかったモノ

 子供の頃、夢は何だと聞かれれば、男の子は迷うことなくこう答えた。

 

「仮面ライダー!」

 

何かのために戦い、守り抜き、それを可能にしている強さがある。

そんな仮面ライダーがその男の子は大好きであった。暇があれば歌を歌ったり仮面ライダーになっている自分を想像したり、それは親が止めようとするほどであった。

 

男の子は次第に大人になり立派な男となった。

しかしそれでも男の仮面ライダーへの熱は覚めていなかった。むしろ悪化していたといっても良かっただろう。だが流石に男はその年になったため仮面ライダーを空想の産物だということは自覚していた。だからこそ、空想であるからこそ男は憧れたのだ。妄想もたくさんした、時にオリジナルライダーなんてものもたくさん想像した。

虚しくなった時もあったが人生で迷ったときは仮面ライダーたちの精神や言葉を思い出して迷いを消した。そんな人間であった。

 

男は一時、俳優となり仮面ライダーになるという夢を持った。だが夢は夢で、男にはそれに見合う容姿がなかった。

男はその後、アクターになることも夢見た、しかし男の体は仮面ライダーを演じることはできなかった。

要するに、努力家ではなかったのである。都合よいときだけ仮面ライダーを思い出して、都合の悪い時はそれから逃げた。そんな男が子供たちの憧れになれるはずがない。男の肉体がピークを過ぎたときからは終始「こんなはずではなかった」と考え始めた。あの頃、もう少し努力をしていたら。あの頃、欲望に負けていなかったら。そんなことを考えてもやり直せないことは既に知っていた。だからこそ余計に仮面ライダー(理想)を追い求め、深みにはまっていった。

 

 そんなある日、男が目を覚ますとそこはごちゃごちゃして仮面ライダーグッズで溢れた小汚い部屋ではなく、真っ白で何もない空間で目を覚ました。そのことに驚き自分の体を確かめようとすると羽織っていたはずの布団もなく、自分の体と呼べるものはどこにもなかった。声にもならない悲鳴を上げながら状況確認をすすめるていると突如、頭上に声が響いた。

 

「もう一度やり直したくはないか?」

 

その言葉を理解することなく男は条件反射で「したい」と声を出す。それが声になっているのかは何故だがしっかりと伝わってはいるらしい。

 

「どんな力が欲しい」

 

そんな問いに男はまたもや条件反射で仮面ライダーの力が欲しいと答えた。

謎の声はその問いに少しとまどったのかはたまた呆れたのか、間を置いたあと返答が来た。

 

「『仮面ライダー』の力でいいんだな」

 

その時はやけに強調していなという考えしかなかった。

次の瞬間、周りの白は黒となり、だんだんとそこに地面や草、いわゆる地形というものが出来上がっていった。その変化が収まり、いまだに現実感をつかめていない男であったが『仮面ライダー』の力というものが気になり早速様々なことを試し始めた。

まず最初に体に変身アイテムがないか確かめた、結果はなかった。というかいつのまにか体は高校生の頃、いわば体のピーク辺りに戻っているのはよいのだが裸ということに少し恥ずかしさを覚えていた。

次に、様々な変身のポーズをとってみた。アギトのポーズでも駄目で諦めかけていた時、ギルスのポーズ、色々と試し、正しくはない唸り声をあげ体から何かが出てくるようなイメージをしたとき体の内側から本当に何かが出てくるのを感じた。

これはいける、と喉がかれるほどに叫び、拳や力に力を入れる。それを数分した時、体の中からナニカがでてきた。

 

「...は?」

 

そんな間抜けな声を出しながらもナニカは止まらず男の体を侵食していく。止め用にもいくら力を抜いても、体は突き破られていく。その光景を直視する事をやめ目をつぶる。

しばらくして体を襲っていたむず痒い感覚が消え恐る恐る目を開け体を確かめると目に映ったのは

 

ゴツゴツとした皮膚、

 

醜悪というべき体を覆う造形、

 

人間とは到底思えないような手や足、

 

その姿は正しく、『仮面ライダー』に出てくる怪人の姿であった。

男は『仮面ライダー』という番組に出てくる戦士の力を得たのではなく、『仮面ライダー』という番組に出てくる怪人の力を得たのである。

その瞬間、男の夢も何もかもが崩れ去った。

怪人は戦士(仮面ライダー)なしでハッピーエンドを掴めない、それは男がよく知っている事実であった。

男はやり直す、という夢を捨て、怪人として生きていくことになった瞬間である。

 

怪人は夢を捨てたためか、動物や人を殺すことにためらいがなくなっていた。

無心に、極悪な怪人を演じていた。その演技はいずれか体に染み渡り人間の心など消えていた、かと思えたがやはり捨てきれないようで余りに可愛そうだと頭に浮かんでしまったら気まぐれを装い逃がしたこともあった。

 

この世に怪人に勝てる者はいなかった。力は勿論、多くの戦いで得た経験は技術となり、昔の人間の記憶は知識となる。

力、技術、知識を兼ね備えた最強の怪人となった。

世界中の生き物は怪人を恐れた、中には怪人に取り入り虎の威をかろうとしたものもいたが怪人に見破られその命を失った。

 

怪人が生まれた世界には男がいた世界にはなかったものが多く存在した。

神、妖怪、霊力、異能、それらの中には怪人と戦える者もいた、それでも怪人に敵うことはなかった。

だがそんな怪人最強はある日を迎えて終わった、この世の者たちが全戦力をかけて怪人を殺しに来たのである。

流石の怪人もこれにはまいってしまう、精神的には勿論、最強の肉体も世界を相手にするだけの体力はなかった。

弱ってしまった所に怪人が苦手としていた異能や緊縛術で動きを封じられる。そこで怪人は幻想郷という妖怪と人間の理想郷の存在を知った。

もう少し人間としての生き方を諦めなかったらそこで幸せに暮らせただろうかなんて嘆きは誰にも届かず、しっかりとした封印さえ抗うことができた怪人は幻想郷で飼い殺しという残酷な方法を迎えたのだ。

 

怪人の仕事は怪人から抜き取られた妖力とも霊力ともよく分からぬ力によって構成された結界の中で幻想入りする者たちの中で幻想郷のパワーバランスを崩す者たちとの戦いであった。この世には怪人ほどではないが充分化物といえるものたちもいてそれを防ぐことができた幻想郷の主は大変喜んでいたらしかったが怪人にはもはや関係のないことであった。

敗者は敗者らしく従う、それには理由があった。こうなってしまったのも全て自分のせい、今まで犯してきてしまった数々の悪事に対する責任感が一度敗れたことにより感じるようになってしまったことである。ここからは心を入れ替える、とはいかないが牙を抜かれた獣のようにおとなしくしていこうと誓い、あわよくばいつかこの人生から解放されることを願った。

 

そんなある日、珍しく結界に幻想郷からの客が来た。あいも変わらず怪しげな笑みを浮かべている幻想郷の主でと銀髪でオッドアイという珍しい青年であった。

怪人が首をかしげていると幻想郷の主は言った、お前はもう不要だと、これからはこの子がお前の仕事をすると、今までご苦労だった消えていいと、

それらを怪人が理解できずないうちに言い終わると青年が自慢げに幻想郷の主の前に出る。その状況を本当に怪人は理解することができずにひとつの疑問を抱いた。

 

どうやって俺を殺すのだろうか?俺は死ぬことができないし結界も効かないというのに、とそれは段々と嬉しいような悲しいような何かと混ざり合う。そして出した結果は

 

「ヤッテミヤガレ、ジャクシャドモ」

 

挑発であった。ここで殺してくれればそれでようやく長い苦しみから解放されるからであった。青年がその言葉に少し眉をひそめると腰からどこか見覚えのある白い長方形のようで中央に丸いデザインがあるベルトを腰に巻きつける。

そしてベルトについているホルダーから一枚のこれまたどこかで見たことがあるカードを取り出してこちらに見せつけるようにカードを向ける。

その光景に怪人は、思い出す、何度も試したあの頃を、何度も自己満足のためにとったあのポーズを、だからこそ怪人は叫んだ、目の前の現実を受け入れられずに

 

「オマエハナニモノダ!」

 

 

 

「通りすがりの仮面ライダーだ、覚えておけ」

 

 

 

 

 

 

それからしばらくした後、地面には緑色の血が流れ、それを埋め尽くすように大量の赤い血が流れていた。そこには心を壊した人間がひとり泣いていた。

男は、ヒーローにも、怪人にもなれず、人間のままであり、変わることなどできなかった。



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