【SAO×AB】相似形の世界   作:鬱蝉

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All hell break loose.(地獄が始まる。)


五話 「幕開(オール・ヘル・ブレイク・ルース)」

「うし、13体目!」

 

俺は数えていた撃破数を叫んだ。同時に戦闘終了画面がポップアップ。EXP(経験値)メーターが伸び、ついにゲージ満タンとなった。メーター左側のプレイヤーレベルのカウント表示が1から2へと変わる。

 

「どうだ、日向。俺はもうレベル2だぜ?お前はどうなんだよ」

 

「………………」

 

だんまりこくる日向。はっはっは、驚いて声も出ないか?すると、日向は口角をこれまでかと吊り上げた。

 

「甘いぜ、音無」

 

「何ッ!」

 

すると日向はメニュー画面を開き、俺に見せるため可視化させた。

日向のレベルは既に2となり、経験値のメーターは半分をやや超えていた。

 

「お前……!早過ぎるだろ……」

 

「効率がいいんだよ、俺はな」

 

俺と会話する片手間に日向は軽く《フレンジーボア》を斬り伏せる。鮮やかな手並みだ。ついさっきまで《フレンジーボア》に跳ねられて宙を舞っていたような奴とは思えない。

 

「ほぉら、お前もちゃっちゃっとやらねぇと俺に追いつけないくらい突き放されるぜ」

 

「くそぉ、今に見てろよ」

 

すると日向が一瞬、俺の後ろの方に視線を遣った気がした。

 

「というかお前はまず突き放されるより、突き飛ばされるな」

 

「へっ?」

 

直後、途轍もない衝撃とともに、揺らぐ視界、感覚の麻痺。刹那にして俺は高射砲で撃ち出された砲弾のように、宙を飛んだ。

 

日が傾き、空は赤いビー玉を落とした水面のように淡く朱色が広がっている。

 

「いつつ……」

 

未だに痛む腰をさする俺。この世界でもダメージは蓄積するものなのか。一過性のものだと思っていたが。それとも脳が生み出した痛覚信号であるのだから気の持ちようでもあるのだろうか。

 

「おーい、音無!時間だ。帰ろうぜ」

 

「あいよ」

 

俺は日向と並んで帰った。

 

はじまりの街の門を潜ると、視界に圏内であることを示すウィンドウが現れた。今日のレベリングの結果、俺はレベル2でExpメーターは1割程、日向はレベル2でExpメーターは七割程まで達していた。

 

これはある程度予期していたことではあるが、レベル2になった途端にExpメーターの上昇率が逓減してしまった。つまり、これ以降のレベリングは《フレンジーボア》狩りだけではやっていけない、ということだ。

 

しかし命が懸かっているゲームである以上、おいそれと未知のフィールドに足を踏み入れる訳にはいかない。

 

「どうするよ日向。ずっと日向狩りを続けていく訳にも行かないし」

 

「そうだな……って、さりげなくあのイノシシを俺呼ばわりするなッ!」

 

「おぉ、それは失礼した。確かにそれじゃ《フレンジーボア》が可哀想だ」

 

「いや、俺の方が可哀想だっつの!」

 

「ハイハイ」

 

適当に流されて黙する日向。

そんな日向が不意に空を見て独り言ちた。

 

「暗くなるのが随分と早いな……」

 

その通りだ。門に到着したころには、赤々とした日も地平線の彼方へ没し、空は墨染めのような淡い黒一色に塗られていた。

 

確か、SAO内では時刻はもちろん、季節も現実世界と連動しており、現実世界では今は晩秋を迎え、寒の入りが始まっている砌(みぎり)。時季的に日も短くなるが故、こちらで夜を迎えるのも早くなるのだ。

 

「そう言えば、まだ夜食食ってないよな?」

 

「そういやそうだ」

 

幸い、日向狩りーーもとい、フレンジーボア狩りによってある程度の金は得ていた。総額150コル。コルというのはこの世界における通貨単位だ。

 

俺らはそこらの適当なNPC露天商から10コル程度のパンを購入し、かぶりついた。パンはすぐに俺らの不可視変数を加算させて消滅したが、空腹感は未だ拭えかった。しかし、腹八分目ともいう。あまり満腹になりすぎてもよくない。とはいえ、やはり足りない気もするが。

 

「あ~飯食ったら眠くなっちまった!」

 

「そうだな。でもよ…………一体全体どこで寝るんだ?」

 

「…………あ」

 

沈黙の後、阿呆のような声を上げる日向。

 

「やっべぇよッ!寝る場所無ぇよッ!どうすんだよッ!」

 

一気にまくし立てる日向。

 

「はぁぁ……取り敢えず、近場の宿屋まで足を運んでみようぜ」

 

歩くこと三分。《INN》の看板を掲げた、明らかに宿屋である木造建築を見つけた。受付にいるNPCに声を掛けてみると、

 

『悪いね、今夜は満員だ。また別の日にしてくれや』

 

と、膠も無く断られた。

 

「仕方ねーよ。もう一軒回ってみよう」

 

「おう、そうだな」

 

で、次の宿屋。

 

『ごめんなさい。今は部屋が一杯なの。別の日にしてくれる?』

 

「どんまいだ日向、次だな」

 

「オーケイ」

 

『残念~!今日は満員御礼!まったきってね~!』

 

「日向、次行こう」

 

「……うん」

 

『あんら~ごめんなすぁい♪今日は可愛い坊やで一杯なのぉ~。あら、アナタ。なかなかイケる顔してるじゃな~い!どう?アタシの個人的な私、室、な、ら……♪』

 

「日向、次だ即次。倫理的にも、お前の精神的にも」

 

「………………」

 

直後の日向の虹彩からは光が失せ、人間らしい感情の一切を、一時的に喪失していた。

 

時刻は午後11時を回った。そろそろ本格的に寝床を見つけねばヤバい。

 

「で、本当にどうするんだ、日向」

 

「俺にいい考えがある」

 

日向はやっといつもの調子にまで回復していた。

 

「ほぉ、ならば聞こうか。そのいい考えを」

 

「ZA☆KO☆NE」

 

ごめん全然回復できてなかった。

 

「馬鹿言え。何で俺達が雑魚寝なんてしなきゃいけないんだ」

 

「だが、宿屋がどこも入れない以上、そうするほかないんじゃあないのか?まさか夜が明けるまでそこらをぶらつくという訳にもいかないしよぉ」

 

ぐぬぬ……実際、その通りである。

 

「だがよ、本当にそこらで寝ちまうのは安全上どうなんだよ。アンチクリミナルコードがあるから被ダメージは無いとしても、もしかしたらもう既に窃盗スキルを身につけてる奴らもいるやもしれないし」

 

窃盗スキルというのは数あるスキルの内の一つである。プレイヤーはスキルスロットに自分好みのスキルを三つまで登録でき、プレイヤー同様にスキルにも経験値を貯めることが可能であり、この経験値は熟練度と呼ばれる。因みに俺が今、登録しているスキルは片手剣、索敵、料理。日向は片手剣、投剣、隠蔽。日向の方が若干戦闘に特化している。

 

そして、《窃盗》と呼ばれるスキルは本来Mobを対象としてアイテムをランダムに奪うというスキルなのだが、このスキル、対象がプレイヤーでも構わないのだ。プレイヤー相手の場合、ランダムにそのストレージからアイテムを抜き取れるのだ。但し、窃盗できるアイテムのレア度上限はスキル熟練度に比例する。

 

低熟練度で高位のレアアイテムを盗むことはできないが、現時点でのアイテムレア度の場合、武器・アイテムに関わらず俺らのストレージの中身は殆ど抜き去れるだろう。

 

しかしプレイヤーを対象とした窃盗の場合、覚醒していて意識のあるプレイヤーからの窃盗の成功率は極端に低く、かといって寝込みを襲おうにも大抵のプレイヤーは宿屋に鍵を掛けて籠もってしまっているので、プレイヤー相手に《窃盗》をする輩は皆無に近い。

 

路上で無防備に眠りこくような阿呆がいなければ、だが。

 

「それに関しては問題無いぜ」

 

日向が口を開いた。

 

「二人の内、一人が寝て、もう一人が起き、ローテーションで番をさせよう」

 

「それは確かに正論だが……」

 

なんというか、地ベタで雑魚寝とか、その、生理的に無理というか……

 

「何を言うんだ、音無!」

 

日向が急に叫んだ。

 

「なんだよ日向、急に叫びやがって」

 

日向は両の腕を大きく振って熱弁を奮い始めた。

 

「いいか、音無。この世に凡そ人類と呼べる存在が誕生した時、原初の人間達に上等な家屋などあったか!いや断じて無い!彼らは己達を排除しようとせん天敵に脅えながらも大地に臥し、淘汰に勝ち抜いて来たのだ!さぁ音無、思い出せ。原始の魂を!そして、いざ雑魚寝をせん!」

 

日向の熱弁を、俺は水も凍結するような冷たい眼差しで見ていた。

 

「いや、あくまで俺達はホモ=サピエンス=サピエンスなのだから原始人がどうとかって正直関係ないと思うのだが」

 

「誰がホモだッ!」

 

「言ったけど言ってねぇよッ!」

 

日向が理不尽にキレて、俺も矛盾した返しで応じた。結局のところ話題が徐々に脱線してしまう俺達であった。

 

最終的に、見張り番と雑魚寝を交代制で行うということで俺が妥協し、今日のところは就寝と相成った。

 

最初の見張り番は日向、俺は雑魚寝。俺が二時間寝て交代。次の見張り番が俺、日向が雑魚寝。また二時間で交代し、これをもう一セット行った。

 

そして、アインクラッド二日目の夜が明ける。




今年最後の投稿となります。

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