『悔いはない』
なんて……
そんなのは嘘さ
マホロバの里、モノノフと人が生活する集落で会話があった。
「最近『ユウ』の様子が変じゃないか?」
「なに、相棒の様子が?」
少し、いや気のせいかも……。煮え切らないような感じで焔が言い始めると周りも彼に注目する。
「隊長が最近、妙に俺の事を気にかけてるような感じがしてな……急に『たまには賭け事でもするか?』とか『焔の好きそうな酒だぞ、飲もうぜ』とか誘ってきやがってな……」
「元からそんな感じで気の利いたヤツだろ?」
大して変でもないのでは?と時継が言うが、しばらくし何かを思い出したかのように言い出す。
「アイツ、そういえば俺の動力となる御霊やらパーツやらを片っ端から大量にプレゼントしてきたな」
それも最近だと時継が付け加える。
やっぱりかと、賛同を得た焔が周りに言い聞かせるように言う。
「妙に礼とかも言われるんだよ……。『焔のおかげで助かった』とか『困ったことがあったら何でも言ってみろよ』とかさ……なんだか不気味なくらいによ」
あ、そういえば……。と周りにいる者達も何かを思い出したかのように反応しだす。
「言われてみれば最近のユウは少し、変な気もするな」
「少し、だけど私もそんな感じがする」
元々優しく誠実な隊長なのだが、ただ少し気にかかるかも、とグウェンと椿が思い当たる節があるようで顔を合わせる。
「悪い事をしているわけではありませんし、さほど変わらないですが、一応彼に尋ねて見ましょう」
で、その彼は今どこに、と紅月が尋ねる。
「マホロバ周辺の鬼の討伐が終わったのを受付で私は確認してるから、里の何処かにはいると思うわ」
「そう、……なら私から彼に尋ねてみます。あまり、皆でよってたがって聞くのもあれですしね」
「それも、そうだな。なら、頼むぜ紅月」
周りの皆も紅月に『ユウ』隊長の事をお願いし、各自バラけていく。紅月はそのまま彼がいそうな所を手当たり次第当たろうと歩きだす。
「博士のところが……妥当でしょうか」
マホロバの里の中心に大きな建物がある。
その中心に建つ寺はマホロバの巫女を御守りするためにあり、また、里の皆を護るためにある。
巫女がいる、その神聖な場所のなかで会話があった。
「なるほど、ではユウがその鬼をやっつけたのだな!」
「手強かったがな……。と鬼の名誉の為に言ってあげるが、ホントのところは楽勝だったな!」
マホロバの隊長と、隊長の膝に座っている巫女と称される小柄な少女が和気あいあいとお話し中である。
「ふむふむ、そなたの話しは本当に胸が踊るぞ!私の記している物語も筆が止まらなくなるんだ!」
「……いやいやそれほどでも」
この里の守り神として大役を務める神垣ノ巫女であるかぐや様は、まだ幼く、大人の心を射止めるような愛らしさを持つ巫女にマホロバの隊長はデレデレである。
「それで、続きはどんな感じだ?」
「そうだな、蛇のような鬼を討伐した後は……」
何かあったのか、少しの間隊長は難しそうな顔をし、上を見る。
「ーーーあ、そうだった……、ゴウエンマを討伐しに行ったんだがな、ゴウエンマの鬼が二体いてだな……」
ヤバイとは思ったんだがな、ほれ、無傷。と隊長は付け加える。
「ハハ、そういえば椿には一人で討伐に行って怒られたな」
「ふむ、見事だなユウは!マホロバもそなたがいる限り永遠に安泰だな!」
「そうだな」
今日の武勇伝を話終えたのだが、まだ好奇心溢れているかぐや様の愛らしさに負けたのか、ニコニコとマホロバの将来を語るのだが、しばらくして
『失礼しますかぐや様、八雲です』
何やら話し声がしますが、と近衛隊長であり、かぐや様の側近である八雲が訪ねてきたので、隊長はここに来るまでに使った隠し通路へと急いで向かう。
「じゃあ、また来るな、かぐや様」
「ああ、楽しみに待っておるぞ!」
笑顔で別れを済ましたかぐや様は、ガラララとドアを開ける八雲を見て「だ、誰も招いてはおらぬぞ!ホ、ホントだぞ!」と何もなかったかのように振る舞うのだが、八雲の表情が変わっていったのは言うまでもなかった。
隠し通路を使い、外に出たユウは大分話し込んでいたのかと、夜空を見て呟く。思えばここに来てから随分と時間がたっている。博士に拾われマホロバに来てからは、鬼を討伐し、鬼内と外様の問題と関わり、識という時限を越えてやってきた者と戦い……。
いつだって彼は問題に首を突っ込み、解決へと導いてきた。その過程で彼は里の皆に認められていき、気がつけば彼はこの里の隊長である。
フと、思いにふけながら彼は里の端にある一つの建物へ向かう。
「博士~会いに来たぜ」
「何だ、助手二号か」
甘いものは持ってきたか?とユウの事を助手と呼ぶ小柄な女性は自分とは対照的に、色々と大きい女性が目に入る。
「お前の後ろにいる紅月から話があるそうだが?」
どこか疲れた表情をした紅月が隊長を見ると、ニッコリと隊長の方へ近づいていく。
「長い間どこへいかれていたか教えてもらえますか?」
「お、おう、紅月……それはだな……」
あはは、と気まずそうに笑いながら相づちをしている隊長には紅月から鬼の角が生えていて、般若のように見えているのだろう。
あはは、うふふ、と
しばし、言葉が詰まりながら困って
いる隊長を見て紅月も満足したのか、
「はぁー…もういいです。あなたがのらりくらり居なくなったら大抵はかぐや様の所に行くのは知ってますし」
「あらま、バレてら」
「まあ、その事はいいです。いずれ、しっかりと話し合いましょうね」
「……はい」
では、本題ですが、と咳払いをして、紅月が言う。
「ユウ、何か最近ありましたか?」
「……え、」
「体の具合が悪いとか、困ったことがあったとか……」
「……は、はぁ、何を藪から棒に?」
はて?と首をかしげる隊長は困った顔をし博士の方を見る。
「なんだ、助手よ、何かあったのか?」
「と、特に思い当たる節がないんだが」
ないと思うんだがな、と再び紅月の方へ向き直る。
「……そうですか。なら、きっと勘違いでしょう」
「おう、勘違いだと思うが」
「ですが、何かあったら言ってくださいね」
「ああ、よくわからないが頼りにしてるぞ」
では、お休みなさいと紅月は博士の研究室を後にする。
「いやー、紅月にがくや様のとこ行ってたのバレてたかー」
「ああ、私が告げ口したからな」
「バラしたの博士か……」
おいおい、と溜め息を着きながら、そういえば、と食べ物が入っている袋を渡す。
「ほら、甘いもの……団子だよ団子」
仕事に夢中でこちらに背を向けていた博士はくるりと角度を変えて、団子を手に取る。
「おお、誉めてやるぞ助手よ
ーー休憩にするぞ、助手。茶……」
「もう、注いでます」ほれ、と湯飲みを差し出す。
『時継は?』『しらんな』と話ながら袋に入ってた団子を二人で手に取る。
「しかしあれだ、部屋が散らかってないと落ち着かないな」
「掃除したんだから、素直に誉めてくれよ……」
お前は毎日掃除しにくるからなぁ……。と何故か嫌そうに助手に言うが、彼は笑いながら、
「博士、なら肩でも揉んでやろうか?」
「なんだ、構ってちゃんかお前は」
したければ揉んでいいぞ、と団子をほうばる博士の後ろに立ち助手は言った通り肩揉みを実行中である。
「力加減どうですかね(モミモミ)」
「ふむ、悪くないな」
助手一号の方はあれだが、二号は良くわかってるな。と博士がはっはっは、と得意気に笑う。
「それで助手、ユウよ」
「おう」
「お前、何かあったのか?」
「え、またその話?」何もないんだがな、と助手が言う。
「そうか、だが鬼の手で皆の会話を聞くにお前は、最近変だそうだがな」
「……まじですか」盗聴は良くないぞ、とついでに言う。
「まぁ、お駄賃なしで私に尽くしてくれるのは関心だがな。だか、何かあるなら話してもいいんだぞ?」
今日の私は寛容だから話なら聞いてやるぞ、と博士が得意気に言う。
「ホントに何もないんだってよー」
「そうか、ならいいさ」
なら、この騒ぎは何なんだろうな……と、
はっはっはっ!と博士と助手の二人の笑い声が、マホロバの夜、響いたと言う。
最近、突然身体中が輝き、その光で自分が消えていくような感覚に襲われる。
自分の意思とは関係なく、過去からここ、マホロバに空間跳躍した時のように。
そして、見るのだ。
過去の、10年前の横浜防衛戦の時の事を。
何となくだが、空間を跳んできた俺にはわかった。
俺はここでの役目を終えたのだと。
俺は10年前の横浜防衛戦のあの地に帰るのだろう。
そして、わかる。
俺はその地で息絶えることを。
どういうわけか、死ぬはずだった俺はマホロバの地にやってきた。
そして、マホロバの皆を救う手伝いをさせてもらった。
だが、その役目が終わったのだ。