生きた証   作:まーぴん

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禊場ではお静かに

頭では覚悟は出来ても、心ではまだ出来ていない。

腹はまだくくってないが、やるべきことは決まった。

 

決心したのは御霊達と心を通わせていた禊場。

腹をわって話そうと思ったのも、裸の付き合い、隠すものは何もない禊場であった。

 

さて、どこから話せばいいのだろうか。

『私は十年前の横浜防衛戦に戻り、戦います。もう会えないかも知れません』ざっくり言うとこんな感じだろうか?

 

本来なら、皆に嘘偽りなく話すべきことであるのだが、やはり全員に切り出す覚悟がまだなかった。

 

この手の話ならまずは博士に打ち明けるべきだったのだろうか。男同士話せるのなら時継だろうか。専門外ではあるが神無や焔だって真剣に聞いてくれるだろう。椿やグウェンはきっと心配し寄り添ってきてくれるのだろう。真鶴は冷静に見えて、誰よりも心は……。久音のデンジャラスな料理の感想を言えなくなってしまうのは残念だ。久音は試食してくれる人が居なくなってしまい悲しんでしまうな。

 

かぐや様の描く物語を読む約束を果たせなくなってしまう。かぐや様はどう思うだろうか。

 

紅月、仲間想いのお前は許してくれるのだろうか。横浜の仲間達と共に戦い死ぬかもしれないことを。

 

他にも沢山の仲間や可愛い後輩たちは俺がいなくなったらどうなるのだろうか。

 

 

 

紅月、任せて良いのか?

 

 

 

 

博士、お前は悲しんでくれるのか?

 

 

 

 

 

 

☆★☆★

 

 

 

 

 

 

「まあ、大体こんな感じなんだ」

 

驚いたか…?

 

まるで他人事のようにこの男は話を告げた。

アイツらにちゃんと話せるように前もって心の準備をしておきたかったのだと言う。同じ隊長である自分や八雲にと。

 

男は最初こそ気まずそうに話をしていたが、今は照れくさそうに笑みを浮かべている。

 

「あと、一ヶ月はもつと思うんだがな……さて、どうやって皆に話すべきかな」

 

「一ヶ月か……あまり悠長にはしてられないな」

 

悲しむ光景が浮かぶなと、ヘラヘラとその男は言う。

 

 

 

「モノノフよ、本当にどうにもならんのか……?」

 

八雲の問いにああと男は頷いた。だが、八雲はその男の素振りが癇に触れたようだ。

 

「モノノフ……お前は簡単に諦めてしまうのか……?私たちにそうさせなかったお前がだ……!!」

 

そんな勝手は許されないと禊場で声が響いた。

 

「違うんだよ八雲。俺は諦めてなどいない」

 

険悪な表情をしていた八雲も彼の真剣な眼差しに言葉が出なくなる。

 

「俺はさ、忘れ物を拾いに行かなきゃならねぇんだ」

 

「忘れ物……?」

 

「ああ、横浜で俺を信じて戦っていた仲間たちを、見捨てるわけにはいかない。アイツらを裏切られたまま死なすわけにはいかないんだ」

 

絶対にだ。彼は言う。

 

「俺はアイツらが一人で死ぬことを諦めてはならないんだ」

 

ああ、やはりこやつらしいと思った。

ズルい言い回しだ。俺達が信じてるコイツがコイツであるためには過去に戻るのを止めることは出来ない。

八雲も止めることが出来ず不満そうに溜め息をただ吐いているだけだった。

 

 

「かぐや様は悲しむだろう。紅月とて素直に受け入れてくれはしないだろう」

 

「………認めざるえないが、かぐや様はお前の事を信頼している。なら、早めに話しておくべきだ。受け入れてもらえるかは別だがな」

 

だよな……と男は落胆する。

 

「刀也や八雲にはこうやって話せたが、皆にうまく話せる自信がないな」

 

「む、まだあの魔女にも話していないのか?」

 

「博士とある約束をした手前なんだ。むしろ一番言いづらいんだよこれが……。うっかり鬼の手で聞かれても困るから禊場で二人に話してるんだよ」

 

「なるほど、なら我々もうっかり外で漏らさないようにしなければな」

禊場を後にする私と八雲に「後のことは頼んだ。里を、みんなを頼む」と頭を下げられた。

 

まるで、これから死にに逝ってしまう遺言のような台詞であった。だが、返す言葉が見つからなかった。

 

 

 

 

 

我らは彼の決意をうのみにして良いのだろうか。

 

 

彼は自分の価値をわかってはいない。

この里の者達はお前と繋がっていく事で今のような平和な里になったことを。

この里の者達はお前無くしてはまだ不安定で脆いことを。

真鶴や神無はお前という存在に支えられ、今をしっかりと生きている。

重く言うならば皆は彼に依存している。

 

 

 

かくいう私も例外ではないのだろう。

 

 

彼がいなくなってしまったら、この里はどうなってしまうのか。誰にも役目は務まらない。ユウ隊長の代わりはいないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★☆★☆

 

 

近衛の隊長とサムライの隊長と話をした後、もう一人の隊長の自分は禊場に残った。禊場で御霊と対話をすると二人には言ったが、それは建前で、一人になりたかったのだ。隊長同士だからといって気楽に話せるものではなかった。彼らは自分の事をどう思ったのだろう。勝手なやつだと思ったのだろうか。

 

 

 

「……、……」

 

ああ、わかっている。どうなろうが、お前達御霊は一緒だ。

 

「………、……!」

 

アイツらの分霊が一緒だ。何も恐れることはない。

 

「ねえ、ちょっと聞いてるの……!?」

 

「………ん……なっ………椿、おまっ!?」

 

どれだけここにいたのだろうか。目を瞑り、御霊との対話に集中していたせいか気がつかなかった。自分の目の前には装束を着ているとはいえ、視線を向けるのが困る女性がそこにはいた。

 

「もう……女性の時間なのか……?」

 

「じゃなきゃ、ここに私はいないわよ」

 

椿の分霊が激烈に熱い仲だから大丈夫じゃね?と言ってくるが、そういう問題ではない。現に椿は恥ずかしそうに装束を手で覆っていた。

 

「すまん……!すぐにここから出るから」

 

「良いわよ別に……どうせまた御霊と話でもしてたんでしょ?」

 

貴方に女性をどうこうする度胸はないだろうし、そういう(よこしま)なことを考えてないでしょ?と椿は呆れながら自分の横に腰を掛ける。

 

色々と男として反論しなくてはならない事はあるだろうが、この禊場でソレを言ったらいよいよ立場が危うい。

 

「……すまん……」

 

「もう、良いってば」

 

それでも申し訳なく謝罪をしばらくしてしまう。

 

 

「それと少しあなたと話したかったし」

 

そういうと椿はこちらに身体を向けてくる。当然、彼女の腹部に対して視線を向けぬようにと目線は前方へ。

 

「父さんの墓参りに貴方がいるのを見かけてさ」

 

それもここ最近ずっと、と椿は付け足す。

 

「結構長く父さんと会話してるでしょ。そのお礼が言いたかったのよ……あの人も母さんもきっと喜んでるからさ」

 

「そうか」

 

ありがとう。椿は照れる素振りもなく、感謝の言葉を告げた。

 

「……まあ、椿が段差でコケたことや、御霊にビックリして腰を抜かした事とかを隊長として報告しなくちゃダメだからな」

 

「ちょ、そんなことを話してるの……!?」

 

「後は酒の匂いに負けて酒乱になったこととか、今日は寝癖が酷かったとか……くくっ」

 

あははは……!!おかしい……!!思い出すと笑いが込み上げてしまい禊場で笑い声が響く。

椿は笑うなとプンスカ怒っている。

 

「まあ、椿は元気ですよって報告しただけだよ。椿の事を頼まれてるしな」

 

「全く、余計なことは言わないでよね」

 

 

今度は一緒に墓参りに来てよね。と椿は念をおしてくる。わかったと返事をすると椿も満足したのか「全く……」と微笑む。

 

「ねえ、ユウ」

 

「ん、何だ」

 

「もし、あなたに何か困ったがあったならいの一番に報告してよね……相談にのってあげるから」

言いにくいのか照れ臭いのか椿は視線を合わせず真っ直ぐ向きながらそう言った。少し唐突な申し出だったので戸惑いつつも承諾の返事をする。

 

「ほら、あなたって自分の事をあまり話したりしないでしょ。記憶がないんだから仕方がないけど、それでも記憶がないのは不安なことだと思うから」

 

「ん、そうだな。じゃあ、困ったら椿に話でも聞いてもらおうか。例えば、椿は戦闘の時にムチャをするからたまに不安になることとかな」

 

「そ、それは最近は直って………ってそういう話じゃないでしょ!?」

 

ちゃんと聞いてるの……!?とこちらにプンスカと振り向き怒ろうとしていた椿は自分の頭に手のひらを乗っけられると驚き静止してしまう。格好の事もあるが、男女二人しかいない禊場で頭とはいえ、触れられてしまいビックリしてしまう。だが、彼はというと「椿は面白いな」とポンポンと頭を触れ笑いだしてしまう。

 

カァーとなった椿は格好のことなんて忘れて彼に襲いかかる。

 

 

 

 

 

 

ギャーギャーと禊場で騒いでいると一人の影があった。

 

「むむ、これは一体何事だろうか」

 

もめている二人をキョトンとした目で見ている金髪の女性の姿がそこにはあった。

 

「グウェン良いところに!椿がさっき何もないところでコケてな……くくっ」

 

「まだ言うか……!!」

 

「はは、椿はおっちょこちょいだな。………ん、ところでなぜあなたがここにいるのだろうか?」

 

あ、

 

グウェンの疑問に正常な思考へ戻っていく。

自分と椿が頬っぺたを掴みあっている今のこの状況は第三者からしてはかなりヤバイ状況であった。椿も自分の胸元を見るとギャーっと手を離し距離をとる。

 

グウェンはというと腕を組み日本の文化なのだろうかと訂正しなくてはならない勘違いをしていた。

 

「全く、騒がしいですよ」

 

なんともいえぬこの状況下の中、何かのとどめをさしたいのか

 

「一応神聖な場所ですからあまりはしゃぎすてはダメですよグウェン、椿……………ユウ?」

 

「どうした紅月立ち止まって………おや、貴殿?」

 

紅月と真鶴がグウェンの後を追うように禊場に入ってきていた。

 

 

「あの、これはだな……」

 

弁明余地はあるのだろうか?もう、謝罪しかなかった。

 

「おかしいですね。どうして女性の時間にあなたがいるのでしょうか?」

 

「まあ、貴殿ならいつものことではあるが」

 

自分の中の彼女達の分霊の御霊達が『激烈に熱い仲だから平気じゃね?』と呟いているが、どうやら今回は一緒に禊をすることは出来なさそうだ。

 

「ふっ」

 

もう、紅月さんにめちゃくちゃにされる未来しかなかっーーーー。

 

 

 

 

 

 

後日、弁明しに行ったのだがいつもの事でこの問題は片付いてしまった。

 

それでいいのか?

 

 

 

 

 

 

 

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