【スカルな野郎はナルシスト!】   作:めいでん

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▼ あ! スカルだんの ナルシストが とびだしてきた !




第一話【くれないのミツ】

ここはアローラ。常夏の国。

年がら年中日差しが降り注ぐこの地方は、全てのものが活気付いている。人や自然はもちろん、ポケモン達もだ。

 

それはここハウオリシティでも同じことだった。

観光業が盛んなこの島は、どこもかしこもごった返している。

 

特にブティックともなれば尚更のこと。

平日の真っ昼間から、主婦達がこぞって世間話をしながら買い物に来ていた。

 

そんな店内で、唯一ぽっかりと空いているスペースがあった。そこには長身長髪の男がただ一人佇んでいる。

 

 

「ああ、今日こそ上着を買わなくてはならない! けれど、ボクの美しいカラダに見合う服なんてアローラなんかにありゃしない」

 

 

あれこれ服を見ながら、上半身裸の男が朗々と語っている。彼の話し相手。それは目の前にある鏡だ。

舞台にあがる役者かというくらい芝居じみた大きな声で。

 

 

「やっぱり何も着ない方がいいんじゃないかな。あのタンクトップってかなりダサくないかい?

それにボクの細身ながら、程よく筋肉のついたマーベラスで美しいカラダを見ていた方が、みんなも気持ちがいいと思うし」

 

 

そう言うと彼は鏡の前でポーズを取り始めた。

二つにまとめた赤色の髪をかきあげたり、自分の腹筋を強調してみたり、黒いズボンの腰部分に縫い付けている五つのリボンを見せつけるようにしたり。

 

ボクってなんて美しいんだろうね、と呟きながら、自撮りを始める始末。今度はそれを彼の仲間にメールで送りつけだした。しかも、一斉送信で。

全くもって迷惑きわまりない男である。

 

 

そんな彼を店員はおっかなびっくり見守っていた。

 

お客様は神様だとは言うが、こんな変態をいつまでも店におきたくはない。

現に、彼は買い物に来た他の客に遠巻きにされていた。

この男が来るときはいつもそうだ。

 

 

──頼む。売り上げが下がるから来ないでくれ!

 

 

そう店員は願うも、彼は何故か頻繁にこの店に現れていた。ちなみに彼が通うようになってから店の売り上げは右肩下がりだ。完全に疫病神である。

 

 

一時間後、男はペンダントのチェーンを買った。

あれだけ言っていた上着は買わずに、なぜかレジ横のチェーンを即買いだ。

 

 

「銀色のチェーン欲しかったんだよねえ。ついこの間切れちゃったんだけどさ。やっぱりペンダントには、品のある銀色。そう思わないかい?」

 

 

会計をしながら鼻高々に語る彼は、はっきり言ってかなりウザい。

付き合わされた店員もひきつり笑いが止まらないという有様だった。

 

 

鼻歌を歌いながら店を出た彼は、先ほど買ったチェーンを取り出した。

それを持っていたペンダントトップに通すとそのまま身につける。

 

太陽に照らされた銀色のスカルペンダントは、きらきらと光り輝いていた。

 

また上着を買えなかったなあ、と彼はひとりごちる。だが別にそれを後悔している様子は全くない。

 

 

「プルメリちゃんには怒られそうだけど、仕方がない。ボクが美しすぎるのがいけないんだからね」

 

 

すっかり開き直った彼は、再び前髪をかきあげてドヤ顔を浮かべた。

 

 

彼の名前はオボロ。泣く子も黙るヤンキー集団、スカル団の幹部の一人。そしてこの物語の主人公だ。

 

さらに言うと、自分が良いと思ったならば絶対にそれが良いものだと信じている、根っからの自己中ナルシスト野郎だった。

 

 

 

 

 

第一話 【くれないのミツ】

 

 

 

 

 

買い物を終えたオボロは海で自慢のポケモン達と戯れていた。もちろん自慢のポケモンのうちの一匹、手持ちのアズマオウに乗って。

 

アローラ地方はライドポケモン以外 “なみのり” は禁止されてるだろ、と思った方。あなたは正しい。

 

だが、そんなものオボロにとっては些細なことにすぎなかった。

なにせ恐れさせてなんぼのチンピラ集団こと、スカル団の幹部。加えて彼は極度の自己中だ。

 

 

『とっても美しいボクのポケモン達を、華麗に見せつけることができない法律なんて。そんなの無意味だと思わないかい?』

 

 

そう断言し、パトロールをしていた警察とポケモンバトルを繰り広げたのが数日前。

彼にとっては法律などあってないようなものだった。

 

 

 

アズマオウと共にゆらゆらと。気がつけば、もうビーチサイドは遥か遠くだ。

地図を見て確認すると、どうやらメレメレ島の近くまで来たらしい。

 

オボロはすごいつりざおを取り出すと、思いっ切り振りかぶってルアーを投げた。

 

ちなみに言うと、アローラ地方では決まった場所以外での釣りも禁じられている。

だがそれもオボロは知らぬ存ぜぬを突き通していた。

 

 

突然、ウキがびくびくと揺れたかと思うと一気に竿ごと引っ張られる。

 

 

──かかったな!

 

 

オボロが素早くリールを巻けば、浮かび上がったのはサニーゴだ。

 

 

「サニーゴか。懐かしい気分になるしボクは好きだよ君のこと。

可愛い可愛いサニーゴちゃん。一戦、ボクと付き合ってもらえるかい?」

 

 

そう言うとオボロは腰に手を伸ばす。ゴージャスボールを手に取ると、それにキスをしてから開閉スイッチを彼は押した。

 

 

「さあ出番だよ。マイ・スウィーティー、ミロカロス!」

 

 

派手なエフェクトと共に登場したのはミロカロス。

彼女の瞳はくりくりとしていて、毛並みはつやつやと。しなやかな体躯はまるで天鵞絨が揺れているかのようだ。

 

美しいと評判のミロカロスだが、このミロカロスは少なくとも他のものより数段美しい。観る者に有無を言わせぬ気品を彼女は纏っていた。

 

両者にらみ合う中で先に動いたのはサニーゴだった。

相手のサニーゴはぐぐっと体をそらすと、一気にツノを噴射させる。

 

“ミサイルばり” だ!

 

串刺にせんとばかりに凄まじいスピードで針の大群は襲いかかる。

そんな状況にも関わらず、彼女とトレーナーは優雅に佇んでいた。

 

 

「さあミロカロス、サニーゴちゃんに見せておいで。

疲れを知らぬ駿馬のように軽やかに。穢れを知らぬ乙女のように可憐に避ける、キミの姿を!」

 

 

瞬間、ミロカロスは目にも留まらぬ速さで針の数々を避けていく。針の穴を縫うような正確さで、大層なめらかに。

 

その動きを見てオボロはほほえむと、ひときわ大きな声をあげて彼女に言った。

 

 

「ミロカロス! “うずしお” からの “れいとうビーム” でフィニッシュを決めてあげるんだ!」

 

 

オボロの声を聞いた彼女は海面に渦を創り出す。それはまるで竜巻のよう。

 

激しく回転する水の檻に閉じこめられたサニーゴは、なすすべもない。ただ黙ってミロカロスが打ち出す “れいとうビーム” を受けるのみだった。

 

“れいとうビーム” に当てられた水の塊は瞬時に凍っていく。たとえ対象が竜巻の形をしていようが、それは変わらない。

 

全ての水が時間を止めたかと思うと、崩壊。

砕け散った氷のカケラは太陽の光を浴びて乱反射し、なんとも美しい輝きを見せている。

 

それは、海上に佇むミロカロスの美しさを一層際立たせるものだった。

 

 

「ああ、美しい! 美しいよ! やっぱりキミは、バトルの最中が一番輝いている……!」

 

 

ミロカロスにうっとりと見惚れるオボロは、やっぱりボクのポケモン達は最高だね、とご満悦。戦闘不能に導いたサニーゴを放置して、自慢のポケモン達にポケリフレをし始めた。

 

手持ちは深く愛するが彼女達以外はどうでもいい。

そう考える彼にとって、傷だらけで無残な姿をさらすサニーゴはがらくたも同然だった。

 

 

──どうせヒドイデがやって来るんだ。このサニーゴは食べられてしまうだろうさ。数分もしないうちにね。

 

 

傷つき倒れるサニーゴから目をそらすと、オボロはアズマオウとミロカロスに笑いかけた。

彼の頭にサニーゴのことはもうどこにもない。とるに足らない出来事としてすっかり忘れ去っていた。

 

 

オボロがポケマメを与えると彼女達はとても喜んだ。

よっぽど好きなのだろう。もっと欲しいと言わんばかりに、二匹は体をくねらせている。

 

 

「これ以上食べるとコンディションが悪くなっちゃうからダメだよ」

 

 

そう呟くと、彼はあやすように二匹を撫でた。

 

オボロが空を見上げると、キャモメ達の群れが鳴きながら飛んでいる。太陽は西に傾き、赤く赤く全てを包み込んでいた。

 

 

「ねえアズマオウ、ミロカロス。キミ達は覚えているかい? かつてボク達が立っていた、あのステージを」

 

 

二匹のポケモンに触れながら優しく語る彼の姿。それは、まるで寝付けない子供に童話でも語るかのようだ。

 

 

「観客の熱気を、立ちはだかるライバルを、ボク達に当たっていたスポットライトを」

 

 

二匹のポケモンは答えない。ただただ静かに、黙って彼に撫でられるばかりだった。

 

 

 

 

 

 

しばらく経ってオボロはウラウラ島に向かった。スカル団のボスから呼び出されたからだ。

 

あまり指示に従わず自由行動ばかりするオボロ。そんな彼にどうやらボスはおかんむりのようだ。

 

 

「やれやれ。エネココアばっかり飲むからキレやすくなるのさ。鉄分だけじゃなくて、カルシウムも取ればいいのにね」

 

 

文句を言いながらも上の命令には従わなくてはならない。それが中間管理職の辛いところだ、とオボロは思った。

 

彼が言うことを聞く人間はアローラには二人だけ。同じくスカル団に属する、幹部のプルメリ。そして、ボスのグズマだけだった。

もっともオボロは自己中なのでたまにしか従わなかったが。

 

 

日差しが照る中、アズマオウとオボロはゆらゆらと波に揺られている。

ライドポケモンは使わない。アローラの民ではない彼の肌には合わないからだ。

 

彼の中では旅と言えばマッハ自転車だったし、“なみのり” だったし、“そらをとぶ” だった。

とは言え、彼はひこうタイプのポケモンを持ってはいない。

 

 

──多少どこかへ行くのが遅くなったとしてもさ。しょうがないよね。だって、“なみのり” の方がおっとりとして優雅だし。やっぱりエレガントな美しいボクには、みずタイプの彼女達がよく似合う。

 

 

プルメリが知ったらめまいを起こし、グズマが知ったら即座にキレる。そんなようなことを考えていたが、オボロはいかんせん自由人。

 

彼の中では全部が全部、美しさを中心に回っていた。

 

 

 

15番水道にたどり着いた彼はゆっくりと岸に降りた。どんな動作もゆったりと。それこそが美しさの秘訣だと、彼は信じているからだ。

 

 

「ありがとう、マイ・スウィーティー」

 

 

そう言うと、彼はアズマオウをボールに戻した。

ウラウラの花園を通ってポータウンへ向かう。と見せかけて彼はある場所に立ち寄った。ウラウラの花園の手前にあるポケモンセンターだ。

 

彼はポケモンセンターでポケモンを回復しに来た、というわけではなかった。横にあるカフェスペースに並ぶと、カバンの中からポッドを取り出して一言。

 

 

「おじさん。これにいつもの入れておくれよ」

 

 

マスターは少し顔をしかめてから、またかよ、と呟いた。彼はポッドを受け取ると、黙ってエネココアを注ぎ始める。

 

エネココアはグズマの好物だ。つまり、オボロはアジトによる前にご機嫌取りに走ったのである。

ポッドいっぱいの本格エネココアを渡せばグズマの機嫌も良くなってくれるだろう。そういう算段だった。

 

 

「お客さん、相変わらずハダカで寒くないんですか?」

「寒さなんて! ボクの溢れ出る美しさと寒さをはかりにかけたら、どっちが残ると思うかい?」

「寒さですね」

「もちろん美しさだろう? なんてったって、ボクは月の神ルナアーラのごとく美しいからね」

 

 

マスターの話も聞かずに一人朗々と語り始めるオボロ。

彼の口からは、今日はペンダントのチェーンを新調したのさ! と聞いてもいない話まで飛び出してくる。

 

意気揚々と喋るオボロを見て、こりゃ当分解放されないな、とマスターはため息をついた。

 

こうなったら彼は止まらない。このナルシストは自分語りが大好きなのだ。

 

オボロはマシンガンのように口を回し続ける。熱がこもったその声は早くて流暢で、一度もつっかえることはない。

 

ほんの少しマシンガンと違うところは、彼は弾切れを起こさないということだ。

マスターにとっては不幸なことに、弾づまりとも無縁だった。

 

 

ちなみに現時点でもオボロとグズマの待ち合わせ時間はとっくのとうに過ぎている。

グズマが彼に怒るのは半ば確定した事実だった。

 

 

 

 

 

カフェスペースを出たオボロは、ゆっくりとウラウラの花園を進んでいた。

 

彼がカフェスペースを訪れてから早二時間が経過している。静かなこの花園で、たまに聞こえてくるのはアリアドスの鳴き声だろう。

辺りはすっかり日が暮れてもう真っ暗だ。

 

しかしオボロが急ぐ気配はない。先ほども言ったが、何ごとも急がずにやるというのが彼の信条だからだ。

 

紅い花が咲き乱れるこの場所はむしポケモンの聖地。燃えるような赤に、萌えるような緑のコントラストはオボロのお気に入りだ。

 

一面に広がる花畑はなんとも鮮やかだ。

空気を吸うとほのかに香るはくれないのミツ。ひんやりと冷たい闇夜の中、花の匂いは心地よく鼻腔をくすぐった。

 

 

残酷なまでに闇に閉ざされた花畑は、ボクの目を楽しませてくれる。

その匂いも、ボクの鼻を楽しませてくれる。

花につられてやって来るポケモン達の鳴き声も、ボクの耳を楽しませてくれる。

 

 

だがしかし。うるさく騒ぐ人間は、この場所にはちっともふさわしくない。

 

 

「キミたち一体何をやってるんだい? こんなところでたむろしてさ」とオボロは声をかけた。

「このボクが通るんだ。邪魔だし、何よりうるさいよ」

「このスカル団のやつらに、あたしが集めたくれないのミツをとられたのよ!」

 

 

少女が指差したのは、向かい合っていた男達。

 

彼らが身につけていたのは覆面に黒いバンダナ。ところどころ白模様があしらわれた、黒のタンクトップに黒いズボンを履いている。

驚きからだろうか。彼らは、オボロを見て目をまん丸に見開いていた。

 

なるほど。確かにどこからどう見てもスカル団だ。

 

 

「ふぅん。事情は分かったよ」とオボロは言うと、スタスタとわきを通り過ぎようとした。

 

 

くれないのミツなんてどうでもよかったし、何よりこれ以上グズマの機嫌を損ないたくなかったからだ。

 

現在、待ち合わせ時間から三時間は経過していた。さすがの彼にも焦るものがある。

 

 

「ちょっとちょっとちょっと! あんた、そこは助けるところでしょうが!」

 

 

我関せずとばかりに歩き始めたオボロに向かって、少女はぎゃんぎゃんがなりたてる。高くて鋭い少女の声は耳がつんざきそうだった。

 

あまりに少女がうるさくするので、とうとう根負けしたようだ。しょうがないなあ、とオボロは呟くと、吐いたのはため息。

「じゃあボクが助けてあげるよ」と言ってから、ゴージャスボールをオボロは構えた。

 

 

彼は味方についたのだ。

 

 

 

 

もちろん少女の方にではない。くれないのミツを奪い取ったスカル団の方に。

 

 

「って、なんでスカル団の方につくのよ! かよわい女の子の物がうばいとられてたら、フツー女の子を助けるでしょ!」

「キミは頭がかわいそうな子だね。ボクはこんななりでもスカル団の一員だよ」とあきれたようにオボロは言った。

「ほら、その証拠に背中にタトゥーがあるだろ」

 

 

そう言うと、彼は少女に背中を向ける。そこには青色のタトゥーがでかでかと入っていた。

 

S字をもじった特徴的な印。

 

それは彼がスカル団において特別な地位にいることの証。

この印を入れるのを許されているのは、グズマの他にはプルメリとオボロだけだった。

 

 

「あ、キミたち。今回はボクがこの子の相手をしてあげるからポケモンしまっちゃって良いよ」

「オボロさんにそんな手間をかけさせるわけにはいかないですよ」

「ボクが懲らしめてあげたいのさ。くれないのミツごときでみっともなく騒ぐ、美しくないこの子をね」

 

 

オボロの言葉を聞いた少女はブチ切れている。「賞金ふんだくってやる! おまもりこばん持たせてるんだから!」と息まきながら、モンスターボールを勢いよく少女は放り投げた。

出てきたのはオドリドリ。ぱちぱちスタイルだ。

 

 

「銭ゲバ根性すさまじい。なりふり構わぬその姿勢は、一周回ってボクも好きかな。

さあ出ておいで。マイ・スウィーティー、ラグラージ!」

 

 

光り輝くエフェクトの中登場したラグラージは、とてもいかつかった。たくましい筋肉ががっちり付いていて、けれどもボディラインが整っている。そんな彼女の姿は妙に艶かしい。

 

 

「オドリドリ、“エアスラッシュ” よ!」

 

 

オドリドリは羽根をひと振り、ふた振りすると、真空の刃を創りだす。

 

ラグラージに向かって勢いよく振り注ぐ刃。

 

それを見ても慌てずに「“ストーンエッジ” で迎え撃つんだ」とオボロは自分のポケモンに語りかけた。

 

ラグラージが一声唸ると、地面から噴き出したのは岩の盾。瞬時に風の刃を受け止めたかと思うと、一つ二つ、三つ四つ五つと、それは次々に飛び出してくる。

 

だが、相手はひこうタイプのポケモンだ。地面からの攻撃をたやすく避けると、オドリドリは空高く舞い上がった。

 

 

「そーんな攻撃へでもないわ! あたしのオドリドリはね。こんな空高くまで飛べるんだもの。迎え撃つなんてできっこないわ」

「それはどうかな!? ラグラージ、“メガトンキック” !」

 

 

ラグラージは少し助走をつけると、思いきり岩を蹴飛ばした!

 

次の瞬間。たちまち岩には亀裂が入り四方八方に砕け散る。地面から襲いかかる鋭くも素早い岩のつぶての数々は、オドリドリの羽根に突き刺さった。

 

オドリドリが悲鳴をあげると、よし来たとばかりにラグラージは次々と岩を蹴る、蹴る、蹴り上げる。

 

 

「ああラグラージ! キミのしなやかな筋肉が縦横無尽に駆け巡る様! 岩のつぶてと見事にマリアージュするキミはやっぱり美しい!」

 

 

絶望の表情を浮かべる少女とは対極的に、オボロはすっかり悦に浸っていた。

 

無慈悲に浴びせかかる岩のつぶてに耐えられなかったのだろう。次の技を出すこともできずに、オドリドリは地面に落ちていった。

 

 

「そんな……!」

「さあ分かっただろ? くれないのミツはおとなしく諦めるんだね」

「こんなの! こんなのなにかの間違いよ!」と少女は言った。

「あたしは悪くないもん! オドリドリが弱いのがいけないんだ!」

 

 

涙目になりながら癇癪を起こす少女。そんな彼女をオボロは冷めきった視線で見つめていた。

バトルで得た高揚も忘れ、すっかり冷めきった目で。

 

 

「キミさ。こんなに美しい場所で騒いだ挙句、バトルに負けたらポケモンのせい? ポケモンが全て悪いのかい? キミのせいじゃなくて?」

 

 

ゆっくりと少女に近づくと胸ぐらを掴む。少女を空中に浮かせると、そのまま地面に叩きつけた。

 

 

「醜いね。自分の不甲斐なさをポケモンに押し付けるなんて。醜い無様なトレーナーだ。

醜い醜いキミに、オドリドリはふさわしくないよ」

 

 

その言葉を聞いた少女は泣きじゃくる。そばにいたスカル団のしたっぱも、オボロの態度にドン引いていた。

 

──そもそも悪いのは自分たちだし、年端のいかない女の子に正論をかますのは、さすがに大人気なさすぎる。

 

悪の組織のしたっぱは案外常識的だった。

 

 

「オボロさん。小さな子相手にちょっとやりすぎなんじゃないですかね」

 

 

ぐずる少女の背中をさすりながら、したっぱ二人はオボロに言った。

くれないのミツは貰うけど今度会ったら別のあげるから泣かないで、と必死にあやす姿は悪の組織とは思えない。

 

そんな彼らの姿を見ても、醜い相手に醜いと言ってなにが悪いんだい? と一切悪びれないのがこの男、オボロだった。

 

 

したっぱ達は奥の手を使うことにした。オボロに対して何よりも効く言葉を言うことにしたのだ。

姐さんすみません、と心の中で謝りながら、彼らがダシにしたのはプルメリだ。

 

 

「別のしたっぱが言ってましたよ。姐さんは優しい優しい人が好きだって」

「プルメリちゃんが?」

 

 

もちろん口から出まかせだ。

しかし、オボロの食いつきはコイキングよりも早かった。

 

先ほどまで見下していた少女には目もくれず、聴き漏らさぬようにじっとこちらを見つめている。

 

 

「姐さんはすっごく優しくて、ミスをしても許してくれるようなオトコが好きなんだって」

「……」

「きっと、オボロさんがここで! この子に! 広い心を見せてあげたならば!」

「…………」

「姐さんもオボロさんのこと、見直すんじゃないかなあ!」

「………………」

「そうかもな! 姐さん、案外夢見がちだもんな!」

「……………………まあ、けど醜いというのは今の段階での話さ。

この先オドリドリと仲を育んでいけば、きっと誰よりも美しいトレーナーになれるよ」

 

 

オボロの言葉はなんとも白々しかったが、少女が泣き止むには十分だったらしい。「ほんとに?」と呟くと、瞬きをぱちぱち。それから少女は顔を上げてオボロの方を見た。

 

 

「ああ本当さ。どんなに強いトレーナーだって、最初は醜くもがくところから始まるからね」

「ねえおにいちゃん」

「なんだい?」

「あたしのくれないのミツはあげる。だから、あたしにバトルのコツを教えて。いや、教えてください!」

「え、嫌だよ。面倒くさいじゃないか」

 

 

オボロがばっさり切り捨てると再び少女の瞳は潤み出す。したっぱ達は少女の背中をさすりながら、オボロさんひろいこころ! とオボロに向かって口パクをした。

 

 

「しょうがないなあ。たまになら良いよ。キミの名前は?」

「リジー。あたし、マリエシティに住んでるの。おにいちゃんは?」

「ボクの名前はオボロ。元ホウエン地方のコーディネーターで、今はスカル団の幹部」

 

 

そう言って彼はリジーに手を差し出す。リジーは涙を拭くと、ゆっくり彼の手を取った。

 

 

「キミはボクの弟子第二号だ。よろしく頼むよ、リジー」

 

 

かくしてオボロは弟子を取った。ここに小さなスカル団員が誕生したのだ。

二人は握手を交わし合う。できる限り、ゆっくりと。月の光に照らされながら。

 

 

「そう言えば、オボロさんはなんでここにいるんですか? アジトに用事でもあるんです?」

「あっ」

 

 

すっかり忘れていたが、彼がここにいるのはアジトのポータウンへ向かうためだ。全てはグズマに会うために。

 

マズイと思って時計を見ると、約束の時間から五時間が経っている。通信機にはグズマからの不在着信が山ほど。

ちなみに言うと、カフェスペースで入れてもらったエネココアはすっかりぬるくなっていた。

 

 

「あー、グズマくんさ。元気そうだったかい?」

「グズマさんですか? 今日ヤバかったんですよ! なんかずっと不機嫌そうに時計を見てて」

 

 

──今すぐここを離れたい。なんならマリエシティまでリジーを送り届けても良い。さらに言うと、ホウエンに帰りたい。

 

 

オボロは冷や汗をかきながら現実(グズマ)から逃れる計画を立てていた。無論、全ては机上の空論だ。

 

オボロにとっては不幸なことに現実(グズマ)は命中率百%。ついでに言うと、彼にはこうかばつぐんだった。

 

 

 

 

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