【スカルな野郎はナルシスト!】   作:めいでん

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言い忘れてたけどこのssはムーン準拠_(:3 」∠)_

〜前回のあらすじ〜
▼ オボロは ミアレガレットを たべた !
▼ ホテルしおさいに とまった !


第十話 【ウツロイド】

まず朝早くに起きたら歯を磨く。運ばれてきたご飯を食べて服を着る。

それからお次は準備運動。

膝を折り曲げいちにいさんし。腱を伸ばしてにいにいさんし。その場を飛び跳ねさんにいさんし。

 

ぐるぐると肩を回して伸びをすると、勢いよくミヅキはロビーを駆け抜ける。チェックアウトをするのも忘れ、ハウやリーリエが待つ外へ全力疾走。

 

無事合流した三人は今日の使い道を話し合っていた。

 

リーリエはひとまず空間研究所に行き、バーネット博士とご歓談。二人は先にディグダトンネルを通ってコニコシティへと。

 

仲間と別れた後、暗くてじめじめした洞穴を少年少女はずんずん進む。

そこら中を這い回るディグダをぱしゃり。ポケファインダーに収めながら、道具を拾い集めていく。彼らの気分はさながら探検隊だ。

 

9番道路を抜け赤い門をくぐると、そこには異国情緒あふれる街並みが広がっていた。

 

ミヅキは思い切り空気を吸い込んだ。

 

たちまちどこか懐かしい香りが胸いっぱいに広がっていく。

ふんわりと優しくて、嗅いだ人間もポケモンも一瞬で落ち着かせるような。

 

見ると、出店から一筋の煙が立ち上っていた。淡く光るそれは空に溶けて消えていく。

お香だ。お香が焚かれていたのだ。

 

 

「ねぇハウ。自由行動しちゃだめ? この街、すっごく面白そうだから探索したいんだよね!」

「ええー、なんでー?」

「うううダメかな。大試練が終わるまでだから」

 

 

疑問を投げかける少年に眉を下げる少女。

そんな状況でも双方笑顔の図は、側から見ると相当シュールだ。

 

ミヅキは言葉を続ける。小さな声でごにょごにょと。

こてんとハウが首をかしげても彼女の口は回り続ける。

 

よほど少女はこの街を好きに歩きたいらしい。

コニコシティに故郷と近いものを感じたからなのか。彼女は奥底から沸き起こる衝動に突き動かされていた。

 

涙目になりながら手を合わせるミヅキ。あまりに必死なその姿をハウは不思議に思っていた。

そこまでミヅキがねだる理由が、彼には全く分からなかったからだ。

 

郷愁の念。それは、本人にしか分からない。

どんなに故郷が大切で、狂おしいほど求めていても、他者にとっては単なる過去にすぎないからだ。

 

けれども彼はいわゆるイイ奴だった。

マイペースではあるものの友達思い。自分のことよりも人のことを優先する。お年寄りには席を譲り、迷子がいれば道案内を欠かさない。

それがハウという少年だ。

 

 

「うーん。けどミヅキがしたいならさー、いいよー! おれもお腹すいたからー、好きなだけご飯食べたいしー!」

 

 

そう言って、ハウは食堂に消えていった。

 

さすがは商売の街、コニコシティ。

 

がっつり食べたい男向けの肉定食。海の幸を堪能できる魚定食。ダイエットにぴったり、ヘルシーな野菜定食。そしてよくばりな人用に盛り合わせスペシャル。

飲食にも力を入れているようで多種多様な定食がここの名物だ。

 

ハウがスペシャル定食を頼んでいる最中、ミヅキは街を見て回っていた。

 

漢方薬を試食してえづいたり、お香を何個か買ったり、ブティックを見て回ったり。それから少女は髪飾りを買おうとジュエリーショップへ。

 

ミヅキが扉を開くとぬっとなにかが飛び出した。

ダイノーズだ。

大きな体と大きな手の間から、するすると手紙を取り出すと少女によこす。

 

ミヅキは手紙をまじまじと見つめた。流暢なアローラ文字で裏にライチと書かれている。

少女は封を切ると、アーカラ島の島クイーンからの果たし状を読み始めた……。

 

 

 

 

さてさて場所は戻ってカンタイシティ。

ただいまの時刻は十一時。街は歩く人で活気付き、ホテルしおさいもばたばたと人が走り回っていた。

 

当然だ。チェックアウトの時間は人が混むし、清掃作業にも追われるからだ。

 

よほど切羽詰まっているのか、どんどんと容赦なくノックされる扉。だがしかし部屋の主はうんともすんとも言いはしない。

ちらりちらりと時計を見ながらバトラーは舌打ちを重ねるばかりだ。

 

そんな中、この物語の主人公であるオボロとその弟子がなにをしていたのかというと、

 

 

 

 

寝ていた。

 

チェックアウトの時間もすっかり忘れ、ホテルで買ったお揃いの耳栓とアイマスクを付けぐうすか眠る二人の姿。その光景はデジャヴだった。

 

 

 

 

第十話【ウツロイド】

 

 

 

 

カンタイシティに佇む青い屋根。それをじっと眺めながら、オボロとリジーは太陽の元に照らされていた。

 

近くにいたフロントマンはぎゅっと眉根を寄せている。このお騒がせコンビがさっさと去ることを彼は心の底から願っていた。

 

客とはいえマナーを守らない者はお断り。

天使か悪魔か。彼らの名前を呼ばずとも、しおさいの従業員はすっかり震える魅惑のバッドテイストだ。

 

彼は帳簿に書かれた名前を手帳に写すと真っ赤なマーカーで目立たせた。ブラックリスト入りを決めるのもフロントマンの仕事である。

 

もっとも、オボロもリジーも偽名を使っていたので意味がないことではあったが。

 

少女はホテルに興味を失ったようで、時計を眺めて今日の日にちを確認。それから売店で買ったハートスウィーツを取り出すと、ぽいっと口に放り込んだ。

 

一方オボロはといえば、相も変わらず青い屋根を睨みつけている。延々と舌打ちをし続ける彼の姿は美しさとは程遠い。

 

 

「ああもう観光業ってやつはすぐに客の足元を見るんだからさ。困っちゃうよね!」

「お師匠さま、ホテルの人すっごく怒ってたけどよかったのかしら」

「怒ってたって? はんっ! さぞかし奴らはいい気分だろうさ!」

 

 

鼻息荒く、声をうわずらせるオボロ。

右手をホテルに突きつけると、歯をむき出しにして彼はうなる。その姿はまるでルガルガンだ。

 

 

「このボクから追加料金をせしめたんだからね! しかも宿代の五十%も!」

 

 

彼はいつもの青いハンカチを取り出すと、ぎりぎりとそれを噛みしめる。全くもって高級品の無駄遣い。キャタピーの糸が泣いている。

ねこにこばん。いや、ニャースに小判といった有様だ。

 

そんな師匠の姿とは反対に守銭奴の弟子は落ち着き払っていた。普段だったらオボロと共にホテルへ噛みつきそうなものであるにも関わらず。

 

もしかしたら落ち着いた状態とは少し違うのかもしれない。リジーはどこか緊張しているようにも見えた。

ちらり、ちらりと時計を見るのを、少女はやめない。

 

おやつの時間もとうに過ぎている。アイマスクと耳栓のせいか、一心不乱に寝てしまったリジー。

 

少女は普段、あまり遅くに起きなかった。それどころか早寝もしなかった。

それはいわゆる『リジーのお家の事情』とやらのせいなのだが、ここでは割愛することにする。

 

 

「しょうがないわよ、お師匠さま。ぜんぜん起きなかったものね。あたし達」

「だとしてもさ! いくらなんでもぼりすぎじゃないかい? まったく、昨日の稼ぎが全部パァだよ」

 

 

そう言うと、オボロは地団駄を踏み出した。

相当はらわたが煮えくり返っているらしい。

 

何度も言うが、スカル団の懐事情はオニスズメの涙ほどの厳しいものだ。

それゆえに金を稼ぐ必要があるのだが、スカル団における一番の稼ぎ頭。それがオボロだった。

 

1番道路で巻き上げた金だけでは今月のノルマに届かない。するとスカル団を養うことはできない。ルザミーネ(パトロン)からの援助にも限界があるからだ。

 

それは困る。非常に困るな、とオボロは思った。

 

自己中な彼だがスカル団への情は深い。

彼らはオボロにとっては命の恩人であり、かけがえのない仲間であり、故郷に残してきた二人きりの家族と同じくらい大切だった。

 

とはいえホテルは先ほど追い出されてしまった。これからロビーに戻ってポンジャンで稼ごうとするのは無理がある。

場所を変えるにしても、高級ホテルのハノハリゾートは監視が厳しい。

 

どうしたものかとオボロが頭を悩ませていると、リジーは誇らしげに腕を叩いた。

 

 

「お師匠さま、ここはあたしの出番ね! ちょっとつかれるけど、手っ取り早くかせぐ方法があるんだから!」

「まさかだけどさ。ナマコブシ投げとか言わないだろうね」

 

 

嫌そうな顔をする師匠に、「あら。よくわかったわね」とリジーは目を丸くする。きょとんとした少女を見てオボロはがっくりうなだれた。

二つにまとめた赤い髪がだらんと垂れる。地面についてしまいそうだ。

 

 

「えええ。ナマコブシ、ボク触るのもイヤなんだけどなあ。ぬめぬめしてるし」

「もうお師匠さまってば。昨日もねる前にナマコブシのパックしてたじゃない」

「それはそれ、これはこれだろ? 美容のためなら何にでも耐えてみせる。それがファッショナブルなメンズってものさ」

 

 

オボロは顔を上げるとため息をついた。憂鬱そうな彼の顔は表情に反してつやつやとして見える。

ニガサダでも食べたかのようなリアクションを繰り広げるオボロ。あまりに嫌そうな彼の姿に、じゃあお師匠さまは見てるだけでいいわ、とリジーは頭を抱えた。

 

 

「あたし、こう見えてもナマコブシ投げのプロなのよ。大船にのったつもりで、どーんとかまえてるといいわ!」

 

 

師匠に向かってウインクをすると少女はハノハビーチに走っていく。その後ろをゆっくりとついていくオボロの後ろ姿は、嫌に重くるしい雰囲気を背負っていた。

 

 

 

 

ナマコブシ投げのバイトは出来高制だ。

陸へ陸へと大量にやってくる黒いぬめついたポケモン。それを人があまりいない時に海へ戻すのがこのバイト。

 

愉快なナマコブシ達をちぎっては海へ投げ、ちぎっては投げ。そうして観光客の皆々様に陽が当たる時間を快適に過ごしてもらう。

 

地味な仕事ではあるが、アローラの観光業を支える大事な仕事だ。

 

リジーはゴーストを出すと、ナマコブシ達の場所を探すように指示した。

 

空中からはゴーストが。地上からはリジーが。

 

ナマコブシを見つけたら “くろいまなざし” でじっと見つめ、トレーナーに知らせる。

すかさず少女は下から黒いポケモンをすくうと、白い中身が飛び出す前に海の彼方へ放り投げる。

 

その動きはとてもスムーズで手馴れている。

 

自称・ナマコブシ投げのプロは伊達じゃあないな、とミックスオレを飲みながらオボロは思った。

 

弟子が働いている間、暇を持て余していた彼は砂の城を作って遊んでいる。シロデスナの形をしたそれはやけにリアルで、オボロは満足そうに微笑んでいた。

 

 

「あ、オボロさんにリジーちゃん!」

 

 

ナマコブシ投げは一旦中断。

声が聞こえてきた方を向くと、案の定やってきたのはミヅキだった。

 

走りながら手を振る彼女の腕にはZリング。

夕日に照らされ、黄褐色のクリスタルが走るたびにチカチカと瞬いている。

 

 

「やあ! 昨日ぶりだね。大試練達成おめでとう、ミヅキ」

「ありがとうございます! まだ言ってないのに、どうしてわかったんですか?」

「そのZクリスタルを見れば誰だって分かるさ。イワZだろ? それ」

 

 

なるほどなあ、とミヅキはうなずいている。

リジーはぬるついた手を拭きながら、「じゃあミヅキは今からウラウラ島に行くのね」と訳知り顔で呟いた。

 

 

「ううん。私、今からハウと一緒にエーテルパラダイスに連れてって貰うんだ! 楽しみだなあ」

「そうなの?」

「そうそう。本当はすぐに行かなきゃいけないんだけど、二人が見えたから話しかけに来たの!」

 

 

そう言うと、にっこり歯を見せ笑う少女の姿はまるで太陽のように暖かい。

 

ボク達(スカル団)とは全然違うな、と思わずオボロはひとりごちた。

 

 

自他共に認める社会の掃き溜め(スカル団)にはこんなに明るく、未来への希望に満ちた者はいない。

今と向き合い努力しているのは、はみ出し者の自分とその弟子くらいだ。

 

ミヅキが真昼を照らす天高く輝く太陽だとしたら、ボク達は一体なんなのだろう。とオボロは思った。

夜を照らす月というのもどこか違う気がする。

 

 

オボロがぼうっと考えていると、ミヅキは「そう言えば」と口を開いた。

 

 

「私、大試練の前にスカル団の幹部と戦ったんです。ええと、プルメリって女の人。坊主頭の、エクステ付けてる」

「プルメリちゃんとかい? 勝敗は……って、クリスタルを見れば分かることだったね」

 

 

試練の前に戦ったのだから、無事ミヅキが試練を受けることができたというのはそういうことである。

 

 

「一応勝ちました! けど、あの人全然本気じゃなかったんです。手加減されてて、なんか気分は警察に注意されたみたいな感じで」

「そうなのかい? こらしめに行くとかなんとか、グズマくんと言ってたのになあ」

「あねさんはやさしいものね。だからかしら」

 

 

首をひねる二人とは対照的に、ミヅキは拳を握り締めた。相変わらず笑顔のままの彼女はどこかちぐはぐで面白い。

 

おーい。ミヅキってばー、はやくー! と遠くから呼ぶ声が聞こえてきた。きっとハウだろう。

今すぐ行く! と返事をすると、ミヅキは二人の方へ向き直る。それから、

 

 

「だから、オボロさん。あの人に伝えておいて欲しいんです。次会ったら、ゼンリョクで戦いましょう! って」

 

 

と言うと、元来た方へ走り去っていった。

ばたばたと砂が舞い上がり、白い砂には足跡が残される。

 

みるみるうちに小さくなっていく少女。

オボロは手を口元に当てると、「分かった! このボクがプルメリちゃんにばっちり伝えておくよ!」と声を飛ばした。

 

 

「ミヅキったら、スカル団のテキになる気は満々なのね……」

 

 

うへぇ、と嫌そうな顔をする弟子を尻目に、師匠は通信機を取り出した。今日初めてのメールチェックだ。

スクロールをしてメールを読んでいくと彼はにやにやと笑い出す。その顔は少し気持ちが悪い。

 

 

「リジー、夕食はプルメリちゃんと三人でご飯を食べに行こう。コニコシティの食堂でさ」

「あねさん、コニコシティにいるの?」

「ああ。だからナマコブシ投げを終えたらコニコシティに行くよ!」

 

 

通信機をポケットに突っ込むと、オボロは意気揚々とステップを踏み出した。両手を広げてくるりくるりとその場を回り始めた彼に、周りの観光客はドン引きだ。

 

リジーはかちかちと爪を噛んだ。眉間にしわを寄せた少女は、いつも釣り上げている眉も下げて、目の玉をきょろきょろと動かしている。

 

だが、そんな弟子の様子をオボロが気にかける気配はない。

コブ付きとはいえお気に入りの女の子からデートのお誘いを受けた彼。

脳内には花が咲き乱れ、天使のラッパが鳴っている。

まさしく今の彼は有頂天という文字が人の形をしていた。

 

 

「あたし、ここの方がいいわ。コニコシティじゃないとダメかしら」

「ここはホテルとポケモンセンターしか食べるところがないじゃないか!」

「だけど、そうだけどお師匠さま」

「あっちの方がご飯は圧倒的に美味しいよ! 美味しさと美を追求した、野菜定食で決まりだね!」

 

 

なぜ野菜定食かというと減量のためである。

間食は原則NG。炭水化物も極力食べない。その上毎日筋トレは欠かさない。

常に上裸のこの男、オボロにはひと時の油断も許されないのだ。

 

鼻歌を歌いながらオボロはゴージャスボールを取り出した。

 

彼には弟子の言葉を聞く気が全くない。

なぜかって? それは彼が自分さえよければ良いと信じている、自己中ナルシスト野郎だからだ。

 

 

「そうと決まればさっさとこのバイトを終わらしちゃうよ、リジー。ボクも手伝ってあげるからさ」

 

 

不敵な笑みを浮かべる彼はゴージャスボールをひと撫でした。彼の相棒は共に並び立つのが待ち遠しいようで、ボールはかたかたと揺れている。

 

開閉スイッチに手をかける時の昂り。

それは何事にもたとえられないほど気高く、胸の奥底から湧き起こるものだ。少なくともオボロはそう考えていた。

 

 

「さあ出ておいで。マイ・スウィーティー、ラグラージ!」

 

 

日が暮れかける空に星を散りばめ現れたラグラージ。その姿はさながら夜をも照らす太陽のようだった。

 

二人と二匹は浜辺に打ち上げられたナマコブシを驚異的なスピードで放り投げていく。

そのあまりの速さに観光客はスマホを構え、ホテルの従業員は顎が外れそうなほど大きく口を開けていた。

 

ビーチにいた黒いポケモンを根こそぎ海へ帰すと、砂浜はすっかり白い姿に元通り。仕事を終えた師弟は受け取った封筒の中身を数えてご満悦だ。

 

 

「お師匠さま見て見て! 今回のバイト代、今までで一番高かったわ!」

「ふふふ、それもこれもボクのおかげだろ? 知ってる知ってる」

「ううんと、そうね。そうに違いないわ、お師匠さま!」

「うんうん。物分かりのいい弟子は嫌いじゃないよ、リジー。もう一人の弟子にもよく言って聞かせてたんだけどさあ」

 

 

弟子に褒められて調子付くオボロはダーテングのように高々と鼻を伸ばしている。

彼が始めるのは自慢話。例のごとく弟子の話に始まり、コンテスト時代の武勇伝を語り始めた。

 

弟子はとにかくおだてる。おだてる。おだてまくる。

それから彼をちらりと見ると、念を押すようにリジーは言った。

 

 

「それでね、たっぷりお金もかせいだもの。あたし達、やっぱりコニコ食堂じゃなくてハノハリゾートで」

「ハイハイ行こうねコニコシティに。プルメリちゃんが待ってるんだから」

 

 

上司と部下は似るとはよく言うものだが、ネチネチしつこいところまで我らがボスと似ないでほしい、とオボロは思った。

というより、そこは師匠である自分の潔さを見習うところだろう。

 

 

弟子の言葉をさえぎると、彼は歩くスピードを若干早めた。少女の手を無理やり取ると半ば強引に引きずっていく。

 

実兄に会うたびケチを付けられた、ゆっくり歩くことこそが良いものだという主張を彼は一生曲げる気はない。

ただ律儀に弟子の相手をしていたら面倒くさいのもわかりきっている。

 

オボロは自分の信条を脇に置いてプルメリを優先した。案外、彼はしっかり現実を見ていた。

 

 

 

 

ポケモンセンターの手前を南へ。ディグダトンネルを通ってコニコシティへ。

 

どんよりと暗くてじめじめとした洞穴を二人は歩く。

諦めがついたのだろうか。隣で歩く彼の弟子は黙りこくっていた。

 

あたりは静まり返っている。

 

二人とも “かいりき” を使えるポケモンは持っていないので、ショートカットもできやしない。長い長い道のりを歩くばかりだ。

 

夜の帳が下りたアローラは昼とは全く違う景色を映し出す。それが洞窟の中だとしたらなおさらだ。

 

ぼんやりと地面を照らすのは “あやしいひかり” 。リジーのゴーストが出したものだ。

妖しげな光を頼りに二人は進む。

 

 

しばらく歩くとオボロはぴたりと立ち止まった。

 

彼は何かを肌で感じ取ったのだ。その何かは以前嫌というほど味わったものだ。つい最近も、彼はそれとよく似たものに会っていた。

 

彼は冷や汗を流した。瞳孔を開いた。口を少し開けて、閉じた。

 

横でリジーが不思議そうに彼を見つめている。彼はボールに手をかけながら、じっとその時を待っていた。

 

ふいに大気が揺れた気がした。目の前が光り輝いて、“フラッシュ” でも焚かれたかのようだ。

反射的に二人は目をつむる。チカチカとまぶたの裏に光が焼きつく中、特徴的な声が聞こえてきた。

 

 

じぇるるっぷ!

 

 

どうしてコイツがこんなところに、とオボロは呟いた。

だがその言葉に反して彼の口元は歪んでいる。このポケモンの登場を待ちわびていたかのように。

 

彼はマリルリとラグラージを出すと、横にいる弟子に声をかけた。その声は明らかにうわずっている。

 

 

「あいつはボクがやる。いいかいリジー、あのメノクラゲもどきには絶対に近づいちゃいけないよ。声を出してもダメだ。毒を刺されても知らないからね」

 

 

彼は知っていた。このポケモンに刺されたらどうなるかを。

おそらくアローラでは数少ない被害者の一人だったからだ。

 

ただ、彼は少女に釘をさす必要は全くなかった。

少女もまた知っていたからだ。あのポケモンが一体どういう存在であるかを。

 

 

「──あれが、ウツロイド」

 

 

少女の口からこぼれた言葉は、“あやしいひかり” と共にひっそりと消えていく。

それは地面に落ちた雫のように、誰の耳にも留まることはなかった。

 

 

 

 

 

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