〜前回のあらすじ〜
▼ オボロは “こうそくいどう” を した !
▼ かゆい うま
いつまでたっても見つからないコスモッグにグズマは業を煮やしていた。
珍しいポケモンを持ってこい。そう指示しても、珍しいポケモン=アローラでは見かけないポケモンだと思ってしまうのが地域密着型のスカル団。
したっぱ連中が持ってくるのは、観光客が持ちこんできたポケモンばかり。しかもせいぜい色違いがいればいい方だ。
──オカシイ。確かにバカばっかりのスカル団だが、それでもこんなに情報が入らねぇなんてよ。
グズマは焦っていた。
最近、代表からの目が冷たい気がする。
いや気のせいではない。あれは心の芯という芯まで底冷えするような目だ。そう思う。
見捨てられたくない。見捨てられたくなかった。
──きなくせぇ。
グズマは舌打ちするとエネココアを煽った。
オツムはよろしくないグズマだったが、彼には “かぎわける” も顔負けの野生の嗅覚が備わっていた。
そもそもアローラ中のはぐれ者が属するスカル団のネットワーク。そこに引っかからないのがまずおかしい。
食堂の期間限定メニューから、近所の奥さんの床事情まで!
新聞顔負けのうたい文句が付くほどに、豊富な品揃えを誇るのが我らがスカル団の情報網だ。
ちなみにいうと不都合な真実をスピーカーでたれ流すスカル団印の情報は、アローラでは割と重宝されている。もっぱら主婦のおばさま方から。
グズマは椅子を殴りつけた。
どん、と大きな音が部屋に響く。ひじかけはすっかり凹んでべこべこだ。
それから再度、彼は舌打ちすると目の前の三人を睨みつけた。
冷や汗を流す三人。プルメリは口をつぐみ、オボロは笑みを引きつらせ、リジーは師匠のズボンを握っている。
「グ、グズマくん。確かにプルメリちゃんはその子に負けちゃったみたいだけどさ」
と震える声で物申したのはオボロだった。
今日のボスは機嫌の悪さが突き抜けている。
戦々恐々としながらも、怒りの矛先を自分へ変えようとする彼の姿は珍しく男らしいな、とプルメリは感謝した。
彼の膝が盛大に笑っていることに目をつぶれば、だが。
まくし立てるようにオボロは舌を回し続ける。
「プルメリちゃん本気出してなかったらしいし。次歯向かってきたら、ブッ壊せばいいだけの話じゃないか! だからそんな怒ってないで、モーモーミルクでも飲もうよ!」
「んなこたぁどうでもいいんだよ。空気読めや」
「え、そのことじゃなかったんだ。怒ってるの」
取り越し苦労だったのが分かったオボロは、なんだよ紛らわしいなあ、と肩を落としている。三白眼でじっとりグズマを見つめるも、彼はフンと鼻を鳴らして再度エネココアをすすった。
マグカップの底には茶色い粉がこびりついていた。溶けかけのそれはべとべとしていて、いやに汚らしく見える。
グズマは顔をしかめるとオボロの方を向いた。
ボスの関心が自分に向いたことに彼は気がついていないようだ。空気読めやって言われても急に読めるわけないだろ、とネチっこく愚痴をこぼしている。
それはいつもグズマが見下ろしている光景。
どこも変わりなく、おかしいところもない。そのはずだ。
「お前、本当に仕事してるのか? コスモッグの件でよお」
「まあね。華麗なるボクだからね」
「そんで、なにか分かってんのかよ」
「まさか! 分かってたら言ってるよ!」
あっけらかんと言ってのけるオボロ。全く悪びれずにスカした顔を浮かべる男はなんとも憎たらしい。
ただ苛立ちを彼にぶつけるのは筋じゃないと分かっていた。コスモッグが見つからないのはしたっぱ達のせいではない。オボロとプルメリのせいでもない。
全部。そう全部、無力で不甲斐ない自分のせいだ。
グズマはまたもや腕を振り落ろした。
どん、と響き渡る音に誰もが思わず背筋を伸ばす。幹部も見習いもしたっぱ達も。
握り締められた拳は骨と血管が浮き立ち、血走った眼は赤く。トレードマークの白い髪を逆だたせた彼はまるでルガルガンのよう。
今のグズマはまさしく破壊という文字が人の形をしていた。
「したっぱ達が連れてきたポケモンをただただ座って見ていたグズマ様だが、どうにも性に合いやしねぇ。もうコソコソ動くのはヤメだ」
ごき、ごき、と首を鳴らしながらゆっくりと立ち上がる。
猫背だが図体のでかいグズマは異様なプレッシャーを放っていた。それは主ポケモンにもウルトラビーストにも劣らない。
スカル団の面々は彼の一挙一動を、固唾を飲んで見守っている。
「オボロ、プルメリ。スカル団の名にかけて、したっぱ連中総動員してしらみ潰しに探すぞ。コスモッグのやつを、アローラ中よお」
にたりとボスが笑った瞬間、その部屋にいた者はみな全身が粟立つのを感じた。スカル団総出の大規模作戦。それは本当に久しぶりだったからだ。
どこからともなく歓声が湧き上がり、「コスモッグってなんだ?」「例のポケモンか?」「グズマさんのためならウチらホンキ出すんだってば!」「スカしたオレらのゼンリョク見せてやりまスカ!」と堰が切れたように騒がしくなった。
やんややんやと盛り上がるしたっぱ達に、ホントにバカばっかりだねぇとプルメリは呟いた。本当にね、とオボロも目配せした。ただ二人とも心地好さそうに笑っている。
オボロはぐっと伸びをした。息のつまる雰囲気から解放された喜びに打ち震える彼は、ビールを飲んだ後のおっさんのような声を漏らしている。
横の弟子も疲れたようで、ふうと息をついていた。
そんな時、ぽん、と肩を叩かれた。グズマだ。
オボロはくるりと振り向くと、「作戦頑張ろうね」と気さくに話しかけた。「けどさ、ボンボンくんのことはいいのかい? 彼にバレないように動いてきたのに」とオボロはへらへら笑っている。
ただグズマは笑っていなかった。いつもの薄笑いも浮かべずに、じっとオボロを見つめている。
「なあオボロ」
「ん? なんだい真面目くさった顔してさ」
「お前、本当になにも知らないんだよな?」
きょとんとした顔を浮かべてから数秒後、オボロは笑みを消した。真剣そのものな彼に笑って返すのは失礼だと思ったからだ。
グズマの瞳を見つめ返し、「うん。知らないよ」と言う。
その声に迷いはない。ただ瞳を揺らさずにいた自信がオボロにはなかった。
瞳孔が開いたグズマの目に、全てを見透かされた気がしたからだ。
「ならいい。疑って悪かったな」
グズマはため息をついてからオボロの頭を軽く叩いた。不思議そうにする彼の頭を無造作に撫でる。
髪が乱れるじゃないか、というナルシストの抗議も無視してわしゃわしゃと頭皮を弄んだ後、おもむろにグズマは部屋を出ていった。
ひらひらと手を振りながら振り返らずに。
グズマくんってばなんだったんだろうね、と困り顔をしてみせるオボロに、さあねとプルメリは返した。情緒不安定でキレやすいボスのいつもの気まぐれだと考えていたからだ。
それから幹部達も、見習いも、したっぱ達もグズマの後を追いかけた。
破壊という文字が人の形をしているグズマ。
ただ、暴君ではあっても彼は人を惹きつける才能というものに溢れていた。彼に魅せられない者はスカル団の中にはいない。
グズマは夢を失い逃げてきた者にとってヒーローのようなものだった。
第十二話【マルチバトル】
手始めにまずウラウラ島。
コスモッグの特徴を全員に教え、総動員! 総力! ゼンリョク捜索!
浮き足立つ彼らはとてもよく働いた。草の根の間までも調べに調べた。リアル草の根活動というやつだ。
ただ、まあ例外はどこにでもいるもの。
例えばマリエ庭園を見てみよう。この物語の主人公の自己中ナルシスト。
「オボロさん、珍しいポケモン見ましたよ! ウラウラの花園で、羽がついてる」
「コスモッグは羽なんかついてないよ」
「ううん、けど見たことなかったんですよ。アタシ」
「色は?」
「ピンクか緑か……なんかアブリボンとチョー似てる感じの」
「それ、アブリボンの色違いじゃないかい?」
「うう、そうかもしれないっす」
「宙に浮いてる青いポケモンだからね! キラキラしてるんだ……ぷはぁ美味しい。割と小さめだと思うから頑張って! んぐ、新作もイケるな。このあんクリーム」
優雅に団子と茶を嗜みながらメガホンで指示を出していた。しかも自分だけサンバイザーを完備というくつろぎスタイルで。
「お前さっき仕事してるとか言ってなかったか? このオレ様の幻聴だったのかよ」
「まあまあグズマくん。良い仕事っぷりには適切な糖分補充ってね! グズマくんもどう?」
「一本よこせ。……ゲテモノかと思ったがよ。確かにウメェなこれ」
「だろ? みたらしには敵わないけどね」
ひとときの安らぎを味わっていると、庭園の入り口が少し騒がしくなった。どうやらもめ事が起きているらしい。
人 (というか大体したっぱ達だ。邪魔な一般客を締め出していたのだ) が橋の近くに集まってなにかを言い争っている。
この庭園の風情を理解できないなんてかわいそうに、とオボロが茶をすすりながら言うと、様子を見てくるか、とグズマが立ち上がった。その後ろをひょこひょことリジーがついていく。
今日の少女はスカル団仕様。スカル団タンクトップ、ならぬワンピースに大きなペンダント、加えてドクロ印の帽子をかぶった彼女はどこからどう見てもスカル団の一員だ。
といっても合うサイズがないらしく、覆面だけはしていないようだったが。
いってらっしゃいと二人を見送ると、オボロはもうひとつ団子を注文した。今度は大好物のみたらしだ。
団子をかじりながら通信機を取り出すと、彼はメールチェックを始めた。相手はもちろん、例のニャヒート使いの女の子。
『オボロさん! 無事ウラウラ島ひとつ目の試練突破しましたよー!ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ
これからマリエ庭園に行くので、よかったらお茶しませんか?
ごちそうして貰いたいです笑⊂((・x・))⊃♡♡』
げ、と思わず声が漏れた。それから入り口の方を見る。
野次馬が集まっていてよく見えない。
オボロは団子を全て口の中に突っ込んだ。
噛んで噛んで頬張りながらものすごい勢いでタイピング。
内容は今のマリエ庭園はオススメしない、だとかマリエシティで買い物をしといてくれ、だとかそんな内容だ。
顔文字を使う余裕はない。優しく言い換える余裕もない。即決・即断の必要しかない。
「お師匠さまタイヘンよタイヘン! メールなんか打ってる場合じゃないわ!」
「
「ククイはかせがきてるの! グズマさんと言い争ってタイヘンなのよ!」
オボロはポトリと通信機を落とした。まじまじと弟子を見つめるも、ふざけている様子は少しもなかった。
──マズイ。マズイぞ。あの二人が出くわしちゃうなんて最低最悪の事態じゃないか!
グイッとグラスを乾かしてから急いでお金を置くと、オボロは少し早歩きで入り口に向かった。
グズマの機嫌を頼むから損ねないでくれ、頼むから口を滑らせないでくれ、と
遠くでカラン、と飲み干したグラスの氷が音を立てた気がした。
ただの杞憂であってほしいものほど杞憂で終わらないのが世の中というものだ。
ああ無情。レ=ミゼラブル。
世間に泣きついても泣きついてもけんもほろろに突っぱねられるのがスカル団の醍醐味といえばそうなのだが、よそ者のオボロは特にそうなのかもしれない。
あんクリーム団子を食べていた時とは打って変わって、目の前のボスはピリピリとした雰囲気を放っている。
だが向かい側にいる男──もちろんククイ博士のことだ──はどこ吹く風だ。
恐れられてなんぼのスカル団ボスがケンカ腰だというのに何も気にしていない。まるで取るに足らない出来事だと認識しているかのようだ。
それが余計に彼の神経を逆なでするらしい。
薄笑いを浮かべてはいるものの、グズマの目は全く笑っていなかった。というより彼はブチ切れていた。
「島巡りなんかしてなんになるんだよ? なにもねぇよ。くだらねぇよ」
「ハイハイどいてね、したっぱくん達。ちょっとボクも混ぜてもらっていいかい?」
したっぱ達をかき分けて割り込んだのは彼の右腕。傍にその弟子を置いて、オボロは彼の横に立った。
演説ショーに横槍を入れられて不快にならない者はいない。
グズマは大きく舌打ちをした。それから邪魔すんじゃねぇよと呟くと、ギロリとオボロを睨みつける。
全く困ったもんだ、とオボロは両手を挙げた。ため息をついた彼は諭すように優しく、それでいてどこか投げやりに言葉を紡いでいく。
「あのさあ。グズマくん、なに熱くなってるんだよ。落ち着いてよ。ボク達はククイ博士と遣り合うために、ここに来たんじゃないんだからさ」
ここでケンカを売っても得することはないし、ククイ博士の思う壺だよ! とオボロはウインクをした。そのウインクにはやけくそ感がぷんぷんと漂っている。
それでも説得の甲斐はあったようで、グズマの頭も冷えたらしい。
もう一度舌打ち。跳ねたような音がした後、それもそうだなと我らがボスは呟いた。
持ち前の凶暴性を内に秘め、相手の出方を伺っているようだ。
オボロはほっとひと息つくと、ククイ博士へ向き直る。
咳払いをひとつ。呼吸を整えて、得意の舌先三寸をご披露致──そうとして待ってくれないのがMr.マイペースの名を持つ彼、ククイ博士である。
「おや? 横にいるのは最近見かけた覚えがあるぜ! この間ぼくの奥さんの研究所に忍びこんでたコソ泥そっくりだ!」
「うげっバレてる」
「しかもその上、ぼくに気づいた瞬間そそくさと逃げてたよね。外に」
沈黙。静寂。
どうやら彼は怒りの矛先の向きを仲間に変えたらしい。
グズマはオボロの方へ歩み寄った。もちろん、なにかを譲ったというわけではなく、文字通りの意味での歩み寄りだ。
せっかく冷やした頭は瞬間湯沸かし器のごとく沸き立ち、彼の目は血に飢えた獣のようにギラついている。
いつもはべらべらと言葉が止まらないオボロの口だが、ああ無力。今はむなしく乾いた笑みが漏れるばかりだ。
「お前よお。なに勝手にスカル団の恥さらしてんだよ」
「待った待った待ってちょっと待とうか。ここは和を尊ぶマリエ庭園なんだからさ。平和的に行こうよグズマくん! 」
にじり寄るグズマに後ずさるオボロ。年下相手に凄まれ冷や汗をだらだら流すその様は御歳二十六歳とは思えない。はっきり言って、情けない。
加えて言うなら不幸は続けてやってくる。
弱り目に祟り目。一難去ってまた一難。泣きっ面にスピアー。
これもまた世の常というものだ。
ククイ博士のそばにいた少女が「あ、オボロさん!」と彼を指さした。「しぃー! しぃー!」と彼が口に指を当てても、もう遅い。
マリエ庭園にいたスカル団全員にヒミツの関係情報をお届け!
これにはさすがのグズマも耳をピクリと動かし、オボロを一層問い詰める。
「あ? なんだよ知り合いかよ。噂のガキと付き合いがあるなんて、さっぱり聞いてないんだがなあ。オボロさんよ」
「なによ悪い? オボロさんは私のメル友で、一緒にバトルをしたりする仲なの! そんじょそこらのスカル団とは違うんです! べぇーっだ!」
「『そんじょそこらのスカル団とは』ねぇ。まあ彼は一応幹部だからなあ」
「ちょ、ミヅキ頼むから黙って」
「はあ? 前に言ってたメル友はコイツのことだったのかよ」
前のめりになってずずずいと迫るグズマにオボロは思わずたじろいだ。
普段から崩さないうさんくさい微笑みは跡形もなく剥がれ、そこにあるのはどこにでもいそうな青年の姿。大人しく気弱そうな男の姿だ。
弟子は彼のズボンを掴むと、お師匠さまやっぱり正直に言った方が、と小さな声でささやいた。
師匠を見上げるリジー。少女の瞳は揺れている。
ハッとしたオボロは自分のほおを叩くと、もう一度笑い直してみせた。
同じくやけくそ感は隠しきれていない。だが本人はこれ以上なくふてぶてしく笑ったつもりだった。
「いやあ、コレには海よりも谷よりも深い深い事情があってさ! かくかくメブキジカってわけなんだよ! あははは」
「うるせえ」
グズマはオボロに拳骨を落とした。
思い切り舌を噛んだようで、オボロは頭を押さえてうんうん唸っている。彼の苦しすぎる言い訳に弟子も頭を抱えていた。
「オボロ。あとでその辺の話はきっちり聞かせて貰うからよ。覚えとけや」
グズマが痛みにあえぐオボロを見下ろしていると、ぱちぱちぱちと拍手が起こる。もちろん出どころはマイペースという言葉が人の形をしている男、ククイ博士である。
「スカル団による愉快なショーは終わったかな? それじゃあ本題に戻ろうか!」
「見世物じゃねぇよ。とっとと失せろやククイさんよお」
「まあまあ、オボロくんの言う通り落ち着きなって! きみ達はここを使いたい。ぼくは君たちにここから出て行って貰いたい。リーグがどうこうで絡んできたけどさ、要はそういうことだろ?」
そう言うと彼は歯を見せて笑った。
白い歯をキラリと輝かせ、ぐっと親指を立てる彼はこの状況を心の底から楽しんでいるようだ。
「じゃあさ。ぼく達全員が納得いく方法で決めようぜ!」
「私も手伝うね、ククイ博士!」
バトルジャンキーで技マニアな彼にとって待ちに待った実践場。しかも相手はスカル団のボスと幹部。相手にとって不足はない。
少年の心を忘れないククイ博士はドキドキとワクワクが止まらなかった。
それはミヅキにも伝わったようで、二人ともノリノリでモンスターボールを構えている。
「ほお。バトルロイヤルってわけか」
「いや。2vs2ならマルチバトルなんじゃ、痛っ!」
「……マルチバトルってわけだな。イイじゃねぇか。遊んでやるぜ、オレ達スカル団がなあ!」
親友を軽く小突くと、グズマは気を取り直してニヤリと笑った。とはいっても破壊という言葉が人の形をしている彼だ。
馬鹿力は今日も絶好調。恨めしそうにオボロが見るも、彼は素知らぬふりを続けている。
どうやら言い間違いをしたことに触れていかないスタイルのようだ。
グズマはボールを手に取った。それに合わせてオボロも腰に手をかける。
その様子をリジーは興味深そうに眺めていた。この四人のバトルは、今後一切観れない可能性が高い貴重なものだからだ。
他の団員も同じく、余計な茶々を入れずに見守っている。
ステージ・オン!
四人は一斉に天高くボールを放り投げた。
グズマのボールから飛び出したのは相棒のグソクムシャ、オボロはマリルリ。ミヅキはニャヒートでククイ博士はルガルガン。
一見普通の組み合わせに見える。
ただグズマは笑みを引っ込めて、対戦者の男を思い切り睨みつけた。それは信用していた相手に手酷く裏切られた時の顔によく似ている。
「オレ様はよお。どんな相手だろうが基本バトルでは手を抜かねぇ。それどころか、ブッ壊してもブッ壊しても手を緩めずに嫌われるのがこのオレ様だが、ククイさんよ。お前ナメてんのか?」
「ん? どういうことだい?」
「そのルガルガン、オレ様には分かる。育てきってねぇだろうが」
険しい顔で見つめる男。
だがククイ博士は彼が思っているようなことは全く考えていなかった。ルガルガンを選んだことに他意は全くなかったのだ。本当の本当に。
けれどもお茶目なククイ博士。
彼の中にひとつ、とある考えがむくむくと起き上がった。その思いはアサガオのように、急速に成長していく。
せっかく強い人と戦うんだから本気の本気、ゼンリョクで戦いたい。
遊びなんかじゃなくて、死にものぐるいのゼンリョクで。
「ああ! そういう。なあに、理由は二つあるんだ。ひとつはね、この子は最近ウチに来たぼくのパートナーなんだ。イワンコの時にゲットしたんだけど、そりゃあもう可愛くってね!」
な、ルガルガン! とククイ博士は自慢の愛ポケにアイコンタクト。目と目を合わせて笑う彼らに、グズマは早く言えやと顎を使って続きを急かした。
「もうひとつはね。ぼくがゼンリョクを出すまでもないからだぜ!」
「ほう。なにが言いてぇんだよ」
「この子、ミヅキの力だけで足りるってことさ! ぼくが本気を出すまでもなく、ね」
そう言って、ククイ博士は愉快そうに嗤った。思いつく限り最大限に悪い顔をしてグズマを煽る。
その顔はどちらが悪人なのかわからない。スカル団顔負けの、殴りたくなるほどにスカした顔を浮かべていた。
「どこまでもナメてくれやがる……!」
あからさまな挑発だったが、グズマに効果は抜群だった。
一気に白い髪を逆立てて目ん玉をかっ開き、歯をむき出しにして激しい怒りに燃えている。
強く強く握られた拳からは血が流れ、ぼたぼたと地面に垂れていた。
そんな時、件のルガルガンが真っ先に動いた。
息を深く吸い、遠吠えをしてから打ち出したのは “ストーンエッジ” 。いわタイプのルガルガンが打ち出すそれは、強烈な岩の盾となってグソクムシャに迫り来る。
だがグズマの頭は冷えていた。
怒りで全てをブッ壊したくなる破壊衝動の中で、どこかそれを冷静に見つめる自分が頭の中にいた。彼は岩々を冷静に見ながら「グソクムシャ、やれ」とだけ呟いた。
瞬間、ルガルガンの体が吹き飛ばされる。
創り出した岩は跡形もなく砕け散り、ルガルガンが悲鳴をあげて地に落ちた。先ほどまでルガルガンがいた場所にはグソクムシャが佇んでいる。
“であいがしら” を受けたルガルガンは腹を向けて転がった。うめき声さえ聞こえない。指ひとつ動かない。
たった一撃受けただけ。そう、一撃だ。
「男に二言はない。むしろ一言ですら多いと考えているグズマ様だが、気が変わった」
戦闘不能になったルガルガンを一瞥すると、グズマは落ち着いた声で語りかける。落ち着きすぎている。
それはとてつもなくグズマに似合わなくて、なにか不穏なものを感じさせる声だ。
「オボロ、コイツらをゼンリョクで叩きのめすぞ。ナメくさったオッさんとこのガキを、見る影もなくブッ壊す!」
オボロは顔を引きつらせていた。
案の定親友の逆鱗に触れたククイ博士に。育てきっていないとはいえ、相手のポケモンを初手で戦闘不能にした彼のえげつなさに。
ただ悔やんでも仕方がない。賽は投げられたのだから。
「教えてやるよ。破壊という言葉が人の形をしているのがこのオレ様、グズマだってことをなあ!」