【スカルな野郎はナルシスト!】   作:めいでん

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〜前回のあらすじ〜
▼ オボロは あんクリームだんごを たべた !
▼ ククイはかせは ちょうはつした ! グズマは ちょうはつに のってしまった !



第十三話【ふしぎなおくりもの】

荒れ狂うグズマ。斬り付けられて横たわるルガルガン。

頭に血が上りきった青年と血に塗れた愛ポケの姿を見て、ククイ博士はぴゅうと口笛を吹いた。

 

悲しんでいる? いや、違う。男は純粋に喜んでいるのだ。

胸をときめかせ、瞳をきらきらと輝かせていた。新しいおもちゃを手に入れた少年のように。

 

 

「そうこなくっちゃあ!」

「あのう、博士。もしかして、グズマをワザと怒らせたの?」

「どうだろうね。だけどミヅキもゼンリョクで戦いたかっただろ? 結果オーライだぜ!」

「まったくもう。博士ってば、本当にしょうがないんだから!」

 

 

博士はルガルガンを戻すと新しいボールを手に取った。

 

現れたのはジバコイル。手持ちの中でも鍛えに鍛え上げられた正真正銘のエースである。

自業自得とはいえ、事実上3vs4の不利な戦いにククイ博士はゼンリョクで抗おうとしていたのだ。

 

男は自分の実力を理解していたが、対戦相手を過小評価することは全くなかった。むしろ敬意を払っていた。

 

カプに認められなかった()()チンピラ(スカル団)に落ちぶれたとはいえ、彼らは間違いなくアローラが誇る立派なトレーナーだと。

 

といっても、頭の血管が切れに切れているグズマはそのことに気がついていないようだったが。

 

両者睨み合う中、耳が潰れそうなほど大きく大きく “なきごえ” を放つニャヒート。

大気を震わせるそれは何人たりとも萎縮させるサイレンのようであり、新たな動きの始まりを告げる天啓のようだった。

 

 

 

 

第十三話【ふしぎなおくりもの】

 

 

 

 

グズマはいつもの薄笑いを浮かべながら相手の挙動を見守っていた。

ただ瞳は激情に染まったまま。座り込みもせずに口角をあげている。

 

「“舞” っとけよ、なあグソクムシャ」というグズマの語りに彼のポケモンは呼応する。

ひらりひらりと華麗に、それでいて雄々しく舞うのは “つるぎのまい”。

シャーン……シャーン……と外皮がこすれ合う音は場に緊張を与え、グソクムシャの士気も高まっていく。

 

仲間と敵に見せつけるように彼は舞う。舞い続ける。

 

 

「ニャヒート、今のうちに “ニトロチャージ” のチャンスだよ!」

 

 

即座にニャヒートは体を震わせる。高く澄んだ鈴の音が響いたかと思うと、体に纏うは炎の鎧。

ぐっと脚に力を込めるとグソクムシャの方へ駆け抜けた。

 

ただ少女の敵はグズマだけではない。そして、そう簡単に技が当たるとは限らないのもポケモンバトルの醍醐味だ。

 

「ボクのことを忘れちゃ困るよ!」とニャヒートの前に立ちはだかったのはマリルリだった。オボロがパチンと指を鳴らすと、瞬時に彼女は頬を大きく膨らます。

 

 

「飛んで火に入るコフキムシってね。マリルリ、真っ正面から喰らわせちゃいな!」

 

 

勢いよく泡の大群が飛び出した!

こうかはばつぐんだ。“バブルこうせん” はニャヒートの面を殴り飛ばし、纏った炎も弾けて彼に直撃。

彼はリズムよくバックステップを踏むとマリルリから距離を置いた。グソクムシャを “まもる” ように彼女は牽制を続けている。

 

そんな中、一石を投じたのはジバコイルだ。

 

 

「ぼくもいるぜ! ジバコイル、“10まんボルト” !」

 

 

紅い目を光らせると両のアームを回転させるジバコイル。

日頃から油が差されているのか嫌に動きはなめらかだ。それは不気味なほどに。

 

ばちばちと音を立て、光がU字の腕に集まっていく。

 

 

「おいオボロ、あれやるぞ」

「了解! マリルリ、“てだすけ” してグソクムシャに花をもたせてあげるんだ」

 

 

マリルリは長い耳を二回叩くと、グソクムシャの精神がさらに研ぎ澄まされていく。

その間もジバコイルの周りには光が集い、破裂音が増していく。

 

ばち。ばちばち。ばちばちばちばち。

 

博士のポケモンがカッと眼を見開いて電気の奔流を解き放つ瞬間、グズマはにたりと笑うと高らかに叫んだ。

 

 

「行くぞ相棒! “シェルブレード” !」

 

 

真下へ叩き込まれた斬撃は地表を大きく削り取った。切り出された地面の塊は次々宙を舞い、“十万ボルト” を受け止めていく。

 

それでも抑えられなかった電撃が二匹に襲いかかっていたが、まあ許容範囲だろう。

いかに相手がククイ博士のジバコイルとはいえ、残りカスが大事になるほどグズマもオボロもやわな育て方はしていないからだ。

 

「ニャヒート、岩に飛び乗って!」とミヅキが声をかけると少女のポケモンは空を飛び交う岩やら砂の塊やらに駆け上がる。

 

ホップ・ステップ・ジャンプ!

軽やかに移動をしながら目指すのはやはりグソクムシャ。

 

やはり相性最悪のマリルリ相手はカウンター攻撃が怖いのだろう。同じみずタイプでもグソクムシャの方がむしタイプも持つだけマシだと考えたのだろうか。

 

 

「いいよニャヒート。岩に隠れながら、そのまま “ニトロチャージ” !」

 

 

二度目の “ニトロチャージ” は伊達ではない。加速に加速を重ねたニャヒートは軽快に空を飛び跳ねる。

炎を纏い目にも見えない速さで颯爽と。時折炎が視界にちらつくも、彼の姿は見つからない。

 

 

「姿が見えねぇのは、なにもオレ達だけとは限らない。オボロ!」

「ハイハイ。人使いが荒いなあ」

 

 

困った風に言いつつもオボロは嬉しそうに笑っている。

なんだかんだ言いつつも親友と肩を並べて戦うこのバトルをすっかり楽しんでいるらしい。

 

パンパンと手を叩くとマリルリは再び泡を吐き出した。だが先ほどの泡とは少し違う。そこら中に振り撒いた泡々はぷかりぷかりと宙に浮き、場にとどまり続けていた。

 

太陽に照らされる大量の泡は七色に光り輝いて、その色彩は嫌が応にも突き刺さる。トレーナーはもちろんポケモンにもだ。

 

 

「技をただ打つだけじゃ能がないだろ? 応用しなきゃね」

 

 

特別性の泡はどうだ! 見にくいだろう! とオボロは自慢げだ。

 

もし泡を消すためにジバコイルが “10まんボルト” を撃ったとしても、泡が立ち込めるこの空間ではニャヒートにも当たる可能性がある。特にいつニャヒートが濡れるか分からない状況では。

 

ククイ博士はむやみに技を乱発する男ではない。好奇心が旺盛な彼とはいえ、当たる可能性のない博打に乗る人間ではないからだ。

 

けれどもナルシストの笑みは一瞬で崩れた。それはなぜか。

 

 

「ここはぼくに任せろ! ジバコイル、“ラスターカノン” で泡を潰すんだ!」

 

 

三つのユニットに集められた光は、小気味好くいっぺんに放たれた。

しかもその光は単なる光ではなかった。ある程度収束したままの、レーザーのような。

 

束になった光のひと筋ひと筋が泡を次々割っていく。

ぱぁん、ぱぁんと音が鳴る。ポケモンも地面も濡れていく。

泡はひとつ残らず消えていき、綺麗さっぱり視界良好。

 

これにはさすがのオボロの笑みも凍った。

「げっ全部消えた」と喉を押しつぶして、まるでカエルのような声を出している。

 

 

「“バブルこうせん” の使い方、斬新だったぜ! 今度からぼくも活用してみるよ」

「ああもう! だからククイ博士とは戦いたくなかったんだけどなあ!」

 

 

アローラ地方の変わり者。類い稀見ぬマイペース。だが彼はそれだけの男ではない。

 

技の活用ならなんでもござれ!

アローラどころか世界が誇る技マニア、それこそがククイ博士の真骨頂。

初めてみるやり方であったとしても、即座に分析、即対応。ポケモン博士として腕の見せ所だ。

 

 

「博士ありがと。いっけえニャヒート! “おんがえし” !」

「ハッ。イイぜぇ。グソクムシャ、“たきのぼり” で迎え撃ってやれ!」

 

 

水を纏ったグソクムシャとぐーんと素早くなったニャヒートが激しくぶつかり合う。

水飛沫が飛び散り、両者ともに吹っ飛ばされた。

 

高火力・タイプ一致・おまけに調子最高のそろい踏み。

グソクムシャの “たきのぼり” はニャヒートの体力を削りに削る。かろうじて持ち堪えられたのはトレーナーへの愛ゆえだ。

 

一方、ニャヒートの “おんがえし” ものっぴきならない威力だった。

ミヅキと心が通じ合っているニャヒートの一撃。それは相手の柔らかい腹を鋭く捉える。

自慢の脚で力任せに振り上げられた攻撃は、彼をボールに戻すのに十分な威力を持っていた。

 

ききかいひで戦線を離脱したグソクムシャの代わりに飛び出したのはハッサムだ。

赤々とツヤ良く輝く甲殻がキラリ。太陽の下で彼は自由に飛び回る。

 

ニャヒートはよろめきながら立ち上がると、ミヅキの方を向いて頷きあった。

 

体力がほんのわずかな、もうか持ち。トレーナーの腕に輝くZリング。

その光景は酷く既視感があった。オボロはうっすら、瞳にあの炎がちらついた気がした。

 

リン……!

首元の鈴を鳴らして、真っ赤な真っ赤な炎に包まれるニャヒート。それは “ニトロチャージ” よりもはるかに規模が大きかった。

 

ギャラリーも息を飲んでいる。あまりの衝撃に声を漏らせる者はいなかった。

あれに並大抵の水攻撃は歯が立たない。それはスカル団のしたっぱでも分かることだ。

 

一瞬、グズマの瞳が揺れた気がした。

彼のハッサムにはこうかばつぐん。受ければ先ほどのルガルガンの二の舞になるのは分かりきっている。

 

相変わらず喉が焼けそうになる技だな、とオボロは思った。額に汗を流しながら、彼はニャヒートを見つめている。

 

だからといって、怖気付いたわけでは決してない。

 

 

──同じ手を二度も喰らってたまるか!

 

 

彼の心にあったのは反抗の意。

笑い続けるはるか年下の少女の姿はオボロの敵愾心に火をつけた。

 

 

「マリルリ、火球が膨れ上がる前に “まも” って突っ込め!」

 

 

ニャヒートは駆けた。それと同じくしてマリルリも駆けた。彼女は透明な盾を展開しながら、勢いよくニャヒートの元へ飛び込んだ。

 

ぶつかり合う両者。弾ける炎。堅く “まもる” 壁の中すらも侵食する熱。

 

マリルリは鳴いた。鳴いて泣いて堪えた。弾丸のように飛び込むニャヒートを正面から受け止め、脚をすくう。

 

次の瞬間、ニャヒートは宙を舞った。ロケットが打ち上げられるように垂直に叩き上げられた熱は上空で膨れ上がり、爆発。

 

それからすぐに何かが地面に落ちる音がした。

空から転げ落ちたニャヒートは花火の後の燃えかすのようだった。

 

 

「たーまやー! ってね。いかにZ技が強力だといっても、受けなければいいだけの話さ。そうだろ?」

 

 

ミヅキはニャヒートを戻すとゲッコウガを場に出した。アローラにもカントーにもいないはずのポケモンだ。

 

誰かと交換でもしたのかな。ミラクル交換なのかも、とふと思った。

まあどうでもいい。そんなことより強敵ジバコイルをさっさとやっつけて、愛しいポケモン(マリルリ)を褒めちぎるのが先だ。

 

オボロは相手への思考を放棄すると、自分の手持ちを称賛した。炎で焦げた尻尾を振るマリルリへひらひら手を振りかえす。

オボロとマリルリは愉快そうに笑った。彼らの鼻は高々だ。

 

 

「さあてマリルリ、お次はジバコイルだ! “ふぶき” を……って、あれ?」

「さっきの “10まんボルト” の追加効果、ようやくきたみたいだね。ジバコイル! トドメの “10まんボルト” !」

 

 

“10まんボルト” の追加効果。それすなわち、ごく稀に起こるまひである。

ピカッと光ったかと思うと、電撃はまっすぐマリルリに飛んできた。よろめくマリルリの体に電流が走り、転倒。

彼女は真っ黒焦げの消し炭と化している。

 

もっともジバコイルも手加減していたらしい。治療をすればすっかり元どおりになるけれど、ただ見た目は大惨事というレベルの怪我に抑えたようだ。

 

とはいえ戦闘不能なことには変わりない。

ククイ博士を恨めしそうに見ながら手持ちをボールに戻すと、オボロは新しくゴージャスボールを手にかけた。

 

 

「最近出番がなくて悪かったね。ようやくキミの出番だよ。マイ・スウィーティー、トドゼルガ!」

「手持ちにラグラージやナマズンがいるのにトドゼルガ、ねえ。なんだかますますワクワクが止まらなくなってきたぜ!」

 

 

オボロの手持ちにはじめんタイプが二匹もいる。

だからジバコイル対策にどちらかを選ぶとククイ博士は読んでいた。

当たり前だ。普通の人なら迷わずそうする。

 

にも関わらず、相性最悪のトドゼルガを選んだオボロ。

奇人変人の代表格とも言えるオボロだが、無策で挑むほど馬鹿ではない。

さすがは幹部。したっぱとはひと味違うポイントだ。

 

わざわざトドゼルガをボールから出し、どこか自信に溢れた表情を浮かべるオボロに博士は興味津々だった。

 

 

──きっと彼は、自分を唸らせる技を出してくれるに違いない!

 

 

ククイ博士は存外、彼のことを高く評価していた。

元コーディネーター特有の、単なるトレーナーにはない魅せる技。技マニアの血が騒ぐのは必然だ。

 

だから博士はこの状況を心から嬉しく思っていた。

なにせオボロは彼より強い者を見ると、脱兎のごとく逃げるのだ。彼の技を間近で見る機会はなかなかない。

 

アローラは狭く、チンピラ集団(最下層)のスカル団を見下す者は多い。その幹部、自己中ナルシスト野郎なオボロを煙たがる人間はさらに多い。

 

だがしかし、彼を認める人間もまた多かった。

それをグズマは痛いほど知っていた。その理由もまた、分かっていた。

 

共に苦しみ共に悲しみ。時に妬んで憎しんで。

彼を拾ってからずっと、ずっとそばで見てきたからだ。

 

 

「おい、オレ様を忘れるんじゃねぇよ。“つじぎり” !」

「私のこともね! ゲッコウガ、“いあいぎり” !」

 

 

ハッサムのハサミとゲッコウガのクナイ──彼が出した水で作られたものだ──がぶつかり合う。

キィン、と鋭い音を立ててつばぜり合い。しのぎを削る両の刃は、付かず離れずの攻防を繰り広げている。

 

 

「やあやあ、忙しいところゴメンね。グズマくん、今度はテンガン山作戦でいくよ!」

「わあったよ。ハッサムよお、目一杯飛べや!」

 

 

ハサミに力を込めてゲッコウガを弾き飛ばすと、ハッサムは太陽を見上げた。

薄く色づいた翅を羽ばたかせ、猛スピードで高く高く昇って行く。

 

目にも留まらぬ速さで急上昇したハッサムを確認すると、オボロはにっこりと手持ちに笑いかけた。

 

 

「いくよトドゼルガ。あの人達にキミのコンビネーションを魅せてあげなよ!」

 

 

トドゼルガは口を大きく開くと、これまた大きな声をあげた。

するとどうだろう。近くの池がうねりにうねってそこら中を飲み込んでいくではないか!

 

ジバコイルは慌てることなく空へ舞い上がり、ゲッコウガも水中を泳ぐことなく飛び上がった。

多少の濡れは平気とはいえ機械に水は大敵だし、荒れ狂う水の中を泳ぐのはいかにカエルといえども疲れるからだ。

 

ざぶんと音を立てて地面を飲み込む水の塊はポケモン達にはカスリもしない。

だがナルシストは気にすることもなく鼻歌を歌っている。

 

この “なみのり” が当たろうが当たるまいが、彼にとってはどうでもよかった。

攻撃はオプション機能。あくまで “なみのり” は前座にすぎないからだ。

 

トドゼルガはふさふさとした白いひげを大きく震わせた。

彼女がふっと息を吐くと、大気の水分という水分が瞬時に凍りつき氷の華が咲いた。

うねる水の姿を残したまま池も地面も凍りつき、あたりは氷河の様相だ。

 

 

「さあて、どうだい? これがボクらのフィールドさ!」

 

 

トドゼルガは足を少し動かすと、氷上の上を滑る滑る!

 

“なみのり” で水を出し “ぜったいれいど” の息を吐きながら、さらに作る足場は氷の橋。上下左右・天地斜めの移動もスイスイと。

ゲッコウガの “みずしゅりけん” も難なく避ける上、ジバコイルに “こおりのキバ” でわざわざ上空まで噛み付きに行くほどだ。

 

ジバコイルが “10まんボルト” を撃つも、ハッサムに漏れ出た電気が当たるのみ。重い体を持つとは思えないほどめまぐるしく動くトドゼルガに狙いを定めるのは難しい。

 

新たに作りあげた氷上を滑り、彼と彼女は翻弄する。

 

氷を生み出して、自慢の牙で破壊し再構築。

変幻自在に氷を操り、颯爽と場を駆け巡る。

 

長所も短所もひっくるめてポケモンを活かす、魅せるバトルの真髄がそこにはあった。

 

 

「こんな方法で足の遅さを克服なんて、よく考えたもんだぜ!」

 

 

とククイ博士。

これ、かなり使えるポケモンが限られるけど凄いね、とメモを取りながら感嘆の声をあげている。

それからボールペンをノックすると、

 

 

「しかも中々なタフボーイだなあ、その子」

 

 

と余計な一言を呟くまでがワンセット。

さすがはマイペースという言葉が人の形をしている男、ククイ博士である。

 

 

「はあ!? こんなに可憐なトドゼルガを男の子だと間違えるなんて! どこからどう見てもガールだよ! おのれククイ博士め既婚者め! 許すまじぃいいい!」

 

 

青いハンカチを取り出すとそれを噛み締めて金切り声を叫ぶオボロは一周回って様式美を感じさせる。その顔はさながら鬼の形相。

ハンカチに刺繍された赤い炎と相まって笑いを誘うのか、ククイ博士はゲラゲラと声を出して笑っている。

 

目を大きく見開いたオボロは人差し指を突き立てて、「見てなよ! その顔、ぎゃふんと言わせてやるからな!」と大々的に宣言。それからグズマの方を向くと、

 

 

「さあグズマくん、やっちゃって!」

 

 

親友に丸投げした。

ククイ博士の笑いはおさまらず、せっかくカッコよかったのにあの人やっぱり情けねえ……とギャラリー(したっぱ達)が落胆の声を漏らしている。

 

 

「オレ様がやるのかよ。まあいいぜ。ハッサム、そのまま真下に落ちて “アイアンヘッド” !」

 

 

急旋回!

派手な羽音を立てて一直線に落下するハッサムは赤さも相まって隕石のよう。

威力を高めるため余計な動きはしない。まっすぐジバコイルを狙って、ただひたすらに。

空気抵抗を極限まで除いたハッサムは轟音とともに落ちていく。

 

ただククイ博士は余裕そうな態度を崩さない。

「そんな単純な動きじゃぼくのジバコイルには当たらないぜ?」と博士。

 

当然だ。威力だけはあっても当たらなければ意味がない。

この “アイアンヘッド” は左右に避ければ簡単に片がつく。先ほどの “ダイナミックフルフレイム” のとおり一目瞭然だった。

 

ただ、もちろんそれは無事に避けられればの話である。

 

 

「ジバコイル、動けないだろ? ようく濡れていたからね」

 

 

ギギギ、と鈍い音を立てるジバコイル。

怪訝そうな顔をするククイ博士とは対照的に、オボロは清々しいほどの笑みで溢れている。見るもの全てを苛立たせるようなドヤ顔で、もったいぶって人差し指を三回振り振り。

待ってましたとばかりに彼は答え合わせをハキハキと語り始めた。

 

 

「キミはジバコイルの手入れをきちんとしていたようで、オイルをちゃんと差しているね。それが仇になったね。オイルって、金属をよく冷やすんだよ!」

 

 

音速を超えて衝突するハッサムの頭。ジバコイルは氷の床に勢いよく叩きつけられる。

それだけではない。あまりの衝撃に響き渡る轟音。崩れ落ちる床。そう、床が割れているのだ。

 

おさらいするとバトルフィールドはマリエ庭園。整えられた緑と美しい池が広がる庭園である。

とどのつまりその下は池。水の塊が広がっていた。

 

ジバコイルは落ちる。水の中に落ちていく。体の内部まで染み渡る水分に機械の回路はイカれていく。

 

しばらく経って再び浮かび上がるも、彼にほとんど体力が残されていないのは明らかだった。

 

 

「よし! ザマァみろ!」

 

 

オボロはガッツポーズをした。自称優雅な言葉遣いを崩して喜びを表す彼に、グズマは軽くため息を吐く。

 

スカル団の天敵、ククイ博士のジバコイル。

彼らをやっつけたことで張り詰めていた糸がプツンと切れたのだ。それは大きな隙だった。

 

 

「ゲッコウガ、たくさんたくさん “みずしゅりけん” !」

 

 

池から “みずしゅりけん” が一つ二つ、三つ四つ数え切れないほど飛んでくる。

水中に潜っていたゲッコウガ。彼は池の水を利用して無尽蔵に技を出し続けた。

 

対応が遅れた二匹は何発もあたっている。前者に至っては倒れてしまうほど。

 

ハッサムを戻したグズマは舌打ちを一つすると、見覚えあるボールに手をかけた。

 

 

「もう一度出番だ、相棒よお!」

 

 

容赦はしなかった。

ボールから飛び出したグソクムシャは池へと一直線。投げつけられる “みずしゅりけん” ごと “であいがしら” で斬りつけた。

 

むしタイプの技のこうかはばつぐん。さすがは泣く子も泣かすスカル団、対戦相手が子供だとしても手加減しないのがグズマ流だ。

 

 

「これでボクらの勝ちはほぼ確定、かな?」

「そう思っても言うもんじゃねぇ。バトルの最中は目の前に集中しろ」

「だってさあグズマくん、そうだろう? ジバコイルは死に体。ゲッコウガもフラフラ。ボクの愛しの()()()はまだまだ元気だし、グソクムシャだっている。負ける要素がないじゃないか」

 

 

スカル団二人がのんきに談笑をしていると、クスクスと笑い声が聞こえてきた。その声は相手側から聞こえてくる。

 

相変わらずイヤミなおじさんだな、とオボロがククイ博士を見るも、彼は笑い声なんて出してはいなかった。いつもの薄い笑みを浮かべているだけだ。

 

笑っていたのは少女。カントー地方からやってきたトレーナー、ミヅキだった。

泣きながら笑うのでもなく、投げやりに笑うのでもなく、スカル団をあざ笑うのでもない。ただただ歓喜に打ち震えているようだ。

 

その様子にオボロはもちろん、グズマもとことん引いていた。得体のしれないものを見ている気分だった。

 

負けず嫌いな彼には、彼女の心境がこれっぽっちも理解できなかったからだ。

 

 

「変なガキだなテメェはよお。普通は泣いて悔しがるモンだが、こんな場面で笑う奴がいるとは思わなかったぜ」

「悔しがることなんてないよ。私、嬉しいの。すっごく、とっても。ようやくこの子の本気を出してあげられる」

 

 

ね、ゲッコウガ。と彼女は池から上がったポケモンに笑いかけた。ゲッコウガはコウガ、と呟くとミヅキの話を静かに聞いている。

 

その関係は少しいびつなもののように見えた。少なくともスカル団二人はそう感じた。

単なるトレーナーとポケモンの間柄ではない。

 

 

「この子は知らない男の子に、夢の中で預けられたの。ウソじゃない。本当なんです。夢で男の子と一緒に喋って、美味しいものいっぱい食べて、モンスターボールを渡されて。それで目が覚めたら、手のひらにゲッコウガのボールがあったんです」

 

 

ミヅキはそっとボールを撫でた。

傷がついた赤いモンスターボールは、長い間使われているようにも見える。ミヅキは駆け出しのトレーナーでもあるにも関わらず。

 

このガキ頭がおかしいんじゃねぇの、としたっぱ達がこぼした。その声は少し震えている。

ただ少女の言葉を真っ向から否定する者は出ない。その場にいた全員、少女の声になにか鬼気迫るものを感じとったからだ。

 

 

「それからずっと、パーティを引っ張ってくれた。けれどこの子は強すぎて」

 

 

そっとミヅキは目を伏せた。相手の二人は少女が動く時をじいっと待ち構えている。

 

 

「強すぎて、今までゼンリョクを出し切れなかった。けどオボロさんとグズマが相手なら、シャクに触るけどゼンリョクを出せる、私もゲッコウガと一緒に戦える!」

 

 

ミヅキは前を見据えた。ゲッコウガもそれに倣った。

するとどこからともなく水がやってくる。ゲッコウガの体が水に覆われ、覆われ、覆われて彼の体をひた隠しにした。

 

“たきのぼり” か? と推測した二人はポケモン達に避けるよう指示を出す。

そんな二人を気にも留めないで、ミヅキは言葉を紡ぎ続けた。

 

 

「行くよゲッコウガ! 見せてあげよう、私達のチカラを!」

 

 

纏った水はさらに巨大になっていく。ぐるぐると回転する渦の中で、ゲッコウガは動いた。

彼がしたのは “いあいぎり”。水のクナイを出して、トドゼルガに襲いかかる。

 

その速度は異様だった。滑るトドゼルガよりも早く走り、彼女の姿を適確に捉えて一撃を放つ。

加速に加速を重ねたニャヒートよりも、速い。

 

 

「もっとだよ、もっと強く!」

 

 

目立つ赤の頭の相貌。耳元についた黒い髪。前を見据えた鋭い眼差し。

その姿はゲッコウガとは違う。あまりにも違いすぎる。

 

トドゼルガにダメージを与えたゲッコウガはトレーナーの元へ跳ね戻った。もう彼は水を纏っていない。“いあいぎり” をした時に全ての水が動き、背中に集約されたのだ。

 

 

──彼が背負った大きな大きな “みずしゅりけん” に。

 

 

「なんだよ、アレは。アレは、ゲッコウガなのか?」

「さあな。ただコレだけは分かる」

 

 

グズマは少女を睨みつけた。初めて彼はククイ博士ではなく少女をちゃんと見つめた。グソクムシャもそうだった。

彼らは見た。ジバコイルではなくゲッコウガを。

 

 

「気張っていくぞオボロ。この勝負、どう転ぶかオレ様にも分かんねぇからよ」

 

 

相手との間に圧倒的実力差があると信じていたグズマが、挑戦者に回った瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

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