【スカルな野郎はナルシスト!】   作:めいでん

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〜前回のあらすじ〜
▼ オボロは でしを とった!
▼ ふたりは ポータウンへ むかった !



第二話 【いかがわしき屋敷】

常に晴れ渡り、夜には星がきらめくアローラの空。

だがしかし。どこにでも例外というのはあるものだ。

 

雲に覆われ、しとしとと。どんよりとして、薄暗い。

スカル団のアジト、ポータウンはそんな場所にあった。

 

 

「オボロさん。あたし、初めてポータウンに来たけどなんだかじめじめしてるわね」

「ここは曰く付きの場所だからね。かつてここはカプの村と同じように、ウラウラ島の土着神、カプ・ブルルに罰を受けたのさ」

 

 

まあボクもあまり知らないけどね、と彼はひとりごちる。

彼がアローラを訪れた時には、すでにこの街は廃墟と化していたからだ。

 

 

「カプのせいでこんな風になっちゃったのね。なんだかかわいそう」

「だろ? そんな哀れなゴーストタウンを、ボク達スカル団が再利用したってわけ」

 

 

白い壁で覆われた閉鎖的な街。そこには活気というものがまるでなかった。

 

人気はなく、遠くにぽつりぽつりとスカル団員が立っているだけだ。

家はおろか、ポケモンセンターでさえペンキの跡が残り、さらに言うと所々錆びている。道端にはゴミが転がり、雨水と汚れが混ざった道路は黒く黒く濁っていた。

 

アローラのどこかとは思えない。そんな有様だ。

 

 

「荒れてるし、きたないけど。あたしはここ好きだわ。落ちつくもの」

「リジーもここの魅力に気がついたのか。なかなかにキミ、素質があるね」

 

 

彼はリジーにウインクをして、「見直したよ」と明るく言った。

本心からの言葉だ。スラム街のようなこの地を、オボロは好ましく思っていた。

 

カプから罰を受けた名残が色濃く残る街。まるで今も呪われているかのように、陰鬱な空気を放っている。

きっと昔は栄えていたであろうポータウン。それがスカル団という掃き溜めの溜まり場となり、滅んでいく姿にオボロの心はかきたてられた。

 

バリケードの前まで歩くと、オボロは中にいるしたっぱに手を振った。彼はオボロに気がつくと慌ててバリケードをどかし始める。

人二人分通れるほどに通路をあけると、したっぱは敬礼をしてこう言った。

 

 

「お帰りなさいオボロさん。グズマさんが首を長くしてお待ちですよ!」

 

 

オボロはげんなりとした表情を隠さない。

待たなくてもいいのに。グズマくん、キリンリキになっちゃいそう。とぶつぶつと呟いている。

 

憂鬱な面持ちでバリケードを越えるオボロとは反対に、ウキウキとしたリジー。少女はすっかり遠足気分だ。

 

 

「ところでリジーは帰らなくていいのかい? 夜のポータウンなんて、親御さんは心配するだろ?」

「そこは全然だいじょうぶ! 今日は友だちの家に泊まるってママに電話したもの」

 

 

自慢げに笑うリジーを見て、オボロはなるほどね、と呟いた。この桜色の髪をした少女は案外しっかりしているらしい。

そういえば、この子はおまもりこばんをポケモンに持たせているような子だ。ちゃっかりしてるというか、要領が良いのだろう。

 

オボロはリジーの評価を引き上げると、面白そうに周りをきょろきょろ見渡す少女の手をつないだ。

それからにっこり微笑むと、

 

 

「まあ、スカル団のアジトとは言ってもね。ボクの連れだって説明したら、何もされないだろうから安心しなよ」

 

 

とオボロ。

グズマくん以外にはね、と心の中で付け足すのも忘れない。

だが、グズマも少女には手出ししないだろうという確信がオボロにはあった。

 

彼は身内(スカル団)にはひたすら甘いのだ。

自分のことを『破壊という言葉が人の形をしている』と言ってやまないグズマだが、あれは虚勢。彼は絶対に認めないだろうが、性根は優しい人間だ。

 

そんなグズマがオボロは好きだった。人間の馬鹿げたところを、全て表しているような気がして。

 

 

「ところでキミはもうボクの弟子なんだから『オボロさん』はやめるんだ」とオボロは言った。

「これからはボクのことをお師匠様と呼びたまえ。それはもう、存分にね」

 

 

そう、オボロはナルシスト。なんでもかんでも形から入る人間だ。

「うん分かったわ。お師匠さま!」と答えるリジーに彼は大層満足げだった。わりとあっさり弟子入りを引き受けたのも、どうやら師匠と呼ばれたかったかららしい。

 

まっすぐに二人は街を進んでいく。廃墟と化した住宅地を通り過ぎると、目の前にあるのは大きな屋敷だ。

 

 

「立派な屋敷だろ?」

「そうなんだけど、ホラー映画にでも出てきそうだわ」

「ここも廃墟だったからね。けど、今じゃあ立派なボクらのホームさ」

 

 

門をくぐって大きなドアを開けると、顔を出したのはスカル団アジトの最深部。いかがわしき屋敷だ。

 

かつては権力者が住んでいたのだろう立派な屋敷は、アローラ中の人間の屑の吹き溜まりと化している。

 

ギィ、と音を立てる扉。スカル団のしたっぱ達は、オボロと小さな来客を迎えようと次々に近づいてくる。

 

午後十時。中にある電飾がぼうっと光る洋館は、雨がしたたり不気味な雰囲気を醸し出していた。

 

 

 

 

第二話【いかがわしき屋敷】

 

 

 

 

「オボロさん、その女の子どうしたんです? ウチらもワルだけど誘拐はやっちゃダメですよ」

「まさか隠し子とかっスカ!?」

「ハイハイこの子はボクの弟子だからね。やましいのとかじゃないよ。名前はリジー、仲良くしてやって」

「オボロさん大変なんですよ! アタシ達もなだめたんですけど、グズマさんってばチョー不機嫌で」

「本当かい? それは会いたくないなあ」

 

 

やんややんやと押しかけるしたっぱ達をあしらうと、オボロは自分の部屋に戻った。リジーを中に入れると、オボロはふかふかのベッドの中に倒れこむ。

 

リジーは布団を抱きしめる師匠を横目に、じっと部屋を観察していた。

 

ポロックケースにポロック作成機。手持ちのポケモンや何人かでピースをしている写真。履いている黒いズボンに付けきれなかった、コンテストリボンの数々がところ狭しと並べられている。

 

綺麗好きなのだろう。

街の壁や廊下にはあったペンキの跡が、この部屋にはかけらも見当たらない。電灯もこまめに変えられているのか、ピカピカと明るく光っている。

 

 

「お師匠さまの部屋、この家じゃないみたい。このリボンってコンテストの?」

「そうだよ。これでもボクは、結構やり手のコーディネーターだったからね。隣にあるのはボクと麗しきライバル達との写真さ」

 

 

そう言ってオボロは武勇伝を語り始めた。

 

独自の配合でポロックを作っていること。相手が卑怯な技を使った時も鮮やかにかわしてみせたこと。ライバル達は皆強くて、それでいて美しいトレーナーだったこと。

 

それからオボロはそっと呟いた。

あの舞台にもう一度、彼らと立ちたいと。

 

 

「ふぅん。ポケモンみたいな格好するの、流行ってたの?」

「それはこの人だけさ。他の人は普通の格好だろ?」

 

 

オボロはそう言うとベッドから立ち上がった。

カバンからポッドを取り出すと、「さあ行くよ」と再びリジーの手を握る。

 

やけに真剣な顔をして、ポッドとリジーを握りしめるオボロ。

 

今からグズマに会いに行くのだ。約束の時間を五時間もぶっちぎって、怒り心頭の彼に。

それはオボロにとって死地へ赴きに行くようなものだった。

 

 

ところでグズマの部屋に行くには合言葉を言わなければならない。

それはスカル団の鉄の掟だ。部屋に続く道には一人、担当のしたっぱが立っているのだ。

幹部であったとしても必ず守らなくてはいけない、絶対厳守のルールだった。

 

 

「オボロさん。合言葉が違いますよ」

「カプを憎んでスカル憎まずと、だまし討ち。それとアマサダに、最後はNO! ちゃんと全部言ったじゃないか」

「それは先月の合言葉です。NO! しか合ってないですよ。昨日変わったじゃないですか」

 

 

知らない。

オボロは必死に頭の引き出しを開け閉めしたが、さっぱり思い出せなかった。というより聞いた覚えすらない。

メールに書いてあるかと思いチェックをするも、あるのはグズマからの恐怖メールだけ。

 

 

──こんなところで無駄に時間を使うと、余計にグズマくんがキレてしまう!

 

 

ポケットをひっくり返して合言葉の手がかりを探すオボロ。その姿は全く美しくなかったが、なりふり構っている暇は彼にはなかった。

 

 

「ヒント! ヒントをくれないかい?」

「ないですよそんなの。ちゃんと合言葉、紙で配って伝えましたからね」

「そんなつれないこと言わずにさ。これ以上待たせるとマズイんだ。破壊という文字が人の形をしているのがグズマくんだろ? 屋敷が壊れたらどうするんだい」

「グズマさまが壁をブッ壊しても、オボロさんが修理費を出してくれますよ」

 

 

厳しく言い切ったしたっぱにオボロは口元を引きつらせた。横にいるリジーにも「お師匠さま、かっこ悪い……」と言われる始末。

 

どうやらここに彼の味方はいないらしい。

 

オボロがてきとうな言葉を投げつけるも、どれも答えにはカスリもしなかった。

 

 

「お師匠さま。いつになったら進めるの?」

「うるさいなあ。今そのために頑張ってるんじゃないか。キミも何かそれっぽいのを考えておくれよ」

 

 

イラついているのを隠しもしないオボロは、舌打ちしながらリジーに言った。この男、全くもって大人気ない。

 

二人であれこれ相談しあっている最中だ。

階段を上る音がしたかと思うと、

 

 

「袋だたきとグソクムシャ。それとエネココアに、最後はNO! だよ」

 

 

と呆れたような声が後ろから聞こえてきた。

 

 

「プルメリちゃんじゃないか! プルメリちゃんがボクのピンチを救ってくれるなんて、なんたる幸運!

相変わらずキミは、しなやかな女性らしさと芯の強さを兼ね備えた、エムリットのような女性だね」

 

 

つまりはそう、美しいってことさ、とウインクをするオボロ。そんな彼をスルーしてプルメリはリジーをじっと見る。

 

 

「さっきしたっぱから聞いたよ。アンタこのバカの弟子になったんだって? 物好きな子もいたもんだね」

「そうよ。あたしはリジー。あなたは?」

「アタイはプルメリ。こいつと同じスカル団の幹部。したっぱ達をまとめる、いわゆる姐御ってとこ」

 

 

プルメリはしたっぱをどかすと、すたすたと先へ進む。それからくるりと振り返って、二人に向かってこう言った。

 

 

「グズマに呼ばれてるんだろ? アタイも呼ばれててさ。二人とも一緒に来なよ」

「本当かい? プルメリちゃんと一緒なら、どんなに憂鬱なことでも元気二百%さ! 喜んでお伴するよハニー。空に瞬く星よりも美しいキミのためならね」

 

 

格好つけて口説き始めたオボロを、リジーは冷めた目で見つめている。口説かれている本人も、「オボロと喋ると、どうにも頭が痛くなるねぇ」と頭を抱えていた。

 

 

黙っていれば見た目は普通なのだ。むしろ、オボロは普通よりもはるかに整っている。

 

垂れ目で大きな青い瞳。二つにまとめられた、長くて赤い髪。

細く、けれどがっしりとした身体には、シールではあるが目立つ青色のタトゥーが彫られていてアンバランス極まりない。

それが、逆に彼の美貌をより一層引き立たせていた。

 

 

外見はただの優男。

いや、そういえば中身も昔はそうだった、とプルメリは思い直す。

彼がナルシストで自己中になってしまったのは、スカル団に入ってからだ。

 

初めて出会った時はオボロは謙虚な奴だった。そんな記憶が彼女にはある。

今では、謙虚のけの字も見当たらないが。

 

 

肩を組もうとするオボロの手をはたき落とすと、プルメリはため息をついて歩き出す。

 

彼女は昔のオボロを思い出そうとして、やめた。

まともだった頃の彼と、あまりにも違う今。比べてしまうと、頭痛がひどくなるのが目に見えていたからだ。

 

 

 

 

彼ら三人がグズマの部屋までたどり着くと、オボロは深呼吸をする。それから、エネココアがたっぷり入ったポッドをギュッと握りしめると、手のひらをリジーの頭にぽんと置いた。

 

 

「これからボク達のボス、グズマくんに会うけど、余計なことを言っちゃダメだよリジー。さもなければ、彼は屋敷中を破壊してしまうからね。

けど、大丈夫。怖くない、怖くないよ。怖がらなくても大丈夫」

 

 

震える背中。緊張した顔。小さな声。そんな彼の言葉は全く説得力がない。

 

そもそもリジーは遠足気分。しかもオボロの弟子ということで、したっぱ達からお菓子をたくさん貰っていた。

散々スカル団から可愛がられた彼女は、むしろスカル団のボスに親しみさえも覚えている。

 

どう考えても怖がっているのはオボロだけだったが、切羽詰まっている彼は、そのことに全く気がついていなかった。

 

コンコンと二回、ノックをすると恐る恐る扉を開ける。「グズマくん、ボクだよ。このボク、オボロが華麗に参上したよ!」と彼が精一杯の虚勢を張った瞬間だ。

 

いきなりマグカップが飛んできてオボロの顔にぶっかかった!

 

中に入っていたのは熱々のグランブルマウンテン。全身コーヒーまみれで真っ黒になったオボロは、突然のことに目をぱちくりとマヌケ面をさらしていた。

 

 

「あらゆる物をブッ壊し、あらゆる者に嫌われる。そんな孤高の嫌われ者のスカル団ボス、グズマ様だがよお」

 

 

カップを投げた主はオボロを睨みつけながら、ぼきぼきと拳を鳴らす。血走った彼の目は薄暗い部屋の中で爛々と光っていた。

 

 

「このオレ様をこんなに待たすたあ、オボロ。お前、覚悟はできてるんだろうな。あ?」

 

 

大きな椅子に座るグズマは見るからにこめかみをヒクつかせている。普段と変わらずにうすら笑いを浮かべる彼が、オボロは逆に怖かった。

 

破壊という文字が人の形をしていると公言しているグズマが、自分にコーヒーをかけたくらいで終わるはずがない。

さらに言うと、彼の目は全く笑っていなかった。口調は普段と同じであるにも関わらず。

 

 

──ヤバい。ヤバすぎる。グズマくんってば、想像の十倍はブチギレてるよ。

 

 

オボロは顔を引きつらせる。彼は早々に奥の手を出すことにした。

対・グズマ用最終兵器。そう、エネココアを。

 

 

「ぐ、グズマくん。ほらこれあげる、エネココア」とオボロはいそいそとポッドを差し出した。

「キミが好きだから買ってきたんだよ。嬉しいかい?」

「お前こんなモンで誤魔化そうったってそうはいかねぇからな」

 

 

ぎろりと睨むと、グズマはしたっぱにポッドを受け取らせる。それから温めて自分に出すように指示すると、ふんぞり返って彼は言った。

 

 

「今日お前がここに来るはずの時間は五時だった。そうだな?」

「うん。メールでそう言われたね」

「で、それを踏まえて考えてみろや。今は何時だ? 」

「九時くらいかなあ」

「十時半だ! 五時間以上経ってんじゃねぇか! テメェいい加減にしろや!」

 

 

どん、と椅子のひじかけをグズマが拳で殴る度に、オボロの背中はビクついている。

恐怖に震えるコーヒーまみれの男はなんともみっともなくて、横のプルメリとリジーは白い目で見つめていた。

 

 

「多少の遅刻はスカしてる、むしろ時間通りはクソ喰らえってのが信条のこのオレ様だがよ。何事にも限度ってもんがある。

お前のウリは自由なところだと思っていたがよ。年々ひどくなる一方だ」

 

 

そう言ってグズマはため息をついた。したっぱから差し出されたエネココアを受け取ると、ぐっと一気に彼は飲み干す。

グズマにとってエネココアは、この場における唯一絶対の癒し。彼にとってそれは気つけ薬のようなものだった。

 

 

「それになんだよ、このガキは。アジトにチビッ子連れてきてんじゃねぇぞ」

「ああ、この子ね。ついさっきボクの弟子になったのさ」

「それは知ってるぜ。外のしたっぱが騒がしかったからよお。そうじゃねぇ。ガキを連れてくんなっつってんだよ」

 

 

お前バカだな、と吐き捨てると、グズマはエネココアのお代わりを催促した。

暖簾に腕押し。ぬかに釘。相手をするには、気つけ薬がいくつあっても足りやしない。

それがオボロという男だ。

 

 

「そうそうグズマくん。この子、リジーっていうんだけどね。スカル団に入れても構わないかい?」

「スカル団は幼稚園じゃねぇぞ」

「もちろん知ってるさ! グズマくん、キミってば面白いジョークを言うね」

 

 

場を和ませようと笑うオボロ。

だが、余計にグズマの癇に障ったらしい。先ほどよりも一層青筋を浮き立たせると、グズマは再びひじかけを殴りつけた。

 

お前は黙ってろ、と縮こまるオボロをもうひと睨みすると、グズマはリジーに声をかける。

 

 

「おいガキ! お前はなんでコイツの弟子になったんだよ? このオレ様に教えてくれや」

「強くなりたくて。今のお師匠さまは、かなりかっこ悪いけど」とちらりとオボロを見てから、リジーはこう続けた。

「バトルをするお師匠さまはすっごくかっこよかったのよ。あたしはお師匠さまみたいな、強くて美しいトレーナーになりたいんです」

 

 

それを聞いたグズマは少し黙ると、「強くなってお前は何がしたいんだよ」とリジーに問いかけた。

 

 

「キャプテンにでもなりたいのか? 島巡りでもするのかよ?」

 

 

これはマズイとオボロは思った。

 

キャプテンと島巡りはグズマにとって二大禁句ワードだ。ただでさえグズマは今、ブチ切れている。下手なことをリジーが言うと、何をされるかわからない。

 

横を見るとプルメリも同じことを考えていたらしい。

スカル団の幹部二人は、だらだらと汗を流しつつ、少女の回答を固唾を飲んで見守っていた。

 

 

「ううん。あたし、島めぐりには興味ないわ」とリジーは言った。

「お師匠さまにコテンパンに負かされて、醜いなんて言われたのよ! だからあたしは強くなって、お師匠さまをブッ倒してからぎゃふんと言わせてやりたいんです!」

 

 

返ってきたのは予想のはるか斜め上。

 

グズマは思い切り笑い出した。「師匠をブッ倒すと来たか。下克上か、悪くねぇ」と呟く彼はどこか嬉しそうだ。

ひとしきり笑うと、グズマはリジーに向かって何かを放り投げた。それは、スカルの形の白い白いペンダント。

 

 

「良いぜ。嬢ちゃんの入団を認めてやらあ。まあ、見習いとしてだがな」

 

 

白いペンダントを握る少女を彼は満足そうにじっと見ている。

それから未だに情けなく震えるオボロを一瞥すると、グズマは再度ため息を吐いてから口を開いた。

 

 

「オボロ。今回ばかりはお前の遅刻も許してやるぜ。二度目はないから覚悟しとけよ」

 

 

どうやら難を逃れたらしい。オボロは訳もわからず、ぽかんと口を開けている。

プルメリもそうだ。グズマの気の代わりように、彼らはひたすら驚いていた。

 

彼が突然機嫌が良くなった理由。それはいたって簡単なことだった。

 

グズマは自分と重ね合わせたのだ。

オボロを師匠と呼ぶ少女を、かつての自分に。師匠のことを尊敬し、そして同時に憎らしく思っていた自分に。

 

ただしオボロとグズマの師は人格面で月とスッポン程の差があったが。もちろん、この場合のスッポンは言わずもがなオボロのことである。

 

 

二杯目のエネココアを飲み終えると、グズマは少し落ち着いたようだった。それで本題だが、と彼はメールを開きながら言った。

 

 

「代表からのお呼び出しだ。プルメリ、オボロ。明日の朝、オレ様とお前ら二人はエーテルアイランドに行かなきゃならねぇ」

「アタイらもかい?」

「そうだぜ。なんでも、かなり重要な話があるらしいが」とグズマは言った。

「人目につかないとこじゃないと、代表は嫌なんだとよ」

 

 

ほらよ、とメールを見せるグズマ。そこには仰々しく書かれた文章。正真正銘ルザミーネからのメールだった。

 

『わたくし、あなた方に協力して貰いたいことがありますの』と書かれたメールを見て、オボロは背中に寒気が走った。

彼の頭は、明日どうやってあの女性と会話しないようにするかでいっぱいだ。

 

美しい物が大好きで、自らも美しくあろうとするオボロ。だが、同じく美しい物が大好きで、自らも美しくあろうとするルザミーネとはどうにも反りが合わなかった。

 

考え方も、発想も。目的も手段も行動も。

 

 

人はそれを、同族嫌悪と呼ぶ。

 

 

あれこれ思考を巡らすオボロと、話についていけないリジー。それと代表に会うのが楽しみなのか、ニヤケが抑えられないグズマ。

 

三者三様の姿を見て、明日は一波乱起きそうだねぇ、とプルメリは深くため息をついた。

 

 

時計の針は二つとも。ぴったり天を指している。

もう皆、夢の狭間へと潜り込む時間だ。

 

 

静まり返った屋敷の中でただ一つ。いつまでもこの部屋だけが喧噪を保っていた。

 

 

 

 

 

 

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