【スカルな野郎はナルシスト!】   作:めいでん

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〜前回のあらすじ〜
▼ オボロは ルザミーネと あった !
▼ コスモッグを さがすことに なった !



第四話 【おまもりこばん】

コスモッグの話を聞いた四人はそれぞれ別行動を取り始めた。

 

プルメリは屋敷に戻って、団員達にそれとなく指示をすることにしたらしい。詳しいことは説明せず、珍しいポケモンを見つけたらグズマか幹部に言うようにと。

 

全ては用心棒のグラジオに気付かせないため。

彼はルザミーネの息子だ。彼女に反発して家出をした彼に、エーテル財団との繋がりがバレると、面倒くさくなることは目に見えている。

 

グズマはルザミーネと話があるからと言い、エーテルパラダイスに一人残った。大方、彼女の家に上がり込んでいるのだろう。

 

 

「お師匠さま。今頃、グズマさんは代表さんと何を話しているのかしらね」

「さあね。さっきグズマくんが言ってた、ルザミーネ女史の計画の話なんじゃないかい?」

「どんな計画なの?」

「ボクが知るわけないだろう。そんなのがあるって今日初めて知ったくらいだし」

 

 

グズマとルザミーネが彼女の家で何をしていて、彼らがどういう関係なのか。

普通の人ならヨダレを垂らすゴシップに、オボロは全く興味がなかった。どうにもこうにも彼はルザミーネが気に食わなかったからだ。

 

若さにしがみついて、美しさに固執し、趣味の悪い髪型をしたルザミーネ。ポケモンの美しさに対する考えも真逆で、会う度にオボロを煽ってくる。

さらに言うと、美しいモノを絶対とする彼女の考え方は──

 

 

「ボクとキャラがカブってるじゃないか!」

「どうしたのお師匠さま。急にさけんで」

「ああいや、考え事をしていただけさ。声に出しちゃったみたいだね」

 

 

そう、オボロがルザミーネのことを嫌いなのはポケモンへの考え方が違うからなどではない。

 

元々、手持ち以外はどうでもいいと考えている男だ。

野生ポケモンの保護だの美しさだのは、彼にとっては些細なことだった。あくまでもそれは体裁的な理由にすぎない。

 

 

キャラ被り。

 

承認欲求という文字が人の形をしていて、独自性を発揮しようと日夜研究しているオボロ。

それは彼にとっては断じて許せないことだった。

 

 

「それにしても、コスモッグってどこにいるのかしら」

「ルザミーネ女史の話だと、あの女の子が持ち出したんだろ? じきに見つかるよ」

 

 

じきに見つかる。これは間違いない。

アローラは狭いし、少女の力では行動範囲に限界がある。もし海外に出ようとしたら、出航記録を調べられて取り押さえられるのがオチだ。

 

となると、少女がそう遠くに行っていないのは明らかだった。本来ならば、スカル団の力なんか借りなくても、エーテル財団だけで処理できたはずの案件だ。

 

少女には協力者がいる。それも、とびきり厄介な。

 

見つかるのが早くても、コスモッグを捕獲するには百%骨を折る。それに、どうせドロボウはルザミーネの娘とかいうオチだろう。

あの服。あの髪型。彼女のセンス以外の何ものでもない。

 

親子ゲンカでもしたのだろうか。

スカル団に転がり込んできた、グラジオのように。

 

 

──頼むから身内の恥は身内で処理してほしかった。けれども、我らがボスが引き受けちゃったんだからしょうがない。グズマくんってばルザミーネ女史のこと好きすぎなんじゃないかなあ。

 

 

面倒な仕事を回してくれたよホントに、と彼はため息をついた。

 

 

「そんなことよりリジーにスカル団のタンクトップを買わなきゃね。見習いとは言え、もうスカル団の一員なんだから」

「お師匠さまは着てないのに?」

「ボクは幹部だからだよ。したっぱ達とは違うのさ」

 

 

不思議そうにするリジーに、「プルメリちゃんもアレンジしたやつを着てるだろ?」とオボロは付け足した。

プルメリの腹出しタンクトップは特注品。セクシーに着こなす彼女を思い出して、リジーは納得したようだ。

 

 

「お師匠さま、あたし着るの楽しみ! あのタンクトップってスカしてて、けっこう好きなの」

「えっ。あれダサ、いや、キミのセンスはグズマくん似みたいだね」

 

 

苦笑いをしながらオボロは船に乗りこんだ。その後を、早足で歩くリジーが続く。

 

次に向かうはメレメレ島。

スカル団のタンクトップを買うために、彼らが目指していたのはハウオリシティのブティックだった。

 

 

 

 

第四話 【おまもりこばん】

 

 

 

 

「……いらっしゃいませ」

「やあ昨日ぶりだね。また来たよ!」

 

 

ドヤ顔で来店したオボロに、店員は引きつり笑いを浮かべていた。

案の定、今回も彼の周りからさざ波のように人が消えていく。彼はこの店の負の名物と化していた。

 

早く帰れと願えども願えども店に来るオボロに、カプ・コケコの罰がくだりますようにと店員は大真面目に祈っていた。

 

残念ながら、今日もなかなか帰る気配はない。

 

 

「昨日買った銀色のチェーンの調子は最高さ! このペンダントも喜んでいるよ! それはそうと、今回はタンクトップが欲しいんだ。スカル団が着ているやつ。それも子ども用のをね」

 

 

この子のをさ、と彼はリジーを指差した。

 

幼いながらもスカル団のペンダントをぶら下げる少女に、世も末だなと店員は思う。

こんな小さな子までスカル団だなんて。と棚からタンクトップを引っ張り出しながら、店員はぶつくさ言っていた。

自分の子どもがグレて、家出をしたかのような気分になったからだ。

 

まだ九歳のリジーのために、できる限り小さいものを店員は探す。だが、スカル団の人間と一部の変わり者にしか需要がないタンクトップだ。

サイズの小さなものなどあるわけがない。ましてや子供用のは。

 

 

「一番小さいのがこれなんですけど。この子には大きすぎますね」

「ううん。新しく発注することはできないのかい?」

「規格がないので無理ですね。Sより小さいのはちょっと」

 

 

うんうんうなる彼を見て、諦めて帰ってくれよと店員は念を込めている。ついでにこの子のスカル団入りも取りやめてくれ、と願うのも忘れない。

 

師匠が頭をひねる中、タンクトップを体に当てて「これってワンピースみたいに着たらいいんじゃないのかな」とリジーは言った。

 

 

「ワンピース! 思いつきもしなかったよ」

「でしょでしょ? お師匠さま、試着してもいい?」

 

 

試着室に行って着替えた少女は、鏡の前でくるりと回る。

 

普段よりかなり大きいサイズのものを着たリジー。彼女の姿は不格好だったが、それが逆にスカル団らしい。

ぶかぶかの服を着る彼女は気だるげに見え、グズマ風に言うとスカしていた。

 

 

「ねぇお師匠さま、似合うかしら。どう思う?」

「ダサ……ええと、そうだね。スカル団っぽくていいと思うよ」

 

 

胸を張るリジーに苦笑いを浮かべるオボロ。

自己中ナルシストの彼は、いつもは思ったことを何でも言ってしまう。

そんなオボロが柄にもなく、言いたいことを曲げて苦笑いを浮かべる理由。

 

それは、弟子に美的センスがないという現実からの逃避と、そもそもリジーは弟子に向いているのかという今更すぎる疑問からだった。

 

 

タンクトップならぬワンピースの値段は案外高い。

オボロは一万円をぽんっと払うと、ワンピースをリジーのリュックに入れさせた。もちろんつけていたペンダントもだ。

 

 

「ずっと着てちゃいけないの?」

「だってダサ、えっとさ。リジーがスカル団に入ったなんて知ったら、キミのお母さんは悲しむだろ? スカル団の格好は、みんなでスカル団の仕事をする時だけ着るんだ。いいね?」

 

 

すっかりぶすけたリジーに「明日アジトに来たら、帽子と顔を隠す用のバンダナをあげるよ」と彼女の頭を撫でながらオボロは言った。

 

帽子とバンダナは屋敷に大量に余っている。加えて、男女兼用で全て同じデザインだからか、誰がどれを使っているのかわからなくなっていた。一つくらいかっぱらってもバレやしないだろう。

 

そんなオボロの魂胆も知らずに、この男にもマトモなところはあるじゃないかと店員は感動していた。

 

 

二つにまとめた男の髪は赤色で、これまた輪っかのように、二つにまとめた少女の髪は桜色だ。

もしかしたら、少女はこの男の妹なのかもしれない。いや、歳が離れすぎているから娘だろうか。

 

泣く子も黙るスカル団の幹部で変人奇人で有名な男も、実の娘にはちゃんと接する。

彼らの親子愛は本物なのだろう。それなら、少女がスカル団に入っていても不思議ではない。

 

 

先ほどまでとは打って変わってにこにこと笑みを浮かべると、また来てくださいね、と店員は二人に声をかける。

 

店員の言葉に気をよくすると、もちろんさ! ボクはここの常連だからね! とオボロは言った。

 

なんにも知らずに、オボロは機嫌よく店を出て行った。

服を買ってもらったからか、同じく機嫌よさげなリジーを連れて。

 

もし彼が店員が考えていたことを知ったら。

まだボクは若いよ! 子持ちなわけないだろ! と怒り狂って暴れただろうが、全ては知らぬが仏だった。

 

 

 

 

 

 

さっそく仕事を始めたプルメリとは違い、ブティックで買い物をしていたオボロ。

だが、彼はふらふら遊んでばかりいるというわけではない。

 

オボロは自己中だが、スカル団の仕事は案外ちゃんとする。

それにルザミーネのことが好きでないとはいえ、彼女の指示に従わないというわけでもなかった。

 

次にオボロがしたことはコスモッグについての聞き込み調査だ。もちろん、ただ話を聞くだけで終わる彼ではない。

 

 

「だから、青い珍しいポケモンなんて知らないってば。もういいだろ」

「なんだ。キミも知らないのか。

けど、キミはボク達の前に敗れ去った。ちゃんと賞金、耳を揃えてキッチリおくれよ」

「おまもりこばん持たせてるから二倍! “ネコにこばん” でさらにちょい足しなんだから!」

 

 

島巡りを始めたばかりのトレーナー達相手にダブルバトルで賞金を巻き上げていた。

師匠と弟子はよく似る。ついさっきリジーが捕まえたニャースで、一円でも多く金を取ろうと二人は必死だった。

 

パトロンがいるとはいえ、島中のチンピラを取り仕切るスカル団だ。大所帯の彼らは何かと金がかかる。

身もふたもない話、スカル団は万年金欠だった。

 

 

「ひー、ふー、みー、よー。けっこうお金かせいだわね、お師匠さま」

 

 

1番道路でバトルを終えたリジーはお札を数えていた。

さすがは銭ゲバ。ぱらぱらと諭吉をめくる彼女の手つきは見事なものだ。

 

 

「そこでニャースをゲットして良かったよ。ここら辺のトレーナーは弱いから、存分に稼げる」

「あたしニャースほしかったの。ちょうどよかった」

「ああ。リジーはお金が大好きだからね」

 

 

額の小判がキラリと光るニャースは金運の象徴だ。“ネコにこばん” も使えるし、小金稼ぎにはちょうどいい。

それにアローラのニャースは、昔は王族が可愛がっていたとされている。縁起面でもばっちりだ。

 

確かにリジーにピッタリだとオボロが頷くと、「それだけじゃないわ。ケチなだけとか思わないでよお師匠さま」とリジーはほおを膨らませた。

 

 

「アローラのペルシアンってとってもキュートじゃない? オドリドリと一緒に可愛がりたかったの!」

「……へぇ。アローラ人の感性は、ボクにはよくわからないよ」

 

 

どう考えてもあの丸顔はキュートではない。

どちらかと言わなくても、アローラ以外のペルシアンの方がオボロは好きだった。

シュッとしていてカッコよく。凛としていて美しい。

アローラのペルシアンには、それらの要素が全て失われている。

 

 

「まあ、ペルシアンの特性にはファーコートがあるからね。ニャースが進化したら、バトルでもたくさん活躍するさ」

「楽しみだなあ進化するの」

 

 

二人は1番道路を歩きながら、ハウオリシティのビーチサイドエリアへ向かっていた。1番道路にいる見かけた限りのトレーナーと戦って、稼げるお金は稼ぎきったからだ。

 

もう夕方になろうとしているし、いい加減にリジーを家に帰さなければならない。なんだかんだ言って彼女はまだ九才だ。

 

ちなみにコスモッグの情報は未だゼロ。ハウオリシティ周辺にはいないのかもしれないと、オボロは考えていた。

 

そろそろハウオリシティに着くかどうかという頃だ。

道のはずれに、島巡りの証をバッグに付けた少女が一人。ぽつんと寂しく立っていた。

リジーより少し年上の女の子だ。草むらで笑いながら泣く彼女の姿は、かなり怖い。

 

 

「ねぇ、そこの子。キミだよキミ。どうしてそんなところで突っ立って泣いているんだい?」

「私、道に迷ったんです。ハウオリシティに行こうと思ってたんですけど」

 

 

きっと安心したのだろう。オボロを見た少女は大粒の涙をぼろぼろとこぼし始めた。その間も、彼女は笑みを絶やさない。

 

ハウオリシティはすぐそこだ。

なぜこんなところで迷うのか、オボロは不思議でならなかった。

冷やかしかとも思ったがすぐにその可能性は打ち消される。

人に会えて良かったよお、と泣きながら言う少女。その姿は切羽詰まり方が半端ではなかったからだ。

 

 

「じゃあボク達について来るといいよ。今からハウオリシティに向かうところだから」

「ううう。人の思いやりが温かいです」

 

 

鼻をかむ少女の顔はすっかりぐしゃぐしゃだ。それでも彼女は口角を上げるのをやめなかった。

 

ここまで徹底して笑顔を崩さないと、いっそ清々しい。笑顔は元気の源だと言うが、人を元気にするどころかホラー映画にでも出てきそうだ。

 

そんな彼女に「なに、気にすることはないよ。情けは人の為ならずって言うじゃないか」とオボロは優しく声をかける。

続けて少女の手を取りながら、「旅はみちづれ世はなさけともね!」とリジーも励ました。

 

 

「その代わりと言ってはなんだけど、お願いがあるんだ」とオボロは言った。

「ハウオリシティに着いたら、ボク達とポケモンバトルに付き合ってくれないかい?」

 

 

笑うのをやめない不気味な少女に、彼ら二人が優しくした理由は一つ。

 

新たにネギを背負ってきたカモ。

 

二人が少女を見逃すはずがない。オボロとリジーは、いかに少女から金をふんだくるかしか考えていなかった。

 

 

少女は涙をごしごし拭くと、にこにこ笑って話し始める。

 

あらましはこうだ。

トレーナーズスクールを出た少女は、街へ行く前にポケモンをゲットしようと草むらをうろついていた。

だが、ポケモンを追ってウロウロしているうちに、見たこともない場所に来てしまったらしい。なんとも単純明快だ。

 

 

「私、ついこの間カントーから来たから道がよく分からなくて」と少女は言った。

「恥ずかしながら、迷っちゃいました」

 

 

照れながら笑う少女に、「キミもすぐになれるよ」とオボロは頭を撫でる。それから「アローラは狭いからね。ボクもホウエンから来たんだよ」と言うと、彼はど派手にウインクをきめた。

 

三人はぴょんぴょん段差を飛び越えながら、坂を下っていく。しばらくすると、前に見えるのは曲がり角。

右に曲がるとトレーナーズスクール、その先は目的のハウオリシティだ。

 

 

「さあ着いたよ。じゃあ早速バトルをしようか! ボクとリジーが相手のダブルバトルでいいかい?」

「それなんですけど、元気なポケモンがあと一匹しかいなくて」と少女は言った。

「使用ポケモンは一匹のシングルバトルじゃダメですか?」

 

 

オボロはあごに手を当てて、考えてますよ! というポーズを取った。その仕草はどこかキザったらしい。

実のところ彼は一瞬で思考を終えていた。だが、考えているフリをなかなかやめようとはしない。

 

オーバーなリアクションを自然にするのはキャラを濃くするために必要だと、彼は信じていたからだ。

実際はアホっぽさが際立つだけだったが。

 

 

「ううん、しょうがない。今回はリジーが相手をするんだ」

「お師匠さまじゃなくて?」

「この強くて美しいボクがやったら結果は分かりきってるだろ?」とオボロは言った。

「それに、ボクはリジーの実力を知りたいのさ。これも経験のうちだよ。期待してるからね」

 

 

嘘である。

オボロの目当てはただ一つ。お金だ。

彼がリジーに託した理由。それはオドリドリが持つおまもりこばんの賞金倍額効果を狙ってのことだった。

それに彼女のオドリドリは比較的強い。島巡りの序盤も序盤のトレーナーが、叶うわけがないのは明らかだ。

 

そんな師匠の思いも知らず、「お師匠さまがそう思ってたなんて! あたし、がんばる!」とリジーはやる気に満ちている。

 

じゃあいきますよ。と少女が言うと、二つのモンスターボールが宙に浮いた。

 

 

相手が出したのはニャビー。ほのおタイプのパートナーポケモンだ。

そして、もう一匹場に出たリジーのポケモン。

 

ふかふかと柔らかい体。気だるげな瞳。青い肌。そして額に輝くこばんがキラリ。

 

 

 

 

ニャースだった。

 

 

 

 

 

いや、空気読めよ。

オボロは素でつっこんだ。師匠の心弟子知らず(親の心子知らず)とはまさにこのことだ。

 

おまもりこばんを持っていないニャースなんて、シングルでは何の役にも立ちやしない。“ネコにこばん” だけで拾える金は、たかが知れているからだ。

 

それになぜゲットしたてのポケモンを使って、相手と同じ条件にしたのか。

オボロには全く理解できなかった。そこはオドリドリを使って、完膚なきまでにレベル差で殴るところだろう。

 

長年スカル団にいたからか。

グズマ譲りのスカした考え方を、すっかりオボロは身につけていた。

 

 

オボロがイラついている間にバトルは動き出す。

 

 

「ニャビー、“ひのこ”!」

 

 

少女がニャビーに指示すると、彼はほおを膨らませた。体内の炎を集めて作り出した、紅く輝く球がちらちらと浮かび上がる。

 

それを見てにやりとリジーは笑うと「させないわ」と呟いた。

ぬっとニャビーに近寄ると、ニャースがしたのは “ねこだまし” 。

 

ぱん!

弾ける音がした瞬間ニャビーはひるんでしまったようだ。光球が突然揺らいだかと思うと、空一面に溶けていく。

 

 

「イイわよニャース。そのまま “みだれひっかき” からの “かみつく” きめちゃいなさい!」

 

 

たじろぐニャビーへ流れるように、ニャースは爪を振りかざす。

ひとかき、ふたかき、三、四の五かき。

そのまま “かみつく” をしようとしたが、ニャビーも元の調子を取り戻したようだ。

 

大きく口を開け突進してくるニャースを、ひらり。

すんでのところで上手くかわすと、ニャビーは後方へ逃げた。

 

「まだまだなんだから。もう一回 “みだれひっかき” よ!」

 

 

ニャースは跳び上がったかと思うとニャビーの方へ一目散。

尖った爪を振りかざし、ニャビーの急所を狙いかざす。

 

だが、相手の少女は落ち着き払っていた。

次に攻撃が決まったら負けてしまう。そんな時でも彼女は微笑むのをやめなかった。

 

ニャースの爪がニャビーの体に食い込むかというちょうどその時だ。

 

 

「今だよ。かわして “ほのおのキバ” !」

 

 

少女が叫ぶと、待ってましたとばかりにニャビーは体をひねる。そのままニャースのふところに潜り込むと、無防備な腹にかぶりついた!

 

じゅうう、と肉が焦げる音。悲鳴をあげるニャース。

ニャースに歯を食い込ませたまま再びニャビーは地を蹴った。

 

── “たいあたり” だ。

 

 

オボロは自分の弟子の負けを確信した。

 

ほのおのキバは急所に当たったようだ。苦しみにあえぐニャースの体力は、残り少ない。

その上やけどを負ってしまったら、もうどうしようもないだろう。

 

ニャース、頑張って! とポケモンに声をかける弟子を尻目に、オボロはカバンから財布を出した。つつがなく賞金を払うためだ。

 

この場にグズマがいたら、弟子を信じてやれよと一発殴っているだろう。だがオボロはこう見えて現実主義者だった。

 

 

 

 

 

 

「アナタすごいわね。ニャースをずっと引きつけてからこうげきだなんて、フツー思いついてもやらないわ」

「そうなの?」

「ええ。だって、しっぱいすることの方が多いもの」

 

 

勝負に負けたリジーは相手の少女を褒め称えていた。

少女は気恥ずかしいのか、照れたように笑っている。ニャビーのおかげだよ、と言って、戦い終えたポケモンを少女は撫でた。

 

 

「二人ともお疲れ様。キミすごいね。島巡りを始めたばかりとは思えないよ。リジーも悪くなかったし、捕まえたばかりのニャースで、よくやったと思うよ」

 

 

そう、リジーは別に下手な戦いをしたというわけではない。むしろ最善を尽くしたというべきだろう。

 

ただそれ以上に相手が見事だったのだ。

自分達の実力を正確に理解し、ポケモンを信じた相手の少女の胆力が。

 

 

「そういえばだけど。迷子だった時も、バトル中の時も、ずっと笑ってたのはどうしてなの?」

「おまじないみたいな感じかな」

「笑顔でいるとね、安心するんだ。なんでも大丈夫って気になってくるの」

「ふぅん。今度あたしもマネしてみようかしら」

 

 

ガールズトークに花を咲かす二人はすっかり仲良しだ。

スカル団とは思えないな、と思いながら、オボロは少女に賞金を手渡す。少女が礼を言うと、「当然のことだよ」とオボロはウインクをして言った。

 

 

「そうそう。キミは青い珍しいポケモンを見なかったかい? カントーにもアローラにもいない、見たこともないようなポケモンだ」

「宙に浮いてるエスパータイプのポケモンなの。さがしてるんだけど、知らないかしら」

 

 

少女はにこにこ笑いながら、けれど、どこか申し訳なさそうに「ごめんなさい。知らないです」と二人に言った。

 

いや、申し訳なさそうにではない。ほんの、ほんの少しだけ。少女の笑みが引きつったのだ。

 

 

「それは残念だ。ドロボウに盗まれたって、知り合いが探していてね」

「キラキラ光って、とってもキュートなポケモンなのよ」

「ううう、役に立てなくてごめんなさい」と少女は言った。

「早く見つかるといいですね! 青くて光ってて綿菓子みたいな(・・・・・・・)ポケモンなんて、私も一回見てみたいなあ」

 

 

ふいにオボロはカバンの中を漁った。取り出したのは紙と羽根ペンだ。さらさらと何かを書いたかと思うと、オボロは少女に差し出した。

それは、ルザミーネ(パトロン)グラジオ(協力者)も知らないもの。

正真正銘のスカル団員しか知らない、彼の連絡先。

 

 

「これ、ボクのメアドなんだ。もし何か分かったらさ。教える気があったらでいいから、ボクに連絡してくれよ」

 

 

半ば強引に紙を握らせながら「先にアローラに訪れた先輩として、島巡りのアドバイスができるかもしれないしね」と言った後、さらに彼はこうも続けた。

 

 

「ボクの名前はオボロ。こっちは弟子のリジーだ。ボクらの出会いを記念して、キミの名前を教えてくれるかい?」

 

 

 

 

「私、ミヅキって言います。こちらこそ、よろしくお願いしますね!」

 

 

 

 

 

 

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