【スカルな野郎はナルシスト!】   作:めいでん

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〜前回のあらすじ〜
▼ オボロは トレーナーから おかねを まきあげた!
▼ しゅじんこうが あらわれた !



第五話 【メガやす跡地】

じりじりと肌を照りつける太陽は、アローラでは見ない日がない。

日差しはさんさんと降り注ぎ、大きな池はこんこんと水をたたえている。その恩恵を木や花はたっぷり受けているからか、どれも生の喜びにあふれていた。

 

そんな中、オボロとリジーがしていたのはポケモンバトルだ。

 

初めて二人が出会った日には、たまになら指導をすると言っていたオボロ。だが彼は完璧主義者のナルシストだ。

 

いざ弟子を育ててみると意外なことに彼はきちんと指導した。

どれくらい意外かというと、意外すぎてスカル団全員がざわめき、天変地異が起こるのではと明日の天気を心配したほどだ。

 

てるてる坊主をしたっぱ達は屋敷中に吊るし、大好きなエネココアをグズマがこぼし、風邪を引いたのかとプルメリが心配する。そんな有様だった。

 

弟子を取って数日経った今では、二人の修行風景はすっかりスカル団に馴染んだようだったが。

 

 

 

リジーの手持ちにニャースを加え、装い新たにするは二対二のシングルバトル。そこで繰り広げられるのは互角の勝負だ。

 

オボロが手加減しているとはいえ、リジーはめきめきと強くなっている。それにもうポケモンをないがしろにすることも彼女はない。

ニャースも十分懐いているし、そろそろペルシアンに進化する頃かもしれないな、と彼は思った。

 

 

──ホントにイイよね、若さってのはさ。スカル団のみんなや弟子達を見る度に、ボクは思い知らされるよ。

 

 

そうはまったく見えないがオボロはスカル団最年長。十代が多いしたっぱ達よりはもちろんのこと、グズマやプルメリよりも二つか三つは上だった。

 

若さゆえの成長の早さを羨ましく思いながら、彼はアズマオウに指示を出す。

磨き上げられた自慢のツノで繰り出したのは “メガホーン” 。白く回転するツノを喉元に突きつけ、彼女はオドリドリにトドメを刺した。

 

「お疲れさまオドリドリ」とリジー。ポケモンをボールに戻す彼女に、「ちょっと休憩にでもしようか」とオボロは声をかけた。

 

手に汗握る白熱バトルを終え、リジーが無性に恋しくなったもの。

 

ひんやりと冷たく、甘くてのどに消えていく夏場の必需品。アイスクリームだ。

 

マリエシティにあるマリエ庭園。そこの茶屋で二人はひと時の休憩と洒落込むことにした。

 

 

リジーが頼んだのはアイスクリームとサイコソーダ。オボロはだんごとほうじ茶だ。

 

ジョウトの人間が開いたこの店は自然と故郷が思い出される。アローラでは他に飲めないほうじ茶が、オボロは時たま無性に恋しくなるのだ。

それはホウエンの人間としてのさがなのだろう。

 

二人は甘味が出るのを待つ間自由に時を過ごす。

リジーはアローラのマップを広げ、オボロはほうじ茶をすすりながら通信機をいじっていた。

 

 

「ねぇお師匠さま。あたし、あそこに行きたいわ。ほらメガやすが前にあったとこ」

「えっ。あんな廃墟に何の用なんだい? あそこは美しくもないし、廃墟はポータウンだけで十分だよ」

 

 

心底嫌そうな顔をするオボロに、「だってポータウンにミミッキュはいないもの」とリジーは口を尖らせる。

 

 

「前に小耳にはさんだの。あそこにミミッキュが住んでるって」

 

 

三匹目のポケモンはミミッキュがいいらしい。だだをこねる少女に、「いずれ行く必要があったし、しょうがない」とオボロ。彼はため息をつきながら、なおも通信機をいじるのをやめない。

 

 

「お師匠さまは、さっきからなにをしているの? メール?」

 

 

その後に小さく、相手はあねさんかしら。と彼女は呟く。あねさんというのは言わずもがな、スカル団の幹部プルメリのことだ。

 

 

「メールを返してるのさ。ほら、この間会った、ずっと笑ってた女の子だよ」

「ミヅキ?」

「そうそう。彼女、メレメレ島の大試練を終えたらしいよ」

 

 

「それってすごいの?」と言うリジーに、「かなり良いペースだね」とオボロは言った。島巡りに興味がない彼女はふぅん、と呟くと、「なんでお師匠さまはミヅキとメールしてるの?」とオボロに言った。

 

 

「あの時、他にたたかった人にはメアド教えなかったのに。ミヅキにだけ教えるなんて」

「ああそれね。彼女がコスモッグについて知ってるからだよ」

 

 

そう言うと、オボロはだんごを一口食べた。ようやく出されたお菓子は甘く優しい味がする。舌鼓を打った後、不思議そうにしているリジーに彼は答えを教えることにした。

 

 

「コスモッグのことを尋ねた時、彼女は知らないって言っただろ?」

「うん、そうね。そうだったわ」

「けれど、彼女は綿菓子みたいなポケモンだと言ったね。ボク達は形まで説明してないのに」

「あ! たしかに!」

 

 

そういえば青いとか小さいとか、浮いてるとか光ってるとか。あたし達そんなことしか言わなかったわ! とリジーは目を丸くしている。

 

 

「彼女はコスモッグを見たことがある。それは間違いない」

 

 

ちなみに今も彼女は知らないって言ってるけどね、とオボロは付け足した。

 

 

「けどお師匠さま。なんでミヅキはウソなんかついたのかしら。コスモッグを見たからって、ウソをつく必要なんかないわ」

「普通はそうだ。けど、彼女がドロボウと友達だったらどうだい。リジーだったら言う?」

「……ぜったいに言わないわ」

「庇うだろ? 彼女はドロボウと繋がっているのさ」

 

 

そう言うと、オボロはだんごをさらにかじった。それから、「ミヅキのことはスカル団の誰にも言っちゃいけないよ。じゃなきゃ、メガやすには連れて行かないからね」と彼は言う。

 

 

「なんで? コスモッグ、早くつかまえた方が代表さんもよろこぶわ」

「急いては事を仕損じるって言うだろ? 勘付かれて逃げられたら元も子もないよ。

泳がせておくのが大事なのさ。その間にドロボウの友達と友好を深めて、ね」

 

 

ほら返信が来たよ、と彼はメールをリジーに見せた。

 

『アーカラ島に着きました! 』と書かれたメールには、写真が一枚添付されている。

友人達と撮ったのだろう。ピースをしている三人組は、どの子もこの先の冒険を楽しみにしているようだ。

 

 

「右の子がリーリエで、左の子がハウって言うんだってさ」

「もしかしてこの子って」

「例のドロボウだね。顔が割れてると思ってなかったんだろうけど、ミヅキの詰めが甘くてよかったよ」

 

 

オボロは再びメールを打ち始めた。

 

 

『一つ目の島お疲れ様!☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆

アーカラ島のキャプテンは三人いて、それぞれみず・ほのお・くさタイプのエキスパートだから、ミヅキもハウくんも気をつけてね(´・∀・`)笑』

 

 

と顔文字を除けば当たり障りのないアドバイスを送る。

 

オボロは通信機を閉じると再びだんごをかじり始めた。食べ終えた後に向かうのは、かつてメガやすがあった場所。

 

 

そこでオボロは掴まなくてはならない手がかりがあった。

 

それはコスモッグとは別の、彼自身のためのことだ。

 

 

 

 

第五話【メガやす跡地】

 

 

 

 

二人が訪れたのは14番道路の奥の奥。かつて、ポータウンと同じようにカプ・ブルルの罰を受けた場所。栄えていた跡の残るスーパーの残骸。

 

その入り口の前にあるバリケードを、リジーはげしげしと蹴っていた。

 

 

「お師匠さまぁ。ここ、島めぐりのトレーナーしか入れないのかなあ。変なバリケードがあって、通れないし」

「なにごとにも活路はある。スカしたボク達は正義の味方みたいに、真っ正面から行くのが良いってわけじゃないよ」

 

 

そうオボロは言いながら、横にある坂道を登っていく。くるりと振り向いてから弟子を見下ろすと、ばちんとウインクをして彼は言った。

 

 

「つまりキミには、観察眼がないってことさ」

 

 

坂道の上にあるのは金網だ。その奥には、スーパーメガやすだった建物がひっそりと佇んでいる。

オボロはゴージャスボールを取り出すと、にやりと笑って開閉スイッチを押した。

 

 

「さあおいで。マイ・スウィーティー、トドゼルガ!」

 

 

現れたのはトドゼルガ。アローラ地方には存在しない、こおりタイプとみずタイプのポケモンだ。

 

「あたしこのポケモン見たことないわ」とぼうっと見つめてリジーは言った。それに気を良くしたオボロは「ふふふ、どうだい。彼女はクールビューティだろう?」とどこか得意げに話している。

 

 

「さあトドゼルガ、“はかいこうせん” でこの美しくない金網をブッ壊しておくれよ!」

 

 

オボロが命令すると、トドゼルガの二本のキバの狭間から白い白い光が集められていく。いつの間にか大きな球を形作っていたかと思うと、いきなりきゅっと縮んで、それは突然解き放たれた。

 

轟音が響き渡り、土煙が巻き起こる。

反射的に耳を塞ぎ、目を閉じてから、リジーはあたりが静かになるのを待った。

もう大丈夫だよ。とオボロに声をかけられてから、おそるおそる目を開く。するとそこにはリジーが想像していなかった光景が広がっていた。

 

まず、目の前にあった金網は跡形もなく消し飛んでいる。

それだけではない。向こう側にあった遠く離れた金網まで貫通したようで、毛糸のような金網だったものはぶすぶすとくすぶっていた。

さらにいうと建物の入り口にも焦げ付いた後がバッチリ残されている。

 

 

「お師匠さま、やりすぎだよお」

「まあ結果オーライさ。邪魔なものはなくなったわけだし、建物の中に入ろうか!」

 

 

金網だったものを飛び越えると、リジーは意気揚々とステップを踏んだ。その後ろをオボロはゆったりと歩いていく。

 

ところどころ風化し、苔むしている建物は見るも無残だ。

メガやす跡地。それはギイッと音を立てて彼らを暗闇に迎い入れた。

 

 

「ううう。噂に違わずここは嫌なところだね。真っ暗で、じめじめしててさ。オマケにゴーストタイプの巣窟だ」

「お師匠さまは暗いところがにがてなの?」

「苦手なんてもんじゃないよ! 大っ嫌いさ、こんなとこ!」

 

 

ついでに言うなら埃っぽいし。とオボロはぶつくさ言いながら、商品棚の中を漁り始めた。

 

乱雑に積まれているスナック菓子や飲み物は、何年も前に賞味期限切れのものばかりだ。

しかも、どれも袋が破れていたりべこべこに潰れていたりしている。カプの罰を受けた名残だろうか。

 

棚を調べ終わった彼は、今度はポロックケースからポロックを取りだした。それを棚に並べると、少し離れて様子を見る。

 

 

「お師匠さま何やってるのよ」

「ここは廃墟だけど、たまに島巡りの試練の間として使われてるだろ?」

「そうみたいね。バリケードがあったくらいだもの」

「試練の間には特別なポケモン、主ポケモンがいるんだ。ボクはそいつを呼び出したいのさ」

 

 

オボロは急いで物陰に隠れた。

それから彼はカバンを漁るとボールを手に取る。いつバトルになっても構わないようにだ。

しゃがみ込むオボロに、「ゲットするの?」とリジーは聞いたが、「いいや。バトルをした後はどうでも」とそっけなく彼は答えた。

 

 

「知りたいことを確認できたらそれでいい。ボクは主ポケモン自体には興味がないからね」

「コスモッグにも関係あるの?」

「ううんと、そうだね。一応あるよ」

 

 

オボロは「主ポケモンはミミッキュらしいから、バトルを終えたら譲ってあげるよ」とリジーに言うと、彼女の瞳はきらきら光る宝石のよう。

 

 

「特別なミミッキュなんてがぜんやる気が出たわ! あたしも頑張る!」

「ポケモンがビックリするから、騒がないでおくれよ頼むからさ!」

 

 

その時、ぼんやりと部屋を照らしていた電球がふっと消えた。

黒い影が目の前をよぎったかと思うと、音を立てて棚は激しく揺れる。

 

ぐあん。ぐあん。ぐわあん。

 

気がつけばオボロが置いたポロックはいくつか消えていた。耳をすませば、聞こえるのはぼりぼりと何かをかじる音。

オボロはゆっくり、本当にゆっくりと目を開ける。彼が見たのは、

 

薄汚れた黄色い麻袋に、くれよんで描かれた不気味な顔。

暗闇の中で爛々と光る妖しい目。

大きな体躯。

そして、袋から伸びているのは禍々しいほどに漆黒の爪。

 

 

「ミミッキュだ! カッワイイー!」

「あれのどこが可愛いんだい!? さてはキミ、目ん玉腐ってるんじゃないだろうね!」

 

 

いつもの決めゼリフを叫ぶのも忘れて、オボロはゴージャスボールを放り投げる。

トドゼルガが現れると、オボロは「とにかく “こおりのキバ” !」と無我夢中で指示を出した。

 

あついしぼうで覆われた、大きな大きなトドゼルガ。その外見からは予想もできないほど彼女は俊敏だ。

地を蹴った彼女はミミッキュの首にかぶりつくと、相手のばけのかわ(・・・・・)を剥ごうとした。

 

この場合のばけのかわはミミッキュの特性のことではない。文字通りの意味である。

ミミッキュと戦ったことのないトドゼルガは、相手が被っている麻袋を剥ごうとしたのだ。

 

 

「やめろトドゼルガ! 戻れ!」

 

 

ミミッキュの正体が晒される直前。オボロはトドゼルガを強制的にボールへ戻す。

中身を見ることなく済んだからか、オボロはほっとひと息ついた。

 

その一瞬の隙にミミッキュはゴーストとゲンガーを呼び寄せると、どんよりと妖しい雰囲気を醸し始める。

 

ぴりぴりと張り詰める空気。禍々しいほどに不気味に光り始めるミミッキュ。

 

 

──やはり似ている。主ポケモンは、あのポケモン達に。

 

 

オボロは口角を上げると、別のボールを取り出した。飛び出したのはマリルリだ。

 

先ほどまでの焦りはどこへやら。オボロは不敵な笑みを浮かべると、ミミッキュに向かって人差し指を突き刺した!

 

 

「マリルリ、“ふぶき” で全員なぎ倒すのさ!」

 

店の中に吹き荒れる吹雪は三匹を凍てつかせていった。

 

そうはさせるかとミミッキュは、真っ黒い爪を一気に伸ばしてマリルリにぐいぐい迫っていく。

すっかり凍りついてしまった、仲間ごとなぎ倒して。

 

 

オボロは「やれやれ “シャドークロー” とは無粋な子だね」と苦笑いを浮かべている。

けれども彼は、これ以上マリルリに指示を出す気はカケラもなかった。

 

もう一匹味方側の場に出ていたのはオドリドリ。

彼の弟子が、戦いたくてうずうずしていたことに気がついていたからだ。

 

 

「オドリドリ、あたし達も “ぼうふう” でお師匠さまを手伝うのよ!」

 

 

瞬間、床に落ちていた物という物が巻き上がる。

オドリドリが羽ばたくと、ミミッキュに襲いかかるは風の渦。麻布をはためかせ浮かび上がると、ぐるぐる猛回転をし始めた。

 

 

「まったく。仲間までこうげきするなんて、ぜったいぜったいダメなんだから!」

 

 

ゲットしたらおしおきしてあげる! と息巻くと、リジーはこおりなおしを取り出した。

彼女はそれを慣れた手つきでゲンガーやゴーストにかけていく。

 

みるみるうちに溶けていく氷。つかの間の眠りから目覚めた、重いまぶたをゆっくりと開く二匹をリジーは撫でた。

 

立て続けに強力な攻撃を受けたミミッキュの体力はほとんどない。ふらふらと歩く姿はもう虫の息だ。

 

その様子を見てリジーはほくそ笑む。待ちに待った時が訪れたのだ。

 

空のこおりなおしをリュックに入れると、手に取ったのはモンスターボール。

じっくり狙いを定めると、勢いよく右手を振りかぶった。

 

 

リジーは モンスターボールを なげた!

 

 

トレーナーに はねかえされた!

 

 

ひとの ポケモン とったら どろぼう!

 

 

「だめなの。アセロラのミミッキュをゲットしようとしたら。そんな不届き者は誰かと思ったら、スカル団のヤツらだったんだね!」

「デケェ音がしたから何かと思って来たんだけどよ。まさかオボロ。お前さんだったとは、おじさんちょいと予想外だったよ」

 

 

かつかつと音を響かせながら、こちらへ歩いてくる二人組。にこにこ笑う紫色の髪をした少女と、仏頂面の中年はスカル団のオボロにも因縁深い。

同じ街にも住んでいるのもあって、後者の方は毎日顔を合わせているほどだ。

 

ぴりぴりした空気を放つ彼ら二人に驚いたのか、リジーはオボロの背中に隠れた。ちらりちらりとのぞきながら、彼女は様子をうかがっている。

そんな彼女を安心させようと、軽く頭をぽんぽんと彼は叩いた。

 

 

「やあ! ウラウラのキャプテンと島キング殿じゃないか! キミのポケモンだって知らなかったんだ。悪いね」

「どうだか! スカル団の連中の言うことなんか、アセロラ信じてやらないの!」

 

 

ぷんぷんと怒るアセロラに、オボロは面倒そうに頭をかいた。ボク達もう何もしないし、ポロック分けてあげるからそこをどいてくれないかなあ、と彼はブツブツ呟いている。

そんなオボロにクチナシは「どういうつもりだ」と睨みつけた。

 

 

「お前さんは最近、あちこちの試練の間を荒らし回ってるらしいじゃないか。それも、グズマの奴の指示じゃない。お前さんの独断で」

「よく調べたね。さすがは島キング殿だ!」

 

 

警察っていうのはダテじゃないね、と拍手をするオボロ。わざとらしく驚きながら手を叩く彼の考えは、読めない。

まんまるく目を開きながら笑うオボロを見て、クチナシは眉間のシワを深めた。

 

 

「お前さんの目的は一体なんだ? 何をしようとしているんだ?」

「スカル団としては知らないけど、ボク個人としてはね。キミ達に危害を加える気はないよ」

 

 

スカル団にも、島巡りに関わる者達にも、エーテル財団にも、アローラにもね。とオボロは微笑んだ。

それから彼は得意のウインクを決めると、クチナシに向かってこう言った。

 

 

「ボクは故郷に帰りたいんだ。故郷に帰るためだけに、ボクは動いている」

「ホウエンだろ? 飛行機に乗ったらすぐってもんだ」

「それがそうもいかなくてさ」

 

 

オボロはやれやれとため息をついた。彼はリジーの手を握り、もう片方の手で指をぱちんと鳴らす。

するとマリルリがぷうっとほおを膨らませて、吹き出したのは泡、泡、泡の数々だ。

 

泡の大群が視界を埋め尽くすと、そそくさとオボロとリジーは走り去る。

 

なにせ相手は島キング。それにキャプテンのオマケ付きだ。

自分達のポケモンは傷を負っていないとはいえ、彼ら二人を相手にするのは厄介なことこの上ない。

 

 

三十六計逃げるに如かず。

 

逃げるのは恥でもないし役に立つ。むしろ見栄を張って逃げない方が恥だし、間違いなく美しくない。

 

そして今回も正しい判断を下したボクはやっぱり美しい。

 

 

メガやす跡地を後にしながらオボロは悦に浸る。彼はリジーと走る最中も、前髪をかきあげドヤ顔を浮かべていた。

 

 

 

 

カプの村まで逃げて来たオボロとリジーは、カフェスペースでお茶をしていた。

メガやす探索の疲れを癒しながら、リジーはハートスイーツを食べている。オボロはというとミヅキへのメールを打っていた。

 

 

『今日も一日お疲れ様ヨシヨシヽ(´ー`)

オハナタウンで休むのかい? 良いところだよねボクは好きだよ( ̄ー ̄)笑

明日の試練、みずポケ対策忘れずに頑張ってね!(*´∀`*)

p.s. アーカラ島の試練が全部終わったら、大試練の前にボク達ともう一回バトルしないかい?』

 

 

メールを打ち終わったオボロはカフェの飲み物を堪能することにした。二人が飲むのは、グランブルマウンテンにエネココアだ。

 

熱々のエネココアを美味しそうに飲むリジー。「キミは本当グズマくんに似てるよね」とオボロが呟くと、リジーはオボロの方へ向いてぱちぱちと瞬きをした。

 

 

「お師匠さまには?」

「ん?」

「あたし、お師匠さまには似てるかしら」

「そりゃあ師弟だからね。少しは似てるんじゃないかい?」

 

 

それを聞いたリジーは嬉しそうに笑う。オボロはグランブルマウンテンを一口すすると、彼女の後ろの方を指差した。

 

 

「ところで、リジーの後ろにさっきのゴーストがいるみたいだけど」

 

 

リジーが振り向くと、そこには傷だらけのゴーストがいた。

ところどころ凍傷の跡が残るポケモンは、さっきこおりなおしを使った個体に違いない。

 

ゴーストはリジーにすり寄ると、彼女のカバンを漁り始めた。

彼が取り出したのはモンスターボール。それをリジーに握らすと、こちらをじっと見つめている。

 

 

「アナタ、あたしのポケモンになりたいの?」

 

 

こくりと頷くゴーストは、彼女がトレーナーになる瞬間を今か今かと待ちわびているようだ。「そこまで言われちゃ仕方がないわね」とリジーは言うと、モンスターボールをゴーストの体に当てた。

 

ゴーストの体はボールに吸い込まれ、ボールはカチッと音を立てる。手の中で光るモンスターボールは嬉しそうに笑った気がした。

 

 

「ポケモンの方から選ばれるなんて、さすがボクの弟子! 心からの祝福を贈りたいね! そんなスペシャルなリジーにはこれをあげるよ!」

 

 

オボロがポケットから出したのは何の変哲もなさそうな石ころだ。役に立つかもよ、と彼は言ってそっと机の上に置いた。まるくて小さな石はつやつやと光っている。

 

 

「かわらずのいしさ。ポケモンに持たせておくと、進化しなくなるんだよ」

「お師匠さま、いらないから押しつけたいだけでしょ」

 

 

白い目で見るリジーに気がつかないふりをして、彼はグランブルマウンテンを煽った。知らんぷりをする師匠に、この人は本当に自由人だと彼女は一周回って感心する。

 

リジーは机の上に置かれた石をそっとオボロの方へやった。それから「けどあたしはいらないわ。お師匠さまが持ってるのね」と言うと、再びエネココアを飲み始める。

 

 

「場所を取るから嫌なんだけどなあ。売ってもお金にならないし、捨てるのも少しもったいないし」

 

 

ネチネチ文句を言いながら、かわらずのいしをポケットにオボロは戻す。そんな師匠に「ごめんねお師匠さま」とリジー。だが、「けどね」と彼女はさらに続けた。

 

 

「あたしはポケモンの進化を止めたくないの」

「なんでだい? 進化前の方が美しいポケモンだっているじゃないか」

 

 

「ずっと昔のすがたにとらわれているのは、よくないと思うの。やっぱり人間もポケモンも、今を生きるのが大切なのよ」

 

 

 

 

 

 

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