▼ オボロは ポロックを つくった !
▼ グラジオに あいにいくことに なった !
スカル団の用心棒、グラジオの日課は朝のトレーニングだ。
だが、強くならなければならないという強迫観念にも似たなにかに、グラジオは取り憑かれていた。
相棒のタイプ : ヌルと共に草むらに赴き、いつものように野生ポケモンやトレーナーを相手に蹂躙を始める。
それは彼の妹とは真逆の姿だったが、追い詰められた彼らの表情は写し鏡のようだ。
血は争えない。母親から離れた今も、彼は彼女の呪縛から逃れられてはいなかった。
グラジオが出歩いていることも知らず、オボロとリジーがやって来たのは8番道路。
いつものようにアズマオウに乗って、朝日がきらきら輝く海をゆらゆら揺られて二人は渡って来た。
砂浜に降りるとリジーはぺたぺたと走り出す。白い白いまっさらな砂に足跡が付いていく様子は小気味よい。
オボロはアズマオウをボールに戻すと、リジーに手を振った。
「あまりそっちに行かない方がいいよ。ほら、踏みそうだ」
師匠の声を聞いてリジーがくるりと振り向いた時だ。
足もとに何かがぶつかったかと思うと、それは砂埃を上げて猛スピードで走り去っていく。転びそうになったリジーが怒って追いかけるも、あまりの速さに追いつけない。
小さな小さなポケモンは、すぐさま奥のほら穴に潜ると、それっきり姿を現さなかった。
穴の中をのぞき込んでも影も形も見当たらない。リジーが手を伸ばしても空をつかむばかりだった。
「お師匠さま。あのポケモン一体なんだったのかしら」
「ああ、あれはコソクムシだよ。グズマくんも持ってる、グソクムシャの進化前さ。臆病なポケモンだからね。人間が近くにいるって分かったら、すぐに逃げちゃうんだよ」
師匠の話を聞いて、彼女はグソクムシャのことを思い出す。
大きくてがっちりとしたグソクムシャ。鎧のように頑丈な甲殻は並大抵の攻撃を通さないし、彼の鋭い眼光は全てを射抜く。
きっと小さなコソクムシは様々なことを乗り越えて、なんにも恐れない、むしろ恐れさせてなんぼのグソクムシャへと進化していくのだろう。
それはコイキングからギャラドスへと進化するように。
ヒンバスからミロカロスへと進化するように。
「成長したら、あんなに立派な頼れるポケモンに進化するなんて。すごいわ! 今はこんなに弱そうなポケモンなのに」
大層驚いてリジーが言うと、オボロは面白そうに笑っている。彼はひとしきり笑った後、不思議そうにする彼女に、「そうかな? 別に進化してもしなくても、臆病なままのポケモンだよ」と言った。
「見た目がいかつくなっただけさ。現に、ピンチになったらすぐに逃げるし」
オボロはほら穴の方を見る。
コソクムシは相当奥深くまで逃げたようだ。小さな穴からは音も聞こえず、ポケモンの姿など見えもしない。
「逆に臆病だからさ。それで、いかつくなったのかもね」
ほら、スカル団が良い例だろ? と彼は首に下げたドクロのペンダントを指差した。
落ちこぼれた者たちが徒党を組んでオラつくスカル団は、確かにそう言えるかもしれない。
スカル団にいる者はバトルも弱く、立場も弱く、気も弱い者がほとんどだ。それこそ一人では何もできないほどに。
「臆病だから分不相応に見た目を飾り、臆病だから分不相応に口を叩くのさ。それは、人もポケモンも変わらないよ」
たまには良いこと言うなあ、とリジーは素直に感心した。だが直後に「ちなみにボクは完璧な人間だからね! 多少目立つとしても、何も分不相応じゃないのさ!」と響き渡るオボロの声は、色々と台無しにしてくれる。
高笑いをする師匠を白い目で見ながら、リジーはポケモンセンターの方へと向かった。
話によると、グラジオが泊まるモーテルはポケモンセンターの隣にあるらしい。どれだけゆっくり行っても、ここから一分もかからずにたどり着ける距離だ。
リジーは走った。それからモーテルに着くと目的の部屋を探す。
一つ目の部屋、違う。二つ目も、違う。三つ目……これだ!
がちゃり。がちゃ。どんどんどん。
鍵が開かない。いくら呼んでも叩いても、物音一つ立ちやしない。郵便受けからのぞいても、部屋の中には誰もいない。
「おかしいなあ。プルメリちゃんによると、彼はここに住んでいるらしいんだけど」
「入れ違いになったのかしらね」
「あーあ。わざわざ朝早くからアーカラ島まで来たってのに、とんだ骨折り損だよ」
グラジオの留守は予想外だったようでオボロは頭を抱えている。「ねぇ、お師匠さま。メールすればいいじゃない」とリジーが言うも、「ボクは彼のメアドなんか持ってないよ」と肩を落としながらオボロは言った。
「しょうがない。また後で戻って来ようか」
「それまであたし達、どうするの? カフェスペースでお茶かしら」
「こんな辛気くさいとこのカフェスペースより、街に行った方が楽しいさ」
そう言うと、彼はモーテルに背を向けて歩き出した。きょとんとする弟子に向かって手招きすると、5番道路の方に指を差す。
「ほら、リジー行くよ。カンタイシティにね」
第七話 【カンタイシティ】
わざわざ街に出るのだからショッピングにでも行くのだと思っていた。
限定販売のウェリントングラスでも買って我らがボス、グズマのようなスカした格好を目指すのも良い。
いや、8番道路よりスカしている、街のカフェスペースでお茶と決めこむのも悪くないかもしれない。
ホテルしおさいでリッチな気分を味わいながら、ゆったり過ごすのもまた良いものだ。
……それなのに!
「お師匠さま。あたし達なんでこんなことやってるのかしら」
「そんなの、ボク達がスカル団だからさ。正面から入れてくれるわけがないからに決まってるじゃないか!」
ゴージャスなボクに知名度がありすぎるってのも困りものだよね、と悩ましげな顔をオボロは作ろうとする。
だが、承認欲求という文字が人の形をしているのがこの男。中途半端ににやけた顔は、喜んでいるのがバレバレだ。
リジーは足元を見ようとしてやめた。はるか下の地面を見ると、動く気力も無くなってしまうことは分かりきっている。
ラインストーンで飾り付けられたオボロ特製のフックロープ。それをしっかり握り締めて、二人は足を動かしていく。
びゅーびゅーと潮風が吹きすさぶ中、彼らは空間研究所の壁をよじ登っていた。
そこそこ大きな窓までたどり着くと、オボロはゴージャスボールを取り出した。
警備員にバレないように今日は決めゼリフも省略。黙って開閉スイッチを押すと、現れたのはトドゼルガだ。
トドゼルガは大きく口を開けると、これまた大きな二つのキバを窓に押し当てた。彼女は首を回しながら、小刻みにキバを揺らしていく。
どうやらオボロはトドゼルガに穴を開けさせようという腹づもりらしかった。もちろん窓の鍵を開けるためだ。
作戦成功。
上手いこと部屋の中に忍び込んだ二人は、研究所の職員に見つからないように、こそこそと動き回る。
ちょうどご飯時だからか人は少ない。探索にはうってつけだった。
オボロのおめあては秘密の研究資料。
バーネット博士の最新資料は、オボロにとって喉から手が出るほど欲しいもの。彼は本棚を漁りながら、「雨とかはどうでもいいからさ。ドータクンについてじゃなくて、ちゃんと空間を研究しなよ」と資料にケチをつけていた。
「お師匠さま。ここへはなんのために来たの?」
「別にいいじゃないか、なんでも。修行にもなるし」
「ふぅん。そうは見えないけれど」
「誰にも気づかれずにひっそり入り、誰かに見つかったらコテンパンに打ちのめす。スカル団にはピッタリな修行さ。多分ね」
そう言うと、彼は再び本棚を漁り始めた。「今度はパルキアとギラティナか。だからシンオウの話はいいんだって」と文句を言いながら、次から次へと本を手に取っていく。
オボロとリジーが片っ端から本を読んでいた時だ。
エレベーターのベルが鳴ると、部屋に響いたのは男の声。
「アローラ! あれ、ハニーは今いないのかな」と軽い口調で言う男はアローラ中の人気者だ。裸の上に白衣を着た彼は、爽やかな白い歯を見せて笑っている。
「ククイ博士じゃないですか!」
職員が駆け寄ると、彼らはエレベーターの前で談笑を始めた。上司の夫は気さくで優しいと空間研究所ではもっぱらの評判なのだ。
盛り上がる一同とは反対に、息をひそめるオボロ達。
彼らがいるのはちょうど向かい側。
幸いにも今は気づかれていないようだが、二人が見つかるのは時間の問題だった。
「……よし。窓から降りてボンボンくんのところに行こうか」
「コテンパンに打ちのめさないの?」
「負けると分かりきってる相手には、勝負を挑まない主義なんだよね」とオボロは言った。
「グズマくんならともかく、ボクじゃすぐ負けちゃうよ。これは華麗なる戦略的撤退さ」
ドヤ顔を浮かべながら、もっともそうなことを言うオボロ。だがやっていることは今朝のコソクムシと全く変わらない。
そそくさと窓へ向かうと、師弟二人はロープを伝って降りていく。
はるか下の地面までたどり着いてから、オボロはあたりをキョロキョロ見渡した。誰もいないことを確認すると、ほっと胸をなでおろす。
オボロは相当、ククイ博士とは戦いたくなかったらしい。
美しさを命とするオボロ。
手加減抜きの真剣勝負で無様に負ける醜態をさらすことを、彼はひどく嫌っていた。昔はそうでもなかったのだが、近頃は特にそうだった。
今は昼時。太陽はてっぺん近くでさんさんと輝いている。
珍しく朝から動き回ったのもあって、そろそろお腹も空いてきた。ついでに言うと、喉もすっかり渇いている。
腹ごしらえをしようと話しながら、二人が目指したのはカフェスペースだ。8番道路まで何も食べずに戻ったら、お腹と背中がくっついてしまいそうだ。
ポケモンセンターの中に入ると、カフェスペースの前に黒ずくめの少年が一人、立っている。オボロは彼に手を振ると、にこやかに笑いかけて言った。
「ボンボンくんじゃないか! 探してたんだよ、キミのこと。ちょっと聞きたい話があってね」
「フッ。オマエか、久しいな」とグラジオは言った。
「それにしても、子供がいたのか。しかも大きいな」
「ボクはまだ子持ちなんて歳じゃないよ! 弟子だよ弟子!」
キミにカフェ代おごってあげようかと思ってたのに! と騒ぐオボロを、横にいる弟子が必死になだめている。
マリエシティに住んでるリジーよ、と彼女が言うと、「フッ。何してやがる、オレ」と左手をかざしながら、グラジオは薄い笑みを浮かべた。
どうやら彼の厨二病はしばらく会っていなかった今も健在らしい。
オボロはため息をつくと彼の隣に座った。
グラジオと話していると自分の黒歴史を思い出すし、彼のどこか気取った姿は、もう一人の弟子を彷彿とさせる。
自分でやってて恥ずかしくならないのだろうか、とオボロは思った。その思考は完全に自分を棚に上げていた。
「プルメリちゃんから聞いたよ。キミ、スカル団に突っかかってくる子相手に負けたんだってね」
フンッと鼻を鳴らすと、グラジオは黙ってグランブルマウンテンを煽る。どうやらYesと言いたいらしい。
それから頭を押さえると、「あのオンナ、ミヅキはオレに勝ってみせた」とささやくような低い声で言った。
「アイツは強い。オレとヌルのコンビネーションを打ち破るとはな。それも二度も」
「えっ。二回も? それ、プルメリちゃんから聞いてないんだけど」
「言っていないからな」
そう言うと、グラジオは眉間のシワを深め頭を揺らした。
特徴的な彼の髪がびしばしとオボロの体に当たる。
ハリセンで叩かれているみたいだからやめてほしい。そう思いながら、オボロは両手で彼の髪を止めた。
ルザミーネといい、グラジオといい、彼らの家族の少女といい、エーテル財団では変な髪型がブームなのだろうか。
少年はムッとした顔をすると、自分の髪型を整え直した。小さなくしを取り出すと、右側にまとめた髪をとかしていく。
それからオボロを睨みつけると、「それで要件はなんだ。オマエが聞きたいことはまだあるだろう」とうなるようにしてグラジオは言った。
「さすがにその子、このまま放っておけないだろ? したっぱならともかく、用心棒のキミまでやられちゃうとね」
「フン。確かにスカル団にとってはそうかもしれない」
スカした顔して髪をかきあげるグラジオに、オボロは少しイラついた。
全く、グズマくんのお気に入りだからってさ。ルザミーネ女史の息子だからって、特別扱いされちゃって。
ウチで雇ってる用心棒なんだから、ちゃんと仕事をしてほしいなあ。彼がミヅキをやっつけていたら、プルメリちゃんが仕事をわざわざすることもないんだし。
──それに、ボクも睡眠時間を削って、朝早く起きずに済んだじゃないか!
実のところ、言いたいことは最後だけである。この男、本当にしょうもない。
最近カミソリ負けが気になってきたナルシスト、オボロにとって、睡眠時間は神聖不可侵のものだった。
オボロが顔を引きつらせていると、ふいにズボンを軽く引っ張られる。「お師匠さま、話を進めなきゃ」と青い目の少女は耳打ちした。
彼は軽く咳払いをすると、カバンから紙と羽根ペンを取り出した。彼のいつもの愛用品だ。
「今度、その子をプルメリちゃんが懲らしめにいくんだよ」とオボロは言った。
「だから、手持ちの種類とか、戦い方の特徴とかさ。そういうのを知りたいのさ」
「オマエがオレに会いに来る時は、大体プルメリが絡んでいる」
グラジオは軽く笑うとマグカップを揺らした。
ゆわん、ゆわんと波を立てるグランブルマウンテン。漆黒のそれがどこか神々しく光る様は、全てを見守るカロスの神、ジガルデのようだとグラジオは思った。
彼の厨二病はとどまるところを知らない。
「名前はミヅキ。黒髪で赤い帽子をかぶっている。島巡り中のトレーナーだな。手持ちは四匹。そのうち二匹はニャヒートとドデカバシだ」
「他の二匹は分からないのかい?」
「バトルが終わってしまったから、な」
つまるところ、他の二匹を出される前にグラジオは負けてしまったらしい。
1番道路でベソかいてた子とは思えないくらいミヅキは強くなったなあ、とオボロは感心しながらメモを取った。
いや、その片鱗は前からあった、と彼は思い直す。
貰ったばかりだったニャビーをあそこまで信じ、的確に指示を出せるのは並大抵ではできやしない。
オボロは紙に花マルを描いた。
自分の弟子もこの子のようになるといい。今日ミヅキとバトルをする時は、自分は弟子のサポートに努めよう。
そう考えながら、気分良さげに鼻歌を歌うオボロ。そんな彼をグラジオは不思議そうに見つめていた。
どこか掴めないこの男の考えは
このナルシストはなぜスカル団にいるのかが謎だし、この垂れ目の少女はそもそもなぜこんな男の弟子になろうとしたのかが謎だ。
今度二人のことを調べてみようかとグラジオが思っていると、「そういえばさ」とオボロが口を開いた。
「したっぱ達が言ってた、その子の友達の女の子。ほら、金髪でここら辺に三つ編みしてる」と顔の横あたりを指差して、オボロは言った。
「あの子、キミの隠し子かい?」
「このオレに子供がいるように見えるか?」
にやにやと笑うオボロに、呆れた声で少年は言った。少し嫌そうに眉間のあたりを押さえるグラジオを見て、彼は今日一番の笑みを浮かべる。オボロは「いやあ。ほんのジョークだよ、ジョーク!」と笑い飛ばすと、
「フッ。何してるんだろ、ボク」
と言ってから、にやりと笑って左手をかざした。どうやらグラジオの真似をしているらしい。そんな彼の様子を見て、お師匠さま達仲がいいわね、とリジーは呟いた。
グラジオはより一層嫌そうな顔をすると、「それは多分妹だ」とオボロに言った。苦虫を噛み潰したような彼の表情に、オボロはもっと笑みを深める。
それは、彼に子持ちだと誤解されたオボロのささやかな仕返しだった。
「妹さんとはなんでいっしょに動いてないの? それに、兄の方はスカル団の味方なのに敵になるなんて」
兄妹仲が冷めてるのかしら、とリジー。
ぬるくなったエネココアを飲み干すと、店主にもう一杯注文をする。それから足をばたつかせる彼女に、「どちらかと言えば仲は良い方だ」とグラジオは言った。
「オレが用心棒をやっている間、ずっと実家に居たんだ。オレが今何をしているのか、アイツは知らなかったんだろう」
「ふぅん。じゃあ今はミヅキといっしょに島めぐりでもしてるのかしらね」
「なぜ家を出たのかは、大方想像がつくが。
オマエ達、スカル団に言う気はない。これはオレ達の問題だ」
左手をかざしながら鋭い目つきでこちらを見る少年に、おお怖いねぇ、とオボロは口笛を吹いた。ただ、彼が怖がっているそぶりはカケラもない。
羽根ペンをくるりくるりと回す彼の口元は、面白そうに弧を描いている。
「その子、何かを大事そうに運んでるって聞いたけどさ。それとは関係あるのかい?」
「さっき言っただろう。オレはオマエ達に言う気はない」
冷たく言い放つグラジオ。だが、先ほどよりも細められた彼の瞳は、オボロの言うとおりであることを雄弁に語っていた。
分かった、もう聞かないよ。と両手を上げるオボロに、少年はフンッと鼻を鳴らした。彼の笑顔があまりにもうさんくさかったからだ。
「あ、それとキミのタイプ : ヌルなんだけどさ。ボクもゲットしたいんだよね。どこで手に入れたんだい?」
リジーにプレゼントしたいんだ、とオボロはにこやかに言った。瞳を輝かせるリジーに、本当は内緒にしたかったんだけどね、とウインクをした。
もちろん嘘だ。グラジオの警戒を解くために、自分の弟子をダシにしたのだ。
だが、彼には罪悪感がカケラもない。自分さえ良ければ良いと信じている、自己中ナルシストの真髄がそこにあった。
「三秒前だ」
「何がだい?」
「『分かった、もう聞かないよ』とオマエの口から聞いたのが、三秒前。どうやらヤドンより物忘れが激しいようだな」
そう言って少年はあざ笑うと、グランブルマウンテンを飲み干した。再び口元を引きつらせるオボロを尻目に、グラジオはマスターに挨拶すると席を立った。
「オレとヌルは一心同体。だからこそ言える。オマエらにヌルを持つ資格があるとは、オレには思えない」とグラジオは言った。
「そもそも、オマエらにヌルを捕まえることはできない。エーテル財団の奴らならともかく、な」
颯爽と去っていくグラジオを見て、あの人変わってるわね、とリジーは口をぽかんと開けている。
何をとは言わないけど、拗らせてるだろ? と言うと、オボロは頭をわしゃわしゃとかいた。
タイプ : ヌル。兜のようなものを頭にかぶったポケモン。タイプはノーマルタイプだが、その存在がありふれているわけでは決してない。
少なくともオボロはグラジオに会うまで見たこともなかったし、そもそも存在を知らなかった。
きっと彼も、エーテル財団からヌルを持ち出したのだろう。コスモッグを持ち出した妹と同じように。
エーテル財団との接触をとにかく嫌うグラジオだ。そうでなければ話に触れるわけがない。
だとしたら、ルザミーネはなぜヌルを取り戻せと言わないのだろう。
グラジオとスカル団が繋がっていることを、彼女はよく知っているはずだ。
なにせ彼女はグズマと仲が良い。頻繁に彼女の家にグズマが訪ねるのもあって、スカル団の内部事情はだだ漏れだ。
グラジオは歳の割には強いが所詮はボンボン。グズマにはもちろんのこと、オボロやプルメリにも、バトルで勝てるかはあやしい。
スカル団がタイプ : ヌルを奪おうと思えば、今すぐにでもできる。それなのになぜ?
いくら首をひねっても、頭はこんがらがるばかり。考えても考えても出ない結論に、彼はしびれを切らしたようだ。
あーもう! と大きな声で叫んだかと思うと、いきなりカウンターに突っ伏す男。なんだなんだと周りの客は彼を見たが、そんなことはオボロの知ったことではなかった。
「考えてもラチがあかないや。さあ、リジー。ここを出ようか」と顔を上げて彼は言った。
「約束の時間まで、ホテルでのんびりしてようよ」
ホテルで優雅に。気分はそう、シャンゼリゼだね、とオボロはウインクをする。
彼は荷物をまとめると、立派な長財布を取り出した。それからマスターを呼ぶと、小銭と領収書を握り締めた手をひらひらと振った。
三百九十八円。オボロのグランブルマウンテンとリジーのエネココア、ぴったり二杯分の料金だ。
「お客さん。申し訳ないですが、お金が少し足りませんよ」
「あれ、マスター。いつから値上げしたんだい? それは知らなかったなあ」
「そうじゃなくて。お連れさんの分がないんですよ。ほら、グランブルマウンテンを頼んだ男の子の」
だから正しくは五百九十四円です。と言う店主の声を聞いて、オボロの脳裏によぎったのは、さっさと帰っていったグラジオの姿。
──おごってあげようかと思ってたとは言ったけど、ちゃんとおごるとは言ってないだろ!
オボロはこめかみをひくつかせた。万年金欠のスカル団だ。
たとえワンコインだとしても、出費は痛い。
お師匠さま。いいじゃないの。おちついて。というリジーを無視するほどに、彼は怒っていた。
──今度会った時は、何が何でも嫌がらせをしてやる。それも、とびっきりの。
カンタイシティのカフェスペースにグランブルマウンテンは置いてないだろ! と思った方。あなたは正しい。
このssではどの店舗も全種類あるということで、ここはひとつ (震え)