▼ オボロは くうかんけんきゅうじょに しのびこんだ !
▼ グラジオに おごった !
カンタイシティにはホテルが二つある。
ひとつは、様々な地方から観光客が押し寄せるハノハリゾート。豪華絢爛・風光明媚という文字が建物の形をしているそれは、アローラ有数の観光地だ。
もうひとつはどこにあるのかというと、ポケモンセンターの奥にひっそりと佇んでいる。
ホテルしおさい。
派手すぎず、控えめすぎないホテルは庶民の味方。
壁にはチョンチーの形をしたランプがぴかぴかと明るく光っていて、白い白い爽やかな空間を演出していた。
誰もがまったりと過ごすロビーの一角。そこには、顔を突き合わせて睨み合う大人四人と子供が一人いた。
ソファーに座ってテーブル越しに向かい合う集団は、ホテルからは少し浮いている。
不機嫌そうないかつい男達は、ぷかぷかと葉巻を吸ったり、サングラスをいじったり。完全に蚊帳の外のリジーもハラハラしながら見守っていた。
そんな中、自信ありげな表情を浮かべる男が一人。
白い小さな四角い何かを手に持って、ニヤリと笑うオボロ。それとは対照的に、絶望の表情を浮かべる男達。
彼らには分かっていたからだ。このナルシストが一体何を言う気なのかを。
「ツモ!」
「また負けた! ニイちゃん強すぎじゃねぇの!?」
ふふふ、今回もボクの総取りさ。と言って、山と積まれたチップを、オボロは自分の方へと引き寄せていく。そんな彼にリジーは心からの拍手を贈った。
これで八連勝目だ。
イカサマしているのかと思うほど、彼は鮮やかな牌捌きを見せている。
というより多分しているのだろう。スカル団にいるだけあって、師匠は案外スカしたワルなのだ。
これ以上やってられないとばかりに男達は財布を開く。奪われたチップの分だけ金を置くと去っていく背中には、どこか哀愁が漂っていた。
彼らが先ほどまでやっていたこと。それは、賭けポケモンポンジャンだ。
「お師匠さまに、こんなとくぎがあったなんて! あたしびっくりだわ」
「スマートなメンズの嗜みとしてギャンブルは必須なのさ! スカしたギャングの一員として、リジーも覚えておくといいよ」
ちなみに言うと、アローラでも賭け事はバリバリアウトである。
札束を数えながら師匠と弟子はにやにや笑う。これでナマコブシ投げのバイトをしないで済むと、二人は万歳三唱だ。
宿代を無事に稼いだ彼らは飛び跳ねてハイタッチをしている。その様は、仲のよい親子のように微笑ましい。
二人のポケットからはみ出している札束さえなければ、だが。
今日はこの後バトルがある。
終わった時には夜遅いだろうし、いかがわしき屋敷に戻るには相当時間がかかるだろう。深夜になってしまうかもしれない。
それは幼いリジーによくないし、愛しのアズマオウを酷使させるのはとってもよくない。
さらに言うと、自分の睡眠時間が削られてしまうのは非常によくないことだ、とオボロは考えた。
それだったらホテルしおさいに泊まった方が百倍いい。多少の出費より、自分の身体の方が大切だ。
そう思いながら彼はフロントでチェックイン。
渡された帳簿に、いつもの羽根ペンでオボロはすらすらと書いていく。
『Harley & Solidad』
「お師匠さま。オボロって本名じゃないの? それにあたし、こんな名前じゃないわ」
「もちろん本名さ!」とオボロは言った。
「これは偽名だよ、偽名。ほら、ボク一応スカル団の幹部として有名だし。キミも一応変えといたよ」
有名すぎるのも本当に困ったものだよね! とオボロ。
悩ましげなポーズを取ってはいるが、白い歯を見せながら言う彼は、どこまでも困っているようには見えない。
これはボクの兄さんの名前なんだ、とオボロがウインクすると、二人はアーカラ乗船所へと向かった。
どうやらミヅキは、
時刻は五時半。約束の時間までもうすぐだった。
第八話 【ダイナミックフルフレイム】
気持ち良い潮風が吹く、海を一望できる広い場所。アーカラ乗船所の隣で二人はミヅキを待ち構えていた。
ちらちら時計を見るともう六時。ふいに、「オボロさーん! リジーちゃーん!」という声が聞こえてきた。
少し遠くに見えるのは間違いなくミヅキだ。相変わらず鉄の笑顔を浮かべて、こちらに向かって走ってくる。
後ろからついてくる少女はグラジオの妹だろうか。
「お久しぶりです! いつもアドバイス、ありがとうございます」
息を切らしながら笑う少女に、「いやいや別に構わないさ。それに、ボクもミヅキとのやり取りは楽しみにしてるしね」とオボロは言った。彼女はにかっと笑うと、リジーちゃん今日も負けないからね! と弟子と絆を深め出す。
アオハルだなあ。青春だなあ。とオボロが呟く間に、金髪の少女もやってきたようだ。
彼女が持つショルダーバッグは、やけに膨らんでいて見るからに怪しい。
「その子がメールで言ってたリーリエちゃんかな?」
「そうです。わたし、リーリエと申します。オボロさんとリジーさんのことは、ミヅキさんからかねがね!」
拳を握りしめるリーリエを彼はじろじろと観察した。
金色の髪。翠色の瞳。そして顔の横に垂れ下がる、触手のような三つ編み。
まごうことなきルザミーネの娘だ。
ここまで似ている家族も珍しいな、と思いながら、オボロは少女に笑いかけた。
「へぇ。ミヅキはボクのこと、なんて言ってるんだい?」
「いろいろ教えてくださる、ステキなトレーナーさんなのだと。わたしもお二人のことをそう思います」
「キミも?」
「ポケモンさんにも、見知らぬわたし達にも優しいお二人のことを、わたしは以前から勝手に尊敬しているのです」
よろしくお願いしますね! とリーリエは微笑む。そんな彼女に、なんていい子なんだとオボロは感動した。
それと同時に、
──今日はコスモッグ、見逃してあげようかな。
承認欲求という文字が人の形をしているオボロにとって、他人に認められることは、他に得難い快楽のひとつ。
一度その欲がくすぐられると、スカル団の仕事をも放棄してしまう。それがオボロという男だった。
こちらこそよろしく、と彼は少女と握手を交わす。にこにこと笑う彼は誰がどう見ても上機嫌だ。
「あたし達、あなたとミヅキを相手にマルチバトルをするのね!」
「いえ、わたしはポケモントレーナーではありませんので。ハウさんが来て、ミヅキさんとバトルをするはずなのですが」
そう言ってちらりと後ろを見るリーリエ。だが、そこには誰もいない。あるのはただ、歩道と街路樹のヤシの木ばかりだ。
「ううう、すみませんオボロさん。ハウったらなかなか来なくって」
「別にいいさ。ボク達この後、なんの予定もないし」
「けど、リジーちゃんは早く寝たかったよね」
「ぜんぜんそんなことないわ。それに、今日はあたし達あそこに泊まるの」
だからへっちゃらよ! とリジーは師匠譲りのウインクをした。それを聞いて、ミヅキは良かったと胸をなでおろす。
四人はハウを待つことにした。
どうせミヅキもリーリエもこの街で夜を過ごすのだ。いくら待とうが、全く問題はない。
もっとも、師弟とは違ってお金に余裕がある二人はハノハリゾートに泊まるようだったが。
海風薫るカンタイで四人はたわいもない話を繰り広げる。
キャプテンが手強かっただとか、この島は大試練を終えるのみだとか、そんな話だ。
これまでのことを熱く語ったミヅキは、火照った頬を冷ますように少し黙る。それから彼女はぽつりと呟いた。
「この街、結構好きかもしれないです。なんだか懐かしい気がして」
「そうだね。ここはキミの故郷と近いのかもしれない」
「ミヅキって、カントーから来たんでしょ? だったら当然ね」
リジーはフフンと鼻を鳴らした。それから、重要だとばかりに人差し指を上に立てると、
「カンタイシティはね、カントーやジョウトで旅したトレーナー達が作ったまちなのよ」
と言って彼女は胸を張った。ミヅキは合点がいったようで、なるほどと感心している。
まあアローラではジョーシキよね。と謙遜しつつも、小さな弟子は鼻高々だ。
横にいるリーリエも知らなかったようで、「そんな経緯があったのですか! 奥深いです」とメモを取っていた。
どうやら彼女も、アローラを出歩いたことが最近までなかったらしい。
「カンタイシティが気にいったんなら、マリエシティも気にいるかもね。あそこはジョウトの連中がつくった街だから」
「マリエシティのマリエ庭園には、お茶屋さんもあるんだから!」
「さすが地元民だねリジーちゃん」
茶屋という言葉に瞳を輝かせるミヅキに、あそこはほうじ茶と団子が美味しいんだ、とオボロは言った。
それから、大試練が終わったら是非行ってみるといいよ。なんならおごってあげようか。と彼は続ける。
その姿は、たった百九十八円のおごりでブチ切れていた者と同一人物とは思えない。
賭博に勝つと財布が緩む。散財をする。そして承認欲求が満たされる。
ダメな大人の典型例である。
和やかな雰囲気で喋っていると、向こうから手を大きく振る子供が一人。
緑色の髪に褐色の肌をした彼は、見るもの全てを癒す笑顔を浮かべていた。それは、オボロとは対極に位置するものだった。
「ハウ! 遅いってば!」
「ミヅキもリーリエもごめんねー。おれってばさー、道迷っちゃったー!」
笑いながら頭をかくハウはどこまでもマイペースだ。
悪気ない彼の姿を見ると、アローラの民は大体のことを許してしまう。
それは、自己中を極めたオボロも例外ではなかった。
少し文句を言ってやろうかと思っていたのに、あっという間にその気は失せてしまった。邪気の塊のようなオボロも、彼の純真さに当てられたのだ。
「ハウさん。オボロさんもリジーさんも、ハウさんをずっと待っていたのですよ」
「ほんとにごめんなさい。後ろにいるのがオボロさんって人なのー?」
挨拶をしようと少年はオボロに近寄った。あたりは真っ暗で、あまりよく見えなかったからだ。
すると彼はオボロを目にした途端。
今まで浮かべていた笑みを引っ込めて、目をぱちくり。数秒オボロを凝視すると、少年は不審そうな目で彼を見た。
「あのさー。その人、スカル団じゃないのー? おれ知ってるよー?」とハウは言った。
「スカル団の幹部で、みずタイプの使い手なんでしょー?」
少女二人はぎょっとした顔でハウを見る。彼の表情が真剣そのものなことに気がついた彼女達は、慌ててオボロの方を向いた。
その時の姿は五者五様だ。
ハウは珍しく人を睨みつけ、ミヅキの笑顔は引きつり、リーリエに至っては反射的にショルダーバッグを庇い、リジーは冷や汗を流しながら師匠を見つめている。
そんな中でただ一人、オボロだけが何事もないように笑っていた。
グズマ風に言わせると、ブッ壊してやりたくなるようなスカした笑顔で。
「よく知ってたねハウくん! まさしくその通り! 改めて自己紹介しようか。ボクの名前はオボロ。普段はスカル団の幹部をやってるよ」
メレメレの方でも有名だったなんて、さすがボクだね。と彼は嬉しそうに髪をかきあげる。
一気に警戒を強めた三人組に、まあまあ聞いてくれよ、と彼は続けた。
「とは言ってもね。今はキミ達に何かをしようって気はないよ。ボクはここにスカル団としてじゃなくて、トレーナーとして来たんだ。ミヅキの友人としてね」
プルメリのためにバトルをして、一つでも多く情報を掴もう。そしてコスモッグを奪う算段を立てよう。
あわよくば、隙を見てコスモッグを奪いこのままトンズラしよう。
リーリエと会うまで、そう考えていた者が言えるセリフでは決してない。
だが、オボロの瞳は澄み渡っていた。それはなぜか。
決まっている。この男に嘘をつくことの罪悪感など、一切存在しないからだ。
「ほんとなのー? なんか信じられないけどー」
「本当さ! スカル団だとバレないように、偽名を使ってホテルに泊まるくらいだからね」
それに、スカル団としてキミらにちょっかいをかける予定なのはボクじゃないよ! と彼がしたのは高笑い。
ひとしきり笑った後、彼はゴージャスボールを手にすると「そんなことより予定通りバトルをしようよ。勝てたらイイものあげるからさ」とハウに言った。
「使用ポケモンはそれぞれ二匹のマルチバトル。さあ、始めようか!」
結局、悩んだ末に三人組は彼の言葉に従った。
その想いから一心不乱に磨かれた彼の舌先三寸に、かなうものはそうそういなかった。
四人は一斉にボールを投げる。宙に舞い、光を放つ四つの球は闇夜に映えた。
ハウが場に出したのはアローラの姿のライチュウ。ミヅキはニャヒート。
師弟二人はオドリドリとナマズンだ。
相手はやる気満々のようだった。
空に浮かんだライチュウはその場をくるくる回り、ニャヒートの方はといえば、喉についた鈴のような炎袋を真っ赤に燃えたぎらせている。
だがオドリドリも負けてはいない。
どんかんなナマズンはぼうっとしているが、オドリドリは羽根を震わせると、ぱちぱちと電気を走らせる。それは、まるで彼の自信のほどを二匹に見せつけているかのようだ。
「ニャヒート “なきごえ” で相手を弱体化させちゃうよ!」
「そんなの別にかまわないわ。オドリドリ、あのネコちゃん達に “ふらふらダンス” よ」
ゆらり、ゆらりと揺れる彼の体は見ているうちにぐらぐらとしてくる。
いや違う。オドリドリを見る者の頭が、脳みそが揺れているのだ。それはさながら、夢を見ているかのようだ。
ニャヒートの足取りは歪む。もつれる。目が回る。
ナマズンはラムの実を持っていたようで、むしゃむしゃときのみを食べていた。弟子は “ふらふらダンス”を使うだろうと、オボロには予想がついていたからだ。
誤算だったのはライチュウも持っていたこと。
まるっこい電気ネズミは、すました顔してぷかぷか宙に浮いていた。
「じゃあさー、ライチュウいくよー。 “でんこうせっか” でナマズンにこうげきー!」
軽い口調で指示を出すトレーナーとは逆に、目にも留まらぬ速さで迫ってくる。尻尾で地面を蹴りながら、上手く方向を変え、方向を変え。
リージョンフォームのライチュウの特性はサーフテール。
四方八方どころか、空中からも攻撃できる。どこから突っ込んでくるのかもトレーナーのハウ以外には想像もつかない。
“でんこうせっか” との相性は抜群だ。
「ナマズン、キミの色っぽいカラダで耐えておくれ。そしたら思いっきり
ライチュウの攻撃はナマズンに突き刺さる。上空から飛んで来たライチュウはナマズンを地面に叩きつけた。
響く衝撃音。上がる土煙。それから舞い散るのは、泥。
泥。泥。泥。泥。泥のシャワーだ。
「“どろあそび” ? けど、あっちは二匹とも電気が通らないのにー?」
ハウはこてんと首をかしげた。
“どろあそび” はでんきタイプの攻撃のダメージを半減させる技。でんきタイプと相性が良いオドリドリとナマズンには、受ける恩恵など何もない。
だが、「ただの “どろあそび” と侮っちゃあいけないよ」とオボロは笑っている。
ナマズンは泥を飛ばして、飛ばして、飛ばして、飛ばして、飛ばし続けている。
その量はかなりのもの。その重さは言うまでもない。
──そしてそれを真近に喰らったのは、ナマズンを攻撃したライチュウだ。
まとわりつく泥。それは、彼をなす術もなく地に落とす。
「イイよナマズン、今日もキミはサイッコーだ! そのまま “どろばくだん” で追い討ちさ!」
「“サイコキネシス” で防いじゃえー!」
ライチュウに迫る泥はぼうっと光ったかと思うと、ストップ。宙に浮いた爆弾はそのまま反対方向にまっしぐら!
迫り狂う爆弾の嵐。そこにいるのは師弟の二匹。
ナマズンはそのまま受け止め、オドリドリはと言えば、
「オドリドリ、たかくたかく空に飛んじゃうのよ」
羽根をはためかせると一気に急上昇。すんでのところでかわすと、爆風に乗って空高く舞い上がっていく。
気分がいいわね、と少女は鼻歌を歌っている。それから “エアスラッシュ” ! と叫ぶと、真空の刃が次から次へと飛んできた。
上空からの攻撃だ。普段ならいともたやすく避けれたはずだ。
だが、 爆風によって砂にまみれた空気では何も見えやしない。ニャヒートに至ってはこんらんのオマケ付きだ。
どうすることもできない。彼らは風の刃を受け止めた。
そう、三匹とも。
「ボクのナマズンにまで攻撃が飛んで来たじゃないか! ただでさえ体力が残り少ないってのに!」
オボロは弟子に文句を叫ぶと例の青いハンカチを取り出した。慣れた仕草で目元を押さえながら、彼は一言。
「ああ、かわいそうなナマズン。“だくりゅう” で一掃すれば、もうこんな目にあわなくて済むからね」
彼女がヒゲを立たせると、どこからともなく水の塊がやって来た。
水、と言うよりは泥の方が近いかもしれない。茶色く濁ったそれは、ライチュウとニャヒートを飲み込んでいく。
カフェスペースでバトルは弟子の補佐に努めようと思った。そのことも忘れ、高火力の技を使ったオボロ。
リジーの反応を見るためにあまり指示をしなかった。そのせいで、ナマズンは負わなくてもいい傷を負っている。
それも、あと少しで戦闘不能となってしまうほど。
自己中でナルシストのオボロだが、手持ちへの愛は深い。
早い話、彼は少しキレていたのだ。
ニャヒートはふらふらと立ち上がる。満身創痍の有様だったが、ぎろりと睨みつける彼の目は死んでいない。
弱点を突かれた攻撃を運良く耐えきった、こんらんが解けたポケモン。
さらに言えば、彼の特性はもうかだった。
ミヅキが沈黙を守っていたのはこの時を待っていたからなのかもしれない。
ミヅキは自らの手を上へ、上へ、ゆらゆらと。それから手のひらを突き出すと、光り輝く
熱い。熱い。喉が焼けてしまいそうだ、とオボロは思った。
急速に集められた熱はニャヒートの周りを渦巻く炎となる。炎は光となり、光となった炎は、球になる。
ダイナミックフルフレイム。
炎を纏ったニャヒートは走る、走る、回る。
その様をハウも、リジーも、オボロも、指示をしたミヅキでさえも、呆けて見つめていた。
途方もない大きさの、途方もない威力があるだろうそれは、四人にとって、あまりに現実味がなかったからだ。
「──守れ! “まもる” んだ!」
我に帰ったオボロは無我夢中でナマズンに叫んだ。
すんでのところで薄いシールドを張ったナマズンは、光の奔流に飲み込まれる。彼の味方のライチュウも、その例外ではない。膨れ上がった炎は上空のオドリドリをも飲み込んだ。
ぎゃあ。ぎゃあ。ぎゃあ。と叫ぶポケモン達の悲鳴を四人は青ざめた顔をして聞いていた。彼らは全員恐れていたのだ。
リジーは見知らぬZ技に。ハウは彼らの断末魔に。ミヅキはその威力に。そして、オボロはミヅキの才能に。
Zリングを誰一人持たないスカル団の一員とはいえ、オボロがZ技を見るのは初めてではない。受けたのもそうだ。ホノオZも。
だが、ここまでの威力を持つZ技を放ったポケモンは他にいなかった。
もうかを加味してもこれは異常だ。ましてや、進化前で。
今ならまだ彼女に勝てる。とオボロは思った。
マルチバトルとはいえ、初手に “なきごえ” を入れてくる子だ。経験も、知識も、まだまだ足りていない。
それに先ほどのZ技はともかく、ニャヒート自体の強さは攻撃・防御・スピードどこを取っても大したものではなかった。
だが、この子はまだまだ発展途上だ。
島巡りを始めたばかりの、新米トレーナー。伸び代は果てしなく見えないほど、ある。
もし彼女が経験を積んだら? もし島巡りを終えたら?
いや、島巡りを終えていなかったとしても、彼女が本気でスカル団を潰そうとしたならば?
この子に、自分は。いや、スカル団の誰しもが勝てないかもしれない、とオボロは恐怖した。
──アローラの神に見捨てられたグズマくんとプルメリちゃん。世界に見捨てられたボク。それと、神に愛された少女では、かなうわけがないじゃないか。
結局、ナマズンの “まもる” は貫通されたようだ。
ひんしの重傷を負った手持ちを戻すと、オボロはミロカロスを場に出した。
ハウも味方にトドメを刺されたことの文句を言いながら、フクスローを出す。リジーはこの間進化したペルシアンを。
“ひかりのかべ” を張った後、“じならし” でミロカロスは相手を翻弄する。あっけなくニャヒートは倒れ、彼女はキテルグマを出した。
場は移り変わっていく。
味方の攻撃を “まもる” で防いだペルシアンは “だましうち” からの “パワージェム” でフクスローを追い詰める。ミヅキもキテルグマの怪力で、ポケモン達を殴っていく。
オボロは “だくりゅう” を指示した時とは思えないほど、後手に回っていた。当初の予定通り弟子のサポートに徹することにしたのだ。
戦うミヅキ達を、じっくり観察しながら。
だが、そんなオボロの指示はどこか精彩を欠いていた。
あの熱が、あの炎が、網膜に焼き付いて離れなかったからだ。
※オボロの手持ちと今判明している技一覧
マリルリ (ふぶき バブルこうせん)
ミロカロス (れいとうビーム うずしお ひかりのかべ じならし)
アズマオウ (なみのり メガホーン)
ナマズン (どろあそび どろばくだん まもる だくりゅう)
ラグラージ (ストーンエッジ メガトンキック)
トドゼルガ(はかいこうせん こおりのキバ)
(全部♀)
※リジーの手持ちと今判明している技一覧
ぱちぱちスタイルのオドリドリ♂ (エアスラッシュ ぼうふう ふらふらダンス)
アローラニャース (ネコにこばん ねこだまし みだれひっかき)→アローラペルシアン (まもる パワージェム だましうち)
ゴースト♂
※ハウの手持ちと今判明している技一覧
主人公がニャビーを選んだ場合のゲームと同じ
※ミヅキの手持ちと今判明している技一覧
ニャビー♂ (ひのこ ほのおのキバ たいあたり) → ニャヒート♂ (なきごえ)
ドデカバシ
キテルグマ
???