〜前回のあらすじ〜
▼ オボロは かけポケモンポンジャンをした !
▼ Zワザの ちからって すげー ! でっかいばくはつが おきたんだと !
相手の攻撃をかわす。急所を避けて受ける。
ミロカロスは相手を弄びながら、街灯に照らされてらてらと光る体をくねらせている。彼女の姿は風にたなびくシルクのスカーフのようだ。
師匠とミロカロスは相手を攻める気はないらしい。
“ひかりのかべ” を張ったり、 “れいとうビーム” を撃って氷の壁を作ったり。彼ら二人が受け身の姿勢から脱する気配はさっぱりなかった。
となると頼りになるのは自分だけ。それと相棒のペルシアンだけだ。
まあ、銭ゲバとあくタイプの一人と一匹に狡猾さでかなうものはいやしない。
自慢の素早さで相手の攻撃をひらりと避ける。それか補助技でやり過ごし、じわりじわりと体力を削っていく。
それがリジー達の十八番だった。
得意なことは相手のミスを誘うこと。好きな言葉はなぶり殺し。
簡単にバトルを終わらす気は、毛頭ない。
長期戦にもつれ込んだマルチバトル。すでにハウのフクスローは戦線を離脱し、残るはキテルグマだけだ。
特性のもふもふで耐えに耐えているキテルグマ。
だが、ペルシアンの攻撃もミロカロスの攻撃も一身に受けている彼の体力は、もう限界だった。
例えるならば九回裏。点差もついた二死二塁。
そんな泥沼試合も、少し意外な展開で決着がついた。
『偶然』二匹を巻き込んだキテルグマの “じたばた” で、見事ミヅキが逆転サヨナラホームランを決めたのだ。
傷ついたポケモンをいたわりながら、師弟は彼らをボールに戻す。それからくるりと振り向くと、二人は勝者に拍手を贈った。
オボロは存外スポーツマンシップを大切にした。
たとえ、それがスカル団の仕事であったとしても。
ポケモンバトルは正々堂々と。時には華麗に圧倒し、時には潔く。
もちろん、無様に負ける姿は一ミクロンも美しくはない。
だが勝者を讃えず、いつまでも吠える負け犬ほど醜いものはないだろう。
スカル団よりも優先する彼の美学のひとつだ。
もっとも、彼が格上相手にバトルを挑むことは今ではほとんどない。
それが披露される機会はこうしたお遊びくらいのもの。真剣勝負の場では、埃をかぶっているのが現状だ。
「華麗なる技の応酬に、ポケモンと人のキズナ! 二人とも、見せつけてくれちゃってさあ。今日は楽しかったよ少年少女!」
大げさに褒めるオボロに、照れたようにミヅキは笑っている。ハウも「おれも一抜けしちゃったけどー、楽しかったー!」と笑う。
お互いの健闘を讃えて四人は固く握手を交わした。
トレーナー同士、バトルをすれば分かり合える。そう少女と少年は信じていた。
バトルの中でこの二人のスカル団員に、島巡りをする自分達と通じるものを見た気がしたのだ。
それは夢とか、希望とか、目標とかいう類によく似たものだった。
第九話 【夢のはざま】
少し離れた場所で、ぴゅいと音が聞こえた。祭りの時に売っているおもちゃの笛のような音だ。
四人は音がした方を向いた。金髪の少女がショルダーバッグを押さえながら、こちらへ走ってくる。
リーリエだ。
息を切らす彼女は、手にしっかりと小さな袋を握り締めていた。
「みなさん、バトル、お疲れ様です。とっても、すごかった、です!
わたし、少しでも、お疲れのみなさんのお役に立ちたくて。差し入れにミアレガレット、買ってまいりました!」
時刻はちょうど夕飯時。リーリエが手に持つ買い物袋に、目を輝かせる一同。
カンタイシティのミアレガレットはオカズ仕様だ。
焼きたてほやほやのミアレガレットは、さくさくとして肉汁がじんわり。
ジューシーな肉と、とろけるチーズ。それに目玉焼きがたっぷり詰まっている。
少し甘辛い味付けは砂糖醤油。カンタイ流のアレンジだ。
バトル終わりの疲れた身体に、骨の髄まで染み渡る幸福感。
──今日のところは、やっぱりコスモッグのことを追求しないであげよう。
そう思いながら、オボロはぺろりと食べ終えた。
食いしん坊な弟子の手のひらにも何もない。飲み込んだのかと思うほど、カケラもガレットは残っていなかった。
オボロは口笛を吹きながらごそごそとカバンを漁った。取り出したのは長財布。それと、三つの何かを手に取った。
「グレイトなキミ達には賞金をプレゼントするよ! オマケに、さっき言ってたイイものもね」
そう言って、オボロは三人組に賞金と何かを握らせる。
ハウには淡く海のように色づいた石。ミヅキにはひょろっとした縄。リーリエには細長い缶。
「オボロさん。これってもしかしてさー、みずのいしー?」
「その通り! ボクには必要ないからあげるよ。きっとハウくんの役に立つさ」
わりと希少な進化の石をもらったハウは小躍りしている。バトルをする前、オボロを睨みつけていたのが嘘のようだ。
「あれ、お師匠さま。今日はかわらずのいしじゃないのね」
「かわらずのいしだと返品されるって分かったからね! アレは今もポケットに眠っているよ」
アレこそ邪魔なんだけどなあ、と呟きながら彼はかわらずのいしを取り出した。
つやつや丸い小さな石は、相変わらずそこら中に落ちている石と見分けがつかない。
彼がミヅキにあげたのは、あなぬけのひも。リーリエにはゴールドスプレー。
どちらもこの先のディグダトンネルを抜けるにはあって困らないものだ。
三人組にとってはどれも大当たりだったらしい。
特にハウの喜びようったらなかった。「この間つかまえたポケモンに使おうっとー!」と言って、その場をぴょんぴょん飛び跳ねている。
彼らは嬉しそうにカバンにしまうと、二人に感謝の言葉を次々に言った。
「やあやあ、そこまで言われると照れるなあ。ボクはね、元々謙虚な人間だから」
「あたし、ケンキョと正反対にあるのがお師匠さまだと思ってたわ」
「まさか! そんな、キミやグズマくんじゃあるまいし!」
オボロは腹を抱えて笑った。自分を棚にあげて人にあれこれ言うのは彼の得意技である。
彼のボスにバレたら間違いなくブッ壊されそうなものだ。しかし運のいいことに、それをグズマが知る手段はなかった。
「オボロさん、『グズマくん』ってどなたですか? リジーちゃんのパパ?」
「パパ! あのグズマくんがパパだって!」
何気ないミヅキの一言が彼のツボにはまったらしい。
ゲラゲラと笑い転げる彼をミヅキは不思議そうな顔で、リジーは複雑そうな顔で見つめている。
ヒイヒイと呼吸を整えようとするも、彼の腹筋は未だぷるぷると震えている。笑いが収まる気配はなさそうだ。
「カレ、絶対ちゃんと子育てしなさそうだ! ……くくく、面白いジョークだったよ、ミヅキ。グズマくんはね、我らがスカル団のボスなのさ」
「それでは、オボロさんとリジーさんの上司さんなのですね! その方は一体どんな方なのですか?」
「上司さんか、そうだねリーリエちゃん。グズマくんは『破壊という言葉が人の形をしている』ような人だよ」
どういうことなのかミヅキが尋ねると、「つまりはキレやすいってことさ」と身もふたもない答えをオボロはよこした。
それから彼は語り始めた。グズマについて、彼らがもっと聞きたそうにしていたからだ。
スカル団は腹いせに近所の連中をいびり、たまに慈善事業まがいのことを勝手にする。
最近の主な仕事。それは野生ポケモンを捕まえるか、ポケモンを盗み、パトロンに売ることだ。
スカル団には幹部が二人いるが、事実上のワンマン体制。大体のことはボスの一声で決まってしまう。
理不尽な命令をされることもある。時には首をかしげるようなことも。
だがそれが許される。むしろもっとやってくれとばかりに、団員達を引きつけてやまないカリスマ性の持ち主。それがグズマという男だ。
「へぇ。じゃあグズマって人は、やっぱり悪い人なんですね」
「そりゃあ、いい人だったらスカル団なんかにいないよ」
「前にスカル団がきのみを奪おうとしてて。人のものを盗もうなんて、ほんっとーに私、許せなかったんです!」
浮かべた笑みを薄めて憤慨するミヅキに、それは多分ボクのせいだな、とオボロは思った。
この間作ったポロックのために、アローラ中からかき集められたきのみ達。その残りは天日干しにされ、三時のおやつとして今も屋敷で食べられている。
だが、自分に都合がよければそれでいいのがこの男。
グズマくんってば、きのみなんか集めてどうするんだろうね! とオボロはしらばっくれている。
突き刺さるリジーの視線も、彼は全く意に介していなかった。
ミヅキが今まで出くわしたスカル団への愚痴。それは溜まりに溜まっているようだ。
口を開いた少女の舌は、止まる気配がさっぱりない。
ボク達もスカル団なんだけどなあ、と思いながら、オボロはテキトーに頷いている。道中大変だったんだね、と幹部であるにも関わらず、どこか他人事のように相槌をうっていた。
「あ、そうだ。ボクもスカル団として、これだけは言いたいんだけどさ」
思い出したとばかりに、オボロは手のひらをぽんと叩く。
話を遮られたミヅキは「ううう。まだまだ言い足りないんけどな」とくちびるを尖らせた。どうも彼女はお喋り好きらしい。
けれどもそこはスマイル0円を信条にする少女。
すぐにいつもの笑顔に戻って「オボロさん、言いたいことってなんですか?」と彼女は尋ねた。
「したっぱ達にちょっかい出すだけならいいんだけどね。もしキミ達が、グズマくんの敵になるんならさあ」
いつも通りへらへらと話すオボロ。だが、その目は全く笑っていない。
それから彼はスッと笑みを消すと、じっと三人の方を見た。
「スカル団の幹部として、本気でキミ達を潰す。それは、絶対だ」
凄んでいるわけではない。脅しているわけでもない。
ただただ淡々と、彼はそう言った。
静かに話す彼の姿。きっと、これが本来のオボロなのだろう。
青い瞳は夜のように真っ暗で、中には何も映っていない。がらんどうだ。
彼らは息を飲んだ。彼の雰囲気に飲まれたのだ。
はっとする彼らを見て、オボロはプッと噴き出した。それから「そんなビビらなくてもいいよ。普通に島巡りをしていれば大丈夫さ!」と彼はひょうきんに言った。
そこにあったのは腹立たしいほどに自信ありげな笑み。もうすっかり、いつもの彼に元通りだ。
「だからさ、グズマくんに刃向かうのはやめておくれよ? ボクはキミ達とトモダチのままでいたいし、それに面倒くさいしね!」
そう茶化しながら、オボロは地面に置いたカバンを持った。
時間は九時を回っている。そろそろ寝に行かなければ、翌日の肌のツヤにさし障る。それにホテル備え付けの温泉にも入りたい、とオボロは考えた。
彼にとって何よりも大切なもの。あえて言うまでもなく自分自身だ。
おそらくそれは、並大抵のことでは揺らがない。
「ボク達はホテルに戻るけど、これからキミ達はどうするんだい?」
「私達もハノハリゾートに行って、ご飯を食べようかなって思ってます!」
ホテルのご飯楽しみだねえ! と少年少女は盛り上がる。
一同が夕飯の妄想を胸に膨らませていた時、「あああ!」と突然リーリエは叫び声をあげた。控えめな彼女には珍しく、目を見開いて、だらだら汗を流している。
「そういえばわたし達、空間研究所へ行くようにククイ博士に呼ばれていたのでした!」
慌てるリーリエ。驚くミヅキ。
そんな中、ハウだけは「うーんと。そういえばさー、そうだったかもー?」と首をかしげている。
さすがに博士をこれ以上待たすわけにはいかない。しばらく晩ご飯はお預けかあ、とミヅキは肩をがっくり落とした。
「ククイはかせ? バーネットはかせじゃないの?」
「はい。わたしは何もできない身ではありますが、一応ククイ博士の助手をさせて頂いているのです」
「助手! あたしよりもちょっと上なだけで、もう働いているのね」
すごいわね、と呟くリジー。その横で、オボロもぴゅうと口笛を吹きながら手を叩いている。
なるほど。どうりでコスモッグが見つからなかったわけだ、と彼は納得したのだ。
少女のバックに、あのククイ博士が付いていたならば。
「空間研究所ってことは、ウルトラホールのことでも尋ねにいくのかい?」
「ううんと、恐らくはそうでしょう。バーネット博士は空間研究の第一人者ですから」
詳細はリーリエも聞いていないらしい。彼女はハの字に眉を下げて答えている。
あの軽薄な男、ククイ博士のことだ。
サプライズとしてウルトラホールの話を聞かせ、彼らを驚かせたかったのか。それとも愛妻家で有名な彼は、バーネット博士のことを惚気たかったのか。
どちらなのかは知らないが浅はかな考えだな、とオボロはぼんやりと思った。
相変わらず自分のことを棚にあげる男である。
リーリエちゃんはバーネット女史とも知り合いなんだね、とオボロ。彼はここぞとばかりに質問を重ねた。
ウルトラホールのこと。バーネット博士のこと。夢のはざまのこと。
軽い口調でリーリエに尋ねるも、その表情は必死さを隠せてはいない。
少しでも少女から情報を引き出そうと彼が躍起になっていると、「あのぉ。盛り上がってるところ悪いんですけど」と気まずそうに、おずおずとミヅキが手をあげた。
「ウルトラホールって何ですか? 私、なにも知らなくて」
「アローラに伝わる昔話さ。アローラには異世界と繋がる穴があって、そこから変わったポケモン達がやって来る……ってね」
ロマンあふれる話だろう? とオボロは少女にウインクをした。
眉唾物にもほどがある。そう嘲笑されそうな話だ。
学会でも物議を醸していて、ウルトラホールなど嘘っぱちだと言う者もいるとかいないとか。
もし自分もアローラの民だったら、単なる言い伝えだと思うだろうな、と彼は思った。
だが、ウルトラホールにはきちんとしたデータがある。それを裏付ける証拠がある。証人もいる。
それを彼は、嫌という程知っていた。
「なるほど! ちょっとシンオウ神話に似てますね」
頭の上に浮かぶハテナが消えて、すとんと憑き物が落ちた顔をするミヅキ。
どこにも同じような話があるんだなあ、と感心する少女に彼はこうも続ける。
「さらにその穴はね。バーネット女史が研究していた別の空間、夢のはざまにも繋がってるんじゃないかって話だよ」
「夢のはざまかあ。なんだかステキだなあ、ネーミングに夢があって! 一回行ってみたいなあ……!」
妄想が膨らんだのか、ミヅキは自分の世界へ旅立っていく。
だらしのない笑みを浮かべる彼女に、オボロの弟子は眉根を寄せた。普段から釣り上げている眉をさらに釣り上げて、少女は嫌そうな顔を隠しそうともしなかった。
「そう? あたしは好きじゃないわ。なんだか気味が悪いもの」
「なんで? 私は夢が好きだよリジーちやん! 夢の中なら美味しいもの食べ放題! 好きなことし放題だもん!」
よだれをじゅるりと垂らしながら力説する少女は、何を考えていたのかバレバレだ。
腹に手を当てて瞳を輝かせる少女に、食い意地の張ったリジーも呆れ顔を浮かべている。
どうやらミヅキは夜ご飯のオアズケが相当堪えているようだ。
そんなミヅキを見て、やれやれとため息をつきながら「ボクもリジーと同じ意見かな」とオボロは言った。
「なにも夢ってのは何もいい夢ばかりじゃないだろ? 夢のはざまには、恐ろしい悪夢もいっぱいあるんだからね」
「ううう、確かにそうなんですけど。二人ともロマンが足りないですよお」
ぶすけたミヅキの顔を見て、オボロは再び噴き出した。
ミヅキの言葉はどうにも彼のツボにハマるらしい。口元に手を押さえながら、ひたすら笑いを堪えている。
頬を膨らませる少女の頭をぐしゃぐしゃと撫でると、「まあボクも専門家じゃないし、よく分からないからさ。バーネット女史に色々聞くといいんじゃないかな」とオボロはあやすように言った。
「明日はキミ達大試練だろ? アーカラの島クイーンはいわタイプの使い手だから、気をつけるといいよ」
「今日はありがとー。みずのいしも貰えてさー、おれすっごく嬉しいー!」
「私も二人と戦えて楽しかったです!」
彼ら五人は目を閉じて、歯を見せ笑う。にこやかに。
お互い手を振り別れを惜しむ。そんな中、リジーはぽつりと呟いた。
「あたし達、こんど会うときはテキなのかしらね」
「さあね。それを決めるのはボク達じゃない。ミヅキやハウくん、それにリーリエちゃんとグズマくんだ」
「ううう。『スカル団のオボロさん達』と戦うことにならなきゃいいんだけどなあ」
「まあ、また困ったらボクに連絡するといいさ。敵になっても、アドバイスくらいならいつでもあげるよ」
オボロが浮かべているのはスカした笑顔。
たとえミヅキがスカル団の敵になったとしても。
いや、コスモッグを連れた少女といる限り、確実に敵となるミヅキであったとしても。
スカル団に影響がなければ手助けしても問題ない。自由気ままな彼らしい発想だ。
敵に塩を送る。
敵であったとしても最後まで義を通し抜くヒールの姿。
それは、アローラの関心を惹きつける夢のはざまよりロマンが詰まっているはずだ。
そう彼は常々考えていた。
──そして義理堅いところを魅せるボクの様は、言うまでもなく美しい!
スカした笑みを一層深めるオボロ。腹立たしいほどのドヤ顔は悦に浸っていることがよく分かる。
弟子になってから早数週間。
師匠の考えがすっかり読めるようになったリジーはひとつ、ため息を吐いた。
思う存分陶酔したオボロはどこかスッキリした顔をしている。
それから金髪の少女の方を向くと、「一つ言い忘れてたんだけどさ」とくすくす笑いながら彼は言った。
「あのさリーリエちゃん。可愛い可愛いキミに免じて、今回は見なかったことにしてあげるけど」
首をかしげる三人にオボロは笑いかける。
彼の耳に残っているのは、おもちゃの笛の音のような音。話している最中も、ぴゅい、ぴゅいとかすかに聞こえてきたそれ。
彼には既視感があったのだ。それは、彼にとって非常に耐え難いものだった。
「悪いことは言わないから、そのショルダーバッグの中身を持ち主に返した方がいいよ。でなきゃひどい目にあっちゃうかも、ね!」
凍りつく少年少女を尻目に、大試練頑張ってね、と師弟は軽く手を振り去っていく。
これは善意の忠告だ。自分はなんて優しいのだろう、とオボロは思った。
だが、この三人は忠告通りに従うような子達ではない。そのことも彼は知っていた。
彼は通信機を取り出すと、プルメリのためにミヅキのことをぽちぽちと打ち始めた。
容姿。性格。手持ち。カントーから来た島巡り中のトレーナーだということも。仲間のハウという少年のことも。
ただリーリエのことだけは伏せながら。
オボロは指がボタンを滑るたびに、自分の胸をちらちらとおにびで焼かれているような思いに襲われた。
その青白く不気味な炎はゆっくりとにじり寄ってくる。
真綿で首を絞めるかのような焦りは、彼の心に深く深く根を張った。
ククイ博士を敵に回さぬように。ミヅキが成長しきる前に。
いつ、どこで、どうやってコスモッグを奪うのか。
後者はともかく前者はネックだ。
迂闊に動けば返り討ちに遭うあげく、リーリエごと逃げられてしまう。そしたら全てが台無しだ。
目立ちたがりのロイヤルマスクはしゃしゃってくるに違いない。自分の助手のこととなればなおさらだ。
オボロは青白く光る端末を見つめながら、弟子の声も聞こえないほど考え込んでいた。
コスモッグの情報を握っていることを彼がエーテル財団に言う気は全くない。
それどころか彼は自らの唯一の居場所、スカル団の面々にも明かす気はなかった。
それは全てグズマのため。全ては命の恩人のためだった。