FGO第一幕、クリア記念。
ネタバレあるから注意。
公式エンドで綺麗なまま終わりたい方はバック推奨

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おわりのつづき

 

 魔神王ゲーティアの撃破、人理焼却の阻止という偉業を成し遂げてから数ヶ月が経過した頃。当初は矢のように来ていた追求は数を減らし、ようやくカルデアが平穏、穏やかな日常を取り戻した頃──廊下を行き、自身の工房を通り過ぎ、エントランスを抜けていく人影が一つ。

 

 ウェーブのかかった長い髪、肩へ止まる機械仕掛けの鳥、装飾が施された大きな杖が特徴の彼女の名は"レオナルド・ダ・ヴィンチ"。誰しもが認める天才、そして魔術師 (キャスター)のサーヴァントでありながらもカルデアどころか世界の現状を良く知る古参の一人。

 

 すれ違う者達へ挨拶を交わしつつ、彼女は歩を進める。時には頭を下げてくる所員と立ち話に興じ、時には急ぎの仕事だと書類を受け取り指示を与えながら──だが、そんな彼女の足が不意に止まる。どこも同じような造りの廊下、他と変わらぬ扉の前、"誰か"の部屋の前で。

 

(…………あぁ、ここは……)

 

 そう、その部屋は、今はなき友人の部屋。

 

 小気味良い音を響かせる扉を潜り、明かりのない真っ暗な部屋へと足を踏み込んだ彼女は苦笑を浮かべた。どこか遠くを見つめるように、かつて在った光景を思い出す──炬燵へ入りながら机へ突っ伏し、楽しげに端末をいじる"誰か"の姿を。子供のように無邪気な顔で、空へ打ち上げられた花火を見上げていた"誰か"を。

 

 ここ最近は忙殺されていたせいか、"失った"という事実を実感する暇さえなかった。感傷的になったといえばそれまでだが、やはり彼女の胸中は複雑だ。自分は天才だという自信がある、矜持がある。でも、"あの結末"は回避できなかった──"彼が居なくなる"という結末を。

 

(あの時……いや、ずっと前から、"この結末"を私は知っていた。回避策もあった、妥協案もあった、でも私は結局、何の手も打たなかった。それが彼の"願い"、"本懐"なんだと自分に言い聞かせて──)

 

 自らの正体を隠し、いつ、どうやって訪れるかも分からない滅びの時を恐れ、それでも必死に走り続けたのが"彼"だ。だから、この結末こそ"彼"が望んだモノ。本懐。世界は、人理は、救われた。これ以上、何も望むべくはない──と、そこまで考え、ダ・ヴィンチは悔しげに下唇を噛む。

 

 

 

──頭ではこれ以上ない結末だと分かっている

 

──今この結末が"あるべき姿"だと理解している

 

──でも、それでも、心が"違う"と叫んでいる

 

 

 

 真っ暗な部屋の中、隣に居た"彼"の面影を追う。

 

 誘われるように、導かれるように。

 

 自分でも頼りない千鳥足で、ダ・ヴィンチは部屋を横切り最奥へ備え付けられたデスクへと歩み寄る。電源の落ちた端末や書類が散らばる雑多な机上、無機質なソレを手袋越しになぞると、とても冷たい──主なきデスク、今の今まで職務を全うしていたと言われても納得できるほど汚れた机上。

 

 だが、不意に、彼女の指先が異物感を訴えてきた。

 

 柔らかい感触が、手袋を通して指先へ伝わってきた。

 

 暗闇に慣れてきた目で、その感触を伝えてくるモノの輪郭を、正体を探る。それは白いだけの、何の変哲もない手袋。一切の飾り気がない、ただの手袋──だが、ソレが手袋であると気付き持ち上げた時、その中から一枚の紙切れが零れ落ちる。

 

「………おや?」

 

 予想外の出来事にダ・ヴィンチは手袋を置き、代わりに紙切れを持ち上げた。とはいえ辺りは暗闇、書かれている文字はハッキリと見えない。もしかしたら"彼"が人知れず残した恥ずかしいメモかも、と考えて気が引けた──が、彼女の好奇心が僅かに勝る。先ほどの感傷など、どこへやら。

 

 手元にあったライトを点けると、少しずつではあるが文字が読み取れるようになっていく。まだ全容どころか冒頭さえ読めないが、その文字だけ見て彼女は確信した──この紙切れを書いたのが、間違いなく"彼"であるということを。

 

 

 

『やぁ、コレを見つけたのは君だろう、レオナルド?

 立香君やマシュは、きっと君へ気を遣ってしまう。だから君は文句を言いながらも、結局は部屋を片づけに来てくれるって確信があった。ははっ、当たりだろ?

 ところで、君がコレ読んでるってことは、もう僕は其処に居ないんだろうね。うん、でも良いんだ。いま君が居る"その結末"こそ、僕が"全て"を成し遂げたっていう証なんだから──』

 

 

 

──それは、紛うことなく

 

──"彼"がダ・ヴィンチ()に宛てた手紙

 

 

 

『──思えば長いようで、短かったよ。辛いことも沢山あった、逃げ出したいと思ったこともある。でも、それを差し引いて有り余るくらい、楽しかった。不謹慎かもしれないけどね。

 っと、感傷に浸ってる場合じゃないや。とりあえずデータや資料に残ってない引き継ぎ事項があってね。まず──』

 

 

 

 長々とした、どこか要領を得ない、でも思うがままに書かれたであろう文面を読んでダ・ヴィンチの口元が緩む。"彼"の人生には共感できるし、頑張っていたことも彼女は知っている。そして、どうしようもないほどに不器用なことも。

 

 事務的な内容が、つらつらと続く。後処理から始まり、果て体調が悪いと言っていた職員のフィジカルケアまで──その当たり障りの無さというか、事務的で淡白な内容は目で追っていたダ・ヴィンチを苛つかせる。

 

(このっ、鈍感……もっと他に言うべきことがあるだろうッ!?)

 

 免罪符が欲しかったわけではない、許しが欲しかったわけではない。しかし、いくらなんでも淡白すぎるとダ・ヴィンチは憤る。たしかに、この手紙は"彼"らしい。だが、それでも──

 

──と、ようやく事務的な内容が書かれた文面が終わり

 

──重なっていた、続く2枚目へと辿り着いた時

 

──ダ・ヴィンチの瞳から、一筋の涙が零れ落ちた

 

 

 

『──じゃあ、ここからは君へ。親愛なる、レオナルドへ。

 まずは、これまでのこと。ありがとう。

 君と居た時間は、とても満ち足りたものだった。怖かったし、逃げ出したかったし、諦めてしまいたかった。でも、頑張れた。君が居たから。君が居てくれたから、頑張れた。

 不思議だよね、自分の口からじゃ絶対に言えないようなことが、文字にするとスラスラと書ける。ははっ、情けないったらないね。でも、許してほしいな。ほら、僕は卑怯で臆病だから、さ。

 それで、その……ここからが、本当に伝えたいことなんだけど……

 たぶん、いや、きっと、僕は君のことが──』

 

 

 

──もはや決壊した涙腺を、彼女は止められない

 

──歪んでいく視界を、明瞭にすることができない

 

──頬を伝っていく涙が手紙へ吸い込まれても

 

──漏れ出てくる誰か(自分)の嗚咽を

 

──止めることは、できなかった

 

 

 

 無意識に力を込めてしまったのか、手紙がクシャッ、と小気味良い音を立てる。辛うじて涙が手紙へ落ちないよう傾けるのが精一杯、でも、それでも、ダ・ヴィンチは文面を追っていく。決して、目を逸らそうとはしない。

 

 

 

『──ずるいなって、自分でも思う。でも、決心が鈍りそうだった。だから、こうやって文字にして君に想いを伝えた。許してくれそうにないから一方的に謝るね、ごめん。

 ただ……どうか、その"結末"を否定しないでほしい。君は何も悪くない、全て僕のせいだ。君が罪悪感を抱え込む必要はないし、縛られるなんてもっての他だ──』

 

 

 

 それは彼女が、ダ・ヴィンチが欲しかった言葉であり、最も聞きたくなかったモノ。彼女は"彼"の正体を知っていたし、"彼"が行おうとしていたことも知っていた。どのような結末になるかというのも、察していた──だが、止めなかった。止められなかった。

 

 極端な話をすれば、ダ・ヴィンチは"彼"と"人理"を秤に掛けた。そして傾いたのは、人理の修復。傾く要因に"彼の願い"だの"彼にとっての本懐"などの免罪符、綺麗事があったとしても、その事実は罪悪の鎖となって彼女を縛る──当人から許されようが、解放されることはない。

 

 

 

『──うん、本当はまだ書きたいことが山ほどあるんだけど、これ以上はマズい。僕の方が泣きそうだ。だから最後に、もう一回だけ。

 ありがとう、レオナルド。あと……ごめんね』

 

 

 

 文面は、最後まで"彼"らしい。

 

 手紙を読み切ったダ・ヴィンチは、ソレと入れ代えるように白い手袋を持ち上げ握り締める。手袋を通して"彼"の温もりを得ようとしても、言葉を交わそうとしても、なに一つ反応はない。だが、ふと気付けば──彼女の瞳から涙は止まっていた。漏れていた嗚咽は収まり、落ち着きを取り戻していた。

 

 

 

「……っ……ふ……」

 

 

 

──手袋を握るダ・ヴィンチの拳が震える

 

──悲しみから?

 

──いや、違う

 

 

 

「ふざっけるなぁぁぁッ!!」

 

 

 

──それは、"怒り"によるモノ

 

 

 

 彼女らしからぬ咆哮は、真っ暗な部屋へと響き渡る。もはや怒髪天、怒り心頭、普段の温厚で、飄々とした態度を崩さないダ・ヴィンチが激怒している。とてもこわい。だが、不意に彼女は踵を返し部屋を飛び出していく──彼女が怒っている原因は"彼"のせいでもあるが、最たる要因、本当の矛先は"自分自身"だ。

 

 彼女は免罪符が欲しかった。

 

 彼女は許して欲しかった。

 

 でも、逆に許しを請われた。

 

 それが、ダ・ヴィンチは許せない。

 

 彼女は、"許されたがっていた自分"を許せなかった。

 

(まったくもって私らしくない。そう、私は天才。根本的に人のこと、人の事情なんて考えない人でなしなんだから……今回は……そう、ちょーっとした気の迷いだ。許すとか、許されないとか、"そういう問題じゃない"。そう、気に入らない。"この結末"も、"あいつ"も気に入らない……なら、私は……いや、私がすべきことは──)

 

 靴音高く廊下、来た道を戻っていくダ・ヴィンチ。その手に"彼"の手袋を握り締め、瞳を爛々と輝かせながら──余談だが、すれ違った数人の職員が短い悲鳴を上げたのだが彼女には聞こえていなかった。そして、そんな怒気を滲ませたまま廊下を行く彼女の背を見送った所員達は後に語る。

 

 

 

──"後にも先にも、あんな表情の彼女を見たことがない"と

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

「……先輩」

 

 どこか不安げに見上げてくるマシュの頭を撫でてやった、指先に彼女の髪の感触を感じながら、優しく優しく。すると、まだ不安が残ってはいるものの、微笑を返してくれたことに胸を撫で下ろした──それにしても、ここ(守護英霊召喚施設)へ入るのは久しぶりだ。最近まで協会からの調査師団が来ていたから、仕方のないことだけど。

 

「お待たせ。悪いね、私のワガママに付き合ってもらっちゃって……」

 

 振り向くと、ダ・ヴィンチちゃんが苦笑を浮かべていた。というのも、今ここで、こうやっているのも全ては彼女の一言から始まったのだ──表情こそ普段通りではあったけど、どこか必死な様子の彼女が訴えてきた"願い"に突き動かされた。

 

 

 

──私は、"この結末"は気に入らない

 

 

 

 その言葉を皮切りに、ダ・ヴィンチちゃんは頭を下げてきた。「君達の力を借りたい」と。その言葉を聞いた直後は自分の耳を疑った。なにせ彼女は天才だ、それこそ誰かに助力する必要がないほどの──にも関わらず、彼女は自分とマシュに請うた。助けてほしい、と。

 

 もちろん、その言葉、ダ・ヴィンチちゃんの願いは二つ返事で聞き入れた。いつだって"彼女達"は、支えてくれた。助けてくれた。迎えてくれた。信じてくれた。だから、彼女の"願い"が何であれ断る理由などない。むしろ、恩返しをしたいと思っていた此方からすれば願ったり叶ったりだ。

 

「では、始めようか……」

 

 自分がやるべきこと、彼女に求められていることは分かる。彼女だけでは成し得ないことなんて、きっと指で数えるほどしかない。何より、彼女が助力を請うたのは自分(マスター)とマシュ。やるべきこと、出来ることなんて一つしかない。

 

 台座へ向け、傍らに立つマシュを通して魔力の奔流が流れ込んでいく。それは幾度となく行ってきた"フェイト"システムを用いた術式(召喚)ではない、これは事前にダ・ヴィンチちゃんから教えてもらった詠唱──自分達が知る知識、経験、常識に当てはまらない"違う世界の理"。

 

 

 

──素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。降り立つ風には壁を

 

──四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ

 

──閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

 

──繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する

 

 

 

 詠唱、呼び掛けに呼応するように台座の周囲を囲う星が光を灯す。そして円環に座した星は徐々に、台座を中心として回り始めた頃──傍らのマシュが無言のままに頷いてくれたのを視界の端に捉え、目を閉じた。

 

 

               

──告げる

 

──汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に

 

──聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ

 

 

 

 右手の甲で光る令呪が熱い、全身は何か大きなモノに包まれているように錯覚する。気を抜けば意識を持っていかれそうな激しい頭痛が襲ってくるし、体の節々は軋みを上げていた。でも、それでも、止めてはいけない。いや、止めるわけにはいかない……ッ!!

 

 

 

──誓いを此処に

 

──我は常世総ての善と成る者

 

──我は常世総ての悪を敷く者

 

──汝三大の言霊を纏う七天

 

──抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よッ!!

 

 

 

 詠唱、最後の一節を高らかに上げた瞬間、台座は極光に呑まれていく。高速回転する星々は悲鳴のような火花を散らし、轟音を響かせ、ひたすらに回る、巡る、廻る──その輝きは力強く、熱く、それでいて、どこか懐かしさを感じる。なんとも不思議な光景だった。

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 マスターが詠唱を終えた瞬間、部屋を埋め尽くすほどの光をダ・ヴィンチは見た。魔力の奔流は渦を成し、マシュという器官を経て、間違いなく台座へと注がれた──今、目の前で起こっているのは"英霊召喚"。ただし、"今まで行ってきた召喚"とは違う手法で行われている。

 

 違う世界の理、元は在ったかもしれない手法。

 

 "依り代"をもって、英霊を召喚する術式。

 

 どのような経緯でダ・ヴィンチが"この術式"を知り得たのか、それは知る由もない。もしかしたら、最初から知っていたのかもしれない。だが、今この時、それは問題ではない──彼女の中で最も重要なのは、結果だ。発端も、経緯も、今の彼女には問題じゃない。

 

 ただ一念、"会いたい"という願いのみだ。

 

(………っ……)

 

 そう、ダ・ヴィンチがマスターとマシュに助力を請い行ったのは"英霊召喚"。ただし従来のカルデアで確立された手法ではなく、別の世界の理を利用したもの──彼女が"別の世界の理"を選んだ理由は、その手法が最も合理的かつ現実的だったからだ。

 ダ・ヴィンチの願い、目的は"とある英霊"の召喚。

 

 カルデアの召喚術式では、特定の英霊を狙って召喚することは難しい。なにせ完全にランダムだ、時代も、属性も、何もかも喚ぶ側が選ぶことはできない──それに対して、"別の世界の理"を利用した術式は"可能性"を孕んでいる。つまるところ、召喚時、英霊に縁のある品を用意することで"ある程度"の選別が可能なのだ。

 

(完全じゃない、失敗する可能性もある。それは、仕方ない……でも、もし、私の推測が正しければ、きっと"あいつ"は……ッ!!)

 

 目も眩む極光を正面から受けても、ダ・ヴィンチは決して瞳を閉じない。目を逸らさない。ただ、前を見ている。ただ、信じている。"彼"を、そして自分自身を──彼女が立てた推測、それは限りなくゼロに近い可能性。

 

 報告によれば、"彼"は"自分"という存在を消し去ったという。そう、(ソロモン)は英霊の座から消滅した。もう(ソロモン)は存在しない、サーヴァントとして召喚することもできない。無いものは、呼べない。

 

 

 

──もう、(ソロモン)は何処にも居ないのだ

 

 

 

──しかし……

 

 

 

(──そんなの関係ない。だって、私が"会いたい"のは……ッ!!)

 

 

 

 いつも自身なさそうな、頼り甲斐のなさそうな男。まるで子供のような無邪気さを見せるときもあれば、賢人のように人を導ける人。底抜けに優しい、お人好し──ダ・ヴィンチが"会いたい"と願うのは、そんな人間(ロマン)

 

 

 

──次第に、目を眩ませるほどの極光は薄れていく

 

 

 

──燻った魔力で形成せれた煙幕の向こうへ見えたのは、人影

 

 

 

「………っ……ぁ……あぁ……ッ……」

 

 

 

──煙幕の向こうから、マシュの嗚咽が聞こえた

 

 

 

 それに反応したのは、煙幕の向こうへ見える人影。

 

 

 

「サーヴァント、キャスター。召喚に応じて参上したよ」

 

 

 

 ダ・ヴィンチには、その声に覚えがある。いや、忘れようはずがなかった。どこか特徴的な、脱力を促すような間の抜けた声。望んだにせよ、望まぬにせよ、彼女は耳にしていたのだ、"その声"を。長い長い、10年という月日を。その声に導かれるように、誘われるように、彼女は徐々に薄れていく煙幕を掻き分け、人影へと歩み寄っていく──正直なところ、分の悪い賭けだった。

 

 たしかに(ソロモン)は消滅したのだろう、それは疑いようもない事実だ。だが、そこで彼女は一つの推測に至る。それは、(ロマン)が英霊の座へと至っている可能性だ──なにせ(ロマン)の人生は、下手な都市伝説より英雄譚じみていたのだから。

 

 ある日、真っ当ではない生まれ方をした(ロマン)は滅びを知った。その日から、(ロマン)は自らの人生を滅びの回避に費やした。そして10年という月日の間、恐怖に耐え、痛みを超え、辛さを乗り越えた末、(ロマン)は間接的ではあるものの世界を救った。己を犠牲とすることで。

 

 

 

──そんな(ロマン)の人生は

 

──英雄譚と呼べるものだったのだろう

 

 

 

「──なぁんて、ね。その様子だと、もう体は大丈夫みたいだね。おめでとう、マシュ」

 

「……っ……はっ……は、ぃ……ッ!!」

 

 煙幕を掻き分けた先には、穏やかな雰囲気を纏い、少し離れた位置にへたり込み泣き崩れるマシュを優しげに見つめる瞳があった。そんな数ヵ月前までは毎日見ていたはずの表情に懐かしさを感じ、ダ・ヴィンチの口元が苦笑に歪む──間違いない、間違えるはずがない。今この瞬間、目の前に(ロマン)が居る。

 

 その横顔を眺めていると、どうやら向こうもダ・ヴィンチの存在に気付いたようだ。(ロマン)は「げぇっ」と唸ると、どこかバツが悪そうに視線を逸らしてしまう──なんとも失礼な態度だが、彼女は苦笑を浮かべるだけ。

 

「人の顔を見るなり"げぇっ"とは酷いなぁ、ロマンくぅん。しかし、まぁ、追及は後にするとして──とりあえず、今は私や彼女達に言うべきことがあるんじゃないかい?」

 

「あ、あははは……うん、そうだね。えっと……」

 

 (ロマン)が浮かべた笑顔は、誰が見ても分かる愛想笑い、口元は笑っているが目がまったく笑っていなかった。しかし、その様子も咳払い一つで一変。どこか微笑を浮かべながら周りを見回した後、(ロマン)は本当に嬉しそうに、楽しそうに破顔して、言い放った。

 

 

 

「……みんな……ただいま……ッ!!」

 

 

 

──と

 

 

 


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