ボクの決意ができるまで   作:alnas

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どうもみなさんalnasです。
ここ最近なにをしていたのかと思うほど時間の進みを早く感じる次第であります。
それはそうと、念願の剣式をお出迎えできたのでマイルームにこもる毎日。いいよね!
みなさん私をTwitterで見かけたらそっとしておくのですよ?
では、どうぞ。


未来を取り戻す戦い

 立香ちゃんとマシュは、無事に戻ってきた。

 いまだ立て直し途中のカルデアでは久々に、休憩時間が取れたところだ。

 レフ教授の言葉が確かなら、もうことの解決をできるのはボクらのみだ。それどころか、残った人類すらボクらのみ。

「どう手を打つべきか……」

 コーヒーを入れ、椅子に腰掛ける。

 思えば、医務室の椅子に座るのも久しぶりな気がするな。

 さっきまでは、ずっと管制室に居たからね。こうして、本来の職場にいるのが普通なのに。いまや、とてもじゃないがここで時間を潰してはいられない。

「立香ちゃんが起きるまでの休息だ」

 などと思っていると、医務室の扉が開く。

「やあ、ロマニ」

「キミかい、ダ・ヴィンチちゃん。どうかしたのかな?」

 入って来たのは、立香ちゃんとマシュとの連絡が途絶えている間、ボクを支えてくれた英霊だ。

 細かな説明を、そのうち立香ちゃんにもしてあげないとね。もっとも、彼なら自分から好きな時間に会いにいって、自己紹介をして来そうだが。

 でも、心配はいらないかな。

 立香ちゃんのコミュ力はよくわかった。ボクの軽く数十倍だろう。

「おや、目に見えてへこんでいるね」

「そう見えるかい?」

「見えるとも、ロマニは人と普通に話せるくせに、なにを気にしているんだか」

「さらっと心を見透かすキミには言われたくないよ。キミはもっと、人との関係の作り方を気にするべきだ」

 ボクがなにを言おうとどこ吹く風で、勝手知ったように、自分の分のコーヒーを入れ出すダ・ヴィンチちゃん。

「それにしても」

「うん?」

 コーヒーを入れ終え、ボクの隣に腰掛けると、唐突に話し始めた。

「まさかあのロマニが、みんなを率いてしまうとはね」

「あの、はひどいなぁ」

「そうかな? 私の知っているロマニ・アーキマンという人間なら、一人であそこまではできなかったと思うけど」

 正直予想外だった、と彼は続ける。まったく、酷い言われようだ。

 あながち間違ってないから反論もできないしね。

「言われたように、本来のボクなら、きっと立ち向かうまでに相当の時間を使うし、いざ立ち向かったとしても、すぐに諦めていただろうね」

 この身ひとつでは、きっとなにもできないのだから。

 サーヴァント連中がいた時点で、ボクは詰みだろうと思う。

「さあ、どうかな。結局、キミは最後まで走ってしまう愚かな凡人だからね」

 しかし、ダ・ヴィンチちゃんはボクの言葉を否定する。

「ロマニ、キミは色々面倒だし面白みもまあ、ないわけではないが乏しい」

「キミはボクを貶しに来たのかい?」

「そんなまさか」

 本当だろうか? 言葉の端々に悪意を感じるんだけど……。

「本当に、まさかだよ。ロマニ、私がカルデアに残っているのもだが、キミはもっと、自分を見たまえ」

「え?」

「それだよ。まるで見ていないモノを、見直すべきだという意味だ」

 キャスターにも、似たようなことを言われた。

 ここにきて、ダ・ヴィンチちゃんにも言われようとは。でも、わからない。

「ボクは、自分を自覚しているけれど?」

「はあ……もはや病気だね。医療部門のトップが気づけないとは、大病だ」

「そこまで言うなら、ボクにも教えてくれてもいいんじゃないの?」

「うん、ごめんそれはできない。これはキミ自身が知らないといけないからね。他者からの答えなんて、答えであって答えじゃない。なにより、人はこれを自分で見つけるんだよ。キミも早く見つけたまえ」

 なんのことか全然理解できない。

 これじゃ見つけようもないと思うんだけど、言うだけ無駄かな。

「で、結局なにをしに医務室に? 発明で失敗して怪我人を出したわけでも、芸術のために犠牲者を出したわけでもないだろ? まさか、この非常時にサボれるわけでもないんだし」

「ロマニ……キミも言うようになったね。でも残念、キミの仕事を増やしに来たわけじゃあない」

「なら、なにをしに?」

 まさか、またか! またボクをいじりにきたのか、この天才さまは!

「お、察しがついたようだね。それはなによりだ」

「なによりだ、じゃないよ!? ボクの思考わかって言ってたら最低だよキミ!」

 まあまあ、と遮ってくるけど、わかってやってるよね!?

「そうそう、聞いたよ。二人の帰還時は大慌てで走ってたってね。なにかあったのかな?」

 訊いてはくるものの、顔が笑っている。

 内容は知っているけど、本人から直接聞きたいといった具合だろう。まったく、人が悪い。あれは正直、ボクにとってもどうして動いたのかわからない。ただ、思うままにやってしまったようなもので……。

「ロマニ?」

「ああ、ごめん。なんでもないよ。ついでに、話すつもりもない」

「ちぇ、少しはいい方向に走り出したかと思えば、自分のことは話さないんだから。でも――」

 隣に座るダ・ヴィンチちゃんが、ボクの顔を強引に自分へと向けさせ、正面から見据える。

「――うん。なにかは変わったようだね」

「なにか?」

「私が天才であっても、そこまではわからない。まして、キミのような人間のことはね。おっかしいなぁ。キミはただの凡人に過ぎないんだけど」

「そこは否定しないよ」

 というか、やっぱり貶してるよね?

「で、キミが気にかけているのは、例のマスターかい?」

「気にかけてるかどうかで言えばイエスだけど、なにか含みのある言い方だね」

「ふむ、やはり彼女か。あの子、ロマニには眩しすぎるんじゃない?」

 ああ、わかっちゃうか。

 確かに、立香ちゃんの目は、言動は、ボクにはないものだ。なんの覚悟もなく前に立たれれば、眩しすぎるくらいだろう。

 人は光に集まりたがる。闇を追いやりたがる。けど、彼女はきっと――どちらも味方につける側の人間だ。

「眩しくても、しっかり見ていてあげないとね。ああいうのが、最後の最後、なにをするかわからないからさ」

「…………そう。思った以上に、強くなったんだね」

 そう言い、ボクの顔を解放する。

 強引だなぁ。首を痛めたらどうしてくれるんだろう。

 落ち着くために、コーヒーをすする。

「ところで――」

 飲みながら、目線だけを彼にやる。

「――女の子二人を抱き抱えたって、本当かい?」

「ブッ!?――な、なにを言ってるのかな? あれは事故だ! そもそも、なにもしてない!」

「いや、まだなにも言ってないんだが、まさかほとんど自供するとは……つまらない幕引きだったね」

 しまった! これじゃ当初の計画通りやられてるじゃないか、ボク!

 けれどウソはひとつもないよね。うん、だいじょうぶ。

「面白くもなんともない話だよ。あれはただ、安堵から力が抜けた拍子にだね」

「ふんふん。もうさ、話しちゃいなよ」

「――……はあ……そうだね。キミの思惑通りっていうのは釈然としないけど、仕方ないか」

 下手に思い込みを持たれていても困るしね。

 なにより、ダ・ヴィンチちゃんなら平気な面もある。

「えっと、あのときは――」

 

 

 

 両手を突き出した先。

 その両手に温もりが生まれたと同時に、ボクの手を握る感覚が起こる。

 直後。二人の少女が、疲れ切った顔をしながらも、笑顔を浮かべ、ボクへと倒れかかってきた。

「ちょっと……っ!?」

 もちろん、ボクはそこまで力があるわけじゃない。

 大盾を持っているマシュはもちろん、ただの人である立香ちゃんすら支えきれず、その場に倒れこんだ。

「いったたたぁ……帰って来てくれ、とは思っていたけど、なにもボクをクッションにしなくても――いや、そんなことはどうでもよかったね」

 自分の上に倒れこむ、二人の少女。

 初めての戦い。初めて知る殺意、悪意。人の善意。

 多くの経験をしてきたし、聞くべき話も、聞かせたい話もあるかもしれない。それでも。

「よく帰って来てくれたね。おかえり、マシュ。立香ちゃん!」

 最初に言う言葉は、決まっていたから。

「はい、ただいま戻りました、Dr.ロマン」

「ただいま、ロマン」

 お互いに笑い合い、無事を確認しあう。会ったばかりの素人と、よくない出会い方をした同僚。

 いまとなっては、人類最後のマスターと、カルデア唯一のサーヴァント。

「よく、頑張ったね」

 そこまでで、たぶん、限界だったんだろう。

 立香ちゃんが気を失い、慌てて空いていた手で支えに入る。

「せ、先輩!」

 マシュが慌てて立香ちゃんを気にするが、マシュ、人の上で騒がないで欲しい……いや、マシュがそこまで気にかける相手ができたことを喜ぶべきか。

「ドクター、ドクター! 急いで先輩を医務室に! それと、早く先輩から離れてください!」

「ええー……おっかしいなぁ」

 そもそも、二人がいる限りボク退けないけどね?

「可及的速やかに!」

「マシュは割りと元気そうだね。うん、でも離れるのはもう少しだけ待ってくれ」

 立香ちゃんの容態だけは確認しないと――あ、これ平気な奴だ。

 支えている彼女から、寝息が聞こえる。

「疲れ、かな。サーヴァントと契約してそのまま戦闘続きだったし、なにより環境が環境だ。緊張の糸が切れたのかもね」

「そう、でしたか……すいませんドクター。つい慌ててしまって。では、私は先輩を部屋に連れて行きます。報告はその後で」

「うん、わかった。ああ、マシュもしっかり休むようにね」

「はい!」

 そのまま、ボクの上から退いて立香ちゃんを連れながら駆けていくマシュ。

「はあ……」

 これでやっと、スタート地点か。

 さて、とりあえず二人は無事に帰って来たし、ボクも作業に戻ろうか。

 

 

 

 と、こんなところかな。

「はい、ボクのお話終わり」

「くっ……ふふふ、ロマニ、キミって奴は……そこまでしている人間なら、普通そこからヒロインに惚れられるところだろうに……ああ、面白い!」

「ぐっ……別にいいんだよ」

 笑うのを堪えているダ・ヴィンチちゃんは放っておいて、ボクも休憩は終わりにしよう。

 これ以上話していると、余計ひどいことになりそうだ。

「ボクは先に行くからね。部屋を使うのは勝手だけど、改造はしないように。ついでに、室内での実験も禁止。じゃあ、またあとでね」

「うん、あとで。私は立香ちゃんとやらを見に行くとしよう。まだ寝ているんだろ? なに、起きたらそっちに行くよう伝えるから」

 ボクに続き医務室を出て、反対側へと歩いていくダ・ヴィンチちゃん。

 なぜか、彼はとても楽しそうで、そして嬉しそうだった。

「なんだったんだろう」

 天才のことは考えてもわからないけれど。

 それでも、やっぱり気にかけてしまうのはボクの悪い癖かもしれない。

 管制室では、なにやら大騒ぎで、いろんな声が、聞こえてくる。

「さて、休憩明け早々、なにが起きたんだか……」

 そうして、ボクはまた忙しく動くために駆けていく。まだ、なにも解決していないから。

 数瞬前までの、穏やかな時間の中にずっといることはできないから。

 せめて、そんな時間が取れるくらいには、頑張ってみせようか。

 

 

 

 

 

 

 人を否定するのは簡単だ。

 その人物のすべてを根底から貶し、その在り方を、実績すらも汚せばいい。

 けれど、人を肯定するのは難しい。

 肯定するということは、対象の在り方を、すべて自分の中に招き入れることだから。それは普通にできることではない。否、普通にできてはならないことなのだ。

 だって、誰かを信じるなんて感情を、持っていなかったのだから。

 人に頼っていいときなど、なかったんだから。

 いつだって、どんな事態に陥ったっとしても。

 すべては自分の過ちで。

 解決するのが自分の役目だった。

 そうあるべきであったのはわかっている。そうあらなければならなかったことも。どれだけ困難であろうと、借りれる手はなく。どんなに過酷な場所であろうと、自分の力で生き残るしかない。

 誰かを頼るようでは、なにかを祈るだけでは、決して良しとはされなかった。

 最初からなにもなく。

 最後まで、本当に欲するものを得られなかった愚者。

 でも、成ってみて知ることもある。

 人は他人を思うことはできるらしい、と。

 気がついたのは、つい最近のこと。

 この世界を見て、目線の同じ人間に触れて、バカみたいな騒ぎに翻弄されていく中で学んだことのひとつでもある。

 いまとなっては、ボクにもそういう人ができたわけなんだけど。

「向こうがどう思ってるかは、また別問題なんだよねぇ……」

 もちろん、ある程度以上の信頼関係は築けていると思ってはいるけれど。それでも、人の感情の機微を読み取れないボクでは限界がある。

 あんな子たちに接するのは、ボクの人生の中でも稀だったからなぁ。接し方、間違えたりしてないよね?

 マシュに反抗期並みの反応されたら癒しもなにもなくなるんだけど……立香ちゃんはフレンドリーなようでまだよくわからない。わかっているのは、コミュ力の塊ってことと、クソ度胸の持ち主ってことかな。

「うん、二人ともボクと関わっていいような子たちじゃないな!」

 もっとも、関わって話し合いをさせてくれないとこの先真っ暗なんだけどね!

 だいじょうぶ、だいじょうぶ。

 さっきマシュに理不尽に怒られたり、立香ちゃんの体に触れちゃったけど、なにもなかったし平気だよね?

 などと、彼女たちが帰還した際の行いとこれからを見越しながら歩いていると、やっと管制室まで戻ってこれた。目の前では、瓦礫に囲まれた中、無傷で残っているカルデアス。

 そして、新たに発見された特異点が7つ。

 困難だ。

 いまの戦力でこれらをすべて乗り越えなければ、レフの言っていた通り、人類に未来はない。

 だが、攻略するにも、立香ちゃんとマシュの協力は必要不可欠。もっと言うなら、彼女たちに攻略してもらわなければならない。

「人に責任を押し付けて、すべてを託して……それをボクが強要すると言うのか? ――バカバカしい。ボクがされたことを、今度は彼女たちにさせてどうする気だ……磨耗して、最後は役目すらわからないまま潰れてしまったら?」

 未来ある少女たちにあれもこれもと重荷を背負わせてはいけない。

 わかっているとも。わかっては、いるんだ……。

「強要させなければ、未来はなく――ボクの戦いも、きっとそこで終わるだろう」

 敵の目的も、正体も不明だと言うのに。

 その全貌すら知れず終焉を迎える。あまりに滑稽だ。

「ちゃんと話して、決めないとね」

 願わくば、少女たちがなにも背負わないことを。けれど、多くの経験が、出会いが訪れる道を進むことを。

 なにより、彼女たちが、自分で決めた道を歩けることを。

「そうだな……ボクからは、意見をなにも言わないことにするよ。だから立香ちゃん。ボクらの意志は、キミに委ねるよ」

 選択はできるんだ。

 ボクのときとは違う。歩む未来を、選ぶ権利がキミにはある。楽な方に逃げてもいい。困難に、死と隣り合わせの大冒険をするのもいい。そのどれもが許される。正当化される。

「怖ければ蹲っていいんだ。戦えなければ、残りの1年を好きに過ごしてくれて構わない。戦えるのは二人だけ。ボクらは望まない。勝手な幻想を押し付けはしない。それはとても、残酷なことだから」

 だけど。

 つい、言葉が漏れる。

「キミはきっと、困難にも立ち向かうんだろうね」

 感情の宿っていない、冷徹な声。

 それが自分のものだとも気づかずに。

 ボクの言葉は、無人の部屋の中で霧散していった。

 

 

 

 

 

 起きて最初に目にしたのは、完成された美しさを持つ女性の方だった。

 なにやらフォウと戯れていたみたいだが、私が起きたのを確認すると興味を失ったように構うのをやめた。

「起きたら絶世の美女がいて驚いたかい? わかるわかる。でも慣れて。ね?」

 まだなにも言ってないのだが、目の前の女性は勝手に納得し、首を縦に振る。

 周りを見渡すと、ロマンと出会った自室であることが確認できた。

「そっか……私、マシュと一緒に冬木から帰ってきて……それから、ロマンに手を握ってもらって、安心したら意識が――」

「うん、現状を知るのはいいことだよ」

「えっと、貴女は?」

「私? 私はダ・ヴィンチちゃん。カルデアの協力者だ。というか、召喚英霊第三号、みたいな? まあ、自己紹介さえ終わればあとの話は今後でいいさ。キミを待っている人もいることだしね。まずは管制室に行きなさい」

 待っている人……。

「ロマン?」

「くっ……ふふふ……ああ、いやごめん。確かにロマンも待っているけど、あんなのどうでもいいでしょ。まったく、あいつも本当に面白いことになったよね。さて、ロマンじゃないなら誰かは検討がつくね?」

 なぜか笑い出した彼女は、真面目な顔をして、そう聞いてくる。

 もちろん、ロマンじゃないならカルデアでの知り合いはもう一人しかいない。

 私はひとつ頷き、答えを返す。

「うむ、よろしい。ここからはキミが中心になる物語だ。キミの判断が我々を救うだろう。人類を救いながら歴史に残らなかっら数多無数の勇者たちと同じように。っと、こんな話は退屈か。さあ、行きなさい」

 背中を押されるように、自室を出る。

「ああ、それとね」

 そこで、ダ・ヴィンチちゃんに引き止められた。

「ひとつアドバイスだ」

「アドバイス?」

「そう。ロマンはとても臆病で、そして卑屈でバカで話を聞かないオタクの凡人だ」

「悪口ですか?」

「いや、正当な評価だよ」

 えー……どうなんだろう? どう聞いてもロマンの悪口に聞こえたんだけど。まあいいか。

「あいつはね、キミやマシュと接するときも悩んでる。あれは人の心の動きを見てない――ううん、見えないが正しいのかな。だから、いろいろ話をしてあげなさい。言いたいことは正直に言っていいし、聞きたいことはなんでも聞くといい。ロマンなら喜んで話してくれると思うよ。だいじょうぶ。キミがキミである限り、ロマンは絶対にキミを裏切ったりしないから。だから、仲良くしてあげてね」

「――よくわからないけど、だいじょうぶですよ。ロマンのことは信頼してるし、これでも、出会ってすぐに仲良くお話した仲ですから!」

 それだけ言い残し、私は走り出す。

 管制室にいる、私の大切な後輩の元に。

 

 

 

 

 管制室での仕事は多い。

 が、実を言うとまだ本格的な作業には入っていない部分もある。

 この先を決める人物が答えを出したとき、初めてボクらは全力でサポート体制を築くからだ。もちろん、誰もが既に入れるとは思うけれど。

 にしても、マシュも気になるんだね、やっぱり。

 向こうはこちらに気づいていないけど、ジッとカルデアスを見つめている。

 その瞳になにを映しているのかは読み取れないけどね。

 なんて思ってたら、立香ちゃんが入ってきて、いきなりマシュに抱きつく。うんうん、少女たちが仲良くするのはいいことだよね。

 と、まあ平和なワンシーンを眺めていた気持ちは置いといて、現実的な話をするとしようか。

 正直、あまり面と向かって訊きたくはないんだけど、そんなことを言ってたらなにも始まらない。

「コホン。再会を喜ぶのはいいけど、いまはこっちにも注目してくれないかな」

 話かけると、立香ちゃんとマシュがボクへと視線を移す。

「まずは生還おめでとう、立香ちゃん。そしてミッション達成お疲れさま。なし崩し的にすべてを押し付けてしまったけど、キミは勇敢にも事態に挑み、乗り越えてくれた。そのことに、心からの尊敬と感謝を送るよ。キミのおかげで、マシュとカルデアは救われた」

 そう、マシュとカルデアはだ。

「所長は残念だったけど……いまは弔うだけの余裕がない。悼むことぐらいしか、してあげられない」

「そう、ですか……」

「ああ。立香ちゃんにはつらいことかもしれないが、いまは我慢してくれ。いいかい。ボクらは所長に代わって人類を守る。それが彼女への手向けになるだろう」

 頭を失ったも同然だが、かろうじて。すんでのところで、カルデアは留まっている。

 まだ、ボクらには機会が残されているのなら。

「カルデアスの状況から見るに、レフの言葉は真実だ。外部との連絡は取れない。カルデアから外に出たスタッフも戻ってこない……おそらく、既に人類は滅びている。このカルデアだけが通常の時間軸に無い状態だ。崩壊直前の歴史に踏み留まっている、ということかな。宇宙空間に浮かんだコロニーと思えばいい。外の世界は死の世界。この状況を打破するまではね」

「……解決策があるんですね?」

 立香ちゃんにそう問われる。

 もちろん、無いわけじゃない。

「ふう……」

 息をひとつ吐き、自分の中に、話す体制を作り出す。

「冬木の特異点はキミたちのおかげで消滅した。けれど、未来は変わっていない。なら、他にも原因があるとボクらは仮定したんだ。その結果が――」

 復興させたシバでスキャンした地球の状態を見せる。わけのわからない、地図の集合体のような地球。

「――この狂った世界地図。新たに発見された、冬木とは比べものにならない時空の乱れだ。よく、過去を変えれば未来が変わる、というけど、ちょっとやそっとの過去改変じゃ未来は変革できない。歴史には修復力があってね。確かに、人間のひとりやふたりを救うことはできても、その時代が迎える結末――決定的な結果だけは変わらないようになっているんだ。でも、この特異点は違う。これは人類のターニングポイント。現在の人類を決定づけた究極の選択点。それが崩されたとなれば、人類史の土台が崩れることに等しい」

 新たな七つの特異点。それらが落ちれば、ボクらに未来はない。

 どれかひとつでも、欠けることは許されない。

「この特異点が出来た時点で、未来は決定してしまった。レフの言う通り、人類に2016年はやってこない――けど、ボクらは違う。カルデアはまだ、その未来に到達していないからね。わかるかい? ボクらだけがこの間違いを修復できる。こうして崩れている特異点を元に戻す機会がある」

 結局、ボクはこう問わなければならないのだろう。

 どれだけ自分で否定しても、変わらず、ボクは愚か者だ。

「結論を言おう。この七つの特異点にレイシフトし、歴史を正しいカタチに戻す。それが人類を救う唯一の手段だ。けれど、ボクらにはあまりに力がない。マスター適正者はキミ以外凍結。所持するサーヴァントはマシュひとり。この状況でキミに話すのが、どれだけ残酷かは理解しているつもりだ……酷いことを言おうとしているのも、十分わかっている。ずるい問いかけだともだ! けど、ボクはキミに問わなければならない」

 目の前に立つ、少女の顔を見る。

 真剣な、それでいて、どこか緩い雰囲気の少女の顔を。

「マスター適正者48番、立香。キミが人類を救いたいのなら。2016年から先の未来を取り戻したいのなら。キミはこれからたった一人で、この七つの人類史と戦わなくてはならない――その覚悟はあるか? キミに、カルデアの、人類の未来を背負う力はあるか?」

 言っていて、やはり思う。

 この状況下で。この場面で。

 いったい、ボクはどれだけ過酷な運命を背負わせるつもりだろうか。

 なのに、彼女は薄く笑みを浮かべるんだ。どうしてか、恨むような顔も、嘆く声も漏らさずに。ただ、前だけを向こうとするんだ。

「……もちろんです。私が、私たちが」

 隣に立つマシュの手を握り、

「――完膚無きまでに、ぜんぶ救ってみせますよ」

 そう、彼女は宣言した。

 ボクには決してできない選択を、受け止められるんだね。それはとても、羨ましくて。そして、眩しすぎる。でも。

「ありがとう。その言葉で、ボクたちの運命は決定した。これより、カルデアは前所長オルガマリー・アニムスフィアが予定した通り、人類継続の尊命を全うする。目的は人類史の保護、および奪還。探索対象は各年代と、原因と思われる聖遺物・聖杯。我々が戦うべき相手は歴史そのものだ。キミの前に立ちはだかるのは多くの英霊、伝説になる。けれど、生き残るにはそれしかない。いや、未来を取り戻すにはこれしかない」

 その場しのぎになる場面もあるだろう。

 絶望的な場面もやってくるのかもしれない。

 それでも。

 前を向き続けるマスターが歩みを止めないのなら。もしかしたら、力を貸してくれる存在だっているかもしれない。

 絶望させられるように、奇跡だって、起きるかもしれない。

「……たとえ、どのような結末が待っていようとも、だ」

 だからこそ、ボクはキミたちにこそ託したい。

「以上の決意をもって、作戦名はファーストオーダーから改める。これはカルデア最後にして原初の使命。人類守護指定・グランド・オーダー。魔術世界における最高位の使命を以って、我々は未来を取り戻す!」

 キミたちなら、きっとなにかをやらかしてくれると思えるから。

 

 

 

 

 

 人を肯定するのが難しかったとしても。

 誰かを信じることはできる。

 仮に、誰からも理解されないとしても。誰も、理解できないとしても。

 他人を信じるのは、自分の勝手だと思いたい。

 だって、そうだろう?

 誰かを信じるのに、他者の意見は必要ないじゃないか。

 たとえ、信じる本人の意見だったとしても――。

 




この雑感。
もう少し丁寧に書いていけたらいいかなと。
さて、この後は当分ダイジェストでお送りしていいような気もしなくもない。一応ストーリー見直して、ロマンの活躍?部分なんかをだけ書いてけばいいかなと。
裏方話だからあのときはロマンはこうしてた! って話を書いていけるといいですね。
では、また次回。

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