天下一武道会の表彰式も終わり、早々に会場を後にする。海の上の空で他のメンバーが揃うのを待った。
すぐに悟空、悟飯、ヤムチャ、クリリン、ピッコロ、界王神、キビトが集まった。ビーデルも追ってきたが、悟飯とイーヴィが軽く事情を説明して帰らせた。
「さて、みんな揃ったね」
「それでは、教えてください。バビディの居所を」
界王神が急かす。自身の作戦を潰されて、気を揉んでいるのだろう。
「その前に、敵の情報共有が先」
事前情報として、バビディが何者であるか、魔人ブウがどのような存在かを軽く説明する。
「現在、バビディ自体は大した戦力にならないから除外して、それ以外で問題があるのはダーブラくらいかな」
「ダーブラですって!?」
界王神が驚く。その恐ろしさを界王神とキビトが語る。
暗黒魔界の王。それがダーブラの肩書である。
「強さに関しては、セルの完全体と同等ぐらいだから勝てない相手じゃないよ。ただ、ダーブラの唾に触れると石化するから要注意はそこだけね。他のことは移動しながらにしましょうか。それと緊急時に備えてクリリン、ピッコロ、ヤムチャはドラゴンボール集めた後、神の神殿で待機」
クリリンとヤムチャは相手の強大さに少しビビっていたのですぐに納得した。だが、ピッコロは納得いかない様子だった。
「何故、俺が外される」
「できる限り少人数で行きたいからね。本当なら界王神とキビトも外してもいいぐらいなんだけど責任者を外すわけにもいかないからね」
「貴様っ!」
「いいのです、キビト。この人に付いていきましょう」
ピッコロが文句を言おうとした瞬間にキビトが間髪入れずにキレたために言うタイミングを逃した。
「要は、戦力外ということか」
「ありていに言えばそうなるね」
「ちっ、はっきり言いやがるぜ」
「これは保険でもあるのよ。もしも私たちが負けるもしくはそれに類する何かが起きた場合の対処法をまともに考えられるのはあなたしか居ないと思ってる」
「それでフォローしたつもりか? ……だが、いいだろう」
戦力的に悟空、悟飯、イーヴィが最も優れているのは、間違いなかった。ベジータも入れればもっと確実だったろうが、天下一武道会で負けた後すぐにどこかへ行ってしまった。ラディッツは、怪我を負ったので置いてきた。仙豆を食わせればいい話だが、めんどくさかったので放置した。
「後、もう一つ共有したことがあるの。魔人ブウが具体的にどう脅威であるのかってこと」
魔人ブウが驚異的な存在である理由は4つある。
一つ目、単純に強いこと。具体的に言うと、フルパワー状態で復活した場合悟空の超サイヤ人3以上であること。
二つ目、様々な能力を持つ。一番脅威なのは、敵を好きなものに変えてしまう能力。魔人ブウは菓子を好むため、人間を飴やチョコなどの菓子に変えて食う。
三つ目、学習能力の高さ。一度見た技をすぐに使えるぐらい学習能力が高い。また、吸収能力を用いて、敵の能力をそっくりそのまま手に入れることができる。
四つ目、これが一番の脅威。再生能力の高さ。仮に文字通り粉々にしても、完全復活した状態に戻る。魔人ブウを倒すためには肉片を一片も残さず消し去る必要がある。ちなみに焼いても復活するので、塵や灰を残してもダメ。
「以上だけど、質問ある?」
「あなたは一体どこでそんなことを……」
「はい、企業秘密です。他に」
イーヴィはにべもなく答える。
原作では、最終的にデブのブウが味方になるわけだが、やはり掛け値なしに化物には違いない。
「さっき吸収って言ってたけど、どんな感じなんだ?」
悟空が質問した。
「ブウは切り離された自分の肉片の一部を粘土みたいに遠隔でも自由自在に操れるのよ。それで、敵を包んで自分に取り込むって感じかな」
「なんか気持ちわりぃな」
「まぁ、厳しい戦いになるけど決して倒せない相手ではないよ」
「仮にイーヴィさんが言うことが本当であるにしても決して復活させてはいけませんよ」
「わかってるよ。厳しい戦いになることは間違いないんだから面倒な敵を増やすようなことはしないよ」
「それならいいのですが……」
「それじゃ、バビディの宇宙船まで行こうか」
既にバビディの宇宙船は衛星で捉えていた。イーヴィが先導して、バビディの宇宙船へと向かった。
「あ、そうそう。界王神に伝え忘れてた」
「なんですか?」
「界王神界にあるZソードってやつは、剣っていうより封印する為のもので、あなたのご先祖様が封印されてるからさっさと叩き割って助けてあげな」
「な、なんでそんなことまで……!? しかし、伝説の剣を叩き割るなんて……」
「そうだ! あれは、神聖なものなのだぞ!!」
「いや、いつまで経っても出られない人が可哀想でしょうが……悟空か悟飯なら簡単に抜けると思うし、あの人ならまともな助言もしてくれるでしょう。これが上手くいくにしろ、失敗するにしろさっさと封印を解くことをおススメするわ」
「わ、わかりました」
イマイチ信用してくれないキビトの気持ちもわからないでもなかったのだが、真実しか言っていないので、少々イラっとしてしまう。
「着いたわ」
宇宙船のそばの岩場に降り立つ。
「どこにもないではないか。それにここは以前に探したことがあるぞ」
「そこ見てみなさい」
「掘り返した跡……そうか! 宇宙船を地中に埋めていたのか!」
「それでは、バビディは私が地球に来ていることを知っているのかもしれませんね」
「ここに来ているのにももしかしたら気付いているかもね。本来ならここにスポポビッチとヤムーが来ているはずだし、痺れを切らしているかも」
と、噂をすれば宇宙船の出入り口からバビディの配下と思われる手下が数人出てきた。
「まぁ、応じるとは思えないけどあいつら人質にしようか」
「え? ちょっと、待ってください!」
「何?」
界王神が言い終える頃には、全員拘束済みだった。手錠と縄で雁字搦めにして身動きひとつ取れなくしていた。
「な、なんという……!」
イーヴィはどこからともなく拡声器を取り出した。
『バビディに告ぐ! 10秒以内に出てこなければ、そこの部下を皆殺しにする! いーち!』
数えた瞬間にバビディの配下が爆発した。
「……案の定って感じね」
バビディが魔術を使って自分の配下を殺したのだろう。悟空と悟飯が自分の仲間を殺したことに嫌悪感を示していた。
『再びバビディに告ぐ! 10秒以内に出てこなければ、宇宙船ごと爆破する!』
「ちょっと、イーヴィさん! そんなことをしたら魔人ブウが!」
「そんなの知ってるわよ。さっきも言ったけどフルパワーで出てきても、悟空なら戦えるレベルだから。それに、敵さんもフルパワーに拘っているだろうし出てくるわよ。ほら」
小さな人影と角を生やした大きな人影。バビディとダーブラが宇宙船の中から出てきた。
「お、お前ら~……! こんなことをして生きて帰れると思うなよ!」
「ドウモ、ハジメマシテ。バビディ、お前の野望もコレマデダ」
片言且つ棒読みで言うとおかしなものを見るような視線がその場にいる全員から突き刺さる。
「なんだこいつは……」
「私は元『悪』神のイーヴィ。界王神のお手伝いで遊びに来たよ」
イーヴィは悪の部分を不自然に強調して言った。
「ぐぬぬ……いい気になるなよ、界王神。こっちにはダーブラがいるんだ」
「はい、バビディ様。貴様らの相手はこのダーブラがしてくれる」
ダーブラが前に、バビディは後退りながら宇宙船の中に入っていった。
「待て! バビディ!」
界王神は追いかけようかと迷ったが、罠の可能性を考えて飛び出すことはできなかった。それ以前にダーブラがそれを許すはずもなかった。
「ダーブラがいなくなれば実質バビディは詰みだから『場合によっては』これが最終決戦なのよね」
また、不自然な言い方をするイーヴィ。
「私を倒せると思っているのか? この暗黒魔界の王、ダーブラを」
「倒せるよ。というか、ここの全戦力出したら弱い者いじめになるぐらいにはね」
「私が……弱いだとっ!? これだからバカは困るのだ」
「バカは君たちの方さ。敵の情報、自陣の戦力、相手の出方の予測。私はそれらを入念に準備している。これだけ揃えて勝てなかったらそれこそバカだ。君らに勝ち筋は一片もない」
と、なればバビディは与えられた情報であるあれを利用する以外にはない。それに気付くかどうかはダーブラとバビディ次第だ。
「貴様ぁ!!」
ダーブラが魔術で剣を作り出し、斬りかかってきた。私は白刃取りの要領で止める。
「みんなは手を出さないでね。こいつは私が倒す」
「ずりぃぞ、イーヴィ」
「舐めやがって。ぺっ」
ダーブラが唾を飛ばして来た。常に警戒していれば、そう当たるものでもない。悠々と避けた。
「ちっ」
ダーブラは剣を放して距離を取った。イーヴィは間髪入れずに剣をダーブラに投げ返した。
「くっ……!」
ダーブラが防いだ直後にできた隙に右ストレートが頬を捉えた。
「このぉっ!」
くらったままの体制で蹴りを入れようとするが、イーヴィは軽くいなして代わりにボディブローをかました。
「ぐおぉ!」
ダーブラは、その衝撃で吹っ飛び地面に叩きつけられた。それによって小さなクレーターができあがった。
「すごい! あのダーブラを押している!」
「あの者……あれ程までに強いとは……!」
界王神とキビトが感心している。あれだけのことを豪語するだけはあると。
「なんかイーヴィさんらしくないですね」
悟飯がそう声を漏らす。
「えっ?」
「確かにそうかもなぁ。イーヴィなら倒せる時に一気に倒すからな。それに、一対一を望むのもらしくねぇ」
それに同調する悟空。その気になれば、イーヴィならば最初の一撃で殺せたはずである。相手を怒らせて遊ぶときはその限りではないが、その様子もない。そういうときのイーヴィは決まって笑っていたのにそれがない。
「それじゃあ、イーヴィさんは一体何をしようと?」
「オラにもわかんねぇよ……今度は一体何を考えているんだ? イーヴィのやつ」
「……誰かが困ることはあっても、本当に困った事態にはならないと思いますよ……多分」
「ははっ、そうかもな」
親子そろって苦笑いをする。イーヴィは何かをやらかすつもりだ。口にはしないがほぼ確信に近い予感だった。
「もっと思い切りやったら?」
地面に叩きつけられたダーブラにそう声をかける。返ってきたのは言葉ではなくエネルギー弾だった。イーヴィは咄嗟にガードしたが、ダーブラは背後に回り今度はイーヴィを地面へと叩きつけた。
「はぁっはぁっ……どうだ! このゴミめ!」
イーヴィは平然と立ち上がり服に付いた土ぼこりを払っていた。
ダーブラはその様子を見て焦燥感を覚えていた。バビディの魔術によって従ってはいるものの暗黒魔界の王としての気位は高い。どことも知れぬ馬の骨にあしらわれているのだ。プライドも傷つく。
一方イーヴィはいい加減、気付いてもらいたいものだと少しむかつきを覚えていた。バビディが気付かないのならばダーブラに気付いてもらうしかない。だが、一向にその気配がない。
「ダメならダメで構わないんだけどさ……」
もっとらしくしなければいけないのだろうか……悪らしく。
「何をぶつぶつ言っている!」
再び襲い掛かってくるダーブラに対してイーヴィは袖から鎖を投げつけた。鎖はダーブラの右腕に巻き付いた。
「何っ!?」
鎖でダーブラを振り回し近くの岩壁に叩きつけた。その隙に四肢の全てに鎖を巻き付け、磔にした。口にも鎖を巻き付けていた。
「さて、これで何もできない」
ダーブラが何かを言おうとするが、何を言っているかはわからない。
「残念ながら私は一思いに殺そうとか、慈悲をあげたりはしないの。正義の味方ならきっとこんなことはしないでしょうね。残念ながら私は『悪』だから」
ここにきて頭に違和感を覚える。ようやく来た。
「ああああああ! ぐぅうう……!」
頭痛がする。イーヴィは頭を抱えて蹲った。
「いけない! バビディの魔術です! イーヴィさん、何も考えてはいけません! 無心になるのです!」
それはできない相談だ。最初からこれが目的だったのだから。
「はぁあああああああ!」
イーヴィの右手の甲に独特なMの字が表れた。