結界というよりなんだか認識阻害の術が貼られていたらしいその場所は言ってみれば小さな集落だった。
だが小さいとは言っても建物1つ1つは立派なもので…悪くいえばそこらへんのお寺や神社の建物を10棟近く適当な配置に立てそれらを空中回廊で結んでいるようなものだ。
一度意識阻害が消えてしまうと今度は逆にそれらに魅入ってしまい意識の収集がつけられなくなる。
どうやら最初の術が破られた時のために認識をあえて集中させる術を施しているのだろう。
簡単ながらとても効果的な罠だ。
「まあそれも、理屈がわかってしまうと機能しなくなるのですけれどね」
一度脳が術の存在を認めてしまえばこれらは機能しなくなる。
強い暗示をかけるだけの簡単な術はかかってしまうと大変だけれど理屈に気づいてしまえば脳は暗示を受け入れない。先に常識と判断したこととは矛盾する事実はなかなか受け付けない都合の良さが役にたつわけです。
「お姉ちゃん?」
歩き出した私にこいしが疑問を投げかける。
ここにずっと留まっていても意味がない。お空達が捉えられているのが建物だとは分かったけどそれがどこの場所の建物だとはみていないから仕方がないです。
「どの建物か分からないのでこれら全てを壊しますね」
「じゃあ私も手伝うね!」
こいしが笑顔で魔導書を開く。空中に光の波紋が発生し、機関銃や剣などがバラバラと落ちてくる。あの四次元ポケットもどきな空間に貴女は何を入れているの?
ってこれ写真?
「あ、これはダメ!」
見せてくれても良いと思うのだけれど…まあいいや。
「もうこれくらいじゃ驚かない」
呆れたような疲れたような声で紫苑さんがつぶやくこと
…いちいち驚かれても困るのですけど。
こいしがバラバラと出したものを整理する。なんだかここでやるような事ではない気がしますが精神的休息ということで自分を誤魔化す。
「そういえばこんなもの入ってっけ?」
入れたであろうこいし自身がそんな事を言い出す。もうちょっとちゃんと管理したらどうなのだろうか。このままだと葛餅が出て来そうですよ。
前回開いたときに葛餅が出てきて軽く場の雰囲気がおかしくなったことがある。
今はそんなことないけど。
「何この巨大な弾丸は…」
紫苑さんが問題のそれを手に持ち訝しげに眺める。
「さあ?興味ないからなあ……」
「それ…グレネードとか言ってなかったかしら?」
確か河童の説明ではそんなことを言っていたし私自身も一度使ったことがあるから印象に残っている。
しかしなんでこんなに弾丸だけ出てくるんですかねえ。
「爆発する弾丸だっけ?」
「その認識で合ってるわ」
「……えい!」
こいしが何を考えたのかその弾丸を建物に向かって放り投げ始めた。
咄嗟にそれらに向けて弾幕を撃ち込み誘爆させる。
爆風でく床の柱や屋根が次々に吹き飛ぶ。
「適当にぽいぽい放り投げるのをやめなさい。誘爆するでしょうが」
「お姉ちゃんだって誘爆させようと弾幕張ってるじゃん」
「建物の基盤を壊すのに有効活用しているだけですよ」
それと効果的に撃ちなさいよ。これじゃあいくつかの場所でまとまって誘爆するから破壊効果が薄いじゃないの。
「じゃあお姉ちゃん指示して!」
はいはいと返事をして私はこいしに投げ込む場所を指示する。
本当ならちゃんと武器から発射した方がいいのですけど…何故か武器の方は出て来てない。
まあ妖怪の力ならかなり遠くまで飛ばせるからマシなのですけどね。
「あはは!壊れちゃえ!」
「解体作業を手伝ってるだけだから壊すのとは違うわ」
「私も投げていいの?」
紫苑さんも?ええ、構いませんよ。
あ、ではあそこに放り投げてください。
紫苑さんによって思いっきり放り投げられたその弾丸は
建物の床に飛び込んで大穴を開けた。
すかさずレーザー弾幕を撃ち込む。
爆炎と衝撃波が建物の床を強引に上に持ち上げ、床下の柱を根こそぎ破壊する。
強大なエネルギーで真上に持ち上げられた建物は、次の瞬間には重力に従い地面に向けて崩れ去っていく。
「うわ……」
「派手に壊れましたね」
何か引火しやすいものでも入れていたのでしょうか。
今のが最後のものだったらしくこいしはもうないよと手を振ってくる。
相手は大混乱でしょうね。少しは想定しておいても良いと思うのですけど…普段からこういう自体への対処は考えられていないのか一向に混乱が治まる気配はない。
まあ収まらなくて良いんですけど。
「お姉ちゃん、早くお空達助けようよ。さっきの誘爆に巻き込まれないかどうかだけど……」
今言わないでよ…私だってお空達を巻き込んでるのではないかって心配が芽生えていたというのに…
こいしの方を見てみると、なにやら大型の黒いものを2つ両脇に抱えていた。
「こいしその重機関銃は……」
「預かっておいてって言われてるからさ」
「それお燐のでしょう…あの子が悲しむわよ」
こいしに預けているお燐が悪いとはいえ人のものを勝手に使うのは良くない。
それに壊したらどうするつもりよ…
「バレなきゃ問題ないんです」
それ絶対バレるからやめなさいこいし。
「どっちが悪なのかわからないんだけど……」
紫苑さん、善も悪も見方と言いかたの違いだけで実際はほとんど同じなんですよ。それに妖怪は悪じゃないですか。
「すぐ終わらせますから…こいしと紫苑さんはここで待っていてください」
再び刀を抜き右手に持つ。ふらりと立ち上がった体が少しだけ立ちくらみをする。
「お姉ちゃん1人で行くの?」
私も行くと言い出すであろうこいしの言葉を遮り私は言葉を紡ぐ。
「舞台を派手に壊す裏方が必要でしょう」
「わかった」
言いたいことが分かったのかこいしは紫苑さんを引き連れて後ろに下がった。
それじゃあ…飛び込みますか。
「あはは!」
刀を右手に構え建物に飛び込む。
障子を突き破り畳の上を体が跳ねる。
何度か転がりながら体制を整え体を起こす。
騒ぎを聞きつけて部屋に飛び込んできた妖怪2人を一筋で斬りつける。
少しだけ鈍い感触がして、鮮血が飛び散る。
呆然とする2人を押しのけ廊下を挟んだ隣の部屋に飛び込む。
外れた襖を持ち上げ放り投げる。
部屋の中で暴れたそれは、隠れていた妖怪を巻き込んで畳の上に落ちる。
「さてお空達はどこでしょうね?」
あまり遠くないところで爆発音と連続した炸裂音が響く。
こいし達の方に何かあったらしい。だけどここまで来てしまった私では戻ることはできない。
2人に任せるしかない……
止まっていても追い詰められてしまうだけなので部屋から部屋へと移動。だんだんと方向感覚がわからなくなってきた。
場所を確認したいので思いっきり畳を蹴り天井へ飛ぶ。
反動で床に穴が空いたらしいがそんなもの知ったことではない。
天井を弾幕で破壊し、続いて屋根の一部を吹き飛ばす。
瓦礫が周囲に吹き飛び煙が上がる。
なんか通過する途中で斬りつけた気がするのですが…まあ気のせいでしょう。
屋根に隠れていたヒトがいたなら別ですけど…
まあいいか……
えっと…では捕らえられている建物に行きましょうか。
場所はわかりませんがあまり遠くはないですからね…
それにヒトの動きを見て入れば大体どの場所にとらえているのかわかって来ます。
うん…あそこの建物ですね。
最初の攻撃の時には狙わなかった…いや狙えなかったところです。
屋根を蹴り空中に飛び出す。
この合間私は相手に対して無防備になってしまう。だから攻撃されないように弾幕レーザーを建物に向けて発射する。
着弾すると派手に爆発するそれらが建物を破壊していく。
瓦礫に紛れるように近くの建物の屋根に飛び降りようとして…少し手前の渡り廊下の屋根を突き破り床に叩きつけられる。
屋根を突き破った際に服の一部を引っ掛けたのか少しだけ切れてしまった。
「さて…ちょっと面倒ですけど…走りますか」
建物の中を一直線に駆け出す。
部屋があろうと壁があろうとそんなものは壊していく。いちいち廊下を走るなんてことはしない。
止めろとかなんとか相手が叫んでいますけど…はて?何を止めるのでしょうか…
目の前に出て来た妖怪を流れるように斬りつける。
急所だけは外しておきましたから死ぬことはないですけど…しばらくは戦えませんね。
私の腕を掴んで来た手を切り落とす。
血が肩から腕に降り注ぐ。
赤い外套を着ていて良かったです。血の色が目立ちませんからね。
壁を弾幕で破壊し、空中に再び飛び出す。
既に目標の建物は目の前…体に力を入れずそのまま建物の窓に体をぶつける。
ガラスが割れる音が響き私の体を抑えきれなかった窓枠が外れ床に叩きつけられる。
音を聞きつけて建物の中にいた奴らがこっちに向かってくる。
さてさて、シニタイヤツハダレカナ?
先頭一番に私のいる部屋に駆け込んで来たやつのお腹に大きなガラス片を投げ込む。
ざっくり刺さりましたね。
後続相手が私を捉えようと妖力弾を放ってくる。
横に飛びのいてそれらを回避。
それでも追いすがってくるそれらを刀で斬ったり体をひねって避ける。
精度があまりと言いたくなりますけど…まあこんなもんかと考え直す。
いい加減鬱陶しので弾幕を撃って来ている河童さんのお腹に拳を入れる。
私の腕が悲鳴をあげるが、壊れてしまう前に河童の方が吹き飛んでいった。
さてお空達は……
増援であろうヒト達が廊下の右側から駆けてくる。
ああ…そっち側にいるんですね。
廊下を駆け出す。
曲がり角に潜んでいる妖もいるかもしれないから曲がり角は極力破壊する。
爆炎と木片が飛び散り、実際隠れていたであろう妖が逃げ出す。
かと思えば私の前に飛び出して来る。
速度が付いているからもうそのまま突っ込もうかと思って…何か硬いものに体がぶつかる。
「……?壁ですか」
とっさに私は足元を払う。その瞬間壁のような感覚が消え去る。
ああ、ぬりかべですか…ほら邪魔ですよ。
あっさりと突破されたことに唖然としている少女のお腹を蹴飛ばし遠くに飛ばす。
痛いでしょうけど怪我にはならないはずです。
それでもお腹は流石に不味かったでしょうか?もう遅いデスケド。
さて、逃げれるうちに逃げてくださいよ?
部屋の外が急に騒がしくなる。
悲鳴と建物が壊れる音がだんだん近くなってくる。
それがさとり様のものだと分かって…不安半分安心半分。
これがさとり様を誘き出すための罠だってことくらいさとり様は分かっているはず…なのに、さとり様は来てしまった。
「何辛そうな顔してるのよせっかく助けが来てるのに」
「だって……」
「あっちだって罠だって知っていて来てるんでしょ?だったら対策くらいしてくるわよ」
そう…かな?でもさとり様を危険に巻き込んじゃったのは私だし…
守るって約束したのに…やっぱり私は弱い。
「ねえあんた、自分を責めるのもいい加減にしたら?今はそんなことしてる場合じゃないでしょ」
「う…うん」
女苑ちゃんに強い口調で言われちゃってしょげ返る。
確かに今は責めてる暇はない。だけど心がそう簡単に切り替わるかといえばそんなことは無い。
「ああもう!来なさい!」
痺れを切らしたのか女苑ちゃんは私の手を取り入り口まで歩き出した。
「こっちよ!助けに来てるんだったら早く助けなさい!」
「こ…声が大きいよう」
「大きくなかったら聞こえないでしょ!」
そうだけど……耳が痛い。
ガタガタという足音と、悲鳴がこっちに向かってくる。どうやら女苑ちゃんの声が聞こえたみたいだ。
しばらくして襖が蹴り飛ばされ封印が壊される。
咄嗟に女苑さんを引っ張り辛うじて襖に巻き込まれるのを防ぐ。
「おっと…封印を壊すにはこうした方が早いことが多いのでつい…」
「危ないじゃないの!」
まあまあ結界も解けたんだしいいじゃんと落ち着かせる。
事実自由の身になったのだからと女苑ちゃんも怒りをすぐに納めてくれた。
「さて、早く行きましょうか。脚本を壊しすぎてそろそろ三流作家が出てきそうですからね」
「そうね…ここあんまり財が無くてつまらないわ」
財があるとかないとかわかるのだろうか…ああそう言えば貧乏神だったっけ。
でも貧乏神にしてはキラキラだよね。なんだか面白い。
女苑ちゃんの手を取り部屋から出る。必然的にさとり様が道を教えてくれるかなと思って彼女の方を振り返ろうとして、強い妖気に当てられた。
体が動かなくなる。
真後ろで肉と服が裂ける音がする。その音に私の心臓が跳ね上がる。嫌な想像が頭を駆け巡り、そんな事はないと必死に理性が否定しているのに…それを否定することができない。
振り向けばいいのに…恐怖からか強い妖気に当てられたからか…振り返れない。
「え……?」
それは私の声だったか女苑ちゃんの声だったか…多分同時に振り返った私達両方の声だったことは確かだ。
さとり様の足にお札が巻きつき……さとり様の肩に金属の刃が突き出ていた。
「て…天狗?」
さとり様の後ろにいたのは、天狗のお面をつけた、妖だった。
「あぁ……やはり…こうなる……のですね」
「まあな…」
肉が貫かれる音だけが私の耳に残る。
肩に刺さった刃が四方八方に伸び、さとり様の体をたてに横にと貫いていた。
「うそ……さとり様っ‼︎」
全く…派手にやろうとしましたね。
相手が高笑いするのを聴きながら私は天狗の顔面に拳を叩き込む。
私の能力が間に合わなかったら確実に串刺しにされていましたよ。まあ…かなりの代償がついたのですが…
何をしたかと言えば…肩に刀を突き立てられた直後、引っ張り出したサードアイで相手の視線をしっかり捉え、トラウマ的幻想を写しているだけです。
引っ張り出した時に女苑さんとお空にも同じものがかかってしまったのですが…仕方がないと諦める。
そもそもトラウマといっても私がやったのは、私が剣に串刺しにされるというだけです。
実際彼はそうやって私を仕留めようとしたらしいですが、刃の装置が作動する前に刃を折らせていただきましたからね。実際私が負った傷は肩の刺し傷のみです。
本来こういうのは私ではなく月の兎の方がうまいのですが…まあ私の場合はサードアイで相手の心をこねくり回すのであって幻覚を見せるわけではないのです。
「監督が舞台に出て来るのは幕引きの時なんですよ」
さあ役者は退場し、後は舞台を壊すだけ。
三流は舞台とともに破壊に巻き込まれておしまい。
まあ…1つ引け目があるとすれば…そこで涙を流して私に駆け出そうとしているお空でしょうか。
彼女には悪いことをしました。
ですがあの場合一刻を争う状態。目線をサードアイが捉えてしまっても対処する時間は無かった……いや、ただの言い訳ですね。
サードアイによる記憶の操作を解く。
「…ゴハッ!」
瞬間、ぶん殴られた天狗は襲ってきた痛みに流されてその場にうずくまる。
「あ…あれ?さとり様?」
「ど…どういう事?」
逆に能力に巻き込まれた2人は何事もなかったかのように立つ私に戸惑いの声を上げる。
「能力を利用すればたやすい事です…お空、ごめんなさいね。巻き込んじゃって」
「さ…さとり様」
泣き止んだかと思えばまた涙を流し始める。もうちょっと涙強くなってくださいよ。
「無事でよかったですよお!」
大泣きしたお空に飛び込まれ、思わず尻餅をついてしまう。
まあ…私が悪いのでしばらくはこのままにしてあげよう。お空の頭を優しく撫でて安心させる。
「どうして無事何かは知らないけど…安心したわ」
「ご迷惑おかけしました」
泣きじゃくるお空をどうにか落ち着かせる。
それと同時に肩に刺さった刃を引き抜く。いつまでも刺したままでは気分が悪いですからね。
「それ痛くないの?」
「痛いのは最初の一瞬だけ…後は全然痛くないです」
「恐ろしいわ…」
さて、少し遅くなりましたけどここから逃げ出すとしましょうか。ええ、もちろん逃げますよ?
「ふん…ここから逃げられると思うなよ…」
だけど歩き出した私達の目の前にさっきの天狗さんが立ちはだかる。
割れたお面は新しいものに変わっているけれど隙間や顎から垂れている血が傷ついてますよってことを教えてくれる。
「手負いの貴女に何ができるんですか?」
「手負いなのはそっちだろう?現に私は顔しか傷を負っていないぞ」
天狗さん負け惜しみですか?早く傷を手当てしないと傷跡が残ったりしますよ?それに鼻折れてるでしょうからねえ…お面が外せない生活は嫌でしょうに…
「あんた1人でどうするわけ?」
女苑さんが天狗に食ってかかる。
まあ頭数はこちらが有利…この場ではですけど……
「勘違いするな。この建物は既に包囲済みだよ」
その言葉に2人が動揺する。
嘘という可能性もありますけど…でもその可能性はかなり低い。
実際包囲しているでしょうね。
でも貴女がこの組織の大将であるならほぼ確実ですね。
「あんたの味方2人も逃げ帰ったようだしな」
こいしと紫苑さんの事を言っているのでしょうか。
あはははと大声で笑っていますが…あまり大声を出すと傷に響きますよ?後、やってることが三流すぎますしどうしてそれを私に言っちゃうんでしょうか?
逃げられないから言ってしまおうと?慢心もほどほどにしてくださいね。
「えっと……一応言っておきますけど貴女の目的は私ですよね?」
「さとり妖怪は美味しいからなあ…」
血の味をしめた獣もこんな感情を浮かべてましたっけ。
なるほど、同族を食べてしまうとその味が忘れず何度もその同族を襲い喰らってしまう原因がこれですか。
だから幻想郷では基本的に妖怪同士で食い争う事は禁止している。そもそも同じ妖怪を食うのは禁忌に近い。それはこのような事態に陥るからであるが…それにしても覚り妖怪を喰ったとは…そういえばあの女将も美味しいとか言ってましたっけ?
「さとり妖怪が滅んだ原因って貴女達なんじゃ…」
「長期的に言えばそうかもしれないな。この地に巣作く妖怪は基本的にさとり妖怪を喰らっているものばかりだからな。お陰でお前らを捉えるのに苦労したぞ。他の組にお前たちの事がばれないようにするにはな」
結構話してくれますね。この人危機管理とか無いんでしょうか?
まあ言わなくても私が心を読んでしまえば良いのですが…それだとお空達が理解できないですよね。
まあ…理解しなくても良かったと思いますけど…お空も女苑さんもかなり動揺していますよ。
「妖怪が妖怪を食らうなんて…」
「あ……ありえない。いくら嫌われているからって…食らうなんて」
嫉み嫌われている者には何をしてもいいという風潮があったのでしょうね。その結果がこれと……
って貴女達さとり妖怪だけじゃなくて土蜘蛛とかまで食べてるじゃないですか!どれだけ横暴を……
弱肉強食だからってこれは倫理的にどうなのですか。ああ……妖怪の時点で倫理も何もなかったですね。
「特に心臓が美味しいのよ」
生々しいこと言わないでください。
「そんなベラベラ喋って良いんですか?」
「構わんよ。どうせお前らはここから逃げられない。まあお前を仕留め損なったのは痛いが死んでいないなら少しづつ食していくまでよ」
そう言うと天狗は少しづつ私に近づいてきた。いや…近づかれても困るのですけど…ええほんと。
しかもそれ折れた刀じゃないですか。まさかそれで戦おうって言うんですか?まあ一流の剣士なら例え折れた刀でもしっかりと斬り落とす事が出来るのですけど…よほど剣の腕に自信があると見える。
「さとり様に手出しはさせない!」
私と天狗の合間にお空が割って入る。
圧倒的に天狗の方が強いにもかかわらず、それでもお空は飛び込んだ。
「小娘…戦うつもりか?」
これには天狗も意外だったのか、足を止めてお空を見つめる。お面から見える瞳が驚愕に変わっている。
「小娘じゃないもん霊烏路空だもん!」
いや…そこではない。それにお空…怖いのに無理しなくていいのよ。無理してる姿を見てると辛い。
格上相手では誰だって怖いだろう。私だって格上の相手をするときは怖いですよ。
「面白い……そこまでしてそいつを庇うか?」
「さとり様は私の大事な家族だもん!絶対に庇う!」
お空……強いのね。
「ふむ…主人への忠誠心か…」
そういえば天狗ってかなり強い縦社会でしたね。忠誠とかそういうのに敏感なんでしょうか。
「……3分間待ってやる。その合間にもう一度考えるんだ。私は何も言わぬ。空とやらがどのような結論を出すか見とどけようじゃないか」
あら、珍しく名前で呼びましたね。ってことは少なからず彼女には敬意を表しているのね。
「それなら決まってる!私は戦う!」
「面白い。だが勇気と無謀を履き違えるなよ」
天狗が一歩目を踏み出そうとするのと私の腰に収められた刀が空中で光を浴びるのは同時だった。
私の刀がお空のすぐ側を通り、天狗の左腕を斬りつける。
だけど浅かったらしく服しか着れなかった。
「っち…やはり出て来るか」
「当たり前でしょう?大事な家族に傷をつけさせるわけにはいきませんから」
お空がなにかを言う前に再び私は駆け出す。今度は武器を弾き飛ばす。
想定通りに刀が天狗の手から弾き飛ばされ天井に突き刺さる。
その代わりに私も弾き飛ばされてしまうのですけれどね。
ふんっと天狗が私の方に駆け出す。
少し覚悟した方が良いかと後ろに飛び退いた。それと同時に乾いた木が割れる音が響く。
それと同時に天狗の体が大きく崩れる。
左足を抑え蹲る。夥(おびただ)しい血が流れ出ている。
再び割れる音。
今度は羽が数枚飛び散り、肩から生えていた羽から血が吹き出る。
「お姉ちゃん!外の敵片付いたよ」
同時に聞こえる妹の声。それと同時に壁を突き破り2人の人影が室内に入ってきた。
「あら、早かったじゃないの」
「姉さん、やっぱり来てくれたわね」
紫苑さんが真っ先に妹の方に駆け寄っている。
「妹を助けるのは姉の役目らしいから……」
「偶にはいい事言うじゃない」
「貴様ら…戻ってきたのか!」
元から逃げてなんてないんですけどね。何を勘違いしているのだか…
それにしても…もう少し時間がかかると思ったのですが…
「椛ちゃんとか柳君とかと違って鴉天狗って先回りの攻撃がしやすくてさ」
普通高速で動く天狗の先を予測しても速度で押し切られてしまうのですけれどね。
それに椛さん達は天狗の中でも戦闘時の動きが異端なんですよ。あの子達と比べちゃいけません。
それに天狗以外も沢山いたでしょうに…完全に意識の外に置いていたわね…可哀想だから少しくらい覚えておきなさいよ。無意識のうちに倒されていたなんて事で覚えてないやなんて悲しすぎるし相手に失礼よ。
それにしても血で汚れてますね殆ど血の色で服本来の色がわからないじゃないですか。…銃声も殆ど聞こえてませんから絶対剣を使ったわね。
「ま…まさか」
天狗の動揺した声が届く。答える義理はないのですが、散々情報を言ってくれたお礼という事で…
「ええ、貴女の思っているまさかですよ?」
サードアイが読み取った情報に肯定しておく。少しだけ違ったけどそんなもの結果の前には些細な違いだ。
外のヒト達はこいし達が全滅させた。それにしても派手に舞台を壊しましたね。
紫苑さんの心を読み惨劇を理解していく。
無事だった建物まで一緒に破壊してくるなんて……私より酷くないですか?
それに、四股を切断するなんて…それ生きているのか死んでいるのか分からないじゃないですか。
一応死んでないようですけど…
まあ、紫苑さんが近くにいたせいで不運な怪我をする人が続出しているのも問題なんですけどね。
割れた刀の先が他の人に刺さるとか不幸すぎるとしか言いようがないのですがそれが何度も何度も繰り返されるともはや偶然ではない。
それに片目に枝が刺さるってなんだか嫌すぎます。思い起こしているだけでゾッとしてきましたよ。私?いえそんなの知りませんよ。
それはこいしも例外ではないのですけれどね。まあ多少の傷は私同様すぐ治ってしまうので大丈夫なのですけれど。
「それじゃあ私はこれで帰らせていただきます。無駄な抵抗はやめた方が良いですよ?命が惜しければの話ですが…」
でもまあ…徹底的に潰しても良いかなあ?
「ま…待たんかい!まだ私が残っているだろ!」
はいはい、どうせそう言ってくると思いましたよ。
それに足と翼を撃たれただけじゃ止まりませんよね。そんなんでくたばってたら長出来ませんもんね。
ですがもう諦めたらどうなんですか?
「戦いたくないのですが…」
私はもう十分だと思いますよ?ここまで酷い有様なら外からほかの集団が攻めて着て終わりですし、私達が引導を渡さなくともことは終わる。
それにもう斬りましたし……
どこぞの剣士みたいに斬れば分かるというわけではありませんけどもう十分です。
天狗がが何が喚くがそんなものは気にしない。どうせ戦えだの卑怯者だの罵倒を言っているのだろうけど興味ない。
でも煩いのは流石に嫌ですからね。
私の胸元でサードアイが怪しく光る。視線を合わせた天狗がなにかを言いかけて……そのまま動きが止まった。
あれだけ騒いでいた天狗が動かなくなったことに全員が疑問を投げかける。
「お姉ちゃん…やっちゃったの?」
私が何をしたかに薄々気づいたこいしが心配そうに尋ねてくる。
「平気よ。それにもう忘れたわ」
繋がらない言葉の流れに紫苑さん達が首をかしげる。
「ねえさとりさんは何をしたの?」
紫苑さんは私のした事が気になったらしい。
好奇心ゆえか私の瞳を見つめながら聞いてきた。
「さあ?適当にトラウマを再生させているだけよ。100回繰り返すと解けるようになってますから大丈夫」
「精神壊れるよね?」
「壊れたら壊れたでそれまでの精神力だったって事です」
そもそも壊れようが壊れまいがそんなもの関係ない。
「そもそもお姉ちゃんが言うトラウマの再生は想起した本人もトラウマを読み取る関係でそのトラウマを対象者と同じく覚え、感じるんだよ…」
「それ…辛いんじゃ」
女苑さん、これはもう慣れですよ。それにもうどんなトラウマだったか忘れましたから…ええ、ワスレマシタ。
「さとりを敵に回しちゃダメね…」
「妖怪の天敵と言われてますからね…同じ妖怪なのに」
「お姉ちゃん知っててやってるでしょ」
使えるものは使う主義ですからね。
それにここにいつまでも止まるのもやめましょう。帰りましょうか。
「うん、なんか疲れちゃった…あ、でもあそこの桜が咲いてるの見たいなあ…」
「じゃあもう少しだけここにいましょうか」