古明地さとりは覚り妖怪である   作:ヒジキの木

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ゆうかりん再登場。


depth.97桜の下でさとりは何を思う

満開になった桜が風になびく。花から離れたいくつもの花弁がその風に乗り桜色の吹雪を演出する。

桜吹雪を目線で追いかけながら水を一口だけ飲む。

「やっぱり待っててよかったね!」

お酒の入った盃を持ちながらこいしが肩に寄りかかってくる。

「そうね…偶には良いかもしれないわ」

こいしの頭を軽く撫でて少し離す。あまりベトベト纏わり付かれても動きづらく困ってしまいますからね。それにお酒を自然に注いでこようとしますからね。

まあ、周囲を見れば桜を見ながらお酒を飲む人たちばかりなので私の方がおかしいんでしょうけれど。

「さとり様、幻想郷で見る桜と少し違いますね」

同じくお酒を飲んで顔を少しだけ赤くしたお空が私に絡んでくる。この2人揃って絡みぐせがありますね…

「種類が違うからよ。ここのは枝垂れ桜、幻想郷にある桜は八重桜が多いからね」

 

「詳しいんですね」

 

「知ってるだけよ」

 

実際枝垂れ桜を見たのは初めてである。

 

あれから1週間、ちょうど見頃を迎えた桜の下で私達はお花見をしていた。お燐も一緒にとは思ったものの、家からわざわざ呼んでくるのも彼女に申し訳ない。

戻ったら埋め合わせをしないといけないわね。それと…お空の心にも消えない傷を残してしまった事が悔やまれる。

あの時は仕方がなかったものの、後からお空の心を読んでみれば私の流した映像は彼女の心に深く傷を作っていた。その上それを理由に彼女は自分を責め続ける。責めるべき相手は私なのに……

なるべくお空には早まらないようにと言い聞かせてきたものの…やはり将来はあれが起こってしまうのだろうか。

だけどそれも今日一日限り。

そろそろ帰らないとここら辺もやばくなってきた。

 

京都の妖怪達の合間ではまさに抗争が行われている。均衡を保っていた組織の1つが実質壊滅状態になればそれを吸収しようと周囲が動く。ただ4つから3つに変わっただけだろうと多くの者はあまり深く考えなかっただろうけれど見えない程度の崩壊は既に始まっていた。均衡の崩壊が大きくなり修繕しようがない状態になって、このままじゃやばいと長達は気付き始めるがもう遅い。

彼らがどうにかしようにももう止められるレベルではなくなってしまった。

原因は勿論私達のせいだけれどもうそんなの知らない。多分紫苑さんの引き連れてきた特大不幸の結果でしょうけれど…それは向こうが悪いのだから私はもうどうもしない。ゆっくり桜を見て帰るだけです。

それでも…彼らにもそれなりの落とし前はつけてもらわないといけない。逆恨み?復讐?過剰防衛?上等、私達の同胞を滅ぼした罪は重いのですよ。黙って見過ごしてるほど今回は優しくないですからね。

「お姉ちゃんご機嫌だね」

 

「そうかしら?」

表情は変わっていないがやはりわかるのだろう。

だけど内心考えていた事と照らし合わせればなんだか複雑な気持ちになる。

「私には無表情で全く分からないわ」

 

「女苑、よくみてるとだんだんわかってくるよ」

紫苑さんも分かるのですか?なんでしょうね…分かりやすいのか分かりづらいのか…私というものはわかりません。

側に置かれていた団子を口に運ぶ。

桜もいいですけどお団子も美味しいですね。

「姉さんわかるの?」

 

「勿論」

 

「厄病神なのに……意外だわ」

厄病神って人に嫌われるから全然人集まらないですよね。でも貧乏神も同じような気がするのですが…そこはやはり世渡りの差でしょうか。実際、女苑さんの方が世渡り上手そうですしね。

「妹にいじめられた…こいし慰めて」

そう言うなり紫苑さんはこいしに抱きついた。

「あんたは子供か!」

 

「子供心を持つのも大事だよ」

 

厄病神だけど…

ってお空もどうして私に抱きつこうとしてくるのですか。

ちょっと、やめてくださいよ。苦しいですから。わ、分かりましたよ。

「あらあら、お楽しみのようでございんすね」

抱きついてくるお空をどうにかして落ち着かせ、少しだけ水を飲んでいると人混みの中から声をかけてくる人物が一人。

 

「ああ、女将さん。貴女もこちらに来たのですか」

枝垂れ桜の絵が描かれた着物をやや黒い赤色の帯で結び綺麗に着こなした女将さんが私達の隣に腰を下ろした。

一瞬だけこいしとお空が警戒する。まあ…彼女は大丈夫でしょう。

「ええ、しばらくお店は休業になりんす。今日のうちに私も少し旅をしようかと思ったところでありんす」

 

やはり巻き込まれるのはごめんなのだろう。

町には被害が出ないとは思いますけど町に住む妖怪には影響は大きく出る。それにどちらかに味方しろと脅してくる輩もいるだろう。

 

「ふーん…それじゃあ女将さんも今日は桜の見納め?」

こいしがいつも通りに…でも探りをかける。

「そういうことにしてくださいまし。それに警戒しなくても私は客の妖に手を出す程外道に成り下がった覚えはありやせん」

 

あらあら鋭い。まあ、嘘は言っていないでしょうからまだ大丈夫ですね。

「そっか!じゃあ一緒に楽しもう!」

こいしも納得したらしい。黙ってみていた紫苑さん達も安堵したかのようにまたお酒を飲み始めた。

「ほらお空もいつまでも睨んでないで…」

 

「わかりました……」

お空は疑い深いんだから…

 

「それにしても綺麗なものでございんす」

 

「普段は見にこないの?」

 

こいしがお酒を注ぎながら女将さんに問いかける。

それは純粋な疑問だったのだろう。

 

「ここにきてからは初めて見るんです。昔は雪山ばかり篭っていましたからねえ」

 

雪女ですからそれは仕方がないでしょう…でもさすがに一度はくるものではないのだろうか…

「丁度そこの川に食べ終わった人間の骨を流すものですからあまり桜を見ようとは思わないんですよ」

 

なるほど…それならここにあまり来ないのも納得したりします。

「じゃあ今日は珍しいんだね!」

 

「ええ…少しくらい楽しもうかなと思ったものですから」

気まぐれ…妖怪なんて所詮気まぐれだろう。

別に悪いとかそういうわけではないですけれど。

「そうなんだ……女将さんはやっぱりさとり妖怪食べてたの?」

お空が小声で女将さんに耳打ちする。わたしにはバッチリ聞こえましたけどね。

私がさとり妖怪であるというのはまだ広まっていない。だけれど知れば食べるのだろうか。

「食べないわよ。あれは若さ故の過ちでございます」

 

きっぱりと否定したということは大丈夫…だろう。だけれど…心を読んだ方が確実だ。

だからこっそりと読ませてもらう。サードアイをちらっと出してすぐにしまう。少しして情報が頭の中に入ってくる。

嘘ではなかったです。

 

「あ…」

 

「きゃ!」

 

タイミングを計ったかのように紫苑さん達の方で何やら問題が発生したようだ。

流石厄病神…どうして女苑さんの頭にお酒をひっくり返しているんですか。

 

「ごめん……」

まあ本人はあまり怒っていないようですし…あ、いや…内心すごい怒ってますね。

でもそれをぶつけないだけまだ倫理観がしっかりしているというか…慣れているというか。

「いっそのこと着替えたらどうです?その服じゃ目立ちますし」

 

1人だけゴージャス感…いや成金感漂う洋服とか異質すぎる。

まだ何枚か予備の服がありますからそれに着替えさせましょう…

 

体系的に私かこいしの服が合うはずだ。とは言ってもこいしの服を勝手に渡すわけにはいかないから私のものに限定されてしまう。

服を持たせてすぐに着替えさせた。

結果…胸がスカスカするとものすごい怒られた。

訳がわからないのですけれど……

「似合ってるじゃないですか」

 

「く……言い返せないのが辛いわ」

 

 

 

 

 

 

 

日が暮れ始め、桜が夕日に照らされる。

このまま夜桜を楽しむのも考えましたけど…あまり遅いと巻き込まれる可能性が高まるのでここは仕方がないと割り切る。

お団子やお酒を提供してくれたお店で勘定をしている合間に全員準備を整えたらしく、先程までの酔っ払いたちはどこにもいなかった。

女将さんは先に出たらしく既にいなくなっていた。まあ…一緒にいる理由も無くなりましたから当然といえば当然なのですけれどね。

「さて、帰りましょうか」

 

「その前に少しお土産買っていこうよ」

日持ちしないものはダメですからねこいし。

 

夜の京都も賑やかですが、昼間のそれとはまた違った賑わいを見せる。その中を通り、こっそりと街を出れば、辺りは一気に暗闇に戻る。

少し離れてみれば街の煌びやかな灯りが暗闇の中に幻想的な雰囲気で浮かび上がる。

「さとり様、綺麗ですね」

 

「ええ……綺麗ね」

 

あの光の陰で妖怪達は何をしているのだろう。

そんな陰気臭い考えはこの際置いておこう。わたしにはもう関係のないことですから。

「あ、お姉ちゃん……ちょっとトイレしてくる」

 

「私も…」

こいしだけじゃなく紫苑さんもですか?まあいいですけど…気をつけてくださいね。

 

 

 

 

再度こいし達と合流してのんびりと歩き始めれば、向こうから誰かが歩いてくるのが見える。こんな夜遅くに1人。それにどこか会ったことのある雰囲気なのですけれど…

「あら?また会ったわね」

 

「幽香さん。お久しぶりです」

白いシャツに赤色のチェック柄のスカート。緑色の髪は以前とは違い腰まで伸びている。不敵に笑みを浮かべる彼女の目線が私達を品定めするかのようになめずり回す。初対面のこいしや紫苑さんは一瞬にして恐怖に支配されてしまう。

「ええ、久しぶり…ところであちらで何か面白いことやってそうな雰囲気なんだけど?」

彼女の言葉1つ1つが重圧のようにのしかかる。もちろん私は平気ですけど…

「ただの妖怪大戦争らしいですよ?興味ないので私達は逃げますけど」

少しだけサードアイをのぞかせて彼女の心を読むことにした。なんとなくの出来心である。

「あら、面白そうじゃない」

(せっかく京都に花見に来たのにこれじゃあ楽しめないじゃない。でも祭りでもやってるのかと思ってつい面白そうって言っちゃったし…うう…逃げようかしら)

 

え…ちょっと幽香さん何やっちゃってるんですか。口が滑ったとかそういう次元じゃないですよそれ。

ともかくここは離れましょう。彼女が後戻りできなくなってしまう。

「幽香さんって強いんだよね!もしかして戦争で戦ってくるの?」

だけど私の心配をねじ伏せるかのようにこいしが無邪気にも幽香さんに言葉を投げた。

「「……え?」」

 

私と幽香さんの声が重なる。

 

(いやいや、私はそんな強くないし怖いものに首を突っ込みたくないし…)

「戦いに興味なんてないわ…」

幽香さん…目線が怖い。後その笑顔も…そんなんだから勘違いされるんですよ!分かってます?言いませんけど…

「なるほど…下集?なんか集まっても無駄と…流石ゆかりんとサシで渡り合ったって言われるだけあるね!」

こいしもどうしてそう捉えちゃうのよ!完全にひどい勘違いをしちゃってるわよ。

後幽香さん睨まないで…いくらこいしでも怖くて震え始めてるじゃない。

(何よその噂!あれはただ怖くてずっと必死で逃げ回っていただけなのに…なんでそんな…あのやろう…)

 

「さとり様…幽香さん怖い」

 

「ねえ、さとりの友人ってこんな人ばかりなの?」

 

「よくわからないけど…流石に違うと思うよ女苑」

ちょっとそこの2人、私に変な目線を向けないでください。幽香さんは怖くないですから。結構可愛いから。

 

「そこの2人は?」

(あ…友達が増えると思ったけど…あそこまで怖がられちゃもうダメそう…でも負けちゃダメ!何事も挑戦だから)

 

「ひっ…ご、ごめんなさい!今すぐ視界から消えるから消しとばさないで」

 

「ね…姉さん、お、落ち着いて…私も一緒に逃げさせて」

顔を真っ青にして震えだす2人。

あーこれはダメですね。完全に幽香さんの覇気に怖気ついちゃってますね。

「……もういいわ」

(うわぁん!私のバカ!どうして睨んじゃうのよ!もっと笑顔で…)

その笑顔が怖いんですよ!完全に獲物を捕まえた蛇がするような笑みですよ。

「ここでいつまでも立ち話してる時間はないわ…それでは幽香さんお先に失礼します」

 

遅いかもしれないけれど…こちらから切り出すことにしよう。

「ええ、また会いましょう」

(次会う時はもっと笑顔で友好的にしましょう…)

 

全く…幽香さんも大変ですね。

 

幽香さんが見えなくなると、ようやく落ち着いたのか、お空やこいしが私に抱きついてきた。

「怖かったよお…」

 

紫苑さん達も腰が抜けてしまったのかその場に座り込んでしまっている。

「こいし…ああ見えて心の中は可愛いんですよ」

 

「そうなの?想像できないんだけど……」

 

彼女凄い人見知りと怖い覇気持ってますからね…ふつうに微笑んだだけでもかなりの恐ろしさなのは認めます。

心と照らし合わせると仲良くなりたくて笑顔をしているだけですけれど。

何だかんだ苦労していますね。

 

誤解を解いてあげたいのは山々ですけど…今のままでは解けそうにない。

すいません幽香さん、私では力不足です。

彼女には届きそうにない謝罪をしながら私達は帰路につくのだった。

 

その後風の噂では不幸にもひまわり畑が逃げてきた妖怪に荒らされそっちの方で修羅場が生まれていたのだとかなんだとかで暫くはひまわり畑に近づくなと恐れられていた。





【挿絵表示】

博麗華恋色は…すいません想像で
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