古明地さとりは覚り妖怪である   作:鹿尾菜

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今回は超ゴー金様より挿絵を頂きました!
本編内にありますのでぜひ見てください!


depth.103さとりは巻き込まれる体質なのか?

春先を告げるかのようにいくつもの桜が咲きピンク色の絨毯が所々に出来ている。

それが疎らになっているのは、桜の種類によって咲く季節がまばらだからだろう。

それもそれで、見ていて飽きることがないからむしろ喜ばしいのです。ただ、前世の記憶にある満開の桜達より迫力がないのは確か。

「その分……1つ1つの美しさが増すんですけれどね」

ふらりふらりと足を進める。

私の足を追いかけるように散っていた桜の花びらが舞い上がる。

落ちて間もないものばかりだからこそ起こる幻想的な空間だ。

 

そんな光景をあっちやこっちや色々と見て回る。

これも結局は私の変な癖…いやこいしもそうだから覚り妖怪としての癖のようなものだろうか…あるいは日課になってしまっているのか。

 

どちらにせよ考え事をするときはよく歩く。ん?そうでもない……どっちでしょうね?

 

まあそんなことはいいやと再び歩く。

ついこの前に船の処遇などをどうするかとか色々話したいことがあったからムラサさんとコンタクトを取り色々話していた。内容はほぼ忘れているしふと思い出したことだから正直優先度は高くないのだろう。

 

記憶がおぼろげなのは…思い出したくない記憶を隠しつつ仕事ばかりしていたからだろう。

いつものことだけれど……思い出したくないことは無意識に押し付けている。それが嫌だけれど私の心は勝手に記憶を消して行こうとする。

難しいものだ…覚りと言えどこの程度では…まだまだです。

 

ふと自分の足が向いている方を思い出す。

この方向は……博麗神社。

 

そうか…きっとそうなのだろう。

全く……無意識とは意地悪なものですね。

考えれば出てくるということはまだ無意識に入りかけているところだろう。

まあ、ここ数ヶ月あっていませんし、今更ですが少し顔を出しますか。

 

 

そうと決まれば歩くのは早い。

半分飛んでいるような気もしたけれど多分歩いていたはずだ。

だって博麗神社の境内じゃ飛べないし。

 

 

 

 

 

 

丁度側に植えられた桜が満開になり、桜色の雨をお墓に降らせている。ここには華恋以外にも歴代巫女さんが眠っている。

廻霊さんもそういえば……前に来たのはいつでしたっけ?

随分と久しぶりになってしまいましたね。

「……久しぶりですね」

 

返事は返ってこない。そうだろう…私がしっかり見送ったのだ。

人間の寿命の短さは身にしみてわかってはいますが、どうもこればかりは慣れない。

残されるもの…先に逝くもの。

いくら真似をして心は人間だと言ってもこうして現実を突きつけられたらやはり妖怪なのかなあって思ってしまう。

 

……廻霊さんの時もそう感じたはずなのに。

 

「あら、さとりじゃないの」

 

ふと後ろから声がした。

 

 

【挿絵表示】

 

 

それは私やこいしと同じく人間であった者。

 

黒色の巫女服を着て髪を短めに切った女性……

靈夜さんだった。

「久しぶりですね」

 

最後に会ったのは葬式の時。葬式とは言っても巫女の葬式に来ていたのは現役の博麗と私を除けば彼女と紫御一行だけ。

随分と寂しいものでした。

 

人間だって守られていたのだから来れば良いのにと藍さんが言っていましたね。

まあ仕方がないことだとは思う。

人間からして見れば妖怪とサシで渡り合える人間なんてもはや人間ではないと恐れられているのだ。

博麗の巫女は確かに妖怪退治のプロかもしれないが決してヒーローではない。彼女の圧倒的な力は人々を安心させるどころか人間の本能は逆に恐ろしいという感情さえ浮かばせてしまう。

理性が押し留める内はまだ目を瞑ることが出来るけれど…それが利かなくなるほど恐怖が膨れ上がった時……いえ、この話はやめましょう。

悲しいけれどそれが現実なのだ。

美しくてもこの桜のように誰しもを魅了することも出来ずただ誰にも見届けられず散るのを待つのみ。

ガサガサと足音が近づいてくる。私が気づいた段階でもかなり近かった気がしますが今や真後ろときた。

 

「久しぶりね……まだ割り切れないの?」

 

「どうもスッパリ出来なくてですね」

 

「阿呆らしい」

 

アホですいません。

不機嫌そうな顔をする彼女は私の隣に来るや否や頭を強く撫で始めた。

乱暴な手の動きで髪の毛があっさりと崩れてしまう。

気づけば鏡を見なくてもボサボサになっていると分かるほど荒れてしまった。

だけれど悪い気分ではない。

 

 

「……用が済んだらさっさと行きなさい」

 

そうします。それにしても……世話焼きが下手なのは変わらないですね。安心しました。

でも下手だからこそ…飾り気もなく本心をそのままに相手にぶつけることができるのですけれど。

どっちもどっち……

 

そんな…本人が一番気にしているであろう事をやんわり伝えれば、顔を赤くして靈夜さんが襲いかかってきた。といっても本気で倒しに来ているわけではないから本気で逃げはしない。

結局じゃれているようなそんなものである。

放たれるお札を避けて境内を突っ走る。

そのまま鳥居をくぐれば、体に力が戻ってくる。すぐに体に浮力を灯し空に浮かぶ。

相変わらず追いかけてくる靈夜さん。

留守にしている巫女が帰ってきていたら真っ先にボコされているだろう光景だけれど…なんだか悪くはない。

「あ…靈夜さん、これからどこか食べに行きませんか?」

 

「それを今言う⁈貴女の奢りなら考えるけど」

 

突っ込みながらも結局、話には乗ってくれる。

しかしどこに連れていきましょうか……

どうせならあまり目立たない所の方が良い。

 

おっと危ない。

体を左上に持ち上げ推進力を消す。同時に浮力をなくし宙返り擬きをしながら落下していく。

さっきまで私がいたところをお札と、やや遅れて靈夜さんが通り抜ける。

その真下に移動する形になった私は素早く彼女の後ろに回り込み、逃げ切りましたよと伝える。

舌打ちをしながらも私を追いかけるのをやめてくれた。

 

あのままじゃいつまでたっても逃げっぱなし追いかけっぱなしでしたね。原因?知りませんよ?

 

「清々しい奴め……こうなったら高いもの注文してやる」

 

「財布に痛々しい事を言わないでくださいよ…」

 

「あんたが悪いんだからね」

 

知ってますよ?悪いってことくらい……

でも悪いからなんですか!一応事実じゃないですか。

あ…でもそこまでってわけでも…いやそれが私が覚り妖怪だからであって一般の人から見たら事実か。

 

「人の顔見て何考え込んでいるよの」

 

「……ツンデレって大変だなあって思ってました」

 

「なにそれ…訳がわからないけれどすごく失礼なことだってのはなんとなく伝わってくるわ」

 

別に失礼じゃないんですけれどね。ただ……自分の感情に素直になれず天邪鬼のように突き放すような事を口にしてしまうその心理に色々と考えが浮かんでしまうってだけです。

 

うん……それだけ。

地上に近づいていた体を少しだけ立て直し、両足からゆっくりと地面に降り立つ。

私に続いて靈夜さんも着地。ゆっくりと私の後をついてき出す。

 

「まあいいわ……それで、どこに連れて行ってくれるのかしら。美味しいところじゃなかたらどうなるか分かってるんでしょうね」

 

「戦争しましょうと言うことですよね」

後ろから殺気の1つや2つ浴びせられるかと思ったがそういうことはなかった。

「よくわかってるじゃない」

むしろ喜ばれた…アメリカンジョークってことでもなんでもないというのに……

本気で戦争がしたかったんですか…怖いです。この人怖いです…具体的にいうとヘルシン◯の大佐って感じがする。

後は不機嫌そうな顔のせいで余計に怖さが際だってしまっている。

 

 

「あ、さとりさんに靈夜さん」

 

ふと空から声をかけられた。声のした方向へ顔を向けると、そこには赤色の外套を上に着込んだ隻腕の妖精がいた。義腕は修理中の為つけていない。

……と、その後ろで太陽を背に頑張って近づこうとしている氷精。

少しだけ太陽と私との軸線から逸れてしまっているから影が見えてしまっている。

 

「チルノちゃんバレバレですよ」

 

「なんだー!よく分かったな!」

だって見えてましたもん。

 

「あー戦闘狂とバカか」

 

「バカとはなんだ!チルノだ!」

靈夜さんが喧嘩を売るせいで何もしていないのに一触即発な事態になってしまっている。

もう二人は置いて帰ろうかな…私が悪いわけじゃないですし…

 

それに船の方が気になる。

1週間で終わるはずだった工事は数ヶ月経った今でも続行している。

なんでも、改造に改造を重ねていった結果工事が延期しているのだとか。

だからあの時残っておいたほうがよかったのではとにとりさんを問い詰めたものの、全員酔っ払ってしまっていて気づいたらあれやこれやを搭載、さらに船体を大型化するにあたって新たな竜骨と船体の増設ともうやりたい放題。

現場に戻ったムラサさんも呆れていた。

そんなのだからなるべく早めに戻って監視の目を光らせておきたい。

 

「さとりさん達はこれから食事ですか?」

 

大ちゃんが私の袖を引っ張って聞いてくる。思考をすぐに現実に戻し状況を確認する。

相変わらず二人は睨み合っていつけれど、少しは気が収まったらしい。

「一応これからですよ」

 

私の答えを聞いた彼女は急に目を輝かせ始めた。

「でしたら私の家に来てください!丁度料理を作り過ぎてしまいまして」

どうやら今日は妖精達が遊びに来るから少し多めに作っていたらしいがさっき急に取りやめになって料理をどうするか悩んでいたらしい。

「なるほど……靈夜さんはどうしますか?」

 

「私は構わないけれど…こいつも来るんでしょ?」

そう言いながら靈夜さんはチルノちゃんを指差す。

「あたいだってこんな生意気なやつと一緒なんていや!」

それに反論するかのようにチルノちゃんも叫ぶ。

これじゃあ平行線になってしまう…

「……じゃあ、私達だけで一緒に食べましょう」

 

「え、ですが……そうしましょう!」

大ちゃんも私の意図を察したのか直ぐに私に合わせてきた。

この2人はここに置いておく。万が一付いてきても食事は…ダメとしておきましょう。そんな話を聞こえるように話していけばさすがに不味いと感じたのか2人が私達のそばに近寄ってくる。

 

「あ…さとり?それ本気?」

本気ですよ?だって辞めないんですから仕方ないじゃないですか。待つだけ時間の無駄ですから。

「大ちゃん?冗談だよね…」

 

「ごめんねチルノちゃん…」

 

可哀想だろうけれどここは心を鬼にしてと大ちゃんはチルノちゃんの声を遮る。

「私が悪かったから…ね?さとりも落ち着こう?」

 

「待って大ちゃん!嫌いになっちゃったなら謝るしなんでもするから!」

 

2人ともお昼抜きは辛いことを知っているからか結構必死のようだ。

特にチルノちゃんは普段から食事を作ることが少なく基本的に大ちゃんの家で食べていることが多いらしく今日も朝ごはんを食べていないのだとか。

まあそれなら昼まで抜かれるのは堪えるものがある。

 

「じゃあ二人が互いに謝ってくれたら良いですよ?」

 

「「……え?」」

 

それが出来なければダメですよと伝えれば素早く二人は動き出した。

早いことなんの…やはり人は食欲には勝てないか。どちらも人じゃないんですけれどね。

それでも互いに土下座って…そこまでしてとは言っていない。そもそも土下座をここでやらないでください。通行のお邪魔です。

まあここは道じゃないですし人がくるって事はありませんけど服が汚れるじゃないですか。

流石にやりすぎだと頭を上げさせる。

 

あーやっぱり汚れてる。

ほら汚れ落して。チルノちゃん暴れないで。土の汚れは一度擦れたら落とすのが大変なんですからね。

「さとりさんって…おかんみたいなところ時々ありますよね」

 

「それ大ちゃんもだよ!」

 

少なくともチルノちゃんの意見には賛成。

 

「チルノちゃんおかんの意味分かっている?」

 

「オレンジ色でよく冬に食べる…」

 

流石にそれを本心で言っているわけではないって言うのは目を見ればわかる。

実際チルノちゃんは言うほど馬鹿ではない。

頭の回転は早いし知識量も普通の妖精より豊富。ただ天然が入っているのか時々しれっと変なことを言う。

例えるなら、大ちゃんに天然とお転婆と暴れん坊なところを足した感じに近い。

 

「……馬鹿やってないで早く行くわよ」

 

「あ…靈夜さんそっちじゃなくてこっちです」

 

「……」

 

靈夜さん…ちょっと何ですか?

思いっきり私に八つ当たりしてくるのやめてください。危ないですから。

危なくしてる?いやいや、私はもう疲れたんですから。ええ、ですからもうやめましょう争いなんて生む事よりも壊すことの方が圧倒的に多いものなんですから。

 

「お?もしかしてさとりは戦い足りないの?」

 

チルノちゃん?一体どうしたらそのような結論に至るんですか?ぜひその思考を教えてくれないかしら?

「そうみたいよ。チルノとか言ったっけ?相手してあげたら?」

 

靈夜さん何考えているんですか?思いっきり悪い笑み浮かべないで…怖い。

「え?じゃあすぐ始めよ!あたいの力にひれふすがいー!をやって見たいし!」

 

理由が理由なだけに断りたい。

だけど断れそうにない雰囲気。大ちゃんまで苦笑いしてしまっているのだ…ああ、これはダメだ。

 

「ご飯食べてからにしましょう」

私にできることはせめて先延ばしするくらいだった。

 

 

 

肌を舐めるように冷気がまとわりつく。

皮膚の表面から体温が奪われ、動きが鈍くなっていく。

でもそれだけではない。足や腕に氷が張り付いているのも動きの低下を招いている原因だろう。

 

厄介なことこの上ない。

一応チルノちゃんは普通の姿であって冬場の本気状態というわけではない。

だからこれも全盛期に比べれば全然弱い方なのだろう。

それでも妖精という枠から完全に逸脱している。

少し離れたところで見ている大ちゃんが苦笑いしている。まあ彼女も妖精の枠を逸脱していますけれど……

大ちゃんだって素の力じゃここまでない。あれは技で急所を狙うから強いのであってチルノちゃんのように力でゴリ押すのではない。

 

「ふふん!寒くて動けないだろ!」

 

チルノちゃんがドヤ顔をしながら冷気を強める。

私がその場から動かないのを良いことにこのまま氷漬けにするつもりなのでしょう。

さて私がどうしてこうなってしまっているのか…それはほんの数分前の事でした。

別に今思い出すのも面倒ですけれどね。まあ、走馬灯とまではいきませんがなんとなく思い出したという感じです。

 

 

大ちゃんの家で食事を楽しんで……私が食べ終わった直後にほらどちらが強いか決めようじゃないかとやってくる。

嫌だと断っても無理に引っ張ってくるわでもう拒否権はない。

 

靈夜さんに助けを求めたものの、面白そうだからと言う理由で諦めろと言われる始末。

そして戦いが始まってみればこの結果である。

私はもちろん一歩も動いていないし攻撃すらしていない。

 

「なあお前!」

 

体が半分くらい氷に覆われてきたところでチルノちゃんが声をかけてくる。何だろう…命乞いをしろとでも言うのだろうか?

 

「何ですか?私はもう降参したいのですが」

 

「あたいと戦う時くらい本気でやってよ!」

 

冷気が弱まり体に張り付いた氷がだんだん溶けてくる。

どうやら本気の戦いが希望だったらしいけれど…そもそも戦う気無いですから。

「私は戦いたくないのですが……」

 

「関係ない!あたいが戦いたいの!それに、本気で戦わないなら一生許さない!」

 

そんな理不尽な……じゃあ勝ちにいけばいいんですか?本気も何も私は戦い好きじゃないですし下手ですし……まあそれで良いと言うのであればそれでも良いのですがね。

弱すぎて絶望したなんてやめてくださいよ。

 

「分かりました…」

 

結局戦うことになるとは…このまま氷漬けにされて負けを認めたかった。

しかし寒いし冷たい……氷が溶けるのを待っていたら時間も過ぎてしまいます。

 

私の周りに弾幕を生成しチルノに向けて射出。同時に弾幕の熱で氷を溶かしていく。

チルノちゃんが弾幕を躱そうと左右に大きく動く。そのおかげで私に当てられていた冷気が消え氷の生成が止まる。

弾幕の熱により溶かされた氷が私の体を濡らしていく。

うーん…冷たいしなんだか衣服が肌にくっついて嫌だ。だけれど仕方がない。

 

あの…大ちゃんと靈夜さんはなんでこっちを見ているんですか?怖いですよ。

え…透けてる?知りませんよそんなこと。

 

体が動くようになったのですぐに後退する。

逃がさないと言わんばかりに氷の粒の形をした弾幕が襲いかかる。

それらを新たに作り出した弾幕とレーザー弾幕で撃墜していく。

 

冷たい弾幕が一瞬で溶け白い煙が立ち込める。

視界不良…それは向こうも同じ。

 

不意に周囲の温度が下がった。

何か大技をやってくるのだろうか…どちらにしろこちらもただで受けるわけにはいかない。

そう思っていると白い煙を突き破ってチルノが飛び込んできた。両手には大きな氷の剣を構えている。咄嗟に体を捻ってその剣を回避。左足で手元を蹴り上げる。

剣自体は弾き飛ばされなかったようですけれどそれでも隙は出来た。

脇腹に弾幕を叩き込む。

だけど躱された。

バランスを崩した状態で後ろに弾け飛び空中に舞い戻った…多分何も考えずに感覚で動いたのでしょうね。

 

まあ関係ない…すぐに次です。

大きな剣は振り回すと隙ができやすいし構えるのにも時間がかかる。

だからその合間に攻撃させていただきますね。

腰から短刀を引き抜き急接近。私の手に握られているそれを見てチルノはすぐに冷気を吹き付けてくる。

さっきのよりも強力なもの…当たれば数秒で氷漬けにされてしまう。

右にロールをして回避。勿論逃げられたわけではない。

追いかけてくる冷気の砲撃…みたいなものを上や横に旋回しながらかわしていく。なかなか近づけないのが困りごと…

弾幕をいくつか撃って見たけれど冷気でまとめて凍らされてしまう。

 

だけれど弾幕を凍りつかせるために私のへの射線が外れる。

その合間に一気に距離を詰める。

気づいたチルノが慌てて逃げようとするけれど間に合わない。

 

だけれどそれはチルノも私も予期したことが起こればですけれど……

私達も予測していなかった攻撃がチルノに当たる。それは撃ち出していた氷の弾幕…跳弾したか誘導型が失敗して戻ってきたらしくチルノに命中。弾かれたチルノに私の短刀が追従できるはずもない。

結局、チルノの右側の羽を少しだけ斬っただけにとどまった。

 

 

惜しいなあ…でも直撃させると死んじゃうからなあ…あ、でも妖精なら死んでも問題ないか。

 

チルノが短刀の間合いから外れてしまったので仕切り直し。いつまでも手に握っているものではない短刀はちゃんとさやに戻す。

先に動いたのはチルノ。

私めがけてありったけの弾幕に冷気をぶつけてくるようだ。

春だと言うのに周囲は冬景色に戻りそう…それに心なしかスペルカードのような煌びやかのもに変わっていっている。

それでも正面が安全とかそういう事はなく、倒しに来る弾幕配置だと言うことは分からない。

それにしても…逃げ道を塞いだり誘導したり弾幕の使い方が上手だ。

本人は自覚してやっているわけではないようだ。つまり天性の才能…流石チルノと言ったところ…まあその方が私もタノシメル。

 

体の底から熱が上がってくる感覚に蝕まれる。

周囲の光景が少しだけ遅く感じるようになる。体の動きは分からないから…ただ視界を脳に送る器官に血液が集中していると言うことだろう。

接近する弾幕をスレスレで避ける。

たまに出した弾幕で弾幕を弾き飛ばし道がなければ作っていく。

そうこうしているうちに体力が切れたのか弾幕が止まる。

チルノの方を見れば、かなり息が上がっているのが見える。

まああれだけの弾幕に冷気にと使っていたらそうなるだろう。

 

終わらせましょうと接近しようとすればまだだと叫びながら再び氷の大剣が出現する。

その上チルノの羽もなんだか大きく成長している。

私に向かってくる。それに真正面から突っ込む。

剣を前に構えたチルノ。どうやらそのまま突き刺そうと考えているようだ。

剣が接触するコンマ数秒前僅かながら右にロール、お腹の方をチルノに向けながら、引き抜いた短刀で氷の大剣を僅かに弾く。

すぐに後ろに通り過ぎる。

素早く向きを変えて追撃。向こうも考えは同じなのか向き直って再度刺そうとしてくる。

今度はしっかりと…でも攻撃を加えながら通過。

殆どは大剣や弾幕で弾かれたものの、爆風程度の被害は与えたはずだ。

もう一度反転。身体にかかる負荷で少しだけ視界が狭まる。

食後に行うような運動では絶対ないはずなんですけれど…仕方がない。ある程度全力で行かないとチルノは怒るでしょうからね。本気でやれだなんだって。それに……靈夜さんも怒りそうです。

反転した直後、私の直ぐそばに水色の弾幕が着弾し爆発する。

それらの中から氷の粒が四方にばらまかれ、私の服の裾を引き裂いた。

後で直さないとなあなんて呑気なことを考えてしまうのは私が呑気だからでしょうか?

振り返ってみればいつのまにかチルノの大剣は2つに増えていた。どうやらすれ違った直後にもう一つ追加して二本態勢になったようだ。

 

あの大剣を片手で振り回すなんてと思ったらものの、確かにあれほどの大きさのもの…当たれば例え弾いたり受け止めてもその質量で弾き飛ばされるのはこっちだ。

厄介…それに距離を取りたくても詰められる。

 

ならば真っ直ぐ突っ込むのみ。

 

 

 

 

 

さとりさんの姿が視界から消える。

いや、ちゃんと目線は追えている。だけれどその姿がブレてしまいちゃんと見ることができない。

咄嗟の判断でチルノちゃんの方に目線を移すと、丁度紫色のなにかがチルノちゃんを弾き飛ばした瞬間だった。

さとりさんの長い髪が動きの軌跡を描いていく。

「ありゃ…本気みたいね」

 

「そうでしょうか?」

靈夜さんとか言った元巫女の言葉に思わず疑問を投げかけてしまう。

たしかに私が稽古をつけてもらっていた時よりかは強い。だけれど…あれが本気だとは思えない。全力かどうかは別だけれど。

 

でもあれが全力な訳ないよね…だって…まだ動体視力が追いつけているから。

「あんたあいつがどれほど強いから知っているの?」

「さあ?多少稽古はしてもらいましたけど全力って訳でも本気ってわけでもなさそうでしたよ」

 

それにさとりさんは本来戦いが苦手だったはず。

一回聞いたことがあるけれど…確かあの時は出来なくもないけど好きじゃないし戦いたくないとか言ってましたっけ?

 

そんな風には思えませんけれど確かに覚り妖怪は戦いが苦手だったと聞いてます。

「……まあ覚り妖怪の本領は精神支配にあるからそう言われればそうかもしれないわ」

 

「でもこいしさんもさとりさんも精神支配ってイメージないですよね」

どちらかと言えば精神を壊して廃人にする方が得意な気がします。というか今まで見てきた中で覚りらしいことしていたのってそれくらいしかないですし…

こいしさんの方は……あれ?精神攻撃しているところを一度も見たことないですね。

だいたい剣を振り回して斬りとばすばかりです。

 

「……今あんたが考えていること当てようか?」

 

「当てられるのなら」

 

「こいしが覚り妖怪らしいことしていない」

 

あなた…もしかしてさとりさんと同じで心を読めるのではないのでしょうか?

「あんた顔に出やすいのよ」

そんなに出やすいでしょうか…たしかにさとりさんにも何考えているかすぐに分かると言われたことありますけど。

 

「あ…そろそろ終わりそうよ」

靈夜さんはそう言って再び2人に視線を戻した。釣られて私も2人を見上げる。

そこには、翼もボロボロで息が上がっているチルノちゃんに刀を構えるさとりさんの姿があった。

あれはもうチルノちゃんの負けかな…でもさとりさんは勝つ気無さそうです。

「降参します」

やっぱり……さとりさん降参しちゃったよ。

 

どうして降参してしまうのでしょうか…あそこまで追い詰めれば確実に勝てるのだしチルノちゃんだって…あーでも覚えていないかもしれないけれど。

力が抜けたチルノちゃんを抱きかかえながら降りてきたさとりさんに疑問の目線を向ける。

だけれどそれを軽く流されてしまう。

ただ単純に気づいていないだけかもしれないけれど。

 

「ねえ、どうして降参なんてしたの?」

 

フラフラしながらも立ち上がったチルノちゃんがさとりさんに訪ねた。

「勝ち負けのために戦っているわけじゃないですからね」

じゃあ何の為に戦っていると言うのだろうか?

私にはよくわからない。チルノちゃんもさとりさんの言葉に首を傾げている。

「ああなるほどね」

 

ただ一人、靈夜さんはわかったようだった。

 

「どういうことですか?」

 

「簡単よ、妖怪や妖精は死んでも概念が滅ばない限り完全な死は来ない。だから何度でも復活できる…でも私たち人間は一度死んだらそれまでだから戦う時は勝つか負けるかより生き残れるかどうかに重点を置くの。さとりの場合はそっちの傾向が強いってことよ」

 

「流石巫女さんですね」

さとりさんが靈夜さんに拍手を送る。

上手くは理解できなかったけど…要は考え方…在り方の問題かもしれない。

「あんたが分かりやすいだけよ」

 

そうでしょうかと首を傾げるさとりさん。無表情なところ以外は結構わかりやすいですね。言動とか行動とか…

そういえばチルノちゃんさっきからだんまりしてどうしたんだろう?

ずっと下向いているから顔が隠れてよく見えないや。

 

「3人とも訳がわからない!」

 

「ああ、ごめんなさいねチルノちゃん」

さとりさんが真っ先に謝り私もごめんごめんと怒るチルノちゃんをなだめる。

あ、ほら氷桜があるよ!綺麗だね!

 

「ふふーん!これはあたいが作ったものだよ!」

まあ…偶然生まれたものだけどチルノちゃんが作ったことに代わりはないですから気にしないでおこう。

「チルノちゃん凄い凄い」

 

「たしかにこれは綺麗ね」

靈夜さんが珍しく褒めていた。

チルノちゃんが作り出す氷は少し特殊で妖力が混ざっている合間は溶けることはない。だからひんやりしていても手は濡れないし溶けることも一切ない。

数時間で効果が切れてしまうけれど。

 

「……綺麗ですね」

さとりさんの顔に一瞬だけ笑顔が見えた気がしたけれど、直ぐに元の無表情に戻ってしまった。うーん、さとりさんは笑顔の練習した方が良いのかもしれませんね。

 

 

 

 




ムラサ「……」

にとり「ごめん…酒が入ったらつい…」

ムラサ「カッコいい……」

にとり「え…」

ムラサ「でも戦さ船としては火力不足かなあ…もうちょっと火力上乗せできない?」

一輪「ありゃ吹っ切れちゃったわね」

聖「私の船…」

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