色々とあるけれどこの状況というのは初めてなのかもしれない。
そもそもこんな事態想定していないどころか考えすらしていなかった。
現状席に着いた時点で…いや、紫に呼ばれた時点で察するべきだった。後悔先立たずと言うけれどこればかりは叫ばせてほしい。紫絶対許さない。あとでボコボコにしてやる。
そんな気配を隣に座る紫に密かに送るが、届いていないのか届いていて会えて無視しているのか素知らぬ顔で扇子を仰ぎ続ける。
まああまり表立って不機嫌を表すと周りに迷惑がかかりますからね。やめておきましょう。
周囲にいるので知り合いは天魔さんだけ…だけなんだけど。その天魔さんも今回は大真面目。
まあふざけられても困りますのでここは関わらないようにする。
しかし…相変わらず凄い面々だとは思う。
机を挟んで集まっているのは紫と天魔さんを除いて3名。
そのうちの1人は名前だけ知っている…というかしっかり記憶に残っている。
後の二人は…賢者さんのご友人だろう。えっと…河童の長と誰でしたっけ…まあそのうち分かるでしょう。
「数人来ていないようだけれど気にしないで。急な要件で来れなくなっただけだから」
そう切り出したのは紫だった。
その言葉に周囲の反応は様々…顔に出さないけれど目線を見るとだいたい何を考えているのか大まかに理解できる。
天魔さんとか河童とかその土地を広範囲で収めているような種族は結構不機嫌そうにしている。
だけど…紫と同じようにそもそも規格外すぎる妖怪である2人はああまたかと半分呆れている。
というより天魔さん達の反応を見て楽しんでいる節がある。
……っていうかそんな私の観察すら楽しんでいるのが1名。
摩多羅隠岐奈さん…私の目線でニヤニヤ笑うのやめてください。
私がどのような思考をしてしているか?私は……無反応でしたよ?そもそも顔すら知らない相手に何を言うなんて事もないですからね。
「それで?私らを呼んだ理由を聞こうじゃないか」
隠岐奈さんが紫に突っかかる。
まあそう言っても隠岐奈さんは言いたいことは分かっているがななんて言い出すから紫とこの人…事前に相談済み。
となるとここに来ていない二人もきっと話は終わっている。
となれば残り3人を話に抱き込むために今回の場を設けたという事だ。
チルノちゃんと戦ってからあまり時間が経っていないのにもう…迷惑だ。
変に身体を使ったせいで色々と痛む。それも数日経っても中々治らない。
だからなのか紫の話す言葉を半分以上聞き流していた。
疲れってほんと困る。で…なんて言っていたんですか?なんて聞けるわけないじゃないですか。勿論黙って聞いてるふりしますよ。
激しい痛みとかだと普通に動けないし痛みに支配されて思考が覚醒してしまう。
慢性的に痛む方が思考を奪われやすい。
ってそんなことしてたら余計聞きそびれたような気がします。
えっと…結界がどうたらこうたら?それってもう少し遅くじゃないですか?
確か幻想郷が結界で閉ざされたのは明治に入ってから…まだ100年近くかかる……うん?でもそんなに長くないです。
まああれほどの巨大な結界を作るとすればだいぶ前から根回しをしないといけないしこのくらいから始めるのが普通といったところでしょうね。
しかし…知らされていないのは私含め三人。数的には過半数取れてるようですけれどある意味失敗してるような…
結局私は何も聞くこともせずただずれた思考を淡々と捏ねって遊んでいたらいつのまにか話は終わっていたらしく、なーんか解散の流れになっていた。
体感時間ではそこまで経っていないようで1時間以上経っていた。
結局頭はあーとかうーとか上手く回っていない。
困りましたね…疲れているのでしょうか。確かに体は痛いですけれど…精神的にやられているのでしょうか。
「さとり?」
一向に動かない私に流石に紫も不振に思ったようだ。
「ほう…其奴がさとりか」
隠岐奈さんに目をつけられた。いや元から目をつけられてはいたようですけれど機会がなかったというのが実情。
会おうと思えばいつでも会えるはずですけれどまあそれは彼女の気分が乗らなかったということで納得しておきましょう。
「ええ、初めまして摩多羅隠岐奈さん」
「あら、知っていたの?」
私が彼女の名前を言ったことに最初に反応したのは意外にも紫だった。
「お会いするのは初めてですね」
「ふはは、紫が言うだけあってなかなか鋭いじゃないか」
あーなんか変なこと吹き込んでましたね。少しだけ紫を睨めば、だからなんだとそんな目線を返された。
「一応聞いておくが…どうして我が摩多羅隠岐奈だと分かった?」
似たような気配を持つものはもう一人いましたからね。でも原作なんてことは言えないし…原作の時の服装がどうだったかとかそう言う身体的特徴はもう既に忘れている。思い出すことなんて出来そうにない。
じゃあどうして分かったか?
「そうですね…この部屋に貴女が入ってきた時、それが最初の違和感です。ちゃんと能力を使わずにここにきたようですけれど…扉を潜る時に少し体の動かし方がおかしかったです」
「それだけでどうしてわかるのだ?」
「だって、扉を潜る時に少し体を前寄りにさせるにはともかく、両手が同時に上に上がるなんて中々無いですよ。でもよく似た動きを見たことがありましてね……」
勿論紫が隙間から半身を出す動きのことですよと付け加えれば隠岐奈さんが大笑いを始めた。
「付け加えるとすれば私の目線を楽しく観察していたあたりで、少しだけ目線を私から外した時がありましたよね。もう1人はそのようなことは無かったです」
まあこっちは確証を裏付けると言うだけなので後付けです。
「だがそれだけで分かるものか?」
「能力の概要は紫から聞いていましたからね」
それと扉の一瞬の癖を繋げれば自ずと分かりますよ。
「あ、そう言えば忘れてました。その扇子ですよ」
「扇子?これがどうかしたのか?」
私が急に指摘した扇子に隠岐奈さんは目線を落とした。
なんの変哲も無いただの扇子です。ある一点を除けば…
「紫さんの使用する扇子と同じ紙で作られていますよね。実際柄の右端が紫さんの扇子の上側に繋がってます」
「偶然の可能性は考慮せぬのか?」
「偶然なら紙の劣化具合も偶然同じになります?それに、同じ紙から作られている扇子は幽々子さんが持っている扇子の1つもそうですからね。あれは紫からの贈り物だと幽々子さん言ってましたし」
それに骨格の色づけ…紫さん少し癖があるから光に当たった時の艶の出方が独特なんですよね。
なんかこう…妖艶な雰囲気になりやすいというかそんな感じです。
「ふははは!流石だな!さとり妖怪は能力を使わなくとも洞察力だけで覚りというわけか。気に入った」
少し話し過ぎましたけど…どうやら不快とは思わなかったらしい。よかったです。
「どれどれ?私の元で働く気は無いかな?多少は優遇してやるぞ」
え…嫌ですよ。
速攻で拒否します。貴女の首輪をつけられて飼われるなんてゴメンですから。ええ、私は支配者にいいように扱われるのは嫌いです。
その代わり互いに利用する相互的な関係なら良いですよ。
なんてことをまっすぐ伝えてあげたらなんか顔が引きつった。
紫も引きつってる。
何か変なこと言いました?至極真っ当な気がしますけれど…
「面白いやつだ。神である私相手だと言うのに利用し利用される関係?笑いが抑えきれないな」
これは怒っているのでしょうか…でも面白がっているようですし…
感情が読み取れない…さすが神様。やはり相手にするには少し疲れる。
「褒めているのか怒っているのか分かりませんが、今日はこれにて帰らせていただきます」
席を立つ私をなぜか紫と隠岐奈さんが止める。
天魔さん達帰ったんですけどなんで私だけ帰してくれないんですか?早く帰してください…ってもう一人の神さま?えっと一応神秘っぽいですし神様……の方も残ってる。
「ちょっとこれから結界の構築に関わる事を決めたいの」
「私が残される理由になっていないんですけれど……」
「それは私の意思よ。あなたならなにか意外な事も出てくるかもしれないから」
あ…もしかして話聞いてなかったことバレてます?バレてますねこれ。でもだからといってこんなことしなくても…
ある種罰ゲームですね。
周囲が賢者とか神とか規格外な方しかいませんし…
もういやだ帰りたい……
二次会のような感じに結界の話が出ましたけど…凄く面倒だった上に思考がそっちに向かないせいで話が入ってこない。
さっきからずっとこれ…一度なってしまうとなかなか戻らないのが難点です。
「さとりは何か意見ある?」
「ただの一般妖怪に意見を求める時点で愚行ですよ?」
そうでしょうと同意を求めたけれど隠岐奈さんももう1人の神様も全然納得しない。そもそもお前みたいな一般妖怪があるかとまで言われてしまった。
解せない。
「それで結界ですか?幻想郷をぐるって囲むやつですよね」
「ええ、そうよ」
「素人だから言える事ですけど…ふつうに思いつく限りの有効な結界を二重三重の張った方がいいんじゃないんですか?」
「なるほど…複数の結界を同時に張ると言うことか。素人な意見だが出来なくはないな。難易度が高いが」
だけど難易度は問題ではないらしい。
まあここにいる人たち自体デタラメを普通にできる人たちですから。
結局どのような結界にするのか…でもこれ自体は紫がある程度構想が出来ているらしい。ならそれでいいじゃんって思う。
だけど違うらしい。
少し足りないような気がするのだとか…
「要は外からの干渉を半永久的に受け付けなくする方法ですよね?」
「ええ、どうしてもその一手が不安なのよ」
「我は大丈夫だと言っているのだけれど八雲は心配性だからな」
隠岐奈さん、心配性は安全策を二重三重に仕掛けるから対処する側からすればある意味強敵なんですよ。
と言う事ですから、不安ならもう1つ結界を増やせば良いです。
「一番手っ取り早いのは幻想郷を時間軸から切り離すと言う事ですね」
「時間軸から切り離す?」
「ええ、でも完全に切り離すのではなくある程度切り離して不安定な存在にするんです。そうする事で幻想郷内部は正常な時の流れになるますけれど外の世界から見れば出現したりしなかったり、切り離した直後の時間やそれよりも未来のあらゆる時間軸に勝手に移動するようになるかもしれませんよ?」
あくまでこれはにとりさんが言っていたものではあるけれど。
実際タイムマシンを作ろうとしていた時が彼女にもありその時の理論構築時に生まれたものらしい。実際理論上は完成したしそれを術式として作り出そうとしたらしいが時間軸の概念が無くて頓挫したとか。
実際時間軸と言われてもピンとこない。だってそうですよ。
そもそも時間の軸ってどう言うものなのかがイメージできないんですから。
空間ならまだなんとかイメージ出来ますよ。
「面白い考えね。実現できるかどうかは別として頭の片隅に入れておくわ」
「ふむ…いくつか時間に関する事象に深く関係している仲間に声をかけてみるとするか」
あの…本気にしてます?まさか本気で作ろうと…いやいやまさかそんな事…出来ないと言い切れないのが怖いです。
実際時を止める人間とかいますし…ほんと幻想郷怖い。
その後も何やら話し合いが続いたらしいがそのほとんどは聞き流していたし途中から寝ていたような気がする。というか寝ていた。思考回路は完全に寝ていました。
だってあんなの私が考えるような事案じゃないですよ?
紫の考える事自体がもうわからない。
結局私をあんな場所に連れて行って意見を訪ねて…そんなもの河童とか天魔さんにさせれば良いのに。
「あれ?お姉ちゃん遅かったね」
紫の隙間で家に送り返されるや否や早速こいしがやってくる。
どうやら心配をかけてしまっていたらしい。
「ちょっと紫に足止めを食らって…」
「そうなんだ…丁度、天魔さんと遅いねって話してたんだよね」
え…天魔さん家にいるんですか?
「で、お前さんはさとりの事どう思っているわけよ」
結界に関する事の話し合いも終わり全員が帰ったかと思えば後ろからなあなあと声をかけられる。
いつものことこの上ないことではあるが毎度毎度同じことをされていればもういちいち突っかかるのも野暮というもの。
古くからの付き合いであるからそのまま答えを返す。当たり障りはないそんな回答ではあるが、結局それが私の本心。
それにさとりを手駒にされたらたまったものではない。彼女は幻想郷を作るためには必要である。だからそちらの手駒にするのはよして欲しいと伝えておくのも忘れない。
「はは、わかった。当面は彼女を手駒にするのはやめておくことにする。それに無理にやると閻魔から怒られそうだしなあ」
そうしてほしいのが本音。だけれど同時に、もし彼女が裏切ったりするのであれば、友人の手駒にさせてしまうのも1つの手であると思ってしまう。
いずれにしても彼女の選択次第だろう。そうならない事を祈るわ。