古明地さとりは覚り妖怪である   作:鹿尾菜

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夏休みモードで更新速度が低下気味な今日この頃…


depth.108さとりと怖い人

私の気持ちを表すかのように、地上の空はどんよりと黒い雲を立ち込め、遠くでは雨が降っているのか白く霞んで見えるところがちらほら。幸い私のいるところは降っていませんが、いずれ降る事になるかもしれない。

話し合いはなるべく早く終わらせようと努力したからか、結構早めに終わってくれた。

と言うか途中で向こうが折れてくれてこっちの要求を全面的に呑む事で話が一気に決まってしまった。

それだと可哀想だったのでこちらも譲歩はしましたよ。でも急にどうしたのでしょうかね?不思議です…まあ早く終わってくれたから結果だけ見れば良しとしましょう。

……で、聖蓮船はどうにかなったのですが…河童がまた改造したいと言い出した。

断っても良いのですけれどそれをすると後が嫌だ。それに河童には色々とお世話になっているので私は断ることは出来そうになかった。取り敢えず船の主に相談してくださいと言う事で機材の搬入とか門を通過するところまではこちらで処理をしておいた。

後の事?それは船の主の管轄ですよ。私はもう関係ない。

でも河童が余計なことしてまた元の位置に船を戻せとか言い出す人達が出てきたらその時はこちらも動かないといけない…うんその時はその時です。

 

まあそんな事はいまはどうでも良い事でして…

今にも降ってきそうなこの天気…雲の上にでも出た方が良いのでしょうが、今さら雲の中に飛び込んだらそれこそ大変なことになりますし上は寒いですからあまり行きたくない。

なるべく雨に濡れる前に幽香さんの所に着きたいところです。

 

なんて願望…聖杯に願わなければ到底叶うようなものでもなく……

数分後には激しい雨の中をひたすらに飛ぶ私の姿があった。

濡れるのは全く問題ないのですけれど…どうも濡れた服が肌にペッタリと吸い付くのが嫌なのだ。

その上服が濡れてしまうとサードアイが服から浮かび上がってしまう。幸いにも外套は撥水性を今できる技術で限界まで引き上げているので濡れても少し水を落とせば乾いている時と変わらない程度までにはなるんですけれどね。

その分洗濯するのが面倒というのは内緒。

 

それにしてもよく降る雨です。これじゃあスコールと変わらないじゃないですか。今日少し暑くて…夕立っぽいものがあると言っても夕立っぽいもの仕事しすぎです。

 

結局幽香さんの家に到着する頃になっても雨は止む気配を見せず、外套以外濡れ鼠になってしまいました。

それに日も落ちてきましたし…

幻想郷からここまで少し遠いですよ……これ本当に幻想郷に招き入れることできるんでしょうかね?

 

家に続いていると思われる獣道に降り立つ。そのとたん周囲の景色は一転して緑色の壁に遮られた。

向日葵はまだ咲いていない。

まあ季節はこれからですからそれもそうか…でもすでに私の背丈程度に成長している。

それが私の姿を完全に覆い隠してしまう。

でもちゃんと道は続いているからこれを進んでいけば必ず家にはたどり着ける。

夏場に来た時よりかはまだ圧迫感もありませんから楽です。

向日葵が咲いてしまったら圧迫感よりも綺麗さで圧倒されますけれど。

 

大雨で泥濘んだ地面を滑らないように歩く。

道の上はある程度踏み固められているとはいえ人通りなんてほとんどないからだろうか雨が降っている現在はすごく足場が悪い。

これなら素直に家の前まで飛んだ方がよかったかなと後悔するがもう今更なのでどうでも良い。

 

道に悪戦苦闘しながら歩いていると、ようやく向日葵畑が途切れ小さな空間に出た。

こじんまりとした家が一軒建っているだけの小さな空間。住人は留守にしているのか灯りはない。

いないと言うことがわかれば私のとる選択肢は2つ。ここで待つか出直すか…

でもこの雨の中をまた帰るとなると気が重い。私が取る選択肢は1つしか残っていない。

 

黙って待つのみ。

 

雨に当たらないように屋根があるところまで非難する。

完全に防げるわけではないけれど多少はましになった。

 

 

さて…もうすぐ暗くなるし…少し待ちますか。

 

 

意識を思考に落とし時間を潰すことにする。思考自体は考えると言う行為による副産物。じゃあ考えているかと言われればそう言うわけでもない。

結局考えていようがいまいが私はなにも覚えるつもりもないのでなにを考えていたかは重要じゃない。そうしてしばらく雨をしのいでいれば、足元になにかが擦り付けられる感覚がして意識が戻った。

 

 

視線を足元に下ろすと、そこには水を滴らせた1匹の猫が体を擦り付けていた。どうやら雨宿りをしたくて寄ってきた猫みたいだ。

いつまでも濡れているままだとなんだか落ちつかないので外套の裏側に入れておいたタオルを取り出し猫の体を拭く。

ヒトに慣れているのかあるいはそう言う性格なのか。猫は怖がることもなく私の手の中で毛並みがスッキリするのを待っていた。

そうしていれば、雨の音に混ざって雑音が流れ出す。

私の耳に響くそれが誰かが道を歩く音であると気づいたのはその数秒後。

 

「あら…お客さんかしら」

落ち着いた女性の声と共に妖力の波が私の体を撫でた。その瞬間、周囲の時が一瞬だけ止まったような……不思議な違和感が体に流れた。

「あ…幽香さん。御無沙汰しております」

 

赤色の傘をさした女性…風間幽香さんが私のすぐそばに立って見下ろしていた。

あの…凄く笑顔で怖がらないように努力しているのは分かるのですけれど…その笑顔じゃ何も知らないヒトじゃ怖くて逃げ出しますよ?

完全に目が笑ってない笑顔ですからね?どこかのロシアンマフィアの女性頭領みたいな感じになってますからね。

まずその冷たく突き刺すような目線をどうにかしないと怖いですって…

「貴女がなにしにきたのかは知らないけれど…まあ入りなさい」

機嫌損ねたらコンテニュー出来ないわよと言いそうな雰囲気でちゃってますけれど…

(やった!家に招く成功!お友達としての仲を深めるチャンスよ!)

 

心の声がそれを否定する。この人完全に体に振り回されてしまっていますね。

しかしこれは少し面白いですし…私がどうこうする問題でもないですからこのまま観察させていただきましょう。

でも、そのかわり出来るだけ願いを叶える手伝いをする必要もある。

それが知る者の義務だ。

 

久しぶりに入る幽香さんの家は、前回来た時よりも少し明るい雰囲気になっていた。

明かりがない分暗く見えてしまうけれど昼間に人を呼ぶのであれば印象としては良いかもしれない。

 

「ごめんなさいね。今灯りをつけるわ」

 

そう言って幽香さんは蝋燭に火を灯した。

ほのかな明かりが部屋を照らしていく。でも少し弱いかもしれない。

少し大型のランプでもあれば良いけれどそのようなものは……あ、河童が作ってましたね。

 

地底は昼夜の区別がなくずっと薄暗いですから河童が投光器の開発、流通に力を入れていてその過程で…えっと…増光装置付きの提灯とかあったような…まあいいや。

 

「ああそうだわ。服とタオル取ってくるわ」

入り口で突っ立っていた私を見て幽香さんが何かを勘違いしたのか…あるいは察したのか。奥にパタパタと駆けて行った。

 

外套以外ずぶ濡れで肌にぺっとりと張り付いてしまっているこの和服ではサードアイを隠すのは困難…だけど持ってきた服でサードアイが隠しきれるとも限らない。

 

参りましたね…外套は外してくださいと言わんばかりに引っ掛け棒が付いている。

うーん……

 

悩み始めて数秒で戻ってきたのかと言わんばかりの足音が聞こえてきた。

早くないですか?

 

「おまたせ、取り敢えずタオルで拭いて…服はこっちの部屋に置いておくから着替えてらっしゃい」

 

(できれば私が着替えさせたいけれど…流石に無理よね)

 

そう言うと幽香さんは私の頭にタオルを乗せてくれた。内心少しゾッとしたけれども。サードアイが見られるのは流石にまずいかもしれない。というか隠していることがバレた時点で絶対彼女の心に傷を刻み込んでしまうのは確実だ。

その後どうするか…こればかりはわたしにも分からない。

頭を拭きながらそんなことを考えていれば、ふとどうでも良さそうな…でも結構優先度の高い疑問が頭を横切る。

 

あっちの部屋がどっちの部屋を指しているのか分からない。

けれど多分玄関を進んで最初の扉だろう。うん…あっちって言われただけだから分からないけれど多分あれだ…

 

「あ、そっちはトイレよ」

 

さいですか…

じゃあこっちでしたね。

「私が着替えさせてあげてもいいのよ」

 

(ついでだからこの前ゆかりんに教えてもらったこと試してみたいわね)

寒気が背中を走る。これは拒否しないといけないです。

でないと私の何かが犠牲になる可能性が…

「いえ…自分で着替えることができますから」

 

少し強引だけどこうでもして突き放さないと…中途半端だと誘ってると勘違いされてしまう。

すぐ隣の部屋に入り濡れた服を脱ぐ。相当水を含んでいるのかかなりべちゃべちゃしてしまう。こんなものいつまでも着ていたら体温を奪われて免疫力が下がってしまう。ただでさえ私は体温が低いと言うのに…

えっと…用意してある服はこれですね。ってこれとこれだけですか?少し少ない気がするんですけれど…

でもそれ以外に服ないですし…まさか外套の下は下着だけなんて冗談にもならない。

まあこれもかなり危ない気がしますけれど。

 

渡されたそれは、私の体格には不釣りあいなほど大きな白いシャツと短いショートパンツのようなもの。まあ大きいシャツのお陰でサードアイは目立たなくなりますけれど。

少し際どいような勘違いされそうな…でも服が乾くまでの辛抱と考えれば良い方だろう。

結局それを着てまた幽香さんのところへ戻る。

 

「あら似合ってるじゃないの」

 

(くっ…破壊力が少し高すぎたわ。でも無表情と相まって面白いわね。さすが紫と言ったところかしら。でも腕と頭の管は一体…)

 

なるほど、紫の入れ知恵ですか。ですがあまり意識させないようにしないと少し危ないですね。

「似合ってるかどうかは別ですがかなり変な着せ方ですね」

 

「いいじゃない。可愛いんだから。そうそう、話があるんでしょう。そこの部屋の椅子に座っていてくれないかしら。今熱いお茶を出すわ」

 

丁度お湯が湧いたのか奥の方でなにかが音を立てている。

それと同時に少しだけ鼻をくすぐる植物の香り。

 

「ハーブティーですか」

 

「ええ、herb teaよ」

よくわかったわねと言われて一瞬どう言い訳しようか考えたものの、上手い言い訳など見つかるはずもなく知っていますからとだけ言っておいた。

 

「それで、今日はどうしてここにきたのかしら?」

 

「言わなくても分かっていると思いますが…幻想郷への招待をしろと紫に」

 

「貴女も大変ね」

 

呆れたかのように幽香さんは先にお茶を飲み始める。

それに続いて私も一口…体温が低下していたところに熱いのが来てお腹の中が少し暴れる。

 

「それで…返事は?」

 

「私はここで過ごすと言っているのだけれどね」

 

「畑でしたら一緒に転移することもできますし、畑に適した土地もあると思うんですけれど……」

 

「そう?でも私はここが気に入ってるのよ」

 

困りましたね。完全に動く気ないようです。

「私としてもきてくれると野菜作りとかの指導もしてもらえたりと嬉しい事多いんですけれど」

 

「あら面白そうね……じゃあ、少し観光しに行きましょうか」

 

(それで視察して…楽しそうならそこに住みましょう。もしかしたら新しくお友達ができるかもしれないし)

 

内心そんなことを思うのは良いのですが…その恐ろしい目線はやめた方が…絶対戦闘狂と間違えられますよ?実際花畑を荒らしたヒトを半殺しも生ぬるい…地獄行きより恐ろしい体験をさせていますし。

でも、幻想郷を見てくれると言ってくれて助かりました

まあ完全に移住する訳ではないけれど少しは動かせたのだし良いかな…

 

「こちらはいつでも大歓迎ですよ」

 

「そう…でも今日はもう外に出ない方が良いわ」

 

気がつけば窓は猛獣に叩かれているかのように激しく揺さぶられ、音を立てている。相当強い風と雨のようだ。

これじゃあ外に出るのは危険だ。

 

「さっき畑の向日葵が折れないように術をかけてきたところだったのよ」

 

「そうだったのですか…では今夜はここに泊まることにしましょう」

 

「ぜひそうしてちょうだい」

 

(やった!布団は一組しかないからさとりと添い寝確定!)

 

え…嫌ですよ添い寝なんて。それでサードアイのことがバレたら私の心の方が壊れますよ。

うん…私がさとり妖怪だなんて知られるのはほんとに嫌なんです…心なんて読みたくないし望んでこんな能力もらったわけでもないのにさとり妖怪だというだけで…いやこの話はやめましょう。

 

兎も角どこか…座れるところで夜を明かすことにしましょう。え?だめ?

 

 

 

 

結局交渉に交渉を重ね私は椅子に体育座りの状態で体を休める事にした。

寝なくても良い体なのだからこれは当然の事…でも何もない時間をずっと無言で過ごすのは少し辛いので、幽香さんが寝たのを確認してから近くにあった布と糸で頑張って服を一着拵えたのはまあ彼女の知らなくて良いこと。

ついでだから余った布でシュシュというものを頑張って作ってみた。しかしシュシュにしては少しぺったりしているというか…髪留めにされそうな感じになっている。

仕方がないのでシュシュ改め髪留めにしましょう。

 

まあそんなことは置いておきまして、出来上がった服に袖を通しサードアイなど各器官を隠していると計ったかのように幽香さんが寝室から出てきた。

日が昇るのと同時に起きるあたりやはり花の妖怪なのだなあと思ってしまう。

あれ…そうなると植物は光合成を開始するのが目覚めということになりますね。

なるほどなるほど。

 

「おはようございます。幽香さん」

 

「おはよう…貴女まさかずっと起きていたの?」

鋭い視線が私の体を突き刺し、解読し、理解する。

 

「まあ…活動停止は多少していたのでずっとおきていたというわけではありません」

実際少しの合間ですけれど休眠は取っていますし。

まあそれでも寝ているかと言われたら全然寝ていないんですけれどね。

「全く…お肌に悪いわよ」

そう言いながら指で頬を押すのやめてください。なんだか力が強くて首が折れそうです。折れても死にはしませんけれど痛いですから。

「なるべく力を弱めたほうが良いですよ」

 

「そう?じゃあこのくらい」

ようやく丁度良い圧力になってくれた。

うん、普段から接するときもこの程度に抑えた方が良いですよ。

 

「丁度良いくらいですね」

 

「そう……」

なにかを考えているのか少しの合間彼女の動きが途切れる。

サードアイを隠しているから何を考えているのかは分からないけれど今までの記憶からだいたい何を考えているのかは想像がつく。

「幽香さん?」

 

「ああ、ごめんなさいね。それにしてもその服どうしたのかしら?」

 

「夜中に作りました」

素材自体はそこら辺から引っ張り出してきたものです。

昨日許可も取りましたよ。少しお酒飲んでいて判断ができていたのかは分かりませんけれど。

でも酔い潰れたりする程度でもなく…寝る前にグラス一杯程度ですから大丈夫だとは思います。

 

「ああ…それとこれ」

 

シュシュのような髪留めのようなよくわからないものを渡す。

幽香さん髪意外と長いですからね。何かと作業するときはこれつけておいた方が楽ですよ。

「…いいの?」

面食らったような顔してどうしたんですか。

「構いませんよ」

 

「久しぶりね……こうして手作りのものをもらったのは」

 

「紫が来た時はくれなかったんですか?」

 

「お菓子をくれたけれど……手作りじゃないでしょう」

 

違いありません。

紫はあまり料理得意じゃないですから。出来なくはないんですけれどどうも好き好んでやるものじゃないからか従者の藍さんが優秀だからか……まあ造り方を教えればできる程度なので化学兵器などが出来ないだけマシか。

だから幽香さんの言葉に納得して頷いてしまった。

 

 

 

 

「ねえさとり…今日帰るの?」

 

「ええそうですけど?」

夜のうちに嵐は通り過ぎたからか思いっきり晴れているようですし…風も止んでいるので飛びやすい。

「……なら、訪問今日しようかしら」

微笑む口元を手で隠しながら幽香さんは私の頭に手を置く。身長差からか完全に子供のように撫でられているのですけれど……でも目線だけ見たらこれ竜と兎ってところですね。

 

「それはまた急なことですね」

 

「善は急げと言うしいいでしょう?」

 

「……まあそうですね」

内心は多分一緒に楽しんでいろんなものを見て共有してと…1人ではできないことをしようというのだろう。

なら…こいし達も呼んだ方が良いかもしれない。

彼女にとっても良い刺激になるかもしれない。

 

「それじゃあ行きましょうか」

あの…手を引っ張らないでくださいよ。確かに外見子供ですけれど子供じゃないですから。

 

 

飛び上がった私達の足元で少しだけ向日葵の蕾が頭を上に上げ始めていた。

 

 

 

 

 

しばらく飛んでいたらどこで降りればいいかわからなくなったなんてよくあること。特に幻想郷周辺の山々はこの時期じゃみんな同じ色だし山肌の形状もここに来る途中で何度も似たようなものを目にしているからか判別が難しい。

その結果、私の家のある山の中ほどではなく…最初に降り立ったのは湖だった。ここら辺は妖力とかが溜まりやすい場所だからなのか妖怪や妖精がよく集まる。副作用としては白いモヤが発生しやすい。

まあ…今日は晴れていてモヤもありません。

 

さて…一度家に戻ってこいし達を連れてくるか…でもこいしが家にいるとは限らないからなあ……

 

 

「あれ?さとりさんそちらの方は?」

 

「お!あたいの知らない顔だ!」

なんて思っていれば真横から声をかけられる。

私より先にそれに反応したのは幽香さんだった。手に持っていた傘を少しだけ前にして構え始めている。本人にはその気は無いでしょうけれど傘はなるべく下に向けてくださいね。

 

「あらあら?妖精さんかしら可愛いわね」

幽香さんがこちらに来た大妖精とチルノちゃんに笑みを浮かべた。

「ヒッ…」

 

「そうだろう!あたいは宇宙一可愛いんだからな!」

 

ああやっぱり怖かったらしい。

まあ内心を知らなければこれは仕方がないことですけれど…でもチルノちゃんは気づいているのかいないのか…いや多分これは気づいていないのだろう。だが幽香さんにとってはチルノちゃんの方がありがたいはずだ。

「そうね……可愛いわ」

 

「そうだろう…あ、自己紹介してなかった!あたいはチルノ!」

 

「わ…私は…大妖精と呼ばれてます……」

ちょっと大妖精…完全に怯えないでくださいよ。そりゃ幽香さんは見た目怖いですけれど根は優しいんですから。

 

「幽香よ。よろしくね」

 

とりあえず萎縮してしまっている大妖精を引っ張って少し話すことにする。幸い幽香さんはチルノちゃんとの会話が弾んでいるのかそっちに夢中です。

 

「えっと…さとりさんついに危ない人達と絡むように?」

 

「違いますよ。見た目こそあれですし怒ったら本当に危ないですけれど本人はとても優しい人ですよ。それに友達ができなくて寂しいんですからあまり怯えないでください」

 

「そう言われましても……怖いですよ」

 

「なあ…急に仲良くしてとは言いません。でも偏見を持った目で見ないでください」

 

「わかりました」

 

うん、大妖精も素直で助かりました。

でも…大妖精も怖がるって相当ですね…でも見かけだけで判断する危険性は私が一番知っている。

だからどうにか誤解されないように私がサポートするしかない。

大妖精も頑張って幽香さんの方に向かったので、私も混ざることにした。

 

……で、なんで3人して私の家の方に向かっているんですか?私は何も言ってないし指示だってしていないのに…主に大妖精さんが誘導しているようですけれど。

どういうつもりと目線を送ったら任せてくださいとウィンクされた。

多分自分だけじゃなくこいし達も巻き込もうというつもりだろう。

ただこいしは多分チルノちゃん寄りだし大妖精の仲間になるとすればお燐かお空…かな?

でも元動物は見た目より雰囲気で相手の内心を察するのが上手ですからねえ。すぐに仲良くなると思いますよ?

 

とかなんとかやっていれば…家に着いた。

着いたは良いのですが……

見えてきた家に違和感を感じて、よくよく見て見たら…

「なんで半壊しているの?」

 

屋根が内側からめくれ上がって穴を開けている。多分あれでは中の方も大変だ。

一階は無事のようだけれど……

 

家の状態に全員困惑している。

ちょっとここは家主の私が確認する事にする。

 

家の扉を開ければまだここら辺は問題ない。だけれど少し隙間風が入ってきてる…家全体が歪んでいるのだろう。

ともかく奥へ行く。

「あ、お姉ちゃんこっち!」

 

階段の上からこいしが私を呼んでいた。

帰ってくるまで待っていたのか…いや多分帰ってくる私たちが見えたから待っていたのだろう。

二階に上がれば状況は深刻だった。

部屋2つ分の屋根は内側からめくれ上がったかのように剥ぎ取られ部屋の壁もいくつかは原型を留めず破壊されていた。当然床も一部が陥没し木がめくれ上がってしまっている。

 

「こいし、私が居ない合間に何があったの?」

ともかく事情を確認したい。

「それが…ちょっと酔っ払いの天狗がね」

 

ああ…喧嘩に巻き込まれて家の一部が犠牲になったと。

大まかなことは理解した。しかし…関係ない私の家が巻き込まれるとは少しショックだ。

「修理出来そうかしら…」

 

「お姉ちゃんじゃないとそういうのは分からないからさ」

そう言えばそうだ。私が建てた家なのだから私しか知らないだろう。

だけれど少し建物全体が歪んでしまっている。これは建て替えないとまずいかもしれない。

「じゃあ玄関のところにいる客人の相手をお願いできる?」

だけど今はそんなことは後だ。

「お姉ちゃんがヒトを連れてくるなんて…家壊されそう」

 

失礼な……既に家は壊れているでしょうに……

ともかく後はこいしに任せたわ。

私は少し話をしに行きます。

私は少しキレてるんですよ。

 

 

 

「……お姉ちゃん行っちゃったなあ」

 

まあ家が壊されたなら普通そうだよね。

私も抗議に行ったけどお姉ちゃんみたいに天狗にパイプがあるわけじゃないし…なんか隠蔽しようとしているというか…なんか事を荒だてたくないのかどうも私じゃ門前払いされた。

 

お姉ちゃんならどうかな…

 

っと…確か玄関の方にお客さんだったっけ?

 

急いで玄関を開けると、そこには緑色の髪の毛を後ろで一本に束ねた赤いチェックのスカートと白いシャツの女性が傘を突きながら立っていた。

見つめられたその瞳は恐ろしいほど冷たく、人を躊躇なく殺すことができるそんな目だった。

一瞬だけ恐怖に体が支配されそうになる。でも理性がそれを食い止め、状況を理解する。

「初めまして!えっと…お姉ちゃんの知り合いだよね!」

 

「ええ、幽香よ。よろしく」

 

「こいし!遊びに来たぞ!」

 

「あ、大ちゃんとチルノちゃんもいたのね!」

 

影に立ってたら見えないよもう……

 

「それで、さとりはどうしたのかしら?」

恐怖が笑いかけるような感じで私を見下ろす幽香さんの声が死神の声に聞こえてしまう。多分雰囲気がそれに近いんだろうね。

 

「ちょっと家をこんなにした人に制裁を加えに」

 

「それ…相手が可哀想です」

大ちゃん分かってるねえ…お姉ちゃんふつうにエグいことするからなあ……まあ家を壊されたんだからそれも当然かな。

 

 

「だから戻ってくるまで家で待っていてね!」

 

「そうさせていただくわ」

私に続いて幽香ってヒトが家の中に入る。

少しだけ彼女の事を観察することにした。多分気まぐれがそうさせたのだろうけれどそれは私の知ったことではない。結局は結果だからだ。

 

……あれ?この人もしかして……

 

 

 

「ねえねえ、もしかして幽香って寂しがり屋?」

 

「ええ…でもどうしてそう思ったの?」

居間には入ってすぐだったけど私は思わずそう聞いてしまった。

結果として理由の提示を求められるけれど結局は観察したからに過ぎないんだよね。大ちゃん、ああまたかみたいな顔しないでよ。

「うーん…観察した結果だよ」

 

「へえ……面白いじゃないの」

 

「好戦的で初対面から見たら近寄ったらやばいとよく思われてるけれど実際には繊細だし争いを好んだりしない…むしろ友好関係を築き上げたい。寂しがり屋だというのもあるけれど後は孤独の恐怖、退屈さ、虚しさを知っていてそれがとても嫌だから。そうさせたのは多分幼い頃の体験。でもそれが同時に今の他者を近づけない圧倒的な力と恐ろしさを作り出す原因にもなっている…ってところかな」

 

私の言葉を聞いていた幽香はふうんと笑みを浮かべながら私の頭に手を置いた。

なんだかその笑み…あれだね。戦争大好き不死身吸血鬼みたいだね。

ほんと怖いわ。分かっていても背筋に汗が浮かんじゃうよ。ああ怖い怖い。だから私はいつも通り恐怖と笑顔で踊ることにした。

 

「さすがさとりの妹ね。推理だけでそこまでできるなんて」

 

「お姉ちゃんならやろうと思えばもっと鮮明に正確にわかるよ」

 

大ちゃんそこでダメだこの人たち早くどうにかしないとなんて思わないで。私は少なくともまともだからさ!うん!そうだよ私はまともだよ!

「こいしちゃん、異常な人ほどまともだって言うんだよ」

 

「じゃあ大ちゃん、まともな人はまともって言わないのか?」

 

チルノちゃんよく質問したね!まともじゃないやつはまともと言う。だからといってまともな人がまともだと言わないということにはならないよ。

「まともと言うわよ。だからまともじゃない人とまともな人なんて外見や普段の言動、行動じゃ分からないのよ。わかったらそれはまともじゃないとは言わないわ。異常というのよ」

 

幽香さんわかってるう!さすがだね!花妖怪で鬼に匹敵する力を持つ者だね!

でも仲良くしようとする心優しい人でもある。


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