古明地さとりは覚り妖怪である   作:鹿尾菜

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depth.112味方も怖れる妖 さとり

地上で鬼が暴れているって連絡が入ったらしくこいしとお空がすっ飛んで来た。

私?もちろん私は現場にいますよ。

いえ、先に現場に到着したのではなく鬼と一緒に現場にいたと言った方が良いでしょうね。勿論姿は隠していますし鬼2人も私を途中で撒いたと思っているんでしょうね。

 

実際地上に出た瞬間萃香さんには撒かれましたよ。私も勇儀さんの攻撃でしばらく動けなかったですし。

やっぱり奇襲は受ける側よりする側の方が良いですね。

つくづくそう思いましたよ。

全てを見ていた紫が先回りに協力してくれたからまあなんとか2人と合流できたというところ。

 

去り際に少し脅されましたけれどあれはフリですよね?うん、フリだといいなあ……

 

「まさかこんなところにまで……2人とも何してるの?」

 

到着したこいしが警戒しながらも2人に近づく。

暴れているといっても派手というわけでもなんでもない。

ただ少し弾幕を作っているだけだ。

そこが人里のすぐ近くでなければ問題ではない。

 

「何って…少し地上を見るのに疲れたから休憩がてらに…」

 

「お手玉やってるだけなんだけどね」

 

「もしかして2人とも酔ってる?」

そのようですね。私の視界にいなかった間に何を飲んだんでしょうね…

「鬼殺しがあったからちょっとだけなあ」

まさか人里で売っている鬼殺し?俗称が対鬼用高濃度鬼殺しですか?

あれは地底や妖怪の山で売ってるやつの十倍近いアルコールですよ。

だって鬼…の四天王すら『一杯で酔わし、一本で酔い潰れる』を目標に私と紫が協力をして完成させた美味しいお酒なんですから。

人間は飲むことが不可能とまで言われてますしあの幽々子さんですら一口で厠直行だったんですからね。

 

うん…自分たちだけで地上を見て回りたいって言っていたけれどこういうことを引き起こすから嫌だったんですよ。

 

2人にバレないように監視するとどうしても細かく視認できなくて見落としてしまうことが多い。

それにこいし達が来たとはいえ…私が迂闊に飛び出すとやはり喧嘩になりかねない。いまだってそうかもしれないがもしかしたらこいしが上手くやってくれるかもしれないという希望に賭ける。

 

「なあなあこいしもこっちで遊ばねえか?」

 

「ちょ…やめ、離してってばあ!」

 

あら…希望が一瞬にして消え去りました。

霧になった萃香さんが一瞬にしてこいしを拘束、完全に動きを封じてしまう。

やはり霧になられると困りますね。

こいしも私も純粋な体力では負けますから取り押さえられたらもう何もできない。

やはり手を塞がれても対処できる装備が必要ですね。あのメイド服みたいに…

 

でもないものは仕方がない。

宴会では互角に戦えても実際の戦いではそう簡単にはいかないか……

「残念だったね。邪魔はさせないよ」

 

「こいし様を離せ!」

直後にお空が飛び込むものの、勇儀さんの片手で押さえつけられてしまう。

やっぱり鬼って手加減しないとやばいですね。一瞬にして傷をつけずに2人を無力化してしまった。

でもここで暴れられても人間が怖がってしまうし実際妖怪は怖がられる必要があるのも理解していますが……

 

やっぱり私が止めた方がいいんでしょうか?

「ねえ紫」

何もない空間に向けて思わず声をかけてしまう。多分そこでみているからそうしたのだろうけれど確証がない状態でそれをやってしまうと少し恥ずかしい。

「何がねえなのか存じませんが、少なくともこのままにしておくのは貴女にとっても非常に困りますでしょう」

 

私の視線の先に隙間が開き、金髪の髪の毛が風に揺らめいた。

「まあそうですけれど……」

正直あの2人と戦いたくない。一対一で戦ってくれる保証ないですし。

でもこいしとお空がいるからなんとかなるかもしれない。でもどうするか…痛い事はしたくないしされたくもない。でもそんなこと言ってられないような事態に進展しつつある。

 

「何を悩んでいるのか私には興味ないけれど悩むくらいなら戦ってけじめをつけなさい」

少し話が噛み合っていないような…でも的を得ているその言葉に私の中で何かがはまったようなそんな音がした。きっと戦っても良いのだと言うことを誰かに言って欲しいだけだったのかもしれない。

 

「分かりました……」

結局戦いでしか物事を決めることができない。私はどうしようもないヒトなのだろう。

ならどうしようもないヒトなりにどうしようもなく戦いますか。

 

木の陰からゆっくりと出て4人の元に歩いていく。

あくまでも暴れるのをやめさせるだけ…ただそれだけだ。

 

「お、さとり!さっきぶり」

 

「お姉ちゃん⁈」

 

「さとり様!」

 

「ええ、4時間と26分以来ですね」

 

細かいとこいしに突っ込まれた。事実を言っただけなのに…

 

「なんだあ?あんたも私達と遊びたい?」

萃香さんが弾幕をいくつか放り投げてくる。それを、直撃進路の弾幕のみ弾き飛ばす。

 

「地上を見るのは結構ですがこうも暴れられると近所迷惑というものです。速やかに2人を解放して大人しくしなさい」

 

「ええ、つまらない!」

「あたしもそれが退屈だな」

あくまでやめる気なしか…相当酔っているせいか彼女達の本質…闘争本能が丸出しになってしまっているようです。

 

「では2人を解放していただけませんか?話はそれからにしましょう」

 

「仕方ねえなあ…」

あら、勇儀さん結構素直に開放してくれましたね。ほら萃香も早く早く。

「こいしちゃん解放したら攻撃しないって約束してくれるかなあ?」

 

「うーん…する!」

 

「分かった。じゃあ解放してあげるよ」

そういうなり萃香さんはこいしを私の方に放り投げた。

だが飛距離があるわけでもなく、私の少し手前にこいしは着地した。

 

「それでえ?今度はさとりが相手してるのかなあ?」

 

「まあ…それじゃあ私が酔い覚めに少し薬を処方しましょうか」

水をぶっかければなんとかなりそうだけれどどうなのだろうか。

「成る程なあ…やるかい?」

 

「1人づつでいいですか?」

2人同時なんて出来ませんからね。

「だって、どうする勇儀」

 

「そうだな…ここはそれでもいいんじゃないかな?」

 

よかった…一対一で戦ってくれそうです。

でも戦っている途中でやっぱりやるなんて言いださないといいけれど。

まあ…言い出すようならその時は2人に任せましょう。

そのことを2人に伝える。え…お空も一緒に戦う?それは多分無理よ。向こうが怒るわフェアじゃないって言ってね。だから貴女たち2人は私が相手をしていない方の監視をお願い。

 

「萃香さんが先ですか」

 

「ダメだったかな?さとりと手合わせするのも何百年ぶりだからさあ」

そうですね…

「そういやあ…武器の扱いは上手くなったのかい?」

 

「どうなんでしょうね」

今持っている武器は刀一本しかありませんがこれだけあれば十分かもしれない。彼女の前で機動力が落ちるのは致命的ですから。

 

「それじゃあ始めた方がいいのかなあ」

 

「ええ、手っ取り早く終わらせたいので」

 

「よく言うよ」

 

 

 

 

なんとか勝てた。

やっぱり強いですよ。両腕を消し飛ばして再生してまた消し飛ばしてようやく勝てたとか心臓に悪い。もうこれっきりにして欲しい。

そういえばまだ勇儀さんの方が残っていたんでしたっけ?

 

「お姉ちゃんこっちはこっちでなんとかしたよ」

 

私がでる必要はなかった。

どうやらお空とこいしでなんとかなったらしい。

 

「いやあ!完敗だよ。久しぶりだねえ」

まだ酒が抜けていないようですね。このまま川に連れて行って覚まさせようかなあ。

今の萃香さんは動けはしないけれど動けるようになれば元気に暴れるだろう。

私がやったのはお札で動きを封じるだけですからね。

 

「なぁさとりこっちの2人に言ってくれないかいもうあたしは抵抗しないからこれ解いてくれないかな」

 

勇儀さんなんで縄で縛られているんですか。思いっきりあれじゃないですか。変態みたいになっていますよ。

って言っても伝わるのは私かこいしくらいだしやったのはこいしだろう。

「こいし……」

 

「こうやって縛った方が無理に動けなくなるから……」

 

「それ……色々とあかん知識よ。捨てなさい」

 

「知ってしまうって…辛いよね」

 

貴女の場合辛い云々じゃなくてわざとやっているわよね!

「早く解きなさい」

 

「はーい、せっかく巻いたのになあ…」

お空とこいしが同時に解こうと動き始めたものの…数秒後にはすでに絡まってしまっていた。

 

主に原因はお空。

「おいおい!余計絡まってるじゃねえか」

 

「それ、怪力で引きちぎった方が早い気がするんですけれど」

 

「無理だよ。これは結界を張る時に使う専用の縄だから勇儀さんの怪力は今使えない」

 

「萃香さんに外から引きちぎってもらいましょうか」

私はまだ腕の修復が終わっていないから縄を引きちぎるなんて出来そうにない。こいし自身は私より能力が劣るからか、相手の力をそのままパクると言うことはできない。さとり妖怪らしく心を読みトラウマになっている技を再現するくらいだ。

「私?まあいいけれど」

そうと決まれば即行動。まだ酔いが覚めきっていないけれど多分大丈夫だ。

頭とお腹に貼ったお札を外し萃香さんを自由にする。

 

「やれやれだな」

さもめんどそうに萃香さんは勇儀さんを縛る縄を掴んで……

縄で締め付けられ食い込みが激しくなっている勇儀さんの体に嫉妬してしまった。

 

「……なんでこう…差が出るんだろうな」

 

「気になるなら貴女もあんな感じの体にすればいいじゃないですか」

 

「なかなか上手くいかねえんだわなそれが……」

 

あの…いくら勇儀さんが筋肉ものすごいのに胸とかがしっかりしているからって食い込ませたり柔らかいなあって…普段より強調されてしまっているからって嫉妬はダメです!このままじゃパルパルが来ちゃいますよ。

 

「……思えば胸大きかったね」

こいし!貴女も嫉妬で目からハイライトを失わないで!怖いから!貴女の場合はものすごく怖いから!っていうかこうなった原因貴女だからね!それを自覚して嫉妬してるの⁈

「おいおい2人ともどうしたんだ急によお」

 

貴女は逆に能天気すぎますよ。

もう少し自覚して…少なくともブラとかサラシとかで胸を固定しなさい。

それノーブラで服着ているでしょう。

さっきまで本気で戦っていたのに直後にこれか…

ああもう……締まらないなあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

後日談のようなものではないけれど後日談。

 

私は紫の家にいた。

なんのことはない。ただ世間話がしたくなっただけだったり紫がお茶に誘ってくれたりしたからそれに乗っただけ。

「まだ噂になっているみたいねえ」

 

「ええ、おかげさまで全然収まってくれそうにないんですよ」

 

私達が戦っているところを人里のヒトや天狗とかたまたま近くに潜んでいた妖怪に見られたらしく、その事実は一気に幻想郷中に拡散してしまった。それだけならまだよかったものの、それとほぼ同時に紫が勝手に結界の事を言い出した。

予定ではもっと後だったのにどうして勝手なことをするやら。

だが表立った反対はあまり出なかったのが驚きだ。

そのことを紫に問い詰めたら、どうやら鬼の四天王である2人は結界のことに反対だったがさとり達によって鎮圧された。という筋書きが書き加えられていた。

それによって逆らっても無駄だという雰囲気になってしまったらしい。

私達と勇儀さん達の事が幻想郷中で話題になったあのタイミングだからこそ出来たものだ。

なるほど、すべてお見通しだったというわけですね。

 

「そのおかげでこっちは紫の手先だって言われてるんですけれどね」

 

「いいじゃない今は手先でしょ?」

 

「否定できないから困っているんですよ」

まあ、話せば理解を示してくれるヒト達もいるから必ずしも反対派と戦わないといけないというわけでもない。

実際天狗や河童と言った山のトップが賛成を表明したからというのもあるのだろう。

ただ、私を視認して逃げる妖怪が増えたのは少し寂しい。怖がられてしまうなんてなあ…まあもともとさとり妖怪なのだから仕方がないとはいえ…

 

おかげでこっちは非常に疲れたんですから。少しは何か褒美をください。

「今度食事に誘うわ」

 

「まあ…それなら」

 

たまには他の人の家で食事をするのも良いかもしれない。

それに藍さんの食事は美味しいですからねえ。

 

「……どうやら貴女の仕事よ」

私が思考を食事のことに集中させていると紫が手元で開いていた隙間を見つめつつそう言い放った。

仕事…少ないとはいえやはり抵抗しようとする輩はいるんですね。まあこの辺りは仕方がないだろう。

実際私のことが知れ渡ったとしてもそれを信じないヒト達は一定数いる。見たことしか信じないのかあるいは信じたくなくて幻想に目を向けてしまっているのか。

 

仕方がありませんね…

 

「それじゃあ行ってきますか」

 

「無茶はしないようにね」

 

 

 

 

 

 

 

「……ねえ、これはどういうことかしら?」

 

「結界でここを閉ざしたことに怒っている集団でしょうね」

目の前にいる大小様々な妖怪の群れを前に幽香さんと無駄話をしている私をみて向こうは何か不快に感じたのだろうか。

まあ此方としても貴方方は無駄だと思っていても大事な事だったりするんで話を止めるわけにもいかないんですけれどね。

「なるほどね…寝耳に水みたいなものだったから最初は皆混乱するでしょうね」

 

「全くですよ」

私や鬼とかに伝えることもなくこっそりと結界を張ってしまったのだからこうなるのは必然だ。

というか…最初からこれを狙っていたのでしょうね。

まあ最初の方は混乱もあるだろうと私だって予測はしていた。だけれども…まじめに百鬼夜行が起こるなんて考えていなかった。

 

って言うかそれを解決するのに紫は私と幽香さんしか送り込まなかったのもどうかと思いますよ?

私は言われてそのまま放り投げ出された感じですし

しかも幽香さんに限っては完全に巻き込まれたというか紫の策にはまった感じ。

 

「……考えたらこの件に関しては紫とか妖怪の賢者が悪いんじゃないですかね?」

 

「奇遇ね。私もそう思っていたわ」

 

「じゃああっちに加わります?」

 

「遠慮しておくわ」

 

ちょっとそこの妖怪達なに残念がってるんですか。

「見逃すというのは…流石にダメでしょうね」

「多分紫の事だからどこかから監視していますよ幽香さん」

 

そうよねえとため息をつきながら幽香さんは手元の傘を相手に向ける。

「ならささっと終わらせてカチコミに行きましょう」

高濃度の妖力が傘の先端に集まった瞬間、それは巨大で太いビーム光となり妖怪達に向かって解き放たれた。

爆発と衝撃波で着弾地点の妖怪達が、妖怪だったものが吹き飛ぶ。

呆気にとられる妖怪達。

 

油断禁物余所見禁物ですよ。

腰のホルスターから引き抜いたあるものを素早く構えた私は未だに意識が向こうに行っている妖怪にめがけて引き金を引いた。

 

巨大な炸裂音、強い反動が私の腕を後ろに吹き飛ばそうとする。

それを耐え抜き消炎が消した視界が回復する頃には、狙っていた妖怪はその後ろにいた妖怪ごと血飛沫をあげて吹き飛んでいた

 

お燐から借りたコンテンダーがあったけれど少し反動が強すぎる。マグナム弾よろしく火薬の量が多くなっているのだろうか。

 

まあ……そんなことはどうでも良い。

 

私と幽香さんの攻撃で隊形が崩れた妖怪達だったけれど直ぐに散り散りになり始めた。

それを逃がすほど私だって暇ではない。

出来るだけ弾幕で動きを制限する。その間にも幽香さんは2射目を繰り出す。

ある意味幽香さんはこういう戦いが得意なのかもしれない。

 

私も素早く次弾を装填、目についた妖怪に向けて発砲。

普段の弾幕とは違い秒速1000メートル以上で突き進む弾丸を避けるというのは並大抵のことじゃ出来ない。

その上20ミリもの大口径弾丸……お腹に大穴空きましたね。

 

でも…拡散してしまいましたね……

「これもう戦意喪失で良いのかしら?」

そう言う幽香さんに向かって複数の弾幕が解き放たれる。

各方向からいくつもの弾幕を展開することで逃がさないつもりらしい。

「あら、やる気はあるのね」

 

だけれどそんなものが彼女に効くはずがない。

くるりと一回だけ舞い上がる。

それだけで弾幕は全て消し飛んだ。

 

「なんか…しょぼくないこの弾幕」

 

「貴女がおかしいだけですよ」

 

「そうかしら…」

弾幕に囲まれても平然とそれを処理できるのは貴女くらい。私は包囲されないように動き回っているのになんだかなあ……固定砲台みたいな方ですね。

「そういう貴女も随分おかしいわよ」

そうでしょうか?

コンテンダーをホルスターに戻し刀を引き抜く。

「そんな短い刀なの?」

 

やっぱりそう思いますよね。ええわかっていますよ。私だって短いと思いますから。

「長いと取り回しが難しいですから」

これくらいが丁度良いんですよ。

それじゃあそこで固定砲台お願いしますね。

 

一言そう告げて、私は相手の潜む木々の合間に飛び込んだ。

目についた妖怪は…反撃してくるのであれば斬る。

ほとんど近接戦闘になるから拳や蹴りがいくつも飛んでくる。

それらをかわし…股の裏や脇などを斬りつけていく。

肉が切れる感覚は…もう慣れてしまった。

慣れたくなかったのですけれどね。

 

まあいい、次です。

服に返り血がつこうが蹴りが体を吹き飛ばそうが関係ない。

ただ…今目の前にいる敵に確実なダメージを与える。ただそれだけ。

 

 

何人倒したのだろうか…10人を超えてから数えていなかったから忘れた。だけれどまだ半数前後しか倒れていないようにも思えるしそうじゃないようにも思える。

「……⁈」

後ろに気配。

刀は今目の前の妖怪を斬った直後。背後を取られた時に最も対処できないタイミングだ。

振り向けば斧のようなものを持った羊の角を生やした少女が今まさにその斧を振り下ろそうとしているところだった。

 

斧を防ごうと咄嗟に左腕を顔の前に出した。

その直後、鈍い音がして左腕がへし折れ…ちぎれ飛んだ。

 

だが追撃は来ない。

「背後はちゃんとみなさい」

 

幽香さんがビームで援護してくれたらしい。

少女は少し離れたところに転がっていた。

死んではいないらしいが重症ですね。なら…もう大丈夫か。

 

千切れた左腕は喰われたりしないように私が回収。

まあ刀を持っていない方の腕で良かったですよ。

握った状態でうごかなくなると片腕じゃなかなか刀を外せないんですよね。

さあて…次は誰かなあ?

 

「ひいい!もう嫌だ‼︎」

 

あ…何人か逃げ始めましたね。この調子で…というわけにもいきませんか。

なにせ向こうは百鬼夜行妖怪の数は少なくみても70以上なのだ。私たち2人では人数が足りませんよ。

 

数で押せばいけると考え始めた妖怪は私と幽香さんを分断、包囲する作戦に出た。

こうすればお互い支援することはできない。だけれど…

それで止まるほど私も幽香さんも弱くはない…強くはないですけれど。

周囲からの一斉弾幕、七色の誘導レーザーや変態機動の弾幕が吹き荒れる。

目標は私1人……

全部を迎撃することは出来そうにない。じゃあ…致命打だけを迎え撃つ。

至近弾で体が弾き飛ばされる。好都合……

その勢いで包囲しているやつの一人にかかと落とし。あ…なんか頭蓋骨が割れる音がしたような…まあいいか。

 

ついでにすぐそばで一緒に弾幕を撃っていたやつも…こら逃げるな。

だけれどこの間合いはコンテンダーには十分。

刀を口に咥え右手でコンテンダーを引き抜く。

 

それをみて顔を真っ青にした妖怪さんが木々を盾にしながら逃げようとする。当然弾幕の援護射撃がもれなく付いてきた。

遅いんですけれどね。

木の陰に隠れた瞬間を狙い引き金を引く。20ミリの貫通力じゃあの程度の木は貫通する。

炸裂音の少し後に何かが倒れる音。

 

それに聞き入っていたら背中に衝撃。

前に向かって弾き飛ばされた。

 

みんなして背後が好きなんですね…嫌になりますほんと……

骨が折れたとかそういう被害はなかったけれどヒビが入ったのか動こうとすると痛みが走る。

 

どうやら鬼…だろうか。そんな感じのヒトに殴られたらしい。

人数がこうも多いとやはりジリ貧…

殴りつけてきた鬼の懐に飛び込もうとした瞬間、その鬼になにかが覆いかぶさる。

気づいたらその鬼さんは地面にねじ伏せられていた。

「さとり様!大丈夫ですか‼︎」

 

私のそばに駆け寄ってきた少女……

「お空?どうしてここが?」

 

「分かりますよ…アレだけ派手にやれば」

ふと体が暖かいものに包まれる。どうやらお空が抱きしめたようだ。

 

「後は私に任せてください!」

 

「お、お空!」

 

私の制止を無視して彼女は妖怪達の中に飛び込んでいった。

って…なんか物凄い妖怪の破片とか血飛沫とか舞い上がっているんですけれど……

直接妖怪を引きちぎって投げているし…拳が頭貫通しているんですけれど…

ああ…弾幕をゼロ距離でやるから体が真っ二つじゃないの。

「さとり様の仇!」

お空やりすぎ、やり過ぎよ。それにまだ死んでないから!勝手に殺さないで!

 

「流石、地獄育ち」

周囲を囲んでいた妖怪を片付け終えた幽香さんがこちらにやってくる。

「多分育ちは関係ないかと」

 

「そうかしら?」

そうですよ。だから私を見つめるのはやめてください幽香さん。いくら包囲しているヒトが弱かったからってあっちに混ざろうとしないで。

「さとり様!終わりました!」

 

半数近くまだいたような気がするが…逃げてしまったのだろう。

急に周囲が静寂に包まれた。

 

腕…治さないとなあ……

 

腕が無くなったところに妖力を集中させる。

「……」

斬り落とされた左腕をどうにか再生させる。

血の色をした煙が傷口から吹き上がる。

「生々しいわね」

 

「これで腕が治るんですから目を瞑ってくださいよ」

 

「そうね……」

(す、少し服がはだけてみてるこっちが恥ずかしいんだけれど)

 

「……嫌らしい目線はやめてください」

 

「あらなんのことかしら?」

 

「さとり様の事変な目で見ている…の?」

 

「そんなことないわよ」

幽香さん、少し目を逸らすのはいいんですけれど口元が少し引きつりましたよ。

後お空はなに私を凝視しているんですか?見ても楽しいものなんてありませんよ?

「ねえさとり様、彼らはなんで戦ってたの?」

あら、お空は知らなかったの?

 

「そうね…幻想郷が結界で閉ざされたからかしら」

酷く曖昧だけれど、まあ大体の理由はそんなものだろう。

百鬼夜行の目的は人里を抑えるということ。

元々好戦的だったり残虐性が高かったりする妖怪は幻想郷が閉ざされたら外の町を襲うことができなくなるという不安からか、或いは餌場にしていた町に行けなくなったことからか、どのような事情があったのかは知らないけれどみんな揃って人里を襲おうとしていた。

 

だが人間と妖怪の共存を考えればそれは阻止しないといけない…まあ原因を辿れば一夜で、それも誰にも気付かれずにこのような結界で封じ込んでしまった紫にも責任はある。後博麗の巫女。

 

「ふうん?よくわからない」

 

「私も興味が薄いからそこら辺はよく分からないわ」

そうですか…っと話しているうちに腕が治りました。

「それじゃあ私は帰るわ。お花畑が心配よ」

 

そう言い残して幽香さんは向日葵畑に戻っていた。

 

「…お空。負傷者の様子を見に行くわよ」

 

「え?どうして……」

死んでないなら、なるべく助けておく方がいいわよ。

くだらないことに巻き込まれて無駄に死んでほしくないし。

動ける妖怪は逃げ出したから個々に残っている妖怪は死体か…動けないレベルの負傷を負っている者。

 

さっきの羊の角を持つ少女も、やっぱり転がっていた。

気絶しているし…こっそり手当をしていきましょう。

他にも、気絶しているのか動けないのか分からない妖怪も何人か手当をしていく。

うん、これくらいでいいでしょう。

 

「そっちは終わった?」

 

「はい!終わってますよ」

見た感じこんなところですね。

それじゃあ帰りましょうか……体を動かすにしては少し疲れました。

 

 

 

 

 

 

 

「ふーん…そんなことやってたんだ」

 

「聞くだけ聞いてその反応ですか」

日焼け後がおかしい腕の理由を聞かれたので理由を示したまでですよ。

ただ戦って腕を無くしたから再生した。ただそれだけ。

私のどうでも良いような…なんにも得ることのなかった話を聞けば大体そんな反応だろう。かのにとりさんもその例に漏れなかったようだ。

「まあね。だってさとりだもん」

なんですかそれは…まあいいです私をどう思っていようが貴女の勝手ですからね。私は止めることなんてできません。

「それでさ、お燐のコンテンダー使ってみてどうよ」

 

「そうですね……単発火力と射撃精度が高いので攻撃としては最適ですよ。ただ、連続的な攻撃に向きませんから制圧戦や他対一では苦戦します。私にはどうも扱い難いものですね」

 

「そっか…まあ使う人次第だろうね」

そういえばここに呼ばれた一番の目的がまだでしたね。

お茶を出されて一服していたので忘れかけてました。

「で、完成したから呼んだんですよね?」

 

「まあね」

一言だけ返事をしたにとりさんが机の下から大きめのケースを引っ張り上げた。かなり重たいのか少しふらついている。

机の上に置かれたケースのロックがにとりさんが触れただけで外れる。

「11.5ミリ大型拳銃…火力は前に使っていたものより格段に上がっているよ」

中から出てきたのはメタリックな輝きを放つダークグレーに包まれた一丁の銃。今まで使っていたものよりもはるかに大型だ。

「弾は?」

 

「454カスール弾を15発装填弾頭部分はタングステンで包んであるから貫通力は保証するよ」

 

「やるわね」

「それほどでも」

少し重たいかもしれないけれど丁度良い。

 

「じゃあ……もう一つお願いできるかしら」

 

「追加注文かい?」

ええ、今度は少し仕様が違うけれど…


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