古明地さとりは覚り妖怪である   作:鹿尾菜

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depth.117さとりと巫女(鳴動篇)

久しぶりにのんびりと幻想郷を歩く気がする。

この時代の景色は私自身は見慣れたものだだけれど記憶が持つ感情がよく感動する。

やはりこういう景色は美しいのだろう。

確かに……その気持ちもよくわかる。

だからこうしてのんびりと歩いてしまうのだろう。今あるこの景色を眺めて記憶して楽しむから……

「ふうん……風流人なのね」

 

「折角の景色なんですから楽しまなきゃ損ですよ」

別に強要する気は全くないですけれど。

だけど何もしないでこうやってぶらぶらしていても靈夜さんは満足はないだろう。

「……どこに行くつもり?」

 

私が行こうとしているところの見当がついたのか、私の肩にお祓い棒を乗せてくる。

「まあ…人里をブラブラしたり湖をウロウロしたりするだけです」

理由なんてないですけれどね。

 

「……そう…私は見るだけよ」

あくまでも私を見守るだけですか。それが一番ありがたいですけれどね。

とかなんとか考えたり少しだけ警戒したりしていたらなんとなく山が騒がしくなる。

「……これは…」

 

「どうやら誰かが襲われているらしいですね。ちょっと飛ばしますよ」

知ってしまったからには仕方がない。

靈夜を置き去りにして突っ走る。

「ちょっと!待ちなさい!」

待っていられるわけないじゃないですか。命の重さは…貴女が一番わかっているでしょう。

渓谷を飛び越え木々の合間を縫うように駆け抜ける。

音のする方に向かって最短距離を走っていけば、だんだんと声が聞こえてくる。

幼い子供の声と…うめき声のようなもの。

坂を転がるように下ると里の子供だろうか。幼い童子が異形のモノに襲われていた。

妖の方は……意志の通じるものではないですね。あまりここでは見ませんけれど…別にいないわけではない。

ともかくこのままじゃあの子は助からない。子どもと妖の間に入り込む。

「警告です……諦めて山に帰りなさい」

 

私の言うことに全く耳を貸さない。それどころか私すら敵と思ったのか妖は私に襲いかかって来た。

全く……生き残る気あるんですか?

そう思う私も…後ろで怯える子どもを守るためにもここを動くことはできない。

なら一撃で仕留めるべき。

獣のような姿をする妖から触手が伸びてくる。弾幕を直ぐに展開、触手の予想進路に配置する。

触手が弾幕と接触し爆発。肉片のような何かが辺りに飛び散る。

普通は痛さで苦しむはずだけれどそんな様子は見受けられない。

だが触手による攻撃は不利と判断したのか私に向かって駆け出して来た。

かなり素早い。並みの攻撃じゃ全く当てられない。

だが行き先は決まっている。

私のすぐ近くに飛び込んで来た妖を蹴りで吹き飛ばす。

「や…やった!」

後ろで子どもが喜んでいるけれど楽観視はできない。

吹き飛ばされた妖は何事もなく起き上がり再び私を睨みつける。

だがその姿が再びこちらに迫ってくることはなかった。

ざっくりと妖の体が斬られる。

割れた体の合間から靈夜の姿が現れる。その手には刀がしっかりと握られていた。

 

「ずいぶん早かったですね」

全力で追いかけて来たのか少しだけ息が上がっている。

その上ものすごく不機嫌だ。何かしましたっけ?

「ふざけないで!置いて行くなんてどういうことよ!」

ああ…その事ですか。不可抗力ですよ。

「まあまあ、子どもの前で怒らないでください」

思考の隅に追いやってしまっていたが後ろで裾を掴まれれば嫌でも気づく。

「っち…その子どうするつもり?」

 

「このまま里まで送り届けますけど」

このまま山に置き去りにしては可哀想ですし…こんな深いところまで来てしまっては自力で帰るとしても日が暮れてしまい危険ですからね。

「あんた妖怪じゃないの?」

靈夜さんの言葉に子どもが反応する。

「妖怪ですよ。でも妖怪だからと言って人を助けない理由にはなりませんよ」

ただのお節介。勝手なエゴだけど…エゴは貫いてこそエゴですからね。

結局私がおんぶして山を下ることにした。

最初は警戒していた子どもも気づけば色んなことを話すまでになっていた。

そこで、なぜ一人で山へ来ているのかと問えば…里の寺子屋で弱虫だなんだ言われたらしく…弱虫じゃないということを見せつけるために来たようだ。

アホくさいと思うけれど子どもの心理からいえば仕方がないだろう。

少しだけアドバイスを与えておく。人間関係のもつれは結局のところ意思疎通の齟齬が原因ですからね。

「……」

黙って私を見つめる靈夜の視線に気づきこちらも見つめ返す。

言いたいことがあるならしっかり言ってくださいね。私は多元?に心を読みませんから。

「なに?私があの妖怪を退治したことに文句でも言いたいの?」

 

「いえ、貴女がやらなくても私がやってましたから別に何も言いませんよ」

同じ妖怪であっても理性のないものはただの化け物と変わらない。罪悪感なんて起きそうにもなかった。

「あっそう…それにしても人間を助けるのね」

 

「珍しいですか?」

珍しいとは思えませんけれど…まあ人間からすれば妖怪なんておぞましいものですからね。

「下心があるとしか思えないわ」

 

「せめて慧音さんみたいと思って欲しいです」

 

「それは無理ね。それに彼女は正確には妖怪ではないわ」

 

ああ…確かハクタクって神獣でしたっけ。

となるとやはり珍しいのですね。そうなると私とこいしくらいだろうか…人間を助けたり脅かしたりしているのは。お燐は基本的に関心ないしお空は人間を避けるからなあ……

「送り返したらすぐに私は退散します。もう……人里に干渉する理由はないですからね」

いつのまにか背負っていた子は寝てしまっていて規則正しい寝息が小さく聴こえてくる。

しばらく全員が無言になっていたものの人里が近くなって靈夜が口を開いた。

「さっきの言葉、昔はあったみたいな言い方ね」

 

「昔は人里に住んでいましたからね」

その時は完全に妖怪の敵についていましたね。私は敵対しているつもりはないし妖怪の山の方もそこまでというわけではなかったけれど人間からすれば私は妖怪から離反した奴って見られていたのでしょうね。

「ふうん……」

理由がわかったのか興味をなくしたのか相打ちのようなものが返ってくる。

だけどなにかを考えているのか視線が泳いでいる。

でも何を考えているかなど無闇に知るものでもない。

子どもを返す事を優先する。

 

靈夜のはからいで里に入ったは良いものの子どもの住んでいる家が分からない。聞こうと思ったのですが寝てしまっているので寺子屋にそっと預ける事にする。

あの時の記憶がトラウマになっていると少し困りますけれど…今すぐ困るわけでもないのでおいておこう。

寺子屋の縁側にそっと子どもを下ろして人里に出る。

「……退散するんじゃなかったの?」

すぐに退散しない私に不信感を覚えたのか私の背中にお祓い棒が当てられる。

「せっかくですしお昼にしようかと…」

お昼と言ってもお団子一本とかその程度ですけれど。

「分かったわ。勝手にしなさい」

はいはい勝手にしますよ。

美味しそうなお店はいくつか事前に確認してますからね。靈夜が後ろについてくるせいでなんだか目立ちますけれど私の正体はバレてないだろう。バレたら逃げないといけないですから…

幸い正体が露見することはなく、無事に団子も購入できた。

ちなみに二本分。

隣に来た靈夜の視線が団子に向かう。いくらこちらに辛く当たっていても所詮は少女。

「食べます?」

彼女もその例にもれず少女だったようだ。なんだかこういう一面があるだけ嬉しい。

「要らないわ」

頑固に断りますけれど目線は完全に団子に向いているし声が少し震えている。

「そう言わずに……」

欲しいなら欲しいって素直に言ってくださいよ。別に意地悪なことなんてしませんから。

「仕方ないわね…」

口では否定してますけれど嬉しそうですよ。それにそろそろお腹が減る時間ですからね。

少し寄り道でもしましょうか。どこにするかはその時に決めるとして…

 

 

 

「…神社に行きましょう」

里から出て道をぷらぷらとしながらふと思いつく。それに今歩いている道も神社へ向かう参道。

「なんで神社なのよ」

唐突な提案に難色を示してくる。

「いいじゃないですか。たまには神社にお参りするのも」

お参り以外のこともする予定ですけれどそれはあえて言わない。意地悪?いえいえそんなつもりはないですよ。

「まあいいわ……」

反対する理由もないし勝手にしろと言っていたのは自分だったかと考え直し靈夜は黙る。

「変わったやつね」

 

「よく言われます」

何を基準に変わっているのかは分かりませんけれどね。

基準なんて曖昧。なのにしっかりと線引きがされていると思い込んでしまっている。だから齟齬が出てしまう。

まあ……どうでも良い戯言ですけれど。

 

 

 

博麗神社周辺の結界はいまだに正常のようで、私の体から妖力が抜けていく感じがする。

「相変わらずですねえ…」

「その言い方じゃ来たことあるように思えるけれど?」

何百年も前ですけれどね…その時からあまり変わっていなさそうですね。

少しだけ補強を入れた痕跡がありますけれど。

「かなり昔ですけれどね。それこそ…何代も前の博麗の巫女と交友関係にありましたからね」

その言葉が意外だったのか彼女は目を丸くする。そんなに驚くことだろうか……まあ貴方の常識のなかでは驚くのでしょうね。

そんな事を言っていると本殿の前に着いた。階段を全部歩いて登らなければならないというのはなかなか大変ですからね。

お賽銭を入れてお参り。

 

ついでなのでそのまま縁側に回り部屋に入る。

「ちょっとどこから入ってるのよ!」

「だって玄関から入ろうとしたら止めるじゃないですか」

 

「当たり前よ!妖怪を神社に招き入れるアホがいるか!」

あの…それ廻霊さんとかをアホって言ってるもんですよ。

ってこんなところで暴れるのもやめましょうや。もう入ってしまいましたし。

「あ…そうだ。台所貸していただけます?」

なんだか騒いでいたら余計にお腹が空いてしまった。

 

「なんで貴女に台所貸さなきゃいけないわけ?」

家に入るところまでは諦めたようだがまだ突っかかって来た。

もうここまで来たら台所を貸すのも変わらないと思うのですけれどね…

「ダメですか?」

ダメと言われても使うつもりですけれど…

「もういいわ勝手にしなさい」

私の考えていることがなんとなく分かったのか盛大にため息をついて居間に座り込んだ。

お腹も空いているでしょうからあまり反抗したくないと言うのもありますね。

 

さて、調味料と食材を確認して……何を作りましょうか。和食は慣れているから良いのですけれど…少し時間がかかりますし…

洋食でも作ってみますか。

あ、卵があるじゃないですか。

 

 

 

 

 

 

せっかくだったのでオムレツを作ってみた。

本当は中にご飯でも詰めてみたかったのですがご飯を炊く時間が惜しいので今回は諦めた。

「お待たせしました」

 

「なんで二人分あるのよ」

目の前に出された二人分の料理に靈夜が困惑する。

「あなたの分ですよ?今日お昼ほとんど食べてないじゃないですか」

食べたものといえば先程のお団子一本程度。どうみてもエネルギーが不足している。

「……食べないのですか?」

ダメですよ。年頃の子が食べないだなんて…栄養不足で体がすぐに弱ってしまいますからね。

「妖怪が作ったものだから得体が知れないし毒が入ってるかもしれないじゃない」

実際見た目としては謎だろう。そもそもこの時代にはまだ存在しない料理ですからね。

でも卵料理は一応あるんですからそこまで得体の知れないものでは無いはず。

「そんなことないですよ。食べてみれば分かりますって」

それになるべく貴方の好みに合わせて作っているから気に入ってくれると思うのですけれど…私が好みを知っている理由?

少しだけ好きなものを覗きましたからね。それ以外は分かりませんでしたけれど…まあ、ある程度の味の好みは分かりましたよ。

 

不満げな顔をしていたものの、空腹という生理現象には耐えられなかったらしい。

思い切って食べ始めた。

「……⁈」

そのとたんずっと不機嫌だった顔が少しだけ崩れた。

「……美味しい」

どうやら気に入ってくれたらしい。少し味付けが濃いからあまり好かれないかと思いましたけれどそうでもなかったですね。

「それは良かったです」

 

食べ物を食べている時が幸せになりやすいし本性が出やすい。これで少しは丸くなってくれただろうか。

「それにしても不思議ね…こんな料理を考えつくなんて」

「知っていただけですよ」

考えついたわけではない。ただ知っていただけ。

ふと視線を感じて靈夜へ意識を移す。

「どうしたのですか?」

何やら厳しい顔をしながら私の手元を見つめている。

「なんでもないわ…それ食べないの?」

いつのまにか食べ終わっていたらしく私の手元の皿をじっと見つめていた。

「食べます?」

 

「そこまで食意地は張ってないわよ」

別に構いませんけれど…まあ無理に進めるものでもないですからね。

私も早めに食べてしまおうかと思い手元の皿を引き寄せようとして…その手が空を切った。

「……え?」

 

いつのまにか私の皿は彼女にとられていた。

 

「何よ。なかなか食べないかのが悪いんじゃない」

 

「ええ……もういいです」

美味しく食べていただければそれで良いですから。

それに……心を開いてくれるのなら私はなんでもしますから。

だって紫だってそれが望みなのでしょう。だからこのタイミングで彼女に私の所に行けと言ったのでしょう。

ならば…それに答えるだけです。

 

「……顔が怖いわね。やっぱり退治しましょう」

 

「理不尽の塊になってたら寂しいだけですよ」

 

「言ってなさい」


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