古明地さとりは覚り妖怪である   作:鹿尾菜

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depth.119さとりと吸血鬼異変(前奏編)

巫女や紫と意見を交わしたり意見を求められたりしてから数日ほどが経過した。

未だに吸血鬼の被害は収まっていない。

巫女さんが1人退治したらしいのだけれどそれでも収まる気配がないところを見るに複数の吸血鬼が紛れ込んでいるのだろうとの事だ。

 

余談ではあるけれど不意打ちを行い心臓を白木の杭でひと突きにしたのだとか。

まあ傲慢な所につけ込んだ不意打のようなものではあるけれど良いのではないだろうか。

ただ、今後それが通用するかと言われれば絶対にないだろう。

相手が複数と言うことは巫女が対峙したところも別の吸血鬼に見られている可能性が高く、対策を練られるかもしれない。というかもう練っている最中でしょうね。

 

肉体に杭を打ち込むのはもう嫌だとか言っていましたけれど

でも杭で心臓を貫くってある意味恐ろしいです……

確かに人間の臓器は背中側からの攻撃には弱い節がありますけれど。

そういえば今日、にとりさんに呼ばれていました。

なんでも、頼んでいたものが完成したとの事です。

ついでに連絡用に送った伝書鳩も返してくれとの事だ。何故伝書鳩なのだろう。

一応機械なのは分かるけれど……

 

幸いこの後は何もないですからのんびり行くとしましょう。

 

「どこかでかけるのかい?」

私が立ち上がるのとほぼ同時にお燐が部屋に入ってきた。死体漁りが不発だったらしく少し残念そうだ。

「ちょっとにとりさんのところへ」

 

「じゃああたいも行くよ」

 

あら、お燐も?別に良いわよ。そう言えばお燐用の武器も作っているって言っていたわね。ついでだから良いかしら。

猫に戻ったお燐を抱きかかえて家を出る。こいし達には手紙を置いておいたから大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

 

相変わらず河童の工房は分かりづらい。

川に沿って登っていってもなかなか視認することができない。

例えば視認できてもそれがにとりさんの工房なのかと言うとそう言うわけでもない。

実際2回ほど間違えた。来るたびに難易度が上がっているような気がするのですけれど……

ようやく見つけた時には家を出てから半日以上が経ってしまい、いつのまにか夜が明けていた。大半の妖怪は活動時間上寝始めたりする時間なのですが…まだ起きているでしょうか?

扉を蹴り飛ばす感じにノックすれば、建物の奥が急にバタバタとし始めた。

どうやら起きていたらしい。寝ていても叩き起こしますが……

「やあやあ、よく来てくれたね!」

 

呼んだのはそちらですからね。

内容はまあ分かっていますけれど……

 

上がってと言うにとりさんに続いて建物の中に上がる。

猫になっていたお燐も直ぐに人型に戻る。

「この前頼んだもの、出来たよ」

通されたのは工房の方ではなくそこに直結する小さな部屋だった。

いつもの部屋といえばそうなりますが、少し違うのはにとりさんの家と直結していると言うことろでしょうか。

 

「頼まれていたものですか」

私の無茶な要求を良く叶えてくれたと思いますよ。

 

「全く…あんたも物好きだよねえ。私も楽しめたから良いんだけれど」

そう言うとにとりさんは天井からワイヤーで吊るされていたケースを私の前に下ろした。

 

「対妖用13.6ミリ拳銃正直拳銃にしちゃダメだねこんなの。全長44cm重量19kg装弾数10発多分妖怪でも使う相手を選ぶ代物だね」

ケースが開かれると、そこには巨大な図体が横たわっていた。やや赤みがかった銀色に塗られたスライドと銃身が電球の明かりで輝く。この前にとりさんからもらった銃よりも一回りほど大きい。

「専用の13.6mm徹甲焼夷弾」

 

「弾殻は?」

 

「表面を純銀でコーティングしたフルメタルジャケットだよ」

「発射薬は?」

「トリプルベース火薬」

 

「弾頭は?」

 

「ナパーム焼夷弾頭」

 

「パーフェクトよにとり」

 

「感謝の極み」

 

 

「あんたら何やっているんだい」

ちょっとふざけただけですよ。気にしないでください。

「それじゃあさとりが今持っている拳銃回収させてもらうよ」

そりゃこんな巨大なもの何丁も持って歩くものじゃないですからね。1つで十分です。

「分かりました」

腰に装着していた方の拳銃を渡す。それを受け取りながらにとりさんは少しだけ顔をしかめた。

 

「扱いがあまり良くないよ。スプリングが伸びちゃってるじゃん」

一度に大量の弾をばら撒きすぎたせいですかね?排熱がうまくいかなくて伸びちゃったのでしょうか……ほとんど使う機会がないので忘れていました。

「それにライフリングもすり減っちゃってる…メンテナンスに出してよ」

今度から気をつけます。一応普段から分解して磨いたりはしていたのですけれど…やはり一度はにとりさんのところに持って行くべきだったでしょうか

「まあ当分はこっちで預からせてもらうよ」

 

「お願います」

 

ダークシルバーの銃の代わりに銀色の拳銃を持ってみる。結構重いですね…それに大きい…

人間じゃ絶対に扱うことは無理ですね。

 

「ついでだからこれも作ったよ」

銃を分解していたにとりさんが思い出したかのようにお燐の手を取り部屋の端っこに連れて行く。

「ちょ…ちょっと。急になんなのだい?」

そこには壁に立てかけられた巨大な棒のようなものが布を被せて置かれていた。

お燐の身長を大幅に超えるそれはどう見ても銃とかではない気がする。

見て驚くなよと悪戯をしようとしている子供のような笑みを浮かべてにとりさんはかけられている布を取り払った。

 

「な…なんだいこりゃ?」

そこには黒色に輝く砲身と、その先端にある筒のようなマズルブレーキ。とってつけたかのようにトリガーやストックが追加されているわけのわからないものがあった。ちゃんとボルトアクションなのかレバーも付いている。

 

「37ミリ47口径対物狙撃砲だよ」

それはもう戦車砲ではないのだろうか?

「弾種は成形炸薬弾と徹甲弾の2種類、装填弾数は6発とは言ってもまだマガジンが完成していないから1発づつ手動装填が必要だよ」

 

「こんな重たいの持てませんよ!」

 

呆れてしまっていたお燐が我に返ったのか叫ぶ。そりゃこんな馬鹿でかい砲を持って動くなんて……火力全振りにして動けなくなるオチじゃないの。

「大丈夫だと思うよ?だってお燐は普通の猫又じゃないだろうからさ」

どう言う意味でしょうか?お燐は普通の猫又ですよ?

にとりさんの言葉の意味が分からない。

お燐も自覚がないのかどう言う意味だと真剣に考え出してしまっている。

「あんたら自覚ないんかい」

自覚って…?

「あたいもよくわからないのだけれど……説明してくれないかい?」

本人すらよく分かっていないようです。

何故かにとりさんが大きくため息を吐く。一体なんだと言うのだろう。

「あのなあ…あんたの名前は鬼の四天王がつけたんだろう?勇儀さんから聞いたんだよ」

 

「ああ…確かにそうだったねえ」

お燐人ごとのように聞きながさないの。

「妖は名前というものに強く影響されるんだ。だからあんたも普通の猫又よりかは鬼、それも名付け親の四天王あたりの性質を引っ張っているんだよ」

にとりさんによって明かされた衝撃的な事実。

どうして気がつかないんだと呆れていますけれど…比較対象があまりいなかったですしそもそもお燐がどれほど強いのかなんて考えたことなかった。

確かに、時々鬼と肩を並べるほどの力を出しているような気がするとは思っていましたけれど……

 

「あたいってそんなにやばいことになっていたんだ……」

実感がわかないのか自身の手を見つめるお燐。

そんな彼女に痺れを切らしたのか、にとりさんが握力計を持ってきた。

どうやら鬼でも使える握力計らしい。勇儀さん達は壊したのだとか。

まさかと言いながらもお燐はそれを利き手で握る。

 

「ふにゅにゅッ…‼︎」

最初から全力。一瞬にして握力計の針が振り切れ、しばらくするとミシミシと何かやばそうな音が響き始める。

あれは壊れるんじゃないのだろうかと思った瞬間……

なにかが裂ける音がして針が一気にゼロになった。

 

「あ……壊れた」

どうやら中のパーツが外れたらしい。なんて馬鹿力……

「うう…手が痛い」

そんな馬鹿正直に全力でやらなくてもいいのに……でもこれではっきりした。

お燐の素の力は並の鬼を超えていた。因みに勇儀さん達は顔色変えずに一瞬で壊してしまったのだとか。それも利き手じゃない方で。そう考えるとまだ可愛い方ですね。

 

「でもそこまで強いなら銃とか砲弾なんて使わなくてもいいんじゃ……」

私の言葉を遮るようににとりさんが肩を掴む。

「さとり、それを言っちゃダメだよ。こういうのは浪漫が必要なんだよ」

まあ……攻撃の選択肢が増えることは喜ばしいことですし……

でも今まで接近戦なんて爪とかで切り裂くくらいしかして来なかったのにいきなり拳で殴るなんて出来るのかしら?

 

「あたい…殴ったことはほとんどないんですよね」

苦笑いをされてしまう。まあ普通はそうでしょう。でも蹴りは結構やっているわよね。

それを指摘したらまあそうですけれどと口籠る。

「今度萃香さんあたりに稽古をつけてもらいましょう」

私の言葉にお燐が顔色を変える。

「あたいを地獄に突き落とすつもりかい⁈」

そんなことないですよ。拳で殴ることに慣れれば良いんですから。たったそれだけです。

 

「とにかく一度こいつを使ってよ。せっかく作ったんだし」

まあそうしましょう。それじゃあお燐それ担いでみて。

 

「重たそうなのに……って結構軽くないですか?」

片手でひょいひょいと持ち上げるお燐。まるで狙撃銃を持っているかのように扱っていますけれどどう見てもゴツすぎる。見た目に反して軽いのだろうか?

「私だってパワースーツとかのびーるあーむ君がないと重たいと感じるのに……」

あ、やっぱり重たいんですね。少なくとも片手であんな持てるようなものじゃないですよね。

 

「振り回したら鈍器になりそう……」

何か物騒な言葉が聞こえた気がするのですが……

「やめてくれよ。砲身は繊細なんだから」

 

「分かってますよ」

分かっているのだろうか…なんか土壇場でホームランバットのごとく使用しそう。

「振り心地は良いんだけれどねえ…」

やっぱり分かっていない!

 

 

そう言えばさっきから何か焦げ臭いような……なんの匂いでしょうか。

「ん?焦げ臭い…」

私が気づくと言うことはもちろんお燐も気づいているのであって、

「ああ⁈胡瓜炒めてたの忘れてたあ‼︎」

 

何炒めているんですか!っていうか火の消し忘れ⁈

蜂の巣をつついたような大騒ぎである。

主ににとりさんとお燐が……

 

ここの部屋は簡易的ではあるけれど密閉式なのですが…それでも匂いが防げていないと言うことは相当やばい状況だろう。

隣の部屋に飛び込んでいった2人を追いかけて私も続く。

 

 

なんかもう火災が起こりかけていた。

危ない危ない……

燃えるのは貸本屋、爆発するのは紅い屋敷で十分ですから。

「危なかった……」

ホッと一息ついたにとりさんが後片付けを始める。

「ごめんなさい。タイミングが悪かったようで」

 

「気にしなくていいよ」

 

とは言っても朝食の作り直しは流石に堪えるのかうんうんと唸っている。

そうだ、こう言う時こそ……

「私が何か作りましょうか?朝食まだでしょう?」

お燐も丁度お腹がすいてくる頃でしょうし丁度良いかもしれませんね。

「本当かい⁈じゃあお言葉に甘えて…」

ついでだからと銃のお値段を割引きしてくれた。そこまでしなくてもいいのに……

「あたいもお腹が空きました」

やっぱりお腹が空いたのね…ちょっと待っていてね。すぐに作りますから。あ、断じて手抜きとかじゃないですよ。

 

それにしても見事なまでに胡瓜ばかりですね。

一応調味料は揃っていますからどうにかできますけれどどう見ても栄養バランス悪いですよね……

 

 

それでも頑張って作ってみれば、見事に胡瓜が主体のもので溢れかえった。

まあにとりさんは大喜びでしたよ。

勿論お燐や私も美味しく食べれるように味付けには工夫しました。

ですが白米を胡瓜で食べるって……まあ美味しく食べれているなら良いのですけれど。

 

朝食を食べて機嫌が良くなったのかお燐は私の膝の上で寝息を立てている。

太るよと言ったのだが猫の体では問題ないらしい。よく分からないけれどそう言うものなのだろうか。

にとりさんは工房の方に行ってしまい、私は1人寝ているお燐の為に少しばかり部屋でゆっくりしているだけ。

ふと窓の外を見る。風が強く吹いているのか葉っぱが舞っている。

日が陰りを見せる。

部屋に入り込む光量が一気に落ちて辺りが薄暗くなる。

……急に暗くなりましたね。

私の膝の上で寝息を立てているお燐を叩き起こす。

 

「嵐が来るわ」

 

「嵐?だけれどまだ曇っただけじゃ……」

 

「いいえ……この雲は異常よ」

 

その瞬間、激しい光が発生するのが少しばかり山肌越しに見えた。

 




「さあ役者は揃い幕は上がった‼︎今この時より吸血鬼の恐ろしさを刻み込ませる劇の始まりだ!」

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