古明地さとりは覚り妖怪である   作:ヒジキの木

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depth.120さとりと吸血鬼異変(進撃篇)

それが現れたのは湖のすぐ近くだった。

 

「きゃ⁈」

 

「おわっ!なんだなんだ!」

 

青白い光が周囲を染め上げ、近くにいた私やチルノちゃんを含む妖精達を吹き飛ばした。

どれほど飛ばされたかは分からないけれど、私が周囲を確認できた時には光の中心だったであろうところには真紅の建物ができていて、その周辺の木や土は球状にえぐり取られていた。

 

何があったのかその時は分からなかった。だけれどその建物のようなところから飛び出してきたヒト達を見て、私は近くで土に頭を埋めていたチルノちゃんを引き上げて逃げ出した。

 

 

 

 

 

「相当派手にやっているようですね……」

 

吸血鬼達が攻撃を仕掛けてきてから1時間。

にとりさんの家から真っ先に地底に直行して旧地獄に非常事態を伝えてとやっているだけでもう1時間経ってしまっていた。

 

地上にある私の家の屋根に登り周囲を確認する。

 

遠くで聞こえている爆発音や悲鳴のようなものは未だに鳴り止まない。それどころかどんどん激化しているようだ。

 

「お姉ちゃん!勇儀さん達準備できたって!」

 

「分かりました。ではこちら側に全員が来たら門を閉じます」

 

旧地獄に繋がる門はとっくに閉じた。残っているここを閉じれば旧地獄に行く道はなくなる。

だけれどその前に戦力は外に出しておく。

「久し振りに楽しい戦いになりそうだなさとり」

不意に勇儀さんの声が聞こえて振り返ってみると、いつのまにか屋根に登ったのか四天王の2人がそこにはいた。

「相手が正々堂々戦ってくれる保証が無いのは残念だけれどな」

萃香さんそれは皮肉ですか?

命懸けの戦いで正々堂々なんてやる方が少ないんですよ。貴女の気持ちも否定はしませんけれど。

「体が鈍っていないといいんだけれどなあ」

 

「2人なら大丈夫でしょう…」

うん、不安要素がないです。

「それで、どこに行けばいいんだ?」

 

「そうですね…妖怪の山の方に加勢してもらえます?それが終わったら状況を見て本丸に突貫しちゃってください」

 

私の説明に納得したのかさっさと倒してくると腕利きの鬼たちを連れて早速行ってしまった。

脳筋と思ってしまうが実際鬼は脳筋が多いから仕方がない。それに戦いに限っては彼女達なら安心できます。

 

「私達はどうすればいいの?」

 

黙って見ていたこいしが私のそばに来た。

「そうね…お燐と一緒に人里の防衛をお願い。私はお空を連れて行ってくるわ」

 

「わかった…けど大丈夫なの?」

心配してくれるのは嬉しいですけれど私は貴女の方が心配よこいし。

「貴女の武器、吸血鬼相手じゃ足止めにしかならないわよ」

そう、こいしの所有する銃火器の弾丸は対吸血鬼用に純銀で覆われているものではなく普通の弾丸なのだ。

こいしが吸血鬼を確実に仕留められる武器があるとすればそれは純銀製の刀と剣だけだしそれだって数が少ないのだ。

 

「足止めくらいはできるから大丈夫だよ!それに回復出来ないように常に体を破壊し続ければいいだけでしょ?」

それを笑顔で言ってしまうあたり…冗談ってわけじゃないのよね。

ええ、こいしならやりかねない。

「お姉ちゃんだってそんな武器わざわざ使わなくたって大丈夫でしょ」

「あまりお勧めできるものじゃありませんけれどね」

 

「まあいいじゃん!取り敢えず終わったらご馳走作ってよね!」

そう言うとこいしは空に飛び上がり人里のあるであろう方向へ飛びだって行った。

しかし、なぜフラグを作っていくのこいし。

空気を読んで言わなかったけれどその言葉が出かかってしまう。

 

「さとり様?門しめるんじゃないんですか?」

 

「ああ、忘れていたわ。ちょっと待っていて」

 

まあ、ちゃんと帰ってきてくれるって信じているわ。だから私もちゃんと戻ってこれるように…頑張らないといけないわね。

 

 

 

 

 

 

 

地面を伝って聞こえる足音が少しだけ遠くになる。

私達を探すのはとっくに諦めたのにどうしてずっとここにいるのかな…早くどっか行ってほしい。

「大ちゃん、あいつらなんなのだ?」

こっそりと頭を出して様子を伺うチルノちゃんを引っ張って戻す。

「分からないよ。それより頭出していると見つかっちゃうよ」

 

よくわからないヒト達に囲まれて咄嗟に窪地に逃げ込んだけれど周囲に何人かウロウロしているせいで逃げ出せなくなっちゃった。

 

「……見つかる時は見つかるでしょ」

私の言葉に、チルノちゃんにしては大人びている声で小さくそう答えてきた。でも初めてではない…冬場に大人になったチルノちゃんのようだったから。

「チルノちゃん?」

でもどうしてそれが……

「ん?どうかしたのか?」

 

「なんでもない」

 

兎も角このままじゃどうしようもない。遠くから聞こえる爆発音とか悲鳴から考えて幻想郷に侵攻して来たのは明確なんだけれど…

 

「チルノちゃん…ヒトを完全に凍らせる事は?」

 

「天才のあたいなら1人までなら出来るよ。2人同時は流石に無理だね」

 

そうだよね……あそこでウロウロしているヒトと、少救援に駆けつけやすい位置で待機している2人の計3人を無力化するのは流石に無理だなあ。

「不意をつければあたいと大ちゃんで2人はいけるでしょ」

口では簡単だけれど…

「3人目はどうするの?」

それに増援が来ちゃったらやばいってば。ここだってバレたら即攻撃されちゃうのに…

 

「……あたいがどうにかしてみるよ」

チルノちゃんの雰囲気が一気に変わった。

今までの、普通のチルノちゃんじゃなくて、多分冬場のチルノちゃんに近いけれど…でもここまでの覇気があるなんて。

「危険すぎるよ!」

 

「大丈夫だよ。あたいはサイキョーなんだからね!」

私を安心させるためのものなのだろう。だけれど無理をしているのか少しだけ震えている。

妖精は死んでもまた復活できるけれど、それでも死ぬのは痛いしもし生き返った時に幻想郷が、大事な友達がいなくなっていたらと考えただけでも恐ろしい。

「でも……」

 

「それに大ちゃんに…他のみんなに怖い思いをさせた奴らを許せないんだ!」

チルノちゃん、そこまで決意しているのなら私も最後まで付き合ってあげないと。

「……分かった。じゃあ、せーので飛び出すよ」

 

大丈夫、3人目4人目と来ても私達2人なら行けるから……

「吸血鬼だろうと何だろうと関係ない……生きているのなら」

 

必ず殺すことができる。

さっきの声を聞きつけたのか足音が急にこちらに近づいてくる。

好都合だ、このまま近づいてきてくれれば……

気配をギリギリまで下げてなるべく気づかれないようにする。もうすぐ…

足音はすぐそこ、チルノちゃんが最初に飛び出した。

瞬時に、誰かのうめき声が聞こえたがそれらは全て強力な冷気によって氷づけされてしまった。

一瞬で完成した氷のオブジェの横をすり抜け、もう1人の目標がいるところに瞬間移動。

丁度相手の後ろに出た。

 

無防備な背中に抜刀した刀を流すように当てる。

数票ほど遅れてその体がバラバラと崩れ去る。

心臓も細切れにしておいたからもう助からないでしょう……多分。

 

 

「キャッ⁈」

 

「チルノちゃん‼︎」

チルノちゃんの悲鳴と何かが地面を転がり木をなぎ倒す音が響く。

すぐさま先程のところに瞬間移動……

「チルノちゃ……」

私の言葉は最後まで続かなかった。

気づけば私の体はくの字に曲がって高速移動していた。

それと同時に腹部への激痛……蹴り飛ばされたのだと分かった時には既にどうしようもなかった。

木か何かにぶつかったのかようやく私の体が止まる。

霞んだ視界で周囲を確認しようとするがそれよりも早く上から押し付けられた。

「や、やめろ‼︎大ちゃんを離せ!」

すぐ近くでチルノちゃんが叫んでいるけれど少し遠く感じる。

 

相手が何か言っているけれど上手く聞き取れない。

でもここで終わるってことは分かった……だから……

 

「抗うよ…」

 

相手の後ろに向かって瞬間移動。

一度しかできないとか、体を接触させておけば大丈夫だとか思ったのだろうか?

これで…終わりっ!

背中側から体を切り裂く。

心臓を含めて斜めに切り落とした体がガタリとその場に倒れる。

 

「大ちゃん!怪我はないの!」

 

「多分…大丈夫」

お腹がすごく痛いですけれど…

それに少し音が聞き取りにくくなっている。

 

「良かった。取り敢えずここら辺の奴らは片付けたね!」

 

「そうだね…」

周囲にほかの気配はないし多分大丈夫。

「じゃあ他のところに加勢しに行くぞーー!」

チルノちゃんが拳をあげる。それにつられて私も小さく拳を上げた。

「ゔぁーか!させるわけねえだろ」

 

「あ……え?」

その場にするはずがないヒトの声。

周囲の景色が異様にゆっくり進んでいる気がした。

血色の悪い手がチルノちゃんのお腹から飛び出して…真っ赤な噴水がその場に上がった。

 

「手間かけさせたな」

チルノちゃんの体を誰かの手が貫いていた。真紅の血が青色のワンピースを染め上げていく。私の顔にも少しだけ飛び散る。

その原因はさっき私が切り刻んだはずの……

 

「嘘……どうして……」

 

「吸血鬼はあんなのじゃ死なないんだよ」

吸血鬼…その単語がなんなのかは分からなかった。だけれど、チルノちゃんが吸血鬼にお腹を刺されたのはわかった。

その場に崩れ落ちるチルノちゃん。私の中で何かがちぎれた。

「貴様っ‼︎」

 

瞬間移動攻撃を仕掛けようとするけれど、それよりも早くなにか乾いたものが割れる音が響いた。

 

「……え?」

体が地面に倒れる。どうして……?

 

「ギャアアッ‼︎足がッ‼︎」

両足が痛い!

どうして⁈どこから…

 

振り返ると、そこにはさっき切り裂いたはずのヒトが何事もなかったように立っていた。

まさか回復した……の?

 

でも…回復するのであればまた斬るのみ‼︎

脚が動かないけれど……戦えないわけじゃない!

 

瞬間移動で空中に体を移動。チルノちゃんを刺した敵の頭に向けて刀を突き立てる。

頭蓋骨が砕け、確かに脳に突き刺さった。

だけれど……

「無駄だ‼︎」

素早い動きで刀を握る腕を掴まれた。

普通なら動きなんて止まるはずなのになんで動けるの!

思わずそんな言葉が口からでかかった。

強い力で握られているのか一瞬で腕がひしゃげた。義手が使い物にならなくなり、腕の残骸を思いっきり引きちぎられた。握っていた刀が腕ごと地面に捨てられる。

気がつけば刺した傷は消えている。ものすごい回復力……

あれが反対側の生身の腕じゃなかったのは不幸中の幸いだった。

バラバラになった生体部品のようなものが赤色の液体とともに流れ出る。

終わりだと言わんばかりに私の体をチルノちゃんの隣に放り投げる。

片腕だけじゃうまく受け身が取れず全身を強打してしまう。

「う…このっ」

体制を立て直したかったけれどもう体はうまく動かせない。

 

「やめ……ろッ!大ちゃんに手を…出すな!」

チルノちゃん⁈もういいから!早く逃げて!チルノちゃんならその傷でも振り切れるはず……

声がうまく出せない。

 

先にこっちからだと言わんばかりに、そいつらは私の側で倒れているチルノちゃんの頭に何かを押し当てる。

お燐さんやさとりさんが持っているものによく似ている。だけれど殺意を持って向けているそれは今は異様なほどの恐怖を生む対象でしかなかった。

「だ…ダメ……」

 

そのヒト達の目は私達をただの屑だと見下しているかのような、この状況を楽しんでいる…そんな目だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「状況はどうなっているの?」

 

「事前に得られた情報を元に各部隊を進行させているわ。まあ大丈夫なんじゃないかしら?」

 

人里が見つからない事以外わねと最後に大事な事を付け加えて来る。

「そういう大事なことは先に言いなさいよ」

 

「別にあれは戦術上あればいいかな程度で戦略上では攻める必要がない場所でしょ。それに吸血鬼だけじゃなくてほかの魔物だっているんだからそっちに任せればいいじゃない」

それもそうね。なにせこの大攻勢に参加しているのは吸血鬼だけじゃない。そのほかの魔物も数で言えば吸血鬼と同じくらい来ているのだ。

ただし銃火器は吸血鬼分しかないから妥協してもらったわ。

そもそもあれらは大戦のどさくさに紛れてこっそり頂戴した物だから数も不足気味だし弾だって多いとは言えない。それでも使い勝手がいいからという理由で持っていかれたものだ。実際私や私とほぼ同等の実力を持つ吸血鬼にはただの手加減にしかならない。

それでも不満というものは上がるもの。それを抑えるのも王として君臨する者の役目なのよ。数両だけ確保できた物を渡してあるから文句は出てこないでしょうけれど。

それ以外にも後衛についてもらったりと戦略上犠牲の出にくいところに配備して満足させておく。それに多少の不満は戦闘で発散させてもらうとしましょう。

「あら?」

 

「どうしたのパチェ」

地図状に味方と敵を模した魔法道具を使って戦況を見ていた友人が何かに気づいたらしい。

「いえ……侵攻が止まり始めている。どうしたのかしら?」

 

侵攻が止まるなんて実際の戦場じゃよくあることだと思うけれど…

それでも不自然な位置で止まったらしく疑問が晴れない様子だ。

「計画の内なのかしら…」

私に答えを求めて来る。

「この大侵攻を考えたのは私じゃないわよ」

 

そんなもの知らないわ。私はただ、この土地に転移したかっただけであって大規模侵攻をしようと言い出した吸血鬼は今前線で大暴れしている。まあ私達も吸血鬼の威厳を見せることができるからと了承したのだから文句は言えない。

それにいざとなればこちらにも切り札がある。今はまだ隠しておくけれど。

 




大ちゃんでピンチ。

にとり「よーし!こいつらの設置を急いで!」

天魔「さとりのいう通りの事態になったな…よし、防衛戦用意!」

山の方は容赦無さそうです
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