古明地さとりは覚り妖怪である   作:ヒジキの木

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depth.121さとりと吸血鬼異変(初動篇)

「うわ…凄い数ですね」

紅魔館があるであろう方向を見渡せる木の上に登って様子を見ていたお空が絶望に染まった声を出す。私もそれに続いて彼女が見ているであろうものを確認する。

「そうでもないわよ。少し派手に土煙が上がっているだけだから」

見た感じ吸血鬼ですってのはそんなにいない。後は使い魔なのかはたまた共同で戦うことになったのか魔物さんが多数ってだけ。

それでも遠目で派手に見えるという事はそれなりに利点がある。実際大規模の集団だと勘違いされているわけですし。

 

「……ん?」

 

「どうしたのですかさとり様?」

土煙に紛れて少し見えづらいですけれど何か巨大なものが混ざっていますね。

あれは……

「戦車が混ざっていますね」

まさかあんなものまで用意するなんて…確かに侵攻をするのであれば戦うための兵器を持って来るのは当然ですけれど……

プライドが高い吸血鬼が人間の開発した武器を使用するなんて考えられるだろうか。

多分妖怪でも早々いないのに……

「戦車ってあの鋼鉄の像みたいなもの?」

 

「ええ、昔月の兵士が使っていたものに近いですね。あちらは多脚歩行戦車ですけれど」

って言ってもお空は見たことないですし分からないか。

でも戦車の装甲って弾幕とか弾くのでしょうか?確かに弾幕は貫通力ないですけれど……

「……私の弾幕で貫けるかなあ?」

 

「前面は無理でしょうけれど後方のエンジンブロックでしたら至近距離でいけるはずです」

物によりますけれど……

お燐の30ミリなら多少離れていても側面や後部は抜けるはず。

 

さてどうしたものかと悩んでいると不意に後ろに隙間が開かれた時の、少し背筋を凍らせるような気配がした。

振り返ってみると、そこには案の定というべきかやはりというべきか、八雲紫が立っていた。

「こんなところで油を売っていたのね」

油を売っていたなんて人聞きの悪い。

「ただの偵察ですよ」

相手の戦力を確認してそれから動かないと。

考えなしに突っ込むのは強者だけで充分ですからね。私は強くないのでしっかりと勝てる戦略を練らないといけないんです。

「貴女の場合偵殺じゃなくて?」

少しニュアンスが違う。

「違いないね」

お空までそんな事を……

「それで、本日はどのようなご用件で?」

この話をすると傷が深くつきそうですから話題を変えさせてもらう。実際無駄話をしている暇もないでしょうから。

「あの赤い屋敷の主人を吹き飛ばすのよ」

ああ…やっぱりそれですか。

詳しく聞けばあの屋敷の主人が今回の計画の主犯であると考えているらしい。実際そうでしょうから。

そこで、幽々子さんや鬼の四天王、幽香さんに博麗の巫女など幻想郷で怒らせたり喧嘩してはいけないヒト達を集めているらしい。だけれど四天王の2人は私が指示を出してしまったし山の手伝いが優先だと言っていた。だから私を誘いに来たのだろう。私だって本当は山の防衛戦に加わりたいのですけれど。まあしのごの言っても仕方がない。

だけれど、要は敵の本丸を叩き潰すって事をしたいのでしょう?でしたら、もっと確実な方法がありますよ。

「それ…私とお空だけで行っちゃダメですか?」

 

「正気なの⁈仲間は多いほうがいいんじゃなんですか!」

お空、私は正気よ。だって分かるでしょう。赤い屋敷の住人といえばあの子達しかいないわ。

「あ、忘れてました」

しっかりしてよ。忘れやすいのは仕方ないですけれど……

「貴女がそんな事を言うなんて珍しいわね」

わたしの言葉を聞きながら表情1つ変えない紫は多分私だけを向かわせるのと他のヒト達で共同で戦うのとどちらが良いのか考えているのでしょう。

実際私達だけで行けばその分幽々子さん達は危険な目に合わなくて済むし巫女や幽香さんは守りたい場所を心置き無く守れる。

「古い知り合いですからね。だからといって手は抜きませんよ」

実際敵と親しいまでとは行かなくてもそこそこ知り合いであるというだけで色々と変わるはずだ。

「あらそう?でもダメよ」

流石に私達だけで行くのは反対のようだ。

「いくらなんでも友人にそんな辛い事は言えないわ」

 

「賢者としても?」

 

「賢者とかそういうのは関係ないわ。これは私の意思よ」

賢者の仮面は外したらしい。だけれど、情が出てしまっては戦いには勝てない。

しかし勝算が薄いというのもまた事実ではあるのだ。

仕方がない。ここは妥協しましょう。

私達2人と後2人、この4人でどうでしょうか。

え……そんな人数でどうやって攻略するのと……

 

「では、2人は地下の大図書館へ、それ以外は私達が制圧するということでよろしいですか?」

実際紅魔館を攻略する上で重要になってくるのは大図書館のパチュリーと、レミリア本人だけ。

この2つさえ押さえれば良いのだから戦略的に見ても楽ではある。

「ダメと言ったら?」

ダメ?そんな事を言われましても……

「この事は無かったことにして私はのんびり吸血鬼狩りをしていますよ」

実際人里のある方向へ向かっているあの集団を狩るだけでも私は良いんですよ?そうすれば余計なことに首を突っ込むことはないですから。

「分かったわ…幽香が怒りそうだけれど」

ようやく折れてくれたようだ。無茶を言ってしまったような罪悪感はあるけれど、レミリアさんと話しをしたいのも事実です。

だけれど幽香さん誤解されてる……賢者にまで誤解されている。

「彼女には私から話をしておきます。それに花畑を守るのに徹してもらった方が彼女も本望でしょう」

実際彼女は戦うのは好きじゃない方ですからね。

なんでこう…勘違いされているのでしょうか。私が誤解を解いても良いのですけれどそれをすると彼女に怒られますし。

誤解を解いてほしいのか欲しくないのかどちらなんでしょうね?

「それじゃあお空、行きましょう」

まあ今はそんなこと関係ない。邪魔するものは残らず潰す。

「わかりました!」

 

「ところで紫はこの事態をどこまで見通していたのですか?」

 

「さあ、どこまででしょうね?」

天狗さんや河童と言った妖怪の中でも力のある彼らの動きが異様に早い。まあ私もある程度は警告していましたけれどこれは多分紫が直接指摘をしたのですね。そうでなければここまで素早くは動けませんから。

「私は貴女の警告に信憑性を持たせて意識を高めさせただけよ」

 

そうですか?そんな風には見えませんけれど…まあそうしておきましょう。

 

 

 

 

 

 

 

いつもの道を辿って山を降りたのに、目の前には野原が延々と広がっているだけだった。

多分ここに人が住んでいた形跡なんて残ってないんじゃないかってレベルで。

「人里ってここら辺だよね」

見当たらないってことは慧音さんが歴史を食べて人里を隠しているんだろうね。実際お姉ちゃんは何か危険が迫っていると感じたら行動してほしいと慧音さんに言っていたわけだし。

「そうだとは思うけれどねえ……」

後ろで重量のあるものが地面に降ろされた。

振り返ればお燐が、背負っていた武装を下ろして体を伸ばしていた。

「それじゃあ…しばらく待とうか」

実質休憩みたいなものかもしれないけれど休憩ってわけでもない。

烏や雀さんの話だともうすぐ相手が正面に見えるらしい。

実際私が見たわけじゃないけれど巨大な箱とかも混ざっているみたいだし少し手を加えないといけないね。

 

えっと……落とし穴と油と油だっけ?確かお姉ちゃんが地霊殿の地下から引っ張り出して来たものがあったはず。

ほんと用意周到なんだから……

穴自体は1分もあれば十分。

こういう時魔法を使えるって便利だなあって思う。

実際便利だし。

「あたいも手伝おうか?」

 

「それじゃああそこにこの土を使って防壁作って」

流石に掘り起こした後の土なんて使い道これくらいしかないや。

おっといけない。後はこの油と点火装置を置いて上をフタしなきゃ。

こう言うのって確かゲリラ戦法って言うんだっけ?

詳しくはわからないや

「ふう終わった……一眠り出来るかなあ」

そんな冗談をお燐にしてみる。もちろんこの土の処分をどうにかしろと睨まれた。

怒らないでよもう……

 

「そうしばらくってわけでもなさそうだよ」

なにかを感知したのかお燐の耳が可愛らしく動く。

まだ土を片付け終わってないのになあ……

どんよりと黒い鉛を流したような空の向こうにかすかに動く何かが見える。

「本当だ!もう吸血鬼さん来たね!」

空を埋め尽くす無数の蝙蝠。その下で巻き起こる土煙。間違いない。

多分ここ以外にもたくさんいろんなところで戦っているんだろうけれど初めて見るなあ……

あ、もうそろそろ思考を切り替えないと……

 

魔導書を開き術式を展開する。1つは遠くに音を伝えるための魔術。

んーもう少し近づいて欲しいけれど…もうここら辺でいいかな?

「はーい、吸血鬼とそのお仲間さん!こんにちわ!」

聞こえているのかなー?

お燐どう思う?え…聞こえているだろうって?まあそうだよね。向こうからこっちに音が伝わらないっていうのが残念だけれど。

「それじゃあ残念だけれど遠足はここで終わりにしてね!早く帰ったほうがいいよ」

あ、なんか怒ったのかな?なんだか物凄い殺気が来てる。

さっさと突っ込んで来てくれないかなあ…そうしたら楽なんだけれど。

「こいし、煽るのも程々にね」

はーい。でも煽っている気は無いんだけれど……だって遠足しに来ているんじゃないの?え、違うの⁈じゃあなんでこんな辺境まで来たのかなあ……

それも眷属?奴隷?まで従えて……

 

あ、なんか怒ったのかな?一部のヒト達が走り出した。えっと…見た感じあれは吸血鬼っぽくないんだけれど…まさかご主人様の為に怒ってくれているの⁈すごい忠誠心…

「多分あれ、共同戦線組んでいるのに自分達が吸血鬼の犬だって思われたからとかそういう理由じゃないんですか?」

 

「お燐よく分かるね。心読めるの?」

 

「見たらわかりますって……」

へえ…まあいいや。取り敢えず突っ込んでくるならちゃんと歓迎しないといけないね。

魔導書を展開。中にしまっていた武器の全てを空中に出現させる。

お燐も後ろの土壁の裏に隠れて銃口を突き出している。あれは銃じゃなくて砲だけれど……

 

「これ終わったらお姉ちゃんの所にいこっか」

 

「こいし、それはフラグって言うらしいですよ」

旗?それって敵陣にあって折る為に立っているという旗?

じゃあ折りにいかないとね!

「もうすぐ射程かな……」

その前にあの前進してくる鉄の箱かなあ…なんか巨大な大砲が乗っているっぽいけれど……あ、撃った。

前進してくる4両のうちの1両が撃ってきた。お燐が反射的に頭を隠す。

でも走りながら撃ったって当たるはずがないじゃん。ほら真上を通過していったよ。それでもすごい轟音だね。音速越えの大砲かあ…怖い怖い。

でも前をしっかり見ていないと…あ、ほら落ちた。

さっき仕掛けた落とし穴に落っこちたよ。

しかも前進していた4両全部。まあ登れないような深さじゃないからすぐに登ってくるだろうね。でも油で凄い汚れてるなんだか可愛そう……だから燃やしてあげる!

手に持った小さなスイッチを二回連続で押す。それだけで落とし穴にたっぷり流し込んだ油は一斉に燃え上がった。

油の中に飛び込んでいた戦車は一斉に炎に包まれた。

あれじゃあもうダメだね。うーん後で撤去するってことを考えていなかった。どうしよう……にとりさんにお願いしよっかな。

「なんか全然止まる気配ないですよ?」

本当だ!鉄の箱が無くなったのにまだ突っ込んでくるね。なんか吸血鬼は止まれ見たいな指示出しているぽいけれど指揮系統全く機能していないね。まあ種族が違えば価値観も何も違うから仕方がないか。だから混成は良くないって言われるんだよ。

 

「それじゃあ始めましょうか」

まあ慈悲なんて与えるつもり毛頭ないけれどね。

「はいはい、なるべく痛みを与えないよう一瞬でね」

 

「「レッツ…showtime‼︎」」

 

照準を合わせていた全ての火器が一斉に火を噴く。

周囲に響き渡る轟音は、遠く離れた天魔さんのところにも響いたらしい。

 

 

 

 

 

 

どれくらい時間が経ったのかは定かではない。だけれど気づけばわたし達は誰かの脇に抱えられていた。

私自身が気絶していたということに気づいて思わず顔を上げる。

「2人とも危なかったな」

私の視界に映ったその人がどうしてここにいるのか私は理解ができなかった。

「柳さん⁈」

いつもと服装が違って今日は黒い私服を着ているけれど間違うはずはなかった。

「非番だからと少し羽を伸ばしていたらこの有様だ…」

 

羽を伸ばすって……こんな湖の近くに何の用だったのでしょうか。って今はそんなことではなくて!

「チルノちゃんは⁈」

隣に抱き抱えられているチルノちゃんを見れば、血を失いすぎたのか普段よりも肌が青白くなっているけれど、しっかりと呼吸をしている彼女の姿があった。

「ああ、気絶はしているが平気だぞ」

そっか…良かった…

あ、安心したら色々と痛み始めた…うう…痛い。

 

「そう言えばあの化け物は……」

言わなくてもわかるけれど確認しておく。

「ああ、不意をついて全員刺した」

どうやら復活しなかったらしい。もしかして弱点を攻撃したりしないとダメだったのかな……

「武器は……」

そういえば武器らしい武器が見当たらない。

「ああ、なかったからそこらへんの木から杭をな。投げやすいし刺しやすいから使い勝手はいいぞ」

へ…へえ……なんだか怖い。

でも杭か……私の刀どこかにいっちゃったし持っていた方がいいかも。でも足がやられちゃっているからなあ……

 

「ところでこれからどこに?」

 

「一応天狗の里に戻るつもりだし2人も連れて行くぞ。怪我した妖精を見捨てるほど冷たくはないからな」

 

そっか……まあ足手纏いになるよりかはマシかもしれない。

ふと背後の方で何か乾いた音と太い悲鳴がいくつも聞こえて来ているのが耳に入った。

それとほぼ同時に、さとりさんの笑い声も……

 

その笑い声が異質でとてつもなく恐ろしいと感じてしまった私は間違ってはいないはずだと思いたい。

だって柳さんも少し震えていたんだから……

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