古明地さとりは覚り妖怪である   作:鹿尾菜

133 / 248
depth.123さとりと吸血鬼異変(破壊篇)

あははは

 

弾丸のようにナイフが飛んでくる。

それもただばらまかれているわけではなく確実に私の進路を予測している。

1つ2つなどなら良かったけれども何十個もだ。

お陰で躱すのに精一杯でなかなか攻勢に回れない。いまはだけれどね…

まあ正確に先読みしてくると言うことはその分こちらもどこにナイフが飛んでくるかを把握しやすいって事で別に良いのだ。

実際私だって弾幕を展開し、彼女の嫌がる攻撃を繰り返す。

あ、そこですね!

「グっ…」

ああ…直前で致命傷を避けましたか。さすが狐。反射神経が鋭いですから難しいですね。

先読みができてるからまだ良いのですけれど…

だがサードアイの死角に入ると先読みは使えない。本来ならそっちが正常だけれど、もう正常とかそう言うのが自身でも分からなくなっている。

「やはり闘争本能ですか」

ん?急に何話し始めたんでしょう……

「それもそうだとは思いますよ」

 

まあそれ以外にも色々とあるのだろう。実際私がここで貴女と戦う必要性はない。

言ってしまうならば時間の無駄です。でも、それでもこの高まる興奮が抑えきれない。

「今の貴女は…狂っている!」

 

おやおや、そんな恐ろしい顔をしなくてもいいじゃないですかね。所詮私は最初からずっと狂っていたのですよ。そうでなければ…狂っているのは世界の方でしょう。

素早く飛びかかって来た彼女を思いっきり蹴り飛ばす。

だがかろうじてかわされてしまった。

逆に至近距離でのナイフ。

咄嗟に左手で受け止める。血管を切り裂き神経をズタズタにして左手を一時的に使えなくさせられた。仕方がない。このままで行こう……

 

「どうして…貴女は笑っていられるの?」

 

笑う?私は無表情なはずだったのですが…

ふと自身の頬に触れてみる。

確かに私は微笑んでいた。どうしてでしょう……あ、そうか。笑うって事は楽しいとか嬉しいとかそう言った感情が出ているから。

でも私は戦いなんて好きじゃない。じゃあどうして?

ドウダッテイイダトウ

 

 

ああ…どうだって良いですね。

 

「貴女は、狂気に侵されている!」

 

狂気?そんなものどこかで入れ込んじゃいましたっけ…いずれにせよ悠長にしゃべっている余裕は私にないので…

 

あらかじめ引き抜いておいた刀で斬りかかる。だけれどナイフ2本で上手く止められた。

膝蹴りを同じく膝で守り、一旦後ろに下がる。

スペルカード…切らせてもらいましょうか。

 

「想起『失われた空』」

室内で行うには範囲が広すぎる弾幕で、私も玉藻さんも迂闊に動けなくなる。

それでも動かなければ当たると言うやつで、逃げ道を固められその通りにしか動けなくなる。まっそれは私も同じ…だけれど…これは予測できるでしょうか。

 

サードアイで次の動きを見る。横に飛びのく…じゃあその動きを封じる!

使えない左手に変わり右手で454カスールを構える。

 

発砲…

勿論回避される。だけれど…それで良い。

 

回避された弾丸は通常の徹甲弾。13.6ミリのような徹甲焼夷弾などではない。

 

 

壁にやや角度をつけて飛び込んだ弾丸は、そのまま運動エネルギーを保ったまま弾け、玉藻の真上にあったシャンデリアを吊るす紐を引きちぎった。

 

「…‼︎」

気づいたようですがもう遅いです。

いくら人じゃない存在であっても頭上から落ちてくるシャンデリアが直撃すればタダじゃ済まない。

 

 

「なめるなああぁッ‼︎」

 

ガラスが割れる音と金属がひしゃげる音が不協和音を奏でる。

あのような状況じゃ私は多分助からない。だけれど……

 

「へえ……生き残りますか」

 

目の前の光景は押しつぶされた彼女ではなく、彼女の周りだけが綺麗に消失したシャンデリアと、その真ん中で腕を真上にあげた玉藻さんと言う変わった状況だった。

 

「これでも初代スカーレット卿から勤めさせていただいてますので」

 

「……思い出したのですね」

 

前回会った時は昔の事を忘れているような節があったのですが…よかったですね思い出せて。

 

それにしてもさっきのは……

少しだけですが光のようなものが見えた。つまり魔力による弾幕のようなものと考えた方が良いのでしょう。破壊力は…ものすごく高そう。

こうなったらなるべく接近戦は避けましょう。

 

私の真横に接近していた玉藻。そこから放たれる拳に便乗して真横に大きく飛ぶ。腰あたりに当たって痛いけれどまだ問題はない。

そのまま階段の手すりを足場に二階へ逃げる。

 

すぐに追いかけてくる。

タイミングを計って回し蹴り。

当たったのは良いけれどやはり私と同じでけられた方向にジャンプしてしまい大した傷を負わせられない。

 

しかも壁を蹴り一気に反転し近づいて来た。

あ、これはまずい……

 

瞬間、突き出された両手に魔力の本流を感じ、咄嗟に結界を張った。勿論間に合っていない。

衝撃、気づけば私の体は壁を破壊して2つ隣の部屋の中に転がっていた。

傷は…腹部に裂傷。

不完全な結界だけれど一応致命傷は免れたようです。

すぐに立ち上がり玉藻さんを探す。

 

探す必要もなかった。まっすぐこっちに来ていますね。

咄嗟に真後ろにあったソファの後ろに飛び込み身を守る。爆発、調度品がまとめて吹き飛び、ソファや化粧台などの重量のあるものは燃え上がる。

 

「火遊びは危ないですよ」

 

「それは貴女も同じでしょう」

 

そうでしたね!

燃え上がるソファを盾に接触爆発型の弾幕を滅多打ち。

爆発で扉や壁が崩れ去るが、どうやら命中弾は先程の攻撃で弾きとばしてしまったらしい。

さて用意も出来ましたしいつまでもここで戦う必要はない。すぐに移動を行う。

破壊された扉から転がり出るように廊下に飛び出す。直後、私を追いかけて彼女も飛び出そうとする。

 

ちゃんと周囲を確認しないと危ないですよ。

 

案の定玉藻の脚が紐に引っかかる。

引っ張られた紐が何かを引き抜き、その瞬間彼女の姿を爆発が覆い隠した。

 

ブービートラップ。

まあ…紐が抜けた衝撃で爆発する超敏感な火炎弾幕を多量に設置していただけだ。もちろんそれをカモフラージュして警戒させないためにさっき弾幕を滅多打ちにしたのだ。

 

だが安心はしない。次のトラップも廊下に仕掛けさせてもらう。

 

「小癪なことしますね」

 

あちゃ…やっぱり無事でしたか。

炎を振り払い玉藻が廊下に出てくる。

メイド服は腕やお腹あたりが完全に焼け落ち、露出した肌も煤だらけ。だけれど大火傷とはならなかったようだ。

「魔力で体を包んだのですね」

 

「少しでも遅れていたら焼け焦げてましたよ」

大丈夫です。回復できる程度の火力にしてありますから。

 

ともかく次です。

設置弾幕で廊下を埋め尽くす。全ての弾幕は連動するように作ってありますから迂闊にぶつかっては大変なことになりますよ。

 

「さとりも考えたもんだねえ…」

 

一瞬、玉藻何かを唱えた。

瞬間、周囲の弾幕が吹き飛んだ。もちろん私の体も廊下を転がり偶然開いていた扉に背中をぶつけた。

 

追撃…

咄嗟に体を転がして部屋の中に飛び込んだ。

少し遅れて扉が燃え上がる。

 

立ち上がって体制を整えた瞬間、壁が吹き飛んだ。

高速で飛び散る破片の中から飛び出して来た玉藻に首を掴まれた。

 

「…ガハッ‼︎」

 

空気を吸うことができなくなり、そのまま体を床に押し倒されてしまう。

「とった!」

だけれどこれは予想済みです。サードアイはしっかり捉えていたんですからね。

空中に出現させた弾幕を私と玉藻に向けて突撃。

慌てて玉藻が弾幕を破壊しようとする。

その隙が命取りです。

彼女の腕を振りほどき、ゼロ距離で弾幕を撃ち出す。目標は私の背中にある床。

 

爆発。耳元で弾けた爆音で鼓膜がやられたのか周囲の音が消える。

若干真上に吹き飛ばされたかと思えば、気づけば真下の部屋に玉藻諸共落下していた。

姿勢を制御し浮遊。ゆっくりと瓦礫に埋もれた下の部屋に降り立つ。

ここは厨房のようですね。

玉藻さんはそのまま作業台の上に叩きつけられている。

 

気絶しているのでしょうか?

 

ゆっくりと瓦礫の上に降り立つ。その直後、私の右腕が燃え上がった。

「な…ああもう!」

 

慌てて火を消そうとするが内部から直接燃え上がっているらしい。

仕方がない……

 

回復したばかりの左腕で刀を持ち、右肩から一気に腕を切り落とす。

 

「……狐火ですか」

 

「ご名答。私は狐だよ」

 

気絶していたのは一瞬だけでしたか。

しかしそちらも満身創痍。

落下の時に真下にあったナイフが刺さってしまったのか露出した足が大きく裂けている。出血量からして致命傷。

それだけではなく、頭も何処かにぶつけたのかかなり出血しており、ボロボロのメイド服を赤く染めていっている。

「……まだやりますか?」

と言う私も片腕は無いし腹部の怪我が少し響いているせいで辛いのですが…

「いや、勝ち目が薄いからやめておこうと思う」

(すいませんレミリア様……)

賢明な判断ですよ。

 

それでは、手当しますね。

敵意がないことを見せながら近く。片腕が使えない分、傷の確認は少し時間がかかった。

えっと…傷の止血と…腕の骨折は何か棒で当てておかないと…

慌てず確実に応急手当てをして行く。ここで死なれるとモヤモヤしそうですから。

 

ーーーゾクッ

 

なに?今変な気配を感じたのですが…

すぐに玉藻に聞こうかと思ったが、玉藻自身が大きく動揺していた。

「ま、まさか!」

 

まさかなんです?この妙に心の奥底を刺激する気配は一体なんだと言うのですか?

 

 

真下⁈

左腕で玉藻の首根っこを掴みその場を飛びのく。

その瞬間私たちのいた床が燃え上がり、液体のように溶けた。

熱で周囲の瓦礫が燃え上がる。

 

「これはもしかして……」

これほどの熱量を…そういえば彼女の剣はまさにそれでしたね。

「アハハ!やっぱりさとりだ!」

床が溶け落ち、生まれた穴から七色の光が現れる。

それは羽根に付けられた宝石のようなものが炎に照らされて生まれる鮮やかな光。

(フラン様⁈どうしてここに…)

 

 

「どうしてここにいるのでしょう?」

 

「呼ばれたからじゃない?」

炎を振り払い現れた少女は、無邪気な笑顔を向けてきていた。

まるで親友に会えたかのような……

あ…ああ…だからこんなに懐かしいノカ。

少しづつ意識が薄れていく。

だんだん何も考えられなくなる。

えっと…誰かが私を呼んでいるのでしょうか?でももう…私が反応することはしばらく無理でしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダイレクトサポートよろしく」

あらかたの弾は撃ち終わった。

目の前には完全に事切れた肉体と…なんだっけなんか復活している変なやつらとだけが残った。

あれだけの火力を持ってしてもやっぱり復活されちゃうんだね。

えっと……なんだっけ?

ああ!吸血鬼さんだ!

 

まあ吸血鬼じゃない奴らはあらかた片付いたし始めないとね。

魔導書から引っ張り出すは紅い月を浴びて真っ赤に輝く二つの剣。

お姉ちゃんがくれた対吸血鬼用のものらしいけれど…使えるかなあ?

 

地面を蹴ってまっすぐ飛び立つ。

サードアイは隠したまま。だけれど風圧で外套が開きかけちゃう。

 

盛んに燃えては中の砲弾が花火のように爆発する戦車を飛び越えて回復中の奴らからとどめを刺していく。

少し刃先が柔らかいなあ……考えて使わないとすぐに変形しちゃいそう。

そんなことを思っていたらすぐそばをなにかが通り抜ける。

短機関銃の弾……狙いが定まっていないってことは牽制用だね。

でもそんな撃ったら弾の無駄。

「今だよ!」

それと、お燐に位置を教えているようなもの。

「はいはい……」

 

ため息交じりの声と共に私の真横を風が通り抜ける。背後で燃えている戦車や油の放つ黒煙を突き抜けてその質量は射線にいた2人の吸血鬼を消しとばした。

うわ…派手だなあ……

 

「流石37ミリだね!」

振り返ってお燐に手を振る。

「前見て!」

 

言われなくてもわかっているよ。

両手に持っていた刀を振り上げる。肉が柔らかく裂ける感触が刀を通して伝わってくる。

少し斬り込みが浅かった。骨が切れてないや。

 

それでも傷が治らないって言うのは結構な動揺になるみたい。すぐに下がっちゃったよ。

トドメをさせないからはやく戻って来てよ。

なんだか腰抜けばかりでつまらない!

「お燐、乱戦での援護をお願いできる?」

 

「……無茶もほどほどにしてくださいよ!」

よし、その受け答えは可能って事だね!じゃあ言ってくる!

再び駆け出して、健全である残りのヒト達の中に飛び込む。

私を追いかけるように放たれる鉛玉を剣で弾く。

跳弾した弾がほかのヒトに当たったらしく悲鳴が上がった。

 

それを聴きながら…まずは1人目。体を回しながら切り裂く。ついでだしひねりも加えてあげよ…あ、後ろの方でも切れたみたい。

 

うんうん、距離を取ろうとしないからだよ!

ほらほら!もっと楽しまない?

 

ちょうど良いところに頭が出てきた。そのまま力任せに横に断ち切る。

動かなくなったその体を盾に利用して弾丸を防ぐ。

すぐさまお燐からの砲弾が短機関銃を撃っていたヒトを周りの奴らごと吹き飛ばした。

ここまで聞こえてくる空薬莢が落下する音。と言うかあれは空薬莢と呼べるのかな…ちょっとしたドラム缶と間違えそう……

 

さてお次は…そこの集団!

 

固まっていたらただの的だよ!

両手に持っていた刀を投射。新たに出したもう2つを手に構えて飛び込む。

最初に刀が突き刺さり、鮮血が舞う。やや遅れて私の持つ方が振り回され、周囲を血の海に変える。

 

真後ろでなにかが潰れる音がする。

お燐の砲弾が真後ろにいた敵を倒した音だね。

 

 

「ねえねえ、もう降参したら?」

もう残存勢力は半分切っている。それに最大戦力だったであろう鉄の箱は全滅しているし…諦めて帰って防衛に徹したほうがいいよ。

「……」

あ、でもなんか諦める気なさそう…っていうかなにやっているんだろう?

召喚の儀式…っぽい?

「お燐撃って」

 

「了……」

少し遅れて何かしようとしているヒト達が吹き飛んだ。だけれど少し遅かったみたい。

なにかをやっていたであろう場所にまばゆい光が溢れた。

思わず目をとしてしまう。

 

周囲の状況がわからなくなっちゃった。

 

ーーーーズンッ

 

何か巨大な質量が地面に降り立ったような音がした。

光が収まっていることを確認して目を開けてみたら、そこには真っ黒な鱗がずらりと並んだ何かがあった。いや、近すぎて視界に入りきらないんだ。

咄嗟にお燐のいるところまで後退する。

「ド、ドラゴン?」

ようやく全容が見えて…絶句するしかなかった。

「こいし、これは……」

流石に全長40メートルありそうな巨大なドラゴンは想定外だよ…

どうしよう……やるしかないんだろうけれど…


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。