古明地さとりは覚り妖怪である   作:ヒジキの木

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depth.124さとりと吸血鬼異変(逆徒篇)

「お燐!一旦逃げるよ!」

 

「言われなくても分かってますよ!」

 

巨大なドラゴンを相手にして数分。私はもう逃げるしか選択肢がなくなっていた。

ひどすぎると思わない?ドラゴンどれだけデタラメなのさ。まあ、西洋で言えばそれこそドラゴンは人を殲滅する怪獣であってなんら間違ってはいないんだけれど……

 

ーーーコロス

 

「お燐伏せて!」

 

後ろから感じた殺気。素早くお燐の頭を地面に叩きつけるように押し付ける。

直後私達の真上を熱い吐息が通過した。

「厄介なブレスだねえ」

温度的にはそうでもないのだけれど、あのドラゴンはあれでまだ全力じゃない。

そもそも召喚されたところから一歩も動かずに蹂躙しているんだから本気なわけがないよね。

 

一応サードアイで説得を試みたけれど……読み取れたのが殺意と敵意しかないんだから取りつく島もない。

「なんとかできないのかい!」

 

「無茶を言わないでほしいなあ。どこに当てても銃弾を弾くんだよ?」

うん、貫通力に特化した弾丸が全く効かないんだからもうしょうがないでしょ。

お燐の37ミリも目とか羽の内側とか当てようによっては有効かもしれないけれど倒せる決定打にはならない。

当然妖力で作った弾幕なんて表面に当たって派手に爆発するだけで傷1つ負わないんだから。

これはもう逃げるしかないね。

だってどうあがいても勝てる見込みないもん。

 

「あ……」

 

後ろを振り向いたお燐が変な声をあげた。

思わず振り返れば、そこには空を飛びながらこちらに迫ってくるドラゴンがいた。

うわ…本当に飛んでるよ……

このまま地上にいたら的になっちゃいそう。っていうかただのまとだね。

それなら、私達も飛ばないとね!

地面を蹴り飛ばし体に浮力をつける。

重力に逆らって体が空中を滑るように移動し始める。

 

お燐も私に続いて飛び上がった。

あ、なんかブレスの音がする。

 

後ろで不吉すぎる音がしたので右に急旋回。お燐は逆に左手に旋回していた。

ああいう相手と戦う時はなるべく固まっている時間を短くしないといけないからね。

右旋回をしながら一気に高度を上げる。

 

ふと見ればお燐も37ミリ砲を何発も放ちながら上昇していた。だけれど放たれた砲弾の悉くがドラゴンの表面に当たってどこかに弾け飛んでいく。

いたそうなんだけど痛くないと言うか…痣っぽい感じの痛さだろうなって思っちゃう。

それにしても空中での運動性も高いとなると…ちょっと厄介かなあ…

魔導書を開き凍結魔術を引き出す。

ページに描かれた魔法陣に魔力を流し込めば、回路内で変化した魔力が摂氏-50度で真っ直ぐドラゴンに向かう。

 

背中に命中。当たったところから水色の氷の幕が一気に出来上がる。

これで動きが鈍ってくれるといいんだけれど……

 

 

そんな私の願いはあっさりと消え去った。

再びブレスが放たれる。

とっさにロールをして射線から逃げる。直ぐそばを熱風が通り抜ける。

そして気づけば、凍らせた背中は何事もなかったかのようになっていた。

「……ブレスを放つ時は体全体が熱くなるらしいね。お陰で氷で動けなくする作戦は失敗か…参ったなあ…」

 

「参ったなあ…じゃなくて逃げますよ!」

 

分かってるよお燐。ちょっと引っ張らないで!ほら急に動いたら注意引いちゃうから!

なんか足元でさっきの吸血鬼とかが喚いていたけれど目障りだったのか思いっきり踏み潰されていた。

制御できていないんじゃん。なんでそんなやつ召喚するかなあ…

もしかして怒っている理由って気持ちよく魔界で蹂躙を楽しんでいたのに急に変なところで呼び出されちゃってイライラ?だとしたらひどい八つ当たりだよ。そこの召喚した奴らをミンチにしちゃったら帰れないじゃん。さすがコモドドラゴンの親戚。

あ、でも吸血鬼は大丈夫か…

とか思っていたら急に私の真上に影ができた。

あれ…もう追いついてきちゃったの?これ以上の想定外は避けたいんだけれど……

途端、私の真横にいるお燐が吹き飛ばされ、手を握られていた私もつられて吹き飛ばされた。

「きゃっ‼︎」

尻尾で叩かれたらしい。攻撃自体は直前で防げたようだけれど運動エネルギーまでは殺せていないようだ。

まあ私は大丈夫だったからなんとか地面に激突するのは防げた。だけれど今の私たちはただのまと。

この隙を見逃すほどドラゴンは甘くない。

再び放たれた炎の奔流、。咄嗟にお燐を抱きしめて障壁を展開する。

だけれどそれも炎に包まれて数秒でドロドロになってしまった。

すぐに2枚目。

「ダメ…持ち堪えられない……」

すぐに炎から逃れようと横に移動する。

それを狙っていたのか私がお燐を抱きしめたまま炎の外に出た瞬間、炎が止まった。

そして私が張っていた障壁が噛み砕かれた。

近すぎるよ!なんでこんな急接近できるの⁈図体でかいのになんてやつなんだろう……ともかくこのままじゃ……ゼロ距離ブレス。

それはまずいってば!

いやあああ!口開けないで!閉じてよ!

私の思いを無視してドラゴンはブレスを吐いた。

瞬間温度3000度越え。紅い目が膜のようなもので覆われ黒色に変化している。ってそうじゃなかった!

これじゃあ数秒と保たない…

「こいし!数秒間そのまま!」

「お燐⁈」

燐が私の肩に砲の先端を乗せた。

そのまま照準を口に向けて固定。

 

「耳塞いで!」

 

「うん!」

 

瞬間、肩に強い衝撃が走る。

同時に障壁が溶けきった。

炎が迫ってくる速度は零コンマ数秒。だけれど、それより先に放たれた37ミリ徹甲弾がドラゴンの口を貫いた。

 

炎が止まりドラゴンが悶え苦しむ。

気を取られた隙に素早くその場から距離を取る。

いや、取ろうとした……

 

「あがッ⁈⁈」

背中に衝撃を受け地面に叩きつけられる。

まさか尻尾?うう……すごく痛い。お腹とか背骨とか……折れてないよね背骨……左腕と足は折れたけれど。あーこれじゃ動けない…痛いし涙出てきそう……

「こいし!」

 

後ろの方で暴れているドラゴンがこっちに照準を合わせた。絶体絶命っぽい……

「お燐!一旦逃げて!」

ここはお燐を逃すしかないか……ごめん。

背後で再び尻尾が振るわれた音がする。

お燐がなにかを叫んでいるけれどうまく聞こえない。

ううん…この思考は私じゃなくお燐狙いか…やっぱりお燐逃げて‼︎

 

あ……もう回避できる状況じゃなかった。このままじゃお燐が…う…動いて!魔導書は手元から吹っ飛んでしまったのか少し離れたところにある。

 

思わず目を閉じてしまった。

お燐が直撃を受けた瞬間なんて見たくなかった。

だけれどいつまでたってもお燐の悲鳴は聞こえてこない。

「待たせたな」

目を開けたら、そこには1匹の九尾が佇んでた。その周囲は少し大きめの結界で囲ってあるのか少し青色に光っている。その中にお燐はいた。

「待ってないけれど…ありがと!」

地面を転がって九尾の元に行く。回収した魔導書から回復魔術を選択し行使。なんとか痛みは引いた。

もう一度九尾にお礼を言おうとすると、その姿はいつのまにか藍の姿になっていた。

 

「問題はない。こちらも少しキレているのでな。ちょうど良いサンドバッグが欲しかったんだ」

キレてる…まあそうだよね。幻想郷に攻め込んだ挙句こんなものまで引っ張り出してきちゃうんだからね。

でもそれだけじゃないような?なんかそんな雰囲気がする。

何かあったのかな……って…

 

「え…それ本当なの?」

思わず2度心を読んでしまう。それほどまでに内容が衝撃的なものだったのだ。

「会話が全く成立しないそれは…覚り妖怪独特のアレと見て良いのかな?」

「うんそれであってる。でも本当なの?」

私の表情から笑顔が消えている。そんなことは私自身がよく分かっている。でもそんな……

「こいし?どうしたんだい」

ドラゴンの追撃が激しくなり、流石の藍でも結界を維持するのが難しくなってきたようだ。

「なんでもない……なんでもないよ」

この事実は今知る必要はない。多分お姉ちゃんには一番知らせてはいけないものだと思う。うん……

 

「……と言うわけだ。ともかくあのトカゲを潰さないといけないのでな」

あ、やっぱりドラゴンってトカゲなんだ…

私はコモドドラゴンかと思った。だって同じドラゴンじゃん。

ついに結界が砕けちった。

その瞬間藍は再び九尾に戻りドラゴンに向かって突っ込んでいった。

私も素早く後退ししまってある武器を全て引き出す。

空中にいくつもの波紋が生まれそこからいくつもの剣や斧、さらには刀が出てくる。

投射、それらを一斉にドラゴンの頭に向けて放つ。

やや遅れてお燐も残っている武装で頭を集中的に攻撃し始めた。

ほーらそっちに回避するんだよ。

 

誘導誘導……うわ、頭なのに剣とか銃弾とか弾いているんですけれど。どんだけ硬いんだろう。

 

 

それでも…完璧に頑丈という訳じゃないね……

 

 

 

 

 

 

「ほらほらどうしたのさ‼︎」

大きく振りかぶった瞬間を見越して後ろに跳躍。すぐに来る追撃を阻止するために拳銃を引き抜く。

フランのレーヴァテインを拳銃から放たれた弾丸で弾き飛ばす。

狙ったのは手だったが当たったのは剣の持ち手の部分だったようで弾くだけにとどまる。

それでも止めることは無い。動きを封じるのが優先だ。

フランの顔に向かって装填されている全ての弾丸を叩き込む。だがそのことごとくを避けられた。多分本能的に察したのだろう。

だが距離は取れた。

直ぐにマガジンを引き抜き次のマガジンに切り替える。片腕がまだ使えないので空のマガジンは床に捨てる。

その間の援護射撃はもう一丁の少し小柄な拳銃で行う。こっちは通常の弾丸だけれどさっきのこともあってかやはりフランは避ける。

それどころかこちらの射程圏外に入りこもうと接近してきた。

咄嗟に銃を放り投げ片手で拳を叩き込む。ほぼ同時にフランも私に向けて拳を叩き込んでいた。

拳同士がぶつかり合い、衝撃波が壁や床を剥ぎ取る。

丁度良く落ちてきた拳銃をキャッチ。

更に弾幕、爆発を利用して距離を取り13.6ミリ拳銃をためらいもなく解き放つ。

一発が彼女の足を掠めた。

「……ッ⁈」

バランスが崩れる。

その隙を逃すわけにはいかない。さらにもう一発を腕に叩き込む。

その強力な破壊力にフランの腕は引きちぎれ、貫通しかけたところで内部の焼夷弾が炸裂。一気に燃え上がる。

「ギャアアアアァ‼︎」

「13.6ミリ徹甲焼夷弾、純銀とダンクステンの二重構造、トリプルベース火薬、ナパーム焼夷弾頭」

ふふ、当たれば大打撃。

「パーフェクトよにとり」

 

片腕を失ったのは貴女も同じ…あ、でも私のは後3分程で回復しそうですね。

 

「じゃあこれもいいよねえ‼︎ぎゅっとして……」

 

あ、それはまずいですよ。

すぐに視界から逃れ建物の中を反対側に駆け出す。

もちろん逃してくれるはずもない。そういえばこっち側ってレミリアの部屋があったところでしたっけ?好都合です…このまままとめてやっちゃいましょう。

 

レーヴァテインが振るわれたのか真後ろで何かが崩れる音が響く。それと同時に焦げ臭い不快な臭い。

体をひねって後ろを見ながら距離を取る。

やはり真後ろが完全に溶けて崩れ落ちていた。燃え上がる内装。

 

「ニガサナイ」

 

「それはこちらのセリフですよ」

 

再び能力が施行されようとしているのをサードアイが認識。ステップで真横の部屋に飛び込む。

もう手を切り落としましょうか……

少し遅れて飛び込んでくるフラン。フランに向けて迷わず発砲。距離が近いこともあり外すことなく腕を吹き飛ばした。

 

だけれど彼女は止まらない。そのまま私に体当たりをしてきた。

その瞬間、激しい頭痛が襲いかかった。

気持ち悪いキモチワルイキモチワルイッ‼︎

 

片目を開ければフランも同じようだった。どうして?ナンデ。

理由はわからない。いや…分かりたくない。

だからフランを蹴り飛ばす。もう一度距離を取ろうとする。だがフランの方が早い。

まだ片腕しか使えない状態ではうまく起き上がれない。

 

……首元に彼女の歯が立てられた。

鮮血が飛び散る。

 

その瞬間激しい頭痛が発生し、意識が砕け散った。

 

 

 

 

 

「……後は私だけか」

つい先ほどパチェとの連絡が途切れた。おそらく入り込んできた悪霊にやられたのだろう。

悔しいが指揮系統が完全にダメになった。まだ皆に状況を伝えることはできる。

「そうだな…後は最後まで好きに暴れろで良いか」

 

さて…残る問題は……

 

爆音と崩れる音が立て続けに発生する。

ここまで振動が襲いかかり、屋根から埃が落ちる。

フランの狂気は殆ど消えたとはいえ完全に消えたわけではない。それに、さとりの気配には僅かにだけれどフランの狂気と似たようなものが混ざっていた。完璧に同じではないが元をたどればおそらく同じなのだろう。

そこまで牙を剥くのか。

だが良い。運命は全て私の手の内にある。後は掴むだけだ。

 

「そこにいる覗き魔。正々堂々出てこないのか?それとも吸血鬼に怖気ついたか?」

 

「あらあら、覗きだなんて人聞きの悪い。他人の庭を踏み荒す不届き者に制裁を加えにきただけですわ」

 

 

 

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