古明地さとりは覚り妖怪である   作:鹿尾菜

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depth.126さとりと吸血鬼異変(陰謀篇)

あたいらの攻撃を受けてイラついたのか巨大なトカゲが空に飛び上がった。ブレスはあたいが口にでかい弾を入れたからか撃ってくる気配はない。見かけに反して撃たれ弱いんだか強いんだかよくわからんね。

それでも攻撃をやめない。むしろ羽根や顔とか嫌がりそうなところに徹底して撃ち込む。

そのまま銃弾をや剣を浴びせ続ければ効かないとわかっていても嫌なのかそれらを避けるようになる。結果として罠に誘い込まれる。

ドラゴンの頭上に、1匹の九尾が舞い上がる。

ドラゴンの頭の半分ほどしかない大きさだけれど、その巨大な九つの尻尾は絶対に負けない…そんな理屈では分からない気迫のようなものを纏っていた。

引き金を引くのをやめる。

 

ーーー斬

 

藍の一撃が硬い皮膚を貫きドラゴンに突き刺さる。

9本の尻尾全てを使った攻撃でようやくドラゴンの首が千切れた。

すごく苦しそうな声を上げるかと思っていたら何も言わずにちぎれ飛んじゃってなんだか呆気ない。

それでも巨大な相手というのは倒しても面倒なものだねえ。

大型のドラゴンが周囲の木々をなぎ倒し転倒する。

先に胴体から切り離された頭が地面に半分めり込むほどには質量があったのだから体だってただ倒れるだけでも結構被害が大きい。

土煙が周囲に上がり藍を隠す。

 

急に煙の中から藍が弾き飛ばされてきた。それと共に巨大な尻尾が空高く上がりうねりまくっている。まるで最期の抵抗とでも言わんばかりだ。あれもしかして生きているのかなって感じに……実際頭を吹き飛ばしても生きているような奴は沢山いるからねえ。

兎も角、藍はこいしが向かった。

遠目で見た感じでは怪我はないみたいだ。

問題はこっち…頭を失って暴れ狂う尻尾をどうするかだ。

うーん…

 

大事なことを忘れていた。まだここは戦場であって気を抜いて考えるなんてしちゃいけないところだったとってことを。

 

そいつは瀕死だった。だが、明確な殺意だけは持っていた。うん…だってそうじゃなきゃ、相打ちなんて出来るはずないじゃないか……

 

 

咄嗟に反応したあたいが銃を構え引き金を引くのと、その吸血鬼があたいのお腹と肺の二箇所に剣を突き立てたのは同時だった。

意識が暗転する。

こんな状況になると…本当に冷静になるね…

 

 

 

 

 

「ここじゃ狭いですし場所を変えませんか?」

紫が一旦隙間に帰ったことで威圧がなくなり少しばかり緊張が解けた。

だからついついそんな提案をしてしまうけれど聞き入れてくれるわけないか。

実際目の前の2人は無言で私に接近してきた。いくらなんでも吸血鬼2人との接近戦なんて勘弁願いたい。

それも普通の吸血鬼ではなくあのスカーレット姉妹だ。

だから私は後ろに飛ぶ。あの見た目で勇儀さん以上の力を持っている相手なんて真っ向勝負したくない。

私は喧嘩が苦手なんですよ。だから誘導するとしましょう。

 

 

砕け散った窓から飛び出し赤い月の照らす夜空に向かう。

日が昇るまでには後1時間。それまで生き残れたら私の勝ち。そうじゃなくても最終的には私の勝ち。

さてどっちの勝ちが良いでしょうかね?

空を飛ぶ私の真後ろに白い跡が残るようになる。

それほどまでの高度に到着したようだ。

振り返ってみれば2人も多少距離を開けながらくっついてくる。待つ必要はなさそうです

 

これほどの高さなら妖怪の山も、博麗神社のある方角も見渡せる。

そしてそれは向こうからもこちらを視認できるということ。

実際には視力の問題でこちらを見ることは至難でしょう。だけれど、それは裸眼かつ能力無しの場合だ。

天狗の中には千里眼やそれに匹敵する遠くを見る能力を持つものが多くいるし、こちらで何かあれば必ずあの記者は動く。それに河童だって遠くを見る道具の1つや2つ持っているはずだ。

 

だから始めよう。

空にいくつもの巨大弾幕を撃ち出し。花火のように炸裂させる。

高度8000、少し低いかもしれないけれど十分全員に届いたでしょう。

 

後は……

 

強く光る弾幕を足元に展開させつつレミリアさん達の攻撃を回避する。まばゆい光だけれどもこれくらいないと遠くからは見えない。

位置を示すことになっているかもしれないがどうせこの月夜では大して変わらない。

ついでに弾幕の花火を周囲に散らし2人の視界から逃れるように飛び回る。

なめるなと言わんばかりに突撃してくるレミリアさんを回避しその背中に蹴りを叩き込む。

真下に向かって吹っ飛ばされる彼女と反動で上昇する私。

サードアイが思考を捉えたが動きの先読みを優先するので内容までは覚えていない。

「…⁈」

真横から真っ赤な炎が巻き起こり私を飲み込もうとする。エルロンロールと上昇で回避。

真下をフランが通り抜けていく。

…もう少しだったのにですか?

レーヴァテインは危ないから大出力にするのはやめて欲しいのですが…

服に引火しなかっただけまし…

後ろ⁈

 

一瞬感じた殺気と、何かが近づいてくる音が聞こえて思わず急旋回を行う。視界の片隅に移ったのは赤紫の火花を散らして飛んでくる槍だった。

グングニルですか。大盤振る舞いだこと……

少し面倒ですが……フランさんとレミリアさんの位置は把握している。

だから弾幕を投射して動きを封じる。

その隙に急降下。高度的有利を失ったが仕方がない。

 

地面スレスレまで降下をするがしっかりとくっついてくる。

そのままくっついてくるというのなら……

 

両手を広げて体をくるりと反転。頭の向きを上にして急上昇。

数センチ脇をグングニルがかすめていく。

 

私に向き直ろうとしたらしいが間に合うはずがない。

地面に深々と突き刺さり爆発。

私は再びレミリアさん達のところに戻る。

 

もちろんレーザー弾幕で嵐を作りながらですが……

だけれど向こうも弾幕を展開して応戦してくる。状況が拮抗してしまいだんだんと押されるのは私の方だ。このままだとパワー負けしてしまう。

では鬼ごっこと洒落込みましょうか。

弾幕を停止して空を飛ぶのに残った力を集中させる。

 

連戦のしすぎでもう力が入らない。腕の怪我を治すのに力を使いすぎましたかね?

弾幕は最低限出せるがそれだけ。完全に相手を倒す牙が削がれた状態で…強者2人と戦うわけだ。

まあ…それもまた面白いといえば面白いのですけれどね。

素早く上昇し2人が真後ろからの追撃に移ったことを確認する。

旋回やS字機動で射線をずらす。

案の定弾幕が飛んできては私の真横や上を通過していく。

「あやや…これはスクープですよ!」

 

一瞬文の声が聞こえた気がしたけれど構っている暇はない。

ゆるく左に旋回を行いフェイントを仕掛ける。

乗ってくれた!

 

私を追いかけて旋回に入ったフランさん

を確認し一気に体をひっくり返す。

運動方向が反転し体に強い衝撃がかかる。

そりゃ今まで動いていた分の運動エネルギーとそれに逆らう運動エネルギーで2倍近い負担なのだ。

私の動きについてこようと慌てて止まろうとするけれど、そんな動きじゃ止まれませんよ。

フランさんと正面から対峙する。

レーヴァテインの動きを予測…追い抜き側に一発入れるつもりですね。

させません。

レミリアさんが援護に来ますが…少し遅いですね。

振るわれたレーヴァテインを回避し懐から引っ張り出した銃で後頭部を一回殴る。

流石に骨が砕ける程の力は入れてない。

だけれど強く脳を揺さぶられ平衡感覚が切れてしまったのか脳震盪を起こしたのかフラフラと落下してしまう。

完全にとどめを刺したわけではないですから少し経てば戻ってくるでしょうね。

「フランッ‼︎」

あ、そういえばレミリアさんのこと忘れてました。

体を捻ったが間に合わなかった。

グングニルが私の脇腹を擦り、肉の塊をごっそり持っていく。

だが傷は大きくない。直ぐに止血をして傷口を塞ぐ。

二対一が一対一になっても状況は好転せず……仕方がない。そこでこそこそ写真を撮っている天狗も巻き込みますか。

 

脇腹の傷をそのままにサードアイで文のいる位置を確認する。

(これが吸血鬼……)

 

うん、そのままの位置にいてくださいね。

視線だけはレミリアさんに合わせつつ、少しづつ文と距離を詰める。

偶然を装い……

 

ここで急加速、一気に文さんの後ろに回り込む。

「あや⁈」

写真を撮るのに夢中になっていた文さんは急加速した私を一瞬見失った。

どこにいったのか。何があったのか。ヒトは想定外の事が起こると一瞬だけど動きが止まってしまう。

その一瞬が、戦闘では命取りになる。

私とレミリアさんの合間に文さんが挟まれる形になり必然的にレミリアさんの攻撃が文さんに集中して襲いかかる。

 

「な、なんでですかッ‼︎⁉︎」

普通はそうなるだろう。

文さんは咄嗟に結界を貼り弾幕を使って攻撃の全てを回避し弾いた。

「ほう…烏が邪魔立てする気か?」

 

口ではそういっているけれど目標が2人に増えてどちらを優先して倒すか思考していますね。今のうちに……

急降下を行いフランさんの元に行く。

脳震盪を起こしたとはいえまだ彼女は健在。

すぐに動けないようにしないと……

 

 

ってあれはお空?

 

……とフランさん?

 

降下してみれば何故かお空がフランさんを縛っているという謎の状況になっていた。

「あ、さとり様!」

 

「お空、これは?」

 

「上から落ちてきたので縛ってました!」

 

どうやら体力が回復したところで紫によってここに降ろされたらしい。

その後は周囲の吸血鬼を始末していたらしいが空から落ちてきたフランさんと接触してしまったのだとか。

その後彼女が私と戦っている事を知ってわざわざ紐で縛っていたのだとか。

「ねえお空…どうしてその結び方なの?」

1つ問題がある。どうして亀甲縛りにしているの?

さっきまで命のやり取りをしていた相手がこうも哀れなな姿にされていると…なんだかアレである。

 

しかも口を塞がれて何も喋れないのだから余計にだ……

(やばいなんで?すごくゾクゾクする……)

あ、これダメだ。今すぐ止めないとフランさんが変な方向に目覚めちゃう。既に顔を赤らめてなんかやばい表情しているし…手遅れかな?でもやるしかない。

「お空、出来れば解いてあげて」

 

「で、ですが」

 

「大丈夫よ。貴女が見張っていれば……」

そこまで言いかけて真後ろに強力な殺気が来た。

それとともに何かが地面に叩きつけられる音。

「ふふふ、小賢しい手を使うのね」

 

「私達は喧嘩が苦手ですから」

振り返れば地面に叩きつけられたボロボロの文さんと、その側でものすごく怒っていらっしゃる1人の吸血鬼少女がいた。

まさかあの短時間で神速天狗を倒したのですか。

恐ろしや恐ろしや。

 

まあ、命に別状は無いみたいですし一応良い写真がいくつも撮れたらしいから気にするのはやめましょう。

それにパンツの写真を狙って撮ったせいでこうなったようですし。

観察はここまでで良い。

お空の手を掴んで一気に空に上がる。

「ちょ⁈さとり様!」

あ、まだフランさんの拘束を解いていなかった…もういいや。

 

「お空、手伝って」

 

「…っはい‼︎」

私に手伝ってと言われたのがそれほど嬉しかったのだろうか。後ろから追いかけてくるレミリアさんに向けて弾幕を展開し始めた。

 

追いかけっこはまだまだ。それにしてもレミリアさん少し怒っていますよね?

そんなにパンツ撮られた事が癪に触ったのでしょうか?

あーうんそれ以外にもありますけれど周りが見えなくなるほど戦いに熱中してしまっていますね。

…殺気。

お空を引き連れたままローヨーヨー。高度が一気に下がり体に打ち付ける風が強くなる。

「さとり様!なにかきました!」

 

「グングニルよ!」

何度も撃てるようなものじゃないでしょうに……

それに今はお空がいる。すぐに弾幕で迎撃してくれるはず……って弾幕を弾いている?

まずい…

 

咄嗟にお空を横に放り投げる。

何か叫んでいるが聞いている暇はない。やはり私狙いの北欧神話の槍は真っ直ぐ私を目指してくる。

ならばこうするしかない。

 

急降下で半壊している紅魔館のすぐ側を飛ぶ。槍と私の風圧で窓ガラスがいくつも割れていく。

上昇、急旋回。私とフランさんが戦い、ボロボロになった部屋の中に入り込み、建物の反対側に抜ける。

槍はそのまま建物に接触したのか大爆発を起こし、ボロボロだった場所を完全に瓦礫に変えた。

一瞬玉藻さんの悲鳴のようなものが聞こえた気がしたけれど気のせいでしょう。うん……

 

「貴様ぁ‼︎」

いや、私は悪くない。それにそんな怒っていたら視野が狭くなりますよ?

レミリアさんの背中にいくつもの弾幕が命中する。

お空のこと忘れちゃダメですよ。

「な、なめるなァ‼︎」

 

え…翼で弾幕を弾き飛ばした?

流石というべきかなんというべきか……

そのまま私に向かって突っ込んでくる。

本能的に逃げ出す。アレは多分ガチ切れした感じだ。やばい…

 

生き残れるかな……

 


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