古明地さとりは覚り妖怪である   作:鹿尾菜

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depth.129天狗にくっついて来たさとり

戦いの爪痕を完全に消すことは難しい。というより絶対に癒える事など無いのだろう……

それでも割り切らないと前に進むことはできない。

ではどうしたら割り切れるのか…私は後始末をやって忘れることにしています。

だけれどそう誰もが簡単に割り切れるほど強くも…賢くもない。

実際地上では吸血鬼狩りだなんだとあの戦いを生き延び、紫の追尾すら振り切った吸血鬼への地獄がチラリチラリと見えはじめ吸血鬼というだけで新たな爪痕が刻み込まれる。

まるで…傷口から入った細菌のようだ。

傷の治りを悪くするだけでなく新たな不調さえ産む。感情と行き過ぎた偽善行為と言う名の細菌。

 

実際元から静かに暮らしていた妖怪の中にも吸血鬼に少し似ていると言うだけで悲惨な目に遭っているらしい。

主に人間が主体となってだけれど……

妖怪側はなんとなく自身の領域に入って来たり暴れたりすれば容赦ないかもしれないけれどそれ以外ではそうでもない。

 

とまあグダグダとそんなことを考えていたわけは大したことはない。

家の再建をしていると目の前の道を妖怪が人間に集団で追いかけられていることがしばしばあったのだ。

最初の一、二回は私が割って入って事なきを得た。実際吸血鬼じゃないし。そもそも生き残った吸血鬼がそう簡単に人間に正体を看破されるなんてことはあり得ない。結局吸血鬼かどうかなんて関係なく…人間の怒りの発散として見せしめにしようとしているだけだろう。

それは正義とは言わないと言っても聞き入れてくれるほど賢ければそもそも一歩立ち止まってこんなことはしないほうがいいと思うはずです。

「あ、木材はこっちに運んでください」

 

「あいよ!」

瓦礫になった木材を撤去しつつ新たな木材が運び込まれる。

家の図面は私の頭の中。どこに柱を打ちどこに補強材を入れるかもすべて私の指示で行われる。

本当はお空やお燐達だけで十分だったのですが……どうしても手伝わせろと鬼が言うものですから手伝わせている。

三食お風呂付きで…

 

鬼さんも世話焼きなのかと最近思うようになったのはこれが原因だった。

流石に鬼と妖怪が家を建てている場所にまで人間達が追ってくることは無い。まあ鬼怖いですからね。ただし萃香さんと勇儀さんは神社の修復に行っているのでこっちには来ていない。それでも鬼は鬼です。すごく助かります。

ただ、そうしていると苦情というか私が吸血鬼を庇っているという噂が流れ出してしまう。

とは言ってももう吸血鬼異変は終わったことですし。

挙句私が人間に手を出さない事を良いことに殴り込みをかけにきた人達まで出て来た。

勿論丁重にお話をしましたよ。一応は納得してくれたんじゃないでしょうか。だって私がここで鬼と一緒に家を建てようが何をしようがそれをとやかく言われる筋合いはないですし。

 

それに殆どあなた達の勘違いですし。それに本物の吸血鬼なら恐れを超えてかかって来いやってガチで戦って来ますからね。ええ……そういう性格の種族ですし。

「……そろそろ大丈夫ですよ」

 

私がそう言ってあげれば、真新しい木材の山の陰から少女の姿を取った妖怪が出てくる。

元の種族がなんなのかは分からないけれど好奇心半分で人里に入ってしまうあたりまだ精神年齢が幼いか生まれたばかりの妖怪なのか…どちらにしても運が良かってですね。

 

「今度から気をつけなさい。化け物を倒すのはいつだって人間なのだから」

人間を甘く見ると怖いですよ。今回でわかったでしょう。

 

首を大きく振るとその妖怪は森の中に消えていった。

背中の蝙蝠みたいな翼くらい隠せば良いのに……

多分あれで勘違いされたのでしょう。

 

 

 

地面の整地を行いつつ運ばれる資材の確認を並行で行なっていると私の頭上から影が落ちて来た。

釣られて視線を上に上げる。

「よ、さとり」

そこには天狗装束に身を包み黒い短髪を風に揺らしながら私を見下ろす天狗の姿があった。上に着物を羽織り胸を完全に隠している普段の姿なのでついつい男と間違えたくなってしまう。

「天魔さん?どうしてここに…」

何処と無く見下した態度なのは近くに部外者()がいるから。

取り敢えず臨時で休憩を入れて鬼達から距離を取る。

ようやく気が緩んだのか私の隣に降りてくる。金木犀の香りがほんのりと私の鼻を擽る。

「視察だよ視察」

 

「……後処理が大変だったから息抜きで抜け出して来た?」

しかしその服装はどういうつもりです?

普段はもっと簡素なもののはずですよね?私は祭りとかでしか着ているところを見たことがありませんけれどどうして今日?それも胸をぺったんこに隠してまで。疑問がいくつも湧いてくる。

「やっぱバレちゃうか」

苦笑いをしながら私のすぐそばに来る。これ普通のヒトでしたら絶対に堕ちてますよ。

「心を読まなくてもそれくらいの事は分かりますよ」

なにも覚り妖怪は心を読むだけじゃないんです。あらゆる手段を使い相手の持つものを引き出すのです。

 

「それじゃあ俺がここに来た理由も分かるよな」

それは…分かりませんね。

「なんとなくだな。多分幼女成分が不足しているんだ」

 

「あー……私は少女ですよ。幼女じゃないです」

 

「そこの基準は人それぞれだろ。それになあ…一応幼女っていうのは双方で話しやすくなるように一応の基準を設けているってだけで言うて少女と幼女どちらもなんだけれどなあ」

 

「性癖の話をするのは身内同士にしてください」

天狗の残念すぎる部分ってこれだと思うんですよ。まあ…今回はそれをかなり利用させてもらいましたけれど。

性癖も使いようですね。

「とりあえず、レミリアさん達の擁護ありがとうございます」

 

「それほどでもないよ。せっかくの少女姉妹だろ?それをみすみす処刑するなんて勿体無いじゃないか」

あー少し制御に失敗している感がありますけれど……

「河童の方も抑えるのは大変でしたよね」

 

「まあそうだが言われた通りにしたらあっさり納得してくれたぞ。やっぱりあいつらは自治をするより研究に没頭する方が性に合っているんだな」

そりゃ河童ですから。機械で神を超えるものを作ろうという野心家の集まりですよ。

 

 

 

 

 

「そういえばさあ…本当に吸血鬼姉妹は可愛いのか?」

天魔さんのその言葉に思わず疑問が先行してしまう。

あれ?文さんあたりが写真に撮っていませんでしたっけ?

みていないのでしょうか……

「それがなあ……大天狗あたりで検閲されちまって」

理解しました。そういえば文さんの写真って……いやレミリアさんの為にも言わないでおきましょう。

 

「見てくればいいじゃないですか。何もこちらから接触してはいけない条約は無いですよ」

向こうからこちら側に接触するのはダメですけれど…

それに天魔さんその様子だと正式に招待されましたね?

話が飛躍しすぎ?説明したほうがいいですか?

「是非とも解説を頼むよ」

うーん…その服装と着こなし方からすればなにか大事な式か何かがあると推測可能です。ですが天狗内で行われる式ではそのように胸までは隠さない。其れを隠すのは大体山以外で行われる大事な何かに参加する時のみ。

だけれどどこも自分のところで精一杯なところが多いですし外で妖怪を束ねる長が集まるような大事なものは近い時期は無い。なので定期で開かれるものではなく臨時で開かれるもの…だけれど私が呼ばれてないということはその線も無い。

ただ1つを除けばですが…

それがレミリアさんに呼ばれたです。

どうやらこっそり抜け出してここに来ることも前々から全て予定に組み込んでいたのですね。

あらかたの行動は推理できました。

「よく分かったな。さすがじゃん」

 

「それなら尚更見てくればいいじゃないですか。もしかしたら気にいられるかもしれませんよ」

だけれど普段から私やこいしに向けている視線を考えればそれもないか……

残念なイケメン美女。

「そうなんだけれどなあ…なんというかその…」

 

まどろっこしい!貴女は踏み込もうにも二の足踏んじゃってなかなか告白できない男子か!

心配性なの?それともそれは演技?

「一緒に来て欲しいと?」

素直に言ってくれれば良いのになんでそこでたじろいてしまうかなあ……

「そうそう!ついでだから大妖精ちゃんとかチルノちゃんとかも一緒にさ!」

なぜその2人まで…

あ、そういえばあの2人はそちらで養生中でしたね。

大ちゃんに関しては義手の新造もあるのでにとりさんの工房の近くになるべくいた方が良いですし。

しかし…天魔さんに目をつけられるなんて哀れな……

片方は自覚なさそうですけれど…多分忘れるかなんか優しくしてくれる天狗という認識しかなさそうです。

実際行動だけ見ればそうなるんですよね。

行動原理が変態なだけで……

「まあいいですよ…私もいつか行こうと思っていましたし」

 

「やった!それじゃあ夜に迎えに行くわ!いやー可愛い子に囲まれる…」

 

ダメだ本音を聞いたら行きたくなくなる。これさえ無ければ立派に天魔を全うしているのですが……

天狗ってやっぱりロリコンなんですね。幻滅です。

思考を切り替えましょう。このままだとなんだか悲惨な事にしかならない。

「そういえば文さんの方は大丈夫だったのですか?」

 

「おう、1日で回復したぞ」

 

……ぶっ倒れた後もカメラを死守する事を優先しているんだしそれもそうか。

少しの合間囮にさせてしまったのを悪いと思っていましたけれど許してくれますかね?

あ、なんでもはしませんからね。

 

「怒ってました?」

 

「まあ怒ってたな。だがいいものが撮れたから許すとも言っていたな。俺からしたら…あれをネタに色々と交渉できたのになあ」

流石文さん。本能を抑制する術を心得ていらっしゃる。

「そんなことをしたら全面戦争を引き起こさせますよ」

私も悪いと思いますけれどそれとこれとは違いますので。

「じょ、冗談だよ。あはは……」

冗談ですか良かったです。

 

 

 

 

 

その夜、私は天魔さんと合流するべく家の前で待機していた。勿論手伝ってくれた鬼達のご飯を作ってからですのですっかり夜も更けてしまっている。

隣ではこいしが楽しそうに鼻歌を歌っている。

午後の早いうちに家の修復を切り上げて事情を説明したらこいしが私も行くと言いだしたのだ。

私としては全然構わないのだけれど意外なのは後の2人がいかないと言い出した方だった。

風呂の火力調整とか色々しないといけないって言っていましたけれどどうもそれだけが理由ではないらしい。だけれど言わないあたり何か事情があるのだろうと思い二つ返事をしたのが1時間前。

珍しいなあと思ったらどうやら周期的にそろそろだったのを思い出し、ああそういうことでしたかと納得しここに来たのが数分前。

 

「あ、来たみたいだよ」

 

こいしが夜空の方を指差す。

あまり夜目がきかないから見辛いけれど、その方向には確かに人影が浮いていた。

やがて私にもはっきりと見えるようになって来た。

人影が2人……?聞いていたのと違いますね。

もう少し人数がいると思ったのですが…

 

「さとりーーー!」

 

「おっと危ないです」

 

急降下をして私に飛び込んで来た天魔さんを思わず、勢い任せに地面に捩伏せ、腕に関節技を決めてしまう。

なんだかすごく女の子がしちゃいけない悲鳴をあげていた。

「ごめんなさいつい癖で」

 

「お姉ちゃん…治す気ないよねその癖」

何かあった時に便利ですから。

 

ですが急に抱きつこうとするなんてどうしたのでしょう?連れてくると言っていた2人が来ないのと関係があるのでしょうか?

「さとりさんすいません」

少し遅れて椛さんが降りて来た。

「何かあったのですか?」

 

「簡潔に申し上げますと妖精2名を連れて行こうとして拒否されたですね」

なるほど理解しました。フラれたのですね。

「だからって抱きつこうとするなんて…」

 

「じゃあこいしに慰めてもらうもん!」

捨て台詞と共にこいしにダイブする。

あんたは駄々っ子か。天狗の長がこれで大丈夫なのでしょうか…

 

「それで、護衛は椛1人?」

 

「ええ、あまり大人数で行っても警戒されるだけだと言う結論が出まして表面上は1人です」

それも天狗の社会で地位が低い白狼天狗ですからね。表面上は気を気を配ったのでしょう。

「実際は……」

 

「さあ?私は分かりません」

ですよね。それほどの護衛がこっそりくっついて来ているのかなんてわかるはずないですよね。

「天魔様いつまで甘えているつもりですか?」

 

「傷が癒えるまで」

 

アホ言っていないで行きますよ。ほら立ってください。

こいしも甘やかしちゃダメよ。すぐ調子乗っちゃうから。

椛さんが天魔さんを引っ張りこいしから引き離す。

この様子だと本気で心配になって来た。主にレミリアさんが……

 

 

 

 

 

屋敷のある湖の近くは複雑な結界が張り巡らされておりあの紅い屋敷の姿はどこにも無かった。

実際には隠されているだけと分かってはいるけれどその自然な溶け込みように呆れてしまう。

紫の結界が張ってあるだけではなく…多分パチュリーさんが作った独自の視認阻害魔術が張ってあるのだろう。

なかなか恐ろしい…

 

だが天魔さんが手に持った団扇を一振りすれば、たちまち空間が縦に割ける。

合間から見える紅魔館の紅い外壁。見とれている場合ではなかった。

急に動き出した天魔さんと椛さんに続いて素早く隙間を通り抜ける。

少しして振り返ればそこにあったはずの隙間は消えていた。

まあ…そうでしょうね。

 

そういえば洋式の建物の勝手とかって大丈夫なのだろうか…玄関で靴を脱ぐ気満々なようですけれど…

 

そんなことを考えていればもうすでに門の前に立っていた。美鈴さんの姿はない。建物の中でしょうか。お迎えくらいは寄越すと思うのですけれど…

門を開けようとして椛さんと天魔さんが四苦八苦している。

その門は引き戸じゃないんですから横に引っ張ってもダメですよ。

こいしも笑ってないで手伝いなさいよ。

 

「椛、こうなったら力づくで開けるぞ」

そう言って強引に横に引っ張り始めた。

「あの、それ以上は門が壊れますよ」

 

「平気だってば」

天魔さんの体に力が入る。門を掴む手が震えだす。

蝶番が悲鳴をあげて固定されている紅いレンガごと塀から引き離れる。

遅かった。

鉄格子で出来た門は天魔さんが掴んでいた付近を複雑にねじれさせて地面に捨てられる。

大丈夫なのだろうかこれ……

そんな事は気にしない天魔さんは悪びれる様子もなく庭に入り込む。

「皆さんお待たせしました…って門は…」

 

あ、美鈴さんどこにいたんですか?

え…ちょっと厨房を手伝っていたですか?えっと……なんかほんとすいません。天狗の常識って少しズレているようですので。

無言で壊れた門を指差す。

それを見た瞬間美鈴さんの顔色が一気に青冷めた。

 

「でもお姉ちゃんよりマシだと思うよ」

 

「それはどういうことかしら?こいし」

 

「お姉ちゃんなら開けられない扉とかがあったら?」

私の質問に質問で返してきますか。まあいいでしょう…

素直に答えてあげますか。

「簡単ですよ。新しく道を作るのです」

 

「ほらね」

いやいやなにがほらねなのよ。扉を壊すよりマシじゃないの。最短距離に作るから壁とか部屋とか犠牲になるけれど。それくらい必要経費ですよ。もちろん扉が簡単に開くならこんなことはしませんよ。

「ま、まあこちらも悪かったわけですから…ともかく皆様こちらですよ」

少しずれていた中国帽を被りなおし、美鈴さんは私達を案内し始めた。

始終天魔さんと話しっぱなしだったけれど……どうやら庭が気に入ったようですね。

一応美鈴さんが整備しているのでしたっけ?

よく覚えていない。なにせ彼女と日常会話をしたのなんて体感的に何百年も前の話だ。覚えていろという方が難しい。

椛さんは話についていけていないのか最初は耳を傾けていたけれど直ぐに建物の方に意識が移った。

 

 

 

こいしも建物に興味津々だった。

確かにここまで紅い建物なんて他にないですから。

 

建物と庭の鑑賞もほどほどに紅魔館のエントランスにやってくる。

ほぼ自動ドアのように開いたのですがどういう方法なのでしょうか?あー魔術ですか。なんだか便利ですね。

 

天魔さんの後ろに隠れるように素早くして入る。子供体系の私の前に大人体型の天魔さんがいれば正面からではまず私を視認することは出来ない。

なぜそんなことをするのかと問われても気分なのですが…

 

エントランスは二階まで吹き抜けになっており正面の階段のとろこにレミリアさんはいた。かなり格好つけているけれど下手をすれば子供の背伸びと捉えられかねない。まあ彼女のカリスマ性と強者と肩を並べられるほどの威圧を見れば完璧に夜の王を演じきれている。

「ようこそ紅魔館へ」

あ、天魔さんもようやくスイッチが入ったようですね。

天狗の長の雰囲気を醸し出す。

「ご招待に預かりました天魔です。本日はお招きいただきありがとうございます」

完璧なお辞儀。だけれどそれをすれば後ろの私はあっさりと姿を見せてしまう。

もちろんこいしは何もせずに堂々といますよ?多分天魔の付き人として認識されているようですけれど。あ、実際私たち付き人でしたね。

失礼。だけれど天狗とは思っていないんじゃないんですか?だって椛も礼をしているのにしていませんし。何故か私とレミリアさんを見比べてにこにこしていますし。

 

私を認識して少しの合間表情が固まっていたレミリアさんが再起する。

「……さとり⁈」

そういう反応しますよね。さっきまでのカリスマ雰囲気が完全にぶっ壊れた。

「あ、一緒についてきました」

 

「俺が誘いました。彼女は天狗との関わりが深いものでな」

何か勘違いされそうな事を言わないでください。まあ間違っていないのですけれど…一応私は地底の存在ですから。

「……そこの緑がかった銀髪の子は?」

 

「私はこいし。妹だよ」

いや誰の妹だよ。名詞が抜けていますよ。

「私の妹です」

補足入れないと誤解を生みそうでしたので素早く挟み込む。

「ま、まあ…ようこそ紅魔館へ。ともかくお客様を玄関で立たせるわけにもいかないわ。美鈴、食堂まで案内を」

だけれど流石レミリアさん直ぐに動揺を抑えた。

「承知いたしました」

 

美鈴さんに連れられて食堂の方に移動を始める。少しレミリアさんの方を振り返ってみれば、どこかと連絡を取っていた。

なんだか悪いことをしてしまいましたね。

 

 

紅魔館といえど無限に広いわけではない。外見だけを見れば地霊殿と良い勝負ではある。ただ…中の方はそういうわけにもいかない。

少し…いや、拡張魔術でもかかっているのか外と比べれば中はかなりの広さだ。

本当によくわからない。

まあそんなことどうでも良い。

 

「……復旧早いですね」

 

「ええ、メイドさん総出の復旧でしたから」

美鈴が苦笑い。

どうやら相当な工事だったのだろう。お疲れ様だ。

幽々子さんや私の戦いに巻き込まれて動けるメイドは普段の三分の一程しかいなかったのだとか。それでも短時間でよくやりましたね。

 

そんなたわいもない話をしていればこいしが背中に抱きついてきた。

「お姉ちゃんこの窓ガラス色んな色になっているよ」

真横でこいしの声がする。

「着色したガラス片を埋め込んで作っているのよ。まあ…綺麗に魅せるにはセンスが必要ね」

そこまで話してハッとした。今こいしは真横にいる。なのに背中に誰かが寄りかかっている?

天魔さんと椛さんは前にいるし美鈴さんはさらにその前。それなのにこいしは真横……

 

あれ?じゃあ今背中に乗っかっているのは…

素早く背中側に手を回すと一瞬枝のような何かに触れた。

その感触で確信する。少し手を動かして首根っこであろうところを掴み、背負い投げの要領で前に放り投げる。

「やっぱりさとりだあ」

放り投げられたことより私と会えた方が大事なのね……

「フラン様⁈どうしてここに!」

 

「お姉ちゃん誰この子」

 

「お?もしかしてこれは……」

 

「やめてください天魔様」

一斉に全員の視線がこちらに移る。一部視線というより嫉妬が含まれているけれど…

「フランさん?どうしてここに…」

手を離すとすぐに私に向き直る。

「フランでいいよ」

なぜか天魔さんがときめいていますがあれは無視しましょう。

で、どうしてここにいるのでしょうか?居てはいけないと言う訳ではないのですが……

「さっきさとりが来てるってこぁから聞いて駆けつけてきたの!」

なんだろうこの熱い視線…好きになれない視線です。いやではないですけれど。

「ふうん…いつまで私のお姉ちゃんの背中にいる気なの?」

私の腕を抱きしめようとするフランが真後ろに引っ張られる。

どうやらこいしが引っ張ったようだ。少しだけ影があるのは気のせいだろうか。

「えっと…貴女はだあれ?」

 

「私はこいし!お姉ちゃんの妹」

いやその説明もなかなか雑だわこいし。代名詞は使うところを気をつけなさい。

 

「ふーん…私はフランドール!よろしく!」

何かを考えた…というより感じ取ったというべき反応をしていた。こいしに何を感じたのだろう。確かにどちらも妹EXボスですけれど……

「よろしく!」

笑顔なのは変わらないけれど、握手をするその手にはすごい力が込められている。

あーこれはもしかして仲が悪くなった感じですか?

参りましたね……

後でどうにかしないと妹同士で戦争が起こりそう。

 

「妹同士…いけるかも…でもなあ…」

天魔さん後でお話ししましょうか。具体的にその残念な頭の方をどうにかするために……

視線を向けると椛が頭を下げていた。

ああ、椛さんが悪いわけじゃないですからね。

 

 

 

 

 

 

「こちらでお待ちください」

廊下で少し時間を喰ってしまったものの、食堂にはまだ何も用意されておらず、広いテーブルはその面積を持て余して白いクロスに包まれていた。

美鈴さんに指定された席に座ろうとして向かいの席を見る。天魔さんとフランが並んで座っている…不安だ。

ただフランは私と向かい合わせの席だったことにご満悦で気にしていないようだ。

「おまたせ。待ったかしら」

そこへ主役いや主催者が入ってきた。ご丁寧に応接間につながる部屋からだ。服も改めたのかエントランスで出迎えた時の服装から変わっている。

あの時はピンク色のワンピースだったが今は漆黒のドレス胸元と背中が大胆に開いているけれど…外見年齢のせいでなんだか悲しく見えてくる。

ただ天魔さんは鼻の下を伸ばしていた辺り効果はあったようだ。

「フラン?どうしてそこにいるの?」

やっぱりそれ言いますよね。でもなんで残念そうにしているのかしら?えっと…美鈴を睨む理由は…

「えへへ、いいでしょ」

 

「俺は気にしないぞ」

 

天魔さんは偶然隣になっただけですよね。気にするも何もないと思いますが…もしかしてフランさんを狙っているとか?

だとしたらレミリアさんと戦争ですよそれも自業自得な。

 

「それで、天狗の長を呼びつけたんだ。それなりの理由があるだろう」

ようやく天魔さんの雰囲気が変わる。

「そうね、まずはお礼を言わせて。私達の処遇の為に色々と手を回していたようね」

レミリアさんが頭を下げた…まじですかい。

「ああ……あれはさとりに吹き込まれたし。それに合法ゴスロリ幼女だぜ?助けないわけないだろう」

雰囲気はそのままなのに後半が残念すぎる件について…

「何を言っているのか分かりづらいけれど…感謝しているわ」

 

「まあな。ただ、あの事を水に流すつもりはないからそのつもりでな」

吸血鬼の侵攻で天狗側もかなりの数の同胞を失っていますからね。吸血鬼に対してそう簡単に関係が回復なんて事はないですし馴れ合いをレミリアさんが望むとも思えない。吸血鬼ってプライドが高いですから上下関係はっきりさせたいですし。まあ妖怪って基本そんな感じですから水に流れるのも早そうですけれど。

「心に留めておくわ」

 

「それじゃあ、夕食にしましょう」

ようやく食事かと意気込む面々。だけれどその前にとレミリアさんが言葉を放つ。その1つ1つに込められた威圧が周囲を一瞬で黙らせる。

「そこの……椛と言ったかしら。貴女もどう?」

そういえば彼女さっきから立ちっぱなしだった。一応護衛の名目で来ているのだからそうだけれどなんだか落ち着かない。一応席は用意されているのですが…

「護衛の任を任せられています。それに…そちらが毒を盛る可能性もありますから」

無表情に睨みつける椛さん。その目線は歴戦の戦士のものだった。

「ふふ、真面目で頭の回る従僕じゃないの。私も欲しいわ」

レミリアさんの目が細くなり、蛙を睨む蛇のような構図になる。この場合蛙は超攻撃型の毒ガエル。蛇は気性が荒いコブラといったところですね。

「あーロリ体型じゃないからあげてもいいぞ。両親にはこっちから説得しておくから」

天魔さんが見捨てた…

「天魔様⁈」

 

「冗談だって。それと椛も座りなどうせここで襲ったって印象悪くなるだけだし今度こそ幻想郷から追放されるぜ?これから幻想郷で生きていくと言っているのにそんな事するか?」

まあそんなことしないでしょうね。ええ…だから私たちは行きましょうこいし。

無言の合図にこいしも応える。

 

 

 

「ってさとりは?」

 

「こいしの姿も見えないわね…どこに行ったのかしら」

 

 

 

 

 

 

「さとりさんこいしさん助かります」

私のそばで作業を始めたサキュバスのメイドさんがお礼を言う。

「気にしないで。あっちは大事な話しているみたいだし。突然の来客で迷惑かけちゃっているのは私たちだからさ」

私より先にこいしが応える。

「ええ。それに毒だなんだって警戒している護衛もいますし。せっかくの食事なのだから気を抜けば良いのに」

 

「…それが普通ですからね」

手を止めずにメイドさんは答える。実際長く勤めていればこういう場面くらいいくらでもあったのだろう。

「あ、メイドさんこれ運んで大丈夫だよ」

 

「分かりました!」

 

 




次で通算200なのに今気づいた。
ただそれだけ……

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