古明地さとりは覚り妖怪である   作:鹿尾菜

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depth.131さとりと霊夢(生誕篇)

家の修復はほとんど完了しようやく気を緩める事が出来た。

地盤の方に少し手間取りましたけれどそれが終わったら作業は一週間で終わった。

敷地面積も前の数倍。部屋の数もかなりのものになった。

おそらく豪邸と呼ばる程度には……

あ、塀はないですよ。幻想郷じゃあまり意味ないので。

 

「随分と大きくなったね!」

 

「うん、広すぎてあたいには訳がわからんよ」

家の中を探索していたお燐とこいしが戻ってくる。

ただお空の帰りが遅い。

迷うようには設計していないから迷子の心配は必要ないのですけれど…

あ…でも同じような部屋が連続で続く部分があったから混乱しているかしら?

 

「そういえばこいしはフランと仲良くなれた?」

話題を変えようかと思いこいしにそんな事を聞いてしまう。地雷だっただろうか…

「うん!色々と濡……オハナシアイしてたら意気投合しちゃった!」

 

なにをしていたというの⁈濡れってなに!こいしフランと一体なにを……

触れちゃいけないようなことだけれど問いたださずにはいられない。

「な、なんでもないよ……」

 

なんでもないはずがない。後声が動揺しているわよ。目線も変な方向に行っているし隠し事が下手ね。

 

「あーうん!フランちゃん凄かったよ!」

 

凄かった?ますますわからなくなってきた。

「うんうん、受けに回ったかと思えば急に攻めてくるんだもん」

 

「戦ったのね……」

口ぶりからしてどこかの熱血漫画みたいに拳で語り合ったのだろう。

全くなにをやっているのやらよ。今度行く時に何か持っていかないと。

「あ…う、うんそうだよ‼︎いやー強かったなあー」

 

「フランだから強いわよ」

 

「さとりは鈍感なのかい?」

 

お燐?それはどういうこと?

ため息をついたお燐を問いただそうとしたが、それより先にこいしが彼女の口を塞いでしまった。

「ワーワー!そ、そんなことよりお空まだかなあ!」

 

え?そうね…遅いわね。やっぱり迷っているのかしら……

 

「あ、やっと見つけた!」

バタバタと騒がしくなり、隣の部屋と接続している襖からお空が部屋に入り込んできた。

「お空それは見つけたじゃなくて帰ってきたよ」

 

「うにゅ?ただいま戻りました!」

 

おかえり。

軽く頭を撫でる。身長は私とほとんど変わらないから撫でやすい。

「あ、私も撫でて欲しいなあ」

こいしまで?仕方ないわね…ほら……

頭を撫でられる感覚というのは私は好きになれない。

どうにも、頭に他人の手が載せられるのが落ち着かないというかある種の不快感が芽生えてしまう。どうも対人恐怖症の一種のようだ。

まあ私自身他人は怖いですけれど…特に心の中が。

まあそんなことは置いておきましょう。

 

「それじゃあご飯でも作りましょう…」

そろそろ作り始めないといけない時間ね。

「あたいも手伝いますね」

あら、お燐も手伝ってくれるの?ありがと。

私が立ち上がるのと同時にこいしも立ち上がった。

そのままふわふわとした軽い足取りで玄関に向かう。

「どこかにいくの?」

 

「ヒトを呼んでくるね!」

どうして人を呼ぼうとするのよ……

 

「人数が多い方が楽しいからいいじゃないかい」

まあいいか……

 

それじゃあお燐、いくわよ。

お空は…そうね。何か食べたいものはあるかしら?

「私?じゃあお肉が食べたいです!」

また難題ね。でもいいわ。美味しいものを作ってあげる。

 

 

 

 

火加減を確認していると、誰かが玄関を開ける音がした。

台所と玄関部分は位置が近いからそれなりに音が聞こえる。後は妖怪の身体能力に任せれば人数くらいまではわかる。

三人ですね……

「お邪魔します」

透き通るような声が玄関から聞こえる。

音程もかなり整っている。この声は……

「ミスティアさんですね」

 

「よく分かりましたね」

私のいる台所に顔を覗かせてきたのはやはりミスティアさんだった。鳥のような特徴的な耳がひょこひょこと動いている。

 

「私もいるのだー」

彼女に続いてルーミアさんも入ってきた。なるほど、今日はこの2人だったのですね。

「2人とも上がって上がって」

こいしが2人を先導し奥の部屋に消えていく。

「夜雀と常闇ですかい」

 

「そうね……」

ルーミアさん…少しだけ封印がボロくなっていたような…気のせいでしょうか?でももう1,000年近く前の封印ですしそろそろ限界が来ていてもおかしくないですからね。

となるとまた大人びた姿に戻るのだろうか?

 

 

「あ、さとり今変なこと考えていたでしょう」

 

「変なことじゃなくてただの考え事よ」

 

「どっちも同じだと思うけれどなあ」

 

お燐は鋭いのか鋭くないのか……って火加減忘れていたわ。

火力を落とし弱火にする。

さて、後はお皿に盛るだけね……

 

 

ルーミアさんとか沢山食べちゃいそうですけれど…まあなんとかなるでしょう。幽々子さんみたいに暴食じゃないですから……

 

 

……うんできたできた。

「ご飯できたわよ」

お燐と協力して料理を一斉に隣の部屋に運び込む。既に机を囲うように待機していた面々が、運ばれてくる料理に意識を向ける。

「お姉ちゃんナイスタイミング!」

 

「久しぶりにさとりさんの手料理が食べられます」

ミスティアさんはなぜか私の料理が気に入ったらしい。理由はわからないし知る気もない。ただ、美味しいと喜んでもらえるのはこちらも嬉しくなる。

 

「わはー!」

 

「美味しそう…さとり様はやく食べたいです!」

 

なんだか和気藹々というか宴会の雰囲気に似てきた。大丈夫だろうか?

 

 

 

 

 

食事自体はなんら問題なくすんだ。ただ、ミスティアさんが持ち込んだお酒が原因で少しだけ一悶着があったりした。

具体的には酔い癖が良くない為に少しだけ荒かったお燐と、酔ったら素のルーミアさんの性格になってしまったとかそんな感じ。後ミスティアさんがお店を開きたいだのなんだの言っていたので今度屋台を作ることにした。

それくらいだろうか。夜遅くになって悪酔いした常闇と、酔いが回って潰れかけた夜雀を客間に寝かせてようやく一息である。

 

鬼の宴会よりかはまだ断然ましなのだけれど…どうにも疲れた。

どうしてでしょうね?

結局後片付けをしたり酔いが冷め始めて二日酔い状態になった2人を看護していたら日が昇り始めていた。

お空とお燐はまだ寝ている。こいしは……どこに行ったのでしょう?家の中にはいるのですけれど……

 

まあいいです。それよりももう行かないといけませんね。

神社に来てと事前に紫から言われている。一応こいし達に相談はした。その上で私はまたあの場所へ行くことにしている。

「……ねえ、また行くの」

不意に後ろから声がして、家を出る私にこいしが抱きつく。少し胸のところが苦しい。

「頼みですからね」

 

「断ればいいのに……」

それも1つの手ですけれど…どうにも断れないのですよ。

「友人の頼みは断れない性格だから」

 

「お姉ちゃんらしいや……分かった。じゃあ待っているね」

ようやく腕が解け、こいしが離れる。

大丈夫よ。遊びに来たければ来なさい。その思いが伝わったのかはわからないけれど。こいしは今度遊びに行くねと言っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あの…」

博麗神社の一室は、異様な雰囲気に包まれていた。私と紫…それだけではない。その空間で寝息を立てている1人の赤子……赤子がいるのである。

「どうかしたの?」

一瞬紫がついに誰かとやってしまったのかと膝をついたがよくよく見れば妖力を感じられないのでその線はなかった。

「どうして赤子を……」

 

「仕方ないじゃない……」

どうやらこの赤子は両親が吸血鬼異変の際に殺されてしまったため引き取り手もおらず捨て子になってしまったのだとか。

幻想郷においての捨て子の生存率はほとんどない。

大抵は肉食獣に食べられてしまうしそうでなくても一部の妖怪にとってご馳走のようなものなのだ。

実際この子も、両親が死ぬ間際に博麗の巫女に預けたものの、その博麗の巫女すら死んでしまいどうしたものかと手をこまねいていたようだ。ただ、調べてみればかなりの才能があると分かったのだとか。

「紫が育てた方がよかったんじゃないんですか?」

 

「馬鹿ね。私が母親役なんて合うわけないでしょう」

そんな哀愁漂う雰囲気で自虐されても…まあ母親というよりおばさん役が似合いそうですけれど。

なんで睨むんですか?いやいや、失礼な事なんて考えていませんよ。

「じゃあ今まで……」

 

「藍がちゃんと世話をしていたわ。だけれどどうも懐かなくてね…それに初めてのことで彼女も勝手がわからなくて精神的に疲れてしまったわ」

1ヶ月も経っていないのに?参りましたね……

出来なくはないけれど長く続けられないとなると致命的です。

ですが、たしかにそれなら他の人に任せたくもなります。ただでさえ賢者としての責務があるのに片手間で子育てをこなそうなんて妖怪じゃまず無理です。

「そういえばこの子の名前は?」

 

「霊夢よ。それじゃあしっかり責任持って育ててね」

用は済んだと言わんばかりに急に立ち上がり、紫は隙間を展開した。

「え⁈ちょっと……」

呼び止めようとしたが既に隙間に入ってしまっていた。

そのまま閉じられる隙間。後に残されたのは赤子と…私1人。

というかどうして紫の隙間は結界の効果がある中でも使えるのでしょうかね?そういうものなのでしょうか……

 

それにしてもまさか生後一年前後の赤子を育てないといけないなんて……責任重大じゃないですか。あの時しっかりと聞いておけばよかった……

「ですが……」

腕の中で寝息を立てている霊夢を見つめてある問題に直面する。

赤子の世話なんて経験ないですよ?そもそも育児ってどうやるんです?

そもそも前世記憶だって今の私だって赤子を育てるなんて経験全くないしどうしろというのだ……

たしかにこれは靈夜さんには無理ですね。だからと言ってどうして私が適任だと思ったのかが分りません。まさか産んで育てたことあるとでも思ったのですか?残念ならが私にはそういうことは一切ありません。

育児を経験したヒトなんて周りに…あ、1人いますね。

 

逆に1人しかいないのですけれど……

まあそれを思い出せたのならやることは1つです。

すぐに支度していきましょう。

あ…でも家に霊夢を置いておくことなんて出来ないです。靈夜さんがいるとはいえ今見回りで神社を開けています。

仕方がない…一緒に連れていくことにしましょう。

 

 

 

 

 

 

「それで、私のところに」

スヤスヤと寝息を立てている赤子が起きないうちに高速で移動。しかしほんとよく寝ますね。

普段のような多少荒いお尋ねは出来ないので多少時間はかかってしまいましたが…

運良く椛さんを見つけられて良かったです。それに最初に対応してくれたのが新人さんじゃなくて結構なベテランさんだったのも。

 

「ええ…お母様から話を聞こうかと」

 

犬走 楓さんならと思ったのですが…だって椛を育てているわけですし。まあ他の方に聞いても……いえ、縁がないから無理なんですよね。天魔さん辺りならどうにかしそうですけれどそれだと本末転倒な事態になりかねないというかなんというか……

 

「私で良ければ構わないわよ」

ここで断られたらいよいよ打つ手がないと思ったけれど杞憂で済みました。

ありがたいです。

「本当ですか。ありがとうございます!」

私が頭を下げると、コロコロと笑いながら楓さんはなにかを書き始めた。

「良いのよ。本職は数年ほど休職する予定だったしそれによく子育てについて聞かれるのよね」

 

あ……なるほど…

確かに頼り甲斐ありますよね。こう…母性というかなんというか。すごく慣れているような…

 

「それで、その赤子の事を詳しく教えてくれる?」

 

「とある筋から預かって育てて欲しいと言われまして」

素性を詳しく言えるはずない。だって次期博麗の子ですなんて言ったら確実に始末されそう。

だって博麗の巫女は妖怪にとっては敵なのだ。

幻想郷の調停役なのだけれどどうもその認識が普通の妖怪にとっては薄い。

「そう…女の子?」

 

「ええ、女の子です」

 

「なら、椛の時と勝手は同じかしら」

 

そう言いつつもなにやらメモを続けていく。

「うぐ……」

 

「あ……」

起きちゃった……

慌てて抱きかかえていた霊夢を軽く揺らしてあやす。ぐずついて泣き出すということはなかった。

逆に私の顔を見て何か嬉しそうにし始めた。

 

「そういえばさとりさんは心を読めるのですよね?泣いたらそれを利用してその子がなにを望んでいるのかを読んであげたらどうですか?」

なん……だと……

思いつかなかった……

「その手がありました……」

 

まあそれでも技術的なところやミルクの与える量や時間、温度など知らなければならないことはたくさんある。子を育てる為にはそれ相応の責任がかかるのだ。

 


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