古明地さとりは覚り妖怪である   作:ヒジキの木

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depth.134さとりと霊夢(接触篇)

ずっと空を飛んでいると、そのこと自体が当たり前になってしまい感覚がよくわからなくなる。

 

「わー!凄い凄い!」

だからなのか霊夢の反応に私はついついほっこりしてしまった。まあ…表情には出ていないから悟られることはないのですけれど。

悟られたからと言ってどうということはないけれども。

「どう?空を飛んだ気持ちは」

お腹のところで抱きかかえた霊夢が足を前後に振っている。彼女にとって空を飛ぶというのは水中を泳いでいる感覚なのだろうか。

肌に冷たい風が刺さり少しだけ痛む。

「こわいけど気持ちいい!」

あ…やっぱり怖いのですね。

そう言えばさっきから下に目線がいっていないと思ったら……

「それは良かったわ」

 

事の起こりは一時間ほど前。

靈夜さんとの模擬戦から2日後のことだった。

庭で飛んだり跳ねたりを繰り返し始めた霊夢の行動がよく分からなかったので理由を問いただしてみると、どうやら私や靈夜さんのように空を飛びたいらしい。

確かに普段は靈夜さんも私も空を飛んで見回りをしていますけれど…

結局、空を飛ぶとはどういうことかを教えるためにはこれが1番良いと思い、霊夢を抱きかかえて飛ぶことにしたのだ。

 

どうやら空を飛ぶ感覚というより空を飛ぶ楽しさの方が先行してしまったのか霊夢は両手を横に広げて羽のようにして笑っていた。

「楽しい?」

 

「うん!楽しい!」

彼女の髪の毛が私の鼻をくすぐる。飛ぶ前に少し髪をまとめておいた方が良かったかしら。今更であるけれど……

「お母さんたちすごいよね!くるくる回って色々と躱すよね!」

ああ…まあ空で戦う時は基本そんな感じだし弾幕ごっこの時も大体は空を飛んで行うことが多いし。

「空戦機動を体験してみる?」

まだ霊夢には早いかもしれないけれど、経験しておくだけ損では無いはずだ。

「なにそれ?」

首を傾げてしまう。

やっぱり分からないわね。いきなり空戦機動と言われても。

「簡単に言えばクルクルと回ることよ」

超大雑把な説明ですけれど間違ってはいない。

「面白そう‼︎やってみて!」

子供ゆえの好奇心かあっさりと乗ってきた。大丈夫かな……

「それじゃあ……」

体を横に転がし空中で一回転。景色が一瞬だけひっくり返り再び戻る。高度と速度を変えずに位置だけを少し横に移動した形だ。

「まずはロール。これが1番の基本よ」

 

「ろーる?」

 

「横にコロコロ転がる感じよ」

感覚としてはこんな感じだろうか。実際にはもっと複雑かもしれないけれど要は感覚が大事だから……

 

「じゃあ2つ目。縦ロール」

別名宙返り。

言うのは簡単だけれど上昇角度を気をつけないと体を痛める。

今回はかなり大きめに回ることにした。慣れていない霊夢に高機動を体験させても体調不良を起こすだけですから。

それでも通常の二倍の力で外側に押さえつけられるのだから意外ときついらしい。

回転が終わった頃には少し顔を青くしていた。目が回ったのだろうか?

「大丈夫?」

 

「だ、大丈夫!」

 

「無理そうなら言ってね」

 

「へーきへーき!」

子供って無茶しますからその平気は全然平気じゃない。

やはりもう少し緩めにやらないといけない。

「他にも色々とあるけれど、やっても多分わからないものが多いわよ」

 

スプリットターンとかバレルロールとか。速度を高度に変換する機動なんて目立たないし体にかかる負担が大きすぎる。

霊夢にはまだ早いわ。

クルピットやコブラなんて以ての外だ。そもそもあの機動は後ろから追いかけられている時にやってこそその真価がわかるものだもの。

「もう終わりなの?」

 

「他にもたくさんあるけれど先ずはこの2つよ。他のは…大きくなってからね」

諦めてくれるだろうか…

「分かった……じゃあ飛べるようになったら教えてね!」

 

「うふふ、分かったわ」

おもわず笑ってしまった。なんでだろうか……

「守らなかったら針千本飲ます!」

指切りですか仕方ありませんね。妖怪と人間の約束なんて意味がないようなものですけれど……仕方がない。

 

空を飛ぶ練習を始めたら教えましょう。実際弾幕ごっこでは使用頻度が高まりそうなものですからね。

 

そういえば霊夢と話すのに夢中で今飛んでいる場所が分からなくなりました。一体ここはどこなのでしょうか?

下を見下ろしてみても森ばかり。幻想郷らしいと言えばそれまでだけれど区別が付かなさすぎてなんとも言えない。

もう少しわかりやすくはならないだろうか?

 

なんて思ったところでどうなるわけでも無い。

一旦地上に降りてみましょう。

木々の切れ間に体を通し腐葉土の地面に着地する。

人も妖怪もほとんど来ないのだろうか。足元の地面は柔らかく少しだけ足が埋まる。

「なんだろうここ?」

 

「……少し息苦しいわね」

 

湿度も高いし人や妖怪が弄ったような気配の見られない原生林。

それになんだか暗い。足元もふかふかというか……なんだかじめじめする。

「あ!お母さんキノコが生えている!」

霊夢がなにかを見つけたらしい。私の手を引っ張って強引に案内する。子供は元気ね…なんだかめまいがしてきたわ。

ってこれ……

「化け物茸じゃない」

 

「バケモノタケ?」

なんだそれと霊夢は首をかしげる。だからそれを突かないで。それ毒キノコよ。

「幻覚作用を持つ毒キノコ。あまり近づかないほうがいいわ……」

 

「そうなんだ…危ないんだね!」

 

ええ、即死の毒はないけれどここら辺のキノコは何かしら毒性を持っているわ。

「ええ……魔法の森だもの」

 

「魔法の森って確か毒キノコがいっぱい生えている危ない森?」

 

「よく知っているわね……靈夜さんから聞いたの?」

 

「うん!この前教えてくれた!」

まあ知らないよりかはマシだろう。だけれどその恐ろしさを理解していないからあまり意味がない。

この森は人間の里からの道のりは比較的マシな部類だけれど森の中は人間にとっては最悪の環境で、化け物茸の胞子が充満していて普通の人間は息するだけで体調を壊してしまう。

霊夢はこれでも博麗の巫女だし毒系列への耐性は強いからまだ平気なのね。でもまだ幼いから長居するのは危険だ。

まあ、一般的な妖怪にとっても居心地の悪い場所だから妖怪も余り足を踏み入れないという特徴もあるのだけれど。

私もあまり長居するのは無理そうね。

それにしても薄暗いし湿度も高い…服がなんだか重く感じる。こんなんじゃ服にまできのこが生えてきそうね。

 

霊夢の手を引っ張り僅かな太陽の光を元に出口を目指す。

一応方角は間違っていないから大丈夫なはずだ。

だけれど先程から代わり映えしない景色のせいか方向感覚が狂いそうになる。太陽の光があってよかった。

まあ、最悪飛べば良いですし。

しばらく双方無言で道無き道を進んでいると急に視界が開け始めた。

 

森を抜けたのだろう。幻覚かもしれないけれどそれを確かめるためにも開けたところに飛び出す。

「もりでれたよ」

 

「そう、良かったわ」

空気が新鮮だ……ようやく気分も回復を始めた。

 

「お母さんあれなに?」

急に霊夢が横を指差した。その方向に私も視線を向ける。

そこには瓦屋根の目立つ和風の一軒家が森の木々に半分埋もれながら立っていた。但し入り口はドアで、窓は障子…隣には大きな倉がある。 和洋ごちゃ混ぜの設計なんて誰がしたのだろう?それとも…「店主さん」の改造だろうか?

「霊夢はこれどう思う?」

家のようなものだけれどなんて呼べばいいかわからない。

「ごちゃごちゃとして落ち着きのない異国風の建物」

的確な説明ありがとう。たしかに異国風に見えなくもないわね。

 

「……香霖堂ね」

看板くらい出しておいてほしいのだけれど…それとも無くしたのだろうか?看板を無くす?うーん…妖精の悪戯と考えるとありえなくない。

「こうりんどう?」

 

「ええ、雑貨屋さんよ」

 

「色々なものを売っているところ?」

 

「霊夢は賢いわね」

どうやら靈夜さんに教えてもらったらしい。いろんなものを売っているお店の総称だとかなんとか……

「折角ですし入ってみましょうか」

特に用はないけれど何かあるかもしれない。きっと……

 

扉の上に備え付けられた鈴が勢いよく揺れる。

静寂だった店内にその音が鳴り響き……反応なしですか。

カウンターも無人。奥にいるのだろうか?

 

まあいいや。居ないなら居ないで意識の外に置いておきましょう。

「わああ…いろんなものがある」

部屋いっぱいに置かれたそれらは使用用途が不明なものから懐かしいものまで様々だ。だけれど値札もないし置き方が雑貨というより蔵である。

商売する気あるのだろうか?

 

「お母さんこれなに?」

 

「あら、SEG◯のSC-3000じゃないの」

珍しいわね。でもボードが汚れているし使えそうに無いわね。

「なにそれ?」

 

「ただの板よ。使い道がないわ」

実際電気もテレビも無いのだから使えるはずがない。

「じゃあこの四角くて黒いのは?」

 

「……何かしら?」

何に使うのでしょうかね?全くわかりません。

 

 

「だぜ?」

ふと、どこからか声が聞こえてきた。

女性…じゃない。まだ年端も行かない女の子の声だ。えっと…声が聞こえたのは…カウンター?

よく見ればカウンターの後ろで何かとんがったものが動いている。

魔女帽子のようだ。

ということはもしかして……

もので夢中になっている霊夢もその黒い帽子に気がついたのかカウンターの後ろに駆け出した。店の中では走っちゃダメよ。

私も霊夢に続いてカウンターの裏を除く。

そこには魔女帽子を深くかぶった子供が1人いた。

ここからでは帽子のせいでよく見えない。だけれど少しだけ見れる金髪の髪と白いシャツ。どうやら……

「お客さんだぜ?」

 

「リアルにだぜが口癖になっている子初めて見た…」

口癖として珍しいのはいくつか見てきたきたけれどこれは初めてだ。女の子というか…少し男勝りに近い。

「君は何を言っているんだい」

真上で声がした。視線を上にあげれば、いつのまにかだぜっ子の後ろに青年が1人立っていた。かなり身長が高いですね。

銀髪を短く切りそろえているのに何故か癖っ毛が一本立っている。

しかもなぜか水中の草のように動いているのだ。

「ああ、店主さんですか。そちらは娘さん?」

まあ当たり障りのない反応をしておきましょう。

「親戚の子だよ。少し預かっていてくれと言われてね」

どうやらここにくる人全員に言われていることらしくまたかと言わんばかりの反応だった。

少し冷めた感じの性格なようですが……あ、これは興味のないことは関わらない系の人ですね。一度熱くなればその話題で話しっぱなしになるという……

「そうですか。可愛らしい子ですね」

 

「そうかな?遊び盛りの子供はとにかく疲れる」

うんざりしているのだろうけれど、本気で嫌というわけでは無いようですね。

まあいいやと再び散策する。

いろんなものがたくさん転がっているせいかなんかもう倉庫を漁っているのと同じ感覚に至る。

「……三輪車?」

何に使うのかよくわからない道具や傘と言ったものに埋もれていたそれは三輪車にしては少し大きいものだった。二輪車輌が作られる前に使用されていたものだろうか。

「おや、それの名前がよくわかったね」

やっぱ三輪車だったらしい。

「なんとなくですよ」

でもなんで前輪が無いのでしょうか?

どこかに車輪だけの状態であったりして……

「あ、古いラジオじゃないですか。……壊れている」

つまみの部分がなくなっている…まあ、ここではもう電波を拾うなんて事ないのですけれど。

「その道具の使い道を知っているということは最近外から来たのかな?」

私の呟きを逃さない店主が私に興味を持ち始めたようだ。

「いいえ、ずっと昔から幻想郷に住んでいますよ」

そう答えれば店主さんの表情が感嘆に変わった。

そこまで珍しいことでもないでしょうに……

 

「私霊夢!貴女は?」

 

「魔理沙だぜ!」

 

あらあら、もう仲良くなっているわ。

気がつけば子供2人は仲良くなっていたのか飛行機の形をした木製のなにかを手にとって遊んでいた。

「霊夢、奥で遊んできたら?」

私がカウンターの奥…生活スペースであろう方を指差す。

「はーい!」

 

「りんのすけー!奥入っているぜーー!」

あらあら2人揃って霖之助さんの足元をすり抜けていくなんて…息ぴったりね。

「おいおい、人の家だぞ?」

霖之助さんが表情を曇らせた。

いいじゃないですか。ここで遊んで何か壊すよりマシでしょう?

 

「霖之助さんですか……」

知っていたけれど、知らなかった。そんな感じだ……

「私の名前だね。森近霖之助。よろしく」

 

「古明地さとりと申します。以後お見知りおきを」

 

ところで、ここにあるラジオ幾らで売ってくれます?

 

…非売品ですか……残念です。

ではここの小さな籠を買いたいのですが……

 

「そこのラジオをおまけにしておくよ」

 

「いいんですか?非売品なのでは」

 

「壊れているし直しようも無いからね。非売品というのも売れそうに無いからだよ」

 

「また来ますね」

 

「ぜひそうしてくれ」

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