古明地さとりは覚り妖怪である   作:鹿尾菜

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depth.135さとりと霊夢(成長篇)

色々と教えこまないといけないことが多いと時の流れが早く感じる。

気がつけばもう4年経っていて霊夢も9歳。いや、もうすぐ10歳だろう。

あんなに小さくて可愛かった子は成長し少女になった。まあ、それでも私より額1つ分小さいのだけれど。

でも性格の方はかなり悪くなってしまったと言える。まさかここ数年で一気に変わるなんて思わなかった。反抗期とか成長期とか……言葉は良いけれどなんだか変わっていってしまったという事に戸惑ってしまう。

それも靈夜さんに似ている口調で靈夜さんより性格悪くなるって……根はいい子だからまだ良かったのですけれど。

 

「それじゃあ始めるわよ」

空に飛び上がった私を追いかけるように霊夢が付いてくる。

「今日こそはあんたに勝つわよ」

 

「はいはい」

威勢は良い。だけれど実力はどうなのかな?

あれからどんどん色んなことを覚えていったし修行も欠かさず行っているけれど……

今は空中戦に集中しましょう。

左右に旋回をして後ろに張り付いているであろう霊夢を引き離そうとする。

だけれどそんな小細工が通じるほど霊夢は甘くない。2年前ならまだこれだけで振り切れたのですけれど。

首元に寒気がする。とっさに体をエルロンロールさせて高度と移動方向をずらす。体が引っ張られ裏返り、ついさっきまで私がいたところを弾幕が通り抜ける。

弾幕が命中する射程に入っていたのだろう。恐ろしや。

それでも、そんな近くまで来ているということは……

「外れたと思ったらすぐに距離を置くこと」

体を真上に向けて加速。ついでに霊夢の方に向き直っていくつかの弾幕を撃ち出す。

別に当てるわけではない。牽制目的のものだ。当ててもいいのだけれどそれだと練習にならない。

「あんたの動きがおかし過ぎるのよ!」

 

「これくらい普通ですよ」

 

霊夢の真上に出る。空戦で上を抑えられたら終わりだって言ったのに……慌てて彼女も真上に上がってくるけれど既に手遅れ。

撃ち下ろす形になった私の方が圧倒的に有利である。

 

それでも勘で避けているのかほとんど命中しない。まあ、落ちず落とされずの絶妙なところでバランスが取れるように撃っていますから仕方がないのですけれど。

それでも避けるのが妙に上手いせいか、もうこちらと同じ高度まで上がってきた。

阻止しようとして逆に利用されたということね。

 

結局また逃げることになる。それもかなりの至近距離での戦闘だ。ヤバみだけなら相当なものだろう。

ともかく左右に体を振ったり傾けたりして弾幕を回避するのに専念。

イライラして集中力が切れてきただろうか?なら……

一気に仕掛ける。

体を真後ろにひねり急制動。接触を回避しようとした霊夢の真下をすり抜ける。

ついでに弾幕を撃ち込む。非殺傷用ではなく当たっても痛くはないものだ。

「っち!」

 

「今のが実践なら確実に死んでますよ」

 

「分かっているわよ!もう一回!」

煽ってあげればまた私を追いかけ始める。根性があって助かります。

まあ魔理沙の方もだんだん魔法の研究に没頭してきていろんな技を生み出してきたというのがあるのだろう。

 

追いかけてきた霊夢にもう一回フェイントをかける。とは言っても今度はすれ違いざまの攻撃ではない。

後ろにつかせないように何度も高機動で翻弄する。右に左に地面スレスレといろんなところを飛び回る。当然疲労が溜まりやすい行為だからなかなか勧められたものではない。

流石の霊夢も追いかけるのは不利と判断したのか距離を置いて観察を始めた。

「悠長に観察ですか」

勿論そんな事をさせるつもりはない。

「うるさいわよ」

素早く霊夢の方に反転。

突進しながらも弾幕を斉射し体を逸らす。

スレスレを通過すると見せかけて直角旋回。強引に向きを変えて翻弄するコースを取る。

「ええい!ちょこまかちょこまか鬱陶しい!」

 

あ、真下に逃げましたね。

もちろん追いかけます。でもあまり近すぎるとフェイントに引っかかる可能性があるのでなるべく距離は取る。

 

あ、クルビット⁈

急に霊夢が空中に止まりそのまま私の方がオーバーシュートしてしまう。だけれど距離があったおかげで対処する時間もできた。

すぐにコブラを行い再び霊夢を前に出す。そのまま左に旋回。

やや上昇して上から攻撃を仕掛ける。実際こんな動きをするヒトはいないでしょうけれどなんとなくです。

空中での戦闘では被弾面積が大きい背面や横から攻撃を仕掛けたほうが良い。実際真後ろなんてついても被弾面積が小さいから近づかないと当たらない。

 

それを考慮すればこの行動は当たり前である。時々後ろ側にどうしても回ろうとする人がいますけれどそれはよほど腕があるかミサイルなどの精密誘導兵器があればの話です。

 

ふいっと……

旋回してブレイクした霊夢の上を通過する。すぐに体を回して反転する。再度攻撃。

人型だからこそできる芸当です。

「そろそろ終わりにしましょうか」

 

こちらに弾幕を放ち対処しようとする霊夢に飛び込む。そもそも狙いの定まっていない弾幕なんてただのこけおどしだ。

彼女の背中側に回り抱きつく。

「はい、終わり」

 

「また負けた……」

 

「霊夢はまだ若いんですからまだまだですよ」

実際動きのキレは本当に良い。天性の才能というやつだろう。

まだ甘いけれど後四年あればこれは確実に化ける。

 

「もうちょっと実践を積んだ方がいいですね。理論はできているようですが…想定外のことへの反応が遅いです」

 

「あんたの動きが想定外なのよ」

実際の戦闘はいくつもの想定内と想定外が積み重なって構築されるんです。

だから想定外に対処するためにもこうして複雑な動きをするんですよ。

わかりましたね。では、休憩しましょうか。

 

 

「そうだわ。わたし疲れたしあんたも見回り手伝いなさい!」

 

「え……どうしてですか」

 

「つべこべ言わないの!」

そんな急な……

 

 

 

 

「……」

 

結局霊夢の見回りに同行することになり人里に来てしまった。

別に私はそこらへんを見回る必要はないので、一人里を観光する。

 

どうやら私の見た目…フードを深くかぶった状態は視線を集めてしまうらしい。

なんだかなあ……

 

そんな視線が嫌になり、思わず路地裏に入り込んだ。人がいないところなのでここにした。

ん?なんかへんな気がまとわりついていますね。もしかして誰か見ている?確証がないのでなんともですけれど……

 

「驚けーー!」

……目の前に巨大な目玉がついた傘が開かれる。

ある意味グロテスクというか…なんだか気味が悪くなる。でもわかっていたし驚くことはない。予測不能なことにとことん弱い覚り妖怪でも来ると分かっていればなんら問題ない。それに私に不意打ちは効きませんから。

「わー驚いたなあ」

それでも一応驚いたふりはする。棒読みだけれど……

「嘘だよね!その棒読みは絶対驚いていない!」

あら?やっぱりダメでした?うーん難しいですね。そもそも驚いたりする感情は私にないのですよね。

「まあ驚くほどでもないですからね」

これは事実だけれど私を驚かしたかった少女にとってはショックなことだったらしい。口を開けたまま何も言い出せずに唖然としていた。

「ひどい‼︎」

結局出てきた言葉がそれだった。

「驚かすというのは……こういうことですよ」

 

相手の腕を掴みそのまま放り投げる。もちろん頭から地面に行かないように少しばかり工夫する。

「ゲフッ⁈」

そのまま腕をひねって関節を締め付ける。

 

「イダダダダッ‼︎いだいってば!」

涙目で悲鳴をあげるけれど流石に裏路地だ。誰も助けには来ないし状況を見れば悪戯をした妖怪を懲らしめているだけなので尚更だ。

「どうですか?捕食される側に回った驚きは……」

すぐに力を抜き楽にさせる。

 

「お、驚きました……」

別に驚いて欲しかったわけじゃないですけれど。

しかも驚いたというか死の危険からくる恐怖に囚われていただけのようですし。

「まあ落ち着きましょう」

 

「わちき…痛い目にあったのに落ち着くもなにも…」

何不平漏らしているんですか。私を妖怪と見抜けていない時点で負けですからね。本来なら拒否権はないんですよ。

「じゃあお詫びに脅かし方のコツと団子奢ってあげます」

でもまあ……そこまで怒っているわけでもないですから。

「落ち着きました」

切り替え早い。いや手のひら返しか。

「それじゃあ行きましょうか」

 

とは言っても久し振りに人里に来たわけですから団子とかお菓子などを売っているお店がどこにあるのかわからない。

結局路地を出たところからこの唐傘に案内を頼むことにした。

 

 

 

 

「わちきは多々良小傘。貴女は?」

歩きながらも自己紹介をしてくる。そういえばまだ自己紹介をしていませんでしたね。

「さとりと申します」

妖怪とバレるのは少し不味いですのでしばらくは何も言わないでおこう。嘘をついているわけではないからセーフだ。

まあそれでもただの人間じゃないというのは感づかれたらしい。

別にどうでも良いことなのですけれど……

 

 

小傘が連れてきてくれたのは里の端っこの方にあるお店だった。大通りに面しているからかお客さんの数は多そうだ。

内に入るなり小傘が店員に注文をしていた。

そのまま片手でお金を出せと合図をしてくる。最初に言って欲しいのですけれどそこまで頭が回らないのかなんなのか…まあいいかと小傘の手にお金を乗せる。

 

場所取りも私が行うことになった。とは言ってもなるべく人に聞かれないようにしないといけないことも話すので大通りではなく奥の方の席にしたりと選択肢なんてないようなものだったけれど。

 

 

「ここの団子は美味しいんだよ」

お団子を美味しそうに食べている小傘を見ると、妖怪というより幼い子供に見えてしまう。うん、人によってはファンが多そうです。ってそれ私の分では…まあいいです好きに食べてください。

「最近ここいらに来たのかな?」

 

「ついさっき。巫女の付き添いで」

そう言うと、小傘はゲッとばつが悪そうな顔をした。巫女にいい思いがないのは妖怪共通らしい。まあそうでなければ困るのだけれど。

「まあいいや、それで驚かせ方を教えてくれるって言っていたけれど……」

 

「ええ、勿論教えますよ」

本題に入ったようね。まあ巫女の話題をして欲しくないからといったところもありますかね。

「まず、人が驚く場合ですが……」

 

ここからはもう心理の話から人が取るであろう行動、そして予測不能な行動をするにはどうすれば良いのかといったことを教えられるだけ教えた。後はそうですね、小傘が人を驚かすということと妖怪が人間に与える恐怖について。曖昧になりがちだけれど驚かすことによって生まれる感情は恐怖なのだ。いわば驚いたという結果は予期せぬところから不意に現れた恐怖に対する心の反応であり、効率よく驚きを生み出すには怖がらせることも必要であるといったことくらいだ。幸い、彼女は心を食べる妖怪だったので話が通じやすくて助かった。

まあ、お陰で少しやばい方面に行ってしまったかもしれないが。

まあ小傘ですし大丈夫でしょう……多分、メイビー。

そんなことをしていれば相当時間が経つのは当たり前なことであった。

 

 

「あんた何やってるの?」

気がつけば話し込んでいた私達の目の前に1人の少女が立っていた。赤と白の巫女服……それと片手に持っているお祓い棒。

「ああ、霊夢さん。見回りは終わったのですか?」

その姿を見て小傘は椅子の向こう側にひっくり返った。まあ目の前に妖怪の天敵がいるのだから仕方がない。

「一応ね…あんたにも見回り頼んだのだけれど」

 

「ああ、適当に人里を観光してこいって」

 

「見回って来てって言ったのよ!観光はついで!」

え?まあそうですけれどあれって観光しておいでって遠まわしに言ったんじゃないんですか?まさか本当に見回りをしろだなんて…じゃあ最初からそう言ってくださいよ。

「あーじゃあ私は帰るね」

一人称が変わっている……成る程、そっちが本心ですね。

「何あいつ……」

いそいそと人ごみの中に紛れ込んで逃げていった小傘を横目に霊夢がつぶやく。

「唐傘お化けですよ」

隠す必要もないですし素直に教える。

「そう、ずいぶん親しそうだったじゃないの」

私が妖怪と仲良くすることがあるというのはもう霊夢も承知している。なんでそんなことをするのかはまだわかっていないようだけれど。でも妖怪も色々といるのだからまあいいだろう。

「偶然ですよ。それに私は巫女じゃないですから」

そこまでピリピリしなくても良いのだ。文句も言われないし。

実際私自身妖怪ですからね。

まだそのことは秘密ですけれど。

「まあいいわ帰るわよ」

 

「あら、もう帰るのですか?」

てっきり団子を食べるかと思いました。

「疲れたからね」

 

「ついでですし山の方を見ていきましょう」

勿論見回りだ。少し遠回りになるけれど問題はないだろう。

「……あんたほんとマイペースね」

マイペースな生き物ですからね。

 


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