古明地さとりは覚り妖怪である   作:ヒジキの木

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depth.137さとりと霊夢(死神篇)

「……」

完全に冷たくなった体を布団に寝かせ付ける。

そりゃこの世界は生きるか死ぬかの殺伐な世界。美しくあっても、根本は変わらない。

明日も無事に迎えるなんて保証なかったのだ。そのことから100年ばかり離れていたせいか、感覚を忘れてしまっていた。

私にとって遠くなりかけていたそれは、いつも私から何かを奪っていったというのに……

「どうして……」

霊夢が私の隣で震えていた。

運がなかった…ただそれだけだろう。或は、不幸が連続して発生した。誰が悪いのか…それはもちろん異変の元凶だ。だけれどそれだけではない。

「死神です」

それ以上のことはどうしても言い出せなかった。彼女が人間でないとどうしたら教えられよう。

 

 

 

 

私を囮に使った陽動作戦はほとんど成功していた。

「まさか本当にうまくいくなんて…」

思わずそんな本音が漏れてしまう。

でもお腹に爪を突き立てられるなんて最悪です。

すぐに靈夜さんが来て交戦に入りましたけれど要らない傷を負いました。すぐに治ったので良いのですが……

それに深くなかったので内臓も骨も無事でした。動脈が傷ついて無駄に血を流したくらいです。

 

 

異変の元凶は直ぐにわかった。1人はやはりぬらりひょん。

ほんと妖怪40人抜きをする羽目になるなんてね。それでもまだ半分。残りは直前で各地に散らせたらしい。それはそれで困るのですけれどもうやられてしまったことは仕方がない。

 

ぬらりひょん自体もものすごく強いですけれど、靈夜さんと私が束でかかったら流石に負けを認めた。こちらも無駄に退治して消しとばしたりをしたくはない。

なのでそこからは徹底的なお説教と話し合い。

攫った人は半数近くが生きているらしいのでそれの解放もだ。

残り半数はぬらりひょんが知らない間に殺されたらしい。まあ妖怪ですからね。本来統一して1つのことをしようとする種なんてなかなか居ませんから。

 

 

だけれど、もう1人いた。

ぬらりひょんに要らぬことを吹き込んだやつ……

 

 

 

案外簡単に見つかってくれましたよ。

ずっと側で見ていたようですからね。

 

 

帰り道がてらに監視をしていた彼女をひっ捕まえる。もちろん抵抗はあった。あったけれど、靈夜さんの容赦ない攻撃の前には流石に無力だった。

私の出る幕もなく、ボッコボッコに殴られていた。もうサンドバックですね。

「なんだ、張り合いがあるかと思ったら案外弱いのね」

 

「けっ‼︎言ってろ」

 

流石正邪ですね。

あの時私と一緒に吹き飛ばされどこに行っていたのかと思えばこの時代でしたか。

しかし…このまま放っておいても色々とやらかしそうですから紫に預けておきたいところです。

そう思って正邪を引っ張っていこうと思い…黄色い煙が周囲に充満し始めているのに気がついた。

 

瞬間、靈夜さんがその場に膝をついた。直ぐに立ち上がろうとしているけれどうまくいかないようだ。

「なっ⁉︎」

でも私の体には異常が見られない。人間だけに聞く特殊なものか?でもそれなら靈夜さんは仙人だし…一応人間か。

「これは……毒?」

 

「ヒャハハハッ!引っかかったなあ!」

めっちゃゲスいのですけれど。あと笑い方ムカつきます。

でも状況は非常に不味いです。このまま正邪とここにいても、血清か解毒剤をあらかじめ飲んでいるとすればこちらが不利。私に効果がないのはわかりませんが……

「靈夜さん引きますよ!」

ともかく今は動ける私が彼女を撤退させないと…

正邪は……あきらめましょう。

向こうもどうやら縄抜けをしたらしくせっかく縛っておいたのに逃げ出してしまっていた。

 

 

煙が無いところまで避難し、周囲の安全を確認する。このまま神社まで飛んで行ってしまっても良いけれど靈夜さんの症状も確認しておきたかった。

だから一度木の下に寝かせ付ける。

「大丈夫ですか?」

 

「目眩と吐き気が酷い以外は平気よ……」

 

「そうですかしばらくここで安静にしましょう」

 

「ごめん…足引っ張ったわ」

 

「気にしないでください」

上半身を起こした靈夜さんの背中をさする。少しだけマシになったのか青ざめていた顔色も少しづつ戻ってきている。

 

これならあと半刻もすれば動けるようになりますね。

 

 

だけれど、運命というのは残酷なのか。あるいは誰かが仕組んだものだったのか。

この時ばかりは閻魔と、死神を恨みたくなった。

 

視界の端っこから金属の輝きをした何かが現れ、靈夜さんのお腹に突き立てられた。

「ゲホッ⁈」

その場所から真っ赤なものが広がり、巫女服を赤く染め上げていく。

「靈夜さん!」

咄嗟に後ろにいる何者かに弾幕を直撃させる。

後方に吹き飛ばされたのか靈夜さんのお腹に刺さっていたそれも一緒に抜ける。

 

あの武器は斧…それもかなり大きなもの。

私が知る中であの様な特殊な武器を使うのは1人しかいない。でも彼女は人間を狩る方ではない。というと…同業者か。

 

空間が塗り替えられる。一面真っ白…いや、地面は真っ黒。そんな二色しか存在しない世界。固有結界のようなものだろうか?

 

靈夜さんの傷を半分修復したところで私の体が横に吹き飛ぶ。

どうやら復帰するのは早かったようだ。

体勢を立て直して相手を見れば、彼女は私など興味ないと言わんばかりに意識していなかった。

「はい、魂の納め時だよ」

その人が釜を振り下ろそうとしていて、思わず間に体を割り込ませる。

私が割り込んできた為か彼女は振り下ろすのをやめた。

同時に、髪の毛で隠れていた顔もあらわになる。

「うそ……」

その顔に思わず声を上げてしまう。

「どうかしましたか?さとりさん」

その女性が薄く微笑み、距離をとった。

「ゲホゲホッ!」

靈夜さんが咳き込む。傷を治している途中だったからか中途半端に傷口が残ってしまっているようだ。おそらく内臓系の損傷……

「……仕留め損ないました」

長い銀髪を後ろに流しながらその死神は私に向き直る。身長は私と同じくらい。真っ白なワンピースと、銀髪のせいでどうにも真っ白な背景と同化しやすい。

そしてその顔が……似ていたのだ。

でもどうして死神がここに……それも靈夜さんの命を刈り取ろうとしてくるの……?

あれ?何か重要なことを忘れているような……

あ‼︎まさか……

「まさか……時期なのですか?」

仙人など通常より長く生きる人間は死神が100年に一回ほどの回数でお迎えに上がるのだった。

なんでそんな大事なことを忘れていたのだろう。ああ……失態だ。

「そう……だったかしら?」

靈夜さんあなたわかっていたのですよね!ならどうして……異変を解決しようとしたんですか!

「だって私は巫女でしょう」

ああそうだった。靈夜さんは巫女でした。巫女が自らの都合で異変を放置するなんてことあってはいけませんでした……

 

「では、邪魔しないでもらえます」

その巨大な鎌が私に向けられる。下手をすれば命を刈り取られかねない。だけれどそんなの何時ものことではないか。

「それはできません」

靈夜さんを見捨てる?そんな選択があるわけないじゃないですか。絶対にそんなことはさせない……

巫女としての使命があると言うのなら、必ず神社に戻るのも巫女の使命です!

「仕方がありませんね」

 

死神が私に向かって飛び込んでくる。とっさに横にステップを踏み、左脚を軸に体を回す。

振り回される鎌をギリギリのところで避けていく。離れすぎると死神が靈夜さんの方に向かった時に対処できない。なるべく引きつけておく必要があるのだ。

だけれどそんな小細工が通用するほど相手は弱くもないし愚かでもなかった。

空振り状態になった鎌から手を離した死神が、私に向かって突きをしてくる。フェイントに気づくのが遅れ思いっきり喉に食らってしまった。

「あがっ!」

声帯が押しつぶされたものの直ぐに元に戻す。

 

鎌を手放した今なら一撃でやられることはない。地面に突き刺さった鎌を蹴り、持ち手の方を無理やり押し付ける。

流石に痛いのかお腹を抑えた。ああまあそこは女性にとって大事なところですからね。痛いですよね。

それでも直ぐに立ち直った。しかも鎌まで相手に戻ってしまう。

やはり死神…それも姿が似ているからうまく攻め込めない。

「1つ…聞かせてくれませんか?」

ちょっとだけ間があきそうだから聞いてみることにした。

「物によるけれどいいよ」

 

「どうして琥珀に似ているのですか?」

一瞬だけ彼女の顔が無表情になった。でも直ぐに笑みが浮かぶ。それも先ほどまでのものではない。何かを確信したようなそんな笑みだった。

「……どうしてでしょうね」

 

 

「さとり……騙されちゃ……ダメよ」

精神攻撃ということですね。この空間といいなんといい…かなり凝っているようですね。

あれは死神。そう、死神なのだ。人を死へと運ぶ存在。そして、敵だということ。

「知っています」

私に対しても精神攻撃をしてくるとは…覚悟がありますね。でもあなたの場合それは精神攻撃ではない。ただ怒りを買っただけだ。

 

しかし…向こうは死の向こう側の存在…どうやって追い払うんですかこれ。

 

「靈夜さんあれどうやって撃退するんです?」

思わず聞いてしまう。だってそうだ。死の概念がないならどうやって倒すというのだ。

「向こうが諦めてくれるまで戦うまでよ」

そうですか……じゃあ……何度でも頭を吹き飛ばし、心臓をえぐり取りましょう。

いつもどうやっているのかはわからないけれど……

 

「こちらは一回貴女は、何回死ねるかしら?」

今の私は相手にどう映っているのだろうか。

「貴女に出来るのかしら?」

 

できるに決まっているじゃないですか。

刀を引き抜き構える。私が武器を使用したことに驚いたのか警戒度が高まった。

でも本命は……

刀を構えた右手に意識が向いているうちにもう行動に移す。服の下から飛び出したサードアイが相手の心に入り込む。

記憶を引き出し、トラウマを読み取り構築し再現する。

 

「想起……」

 

「させるかっ‼︎」

流石に気づいたようですね。私に向かって突っ込んでくる。弾幕などは使わないのでしょうか?あるいは概念自体がないか……そんな分析は後にしましょう。

左手でこっそりと構えていた13.6ミリ拳銃が火を噴く。強い衝撃が腕に伝わり、少しだけ銃を持つ手が跳ね上がる。

3発撃ち込み、2発は脚を貫き引きちぎった。

 

鋭い悲鳴を聴きながら私はトラウマを再生する。

それを元に何度も死ぬ幻想を頭に流し込む。

死神の動きが止まった。それでもトラウマに完全に飲み込まれなかったのか私に向かって鎌を向ける。ですが反応が遅いです!

 

急接近し懐に飛び込む。

1回目、素早く頭を撥ねとばす。

首の切り口から黒い影が溢れ出し、吹き飛んだ頭とつながる。

影に口と目のようなものができ始める。素早く心臓を突き刺す。何度も何度も、血がかかるのも御構い無し。

腕を上げて首を閉めようとすればその腕ごと頭を消しとばし、たとえ脚が元どおりになり蹴ろうとしても切り落とす。同時に与えられるトラウマと実際に何度も殺される。それを繰り返し続けてどれほど経ったのだろうか。

拳銃はとっくのとうに弾切れ。刀も限界がきたのか心臓に突き立てた瞬間折れた。

 

それでも構わず頭を消し飛ばそうとして……

私の体が逆に吹っ飛ばされた。首を引きちぎった拍子だったので受け身も取ることができず左腕が体重でへんな方向へ曲がった。

「あ…が……」

うまく呼吸ができない。

 

「何度も……殺しすぎですよ。痛みだって……感じるんですよ」

向こうも息が絶え絶えだ。

だけれど、起き上がろうとして、支えにした左腕が引きちぎれた。それを皮切りになぜか体にいくつもの傷が生み出される。

腕が破損し脚が引きちぎれ体に穴が生まれる。

それらが今度は私の体を紅く染め上げる。

 

「貴女が過去に負った傷を再現しました。全く…一日かかるなんて思っても見なかったです。あと数秒遅ければこちらの精神がおかしくなるところでしたよ」

ボロボロになった死神が肩で息をしながら勝ち誇った笑みを浮かべる。

「では……させてあげましょうか……」

まだ負けてはいない。靈夜さんに意識がいかないようにするだけでも……

「そんな状態で出来るの?」

一蹴ですか。全く…死神は規格外すぎますよ。

「……」

分かっている。サードアイは彼女に吹き飛ばされた時に潰されているのだ。

しばらく心をのぞいたりすることはできない。というよりこれ回復するのだろうか……

「ご安心を。しっかり傷は修復させていただきますから。全て終わった後で…」

少しづつ向こうも回復してきたらしい。それでもまだ本調子というわけではなさそうですけれど。目もすわっていますし。

「貴女はもう動けない。諦めなさい」

 

 

「誰が諦めるって?」

聞き慣れた声がして、死神が後ろに吹き飛ぶ。黒色の地面を跳ね、その姿が転がる。

「靈夜さん!」

黒い髪がなびき、こびりついた血で黒くなってしまった巫女服が追従していく。

「時間稼ぎありがと」

そう一言言い、靈夜さんは飛び出した。決着をつける気だろう。

「ではここからは貴女との勝負となりますね」

 

「そうね……」

靈夜さんが何かを言っていたがそれすら聞こえなくなる。黒い床に倒れた体から熱が奪われる。まずい…このままだと意識が……

 

ダメです……意識が持っていかれる……

 

 

 

 

 

 

「……!」

 

強引に意識を叩き起こす。体に感じるのは無機質な感触などではなく、しっかりとした地面の温もり。

そして私の隣で誰かが動く音。

まさか……

嫌な予感がする。

ボロボロの体を無理に動かし頭をあげる。側で動いているのは…

 

目の前には動かなくなった靈夜さんと……なにかを施していた死神の姿だった。

 

「回収、完了しました」

私が目を覚ましたことに気づいたのか彼女は私の側に顔を近づけた。

「……」

結局、靈夜さんの負けだったのですね。

私が稼いだ時間では完全に回復するのは無理でしたか……

「悪く思わないでください。これもまた生きるということです」

 

そんなこと分かっている。だけれど、理屈でわかっていてもそれを受け入れることができないのがヒトなんですよ……

それでも私は受け入れなければならない。私と靈夜さんの結果がこれだったのだ。受け入れなければいけないのだ。

 

いつのまにか死神は消えていた。

「靈夜さんのばか……」

一言言ってくれれば良かったのに……

 

 




ということがありました。
もちろんまだ落ちますヨ。
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