『蝶のように飛躍する』
「……霊夢」
私の裸を見るのは良いのですが…あまりジロジロみられましてもねえと現実逃避を始める。
「やっぱりあんたが……」
でもやっぱり現実逃避をしている場合ではないようだ。私の肩に触れた手が大きく震えている。
体の向きを変えて向き直ろうとした瞬間、視界の端に茶色い何かが動いているのが見えた。
咄嗟に体を捻ってステップを踏み後ろに飛びのく。やや遅れて、強い霊力と対妖怪用の術式を纏ったお祓い棒が私のいたところに振り下ろされた。
「何をするんですか!」
奇襲攻撃。いや…今のは怒りに任せての攻撃だろう。
その証拠に呼吸が乱れすぎている。
「黙れ!おばさんを殺したのもあんたでしょ‼︎」
そう怒鳴って霊夢が突っ込んでくる。それを咄嗟の蹴り上げで止める。流石に自ら突っ込むほど愚かなことはしないらしい。しかし怒鳴っていた内容はなんなのだ?どうして私が靈夜さんを…
「それはどういう……」
そこまで言葉にしかけて、その答えを察することができた。
「なるほど…紫ですか…」
こういうことだったのですね。心が不安定な時に私のことを吹き込み対峙させる。効果的ではありますね。最低の方法ですけれど……
ですが彼女の持つ中途半端な甘さを消し去るにはこれしか方法がないのも事実だ。なら、せっかく紫が用意してくれた舞台だ。派手に道化を演じるとしましょうか。
「あの人もどうしてバラしてしまうのでしょうかねえ折角…」
最後まで騙し通せると思ったのに
ふと頬に手を当ててみれば自身が笑っているのが分かった。まさか私が笑っているのだろうか……霊夢のせいで乱れた服を整える。ただし、妖怪であることを隠す必要はなくなって今、サードアイは展開した状態にする。
「今までずっと……騙してきていたのね」
私を見つめる霊夢の視線が痛い。
でも迷っているようね…いくら妖怪でも育ての親。その思い出がどうしても足枷になってしまっている。
「ええ、ずっとそうでしたよ。靈夜さんは気づいていたようですけれど」
だから発破をかける。最低な方法だということは自覚しているだからこそ効果がある。
「しかし…呆気なかったですね貴女も死にたくなかったら帰りなさい」
瞬間、私のすぐ側を弾幕が通過する。擦れた髪の毛が数本宙を舞い、弾幕の光を浴びて輝く。
「嫌よ!私はあんたを許さない!絶対にこの手で倒す!」
動揺しているのか或いは信じたくないのか……あの攻撃は私に当てることができたはずだ。だけれどそれをしなかった。いや…出来なかったようね。
「熱意だけじゃ倒せませんよ」
こちらも全力でいかせてもらう。出し惜しみはない。
腰から引き抜いた大型拳銃を霊夢に向けて撃ち出す。もちろん急所狙い。
「グッ…なめるな!」
咄嗟に二重結界を張り全ての弾丸を弾き飛ばす。だけれど大口径拳銃弾のいくつかは結界だけでは威力を減衰出来ず突破する。惜しくも軌道が狂わされてしまったのでどこにも命中はしなかったけれど。
「ほらほらどうしたのですか?」
右手で構えた拳銃のスライドが上がりきる。素早くマガジンを交換する。その一瞬の隙を突こうと駆け出した霊夢。だけれどこちらの方が早い。
とは言っても私が持っているのは拳銃一丁分予備弾含めて20発。先程一マガジン使ったので残りは10発だ。
無駄に撃てる弾がないのを悟られないように確実に当てられるところで弾丸を放つ。だけれど勘なのか才能なのか咄嗟の行動で全て避けられる。
結局一発も当てることが出来ずマガジンの半分の弾を撃ち尽くしてしまう。死神相手に浪費しすぎましたね……飛んだ置き土産だ。
「ハっ、弾切れってわけ……」
でも体力を削るくらいには役に立ってくれたようです。
まあこちらも駆けたりして撃っていたのだから似たようなものですけれど。
「そんなわけないじゃないですか」
とは言ったものの、このままではラチがあかない。
となれば……こちらから突っ込む!
「…‼︎」
鬼の馬鹿力を想起。踏み込みだけで霊夢の懐に潜り込む。
拳銃をお腹に叩き込む。
あ、やっぱり痛いらしい。そりゃお腹ですから痛いでしょうね。追撃……
しかし霊夢も黙ってはいない。片足で私を蹴り飛ばそうとしてくる。それを膝でぶつけて止めれば今度はお祓い棒が振るわれ拳銃を押し戻される。少し軸を捻れば体の外側に力が分散し、流れていく。
すぐに左手を使って攻撃を続行しようとするがそれを待ち構えていたらしい。僅かに開いた左脇にフェイントを入れてきた。
あ…肋骨が折れた。
でも痛みは感じない。
フェイントを入れた霊夢の腕を掴みその場でひねる。霊夢の体が地面から離れ、腕につられて回転。そのまま地面にはたき落とそうとして、逆回転をかけられ着地された。
「……っち!」
もう一度拳銃を向けようとして今度もお祓い棒で払われる。引き金が引かれ弾があらぬ方向に流れる。
反動で跳ね上がった所に霊夢の追撃が飛ぶ。一閃。お祓い棒が宙を切り、やや遅れて拳銃が真っ二つに割れた。
咄嗟に拳銃を投棄。服の袖からスペルカードを引き出し後退する。
「想起『夜叉の舞』」
後ろに引いたとはいえスペルの効果範囲を考えればほぼ至近だ。
霊夢が攻撃で対処する時間はない。となれば残る選択肢は…スペルの範囲から逃れる為に空へ飛び出す。
黒色と赤色の服が空中へ飛び上がるのが見えた。
それを追いかけるいくつもの光弾。それに続いて私も飛び出す。
上昇……パワーダイブ。
光弾と霊夢の体がすれ違い、目標を見失った弾幕が一斉に接触、爆発する。
弾幕の後ろにいた私のすぐ側を霊夢が下に通過する。振り返った霊夢が降下するのをやめ、私にお札を投げつける。七色の光を放ついくつものお札が私を追いかける。このまま逃げても追いつかれるだけ。ならば…撃ち返す。
高速で移動しながらスピン。体が後ろを向いた瞬間に前進後進を切り替えお札と対峙する。生成するのは無誘導レーザー。
発射。
迫ってきていたお札全てが空中で爆散。それを確認し体を再び前に向けてループする。
霊夢はさらにお札を展開して追ってきていたらしい。すぐ真後ろにいた。
急旋回を繰り返すけれど離れてくれない。さすが霊夢です。感心している場合ではないけれどつい感心してしまう。
速度を上げて左右に揺れる。それでも霊夢の方が速いようだ。真後ろに付けられた。いつ攻撃が来てもおかしくない。
近づいているお札を回避するために左右に旋回を繰り返す。霊夢のラインが重なり、二重螺旋の航跡が生まれる。
私が近づいたのを感知したのか左右でお札が誘爆。爆風で体が煽られる。そこに霊夢がダイブで飛び込んでくる。それを障壁を張って守る。金属が擦れるのよりも甲高い音が響き、お祓い棒と障壁の合間で火花のように紫色の電流のようなものが飛び散る。
突破は無理だとわかった霊夢が一旦下に逃れる。
僅か数秒。だけれどこちらとしては数分にも感じられるようなものだった。
下を見れば再度上昇してくる霊夢の姿。さらに私の後ろにはお札がいくつも飛んでいる。
やりますか。……体を思いっきりひねり進行方向に対して真横を向く。空気の抵抗を使いお札をオーバーシュート。
素早く真上に跳ね上がる。
「何よその動き!」
足場のない空中であたかも足場があるようなそんな動きに見えただろう。
足元で生み出される白い帯が幾何学模様を生み出している。
お札を避け続け強引に体を空中で蹴り進める。負担が大きいからかさっきから視界が真っ赤に染まっている。普通の人間なら確実に気絶しているだろう。
そうやって体に無茶をさせて素早く、そして行動が読めないような変則的機動を行い追従しきれない霊夢の真後ろに体を持っていく。
「しまっ…」
詰めが甘いですよ。慌ててこちらに振り向こうとした無防備な背中に蹴りを叩き込む。
悲鳴をあげながら霊夢は地面に叩きつけられたらしい。落ちたであろうところに私も降り立つ。
「うぐ…この化け物!」
「褒め言葉をどうも」
地面に叩きつけられるのは結界によって防いだらしい。だけれど背中に入れた蹴りが効いたのか未だ立ち上がる様子はない。
「やるなら本気で来てくださいよ。ほら仇なんでしょう?」
「うる……さいわ!」
袖口から素早く取り出されたお札が私に向けて放たれる。もちろんサードアイでその行動は予測済みだ。バク転をして回避する。
殺したいほど憎んでいると言っていたのに…随分と迷っているようですね。
家族を手にかけることに抵抗がある?何を今更……
私だってこんなことはしたくないんですよ。
「そんな迷ったままでは誰も守れませんし、誰も救うことはできませんよ。さて、巫女候補が死んだら私は次にどうするでしょうか。ヒントは人里」
「ま、まさか!」
これで少しはやる気になってくれました?さあ倒すのですよ。私を…
流石にまずいと感じたのか霊夢は立ち上がって私に向き直る。
生半可な攻撃じゃ私には通用しない。それはさっきまでので十分理解したはずだ。となれば、残る手は限られてくる。
覚りの弱点を突くか、切り札を切るか。
心を読めばどうやらそれで悩んでいるようだ。まあそうでしょうね。
……彼女の切り札はまだ不安定。
それ故に彼女はまだ夢想封印を使ったことがない。一応教えてはあるけれど実践どころか実際に使わせたことすらないのだ。
それ以外にもいくつか持ってきているようですけれどそれらだって撃ち出すまでに時間がかかったりするから使用するときは考えないといけないものが多い。
だけれど私たち妖怪を確実に仕留めることができるものばかりだ。なりふり構っていられなくなれば撃つだろう。
撃ってくれなければ困ります。
体を少しだけ浮かして距離を取る。いつまでも待ったりはしない。これが最後の忠告だ。霊夢もそれに気づきついに袖の奥から1枚のお札を引き出した。
「いいわ…やってあげる……私は博麗の巫女として!あんたを退治する!」
黒色の……靈夜さんの巫女服にいくつもの幾何学模様が走る。文字のようなもの、完全に線と円の組み合わせのようなもの。それらが赤色に浮かび上がり、霊夢が手に持つお札と反応する。
そういえばあの服は一部の攻撃を行う際にそれを補助する術が組み込まれていましたね。
浮かせていた体を真後ろに飛ばし距離を取る。そうでもしないとアレは…対処できない。
「夢想封印!」
その言葉と共に、七色の光弾が霊夢の真後ろに生成された。
それらが変則的な軌道を描きこちらに飛んできた。決して振り返らない。あの光は妖怪にとって毒性のあるものだ。あまり浴びていいものではない。
急上昇をし雲の中に入る。
空に駆け上がっても危険度が低くなるかといえばそういうことではない。
それでも低く垂れ込み始めた雲の中に飛び込めばある程度はましになる。そのかわり乱れた気流に流され体もビショビショになってしまう。そのかわり7つの光弾の内3つは私を見失ったからかどこかに飛んで行ってしまった。雲を突き抜けたところでパワーダイブ。
それでも振り切ることはできない。さすが対妖怪用の特殊弾幕だ。
それに…
「なかなかやりますね」
咄嗟に目の前に障壁を展開。そこに霊夢が突っ込んできて、お祓い棒が火を噴く。
「っち…デタラメね」
後ろから夢想封印。前には霊夢。ジリ貧ですね。
だから……
「少し手を抜いていますね?」
「そんなことはっ……」
「殺す気で来なければ私は倒せませんよ」
心で思っていることを少しだけ突いて見れば、明らかに動揺した。自身で作った障壁を蹴り、霊夢を弾き飛ばす。
そのまま急降下を行い森の中に飛び込む。流石に光弾も木々をなぎ倒しながら進むことはできないらしく。全弾が誘爆していった。
それを確認し森から抜ける。木々の合間を通り抜けたからかいたるところに切り傷ができていた。切り傷程度なら治ってしまうのですけれど。
「はああああ‼︎」
え……?
気がつけば真上から霊夢が飛び込んできていた。もう距離が近すぎる。
森から飛び出してきたところを真上から⁈予測…いや、勘で行動した結果だろう。
反応できない。いや……しない。
お祓い棒が私のお腹に沈み、肉が引き裂け衝撃が背中から抜ける。
形勢逆転…まあそんなところだろうか。
ただ…それでやられるほど私は甘くない。飛び込んだ霊夢を蹴り飛ばし体を離れさせる。
反動で地面に叩きつけられた。痛くはないけれど呼吸が一瞬できなくなった。
素早く霊夢に視線を向ければ、そこには予備のお札を構えた霊夢がいた。霊力的には夢想封印は2回分。基本は一回で終わるのでもう一回は予備だ。それをここで切るのね。
「今度は外さない!霊符『夢想封印』‼︎」
なんだかんだ言って霊夢は強くなっているようですね
解き放たれた光弾が地面を抉り取り、その場に深い溝を生み出した。
爆煙が収まったその場所は嫌なほど静かだった。誰の声も聞こえない。
唯一するのは私の息遣いだけ。
今のでだいぶ体力を消耗した…霊力も底を尽きたのかもう飛ぶことすらできない。
「あは……あはは…」
何もなくなった。私は……靈夜さんの仇をとった。そして……
「うわあああああ‼︎」
ああ……妖怪なんて大嫌いだ。