古明地さとりは覚り妖怪である   作:鹿尾菜

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第6部異変
depth.143紅霧異変上


いつも通りの朝。多少湿度が高い以外は特に問題はなさそうな…ふつうに考えれば日常が始まるような感じに異変は発生していた。

窓を開けてみれば、あたり一面に紅い霧が立ち込めていた。

数百メートル先までは見渡せるがそれ以上遠くとなるとどうにも霧の濃度の関係か紅く染め上げられてしまい見通すことができない。

「……異変ね」

 

先ずはやることをやらないといけない。

まだこいし達は寝ているので起こさないようにそっと家の中を移動する。いつもの扉を抜けて地霊殿に入ってみれば、早速窓から外の様子を確かめる。

 

地底であるここはどうやら霧の影響は受けていないらしい。だがそれ故に地上で起こっている事態の把握がいまいちできないのが困ったところだ。

毒性があったりする霧というわけではないので注意喚起くらいで十分だろう。

 

 

色々と考えながらも地底の入り口になっている門のところまで飛ぶ。何気に用意に手間取ってしまいここに来るまでに2時間以上かかった。

それゆえか既に門の周辺では多少の混乱が発生しているようだ。

 

「ヤマメさん、キスメさん」

 

「あ、さとりさん」

門の管理をしている2人の名前を呼ぶと、門の向こう側から2人がやってきた。

困っているというかどうすれば良いのか分からない状態だったようだ。

「さとりさん奥すごい紅い霧だよ」

ヤマメさんがキスメさんの入った桶を引っ張りながら伝える。

どうやら縦穴の方まで霧が充満しているらしい。

「毒性はないただの紅い霧のようですから通行自体は問題ありません。ですが濃霧注意の看板を立てておいたほうがよさそうです」

 

まだ朝早い時間だからこれで済むものの、昼間やここの通行が最も多くなる時だったらかなり大変なことになっていただろう。

結構出入りあるんですからね。地上と地底って……

「看板に使う板ならあっちにあるよ。持ってくるね」

 

「いつまでも振り回さないでええ!」

キスメさんを桶ごと抱えて駆け出すヤマメさん。というよりなぜか腕から糸を出して移動している。どこの蜘蛛男ですか?いや教えたの私ですけれど……

ああ…キスメさんドンマイです。乗っている方は酔いそうな飛び方……

 

数分ほどすれば、目を回したキスメさんをやはり抱えた状態で帰ってきた。ご丁寧に板まで持ってきたようだ。

とりあえず持ってきた筆と墨で濃霧注意を書き出す。

「縦穴の霧って酷いんですか?さっき地上で見た感じは数百メートルほどの視界は確保できていたのですが……」

 

「えーー!全然真っ赤だよ。数メートル先も見れない程度だよ!」

 

あら…霧が縦穴に溜まってしまっているのですね。

「今回はただの紅霧だからそこまで深刻じゃないけれど、もし激しい戦闘とかがあってその余波が来るようだったら迷わず閉じなさい」

 

「わかっているよう。それ以外だったらどうすれば良いんだっけ?」

あーそういえば言っていませんでしたね。確か……

「一度も使ったことないですが…門の左右についている赤いランプが点灯したら閉じてください」

そう言って指差す方向には19世紀の鉱山にありそうな丸くて平べったいランプがくくりつけられていた。

「了解。だけど音とかも出してほしいよねえ…これだけじゃどうも見落としかねないよ」

 

確かにそうですよね。

「今度サイレンも設置しましょう」

例のごとく河童に頼む。

だってこういうのは河童の得意分野ですし……その道のプロに頼めばエラーやバグも起こる確率が低くなります。

 

「よろしくね。あ、さとりさんこの後空いている?折角だしご飯一緒に食べたいんだけれど」

 

「ごめんなさい。この後地上に戻らないといけないの」

 

あちゃーと項垂れるヤマメさん。仕方がないですよ今は異変の真っ只中。イベントですよ!イベント!見に行かないと損じゃないですか。

まあ霊夢さん達異変解決組に悟られないように隠れていないといけないのですけれど……

 

ヤマメさん達と別れて門を使い縦穴に出る。ヤマメさんの言った通り地上と直結しているためかものすごい霧だ。

この様子では地底空間も真っ赤になってしまっているだろう。日が差さない状態が続くと植物にとってはあまり良くない。

壁に設置された確認灯の灯りすら紅い霧に隠れて殆ど視認できない。

 

壁伝いにゆっくりと登っていく。正直エレベーターの方が早い方がする。もういいや……

 

 

 

結局時間がかかるにかかってしまい地上に出た頃には既に太陽が真上に昇ったであろう時間だった。真っ赤な霧でその太陽すら隠れてしまっているけれど。

これでは洗濯物も乾かせませんね。困りました…

 

早めに解決してくれることを祈りたいです。

 

こんな霧では流石に天狗の哨戒も穴が空きやすくなっているのか構っている暇がないのか山を降りるまでずっと誰にも会わなかった。普段なら白狼天狗に会えるから頭撫でたり適当に戯れられるのですけれど……

 

まあそんな事は非日常の中では些細な変化でしかなく、家に戻ってみればなにやらどったんばったん大騒ぎのようです。普段はもっと静かなのですけれど…

「ただいま」

玄関から直接入るのは少し抵抗があったので二階の窓…こいしがちょうどいた部屋に顔を出す。

「お姉ちゃんどこ行っていたの⁈」

 

あら私を探していたの?

 

「ちょっと地底に注意喚起をしに」

 

「言ってよ!」

こいしのチョップが頭に飛んできた。反射的に白刃取りをする。

「ごめんなさいね。早めに戻ってくるはずだったのだけれど」

思いの外時間がかかったわ。いやあ…縦穴の霧濃すぎですよ。

 

「もう……」

 

「それよりお空達は?」

 

「今人里とか森の方とかの様子を見に行っているよ」

なるほど…確かにここまで紅い霧ではどこで混乱が起こるかわからない。直接的な被害がない異常な霧である故の弊害ね。

 

「一応これはレミリア達が起こした異変よ」

 

「え?もしかしてこれが紫の言っていた異変?」

 

なるべく混乱が起きないようにということだろうか。私の元に数日前に藍さんがやってきて異変が起こるということを言っていた。

まあ考えればわかることですけれど……

「終わるまで家で大人しくしていましょうか」

 

「じゃあ私、異変見学してくる!」

なぜ今言った事と真逆の事を言いだすのよ。

「こいし……?」

 

「折角の異変なんだしいいじゃん!」

 

まあ、異変側にも解決側にもバレないような隠密行動が取れると言うのならそれで良いけれど…

「まあ、行きたいなら行ってらっしゃい。私は行けないから」

 

「うん!帰ってきたら色々と教えてあげる!」

そう言うとこいしは近くに置いてあった魔導書を何冊か引き出して用意をし始めた。

「あら、もう準備していたの?少し用意が早すぎるんじゃないかしら」

 

「お姉ちゃんを探しに行こうと思ってさ」

 

「お空達もそのために?」

 

「そうだよ」

 

あら…悪いことしてしまいましたね。

でも異変見学と思えば問題はないかなあ…勢い余って異変に首突っ込まないで欲しいのですけれど…特にお空は。

 

 

「あ、お空帰ってきた!」

こいしの声につられて窓をのぞいてみると、霧の向こうから一羽の烏が舞い降りた。

「あ!さとり様戻ってきている!」

窓から飛び込んだその烏が人型に戻るなり私に飛びかかる。

「ごめんなさいねお空。心配かけちゃったみたいで」

 

「ほんとですよさとり様!」

 

「お空も戻ってきたことだし私は異変を見学してくるね!」

こいしが席を外そうとする。あ、ちょっとまって。これ持っていきなさい。

こいしに向かってお札を放り投げる。一応持っていきなさい。どんな効果があるかはわからないけれど秋姉妹が持ってきたものだからそれなりに効果は期待できるはずよ。多分…

「ありがと!お姉ちゃん!」

 

「行ってらっしゃい」

気をつけて…

 

 

 

 

えっと…確かレミリアさん達が異変を起こしているんだよね。

なら紅魔館かなあ。でも異変ってことは解決役がいるわけだしその人達についていけば良いかな?でも巫女怖そうだしやだなあ……

それに探し出すのもこの霧じゃ大変だし…

あ、そうだ先に紅魔館で待ってればいいんだ!

我ながらなんて発想!早速紅魔館に行かなきゃ!

 

って紅魔館の方向ってどっちだったっけ?

えっと……湖のある方向だからこっちかなあ…

 

しばらく地面とか木が見えるギリギリのところを飛んでいたら、ようやく湖に出た。

確か湖を回っていれば着くよね。少し前までは結界が張ってあって干渉できなかってけれど今はそれも外されているみたいだし。

 

あったあった!流石に正面から行っちゃダメだよね。だっていくら友達でも今異変やっている最中だから。

「えっと…こういう時は裏から入るんだっけ」

まずは気配を消して…なるべく表に近寄らないで裏側に回る。

うふふ…それじゃあ突撃、となりの異変!

 

 

 

「……これじゃあ洗濯物が乾かないじゃない」

 

誰よ朝っぱらからこんな霧を出した奴は!迷惑もいいところじゃないの。それに湿っぽくて肌にまとわりつく空気だからほんといや。

これは早めに解決しないといけないわね…

 

一通りの準備をして出ることにする。でも元凶はどこかしら…それがわからないままに無闇に動くのは得策とはいえないわ。

先ずは情報収集ね。

 

「おうい霊夢!私も異変解決に加勢するぜ!」

私が飛び出そうとしたところで不意に上から声をかけられた。見上げればそこには箒に乗った親友がいて、なぜか旋回していた。

「丁度いいところに来たわね。知っていること全部吐きなさい」

 

「おいおい、親友に対していきなりそれかよ」

親友だからよ。それにここまで飛んできたのなら何か変わったことがあったかもしれないじゃない。

「ほら何か言う」

 

「なんも知らないぜ」

……嘘ではなさそうね。無駄な時間だったわ。

 

「魔理沙、手伝ってくれるのはいいけれどスペルはあるの?」

 

「勿論!ちゃんと用意しているぜ!」

準備がいいわね。まあ自分の身くらい自分で守れるわよね。

それじゃあ行くわよ。こんな異変を起こす阿呆をさっさと倒して洗濯物を乾かさないと…

 

「ところであてはあるのか?」

 

「そんなもの勘でどうにかなるわよ」

 

文句があるなら自分で調べてらっしゃい。私はここで待っているから。

「んーまあ霊夢の勘は当たるからなあ…探す手間も省けるし私はついていくぜ」

 

「なんか金魚の糞ね」

 

「失礼な!普通の魔法使いだぜ!」

 

「じゃあ魔法使いらしく手伝ってくれるかしら」

 

「分かってるって」

 

それじゃあ行きますか。

この弾幕ごっこ(取り決め)からはじめての異変解決を。

 

 

 

 

 

 

「んー」

紅い霧で視界が悪いからか出歩く人が少ない。その余波をもろに食らった人喰いの常闇妖怪は寝ることにしたらしい。木の上に体を乗せて目を瞑っていれば大体寝ることができるのは羨ましい体質である。

 

ミシッ……

 

古くなったリボンが、霧の湿気で物理的に解けかかる。それに乗じて結界がダメージを受ける。すでに数百年以上もの間それを留め続けたそのリボンはとっくに耐久年数を通り越しているのだ。

「うあー」

そんなことは露知らずの金髪少女は、木の上で寝返りを打った。押し付けられた頭と木の合間でリボンの繊維が引きちぎれ、宙に舞う。数十年前ならこの程度ではビクともしなかったリボンは、これがトドメになってしまうほど劣化しきっていた。

引きちぎれるリボンが頭からはらりと外れる。留め具を失った金髪が力なく木の上に垂れ下がる。

リボンが千切れたことにより施された封印用の術式は、ついに寿命を迎えた。

ほつれる結界。わずかに走った綻びがやがて全体に広がる。やがてそれらはガラスが割れるような音をして砕け散った。

 

「あー……そうなのか…」

封印が解けた音で目を覚ました少女の頭に、封印されていたものが流れ込む。

体を起こした女性は全てを理解した。それと同時に体が本能的に食を欲する。

 

「……お腹空いたなあ…」

 

黒い闇がまるで生き物のようにその場に集まり、その女性を飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

こんなに霧が深くてはチルノちゃんと遊べない。

それに妖精の姿もなんだか少ない。今日に限ってみんな出てこないんだね…

残念だなあ…折角楽しそうな人達が来ているのに…でもいいや。弾幕ごっこは私得意じゃないから。

チルノちゃんは弾幕ごっこの才能でもあったのかな。妖精の中じゃ負け知らずだし。今のところ……

 

 

「ちょっとあんた」

 

えっと…紅白さんと白黒さん?霧だから近づいているのに気づくのが遅れました。

「私ですか?」

 

「他に誰がいるのよ」

 

「はて、ここら辺は妖精がいっぱいいますからね。あんたと言われても分かりませんよ」

 

「あっそう。じゃあ退治するわ」

かなり気が早い人ですねえ…人間もここまで凶暴になったのですか。

弾幕ごっこは…少し不得意ですが多少慣れておくためにもやってみましょう。

 

 

 

 

 

 

私が構えをとったところで紅白の方もお札のようなものを引っ張り出した。本能的に感じる。あれはかなりやばい。

練習になるだろうか?

だけれどその紅白の方がこちらに攻めてくることはなかった。

彼女の前に出たのは白黒の方。箒に乗っているので魔女とでも仮名で入れておきます。

「霊夢、ここは私に任せて欲しいんだぜ」

 

「あら、戦ってくれるの?」

紅白さんは霊夢と言うんですね。ということはもしかして博麗の巫女?喧嘩売る相手間違えました。でも私の中に溢れでるこの感情が、さらに膨れ上がる。自身より強い相手と戦いたい死闘を繰り広げたいと言う闘争本能。

「後のことを考えて温存しておけってことだぜ」

 

あら優しいこと……

ですが巫女と戦おうと思っていたのになんだか肩透かしです。

でも油断はできない。巫女と一緒ということはそれだけで相当の実力者のはずだ。

「私は霧雨魔理沙だぜ」

 

「戦う前に名乗った方がよろしいですか?」

 

「できればそうして欲しいぜ」

そうですか。名乗る名前があるわけではありませんけれど一応名乗りましょう。

「大妖精と申します」

名乗った瞬間、それじゃあ行くぜと魔理沙さんから大量の弾幕が放たれた。

 

後方に跳びのき弾幕の雨を回避する。

だけれどそれだけでは終わりそうにない。

咄嗟に体を捻って追加の弾幕を回避。お返しに花形に展開した弾幕を空中に投下する。

次々に星屑のような魔弾が花形弾幕に命中し弾ける。

そこから飛び出すのは小型の妖弾。

魔理沙さんの弾幕と私の弾幕が次々に交差し、空中にいくつもの光のライトを生み出す。早速収拾がつかなくなってくる。その弾幕が私の放ったものなのかどれが魔理沙さんが放ったものなのか。それすら判別できない。

ロールをしつつ魔理沙さんの側を高速で通過。ついでにと妖弾を置いて動きを封じ込める。

 

そういえばスペルカード使っても良いんでしたっけ?

「えっと…フェアリーズミスチーフ?」

チルノちゃんに作ってもらったスペルだから名前がよくわからない。えっと…発音これでいいんだよね?

スペルカードが発動したのか急に眩しく光り出した。

そしてカードより放たれる大量の誘導弾幕と空間を埋めようとしているかのような妖弾。

「そんなもの当たらないぜ!」

そう言って魔理沙さんは弾幕の嵐の中を飛び回る。複雑な弾幕の中を掠りもせずに回避しますか…

ですが回避に専念しすぎです。

魔理沙さんが出てくるであろうところまで先回り。

 

「おわっ⁈」

弾幕の壁から飛び出してきたところを斬りつけたのですが、障壁のようなもので阻まれました。

「危ないだろ!なんで刃物なんだよ!」

 

「だって普段の戦闘こんな感じですし」

文句を言われる筋合いはない。だけれど障壁を張られてしまっては攻撃は通用しない。

魔理沙さんから距離を取ろうとする。そこに背後からいくつもの星屑が飛んできた。背中に走るピリピリとした痺れのような感覚。体を捻り急降下。ある程度下がったところで急制動を行い体の向きを反転させる。左右を魔弾が通り抜けていった。

「やろう!妖精のくせに全然当たらねえ!」

 

「弾頭の予測がつきやすいからよ。幾ら何でも妖精相手に手加減しすぎ!」

下で巫女さんが叫んでいる。大人しく見守ってくれているあたり魔理沙さんに全部任せているようですね。それほどまでに信頼できる相手なのでしょう。

というよりこれは弾幕が単純だから予測が楽なんですよね。

「あのなあ!弾幕はパワーだぜ!」

 

そう言うなり魔理沙さんは懐から何かを引き出した。遠目には八角系の…魔法道具でしょうか?

あれは危ない……本能がそう叫んでいる。

 

だから向こうが攻撃を行う前に、スペルカードを切った。

「ラストスペル……」

2枚しかない虎の子…そしてこれを回避されたら判定負けとなる。

 

 

 

 

 

……参ったわね。魔理沙じゃあれは荷が重いわ。妖精だからと油断していたところもあるけれど、それよりも相性の悪さがここまで深刻だったなんてね。

パワー重視の弾幕ではあの妖精と相性が悪い。やはり私が出るべきだったかしら?一応見切れているし。タイミングさえ合わせれば勝つのは難しくない。それにスペルカードもなんだか荒削りで完成しているとは言いがたい。あれでは魔理沙も楽々回避できてしまう。ただ、あの妖精は回避を主体に置くタイプ。下手をすればこちらがスペルブレイクされかねない。

まあ、今回は負けることはないから大丈夫なのだけど。

「あちゃ…スペルブレイクです」

空中に浮いていた弾幕の半分が消失した。耐久スペルが終わった証拠ね。

「それならっ!」

妖精の動きが一瞬止まった。その瞬間を逃すほど魔理沙はあまくない。

「やはり慣れないことはするべきではありませんね」

 

「恋符『マスタースパーク』!」

ミニ八卦炉から極太のレーザー砲が放たれた。巨大な光の棒がまっすぐ最短距離で妖精を飲み込もうと迫る。回避しようとする様子は見られない。

勝負あったわね。

けれど、マスタースパークが妖精を吹き飛ばすことはなかった。命中直前、妖精の姿が視界から消えた。空気中に残るブレをマスタースパークが捻り潰し、減衰することのなかったエネルギーが地面をえぐる。

「なっ!消えただと⁈」

 

「テレポートね。逃げられたわ」

不意打ちの可能性もあるけれどその様子は見られない。

「くそう…次にあったら覚えとけよ!」

なんだか不完全燃焼ね。

「一応判定では向こうの負けよ」

スペル全てを使い切ってしまったようだし。

それにあのまま戦えば向こうは確実に負けていた。引き際としてはちょうどよかったのかもしれない。

「それにしても視界が悪くちゃなんだかやってられないぜ」

魔理沙がぼやく。確かにそれは私も思っていたことだ。

「そうね。数メートル分の視界じゃ弾幕を当てるのも回避するのも難しいわ」

弾幕や風で晴れてくれるほどこの霧は都合が良いものではない。

「悪趣味な霧だぜ。スペルの綺麗さだってこれじゃあ見えないじゃないか」

 

「あんたは綺麗のきの字すらないでしょ」

魔理沙のスペルは見た目の美しさなんて二の次でしょ。私のアレも大概だけれど。

「辛辣だぜ!弾幕はパワーなんだぜ?最後のあれだって本当は当てていたんだからな」

なにそんなムキになってるのよ。あんたが強いのは私が一番知っているわよ。

「まあそうよね」

こんな巨大なクレーター作るくらいですもの。当たれば一撃必殺。当たればね……

そういえばあの妖精の動きどこかでみたことあるような…どこだったかしら?

 

「とりあえずあれは元凶ってわけでもなさそうだな。他を探すか」

 

そう言い飛び上がろうとする魔理沙。

 

ミツケタ

 

「っ⁈」

本能が警告を放った。考えるより先に手が動き魔理沙の首根っこを掴んで後ろに飛び退いた。

暗闇がすぐそばを通過していく。

「あら…食べられなかった」

暗闇から声が聞こえる。咄嗟にお札を投げつけるが、当たらなかったのか効果がないのか反応はなかった。だけれどその闇の塊が蠢いたのは確かだ。

「いきなりなんだぜ!」

魔理沙落ち着きなさい!無理にあれを刺激してはダメよ。

「貴方達は食べてもいい人間?」

暗闇が触手のように変化し、襲いかかってきた。咄嗟に体をずらして回避する。

「おわっ⁈いきなり攻撃は反則だろ!」

魔理沙も箒に乗って回避したようだ。触手状の闇が拡散して消え去る。

反撃と言わんばかりに魔理沙がマスタースパークを撃とうとする。

 

「待ちなさい魔理沙!様子がおかしいわ」

動きを止めた魔理沙を引っ張ると、真上から弾幕が落ちてきた。その攻撃と重なるようにすぐ真横を黒い闇が通り抜けた。真上からの攻撃?どうしてそんなところから…

だけれど一つわかったことがある。側を通過したその影は明らかな殺意のもと放たれたもの……弾幕ごっこ無視というわけだ。それなら手加減はしない。

 

「生憎私はお腹が空いているの。弾幕ごっこだかなんだか知らないけれど…まずは腹のたしになってちょうだい」

闇が再び話し出した。一応意思疎通は出来るようだけれど全く会話になりそうにないわね。

それに弾幕ごっこをやる気はないらしい。

「ふざけたこと抜かしてるんじゃないわよ。あんたなんかに食べられてたまるものですか」

 

お札と針を闇の中に投げつける。

まとわりついている闇はあくまでも闇。本体は中のはずだ。ただその本体がどこにあるのかはわからない。

「私を忘れちゃ困るぜ!」

 

魔理沙が前に飛び出す。箒の後方に取り付けたミニ八卦炉が鮮やかな緑色の光を放ち箒を加速させている。

それに続いて私も前に出る。

魔理沙が指を鳴らすと同時に空中にいくつもの星屑魔弾が展開される。

それらが一斉に闇に向かって飛び込む。

闇と接触した魔弾から炸裂し、いくつもの爆発が空中で発生する。

その爆発に隠れるようにして接近、近距離から誘導能力のついたお札を解き放つ。

 

ようやく闇の塊が動いた。随分と変則的な動きだ。

 

あれでは折角の誘導弾も意味をなさない。

1人ならね。

「ほらよっと!」

 

弾幕から逃れようと動く闇の動きに合わせて魔理沙が弾幕を展開。罠にしっかりハマったようね。目の前の弾幕の壁によって動きが止まった。

「魔符『スターダストレヴァリエ』だぜ!」

 

すかさず魔理沙がスペルを切った。当たれば確実に大ダメージのはずだ。

「煩いなあ…月符『ムーンライトレイ』」

 

魔理沙のスペルカードを臆することなく闇と弾幕ではじき返した?なかなか器用なやつね…

 

「おわっ⁈」

あら、それだけじゃないみたいね。

二本のレーザーが魔理沙の前後を挟んだ。間髪入れずそれが閉じる。咄嗟に真上に上昇して避けることができたみたいだ。

しかしレーザーなんて一体どこから…ああ、闇を遠隔操作しているわけね。

「そこの巫女は…美味しくなさそう」

 

「なんだか失礼な言い方ね。まあ食べられる筋合いはないけれど」

 

「じゃあ勝手に食べる」

魔理沙はまだ上。援護はあそこからじゃ無理ね。

 

私に向かって突っ込んできたその闇をお祓い棒が受け止める。どうやらこの闇は実体があるみたいね。なら……

「ていっ‼︎」

回し蹴り。柔らかいなにかを蹴った時のような感触がして闇の塊が横に吹き飛んだ。

だけれど痛がっている様子はない。さすが妖怪ね。

 

素早く接近してくる。魔理沙が弾幕を浴びせるけれど闇に吸い込まれて無力化されてしまう。いや…通り抜けている?

やっぱりあの闇は本体じゃないようね。

 

再び突っ込んでくるその闇をお祓い棒でもう一度止める。だけれど今度は私の腕を闇から突き出た誰かの腕が掴んだ。

「っ⁈」

 

「巫女といえど人間に変わりはない」

一瞬にして腕を持ち上げられてしまった。

なんて力…想定していたとは言えこれほどまでとは…

「霊夢!頭下げろ!」

 

魔理沙の声に反射的に頭を下げた。瞬間、私の頭の真上を魔弾が通り過ぎた。顔を上げれば、穴の空いた闇。その向こうに魔理沙が見えた。

「きゃっ!」

私の体が持ち上げられる。一瞬の浮遊感。

「ぐえっ!」

回転する視界が下半身にかかる強い痛みとともに終わりを告げた。

混乱の治まらない頭をフルに回して状況を確認する。

地面に叩きつけられた体と…なにかを跨いでいるような感触…

「お…重いぜ…」

 

「あ、ごめんなさい」

どうやら魔理沙の頭の上に乗ってしまっていたようだ。ってスカートの中に魔理沙の頭入っているんだけれど…

すぐに浮かび上がり闇の方を向く。

 

すぐに闇が閉じていく。

急所に当たったわけではないけれどダメージは入ったのね。

 

「まだやるの?」

 

「お腹すいたから…」

刹那、一陣の風が吹いた。

後方から飛んできた妖力弾が私達の合間を通り抜け、闇の中に吸いこまれた。

炸裂音。本体に当たったの?

今のは?いや、気にしている場合ではない。

「い、いったいなんなんだぜ?」

魔理沙が戻ってきた。

「う…力が入らない……」

何が起こったのかはよくわからないけれどあの妖力弾を受けてから様子がおかしい。なんだか苦しんでいるように見える。でもチャンスのようね。

「今だぜ!」

 

「分かっているわ!」

ミニ八卦炉を構えようとする魔理沙。だけれど見つからないのか慌て始めた。もういいや私だけでやろ…

 

「霊符『夢想封印』!」

私の初スペル。ここで使うのはなんだか惜しいけれど仕方がないわ。

放たれたスペルカードは、目の前の闇を吹き飛ばし、光に飲み込んだ。

大爆発と地響きで周囲が揺さぶられる。

「やったか!」

 

「そのようね」

光が収まってなおも出続けていた煙がようやく晴れると、人を食おうとしていた妖怪はその場に倒れ伏していた。

 

起き上がる気配はない。本当はとどめも刺しておきたいけれど今は異変解決が先だ。悔しいけれどあれを始末するのはまた今度にしよう。

 

 

 

 

 

 

「あーらら…生きているかい?」

あの巫女と魔法使いが飛んで行ったのを確認してあたいは木の陰から出た。

「なんとか…なのだー」

ああ、どうやら無事らしい。あの巫女のことだから殺す勢いで叩きのめすかと思ったけれどスペルカードを使ったから力が制御されたみたいだね。

「あたいが運んでやるから少し辛抱しな」

 

さとりは異変の元凶の元に行っているかなあと思ったけれどまさかルーミアに出くわすなんてね。どうやら封印も解けているようだしともかく家に運ぶことにしますか。

「そーなのかー」

 

体を荷車に乗せてやればそのままいびきをかいて寝始めた。

やれやれだねえ……

 

 

 

 

 

 

「珍しい拾い物ね」

帰ってくるなりさとりはあたいの荷車からルーミアを引き出した。

まるであたいが連れてくることがわかっていたかのように鮮やかかつ素早い動きだった。

だからお姫様抱っこをしているその姿に違和感が湧かなかった。いや…身長的に逆な気がするけれど…

「布団の用意はできているのかい?」

 

「ええ、確保しているわ」

なら大丈夫だね。あたいはちょっとご飯の用意をしてくるかねえ…確か生きのいいやつがいたはずだからさ。もちろん地底にいるけれどね。

「ならよかったよ。あたいは食事の準備をしてくる」

 

「わかったわ。でも後処理はちゃんとしてね。この前内臓が残っていたから」

 

あら…焼却処分に回そうとしていたのだけれど忘れていたねえ。あの後気づいて戻ったらもうなくなっていたから気づかなかったよ。

まあ、腐ってないはずだからまだましだと思うけれど…

それにルーミアなら全部食べちゃいそうだからねえ。骨以外。

急に居間の扉が開かれた。

「お燐お帰り!」

お、お空じゃないか。帰ってたのかい。

駆け寄ってきたお空の頭を撫でる。こうするとなんか気持ちよさそうにしてくれる。

「知らない人の匂いがする……」

効果音をつけるならガシッってところかな。そんな感じにお空があたいの腕を掴んだ。あの…そんな握りしめないで…

「知らないヒト?」

ジト目であたいを睨むお空に思わず縮み上がった。

「なんだか浮気中の夫婦の会話ね」

 

「わけわからない例えはやめてください」

なんだい浮気中の夫婦って…あたいらにその感覚は通じにくいよ。

「多分この子の匂いじゃないかな」

さとりが抱っこしているルーミアを指す。あたいにあらぬ疑いをかけられるのはごめんだ。特にお空は思い込みが激しいからなあ…

「……誰この子」

少し声のトーンが落ちた。なんだろう…怖い。なんでこんなに怒っているんだい。

「ルーミアよ」

さとりがあたいの代わりに応える。

「ルーミア?」

 

「ええ、常闇の妖怪で長い付き合いなの」

確かに長い付き合いではあるね。でも途中で封印されたりしてしまったからねえ…

「ふうん…そうなんだ!」

 

あ、いつものお空に戻った。よかった…なんだか怖かったよお…

嫉妬ってこんなに恐ろしいものなんだね…あのまま腕を回されて関節技決められるかと思った…

 

お空は怒らせちゃダメだね。

 

 

 

「ここは……」

あ、ルーミアが起きたみたいだね。じゃ早めに食事を持ってこないと…

「おはようルーミアさん」

 

「あ、さとり?」

 

そんな寝起きのようなやりとりをする2人の横を通り、奥の部屋に向かう。途中恥ずかしいだなんだと騒ぎ声が聞こえたけれど気にしないことにしよう。

お姫様抱っこなんてしているさとりが悪いんですからね。

 

戻ってきたらさとりの肩に何故か噛み跡があった。一体何があったんだろう。

 

 

 

 

 

「あ、戦っている……」

 

少し遠くから爆発音が響き渡る。でも建物の中ではないから表玄関の美鈴と戦っているのかな?

裏口からこっそりと入り込み倉庫の中で少し物色をしていたら棚に置いてあったものが少しだけ震える。

もう始まったんだあ…なんて思いはどこにもない。ただ、今からここは戦場になる。私はどちらにも見つかることなく見学をする。

なんだか面白そう…

 

薬品とかをいくつか見つけたからそれを持っていく。何かあったらこれでどうにかするつもりだ。勿論泥棒みたいなことしているのは自覚しているよ。でも後でちゃんと返すからさ…

窓から一回外に出て、二階に移動する。建物の大きさの割に階段が少ないんだよなあ…なんだか不便。

空いている窓がひとつだけあったのでそこから入る。ここは…食堂みたいだね。確か一階にもあったはずだから二つ目の食堂なのかなあ…

確かにレミリアとかフランちゃんとかの寝室は上の階だからいちいち一階に降りる手間を考えればこうするだろうけれど…

まあいいや…突撃隣の晩御飯も出来そうにないしなあ…

二階にある第2の食堂をこっそり通り過ぎて廊下に出る。途中で妖精メイド達とすれ違ったけれど、木箱の中に隠れてなんとか誤魔化せた。

なんで木箱があるんだろうとか言っていたけれど異変中じゃそこまで気にかけている事も出来なかったらしい。

それはそれで好都合なんだよね。

 

 

扉の向こうから爆発音と振動が響いてくる。エントランスの方でも戦闘が始まったみたい。急がないと…

 

流石に扉をそのまま開けるのは危険だから少しだけ開けて向こう側の様子を確認する。正面廊下はクリア。

 

素早くころがり込んだら近くにあった扉を開けてなるべく死角が出来るようにする。

実際誰か来たらこの部屋に入り込んでやり過ごすつもりだし丁度良いね。

 

あ、そう言えばこの部屋って……

開けた扉についてあったネームプレートをちらっと確認する。

私の知らない言語だから何が書いてあるか読めないけれど確かこれって……

 

その部屋の中に入り込む。ひときわ大きい爆発がして館全体が揺さぶられた。その拍子にクローゼットの中の物が散乱してしまったけれどそれでようやく確信した。

「やっぱり更衣室だ」

真新しいメイド服がいくつも出てくるんだから更衣室だよね。

そうだ!折角だし一着拝借しよっと。

 

私の体に合うサイズは…スカートはこっちで上がこれ…あれ?サイズが一回り違う。うーん…少しぶかぶかする。

私が着込んでいた和服と外套は脱ぎやすいし着やすい構造だったのにメイド服はどうしてこんなに着辛いんだろう。

え…なんでガーターベルトで吊り上げる靴下しかないのさ…もういいやちゃんと着ないと怪しまれちゃうからね。

サードアイは…少し服が大きいから中に隠しちゃえ。

 

交換した服はちゃんと持っていくよ。だってそこらへんに放りっぱなしにするわけにもいかないからね。

 

再び廊下に戻りエントランスに行く。

まだ爆発は続いているから…結構頑張っているんだね。

「焦げ臭い…」

角を曲がればそこには半壊した扉があった。エントランスに続いている扉だね。流れ弾で壊れちゃったのかな?

 

壊れた扉の陰からこっそりと中を覗き込む。

 

えっと…咲夜って言うメイド長さんかな?後は霊夢?かなあ…顔知らないから確証ないけれどその2人が弾幕を展開しあっていた。いや、咲夜の方は能力を使っているのかな?時々視界から消えるね。

 

流石に巫女も苦戦しているみたい。だけれど目の前に現れる大量のナイフを避けるなんて…流石お姉ちゃんが仕込んだだけあるね。

それに……あのままじゃ咲夜負けるねえ……

 

見た目だけじゃ咲夜の方が有利だし能力を使用しているから結構アレだけれど能力に頼りすぎだよ。

あ、足にお札貼られた。

 

「くっ……」

 

「動きを封じさせてもらったわ」

 

あーあ…あれじゃあもうどうしようもないわ。空間干渉型ならどうにかなったかもしれないけれど時間干渉型じゃありゃ無理だね。残念咲夜。貴女の冒険はここで終わってしまったのだーなんてね。

 

 

あれ?下の方でも爆発音……もしかして地下の図書館かな?

行ったことないから見取り図がないとわからないや。

 

でも早めに行こっと…とどめなんか見ている暇ないや。

直ぐに壊れた扉から離れ廊下を駆ける。途中でまた妖精メイドとすれ違う。やっぱりこの格好だからか怪しまれることはなかった。

「あら?見ない顔ね」

 

不意にすれ違ったメイドさんから声をかけられた。妖精じゃない…この気配は悪魔かな?

「えっと…つい最近入ったから」

 

振り向けばそこには桃色の髪の毛を長めにおろした妖狐がいた。なんだろう…スカートの丈とか少し短い気がする。その耳が左右に揺れ動く。

「そうなんだ…それでどこに行こうとしていたの?」

 

「図書館の方に伝言を頼まれてて」

怪しまれたかな?少しだけ目を細めた妖狐のメイドさんをみて内心焦った。

「それなら廊下をまっすぐ行って青色の扉があるからそこ入って左側に曲がったところに階段があるからそれを使いなさい」

どうやら完全には怪しまれなかったみたい。よかった…

「ありがとうございます!」

もしかしたら嘘を言っている可能性もあるけれどこの場でそれを確認することは出来ないしそれが原因でバレたら結構やばい。

だからここは先に行かせてもらう。最悪穴を開けて強引に地下まで行けばいい話だし。

 

「ふうん…妹ね」

 

何か呟いていた気がするけれど気のせいだよね。うん、きっとそうだ。

 

 

 

言われた通りに青色の扉を潜り左に曲がると、そこには確かに階段があった。

もしかしたら罠かもしれないけれどそれでも行かないとね。

階段を一段飛ばしで駆け下りる。実際の弾幕ごっこがあそこまで派手で綺麗でワクワクするものだなんて思わなかった。今度はどんなものが観れるのかなあ…

 

階段の先は確かに私の探し求めていた図書館だった。

しかも丁度弾幕ごっこが展開されていた。

図書館が見渡せる階段の上あたりに身を隠して遠くから様子を伺う。

 

炎のような弾幕や水の塊が華やかな模様を描いて飛び回る。

それらを相殺するかのように今度は星屑や極太のレーザー砲が飛び交う。

あ、本が吹っ飛んできた。危ないなあ……

爆風。どうやら特殊な結界が張ってあるのか部屋自体の損傷は少ない。

今度は小悪魔が吹っ飛んできた。

あのまま吹き飛ばされていると危ないので片手で捕まえる。

「ウグッ」

あ、首絞めちゃった。

大丈夫かなあ…白目向いて気絶しているんだけれど…

 

まあ大丈夫かなあ。

 

 

それよりも弾幕ごっこはどうなったの?

 

小悪魔を下に放り投げ再度弾幕ごっこが行われている方を確認する。

あ、終わっちゃったみたい。綺麗だったしもっと続けて欲しかった。

 

 

私が悶々としていると、やや黄色い光がこちらに向かって飛んできていた。

あ、まずいこの位置じゃバレちゃう。

結構身を乗り出してしまっていた体を慌てて引き戻し、上へ逃げる。

 

「ん?そこに誰かいるのか?」

 

やっば!バレちゃった!

異変解決側である人間に見つからないよう全力で階段を駆け上がる。でもこのまま逃げるだけじゃすぐに見つかっちゃう…もうやむをえない!

あまり使いたくはないけれど片手に妖弾を精製。階段が床に潜り込むところで炸裂させる。もう一発を今度は屋根に向けて放つ。2発目の爆発。天井に開いた穴から屋根裏に体を滑り込ませる。

二階と地下を直結している階段だったから丁度一階の屋根裏に滑り込むことが出来た。

 

「くそう…今度は一体なんなんだよ!」

 

あ、追っかけてきていた人間が来たみたい。

こっちに来ないでね…お願いだから。

木箱持って来ればよかったなあ…邪魔になっちゃうけれど。

 

「あら魔理沙。地下に行ったんじゃないの?」

 

今の爆発で巫女まで来たみたい。

少しだけ屋根にのぞき穴を開けて確認しよっと。妖力を指先に纏わせて屋根に穴を開ける。あとはこっそり見るだけ……

 

「ああ、地下の魔女を倒してきたからな。なあこっちに誰か来なかったか?」

 

「いいえ来てないわよ」

だよね。だって私は真上にいるんだもん。

 

「おかしいなあ……」

 

「あんたの見間違いじゃない?こっちは疲れたのよ。時を止める従者に手を焼かされたし最後にしっぺ返しまで食らったからね」

 

「霊夢がそこまでやられたってことは相当強かったんだな」

 

ふうん…あの後奇策で一回乗り切ったみたいだね。なかなかやるじゃん。あのまま見ていればよかったかなあ…

 

「皆様お揃いでどうかなさいましたか?」

 

2人がいる部屋に誰かが入ってきた。この声って確か…あの妖狐のメイドさん?

あ、やっぱり妖狐のメイドさんだ。

「またメイド?もういい加減にして欲しいのだけれど」

 

「じゃあ私がやるぜ!メイドは初めてだからなあ」

 

どんだけ血の気が多いんだろう。ある意味戦闘狂じゃないのかな。

見てるこっちも苦笑いしちゃうってば。

 

「生憎ですが私は戦うためにこちらにきたわけではないので悪しからず」

 

「なんだ違うのか?」

 

「ええ、レミリア様よりお二人を連れてくるようにと申しつけられましたし。私の本分は遊戯ではなく死合ですから」

 

物騒だねえ…まあ私も死合の方が全力出せるから楽しいんだけれど。弾幕ごっこはどことなくお遊戯って割り切っているから全力出せないんだよね。

そもそも全力で戦ったらもう遊戯じゃないし。

 

「それじゃあピンク狐。さっさと案内しなさい」

 

「承知しました」

 

そう言うなり彼女が上を向いた。あ…目が合っちゃった。

だ、大丈夫だよね。バレたけれどバレてないよね。

「どうかしたのかしら?」

 

「いいえなんでもありませんわ」

 

あ…見逃してくれるんだ…ありがと…

妖狐のメイドに連れられて2人は部屋を後にした。

 

それを確認してから私もすぐに屋根裏から出る。バレちゃったかもしれないけれどまだ戦いは終わっていないみたいだから観に行こっと。

 

 


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