古明地さとりは覚り妖怪である   作:鹿尾菜

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depth.144紅霧異変 中

ピンク色の狐メイドに案内されて向かったのは少し豪華そうな部屋だった。

豪華なにならないのは結局建物の中と同じ赤色で統一されていたせいで豪華さがイマイチ伝わらないのだ。多分豪華だろうなあ程度って感じだけど。

「よく来たわね。歓迎するわ」

そんな部屋の真ん中でレミリアが巫女達に対峙していた。

あの王座のような椅子…色的に絶対部屋にあっていない。前来た時はなかったから今回のために特設したのかな。

「あんたがこの異変の元凶?だったら早く霧を止めなさい。洗濯物が乾かないじゃない」

なんか姉ちゃんと同じこと言ってる?なんだろうやっぱりお姉ちゃんが教育しただけあるかも。

 

部屋の中で柱に隠れながら見守る。もう直ぐ始まるかな?どうなのかな?

 

「そうだそうだ!この霧じゃ弾幕ごっこだって目立たないんだぜ!どうしてくれるんだ!」

弾幕ごっこやっぱり見えづらいか。なんとなく察してはいたけれどさ。

っていうかここに来るまでの合間に誰と戦ってたんだろう?

「あら、文句があるのなら実力を示してからにしなさい」

 

「じゃあ遠慮なく!」

えー巫女さん早速針投げお札投げはひどいと思うよ。それを蝙蝠に変化して回避するレミリアもレミリアだけれど。あれって能力使ったからかな?

って魔理沙も弾幕放つんだ…

「お姉様1人だけだと思った?」

だけれど魔理沙の弾幕は直前で別の方向から来た魔弾に弾かれた。

「「もう1人⁈」」

 

「フラン、タイミングを計ってないで先に出てきておきなさいと言ったわよ」

 

「かっこよく登場したいじゃん!どうもお姉様の妹のフランドール・スカーレットだよ!」

なんだろう語尾に星がつきそうなテンション。フランちゃんなにに影響されたのかわからないけれどそれじゃあかっこいいじゃなくてプ◯ヤだよ。確かにフランちゃん自分で魔法少女とか言ってたけれど…じゃあやっぱりプリ◯か。

「そっちが二人掛かりならこっちも二人よ」

 

フランちゃんレミリアと連携とかできるの?なんか普段を見ていると連携というより依存になっているんだけれど。

「では私は隅で見守っております」

妖狐のメイドさんは流石に参加しないか。まあ参加するなら最初から参加しているよね。

それにしても、タッグバトルってどんな感じにやるんだろうね。

すごく気になる。

 

「……」

 

「どうしたんだぜ霊夢?」

あれ?あの巫女どうしてこっちの柱見ているんだろう?

「そこ!」

なにを思ったのか霊夢が私の隠れている柱にお札を投げた。爆発が起こり派手に柱が瓦礫になる。

「あ…まず…」

落ちてくる瓦礫をつい破壊してしまった。

 

やばいばれた。

 

「さっきから誰かの視線が鬱陶しったらありゃしないわ!」

うわなんか怒っている。

「招かねざる客のようね」

どうしよう。いくらメイドの格好をしていても流石にこのままじゃバレる。

えっと…こういう時は焦らず安を手の平に書いて飲み込んで…

 

「出てこないならこちらから行かせてもらうわよ!」

 

やばい早くしないと!

ええい!こうなったら…

幻影…もとい空気の屈折を作り出す魔術を行使。

理論上この魔術は光学迷彩の代わりに出来る。カバーできるのが手の腕程度の大きさのものという制約がありあまり使われないけれど。

 

でもこれらはなにかを消す意外にも色々使える。例えば…

こんな感じに妖精の羽のようなものを生み出したり髪の毛の色を少しだけ変えたり。

「……」

 

この姿で霊夢達の前に飛び出す。少しだけ臆病そうな演技も忘れない。お姉ちゃんに教え込まれたけれど弱そうな相手を手にかける相手じゃない限り見逃してくれるんだとか。戦いたくない時に便利だって聞いた。

 

「なんだ妖精メイドじゃねえか。本当にあいつなのか?」

魔理沙の目はごまかせたらしいけれど霊夢の目は誤魔化せてないみたい…

「間違いないわ」

 

一旦逃げようかなあこのままだと弾幕ごっこに巻き込まれかねない。

少し後ろに下がりつつ扉の方に確実に向かう。

「あんな妖精メイドいたかしら?」

 

「新人さんじゃないの?」

 

なんか私に刺さる視線が痛い。今の私は妖精メイドですよー悪い妖精メイドじゃないよ。プルプル。

「まあ妖精ですし害はないですわ」

妖狐のメイドさんナイスフォロー!ありがと!愛している!

 

「まあいいわ。あれも敵ということでまとめて吹っ飛ばしてあげるわ」

 

巫女さんが全然巫女っぽくない。むしろ悪役って言われれば納得しちゃいそう。

しかもしれっと私まで倒す宣言しているんですけれど。やっぱりある程度見れたら逃げよっと。

 

逃げようとする私の側に妖狐のメイドが来た。

「しっかりと最後まで見届けましょう」

 

はーい…

こりゃ逃げられそうにないや…巫女も攻撃してくるだろうし困ったなあ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「危なかった…」

あの白黒魔法使いの攻撃を間一髪のところで回避できたのは賭けだった。

本当なら体の一部巻き込まれてもおかしくなかった。うん、私はついている。

 

静かになった湖の畔を何をすることもなくふわふわ飛んでいる。

少し好戦的になりすぎていた気がする。どうしてでしょうか…不思議です。

もしかして紅霧のせいで気持ちが好戦的になっていたとか?

ありえない話ではない。

妖精は心の感受性が極端に高いから周りの状態に行動や感情が左右されやすい。

私もその例にもれない。ただ…少しだけ静かなだけですけれど…

 

「……寒い?」

 

急に吐く息が白くなった。それに合わせて温度が凍りつく。

 

霧の向こう側に誰かの影が薄っすら見え始めた。

「やあ大ちゃん」

 

「チルノちゃん?」

冬でもないのに大人の姿になったチルノちゃんがそこにいた。

冷気がそこから漏れているのか、体の周りを白くなった空気が渦を巻くように流れる。

 

「チルノ…まあそう呼ばれている存在ね」

いや…言葉遣いも声のトーンもまるっきり違う。何者なのだろう?

確かに冬に大人の姿になった時と声自体は同じだけれどそこに無邪気さもチルノちゃんをチルノちゃんたらしめる雰囲気もない。

「貴女は何者?」

完全に氷の女王だった。

 

「私は氷を司る妖精。それ以外の何者でもないよ」

そうだけれど…でもチルノちゃんじゃない。

「この異常気象だもの。人体とか妖怪には影響がなくとも妖精に全く影響がないなんて言えないでしょう?」

 

「じゃあ貴女はこの霧のせいで生まれたというのかな?」

 

「正解。でも少し違うわ。私はただの戦いたいという願望…闘争本能の塊のようなものね」

 

「ふーん…」

なんとなく言いたいことはわかった。ここ数十年はチルノちゃんも満足して戦える相手がいないとか冬になるたび言っていたからなあ…自然を司る妖精は自然が持つ生存本能、もとい他の種との闘争本能も受け継ぐ。

普段はそんなに気にしなくて良いけれどこの異常気象とずっと溜め続けたってのが仇になったんだね。

「私じゃなきゃ駄目なの?」

 

「別に、会ったのがあなただったってだけよ」

そっか…じゃあ仕方がないね。

 

「それで、私にどうしろって?」

 

「言わなくてもわかっているだろう」

 

「わかってはいますけれど教えてくださいよ」

 

「戦いたいのだよ。そうでなければならない。私は戦いたいのだ」

頬が吊り上がり、狂気に満ちた笑顔が広がる。

それにつられ私もいつのまにか笑っていた。何故だか目の前のチルノちゃんと戦うことがとてつもなく楽しく感じる。

折角なのだから弾幕ごっこも交ぜつつ戦ってみたい。うふふ…さっきの不完全燃焼もここで吹き飛ばせるかな?

 

どうやら闘争本能が刺激されたみたいだ。

「弾幕ごっこってチルノちゃんわかる?」

 

「ええ、もちろんよ。カードもあるけど使った方が良い?」

 

「是非ともそうしてください」

面白い戦い方ができそう…そんな本音が思わず漏れてしまう。

「それじゃあ決まりね」

それが合図になった。

大人の姿をしたチルノちゃんがスペルカードを解き放つ。

「雪符『ダイヤモンドブリザード』」

 

チルノちゃんの掌に現れた冷気の塊が小さな氷の粒を周囲に拡散し始めた。同時に青白い弾幕が間を縫って飛び交う。

飛びながらの回避は少し難しい。ならばここで弾幕を迎え撃つのみ。

刀を抜く。青白い光を受けて煌めく刃先が空気を切り宙に模様を生み出す。

一振りするごとに氷の粒が、妖弾が切り裂かれ爆発する。

 

 

「やるじゃないの」

 

「褒めてないですよね」

スペルカードの効果が終わったのか氷の粒も弾幕もいきなり途絶える。それに合わせてチルノちゃんが動いた。

私もそれに合わせて空に舞い上がる。

弾幕を展開。

それを予測していたのかチルノちゃんは弾幕を弾幕で相殺した。

 

「アイシクルソード」

 

その単語とともにチルノちゃんの手に氷の塊が生成される。それらが1メートルほどの大きさに成長したところで、ガラスが割れるような音ともに表面が砕けた。

 

「へえ…そんな使い方もあるんだ」

現れたのは私の刀よりふた回りほど大きい氷の剣だった。切れ味はどうなのだろう?

「剣は大ちゃんの特権じゃないんだよ」

そのようですね!

 

チルノちゃんが剣を振り回す。それに合わせて氷の礫が周囲に拡散して飛び出す。

そういう使い方するんだ…

宙返りと強引な方向転換で氷の礫を回避する。

お返しにレーザーを放つ。

 

刀で防がれた。防御力はそこそこあるようですね。

でも熱は得意じゃないでしょう?

 

力を背中あたりに集め一気に解き放つ。急加速。ある程度開いていたチルノちゃんとの距離を詰める。

そのまま素早く斬りかかる。

青色の火花が散り、刀が氷の剣に防がれた。一度離れて今度は横斬り。予測されていたのかこれも防がれる。

衝撃波が下の水面を叩く。

跳ねあげられた水しぶきが氷の礫となってこちらに飛んできた。咄嗟に体を捻って空中でキックバック。

「やっぱりチルノちゃんは強いね」

 

「そういう貴方も鍛え上げられているだけあるわ」

 

そうですか?そう言ってもらえると嬉しいです。

 

「でも、ツメが甘い。雹符『ヘイルストーム』」

 

っ⁈

急に吹き荒れる冷気の竜巻。巻き上げられた水が氷の柱をいくつも生成し、湖に足場が出来上がる。

そして空から降り注ぐ無数の氷。一つ一つが鋭い棘となって襲いかかった。

思わず真下に逃げ、それが罠だと知った。

背中に衝撃が走る。体に冷たい感触が広がり動きが鈍る。

浮力が無くなり錐揉み状態で落っこちる。

 

「これで貴女は飛べなくなった」

 

チルノちゃんの声が後ろに聞こえて、とっさに弾幕を放つ。

急な反撃に驚いたのか少しだけ隙ができた。

 

持っていた刀を竜巻でできた氷の柱に突き立てて落下を止める。あのままじゃ確実に怪我をしていた。危ない危ない。

 

勢いをつけて近くの段差に飛び乗る。

少し妖力で背中を温めるが一向に氷が溶ける様子はない。羽がなくても飛べるけれど背中を氷で閉じられるとバランスが取れない。

浮くだけなら簡単なんだけれどね。

 

溶かそうとするのを阻止しようとチルノちゃんが飛んできた。この位置からだと少し狙いづらい…折角氷の柱があるんだから…

 

刀を立てつつ氷の柱を駆け上がる。私の周囲に水色の妖弾が着弾し、氷の柱にいくつもの氷の棘が生成される。

あの弾幕に当たったらやばいね…

 

新たに出来上がった足場を蹴り、空中に体を投げる。丁度そこにチルノちゃんが飛び込んできた。

「っ…‼︎」

 

慌てて回避しようとしたけれど遅いです。

咄嗟に目の前に氷の剣を出す。一閃。空に白色の軌跡が生まれ、氷の剣の根元が切断された。

「スペルブレイクでいいんですかね?」

 

「そうかもしれないね」

重力に従って落下する剣先と私…

 

だけれど直ぐに浮遊状態にする。バランスが…おっと……

あまり飛べるわけではなく再び氷の上に降りてしまう。

 

「まさかこれで終わり?」

追撃してこないのでしょうか?もっと戦いたいのに…

「そんなことないわよ」

 

あ、少し溜めが必要なやつですか?じゃこちらから行かせてもらいましょう。

「Fairies mischief!」

 

今度はちゃんと発音できた。

歯車が噛み合うかのように体から溢れ出た妖力がスペルカードを通して弾幕の花を形成する。

 

「それがあなたのスペルカード…」

 

「ええ、どうかしら」

 

「面白い…だが、いつまでそうしているつもり?」

 

チルノちゃんの視線が下に向いた。それにつられて私も足元を見てしまう。

「あ…」

 

いつのまにか這いよっていた冷気が私の両足を氷で閉ざしていた。

引き抜こうと引っ張ったものの、膝下まで氷が覆っておいて既に抜け出せなくなっていた。

このままだと……

 

私の放つ弾幕を悠々と避けながら、チルノちゃんが一枚のカードを出した。まずい…あれは避けられない。

「凍符『パーフェクトフリーズ』」

 

放たれた氷の礫と弾幕が一斉に私に襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

「魔理沙!あの黄色いのを頼んだわよ」

 

「おう!任せておけって!」

 

二対二の時の定石は一対一に持ち込むこと。連携を重視して戦った方が良いと思われがちだけれど連携力は姉妹である向こうの方が上。こちらだって連携で負けるとは思いたくないけれど少しでも勝率の高い方を選ぶのならやはり2人で来た相手には分断と各個撃破を意識した方が良い。

 

前に出た魔理沙がミニ八卦炉をブースター代わりに使い撹乱を開始する。

 

「そう、やっぱりそうくるのね」

 

レミリアとかいうやつが何かつぶやいていたけれどそんなこと知ったことではない。魔理沙の撹乱に合わせて誘導型のお札をレミリアに投げつける。

一瞬空中で停滞したお札が意思を持ってレミリアに向かっていく。

ようやく飛び上がったレミリアがそれらをすり抜けるように回避、全てがレミリアの後ろに抜けていった。

だがそれで終わるほどあれはヤワではない。高速で反転し再びレミリアの追尾に移る。

死角からの攻撃。だけれどそれらは、レミリアに命中することはなかった。

 

一斉に弾けるお札。レーザーによって引き裂かれ空中で虚しく爆散していく。

そのレーザーの出所を確かめてみればわかるそれはフランドールのすぐ側に浮いている球体からだった。

「魔理沙ちゃんと引きつけなさいよ!」

 

「悪いな、これで精一杯だ!」

 

見れば魔理沙は弾幕の檻の中で必死に回避行動を取っていた。持久型のスペルのようね。

「他人の心配をしている余裕があるのかしら?」

 

「…⁈」

 

ほんの一瞬意識を魔理沙に向けただけ。それだけだったのに、気がつけばレミリアが直ぐ側に近づいていた。

咄嗟にお祓い棒を構える。激しい衝撃。腕がバラバラになるかと思ったわ。

 

それほどの強い衝撃が加わり、腕が跳ねあげられた。

「さあ食らいなさい。新罰『幼きデーモンロード』」

 

「誰が食らうもんですか!」

 

体を後ろにひねって距離を取る。瞬間、カードより出されたいくつもの妖弾とレーザーが襲いかかる。

中には少し飛んでリング状に広がる弾幕もあり逃げ場は見当たらない。

それでも、距離が近いままでは妖弾の餌食になりかねない。

後ろにステップを踏みつつ空に飛び上がる。

 

先を埋め尽くすかのように弾幕が配置され、一瞬止まったところにレーザーが撃ち込まれる。

くっ…さっきお祓い棒を殴られた時の痺れが……

利き手じゃうまく扱えない。すぐに左に持ち替えてレーザーを凌ぐ。

「あら随分とやるのね」

これは想定外と笑みを深くする。その顔に一発ぶち込んでやりたい衝動が起こる。

「生憎、鍛えられているからね。そこらへんの奴らと一緒にしてもらっちゃ困るわ」

 

しばらく弾幕と格闘しているとスペルの効果が切れたのか弾幕が止んだ。ただ、その合間レミリアはなにもしていなかったというわけではない。

彼女の手には2枚目のスペル。

だけれどさっきみたいに近づいてくる様子はない。

なら使わせる前に叩きのめす!

 

「夢符『封魔陣』‼︎これで…」

 

宣言したスペルカードを通じて霊力が赤い線を空中に描く。それらがある種の模様となり、なにもなかった空間にいくつもの光のお札が現れる。

「さあ、大人しく捕まりなさい‼︎」

六本の鞭が伸びるかのようにお札の列が一斉にレミリアに襲いかかる。

 

流石のレミリアも不味いと思ったようね。

蝙蝠の翼を宙に広げ、加速する。その後ろを二本の列が絡み合いながら追いすがる。残り四本も彼女を囲うように配置に着こうとする。

 

そのうちの一本が爆散した。

だけれど驚く事ではない。中に上がった瞬間レミリアの手に一本の紫色に光る棒が構えてあった。おそらくそれだろう。今は手元にないから投げつける系のものだと判断する。

ただ、あのお札の山を爆散させるとなれば相当な火力だ。使うのもなんの代償も無しにポンポン撃てるものでもないわね。

 

っと…いけない、集中しないと。

残り五本のうち二本が進路を真横に変えた。そのまま真っ直ぐにフランドールに向かっていく。まさか近づきすぎて誘導が狂った?そんな……

それは向こうも予想外だったらしい。急に向かってきたお札にフランドールの動きが止まった。

彼女の方へ向かっていったお札の列は、彼女を囲うように丸く球体を生成する。

「チャンスだぜ‼︎」

 

魔理沙がそこに向けてマスタースパークを叩き込む。爆発、衝撃波で窓ガラスが砕け散り突風が吹き荒れ、外に飛ばしていく。

 

見ていた2人も巻き込まれたのか吹き飛ばされている。

 

当然私たちも吹き飛ばされレミリア自身もバランスを失ってか三本のお札の列に雁字搦めにされた。

そこまでは覚えているが煙によってその姿は閉ざされてしまう。

視界不良じゃトドメをさせないじゃないの!

 

見える範囲まで近づこうとして…勘が警告を放った。咄嗟に後ろに後退する。

瞬間煙が吹き飛ばされた。再び起こった衝撃波が床や壁を吹き飛ばし大小様々な破片が襲いかかる。

 

後退したこともあってか直ぐに結界を張りどうにか防ぎきる。

爆風で飛ばされてきたのか魔理沙が戻ってきた。

「やったのか?」

 

「フランドールは兎も角レミリアはまだよ」

 

一応二対一になるのかしら?吹き荒れる煙がようやく晴れてくる。そして、感じ取れる気配がまだまだ健全状態だった事に思わず舌打ちをしてしまった。

「どうして勝手に負けたことにしているの?」

声がした瞬間、私の体が横に吹き飛ばされた。

 

「霊夢っ‼︎」

 

「貴女の相手は私よ」

 

こっちに駆けつけようとした魔理沙を紅いレーザーが包み込む。

「どう…して?」

痛む背中を霊力で治癒させながら目の前の存在に聞く。魔理沙のマスタースパークの直撃を受けたのだ。それだけでも相当なダメージを受けるはずだ。

「うーん…教えてあげたいけれど教えている合間に襲われたら嫌だから」

 

よく見れば上に着こんでいた赤色のベストやシャツはボロボロで、八割は炭化してチリになっていた。下着であるノースリーブが丸見えである。それすらも胸より下は炭化して黒く炭になっているのだ。

命中に近いダメージを受けたはずなのだけれど…まさか吸血鬼特有の超回復なのだろうか?

「あっそう。ならさっさと倒すだけよ」

痛みは引いた。傷も大したことはない。大丈夫ね…

「そう言う人間大好き!」

 

 

 

 

 

 

 

 

あちゃーフランちゃんやっちゃったねえ…

動きを封じられ、マスタースパークを撃ち込まれる直前自身の出した特大魔弾を誘爆させて全部吹き飛ばすなんてね。

まあダメージは入っていないから大丈夫といえばそうなんだけれど。そういえばあれに近いことをお姉ちゃんもフランにされたとか言ってたような…得意なのかな?ああいうの……

でも本気で戦うと弾幕ごっこでもここまで戦えるんだ。これは良い経験になった。

 

衝撃波が来る直前、私を庇うように妖狐のメイドさんが結界を張ったけれど、少し間に合わなかった。結果として後ろに吹き飛ばされ2人揃って壁に背中を打ち付けたわけだけれど。そのおかげか少し距離を取ることができた。今までは少し動けばあの巫女に感づかれる可能性があったけれどこの距離なら大丈夫。

少しづつ距離を取って観察しやすく逃げやすい位置を陣取る。

あ、これは外に移動するのかなあ…

 

動きを観察していると、レミリアが攻撃を回避しようとして素早く窓の外に出た。それに合わせてフランちゃんが魔理沙と霊夢の双方に妨害攻撃を与えている。

やっぱり窓から外に出たね。あ、見えなくなっちゃった。

 

「……追いかけないのですか?」

 

「すぐに追いかけるよ?」

でもここから追いかけるのは大変そう。だって今あそこの窓から外に出たら確実に巻き込まれるじゃん。

もう少しだけ中から観察しよっと…背中が少し痛いけれど…

 

少しして窓から入ってくる流れ弾やレーザーがなくなった。また移動したみたい。上の方かなあ…

 

窓枠に足をかけ飛び上がる。若干体が下に落ちたけれどすぐに浮上。後ろを妖狐のメイドさんが付いてくる。

私がメイドじゃないってのはもうすでにバレているよね。なにも言わないけれど雰囲気でわかる。だけれど私をとっつかまえようとかそういう事でもないようで少し判断に迷う。

 

手を出してこないうちは気にしないことにしよっと……

 

4人は屋上の方かなあ…

ふわふわと上がっていけばやっぱり屋上を舞台に戦っていた。

中央の時計塔に設けられた作業用の足場に着地する。ここからなら戦闘を一望できるからね。まあ…霧のせいで見えづらいんだけれど。

 

うーん…霧の中に入っちゃうから目で追えないや。音だけじゃ爆発音と飛翔音ばかりで何が何だか分からないし。

もうちょっと見えやすい場所に移動するべきかなあ…でもそのうちこっちくるよね。音がだんだん大きくなっているんだもん。

「そういえば加勢しなくて良かったの?」

結局見えるものが少ないうちは暇になっちゃう。なので隣にいるメイドさんに聞いてみた。特に意味があったわけじゃない。なんとなく……

そもそも行動の全てに意味を求められても困る。だって特に意味なんてない行動が多いんだもの。

「あの2人なら平気でしょう。それに私はあくまでメイドですから」

メイドだから主人が来るなと言っていたりこいと言っていなかったら行かないっていうことかなあ。そういうのよく分からないや。空気を読んでやれとかなんだとかって言われることもあるし。その逆も然り。そんな事もあるのによく判断できるよねえ…

 

「たかがメイドが主人の戦いの場に水を差してはいけないでしょう?それこそ場が白けますわ」

そういうものなのかなあ?少なくとも霊夢と魔理沙は白けないと思うよ?霊夢は…またメイドと戦うのかと思うかもしれないけれど。あ、そういえば…

「メイド長さんは戦ってたじゃん」

 

「咲夜は…メイドとして訪問者を『歓迎』したまでよ」

 

ふうん…難しいね。お姉ちゃんがどうして地霊殿にメイドを導入しないのかよく分かったよ。

でもこんな事を言うときっとこう言うだろうね。地霊殿は屋敷じゃなくて行政機関だって。

 

「じゃあさ、もしレミリア達を本気で退治しようとしてきた相手の場合は?」

 

「その時はチリも残さず消しとばしてあげますわ」

笑顔でとんでもなくエグいこと言っているよう。メイドさん怖い。主に忠誠心の塊で怖い。

「本当にメイドなの?メイドの皮を被ったモンスターに見えるよ」

 

「そう見えるのならなおさら触れちゃいけませんよ」

 

「そうする」

無言でうなずくしかなかった。だって目が笑っていないんだもん。それに私が一番レミリアに危害を与えそうな存在だって気づいたもん。いや薄々自覚はしていたけれどさ……

 

 

あ、そろそろこっちに舞台が移ってきたらしい。よかったこれでよく見れる…

 

刹那、私の真横を紫の光が通り抜け後ろにあったはずの時計塔をなにかが貫通する気配がした。

今のは…グングニル?

 

「あら残念つぎは外さないようにするわ」

 

「あ、あぶねー…霊夢サンキュー」

 

これはやばいかも…少し距離を取らないと本当に巻き込まれかねないや。

 

 

 

 

 

 

 

「……チルノちゃん」

 

降り注いだ弾幕をなんとか迎撃したのもつかの間。チルノちゃんの本気の蹴りをお腹に食らった。

刀で咄嗟に防ごうとしたらそれすら凍りついてへし折れるなんて…

「あなたの負け」

 

「……そうかもね」

純粋な戦いなら負けかもしれない。こうして折れた氷柱を突き付けられていれば嫌でも理解できてしまう。

 

「…まあ、もう少し楽しめたら私も消えるわ。妖精だっていつまでも力を持っていることはできないのだもの」

 

そうですか…まあいつものチルノちゃんの方が好きだからそれはそれでありがたいですけれど。

でも、調子こきすぎですよ?

「負けと決まっても勝ったとは限らないのですよ」

 

素早くチルノちゃんの目の前に弾幕を放つ。

だけれどそれを氷柱で弾き飛ばし、私に向けて無言で氷柱をつきたてようとしてきた。

咄嗟に腕を前に出す。

当然私の貧弱な腕じゃそれを止めることなんて出来るわけもなく……

「っ⁈」

 

肉と骨がひしゃげるのとはまた違った音がして、一気に氷柱が減衰した。生身ではあり得なかった現象。

だけれど同時に人造の腕は氷柱から放たれた強大な冷気で凍りつき始めた。

あーあ…にとりさんの自信作だったのになあ…

 

折れた刀をもう片方の手で握りしめる。

たとえ刀が折れていたとしても一流の剣士なら問題なく斬ることが出来るらしい。なら、私にだってこれくらい出来る。

 

斬……

 

少しだけ風が吹き、凍りつき始めていた腕が二の腕あたりから切断された。

素早く回し蹴り。チルノちゃんのお腹にモロに食い込んだ脚をさらに回して真横に飛ばす。

 

なんか凄い声が聞こえたけれど大丈夫だよね?チルノちゃんタフだからちょっとくらい平気だよね?


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