決着がつくのはまだ先みたいだね。
レミリアと霊夢が同時にスペルカードを宣言。周囲に弾幕とお札の蛇が絡み合い、殺戮を繰り返す寸劇が始まる。
私のすぐそばをレーザーが通り抜けていく。
ただのレーザーではない。それは魔理沙のマスタースパークだ。
それにしてもあれだけ連携だ連携だ言っていたのに今となってはどちらも連携のれの字も見当たらない。
各個撃破をしたいのに両方が各個に分かれたら意味ないじゃんとか思う。これが俗にいう膠着状態ってやつだね。
うわっと…危ない危ない…流れ弾って意識してみないとわからないよ。
直ぐそばを通過した妖弾を見て冷や汗が出る。
敵意を向けられた状態でまっすぐ意思を持って突っ込んでくる弾幕なら回避は簡単なんだけれどああやって流れた弾幕は敵意も悪意もないから感知し辛い。
あ、レミリア絡め取られた。動きが封じられちゃったね。それでも霧の中に入って逃げようと考えるあたりまだ諦めてはないんだ…
まあいいや。フランちゃんの方ももうすぐ終わりそうだし。
レーヴァティンなんて出しているけれどそれって短距離用だよね?中距離が得意な相手なら絶対逃げるよ。ほら逃げた。
って熱いよ。周囲の温度が上がってるよフランちゃん!
火力抑えないと…そんな攻撃どう考えても弾幕ごっこじゃないよ。
当事者が気にしていないようだから別にいいけれどさ……
もう少しだけ弾幕ごっこの推移を見ていたいけれどそろそろ終わりかな…
もう決着付いちゃうんだと少し残念に思う。だけれど戦いはいつか終わるからねえ…
帰ろっと。
今まで立っていた足場から飛び降り屋根の上に乗っかる。傾斜した屋根の上ではバランスが取りづらい。だけれど私にそんなものは通用しないよ。
「お帰りかしら?」
私が動き出したのを見て妖狐のメイドさんが真横に移動してきた。なんだろう少し怖いや。
「見るものも見れたからね」
そう返せば何やら私の前に回って進路を塞ごうとする。帰してくれないの
?
「ちょっと待ちなさい」
えー待てって言われて待つ人がいると思うの?でも三秒だけ待つね。
「……?」
「服はちゃんと返しなさい」
あ、そういえばこの服メイド服のままだった…どうしよう。この服を見つけた更衣室の場所なんて詳しく覚えていないし警戒が跳ね上がってるから悠長に探して着替えなんてできないし……妖狐のメイドさんが一緒についてきてくれる気配もない。
「ああ、お姉ちゃんに洗濯お願いするから今度返すね」
仕方ないからこのまま帰って…後で洗濯して返そっと。一生借りることもできるけれど。
「ならいいわ」
あ…いいんだ。それでいいんだ……
じゃあ遠慮なく。
「それじゃあまた今度ね!」
「ええ、今度はご家族の方と一緒に来るのを楽しみにしております」
綺麗なお辞儀をしたかと思えば、気づけばそこには誰もいなくなっていた。幻影のようなものだったのかな?なんていうのはありえない。だって彼女から仄かに香っていた金木犀の香りがまだそこに残っていたから。
背後で大爆発が起こる。どうやら決着が付いたみたいだ。
「全く、あとはあの妖精とメイドだっけ?」
やばいなあ…早く帰ろっと…霧が出ているうちにね。
「でもどこに行ったんだぜあの2人」
しーらない!
私達を探す霊夢達を尻目に地上にゆっくり降りる。弾幕ごっこで吹き飛ばされた建物の瓦礫が庭を押しつぶしている。
あーあ…せっかく綺麗なガーデニングだったのになあ…
おっと…正面玄関からは出られそうにないや。美鈴さんがいるし。
そういうわけだから回り道。近道だけが最善手じゃないんだよ。
お燐がルーミアさんにご飯を食べさせていると再び玄関の扉が開いた音がした。今日はなんだか訪問者が多いわね。
ルーミアさんは気配と溢れ出す妖気でなんとなくわかったけれどこれは誰かしら?かなり衰弱しているようですけれど…
部屋干しを試みて何度か試し続けている洗濯物をその場に置き玄関の方に向かう。
「大ちゃん?」
玄関の壁にぐったりと寄りかかっていたのは、大妖精だった。体の所々に氷を付着させ、義手はボロボロになっているけれどそれはまぎれもない大ちゃんだった。
兎も角ここではどうしようもない。ものすごく冷たくなっている彼女の体を抱えてすぐさま部屋の奥に連れて行く。布団を出している暇はないから畳の上に横にさせる。
かなり衰弱しているわね…それにこの氷はチルノちゃんのものね。
何かの理由があって戦ったと推測できる。
でも今はそんなことを考えるべきではない。
すぐに二階の客室に布団を敷きそこに連れて行く。体温の低下はそれそのものが生命活動に重大な支障を与えかねない。妖精だから死んでも一回休みになる。そんな理屈頭ではわかっていても素直にハイそうですかじゃあ死んでくださいねなんて見殺しにできるはずがないですよ。
「あれ?さとり様その子は…」
お空ちょうどいいところに来てくれました!
手伝ってもらいますよ。拒否権ないですからね。
「急患よ。温かいお湯を持ってきて」
「わ、わかりました!」
無表情だし声の調子も殆ど変わらないけれどそれでも事態が急を要しているというのを理解したのかお空は慌てて部屋の外に駆け出した。
「傷の確認をしないと……」
破損している腕は鋭利な刃物で斬り落とされたのか…あるいは自身で斬ったのか。どちらにしてもこれは仕方がない。他は……背中と下半身が軽い凍傷ね。
意識レベルが低下するまで体温が低くなっているのか薄っすら目を開けたり閉じたりしている。起きているような気もするけれど反応がないからやはり気を失う寸前。
少し遅れていたらそれこそ一回休みになっていましたよ。
「お湯持ってきました!」
「ここに置いて。あとお空、あなた平均体温高いわよね」
「ええ、そうですけれど…」
私の平均体温は36度行くか行かないか。それに対して元々灼熱地獄に住んでいた地獄鴉のお空は平均体温が40度ほど。
体温の低下を防ぐのにこの場で最も効果的な方法を行うには彼女の方が適任なのだ。
「大ちゃんに添い寝してあげて。低体温症でかなり危ない状態なの」
「え…添い寝?」
ええ、添い寝。って言っても寝るわけじゃないわよ。あくまでも体温を上げるための一時的な処置よ。
お願いお空。後でひとつお願い事叶えてあげるから。
「わかりました!」
え…即答…そんなにお願い事がしたかったのかしら……
「それで、太陽の光が邪魔で外を出歩けないから霧で隠したと?」
夢想封印でトドメを刺したところまでは良いけれど結局それだけじゃ霧は晴れてくれない。だから意識が戻るのを待って事情を聞いてみればそんな大層どうしようもない…まあそう感じてしまう理由が出てくるわけだ。
「ええ、そうよ」
しかもそれすらしょうもないと思っていないのか偉そうにしているのでその頭に一発拳骨を入れておく。
「そんな理由で……」
魔理沙も流石に呆れたのか完全に脱力していた。大方もっとかっこいい感じの…壮大な理由でも考えていたのでしょうね。
「理由なんて所詮はそんなものよ。最終的にそれが人にどのような結果をもたらしたかが重要なのだから」
「偉そうに語っているところ悪いけれど早く霧を収めなさい。こっちは洗濯物が乾かないのよ!」
忘れかけていたけれどまだ洗濯物干してないの!あれ干さないと着る服が無くなっちゃうのよ!
「洗濯物でしたらこちらに室内乾燥を行う部屋がありますが…」
狐メイドが口を挟むけれどそういう話じゃない。それに人里にだって私と同じで洗濯物が干せなくて困っている人がいるはずよ。その人達の分も考えなさい。
「それなんだか燻製になりそうだぜ」
「燻製部屋を改良したものですから」
臭いついちゃいそうですごく嫌だわ。なによ魔理沙、せっかくだからやってみなさいって?あんたが燻製になればいいわ。
「結構よ!それに天日干しの方が何かと気持ちが良いの!」
「それもそうですね。お嬢様今すぐ霧を止めることを提言します」
あっさりメイドが手のひら返したわ。流石、家事をやっているヒトは話が早いわ。そこの上流階級とは違ってね。
「あなたどっちの味方よ」
「私は一介のメイドですわ」
メイドって難しいわね。
「分かったわ。霧はすぐ止めるわよ。それと、そこの烏はいつまでコソコソしているのかしら?」
レミリアが窓枠に向かってグングニルを放った。威力はかなり弱いけれどそれはまさに夜の支配者といったところね。封印で力が落ちたのにあれほどの力とは…
「あやや、バレました?」
窓枠が周囲の壁ごと吹き飛び、そこに隠れていた存在の姿が丸見えになる。
そこにいたのは白いシャツと黄色い線が入ったスカートを穿いた黒髪の少女だった。赤色の頭襟と背中の黒い翼がなければただの少女だったのにね。
「挑戦者か?受けて立つぜ!」
魔理沙が八卦炉を構えると、そいつは敵意がないことを示すためなのかなんなのかは知らないが両手を上げて降参のポーズをとった。
「まあまあ私は天狗の新聞記者ですよ。戦いはいたしません」
天狗の新聞?ああ、そういえばそんなのがあるわね。購読なんてしたことないし相手は妖怪だから取りたくもない。
「ふーん…天狗が見学していたの?」
でも天狗がずっと見ていたというのは少し問題ね。
勢力争いとか妖怪同士で勝手に争ってくれるのは別に良いんだけれどこちらが巻き込まれるとなれば話は別。
「なにせ初の異変ですよ!ネタになるじゃないですか!」
嬉々としてメモ帳らしきものに色々書き込み始めたその天狗に警戒していたレミリアも魔理沙も毒気を抜かれたのか敵意を収めた。
純粋な取材とは言っていたけれどそれだけじゃなさそうだけれど…ああいう連中はどうせ追求してものらりくらりと逃げるのがオチって母さんも言っていたわ。なら、なるべく相手はしないようにしましょう。
「では異変を解決したお二人にインタビューしたいのですが」
「名前も知らない相手に話すことなんかないな」
「ええ、私はノーコメント」
魔理沙も私も基本的に取材は受け付けないわ。めんどくさいし。
「おっとまだ名乗っていませんでしたね。申し遅れました文々。新聞を発行している射命丸文です!」
いや名前名乗ったからって取材に答える義務はないんだけれど…
「ふうん…じゃあ霊夢の代わりに色々答えておくか」
「適当なこと言わないでね」
「レミリアさん達も後で取材させていただきますね」
「ちゃんと事務所通してくれるかしら」
いや事務所ってあんた何様よ。
レミリア様よ。
自分で自分に様ってそれはないぜ。
ないわね。
ひどいわよ!
「お嬢様への取材でしたら正式にアポを取ってからにしていただきたいのですが」
コントを始めた私達の横でメイドが鴉を追い払おうとする。
「とのことですがレミリアさん取材よろしいですか!」
「構わないわよ。むしろスカーレットの名を知らしめるいい機会じゃない」
そう、それじゃあ私は帰らせてもらうわ。これ以上妖怪の戯言に付き合うつもりは毛頭ないもの。
「それじゃあ霊夢さんの分は適当に書いておきますか」
「ぶっ潰されたい?」
「冗談ですよ」
本気で殺気を向けたのに涼しい顔して受け流された。ああ、一番やりづらいタイプだわ。
ほんとこれだから妖怪は嫌なのよ。
「少し想定外があったけれど概ね上手くいったようね」
紅魔館で行われていた戦闘が終わり後処理に入った。もう見るものもないので隙間を閉じ隣で見ていた藍に話しかける。
「ですがルールの浸透が完璧ではないということも同時にわかってしまいました」
やはり貴女はそれを言う。だけれど、初めてのルール内での異変なのだからあれくらいは想定済みよ。むしろ後数人くらいルールを守らない輩が出ると思っていたのだけれど。
「それにあれは封印が解けてしまったという不幸な事故よ。気にすることないわ」
「氷精の件もですか?」
「あれはちゃんとルールに沿っていたじゃない。まあ少し怪しいところがあったけれどいちいち指摘していたら肩苦しくてやっていけないわよ」
「それはそうですけれど……」
それに鬼や一部の子は弾幕が苦手だったりすることもあるのよ。あれくらい自由度があっても文句は言われないわ。
「紫様がそうおっしゃるのであればそれに従いますが」
それよりも、そろそろ食事を作らないとまずいんじゃないかしらね?今日はお客さんが来るのだから。
「そろそろ来る頃かしら……」
隙間に手を入れ玄関の扉を開ける。ついでだからそっと覗き込んで見ればやはりそこには旧友の姿があった。
「少し早く来ちゃったかしら」
「いいえ、丁度良い時間よ」
庭師は…急用でお留守番といったところかしらね。手伝い手が少なくなって藍は大丈夫かしら?
霧のせいで一時は気候に変化があったけれど一応今は秋である。神社の木々は紅葉の色を見せているし食事だって秋の食材がメインに並んでいる。
だからなのかいつもの服では少し肌寒くなってしまう。
仕方ないから上着一枚を羽織って外に戻れば、さっきよりも心なしか人数が増えているということに気がつく。
見間違いというわけでもなさそうね。
でもどうでもいいか。好きで馴れ合いたい訳ではないし。ただ禍根を残さないようにしましょうねと言う紫の気まぐれのようなものなのだから。
「にしてもなんで宴会を開くって言ってこんな集まるのよ」
「騒ぎたい連中じゃないのか?」
少しだけ馬鹿騒ぎしている連中とは距離を置いて酒を煽っていればいつの間にきたのか魔理沙が隣で酒を煽っていた。
「騒ぎたい連中ねえ……」
「まあこれくらいが丁度いいんじゃないのか?」
そうね……あまりピリピリしててもこっちの気が滅入るだけだからこのくらいがちょうどいいわ。でも紅魔館相手にしか伝えていないのにどうしてこんなに部外者が集まったのかしら?情報漏洩…シャレにならないわよ。
「貴方達がメインなのにどうしてそんな端っこにいるのかしら?」
いつまでも騒ぎの輪に入らないでいると向こうからわざわざやってきた。レミリア、あんたもう少し傘の中に入っていなさいよ。腕から煙が出ているわよ。
「じゃあこっちに来たらどうだ?それが招待された側のマナーじゃねえのか」
ああ、めんど臭いわねえ。こっちだってあんな馬鹿騒ぎに付き合ってられる余裕はないのよ。
「言っちゃえばいつもお茶とかお菓子を集っているあんたが一番マナー守りなさいよって話なんだけど」
「普段のことを蒸し返さなくても…」
「残念ね。結構執念深いのよ」
酒が回っているからか私も魔理沙も口が軽くなっている。まあそれでも完全な罵り合いに発展しないようにという理性くらいは残っているらしい。
気がつけば騒ぎの輪が私たちの周りになっていた。
それに魔理沙はいつのまにかフランに絡まれていた。あいつもよく変な奴に好かれるわよねえ。
ああ…それは私もか……
酒の勢いもあってか側にいたレミリアや咲夜とたわいもない話をしていたら、目の前に料理が置かれた。
筍と椎茸の和え物のようだ。
誰が作ったのかしら?
私は料理の才能が絶望的だからこういったものは作れない。
顔を上げてみれば、そこには見るからに秋ですよと言っている格好の少女が2人いた。
いやもう秋を体で体現しすぎでしょ。片方は服のセンスが壊滅的だけれど。
「あんた達は?」
「え⁈私たちの事知らなかったの⁉︎」
服のセンスがある方がなぜか露骨に驚く。
いや誰よ。
わたしだけが知らないってわけじゃないわよね?ほらレミリアだってなんかキョトンとしてるし。
「秋を司る神なのに…」
「仕方ないですよ。だって初対面じゃないですか」
服のセンスが無い方が諦めたような口調で慰める。
なんだ神様なのね。道理で雰囲気がおかしいと思ったわ。でも秋を司る神さまなんていたのね。ってことは春とか夏を司る神もいるのかな?どうでもいいけれど…
「それじゃ初めましてということで…紅葉の神、姉の秋静葉よ」
「豊穣の神、妹の秋穣子です」
「…八百万の神?」
酒で回転が鈍っていた頭が一つの答えを導いた。というより思い出したと言った方が正確ね。
「ええ、そうよ」
なんだ御神体と一応同じ存在じゃない。私の神社がなんの神を祀っているのか全然知らないんだけれど…
「秋の売り込みでもしにきたのか?」
魔理沙が出された料理を手元に持っていこうとしていたのでその手を叩く。みんなで食べるんだから持って行っちゃダメ。
「ええ、だって紅い霧のせいで秋の恩恵を受けられない人もいたわけだしそれにここまでヒトが集まる場所なら私たちへの信仰も少しは得られるし」
「元から信仰得られているでしょ」
「まあね。でもこういうのはちゃんとやっておかないとすぐ忘れられちゃうからね」
静葉の言うことも尤もね。毎回ではないけれどある程度顔出しをしたり名前を売ったりしておかないとすぐ忘れていってしまうわ。
「それで料理を振舞っているのね。折角だし紅魔館で料理人やってみない?」
なにヘッドハンティングしようとしているのよあんたは。
「残念だけれど専属料理人になるつもりはないの」
穣子が答えたってことは料理全般、は彼女がやっていたという事ね。ってなーにしょぼくれてるのよあんたは。酒飲んで気を紛らわしなさいよ。
「そういえばこの料理どこで作っているんだぜ?」
「勿論神社の台所だけれど?」
なにしれっと不法侵入しているのよ!勝手に入っちゃダメって書いてあるでしょ!
「この場で退治されたいの?いくら神でも許さないわよ」
「「お賽銭入れたから許して」」
「いくらでも出入りしていいわよ。それに台所も使い放題」
「「「露骨すぎる掌返し」」」
煩いわね。お賽銭をくれる子に悪い子はいないわ。
ほらどんどん作ってきなさい。調味料もいくらでも使っていいから。
あ、お酒飲む?確かワインがあったはずよ。レミリアが持ってきたあれ…私どうにも好きになれないからいくつか持って帰っていいわよ。
「欲望って怖いわね…」
「しょうもない欲望だぜ」
風が木々を揺らし、赤く色づいた葉を地上に降らせる。
やっぱ平穏って良いわね。こういうのを純粋に楽しめるから。
「うん、味付けはこのくらいかなあ…」
初めて神社の台所を使ったけれど結構使い勝手良いじゃん。お姉ちゃんから料理殆ど出来ないとか聞いていたのに拍子抜けだなあ。ああ、お姉ちゃんがずっと立っていた場所だからこんなに準備が整っているのか。
そろそろ2人が戻ってくるかなあ…
後ろの方で足音がする。少し軽い足取り…2人のものじゃないね。ってなると…
料理を作る手を止めず首だけを後ろに向ける。外套を深く着ているから視界が制限されちゃって見づらいんだよねえ。
「結局料理を作っているのね」
そこにはお姉ちゃんがいた。
なんだ来てたんだ。なら一言声くらいかけてよね。
「だってあまりにもお摘みが少なかったんだもん」
いくら料理ができないからってあれは少なすぎるよ。多分各員が持ち込んだものだけでやりくりしようとしたみたいだけれど。まあそれで手を貸しちゃう私もお姉ちゃんに影響されているとしか言えないんだけれど……
でもお姉ちゃんこっちに来て良かったの?事情は藍さんから聞いている。だからこそお姉ちゃんがここに来るとは思わなかった。だってあの博麗の巫女だもん。絶対勘で見つけ出すよ。
「大丈夫よ。様子を見にきただけだからもう帰るわ」
そっか……
それはそれで安心したようななんだかなあって言うような不思議な感じだ。
「それはそうとしてこいし、服は返した?」
あの紙袋に入っていたやつでしょう。勿論!
「勿論だよお姉ちゃん」
まさかクリーニングだけじゃなくて修繕と改造までしちゃうなんてね。少し面白いからなにも言わないでおいたけれど、あれに気づいた時どうなるかなあ…気になるなあ。
「この料理持って行っていいかしら?」
不意にお姉ちゃんの後ろに人影がたった。
丁度静葉ちゃんが来たみたい。意識を一瞬だけお姉ちゃんから外す。
「いいよー!どんどん持っていってね!」
再び意識を戻した時にはお姉ちゃんは既にいなくなっていた。静葉ちゃんも気づいている様子なかったしもしかして無意識の方に意識をずらした?
神出鬼没…最早あれ覚りの域を超えているよ。
私も出来なくはないけれど結構集中しないといけないから大変なんだよね。
まあ気にしないようにしよっと…
「せっかくだし温泉に行きましょうか」
お酒を飲んでどこかで食べたことあるような味付けだなあとお摘みをつまんでいるとレミリアが急にそんなことを言い出した。
「幻想郷に温泉なんてあったの?」
一応巫女だしいろんなところを飛んでいるけれど一度も温泉なんて見たことないし温泉があるなんて噂もないわよ。一体どこに温泉が…
「地上にはないわ」
地上にはない?ということは仙界とか霊界とか冥界とかそう言ったところかしら?でもそんなところにあったら温泉と呼べないんじゃ…
「地底にあるあそこだよね!」
私とレミリアの合間にフランが割り込んできた。地底?
ああ、そういえばそんなところがあったわね。行くのも時間がかかるし独自の自治を行なっているらしいから不干渉扱いにしているけれど。そういえばあそこは誰でも自由に出入りできる場所だったわね。
「地底にある温泉ですか⁈私行ったことないんですよ」
門番まで交ざってきた。秋で少し肌寒くなってきたから温泉の行きたい気持ちも分からなくはない。
「今回ばかりはみんなで行きましょう」
「そうしますとお屋敷の管理が…」
「私が留守番していてあげるから行ってきなさい」
紫の魔法使いが会話に参戦した。もう私達離れた方がいいわね。ここにいるとなんだか邪魔になりそう。
「もちろん貴女達もどうかしら?」
あ、私たちも誘われていたのね…なんとなく察してはいたけれど。
「それ以前に地底ってなんだ?」
「あら魔理沙知らないの?」
意外ね。魔理沙のことだから知っているかと思ったわ。確かに人里じゃ知名度ないけれど。
「さあな。聞いたこともないんだが…」
うーん…ここまで知らない人がいると少し心配だわ。力のない者にとって情報ほど武器になるものはないというのに……
「人間はほとんど行かないから仕方がないわ」
レミリアがそう挟むがそれとこれとは違う。知っているか知らないかというのの重要性は直接生死を分ける。
「良いところよ。温泉もあるし地上じゃ見られない珍しいものも多いわ」
あんたねえ…地底が危ないの分かっていてそう言っているの?だとしたら正気じゃないわよ。もとより妖怪相手に正気も何もないんだけれど…
「でも地底は地上で生きられない。あるいは地上を追放された者達の溜まり場でもあるわよ」
このままだと魔理沙が勘違いしそうだから付け加えておく。
「それも事実ですが、治安はむしろ地上より良いですよ。上に立つものがしっかりしているおかげです」
咲夜…あんた結構毒吐いているわよね。しかも自覚がないってのがほんとアウトよ。
ほらレミリア凹んでるじゃないの。
「ふーん…私はパスだな」
少し悩んでいた魔理沙は結局地底に行くことをやめた。
いくらあんたが強くてもあまり行くべきところではないわ。弾幕ごっこが通じるかどうか怪しい場所だし地上を追い出された奴らって基本的に強い奴らばかりだし。治安が良いと言ってもそれはそちら側の住人にとってはでしょ。
「あら、珍しいものがあるかもしれないのに?」
「あまり行く気がしないってのが一つ。後はそっちの図書館の方がよっぽど面白そうだからな」
あーそうね。魔理沙にとってはそっちの方が宝の山よね。確か十何万冊だっけ?全部魔導関連の書物なんでしょう?正直数だけ見れば幻想郷一の図書館よね。
「本を盗まなければ自由に使って良いわよ」
「盗むんじゃないんだぜ。借りるだけだ」
「研究が終わるまで借りるって結局借りっぱなしになってるわよ」
あーまた始まった。どうして魔法使いって仲が良くないのかしら。いや魔女と魔法使いだから正確には違うか。どうでも良いけれど……
ちょっと弾幕ごっこをやるならあっちでやってきなさい!ここで暴れたら色々と大変なことになるじゃない!
咄嗟におつまみの乗ったお皿を避難させる。
「おっとすまんな!」
お祓い棒を振り回して魔理沙と紫のもやしを追い払う。
全く…迷惑しちゃうわ。
ってあっちでまた妖精巻き込んでいる…あいつら周り見えてないの?
あ、大妖精にまとめて吹き飛ばされた。いい気味よ。
「霊夢はどうするのかしら?」
あん?私?そうねえ…温泉は魅力的だけれど神社に備え付けのお風呂で間に合っているから結構よ。それに……
「地上で何かあった時にすぐに駆けつけられないからあまり行きたくないのが本音ね」
「そう、無理にとは言わないわ」
あら、振られちゃって寂しいのかしら?あんたも案外かわいいところあるわよね。
「お嬢様は見栄っ張りですから」
「なによその言い方!」
「え?私は別に誉めただけですけれど…」
あれで褒めたって言えるの?出会った時から思ってたんだけれどあんたのメイド長ちょっと天然過ぎるんじゃないかしら?ここまでくると少し重症よ。
「咲夜それ本気?」
ほらなんか色々とフリーダムで破茶滅茶なことばっかりやってきたあの妹にまで心配されているわよ。まさかあんた…
「狂気?」
「「そういうことじゃない」」
なによ。口を揃えて否定しなくてもいいじゃない。