古明地さとりは覚り妖怪である   作:鹿尾菜

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番外編 短編とお姉ちゃん

『祭り』天魔の場合

 

毎年恒例である妖怪の山の祭りに天魔から正式に招待された。

 

今までも柳くんに連れられて何度か参加はしていましたが正式に招待されるとは……種族が妖怪の合間で公になってしまったにも関わらずである。

結局天狗の思考は分からない。

彼らがなんの目的で私なんかを残しておくのか。ただ利用されているだけなのかはたまた天魔さんの気まぐれなのか。

天魔さんの気まぐれなら良いんですけどね。わざわざ私のようなものと仲良くしようとする寛容さを持っている彼女なら…ね。

 

祭りの準備が行われる里に向かい見張り員に招待状を見せる。

何故かこいし達より早く来てくれと書かれていたのできてみたのですが、流石に早かったでしょうか。

 

 

ふとそんな不安がよぎったものの少しして案内の大天狗が来た。…あ、この方前にも案内してくれた方ですね。

完全に私の対応係やらされちゃってますね。

内心嫌がってそうですけど…仏頂面で表情から読み取ることはできないし持ってきた差し入れを渡しても頷くだけで喋らないし…やっぱり嫌われてるんですね。当たり前だから今更なんとも思いませんけど。

 

案内された部屋で待つこと数分。礼装と言うか催し物の時に着る特殊な天狗装束女性用を着た天狗が入ってきた。

ただ、サングラスを着用しているし誰でしょう…

 

 

 

 

「あの……どちら様?」

 

「分からないの?天魔だよ天魔!」

 

「嘘だ‼︎」

 

だって天魔さんがこんな胸大きいわけないじゃないですか‼︎

「いや、俺だよ」

 

そう言った直後、背中を撫でまわすような天魔さん特有のオーラが体を包み込む。確かにこのヒトは天魔さんだ。

 

 

なんで巨乳なんですか!普段はあんなにストレートで男と見間違えるほどなのに!

 

 

「普段はサラシ巻いてごまかしてるからね。いやーほんときついわ。まあこの状態でも肩凝るのには変わりないけどね」

 

「いやいやサラシでどうにかなるってレベルじゃないですよね」

 

どうしてこれがあれに収まるのか……不思議だ。

 

「祭りの時くらいしかこんな格好しないからな。どうした?もしかしてさとり気にしてるの?」

 

「全然、むしろ女の子っぽいところがあったんですねって思いました」

 

「もう!調子乗んねーの!」

 

口調さえ申し少し女気があっても悪くはないと思うのですが……今更どうこう言うわけにもいかないです。

 

「と言うかその服着るんですね」

 

正直なんでこのデザインが流行っちゃたのやら

これ元々柳君が新しい服が如何の斯うの言うから冗談で描いたやつだったのに…気がついたら催し物の時には絶対になってた。どう考えてもダメな気がするし抵抗のあるヒトだっているでしょうに……

 

「それにしても暑い!」

 

「……だからと言って服の胸のところを手で広げたりしないでください」

 

「ええ‼︎良いじゃん!」

 

良くないよ!

 

「後暑いからって下のヒラヒラをパタパタさせないでください」

って言うかなんで履いてないんですか?一応それ履くための下着も用意したはずなんですけど…

まさか伝わって無かったですか。

 

「あれもダメこれもダメって…ここ俺ん家なんだけど」

 

 

「程度の問題です。少なくとも脱ぐなら脱ぐ誘うなら誘うでちゃんとしてくれないとどうすれば良いかわからないんです」

 

私の言葉に何を思ったのかチクチクと腕組みをして考え始める。

 

 

「じゃあ…」

 

何かを唐突に閃いた天魔さんが急に視界から消える。と思いきや体に変な衝撃が加わり気づいたときには仰向けに倒されていた。

 

「な…なにを⁉︎」

 

「何って……全然反応ないからもう襲った方が良かったかなって」

 

「やめんか変態鴉」

 

腹に蹴りを入れ回し落とす。

全く、迷惑極まりない。それに私はそっちの気はありません。と言うかそんな感情は私にはないですからね…

 

「やっぱりダメか」

 

「恋愛とか恋とかそんな感情私にはないですからね」

 

「なら教えてあげようか?」

 

イケメンスマイルでそんなこと言われても体系的に合わないし異性に恋愛感情とか本気で無理なんでやめてください。前世記憶が拒絶反応起こして吐き気に繋がりますから。

 

「後乱れた服直してください」

 

「あれあれ?まさか変な気に……」

 

「いえ、大天狗達を呼んで連行していってもらおうかと……」

 

 

「すいません調子乗りましたあああ‼︎」

 

見事な土下座が決まった。大天狗呼ばれるのはダメなんですね。

 

 

 

「そもそもなんでそっち系に走るんですか……」

 

「だってさとりん可愛いんだもん」

 

誰がさとりんですか。

と言うか初めて呼ばれましたよさとりんって…いうヒトいたんですね。さとりん……ネタだけかと思いましたよ。

 

 

 

そんなことしているうちにいつの間にか時間になり、調子を取り戻したと言うか平常運転に戻った天魔さんと、こいし達に合流。

祭りを堪能しまくってました。

 

ただ、天魔さんのこいしを見る目がなんだか鋭い時があって不安になりましたけど…やっぱりあそこで相手して溜まってるもの吐き出させた方が良かったですかね。

 

 

 

 

 

『こぼれ話』

 

案内の大天狗

 

どうしよう。何か気の利いたこと言ったほうが良いんだろうけど…何話せば良いんだ!ああもう!こんな可愛い少女がせっかく差し入れをくれたのに口下手で何も言えないなんて!

 

と言うかなんで俺なんだよ!表情硬いし基本人としゃべれねえ俺なんだよ他にやりたいって言ってたやつ沢山いただろ!

 

確かにあいつらさとりさんを是非くれって凄いわかりやすい下心隠そうとしない連中だけどそれを除いてももっと適任いただろ。

まあ、そっちはそっちでさとりさんをいつか家に連れ込んでとか考えてる思考がやべえやつばっかりだけど……あれ?それ考えたら消去法で俺しか残らねえじゃん。

大丈夫なのかよ大天狗…これまずよ。さとりさん誰が守るんだよ。あ、天魔さんとかこいしちゃん達か。

 

 

 

『お姉ちゃんとお風呂』

 

 

 

「お姉ちゃん!お風呂はいろ!」

 

時々こいしの行動が読めないことがある。

こいしは妖怪の性質が私とほぼ同一の為能力が思考できない。それだけなら大した問題はない。

昔からそうしていたように能力を使わないで語り合えば良い。

ただ、こいしの行動がたまに予期しない方に行ってしまい本当にわからなくなる。

 

今回も…そんなよくわからないものの一つ。本人が自覚しているだけまだいい方ですけどね。タチは悪いのですが……

 

「唐突ね。お風呂の時間はまだ早いと思うのだけれど……それよりもなんでわたしと入りたいの?」

 

わたしの問いに首を傾げながら答えを探している。

いやいや、どうしてそこで悩むのよ。

 

「そうだねえ…いくつかあるんだけど…柳くんが教えてくれた。水浴びだったけど」

 

「ちょっとぶっ飛ばしてきますか」

 

柳くん……なんてことを教えてるんですか!あなたの家族は曲りなりとも全員女性でしょ⁉︎なんでいっしょに水浴び…一回痛い目合わせないと気が済まないです。

どうしましょう?刀を新調しましょうかね?それも斧見たいな大きなやつ。

「お姉ちゃんが怖いよ‼︎」

 

「あら…ごめんなさい」

 

全く…私は何をへんなことを思ってるのでしょうか。

 

「それじゃさ!お姉ちゃん早くお風呂行こ!」

 

のんびりと円卓の前に座っていた私を引っ張って無理無理脱衣所に連れて行く。

まあ、こいしとお風呂なんて最近入ってなかったから別にいいです。断る事もないし

 

「お風呂の準備は出来てるのですか?」

 

「お燐に頼んだから多分もう出来てるよ!」

 

「そう……」

 

外堀はちゃんと埋めていたのですね。誰の入れ知恵かは知りませんが…

 

 

脱衣所に連れていかれたら後は流れ作業に近かった。

帯を外せば後は簡単に脱ぐことが出来る和服は布と肌が擦れる音を残して棚に収まる。

 

下着をパージする時に一悶着ありましたけど…

こいしが脱がせてあげるよと抱きついてきた時には焦りました。

やんわりと断ると涙目で懇願してきてどうしてそうなるのやらです。

結局下着は普通に脱いだしその上からタオルを体に巻いたので問題はないのですが…

 

「こいし、ちょっとは恥じらいとか無いんですか?」

 

「姉妹間で何を恥じらう必要があるのさ!」

 

そうですよね。普通そうですよね。

 

「いえ、なんかわたしまで恥を捨ててしまうとあなたに変なことされそうで困るのですが」

 

「変な事なんてしないよ。ただ、ちょっとお姉ちゃん肌綺麗だなあってすべすべしたいだけ」

あっけらかんと言うかあっさりと言うか…平然とそう言うことを言えるあたり度胸があるのか無いのか…

顔赤くなってるから度胸はないのか…

どちらにしても恥ずかしいなら言わなければいいのに…

 

「それはそれでダメな気がするのですが…まああんな事やこんなことじゃ無いだけマシと思えばいいか」

 

「お姉ちゃんの方がアウトだよ!」

 

「姉妹間でって言うとシスコンで…大体そう言う感じなんですが…」

 

「謝れ!すぐ全世界の姉妹に謝れ!」

 

シスコンには謝らなくていいんですかい。

 

まあこんなところで騒いでも仕方ないですし体が冷えてしまいますからね。

風呂場の方に移動。そう言えば風呂場自体が一人用なのですが小柄とは言え二人も収納できるのでしょうか。

 

そんなどうでもいいことを思いながら身体を洗おうとする。

 

「あ、わたしが洗うよ!」

 

「ほんと?ありがと」

 

一瞬だけへんな想像が頭を横切るがそんなことはありはずないかと思考を切り捨てる。

 

が…その直後私の前に回された手が胴体にあるわずかな膨らみを捉える。

そこは…普段触られるようなところでもなくいきなりくる刺激に耐えられるようなところでもなかった

 

「ちょ!こいしっ……ん!」

 

「わあ…お姉ちゃんの肌すべすべ…」

 

「あ…やめ…ん!」

 

わたしの声を聞いて更にエスカレートするこいしの手。背中にこいしの温もりが感じられた直後、体は素早く動いていた。

 

「やめんか」

 

へんな動きをするこいしの腕を掴んで浴槽に向かって放り投げる。

 

「ゲファ⁉︎」

 

おおよそ女の子が出すようなものとは思えないうめき声と水しぶきが上がる。

 

「あ…ごめんなさいこいし!」

 

「ゲホゲホ…お姉ちゃん容赦無さすぎだよ」

 

「ごめんなさい…背中とか胴体は触れられるとダメなの」

 

それは……どうして?

 

その問いが出る前にこいしはわたしを見て何かを察したようだ。何を察したのか…

 

「体に触れた感触があった時には身体がバラバラになりそうな衝撃と一緒に吹き飛ばされる事が何回かあったものですから…身体が覚えてしまっているよ」

 

さっきのはその反射神経。とは言えど最低な姉ですね。妹に手を上げてしまうとは…

「そうなんだ…なんかごめんね」

 

「気にしないで。わたしの都合だから」

 

浴槽から出てきたこいしの頭を軽く撫でる。

少しは落ち着いたのか水に流すのが早い性格なのか顔を上げたこいしは清々しい笑顔だった。

 

「それじゃあお姉ちゃん!一緒に入ろう?」

 

「ええ、そうするわ。ちょっと狭そうだけど」

おっきく作ればよかったかなとちょっとだけ後悔したもののこいしは気にした様子はない。

まあ……そんなもんだろう。

 

大きすぎても寂しいだけですから。

 

こいしの隣に体を下ろす。溢れ出たお湯が滝のように流れ心地の良い音を奏でる。

 

「こうしてお風呂はいるの久しぶりだね!」

 

「そうですね……昔はよく甘えて来てて…」

 

「まだ私が実年齢と体型が一致してる頃だね」

 

こいしが手をかざしてなにかを懐かしみはじめた。

それは人間の頃?それとも、私達の記憶?

心を見れたらこんなもどかしい気持ちをせずに済んだのでしょうね。

 

 

 

 

「ねえお姉ちゃん。怪物ってなんなの?」

 

そろそろ上がろうかと思い体勢を変えたところでこいしが腕を掴んで引き止める。

 

「怪物…?そうね……」

 

怪物ですか…何を思ってそんなことを聞くのか知りませんけど…

 

「よくわからないけど…少なくともこうして一緒にお風呂に入っているこいしでは無いわね」

 

「……そっか」

 

何かあったと言うよりかは何かを思い起こしていたと言った方が良いのでしょうかね。

わたしの問いが答えになったのかなって無いのか。まあ気にすることでもない。

 

「あーー!悩むことでもなかったわ!そう言うわけでお姉ちゃん!prprさせ……」

 

「させるかアホ!」

 

急に立ち上がって拘束しようとしてきたこいしを組手でねじ伏せる。

 

そのまま軽く関節を締める。

 

「イタイイタイ‼︎ごめんってばお姉ちゃん!」

 

「なんか……可愛い…」

 

「アウトだよ!お姉ちゃん!」

 

冗談ですよ。

拘束を解いて楽にしてあげる。よほど痛かったのか半分泣き目になっているのが…やっぱりかわいい。

「もう!先出てるね!」

 

拗ねちゃった……と言うか照れ隠しですね。

 

 

「いやー眼福だった」

 

 

「お燐?ちょっとこっちに来なさい」

 

脱衣所で何やらやっていたお燐は後で可愛がってあげないとですね。

 





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天魔のイメージ

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