古明地さとりは覚り妖怪である   作:ヒジキの木

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depth.150さとりは魔術師と戯れたい

「お空、折角だから人里で買い物でもしないかしら」

昼下がりにふとお空にそんなことを聞いてみた。大した理由はない。ただ、暇そうにしていたからというだけだ。

 

「さとり様とですか!行きます!」

私と一緒に出かけるのが楽しいのか急に羽をはためかせながら彼女は自分の部屋に駆け上がっていった。だけれどあれは着替えを選ばないとまずいやつですね。

最悪服を脱いで下着だけで外に出ようとしたこともありましたし。鴉の時のままならそれでも問題ないのですが人型でそれは大問題以外の何物でもない。

「さとり様準備できました!行きましょう!」

 

「お空スカート忘れているわよ!」

結局スカートを穿かせる為に部屋に連行する羽目になった。後上も冬用を引っ張り出してきてたのでまるまる交換することになった。

 

 

 

 

初夏の日差しが強まってきた季節流石に昼間に出かけるとそれ相応に暑い。

とは言っても私は外套無しでは外を歩けないから直射日光で暑いというより篭った熱で暑いのだけれど……

 

「お空暑くない?」

 

「まだ涼しい方ですよ」

 

まあそうよね…ノースリーブのシャツに下は緑色のスカート。おまけに麦わら帽なんだから涼しいわよね。一応外套の下はワンピースなんだけれどやっぱりもう冬用はだめね。夏用の外套出さないと…

 

「さとり様と買い物久しぶりだなあ…」

多分今のお空の背中では羽がはためいているのだろう。流石に背中の羽は目立つのでこいしに魔法で消してもらったから見えないけれど。私もいつか使えるようになりたかった……まさか妖怪は基本的に魔力が使えないなんてね。

 

「そういえば最近こいしを見かけないけれど…どこで何をしているのかしら」

 

「宴会に行ってるからじゃないですか?」

 

宴会?最近地底の方につきっきりだったから地上で宴会が開かれているなんて知らなかったわ。

「宴会で帰ってこないってことあるの?」

 

「え?あるんじゃないんですか?私も灼熱地獄の管理がありましたから行っていませんけれど…」

そうだろうか…それでもここ数日見かけないのはおかしい…

そういえば何かあったかしら…ちょうどこの時期といえば…

 

「あ……」

記憶の片隅に半分忘れかけた存在のものをようやく見つけた。

「どうしたのですか?」

 

「なんでもないわ。うん……原因に思い当たる節があっただけよ」

 

「そうですか…」

買い物ついでに少し探りを入れてみましょう。

 

 

 

 

 

 

「やっぱり最近宴会が多いらしいわ」

人里で買い物をしていれば色々な噂が入ってくる…まあ、流れてくる人々の噂は結局のところ宴会の話と祭りの話ばかりだ。

 

買い物ついでに軽く探りを入れてみるとやはり結構な頻度で起こっているようだ。本人達に自覚はないようだけれど……というよりも宴会のある日常が何度も繰り返されているようなそんな感じだ。ただ本人に自覚はない。というよりどうも昨日の記憶が曖昧らしい。

 

「それくらいなら別に良くないですか?」

お空の言う通りなのだけれどね。

「まあそうなのだけれど……」

 

あとで見つけたら注意しておきましょう。と言っても見つかるかしら…多分普段は霧となって幻想郷に拡散しているはずだから…

 

まあ見つけようと思えば見つけられるのですけれど……

でも少し面倒ね…見つけるというよりどちらかといえば探り出すに近い。

私だけでは人数が足りない。

 

 

 

 

「それでどうして紅魔館を訪ねるのかしら?」

紅魔館の台所に直結している裏口から建物に入ったら目の前にレミリアさんがいた。少し二日酔いのようですね。鬼が二日酔いするって珍しい……

「特に意味なんてありませんよ。たまたま近くを通ったから寄ってみただけです」

ちなみにお空は荷物と私の外套を持って先に戻ってもらった。ここに寄る理由は完全に私事ですし。私と一緒にいたいと少しごねたけれどアイスを作ると約束すればあっさりと引きさがった。

「ふうん……」

反応がどうにも薄い。やっぱり二日酔いが酷いのだろうか…よくよく見れば少し顔が青いですし……吸血鬼って肌が青白い方だからわかりづらいんですよね。

「……もしかして二日酔い辛いですか?」

 

「昨日どうも飲みすぎたらしくて」

辛そうに答えるレミリアさんだけれどどうしてそうなるまで飲んでしまったのかは思い出せないようだ。

 

「何をしにきたのか知らないけれど宴会に行きたいから程々にしてね」

紅い瞳が私を見据える。二日酔いにもかかわらずその瞳には力が灯っていた。

運命でも見据えているのだろうか……

「やっぱり宴会に行くんですね」

 

「そうね……でも明日で終わりそうね」

レミリアさんはどこまで分かっているのだろうか…

心を読んでみたい衝動に駆られたけれど流石にそれは自重しておく。今は外套を脱いでいるのでワンピースの布一枚を隔ててサードアイが収まっている。

「あ!さとりだーー‼︎」

急に体に衝撃が走った。体が前のめりになってバランスが崩れる。咄嗟に足を一歩前に出して転倒を防ぐことに成功する。

振り返ってみれば顔のすぐ近くに金髪の髪が揺れていた。どうやら私の後頭部に顔を埋めているらしい。

金髪と一緒に白い帽子が揺れる。

「あーさとり成分の補充…」

背中から飛びかかったフランを軽く撫でればそんな独り言が聞こえてきた。知らないふりをしておこう。

「羨ましいわ…」

レミリアさん?何が羨ましいのですか?

「お姉様はいつも私と一緒に寝ているじゃん」

ふーん……

「それは言わない約束でしょ‼︎」

フランが言ったのは結構な爆弾発言だったらしくレミリアさんは急に顔を真っ赤にして抗議し始めた。さっきまでの余裕そうな笑みや態度はどこへ行ったのだろう…

「……聞かなかったことにしますね」

 

「やめて!なんだか悲しくなってくるわ」

 

じゃあどうしろというのですか。

「……見せつけちゃえ!」

背後にいたフランが急に私の腕に抱きついてきた。暑苦しいのですぐに引き離す。いくらワンピースでも密着されたら暑いです。それにレミリアさんがショックを受けていますし…

「フラン…それは悪魔の所業です」

 

「吸血鬼って悪魔じゃなかったっけ」

西洋ではそうかもしれませんけれど日本語にすると吸血鬼で鬼なんですよね。

「一応鬼じゃないんですか?まあ西洋では悪魔で通りますけれど」

どちらにしろ褒め言葉になってしまいますね。

「うー……」

 

「はいはい…これでどうですか?」

流石にこのままだとレミリアさんが可哀想だったので頭に手を置いてあげる。

「なぜあなたは私の頭を撫でているの?」

なんだか可哀想だったから……

「撫でちゃダメなんですか?」

 

「そういうわけではないけれど……」

 

急に無言になってしまう。何でそうなるんですか…ってフランも何黙ってニヤニヤしているんですか。

 

 

「……夏なのにここは涼しいですね」

仕方がないので話題を切り替える。

「あ、気づいた?結構涼しいでしょう」

平常運転に戻ってくれたようです。

「地底もある程度快適に過ごせるようにはしていますけれど灼熱地獄後や温泉用の熱湯があるのでどうしても熱気がこもるんですよね」

仕方がないことなのですけれどね。それでもある程度は涼しくなっているのだ。ある程度は……

「でしょうね。ジメジメして狭そうな地下じゃそうなるでしょうね」

少し偉そうにするあたりようやく元に戻ってきたようですね。

「……宣戦布告していいですか?」

だけれど少し頭にきました。

「冗談!冗談だから!ついいつもの癖で……」

雰囲気が変わったのを察したのか慌てだした。

「へえ…いつもはそう思っていたんですか」

ふーん…

「ごめんなさい!謝るから!」

 

「冗談ですよ」

 

事実を言われたくらいで怒ったりはしませんよ。慣れてますからね。

 

「お姉様……いくらなんでも酷いと思う」

フランまでこっちの味方についてくれるの?レミリアさんがなんだか可愛そうなのだけれど……

「地底がそのように思われているのは承知していますしその問題を解決しようにもうまくいかないのが現状ですから」

 

「苦労しているのね……」

 

「貴女ほどじゃありませんよ」

レミリアさんは味方無しのこの世界に乗り込んできているんですから私より苦労も多い。だって簡単に周りに頼ることができないのだから……周囲が潜在的な敵というのは何かと気苦労も多い。

地底はどこに対しても中立の立場を取っているから表立って支援することもできない。そんなことをすれば反発が出る。特に山…

あそこは吸血鬼異変の時に最も被害が大きかったところだからなおさらだ。

 

 

「……?」

不意にレミリアさんの後ろに気配を感じた。ほぼ同時に気配の正体が姿をあらわす。

「お嬢様、流石に今はお休みになられてはいかがですか?後は私が対応しますので」

紅魔館で使用されているメイド服に身を包んだ狐耳の女性がレミリアさんの横に並ぶ。

「そう、じゃあお願いね狐」

交代するようにレミリアさんが後ろに下がる。

「玉藻です」

まだ名前で呼ばれていないのか……いや、ただふざけあっていただけですね。

 

フランを連れたレミリアさんが台所から出て行き、この空間は私と玉藻さんだけになった。

 

「さて、私に何か用事のようですけれどその前にお茶にしませんか?」

そう言って椅子に座ることを勧めてくる。

いつまでも立ち話というのはあれだけれどべつに長々といる訳でもないのだからこのままで良いと断っておく。

 

なのでさっさと本題に入ってしまいましょう。

「用事というより手伝って欲しいのですが良いですか?」

手伝いの単語に耳が反応した。雰囲気が一気に変わる。

「宴会が続いているということですね」

 

「あら、ご存知だったのですか」

鋭い…というより薄々察していましたね。

「当然ですわ。私はメイドですもの」

メイドって何だろうか……

「流石メイド……魔術師ですね。洗脳系の類は効かないのですか」

大まかに正体はわかるのですが何となくぼやかしておく。初めて出会ったあの時はわかりませんでしたけれど今なら…十分理解できる。その特徴的な気配……

「洗脳系…確かにそうですねえ…私に洗脳系が効いたためしはありません。尤も、今回の場合は洗脳系ではなく記憶の改変に近いものですけれど」

そこまで既に推理していたのですか。

「元凶を見つけ出すのを手伝ってくれますか?」

まあ元凶というより原因である鬼なのですが…近くにいることはいるのですが見つけるとなると話が変わってくる。

「いいけれどどうして私なのかしら?」

他にも候補がいることにはいますよ。ただ、貴女が一番確実に見つけられると確信があるんです。

「見つけるのは得意でしょう」

 

「確かに得意でありんす。ただ、鬼と戦うのは御免被りますわ」

 

「大丈夫ですよ見つけるだけでいいんですから」

多分彼女は宴会を楽しみたいだけ…今年は冬が春を圧迫したせいで花見などを満足に出来ていない状況ですから。

「わかりました。ただ現時点では拡散しすぎているので、探すのは宴会の時になったらで大丈夫でしょうか」

なるほど…やっぱりそういう結論にたどり着くのですね。

半分納得……でも少し腑に落ちないところがある。まあ半分納得できただけよしとしましょう。

「大丈夫ですよ。彼女はただ宴会を楽しみたいだけのようですし直接危害を加えるような危険性の高いものでもないですからね」

 

実際危険性はないに等しい。だけれどやはり異変である。霊夢が気づいているかはともかくだけれど……

「ご主人様に物忘れの癖がつかなければ良いのですが…」

 

大丈夫だと思いますけれど…それは何とも言えませんね。

「そういえば貴女も術にはまっていないのですね」

 

「術かどうかはわかりませんが地上に戻ったのが今朝なので……」

あとはただ単純に疑問に思ったのが今日というだけでそれ以前の記憶が抜けているとか…自覚できないところがこの術のお恐ろしいところだ。

「あら、そうなの?なら忘れないように私がおまじないをしてあげますわ」

 

「助かります」

おまじないをしてくれるということで突っ立っていると、玉藻さんは苦笑いのような少し呆れたようなそんな表情になっていた

「結構簡単に信用なさるのですねえ…」

へ?嘘だったんですか?でも嘘というわけではないようですけれど…どういうことでしょうか?

「魔術師が私利私欲を優先して動く存在なのは知っていますけれど貴女はメイドでもあるのでしょう」

 

「ええ、ご主人様は絶対に裏切らないメイドでございますわ」

でしたら大丈夫ですね。何も警戒することなんてないじゃないですか。

「ならそのご主人様の友人に手をかけるようなことはしませんよね」

 

「なるほど、頭の回りはまだ大丈夫なようですね」

 

「まだそこまで歳はいっていませんよ」

 

「千を数えている時点で歳はいっていますわ」

 

「そういえばそうでしたね……」

 

 

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