古明地さとりは覚り妖怪である   作:鹿尾菜

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depth.157永夜異変 下

その場所は今まで通ってきた部屋とはまた雰囲気が違うところだった。

別に何があると言うわけではない。ただ、部屋の真ん中で座っている少女の放つ威圧が全てを支配している。

 

「ようこそいらっしゃいました」

深々とお辞儀をする黒髪の少女。その姿はあの頃と変わらず絶世の美少女だった。されど彼女は通常にあらず。

「千年ぶりですね。姫」

 

「それはこっちのセリフよ。また会えて嬉しいわ」

 

こんな時でなければね。と呟いたのは幻覚だったのだろうか?

 

「お姉ちゃん……」

隣で黙っていたこいしを見れば複雑な視線で彼女をみていた。向こうは…大して気にした様子はなかった。

「ああ…こいしにとっては因縁かしら?」

因縁というか…彼女が原因で発生した戦いに巻き込まれて今に至るのだ。通りところで繋がっているようなものだろうか。だけれど…どこまで覚えているのやら……

「さあ?でもあれがなければ私はお姉ちゃんと会っていないわけだし因縁とは違うかなあ…」

確かにそうかもしれない。だけれど少し複雑なものなのは確かだ。

彼女は何もなければそのまま普通の人間としての生を全うしていたのだから。

 

「で…どうして目の前の人は昔も今も変わらないの?」

こいし?そこの記憶は受け継がなかったのね…でもだいたい分かっているんじゃないかしら?

竹取物語は読んだことあるのでしょう?

 

「こいしはどこまで覚えているの?」

 

「お姉ちゃん記憶の一部。その人と話しているところくらいかなあ」

あら…それだけだったら確かに仕方がないわね。でも普通わかると思うのだけれど…うーん……

 

説明しようかどうか悩んでいると、察した本人が口を開いた。

「私は不老不死の呪いに囚われた身。体はあらゆる変化を拒み、その存在をずっと固定し続けるのよ」

ふうん…不老不死ってそんなものなんですね。

 

「それって肉体が完全に消滅したらどうなるの?」

 

そういえばその場合はどうなるのでしょうね?それ以外なら変化がないである程度説明はつきますが……完全消滅した状態で変化がない云々ってどうなるのでしょうねえ。

 

「この世のどこか……でもそう遠くないところで復帰するわよ。尤も完全消滅なんて自体が多元に起こるものじゃないからわからないわ」

 

まあ普通にしていれば肉体が完膚なきまでに消失するなんてなかなかないですからね。あるとしたら…いいえ、忘れましょう。そのような大火力…あったら地球が何度壊されるやら…

 

「へえーそりゃ大変だねえ」

 

際痛みを感じないと言うわけではないのだから確かに大変だ。

ただ、痛みなんて一瞬なのだからものによりますけれど。

「ええ、でも慣れてしまえばどうと言うことはないわ。むしろ面白いわよ」

面白いのだろうか…自身が死ぬ…いや不死だから死なないとしても体を破壊されるのは嬉しくともなんともない。

 

「今回の異変もおんなじで楽しめたの?」

楽しめたんじゃなんでしょうかね?

「迷宮のおかげで分岐世界も多数あるようですからね」

おそらく彼女の楽しみのために作ったのだろう。迷惑極まりないと言うか…なんというか……

「ええ、作って正解だったわ。まあ結末は全て異変解決に帰納するから最終的には同じ結果で面白みがない物が多いんだけれど」

彼女が観測できる事象の中で私達はほんの一通りでしかない。その他の分岐世界がどのようなものになっているのか……理解はできない。

 

「分岐世界なんて観測できるの⁈」

こいし、知らなかった?って普通知っているはずないですよね。たしかにこれはある程度事情をわかっていないと推測は不可能ですからね。

「基本世界は一つよ。ただ、ある条件が重なると途中で分岐世界が生まれるの。もちろんそれは私しか観測できないし最終的に行き着くところは同じ結末だからどうと言うことはない。だけれど同時にいくつかの世界を味わえるから楽しいわ」

 

「なんだかすごい能力だね!」

 

「ええ、みてみる?」

サードアイでのぞいてみるかという事だろう。確かにできなくはないけれど…異なる世界の情報を頭に叩き込んで大丈夫なのだろうか?一応記憶を想起しているということで大丈夫だとは思いますけれど…それでも同時に複数の思考が混ざり込むとどうしても頭がこんがらがる。聖徳太子じゃないのだから…

「私はいいや。興味ない」

 

「私も分岐世界に興味はありません」

分岐世界をいくつもみたところでいまが変わるわけでもないですし。

「そう……」

 

「ところで、この異変もうやめにしませんか?」

一応友人として止めに行ってみる。まあダメでしょうけれど……

「それは無理ね」

案の定あっさり否定された。眉ひとつ動かさず…もしかしてこうなることを分かっていた?

「まあそうなりますよね…でもここは博麗大結界の中。月といえど簡単に攻めには来れませんよ。わざわざ隠そうとしなくてもいいじゃないですか」

実際この異変が起きた理由はよく分かっていないけれど…月からここを隠したかったというのはわかっている。ただその原因は不明。

「あら、貴女知っていたのね」

 

「お姉ちゃんどういうこと?」

どういうことと言われれば難しいですけれど…強いて言えば月に彼女を連れ戻したい人達と、月に嫌気がさして家出中の姫という関係としか言いようがない。実際そうなのだから……

「月から何が来たのか知りませんけれど今までもこれからも…おそらく月は貴女を連れて行こうとはしないでしょうね」

色々と事情はありますけれど綿月姉妹は現状維持の方針だそうですし。

「もうそんなに穢れが溜まっているのね…」

そういうわけではないようですけれど……

「地上に生きるのであればそうなのでしょうね」

 

「よくわからない‼︎」

 

「話すと長くなるわ…あれは雪が降る日だった」

 

「あ、もういいや…」

 

諦めるの早いわよ!大丈夫!ここ戦場だけれどカメラ回ってないし回想するわけでもないし10年前の戦争を探りに来た記者もいないわよ。

 

「……じゃあ巫女と一戦交えて楽しんでからにしましょう」

少し笑いながら姫は私に手を振った。そろそろ帰れという事だろう。ならばあまりグズグズしている暇はない。

「ところで、後帰り道は用意しているんですよね」

 

「もちろんよ」

そう言うなり、姫の背後に引き戸式の扉が現れた。それが玄関で見たものと同じ形のものだった。

ああよかった。これでまた迷宮を戻らないといけないなんてことになればそれこそ張り倒してその場で強制的に異変を解決させていましたよ。もしかして姫はそのような結末もすでに認識しているのだろうか?だけれどそれはわからない。

 

「ではご武運を」

 

「負けると分かっていてご武運?」

 

「負けるかどうかわかりませんから」

 

 

 

扉をくぐると、そこはいつしかの竹林だった。振り返ればそこには永遠亭が何事もなかったかのように立っている。

 

「帰りましょうか」

 

「そうだね」

 

背後の建物で再び爆発音がし始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

竹林を歩いていると、竹の陰から1人の少女が出てきた。

それは白髪の長い髪の毛を白地に赤の入った大きなリボンで乱暴にまとめあげ、上は白のカッターシャツで下は赤いもんぺのようなズボンをサスペンダーで吊っている真紅の瞳の少女だった。

ああ……まさか貴女から私に会いに来るだなんて…

「こんな夜更けに竹林散歩とは…道案内が必要かな?」

少し男勝りな口調。だけれど彼女は数千年前から変わらない味気ない雰囲気を持っている。まるで…あの後の状態から精神だけ時が止まっているようなそんな感じだ。もちろん普通に接していればわからない。私だからこそわかるものだ。

「こいし、先に行っていなさい」

 

「え…でも……」

 

「あれは私の問題ですから」

薄っすらと彼女の記憶もあるのだろう。こいしもあまり強く言ってこなかった。結局彼女のことは私の問題なのだ。こいしを巻き込むわけにはいかない。

 

「そうだな…そっちのお嬢さんはいない方がいい」

妹紅もこいしを巻き込みたくはないらしく、私と同じようなことを言い出す。

「わかった……」

流石にここまで言われたらどうしようもないのかこいしは握っていた私の手を離し空に飛び上がった。

あのまま帰るのだろう。確かにあれなら迷わない。

こいしが見えなくなるのを確認して再び彼女に向き合う。藤原妹紅…

竹林のさざめきが周囲をうるさく染める。

暫しの合間の無言を破壊したのは私。

「2人きりですのでここは腹を割って話すべきなのでしょうか」

 

「そうだな…お互い長い合間すれ違ったままのようだからな」

両手をポケットに入れたままの彼女の瞳は私をどう捉えているのだろうか?

その表情からは何も察することはできない。

「歩きながら…話しましょうか」

 

「そうするか……」

怒ってはいないのだろうか……

あるいは一撃でやれるタイミングを計っている?どちらにしても文句は言えない。あれは私が悪いのだから。

「怒っているんですか?」

 

「まあな……でももう千年も前の話だ。今更蒸し返しても虚しいだけさ」

やっぱり怒っているんですね…

「そうですか……」

 

「それに、父上を楽にしてくれたんだろ?」

図星…その結論に達したのですか。

「どうしてそう思うのですか?」

そう聞いてみれば、彼女は少しだけ寂しい笑みを浮かべて答えてくれた。

「今になればわかるさ……」

千年以上の時は不変の肉体よりも先に精神を蝕んでいっているらしい。

 

「……ええ、彼はもう助かるような状態ではなかった。彼自身から楽にしてくれと……」

正直に答えましょう…実際行動自体は私が最終的に手を下したのですけれどね。

「そうか……」

そう一言だけ呟いた。

「どうしてそれを言わなかったんだ…って言っても当時の私じゃ理解しなかっただろうな」

少しだけ無言を挟んで彼女が答えたのはそんな事だった。確かに当時の彼女は怒りに支配されていたから言っても分からなかっただろう。だけれど、もし誤解を解いたら彼女はその場で父を追いかけていた。だから言おうにも言えなかった……ただのエゴですよ。

「結局私を倒すために不死の薬を?」

 

「まあそれもあるし…原因を作った月人に復讐するつもりだったが…五百年くらいで気持ちが冷めた」

 

「冷めた……」

冷めちゃったんですか……意外、ではないですね。

「復讐した後のことを考え始めたらつまらない人生送りそうだったし、気づけばこの体も永遠に生きる罰に飲み込まれていたらしくてな…」

なんか…精神すら不変に近くなるというのにものすごく悟ってる。人間の精神である私だってそこまでは悟っていないと言うのに…

 

 

「似たようなことがあったのですね」

こっそりとサードアイで心を読んでみれば、何やら記憶が出てくる。これは……

「ああ……ちょっとした親子だったけど…親が妖怪に侵食されていてあのままだと残っている意識すら持っていかれかねない。なにより、あれは手を下すしか方法がなかった……」

生きながらにして近くにいる娘や人を傷つける存在になってしまう。それがどれほど苦しいものか…たしかにそれなら手を下す。

「で、盛大に恨まれたと」

だけれどその子の前でやっちゃったんですか。私と同じことをしていますね。

「まあ…結論からすればあの後和解したんだけれどな」

 

「殴り合っての壮絶な和解ですか」

しかも殴り合ってしばらくして愛が生まれるとか…なんですかそれ……一体間にどのような気持ちの変化が生まれたんですか?

古い記憶なので感情がどのように揺れ動いたのかまではわからない。

「まあ……色々あったんだよ」

 

で、結局その子を引き取って育てたと…でもその子は人間。貴女は不老不死。長く続くわけないじゃないですか。

 

「長くは続かなかったさ…終わりのあるものと…終わらないものだからな。それに…その時になってなんとなくさとりのやったことがわかるようになってな。理解したんだ…あんたの行動は間違ってはいなかったってな」

 

「間違えていますよ……」

 

「だとしたら私も間違えたんだな…不老不死の薬なんて飲んだばっかりに消えない罪を自ら背負ったんだからな」

 

「壮絶ですね」

 

「あんたに言われたくはないさ。地底の主なんだろう」

あら珍しい。よく知っていましたね。

「よく知っていましたね」

 

「竹炭を売っていると結構情報が入ってくるんだよ。まあこうして会うまでは半信半疑だったが」

半信半疑って…確かに覚り妖怪だけだったらそれが対象の私であるかどうかはわからないですけれど…

 

「確かめようとはしなかったんですか?」

 

「会いに行くのが少し辛くてな……」

 

「そうですか……」

 

再び無言が周囲を埋め尽くす。何も話さない状況…いや、話せない状況…あの時幼い少女の心に刻み込んだ怒りは、たとえ千年以上経とうともいくら頭が理解しても感じてしまうものなのだろう。彼女の右手が震えていた。

「なあ……終わりにしないか?」

そう言ってきたのは妹紅さんだった。

「殴り合ってスッキリしますか?」

 

「その方が私はスッキリできるしけじめもつけられる」

 

「折角ですから弾幕ごっこはどうでしょう?」

 

「いいぜ。私も試しで何枚か作ったんだ」

 

 

 

 

 

 

 

炎が弾け、周囲が真っ赤に染まった。

対応できるのはわずかな時間しかない。だからこそ焦ったら負け。

地面に妖力を流し十数センチほどめくりあげ、炎を包み込む。

周囲に土ぼこりが舞い、炎が作っていた熱風が周囲の温度を上げる。

 

「火遊びをするには場所が違うような気がしますけれど…」

 

「昨日雨が降ったから湿り気は抜群。燃えやしないさ」

そういうものでしょうか。確かに森は保水量があるからなかなか燃えませんけれど燃える時は盛大に燃える。

 

「じゃあ今度から放水で鎮火しましょうか」

正直土を被せて鎮火した方が楽だし早いのだけれど水鎮火の方が再燃の可能性が減るから安全ではある。

「ほお…じゃあやってみろや‼︎」

 

そう叫んで飛び込んでくる妹紅さん。咄嗟に障壁を張って攻撃を防ぐ。

右手に炎を纏わせて殴るとか反則です。それになんですこの威力……障壁にヒビが入ってますよ?

「不老不死ってここまで力あがりましたっけ?」

このまま殴られていると本当に障壁がもたないから素早く解除。妹紅さんが腕をふるった瞬間に懐に蹴りを叩き込む。

「……しらね。毎日コツコツ鍛えてたらそうなっちまった。最近じゃ竹だって素手で折れるぜ」

脇腹の骨いくつか折った音がしたのですがピンピンしてますね。

それにしても恐ろしい!蓬莱人恐ろしい!鍛えただけでそうなるなんて…

「リミッター外れているんじゃないんですか?」

 

「それを言ったらあんたもだろ」

反撃で蹴りを叩き込まれる。素早く体を折り曲げ威力を分散。ダメージを最小限に押さえつける。

痛いのは変わらないですけれど…でも痛いの感じませんし。

 

地面を転がりながら体勢を整え弾幕を展開。

いくつかが周囲の地面をえぐり自然の煙幕を作る。その合間に距離を……

 

発熱?

 

煙の奥が真っ赤に発熱している。なんだかやばい…そんな雰囲気がガンガンに出ている。

 

「時効『月のいはかさの呪い』」

 

1枚目のスペルカード。

視界を奪った煙幕の向こうからいくつもの弾幕が飛び出した。

体をねじって初弾を回避。次弾は横にステップを踏む…三発目からは横に逃げる。

自機狙いの弾幕のようだけれどどうにも精度が悪いのか途中からついてこなくなる。特に急制動をするとそれが顕著に出る。やはりまだ試作なのだろうか?

 

「甘いっ‼︎」

 

え?い、いつからそこに…!

煙幕の向こう側にいたはずの彼女は、気づけばすぐ後ろにいた。

弾幕で気をそらしているうちにですか。

 

振り下ろされた彼女の腕を咄嗟に出した刀の柄で防ぐ。

諦めずに蹴り。それも肘打ちで向きをそらして外す。

逆にお返しで頭突きです。

顎に当たった。脳震盪は確実ですね。

 

では追い討ち……っ‼︎

追い討ちをかけようと少しだけ後ろに下がった妹紅さんに接近しようとして、目の前に炎の壁が現れた。今からではどうしようもできない。

そのまま火の壁に飛び込んでしまう。

 

最初は燃えやすい服に引火。ふつうの炎と違うのか接触箇所から一気に燃えはじめた。やや遅れて今度は肌の表面が引火全身が火に包まれる。

咄嗟に腰につけている拳銃二丁目をそばに放り投げる。釣られて予備マガジンも転がり落ちる。あれは暴発したら大変だ。

火を消そうと体を暴れさせるけれど全然消えない。それどころか火が強くなった。

「不死の炎はそう簡単に消せないのさ!」

 

しばらくジタバタして鎮火を試みるもののやっぱりダメだった。なので素直に水系弾幕を自身にぶつける。

ようやく火が収まった。

その頃には私の体は完全に地面に転がっていて…多分真っ黒なのだろう。

目が焼けたせいで周囲の確認ができない。

 

「…呆気ないな」

 

なんで残念そうにしているんですか?

そんなに戦いたいのですか……正直もうこれで終わりにしたいのですけれど……でも負けっぱなしは嫌ですからね…

 

流れる全ての妖力を回復に回す。

表面が焼けただけなので治りは早い。

その代わり妖怪としての力は失われる。構わない。

炎に飲まれる直前に落とした拳銃は…ああそこですね。

視界復活…妹紅さん敵に背中を向けちゃダメですよ。

 

 

固まっていた筋肉が回復した。

素早く拳銃を持ち妹紅さんに向けて発砲。

 

「なっ…がッ‼︎」

1発目が彼女の片脚を引きちぎり、2発目は体のど真ん中に巨大な穴を開けた。

いつまでも寝っ転がっているわけにはいかないので起き上がる。

黒く焦げ、再生のために切り捨てられた肉の残骸が体からボロボロと崩れ落ちる。

「甘いのはそっちです…焼かれたくらいじゃ死にませんよ」

焦げた肉片が全て落ちれば、再び私の子供のような肌が出てくる。

あーあ……膝まで伸ばしていた髪の毛も肩の下あたりまで短くなってしまったじゃないですか。癖っ毛だから短いと跳ねて大変なんですよ。長くても毛先が跳ねるから大変なのに……

 

「テメッ!殺してくれたなあ‼︎」

ブチ切れられた。仕方ないのでもう一回。

今度は頭を吹き飛ばした。流石にこの拳銃じゃ頭に当てたら木っ端微塵か…仕方ないか…

「この……」

 

「回復まで10秒から20秒…早いですね」

 

「お、おい……」

 

なんですか?さっきまで怒りで顔が真っ赤だったのにどうして動揺して目線を泳がしているんです?

まあいいです…もう一回殺しましょう。

そうしたかったんでしょう?

 

動揺しているところにもう一度。今度は心臓を破壊する。

今度は30秒…場所によって変わるんですね。

流石に今度は無理にこっちにはこないで距離を取ってきた。

何度も殺されてはたまりませんからね。

 

「そんなにやられたいならやってやるよ!不死『火の鳥-鳳翼天翔-』」

 

2枚目のスペルカード…

途端に彼女の姿が巨大な火の鳥の中に消えた。

その鳥がこちらに突撃してくる。

回復に使用した妖力はまだ戻らない。

体を転がして強引に回避。直ぐそばを熱源が通り過ぎていったのか多少日焼けした時のように肌が刺すような痛みを発する。

 

サードアイの先読みがギリギリ間に合うかどうか…ほぼ本能で突っ込んできている分余計な隙が生まれていないのが辛い。

 

素早く弾幕を展開して牽制しようとしてみるも、あの火の鳥は温度が高いのか弾幕が途中で火に飲まれ消滅してしまう。

 

あれでは弾丸だって到達する前に溶けてしまう。

耐えるしかないですね……

 

再度突入してきた火の鳥を回避。すれ違いざまに弾幕で応戦。やっても意味はないけれど気休めに……

 

私を取り逃がした鳥は一度上昇して急降下を仕掛けてくる。

進路予測……ここですね。

 

地面を蹴りやや湿った地面を転がる。

すぐそばになにかが衝突した音と衝撃が私を地面に叩きつけた。正直圧死するかと思いましたよ…

 

「熱いですね」

落下した火の鳥が火をばら撒いたからかあたりは完全に森火事になっていた。なんだか明るくて華やかでカーニバルですねなんて現実逃避もしたくなってきますよ。

「っち…仕留め損ねたか」

火の中から何事もなかったかのように妹紅さんが出てきた。

おお怖い怖い…

三回目の攻撃がくる前に牽制をしたい。

再度銃で攻撃。流石に何回も当たってはくれないようで回避されてしまう。

 

そのうちに片方は弾切れなのかスライドが上がりっぱなしになってしまう。

残る方は…まだ大丈夫ですね。

 

「もう一枚あるようですが…」

 

「今作ってあるやつはこれが最後だよ。蓬莱『凱風快晴-フジヤマヴォルケイノ』!」

あ…確か爆発するやつ…

解き放たれた真っ赤な弾幕は、私を囲うようにして…爆発した。

いや文字通り大爆発である。

 

オレンジ色の視界と熱風で平衡感覚が失われる。

これ弾幕ごっことして使えるんですか?

 

体を転がし後ろに跳びのき直撃を避ける。それだけでも体の表面に火傷や打撲痕が生まれる。

正直痛いし面倒だ…特に目を開けていると視界が焼けそう。

 

目を瞑っておかないとまずい…あ、今瞼に熱風が…

連続して発生している爆発を避けていると急に爆発がやんだ。スペルブレイクだろうか?サードアイは熱風で焼けてしまったのか情報が届かない。大丈夫でしょうか?

そう思っていると、急に腕を掴まれ類寄せられた。

目を開いてみれば目の前に妹紅さんの顔があって……

 

思いっきりぶん殴られた。

点滅する視界には涙目になっている彼女の顔が一瞬だけ見えたような気がした。それはサードアイが作り出した幻想だっただろうか…でもそしたらそれは彼女の心であって真実のようなものだ。

 

口の中に広がる血の味を堪能していたら続けざまに2発目が顔に当たった。

正直頬の骨が折れたような気がする。

 

3発目。今度はお腹のあたり…あのう…すごく痛いんですけれど…一瞬しか感じないのにすごく痛いってこれやばいですよ。

 

4回目…体が半分中に浮いた状態で食らったせいで掴まれている右腕の関節が外れた。完全に糸のちぎれた操り人形のようになってしまう。

仕方がない…そろそろ抜け出しますか…

「私は口が下手ですから…気の利いたことを言うことができませんけれど……」

左手で握った石を妹紅さんの顔面に投げつける。

 

目の前に石を投げつけられたら誰だってそれを防ごうとする。

当然私をつかんでいたて手も離してしまう。

 

「殴られるのは痛いんですよ」

片腕は関節が外れて使えない。銃は近くに落ちているけれど使えない。

だけれど攻撃手段がないわけではない。

 

足を思いっきり踏みつけ、跳躍。

そのまま顔を庇っていた腕に噛み付く。

血飛沫が上がり歯が食い込んだ肉が引き裂ける。口の中にまた血の香りが充満する。吸血鬼じゃないのに吸血鬼並みに血に恵まれてるや…

 

「いっでええええ‼︎」

強く引っ張れば腕からいろんなものが引きちぎれ私の口の中に残る。

おえ…美味しくない。

 

でも痛がっているいまなら……

素早く落ちていた拳銃を拾う。壊れているかもしれないけれど使えるならまあいい。それを妹紅の口に突っ込む。

躊躇いなく引き金を引く。1回目…ゼロ距離で頭が砕け散る。

すぐに再生。2発目…3発目……

「もうチェックメイトでいいですか?」

殺すの何回目でしたっけねえ?何回でもいいのかな?あなたが満足するのなら……

 

何か言いたそうにしていたので口から銃口を出す。

「はは…久しぶりだな…こんな殺されるのは」

そうですか…こっちとしては同じ人を何度も殺すせいか精神が参りました…

清々しい顔でそうやって笑っていられる貴女が不思議ですよ。

 

「なあさとり…」

 

「どうしたんですか?」

 

「いつまで裸でいる気なんだ?いやまあ…私が服燃やしちゃったからなんだけれど」

言われて初めて体を見る。

健康的な肌色…日に当てられたのか若干日焼けのように黒くなっている。そんな肌色一色だった。そういえば燃やされた時に服は燃えていましたね。下着から何から……

「……いやん」

 

「無表情棒読みでそれをされても……」

 

「表情がないんです仕方ないでしょう」

というより同性に裸見られたくらいなんです。たまにこいしとか天魔さんから過激なセクハラを受けているんですよ。もう慣れてます。

「まあそうだけれど……」

 

「でも寒いですから服をください」

うん…九月の夜は肌寒い。というより冷える。こんな何も身に纏わない状態じゃ確実に風邪をひくか体調を崩してしまう。それに妹紅さんの頭を吹き飛ばしたから結構血とかいろんなもので濡れてるんですよ。結構寒い…

「貸してじゃなくてくれなんだな……って言ってもこんな血まみれしかないぞ?」

そう言ってシャツを見せてくる。構いません。それに家に着くまでの合間だけですから。

「あ、でも上これしか着てないんだよなあ……」

一応聞きますけれど…

「下着は?」

 

「上はつけなくてもいいかなって。つけてると邪魔だし」

胸そこまで大きくないですからつけていると逆にきついんですよね。昔から男勝りでしたけれどここまで極めるとは…

「……裸の人が目の前にいるんですよ。ショルダー付きのズボンがあるんですから少しくらい我慢しましょうよ」

 

「おいおい人に借りる態度にしてはちょっとあれじゃないのか?」

 

「寒いんですけれど……」

 

「悪かったって…私の家に来な。予備の服貸してやるから。こんな血まみれのよりずっといいはずだ」

純粋に私の身を心配して言ってくれているようですね。これが天魔さんだったら秒速で潰していますけれど…

「そうしましょう……」

 

立ち上がろうとしたら妹紅さんが急に体を抱きかかえた。丁度お姫様抱っこと言われる体勢だ。

さらにその上から何か布がかぶせられる。

それはさっき貸してくれだのと話題になっていたシャツだった。

「妹紅さん?」

 

「女の子を裸で歩かせるのは気がひける…まあ私のことは気にすんなって」

 

「……一応妖怪なんですけれど…」

 

「見た目が可愛いんだから体を粗末にするな。私だって気をつけてるんだぞいくら不老不死でもな」

 

「正論ですね……」


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