古明地さとりは覚り妖怪である   作:鹿尾菜

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depth.158永夜異変 後

「……ねえなんだか外騒がしくないかしら?」

元凶と思われる輝夜を倒しようやく月が戻ったのを確認。少し休憩と息をついていたら妙に外が騒がしい。本当に次から次へとなんなのよ。

「夜が明けたからじゃないのか?」

 

いや…なんか焦げ臭いというか少し赤く光っているような……

赤く…光っている?

「そうじゃないわよ!これは火事よ!」

この焦げ臭さは間違いないわ!

こんなところで火事になったりでもしたら大変よ!

輝夜の案内で外に出てみれば少しだけ竹林が赤く染まっていた。

うさぎ達もどこからか出てきて水の用意をしている。

「あら、燃えているの?それは大変、帰らないとね」

途中から合流してはいなくなったりしていた吸血鬼はのんきにも帰ろうと言い出す始末。

「お嬢様、夜明けも近いですしここは引きましょう」

そうね。あんたらがいても消火に役には立たなそうだし…あ、そこのメイドは残りなさい。あんたの能力なら水を確保するのに使えるわ。

火は大ごとなのよ。一度燃え始めたら初期消火。それが出来なかったら街一つ燃えてなくなるわよ。

 

 

空に飛び上がって燃えている箇所を確認する。

地面がえぐれていたりひっくり返されていたり竹が吹き飛んでいたりと燃えているところは派手に荒れている。

 

「派手に暴れたのね」

 

「こりゃまた派手に戦ったなあ」

隣に来た魔理沙が私と同じことをつぶやく。

「よかった…延焼はしなさそうね」

火の勢いは弱まっている。あれは燃焼しないで勝手に消えるパターンね。よかったわ大事にならないで済むわ。

「炎系の攻撃だな…もう一人は一体何で攻撃してたんだ?妖力や魔力の残渣が残ってないぜ」

 

「まとめて燃やされたんじゃないかしら」

強い力に弱い力が飲み込まれて反応が出なくなるというのは良くある。その場合はそういうことだと諦めるのが良いのよ。

「まあいいわ…今からこれの元凶を見つけ出しに行くのは無理よ」

日ももうすぐ上がるし私は疲れたわ。夜寝ているところを叩き起こされるわ永夜の術をかけられるわ強制解除されるわ…時間としては丸一日使ったわ。

それに月の人達って弾幕ごっこの範疇じゃなかったら確実に強いわね…あれは本気を出されたら私じゃどうしようもないわ。紫も一度敗れているって言うし。

「そうだな…疲れたしねみいし…全く徹夜は乙女の敵だってのに…」

 

「性格的にあんたが一番乙女から遠い気がするわ」

この前あんたの家掃除したけれど生活力もないしダメ人間じゃないの。乙女とか言う前にまずは人としての生活を身につけましょうよ。

「まあ性格はそうだろうな。だが体は乙女だぜ」

 

「わかっているわよ」

自覚しているんだったらちゃんと掃除洗濯しなさいよね。人間力イコール乙女力なんだから!

それと髪の毛だってもうちょっと手入れしなさい!

「一応手入れはしているぜ?」

まだ甘いわよ……ほら毛先荒れてるじゃないの。

 

 

それにしてもなんだか紅魔館や祭りの時に感じたものと同じ残痕が残っているわね…

やっぱり私の周囲を誰かが嗅ぎ回っているのではないだろうか?

 

 

 

 

「あー丸焼けになるって何気に初めてでした」

真っ黒に炭化した皮膚って完全に炭ですね。こすったらあれパラパラ落ちましたよ。それでもヒトの体は水分が多いから中まで一瞬で炭化することはなかった。あれが一瞬で炭化する事態って言ったら相当な熱エネルギーが必要ですよ。

「お姉ちゃん丸焼けになったの?」

急にジト目になって私を見つめるこいし。

ああそういえばこいしには言っていなかったわね。でも妹紅さんの服を着ている時点で察しがつくと思いますけれど…

「させられました…まあ今は日焼けですけれど」

日焼けではないけれど日焼けっぽいから日焼けと言っておく。完全に小麦色になりましたよまったく……

「でも服の跡がない日焼けなんて……」

仕方がないでしょう。裸の状態で焼けてしまったんですから。それにこれもしばらくすれば剥がれますよ…まだ皮膚を引っ掻いても全然剥がれませんけれど…

あまり日光に当たっていない肌だから結構白かったんですけれど…まさかこんなことで褐色になるなんて…

 

「いっそのことちょっと過激な下着つけてみるかい?」

さっきからずっと隣で私を見つめていた天魔さんが会話に入ってきた。

彼女がイメージしている下着を想起して思わず回し蹴りが出た。当然腕で防がれた。

「私に踊り子をさせたいのですか?」

一応永夜異変の詳細について私から事情を聞こうということで来ていたのに来てみればこれである。ずっと日焼けした私を見ているのだ。

まあ今まで一度も日焼けしたことなんてないんですけれど…これでは話を聞きに来たのになにもしないで帰りそうで怖い。一応異変で発生した事象については紙にまとめて大天狗さん達に送っておいたから大丈夫だとは思いますけれど…月の事とか紫の事とかそこらへんの事実を隠して伝えるのって大変なんですからね。

勘のいい方は察していると思いますけれど…

 

 

「確か…外の世界の大陸の向こう側では結構な薄着で踊り子が踊っていると言っていたからさ。さとりにさせてみたくて」

それは砂漠とかがある地域の話での話ですよね。ええ、きっとそうですね。でもあれって褐色ではないような気がしますよ。それにあそこまで派手だと逆に引きます…

「天魔さん…いい加減諦めましょう」

一応イメージとしての踊り子服でしたらある程度はわかるのですけれど実際の踊り子服ってイメージと違う可能性だってあるわけですし…

それにそんな服誰も作れないじゃないですか私以外は…

「だってさとり可愛いのにもったいないじゃん」

なんだこいつホストじゃないのですか?おんなじ女性なのにすごくイケメンですね。

「落とし文句は別の子にしたらどうです?」

正直言って落とし文句に心が動くことはない。

「さとりだけだよ」

……本当に女子なのだろうか…生まれる性別を間違えてしまった悲しい方ではないのだろうか?まあ本人は気にしていないようですけれど…っていうか天狗自体が幼女とか攫ってくる種族ですからねえ。

「天然タラシってこういう奴のこというんだよねお姉ちゃん」

冷たい目線で天魔さんを見つめるこいし。流石に天然タラシかどうかは知りませんけれど女性ファンが多いのは確かですね。主に他種族ですが…

「タラシかどうかは定かではありませんけれど大体こんな人ですね」

 

「そもそも女中とか大奥とか天狗にないんですか?」

 

「ない!」

なんでないんですか…作ればいいじゃないですか。え…面倒?まあ確かにあれは面倒ですけれど…

「それにあんなの絶対ドロドロするに決まってるじゃん」

 

そうじゃなくても女性間での関係なんてドロドロするじゃないですか。長く生きている妖怪だとドロドロする前に喧嘩と喧嘩と喧嘩で和解してスッキリしますけれど…

「それで、お姉ちゃんに詳細聞かなくていいの?」

 

「そうだったそうだった。ありがとねこいしちゃん」

なにこいしの頭を撫でているんですか。ぶん殴りますよ。早くこいしから離れなさい。

こいしも気持ちいいとか言わないの!

思ってても言わないのその人調子乗るから。

 

そんなアホみたいなやりとりが続いていると部屋の扉が音もなく開いた。

視線を一瞬だけそっちに向ければ、そこには長い白髪を後ろで縛ってまとめた妹紅さんがお茶を持ってきていた。

「なんだ天狗の長ってこんなんなのか?」

そう言う彼女は天狗に白い視線を送る。涼しげな顔でそれを受け流す天魔さん。一瞬で対立関係が生まれた。

「まあそうですね…」

あ、お茶おいしいですね。淹れ方上手くなっていますよ。ただ…

「……幻滅したわ」

 

「お前に幻滅されても痛くもなんともないわ」

なぜ喧嘩腰になったんですか天魔さん。

「天狗の焼き鳥って美味しそうだよな」

妹紅さんも怒らないでくださいよ。

 

「おうちょっとツラ貸せや」

 

「あ?誰に向かって物言ってんだ変態野郎」

喧嘩腰になりかける二人をすぐになだめる。こんなところで仲を悪くして欲しくはないし何より家が壊れかねない。

「まあいいか…」

 

「あんたが妹紅か…」

あ、天魔さんが絡みにいった。大丈夫だろうか…

このまま喧嘩するようなら出禁にして庭に埋めましょう。ええ…犬神家を土の上で再現するのです。

「……なあ褐色のさとりどう思う?」

何聴いているんですか本人の前ですよ。本人の!

「どうって……まあ、普段は落ち着いているけれど思わず活発にはしゃいじゃった子みたいで可愛いと思うけれど」

何だそのギャップ萌えが可愛いみたいな言い方。貴女も大概に変なこと言いますね。っていうかこの二人ルックス的にかなり女子にモテる方ですね。何も言わないでおけば言い寄られるでしょう?そうでしょう?

「奇遇だな俺もそう思っていた」

 

「なんだ気があうな…」

急に和解し始めたんですけれど……何ですかそんな理由で和解するんですか?

まあ妹紅さん一人で天狗と渡り合えそうですし対立勢力が減ってくれたと考えれば良いことなのでしょうけれど理由がしょうもない。

「さっきはすまんな」

 

「こっちこそ少し言いすぎた」

酷い和解の仕方だ……

 

「じゃあこいしは?」

和解した途端なんてこと聞いているんですか?本人の前ですよ!気にしないとかそういう問題じゃなくて……

「どっちでも可愛い」

ああ、よかったこれなら仲良くなれそうです。

「違いない」

 

「えへへ嬉しいな!」

 

……そういえば月が侵攻してくるとかどうとか言っていたような気がするのですがその件は今どうなっているのでしょうか?一応月と情報交換している優曇華に今度聞いてみましょう。

 

意識を戻せばどうやら妹紅さんと天魔さんは結構盛り上がっているようだった。

「踊り子衣装どう思う?」

天魔さんまた踊り子衣装のこと聞いているんですか?アホですか?そもそも知らないでしょ…

「すまん。踊り子の衣装を見たことがないからわからない」

 

「今度情報通に衣装の詳細を聞いてくるからどこかで会わねえか?」

その情報通のこと詳しく。あとで締め上げて秘密裏に消しますので。

「いいな。丁度行きつけの店があるんだ。そこにしないか?」

 

「へえ…竹林の案内人オススメか。期待しているぞ」

 

 

 

 

「ふうん…月の文明も面白そうじゃない」

宴会の席であの凄腕の医者と兎から聞いた情報をまとめていけば、それはそれはものすごい情報の山であることがわかってくる。

これですらおそらく氷山の一角。多少話を盛っていると仮定してもこれはすごい。

「折角だし月に行ってみたいわ」

 

「レミィ、流石に月に行くのは現実的ではないわ」

親友はバッサリと否定をした。

そんなバッサリしなくてもいいじゃないの。

「でも宇宙に行けるのなら月に行くことだってできるはずでしょう?」

 

「やろうと思えばいけるのと実際に行こうとするのとでは全くの別物よ」

 

「それは分かっているわよ」

 

「それに聞いたところじゃ月と友好的にすることは無理そうね」

それくらい力でどうにかすれば問題解決よ。何も問題ないわ。

後は技術的な問題をクリアすればいけるはず…

「無理なら力で抑えるまで。どちらにしてもまずは月まで行くための手段を考えるのよ」

 

「まさかさとりの言っていたことが本当になるなんてね…」

 

あら?さとりが?どういうことかしら…

「さとりがどうかしたの?」

 

「前にさとりが言っていたのよ。貴女が月へ行きたくなるときがくると思うから言っておくって…」

 

友人からそう聞かされた途端背中に得体の知れない寒気が走る。私が月に行きたいと思ったのは出来心でよ。それなのに…私が月に行きたいと思うことを前から予見していた?

運命を操る私だってそんな芸当はできない。ましてやあの子の能力は心を読むんです未来の…思ってもいないことを読むなんてできない。

でもそれをさとりはやってのけている……

「それで……さとりはなんて?」

カップを持つ手が少しだけ震える。

 

「月に行くのはやめた方がいいって言っていたわ」

 

「どういうこと?」

 

「さあ?聞いても教えてくれなかったわ。ただ、月に行くための乗り物のことなら教えてくれたわ」

 

「あら、気が利くじゃない」

 

「総工費用が1兆円を超えるって言われたわ」

 

飲みかけていた紅茶を吹き出してしまった私は悪くない。何だその金額。どこにそんなお金があるというのよ。っていうかなにそれ…そんなお金がかかるの⁈

「技術的な観点からしても外の世界の技術の最先端を集めて作ってやっと行けるかどうかって言われたわ」

 

「うわ……」

やっぱり行くのやめましょう。そこまでしないといけないなんて…

「尤も簡単な方法はあるにはあるらしいわよ。教えてくれなかったけれど」

 

「そう……」

 

今度聞き出してみましょう。


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