古明地さとりは覚り妖怪である   作:鹿尾菜

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depth.157さとりと船長

はたてさんが、一目見て気に入ったと言う温泉宿に取材を敢行しに行き私は道に取り残される。

このままだと邪魔になりそうだったので少し端っこの方に行く。

 

はたてさんを追いかけたりはしない。

そもそも取材中に私が入り込んだら絶対取材しなくなる…うん、悪気があるわけでは無いけれどあそこの店主は少し萎縮してしまう。

別に怒ったりなんだりなんてしないんですけれどね。不思議です。

 

それにしても…さっきから視界に映る異様な何かはなんなのでしょうか。

行き交う鬼や妖怪に混じって僅かだけど何かの違和感を感じ取り、目を凝らしてみれば視界の端にチラチラと何かが映っている。

 

別に危害を加えるようなことは無いと思いますけれど…それでも少し気になる。

もしかしてはたてさんの追っかけだろうか?

それならそれで危害を加えなければ良い。

正体がわからないのは少し辛いですが…向こうがなんだかの理由で正体を知られたくないと思っているならそれもまた仕方がない。

 

 

……少し街を歩くのも悪くないかもしれない。

ずっと2人を待っているのもあれですし2人は2人で私と合流できなければ好きにどこかふらついているでしょう。

それに、監視網は構築されていますからね。

 

閉ざされたこの狭い空中を飛ぶ数羽の鳥を見上げる。一羽が私の視線に気づき高度を下げて来た。

ある程度の距離まで近づいて減速、横に出した腕を止まり木代わりとして降り立つ。

(さとり様、どうかしました?)

 

「鴉天狗に何かあったら私を呼んでってみんなに伝えてくれる?」

 

私の言葉を聞いた鳥は首を傾けながらもしっかり内容を理解してくれた。この鳥さん達…意外と頭が良い。多分地上の鴉より頭の回転が早い。

(分かりました。では伝えて来まーす!)

 

勢いよく私の腕から離れる鳥を見送り、来た道を引き返す。

さっき通っていた道に少し気になっていた甘味屋があった。せっかく時間ができたのだから少しよってみるのも手です。

何もしないでいるのは……今の私には少し無理です。

 

大柄な妖怪達の合間を縫うようにすり抜け目的の場所まで行く。

なるべく私がさとりだと気づかれないようにしていますが…外套の下に着ている黒い服のせいで少し目立ってしまっています。

 

「あ、お姉ちゃん」

 

そんな声が後ろからした。

刹那、私は体を軽くひねって振り下ろされていた手刀を躱す。

視界がしっかりと背後を見る。

私と同じく外套を着た少女……こいしがいた。

そのわき腹に小さく振り下ろした拳を叩き込む。

だけど片手で払いのけられる。

この間、僅か2秒。

人混みの中だけれどふつうに歩いていれば私達の動きなど気づきもしない。そんな程度の小さな小さな…じゃれあい。

「こいし……朝から姿が見えないと思ったらどこにいたの?」

 

じゃれあいをやめてこいしに向き直る。

私が地霊殿から戻ってみれば家にいないこいし。お燐もお空もどこに行ったのかわからないというものだから少し不安だった。

 

「ちょっと買い出し…今日は私がご飯作ろうかなって思ってさ」

 

どうやら朝から食材探しにあっちへ行ったりこっちへ行ったりしていたようだ。

それでお目当てのものは見つかったのか問いただせば揃ったことには揃ったらしい。後は私が戻って来る時間がいつになるかだったらしい。

困ったことに天狗2人が地底で面倒を起こした時の対処があるから最悪地霊殿で待機になりそう……仕方がないけれどそれを伝えれば、じゃあ地霊殿で作っちゃえばいいやと言い出す。

まあそれが一番良い方法ですね。

 

 

予定変更で地霊殿に戻ることにしましょう。

2人並んで歩き出す。

そういえばこうやって一緒に歩いたのって…いつぶりだったっけ?

基本的に家以外の場所でこうしてばったり出会うなんてこともなっかったから久しぶりという感覚と…こいしを一人にしてしまっていないか心配で仕方がない。

 

何年経っても妹は妹。私のことはどのように思っているのだろう?

知りたい……だけれど出てくる答えが怖い。

不思議です…知りたいのに怖い普通なら混ざらないこの2つがなんの抵抗もなく表裏一体で出て来るとは。

 

「ところでお姉ちゃん」

 

隣を歩いていたこいしが、私の手を握る。突然のことで体が跳ね上がりそうになる。

「どうしたの?」

 

「さっきからよくわからないものが付けてきて来てるんだけど」

 

よくわからないもの…その言葉にさっき私のそばにいた正体のわからないアレの事を思い出す。

きっとそれだろう…てっきりはたてさんを付けている者かと思ったのですが私をつけていた?

 

しかし敵意や嫌な気配がしなかったから分からなかった…それに人混みに入ってしまうと正体が分からないものであってもそれの気配を感じることは難しい。

 

「敵意はなさそうですけど…こいしはどうしたい?」

 

「私?流石にここじゃ手は出せないからなあ……」

 

街から出たところで仕掛ける…ですか。

別に仕掛けなくてもとは一瞬の気の迷い。少し甘くなったら危ないのがこの世界。

話しかけもせずつけてきている時点で敵意がなくても危険である事に変わりはない。

「それじゃあ……私が手を強く握ったら出なさい」

 

「分かった」

 

それまで手を握ったまま…こいし、出来れば離してほしいなあ。恥ずかしいから。いや、嫌いとかそういうことじゃないわ。

わかった、分かったから泣かないで。お姉ちゃんが悪かったわ。

 

 

 

結局、恥ずかしいなあって思いはいつのまにか消えていた。

というかいつからか感じなくてなってしまっていた。

うん、そんなの感じていたらもう街の外まで来てしまっていてどこで仕掛けるかをずっと考えていたから仕方がない。

どうやらよくわからないなにか…しっかりついて来ているようですね。

ただし、奇襲をかけても対処されてしまう…それでいて見失わない絶妙な距離を保ってしまっている。

どうしましょう…少し近づかないといけない。

忘れ物をしたという感じに反転して近づきますか。

 

「……あ、忘れ物」

 

「お姉ちゃん?」

 

「こいし、一旦戻るわよ」

 

すぐに私の意図を理解したのかこいしの顔に笑顔が灯る。

すぐに反転し駆け出す。

向こうもそれに気づいたようだけれど私達が忘れ物を取りに来ていると思ったのかそのままやり過ごそうと道の脇による。

 

「いまよ……」

 

「はいはーい」

 

こいしの懐でなにかが光る。その光が収まるかどうかというところで、こいしがそこから何かを引き出す。

 

それは両刃の長剣。西洋の図太いものに形は似ているが刃は日本刀のように薄く、鈍い光を放つ。

それを素早く構え…ぶん投げた。

空気を切り裂く音が耳に響き、悲鳴が聞こえる。

それと同時によくわからないものが大きくぶれる。

動きと言うよりそれは視覚の情報がチューニングに失敗しているラジオの雑音のように擦れたのだ。

「ねえねえ、私達に何か用?」

剣を投げつけた後も走り込んで間合いを詰めたこいしがよくわからないものに魔導書から出したもう一本の剣を構えていた。

 

「こいし、剣はしまって」

 

「……わかった。じゃあ後はお姉ちゃんに交代ね」

 

交代と言ってもすることなんてないですよね。

情報を取るにしても敵意が無いのだから何か用事があっただけと考えるのが普通ですし。

 

「あ…あの…ご、ごめんなさい!」

 

「すいませんでした!」

 

あれ?2人分の声…正体がよくわからないこれ…2人いるのですか?

 

「すいません…なんかよく分からない何かにしか見えてないんですけれど能力だったら解除していただけませんか?」

 

私の言葉を聞いた2人?が言い合い始めた。というより…ただ一方的に謝ってるだけに聞こえる。というか片方の声はついさっき聞いたような…えっと確か船長さんに似ていますね。

 

「ごめん…今戻す」

 

その瞬間、正体のよくわからないものはすぐに消え去り、二人の少女が代わりにそれがあった場所に立っていた。

 

一人はやはりムラサさんでした。

もう一人はその対照的に、黒いワンピース型のドレスのようなものを着込んでいて背中には赤と青の矢印のようなものが生えている。

 

「あ!水蜜ちゃん」

 

どうやらこいしとも知り合いだったようね。

だけどもう一人は…記憶が正しいのであれば確か……

「えっと…貴女はだあれ?」

 

「…ぬえよ」

 

こいしに笑顔で近づかれ、少しだけ後退しながらもぬえはそう答えた。

「それで……二人揃ってどうして私達を尾行なんてしていたのですか?」

 

どうしてなのだろうか…あの船を勝手に改造するなと闇討ち?でも敵意なんて感じないしうん、そういうわけではないようですね。

うーん見当がつきませんね。

 

「えっと…その……」

 

あたふたと何かを言おうとするぬえさんとは対照的に、ムラサさんは私をじっと見つめる。

少し反抗的…でも、純粋に何かを探ろうとするそんな目だった。

ふとその目線の先に移るなにかを考えてしまう。

それは私なのだろうけれど…一体私の何を探ろうと言うのだろうか?いまいちわからない。

いや……分かられたくない…知られたくない。そんな気持ちが先行してしまい彼女の知りたいものがしっかり理解できない。

 

「私は…貴女に疑問が湧いたんです」

 

「疑問?」

 

「はい……貴女はさとり妖怪。なのにどうして、人間も妖怪も分け隔てなく接することができるんですか?」

 

その言葉に一番に浮かんだのは聖だった。

確か彼女の思想は人間も妖怪も共存できる…無用な争いが起こらないそんな世界を目指すことだった。

だけどその考えが人間の怒りに触れ、悪魔扱いされ魔界に封印されていたのでしたっけ。

上手くは思い出せないけれど…確かそんな感じだった。

だけれど私と似ているだろうか?

確かに人間や妖怪と親しいような気もしますが、大半は利用価値があるから使っているという旨が多い。例外もあるがそれは少数であって人間の里で黙認されるのは私が今まで人間を助けて来たから。要は慧音さんと同じか予備戦力程度。妖怪の山だって天魔さんは別ですけれど大天狗達はきっとそうとはいかない。こっちはなぜか知りませんけど私が強い協力者的な位置付けです。結局……利用機会がなくなれば消える一方的な関係ですけれどね。

「覚り妖怪だからとかそんなの関係ないと思うけど?」

 

私が何も言い出せなくなっているとこいしが代わりに答えてくれた。だけれどなんだかおかしいような…

 

「結局、誰かを信頼するとか仲良くなるって自分から先に行かないとどうしようもないよ?」

 

身もふたもないないことを……聖さんはそれで発覚した後は手のひら返しされたかのように人間によって封印されたのだ。

「それは分かっている。だけどそれで……それで聖様は!」

 

「聖様が誰かは知らない。だけど……歩み寄ろうとしなければ一生変わらない。いくら間が悪くても向こうが一方的にやって来たとしてもさ。歩まなければ何も変わらないんだよ」

 

こいし、それは理想論。

結局理想は現実の前ではただの夢であり残酷なものなのよ。

「……私に答えを求めても何も出てこないと思いますよ」

 

「どうしてさ!」

 

「ムラサ、落ち着いて」

 

「理想論は現実の前では無力だからです」

 

「お姉ちゃん⁈」

なにかを言おうとしたこいしを手で制する。

こいし、少し残酷なことを言うけど…許して。

でもこれだけは言わないといけないから。

 

「聖様の考えがどれほど崇高なものであっても、結局それは現実と相反する理想でしかない。理想なんてもの…現実の前ではほとんど無力。だから私は理想とかは持っていないわ。ただ守りたいものを守って…生き延びる。ただそれだけよ」

 

「そんな……」

項垂れたムラサさんがっくりと膝をつく。

勘違い…治りましたか?

 

「まあそれは現実の話…ここはそんな現実と相反する幻想郷。もしかしたら共存の理想も現実に変えることが出来るかもしれませんよ?」

 

一応フォローはしておく。

フォローになっていないただの慰めだろうけれど実際後何百年か後にはそうなるかもしれないのだ。

少なくとも私はそうしたい。だって危険度が減ればそれだけ平穏が得られるじゃないですか。

「そんなの……」

 

「ありえないなんて事はありませんよ?」

 

「「……え?」」

 

理想を実現できる世界は作ろうと思えば作れますよ。

そのために一体どれほどの血が流れるのか知りませんけれど。

まあいいや。疲れましたし戻りますよこいし。

 

旧都に歩き出した私に続いてこいしも歩き出す。だけど数歩も先行かないうちにふとあることに思い至る。

 

「あ、折角ですしご飯一緒に食べませんか?」

 

「……え?」

「いいの⁈」

構いませんよ?こいしもいいでしょう。

「わ、私は構わないけれど……」

連絡は船の方にも入れておきますから。

 

あ、そんな遠慮しなくて良いんですよ。ぬえも……友達と呼べる存在が欲しいのでしょう?

少しは相手に遠慮しないで良いのですよ。むしろ遠慮したら何も変わりませんから。

ええ…ご飯くらいみんなで食べた方が楽しいでしょう。

丁度そこに船のある方から飛んで来た鳥が私のそばに着地する。

ふむ……わかりました。

 

どうやら一輪さんの方も童の飲み合いに巻き込まれているようですし…丁度良いんじゃないんですか。さっき思いっきり言った事への謝罪も含まれていますし。

 

 

よし決まりですね。





おまけ

ナズ「敵艦隊から入電!降伏せよ。返答はいかがいたしましょう!」

ムラサ「バカめだ」

ナズ「は?」

ムラサ「バカめと言ってやれ!」




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