異変解決後にやることは決まっている。
もちろん宴会。しかも今回は私の神社じゃなくて守矢の方で出来ることになった。さすが神様ね。太っ腹!
普段から異変を起こす輩もちゃんと見習ってお酒とか食べ物をちゃんと用意しなさいと思っちゃうわ。
お酒も美味しいしラッキーね。
お酒とおいしい食事を満喫していると異変の元凶である神様…確か御柱を使う方が近づいてきた。
「何か用?神様の有難いお言葉はもう聞き飽きたわ」
「いやいや。流石に酒の席でそれはしないさ」
「そりゃそうか。じゃあなんで来たのよ」
「なに、幻想郷を好きだってことを勘違いされたくなくてな」
なんだそんなことか。もう十分わかったわよ。あんたらだって悪意があるわけじゃないんだから。ただ独りよがりというか…流石日本神話の神様だなって思ったわ。
「別に勘違いなんてしていないわよ。ただやり方とかが気に入らなかっただけ」
信仰を独り占めなんて私が出なくても土地に住む八百万の神は反対するに決まっているわ。まああんた達からすればちっぽけな存在かもしれないけれど人によっては大事な神様。それに信仰がなければ彼女達は消失してしまうから尚更ね。
「そうだがな……おや、どうやら私はお邪魔らしい」
私の周囲を二体の人形が周回している。確かこれアリスのところの人形だったわね。一体何かしら…人払い?
「いや邪魔なのはこいつらよ」
だけれど私の周囲から人を払いたいという意思は確かに伝わってくる。
アリスから何か用かしら?
御柱の神様がまたどこかに離れていった。まああっちが良いのなら別に良いのだけれど神様を追い払うって罰当たりじゃない?
「なあ霊夢…一つ聞きたいことがあるんだが……」
思い出せないことがこれほどまでに辛いこととは思わなかったぜ。
もしかしたら酒の力を使えば思い出せるかもなんて思ったけれどやっぱりダメか。
思い出そうとしているあのフードの少女の名前を未だに思い出せないでいる。
確か幼い頃霊夢に付き添っていたってのは覚えているんだが、なにせ幼い頃の記憶だ。研究に没頭しすぎて忘れちまったぜ。
参ったなあ……
それにあの少女気づいたらいなくなっていたってイメージしかわからん。
異変が終わったのにモヤモヤしっぱなしなのはまったくもって嫌なもんだ。
そういえば先代の巫女についても分からないことが多い。
まあ巫女なんて興味がないやつにとっちゃいつの間にか代わっているなって程度にしか思えんし。結局私も先代の巫女に関してはあまり関心がなかった。覚えてなくても仕方がねえな。
うーん……せっかくの宴会の席なのに素直に楽しめねえ。やっぱり霊夢に言うべきか?だがあいつ身内の話はあまり話したがらないからなあ……
「どうしたの魔理沙。さっきからずっと顔伏せ唸ってるけど」
おっといけね…流石に心配させちまったか?
顔を上げればそこには私と同じ金髪の魔法使いがいた。相変わらず人形みたいな肌だよなあって余計なこと考えちまう。
「おうアリスか。いやな……思い出したくても思い出せないやつのこと考えてた」
「誰それ」
そう言ってアリスは私の隣に腰を下ろした。鼻につくお酒の匂い。私も飲んでいるがまだ一口二口だ。ここまで酒臭いのは私じゃない。アリスめ、結構飲んでるな……
顔色が変わらないから分かり辛いぜまったく…
「一瞬だったからあまり詳しい特徴は覚えられなかったが全体が桃色で毛先にかけて紫色になる長い髪の毛の少女だ」
「あーなんかいたようないなかったような……」
「いやわからないのならいいんだ。霊夢に聞けばわかるはずだから」
ただ聞いてくるなって雰囲気があるからなあ……
「じゃ聞いてきなさい。丁度霊夢の周り誰もいないわよ」
そう言われて霊夢の方に目線を移せば蓬莱人形が人払いしていた。
おいおい…あれはどうなんだぜ…って思ったけれどまあいいか。せっかくアリスが人払いしてくれたんだちょっくら言ってくるか。
「おうそうか。じゃあ悩んでても仕方がねえ!ちょっと言ってくるわ」
「いってらっしゃい」
霊夢の周りは見事に蓬莱人形達が人払いをしていた。これなら心置きなく話せるな。
「なあ霊夢…一つ聞きたいことがあるんだが……」
「何よ改まっちゃって」
改まっているか?普通だと思うけどなあ。
「毛先が紫色の桃色ロングの少女知らないか?」
その瞬間霊夢の表情が変わった。いやもう真っ青って感じだったぜ。
「っ……あんたどうしてそれ知っているの?」
なんでそんな睨むんだよ。何かいけないこと聞いちまったか?
急変した態度に少し引いてしまう。
ただ、それでも怒ったりすることはなく淡々と語り出した。
「あのね魔理沙。巫女は人間でなくてはならないの」
あ、いやまあそれはそうだろう。巫女は人間側の存在だからな。でも私は別に人間じゃなくたっていいような気もするがそこはいろいろあるのだろう。
「そりゃそうだが……」
そう言うと今度はブツブツ独り言を言い始めた。
「……私が退治したはずなのに……」
退治?そういえば身内を退治したとか言っていたな。まさかそれと関係があるのか?
「霊夢?それはどういう……」
そこまで言いかけて私と霊夢の間に黒い何かが飛び込んできた。
それは尻尾が二本になった黒猫だった。
そいつは霊夢の手から盃を奪って駆け出した。
「うわ!なんだこのっ‼︎」
挙句私の腕にキックを食らわせて来やがった。このやろう。
「ちょっと私の盃返しなさい!」
「猫も酒が飲みたいみたいだな!」
逃げ出す黒猫に弾幕を放つ。だけれど酔っているからかうまく当てられない。
くそっ人混みの中に隠れやがった。あれじゃ弾幕はうてねえ。
「知らないわよそんなの!盃なら持参しなさいよ‼︎」
「ちげえねえ!」
軽口を叩きながら黒猫を追いかける。
ただ人混みの中じゃあっちの方が素早い。まともに追いかけて追いつけるはずがねえ。
ただ舐めちゃいけないんだぜ。
地上を追いかけるのができないなら空から探せばいいだけだぜ!
って箒がなかった!やっべ神社の中に置き去りにしてた。
箒の呼び出しっと……
まあ私がもたついているうちに先に飛び上がった霊夢が先回りする道を教えてくれたから箒が来る前に先回りできた。ただ油断はできない…
目の前に盃を咥えた黒猫が飛び出た。
だが先回りしていた私を見て方向転換。引き返そうとするけれど霊夢がそれを許さない。
さて逃げ場はないぞ。おいおい霊夢殺意満々で威嚇するなって…それじゃあ怖くて返すもんも返せねえって。
「ほら猫ちゃんそいつを返すんだぜ。大人しく返せば怒ったりしないからな」
「そんなんで返すと思う?」
やってみなきゃわからねえだろ。
あ、ほら地面に盃下ろしたぜ。だから言っただろ。
「まあいいわ…あんたはどっかいきなさい」
霊夢が黒猫を手で追い払う。じっと私と霊夢を交互に見つめた後その黒猫は諦めたかのようにその場を後にした。
悪戯好きな猫も困りもんだぜ。
おかげで酔いが覚めた。
黒猫が落とした盃を拾う。宴会の中心からは離れているから周囲に人はいない。さっきより話しやすい環境ね。まさかそうなるように猫が仕向けた?そんなことないか……
だとしたら色々聞かれる心配もなさそうね。
「魔理沙…さっきの話の続きだけれど…その少女のことは忘れて」
「どうしたんだよ急に……」
「あれは私の問題なの。それにそいつは多分偽物よ。だって私が退治したんだから」
それは間違いないはず。片足しか残らないほど吹き飛ばしてしまったのよ。助かるわけないわ。紫も死んだって言っていたし……吸血鬼なら別だけれど母さんは覚り妖怪。それはあり得ない。多分ね……
「退治って……だとしたら他人の空似ってこともありえるが……」
ええ、それか……ある種の擬態とかをしている妖怪の可能性もある。どっちにしてもそんなやつ許すわけにはいかない。退治するまでよ。
他人の空似だったら酌量の余地はあるけれど調べないとわからない。
「調査くらいはするわよ。ただ……あんたは知らなくていいわ」
妖怪が巫女をやっていたなんて…認められないわ。だから紫に頼んで人間の記憶を改竄してもらったというのに……
それに姿を偽っている奴だった場合は許すわけにはいかない。
ただもしそれが本当に彼女本人だったら……
なんでそんなことを考えてしまうのだろう……
その時はちゃんと話し合いましょう。妖怪だったとしても一応は私を育ててくれたのだから。
その上でまた退治をするかどうか決めればいい。
まずは魔理沙が見たその少女の詳細を聞かないといけないわ。話はそこからよ。
私が座っているところに黒猫が舞い戻ってくる。
その猫はすぐそばまで来てその姿を人へ変幻させる。周囲の喧騒の中でひっそり…誰にも気づかれない見事な変幻だった。
「まずいね…霊夢に感づかれたよ」
人の姿に戻ったお燐が耳元でそう呟く。
「知っていますよ。まあ時間の問題だとは思いましたけれど……」
ここからでもあの騒ぎは見えた。その前後関係もだいたい想像がつく。
「どうするんだい正直に言うのかい?」
それは無理ですよ。
今だって普段の姿を隠すために変装をしているんですよ。
「生きていたなんてわかれば何をされるか分かったものじゃないわ」
「だろうね。また退治されるんじゃないかな?」
私の青い髪の毛が風でたなびく。
「じゃあ緘口令を出さないといけないですね。私も…またしばらく地下に引きこもりましょうか」
小声での会話。もちろん内容は聞かれていない。
「まあ…エコー達は喜ぶかもしれないね」
「やっぱり業務大変だったのね」
なにかと地霊殿のトップは仕事が回ってきますからねえ。ただのハンコを押すだけじゃないんですよ。
「というより人員不足です」
「そりゃそうでしょうね……」
業務できるヒトそんなにいないですから。まさか犬や猫にさせるわけにはいかない。
私の目の前に誰かの影が落ちる。
お燐と揃って顔を上げればそこには博麗の巫女が仁王立ちしていた。顔に影があるとどうも不機嫌に見えますね。もうちょっと笑顔の練習をしましょう?私の言えたことではないですけれど。
「ねえあんた……」
「うげ…霊夢」
お燐、そんな嫌そうな顔しないの。機嫌損ねたら大変よ。
「……私ですか?」
「……そこの黒猫の飼い主?」
どうやら私の正体には気がついていないようですね。まあそれもそうか……前回の変装をさらに強化したのですから。
といっても主なところはいつもの変装と変わらない。青みがかった黒髪と無理な関節伸ばしで稼いだ身長。猫耳と尻尾は妖力で再現。
一応目の周りを赤くしたりしているから猫じゃなくて狐のように思われるかもしれない。ついでに少しだけ錯覚を利用して目の色とかも擬似的に変えている。
ちなみに誰1人として私を見抜くことはできていない。
「ええそうですよ」
お燐なんでヒヤヒヤしているの?堂々としていればバレないわよ。
「さっきそいつに盃奪われたんだけど」
あ、これ怒ってますね。でも宴会の場だから抑えている……爆弾じゃないですか。お燐なんてものを作ってるんですか。
「それはそれは…うちの猫が失礼しました」
「…今回は許してあげるから気をつけなさい」
ええそうします。と答えてお燐を正座させる。
うんこれなら余計に怒ってくることもないでしょう。
「ところであんた紫髪の妖怪知らない?」
あら…私のことですかなんて口が裂けても言えるはずがない。他のところから漏れる可能性もありますけれど…妖精とか妖精とか妖精とか。
「私にそれを聞くんですか?」
「いいじゃない。きつねこなんだからそれなりに情報持ってるでしょ」
いつからきつねこは情報屋になったんだ。というかきつねこってなんだ。まさか狐と猫のハーフなのか⁈まあ親が妖狐と化け猫ならあり得る話ですけれど…
「知りませんね。近い方ですとレミリアさん。でも彼の方は青に限りなく近い色ですし……あ、仙人さんとかそうじゃないんですか?」
と言うより霊夢は私に何を求めているのですか…
「あれは桃色でしょ。まあ知らないんだったらいいわ。邪魔したわね」
「いえいえ…あ、飲んで行きますか?」
「そうね。せっかくだし」
お燐が慌てたように私の肩を叩いた。
どうしたのかしら?
何やってるんですか!バレますよ!
平気よ。むしろあのまま追い返した方が危ないわよ。
うん、この場合こっちの選択肢が正解なのだ。
「いやそれより2人とも知り合いか?」
魔理沙の横槍が入った。まあ会話だけ聞いていれば知り合いのように見えますよね。
「「いえ(いや)初対面よ(です)」」
「じゃあさっきのやりとりなんだったんだよ…」
「半分は勘、あとはノリね」
霊夢も母親がわりだった存在を退治したなんてこと噂されたくないですからね。
乙女の心は繊細なのです。