妖精三人が家に来てから二日。エコーは休みを取ってどこかに出かけていた。多分サニー達の家だろう。
私も顔を出そうかどうか迷ったものの、博麗神社の裏という立地条件なのでやめた。
無理ですよあんなところに飛び込むなんて…
そんなことだから一体どういう話し合いが行われているのかとか全くわからなかった。まあ本来は関係ないことなのですけれども…
それでも気になってしまうのが人情というやつでしょうか?私にあるとは思えませんけれど。
そう思っていればやれなんの…噂をすれば影と申しましょうか。例の妖精たちがやってきた。
玄関の開く音がして、同時に子供の足音が聞こえる。
「お邪魔しまーす!」
なんの遠慮もなく私がいるこの部屋に入り込んでくる。
反対側で寝ていたこいしもびっくりして飛び起きた。
「せめて案内されるまで待つとかしないんですか?」
三人とプラスアルファでエコーさん。
「待ってられないわよ!寒いんだから!」
「じゃあ貴方達の家でいいじゃない」
「隙間風が寒いのよ!大ちゃんに窓ガラス割られちゃったし」
それは自業自得なのでは……うん…自業自得だ。
まあ今更追い出すわけにもいかないし。あ、こいしも交ざる?楽しいわよ多分……
あ、そこで聴いてる?分かったわ……
「それで私にどうしろと?」
まずそれです。ここに来たのなら絶対に私に頼りに来たということだ。そうでないならもっと暖かい地底の方に行っている。
「作戦を立てるの手伝って‼︎」
作戦?ああ…戦争の作戦ですか。
「……はいはい」
断る理由もないですので4人の会話の中に交ざることにする。
「ところで戦術に関してはどれほどの知識がありますか?」
まず第一に戦術をどれ程理解しているかどうかです。幻想郷内で使う場面はなかなかないですけれど必要なものに変わりはない。
「戦う以外に必要なの?」
とサニー。
「ごめんよくわからない」
とルナチャ
「えーっと…それって天狗さんが考えていたりするものですよね?」
とスター
完全に諦めたようにエコーが首を横に振る。あーこれは………だめだこりゃ。
まず戦術を教えないと話にならない。
その上で作戦を作らせていかないと……
こいしも呆れるんだったら手伝う?
「じゃあ簡単に戦術のことを教えますね」
後に三人は地獄の淵に立ったような感覚がして覚えないとまずいことになると思ったと回想していた。すごく失礼なのですけれどもう過ぎたことですので水に流します。
結局その日は戦術の基本を叩き込むだけで終わってしまい作戦を考えるのは明日という事になった。
こいしは今日は交ざらないらしくどこかに遊びに出かけている。子供は風の子と言いますけれど吹雪のなかを遊びに行くのはどうかと思いますよ?
まあいいんですけれど……
「数がいるけれど1人1人の戦力が弱いとなれば非正規戦になりそうですけれど」
「その点は私も考えました。ただ非正規戦は遅延戦闘でしかありません。いずれこちら側が追い詰められることになります」
そもそも相手が少数なんだしこっちから攻めに行くんだから非正規戦は合わないか…それでも奇襲戦をかければそれなりにいけるか?でもそうなるとなあ……
「で…誰を対象にするつもりなの?」
「協議の結果仙人さんになりました」
ああ……納得します。でもこれ異変と言えるのだろうか…なんだか数の暴力でどこまでいけるかって言う無謀な戦いに見えてきた。
「あら、茨木さんのこと知っているの?」
っていうか茨木さんなのだろうか…一応仙人ってもう1人いますし。
「たまに弾幕ごっこしている仲だよ」
面倒見のいい仙人さんだこと。
なるほど…だったら頑張らないといけませんね。
一応言いますけれど鬼ですからね?奇襲戦とかは流石にやめましょう。正々堂々行かないと嫌われますよ。
というか怒って大変なことになりそう。
「そうなると…分散しての戦闘は流石にダメかあ」
「やっちゃダメだよ。こういう場合は一箇所に誘導してそこで袋叩き!」
まあ定石ならそれしかないですね。下手に罠を張るのも御法度ですから。
まあそれ以外の方々だったら誘導担当の妖精達によるゲリラ戦、即席で罠を張って体力をじわじわ削ってから残った戦力で袋叩きにしますね。
疲労は集中力を散漫にさせたりミスを誘発したりしてしまう。戦いというのは結局戦う前から決着が決まるんですよ。
ただそこまでやる必要がないだけで……
「それじゃあ早速準備しましょう!」
「待ち構える場所の選択や、誘導のためのポイントとかなるべく現地調査もするように」
「「「はーい‼︎」」」
なんだか小学生の遠足のようです。私はもちろん行きませんけれど。だってこれは妖精達による戦いです。私はサポートすることはあれど基本は彼女達に任せるつもりです。妖精だってすごいってことは知っていますから。
って雪結構降ってません?今から行くのですか?流石にそれは…ってもういない。
「貴女は行かなくていいの?」
「私は…ここで戦術を考える事にします」
そうですか…でもなんとなく…今日で終わっちゃいそうな気がしますね。そうでしょう……
「ねえ茨木さん」
「あら、気づいていたの?」
誰もいないはずの部屋の隅に、一瞬にして茨木さんが現れる。
エコーさんが飛び跳ねてナイフを取り出そうとするのを抑える。家の中で戦うのはやめてくださいよ。
「なんとなく違和感があったので…最初から聞いていたんでしょう」
「ええ、妖精たちが何を企んでいるかと思えばこんなことだったなんてね」
呆れたと言わんばかりにエコーさんを見下ろす。貴女も座りましょう。お茶なら用意できますから。
「言っておくけれど、妖精がいくら集まっても私は倒せないわ。諦めて他の人を探しなさい」
「止めようとはしないのですか?」
「たまには妖精だって暴れたい時があるんでしょ。少しくらいみんな大目にみるわよ」
「じゃあ今から行けばまだ間に合うんだ…」
どこからそういう情報を拾ってくるのかわからないけれど、常闇妖怪はあの妖精達が他の妖精に声をかけて回っている最中だということを教えてくれた。
「そうかもしれないよ。どうする?行ってみる?」
「……貴女は戦いたいだけでしょ?」
質問を質問で返すなんてナンセンスだって普通の時の私は思うかもしれないけれど…彼女の真意を知りたいからここは我慢。
「そりゃそうだよ。私は戦いたいだけさ」
「見上げた闘争心だけれど…戦闘狂はお断りだよ」
注意をするものの素直に聞いてくれるとは考えづらいわ。
「わかっているさ。だけれどね。向こうの態勢が整う前に戦いを仕掛けたほうがいいと思うよ」
それは分かっている。だけれど今戦うには天候が悪すぎる。もうちょっと晴れてからじゃないと無理だ。
私は氷の妖精であって冬の妖精じゃないからね。
吹雪の中で戦えるのはレティくらいしか知らない。
「じゃあもし向こうと遭遇しちゃったらどうするのだー?」
「そのときは…戦うしかないわ」
「流石だね…それじゃあ私も見つけたら教えるわ」
絶対戦いたいだけじゃん。
「今度余計なことを言ってみろ。口を縫い合わせてやる」
向こうも私も気づいてなかったら見逃してよね!今はだけど…今はね…
晴れてたら?その時は戦うよ。
朝はそうでもなかったのに気がついたら吹雪で視界が見えない状態になっていた。困ったなあ…これじゃあ迂闊に動けないや。
雪を避けるために木の下に避難。妖力で熱を出して周囲の雪を溶かしながら時間を過ごす。
おかげで寒くは無い。ただ銀世界の中にずっといると気がおかしくなってきそう。
ふと吹雪の中に誰かの人影が映った。上手くは見えないけれど…1人では無い。匂いからしてサニーちゃん達かな?
私が熱を出すために手のひらで光らせている妖力に反応したのか人影はこっちに向かってきた。
「あ、サニーさん」
やっぱり当たった。それにルナちゃんとスターちゃんも。うわなんか真っ白だね。やっぱり吹雪ってすごいなあ。
「大ちゃんじゃない。こんな吹雪の中何しているの?」
「散歩ですよ。そっちは何を?」
「ちょっと作戦のために現地調査してたんだけど吹雪で何にも見えないや」
そっか…まあそうだよね。こんな雪じゃどうしようもないし…
ここまで天に見放されちゃったらもう家にこもってたほうが良かったかも。
「私達も温まっていいかな?」
ルナちゃんが私の側に近づいてきた。別に私は構わないよ?こういうのは人数が多いほど効率的だし。
「じゃあ私も!」
「うぇ⁈2人とも下見は⁈」
いやいやサニーちゃん流石にこんな状態で下見は無理だよ。それにほとんど雪で埋まっちゃってるし…
「こんな雪じゃ無理だよ。サニー」
うん、ルナちゃんの言う通りだよ。晴れるまで待とう。
あれ?もう1人誰か来ましたけれど……
「チルノちゃん?」
「げっ!」
雪の中から現れたのはチルノちゃんだった。私と一緒に温まっているサニー達を見てまるで宇宙人にでも遭遇したのかのような顔をしていた。
大ちゃんの後ろから文字通り影を纏った少女も現れる。確かルーミアさんでしたね。チルノちゃんと同じで少し歳増しですけれど……でもワクワクしているしいつものことか。
「まさか大ちゃんそっち側だったの?」
そっち側…え?まさかチルノちゃんはサニーちゃん達の味方じゃ無いの⁈一応妖精は集めるだけ集めて仲間にしているって聞いてたのに……
「え?チルノちゃんこっち側じゃないの?」
「むしろ宣戦布告しちゃったよ!」
そうなの⁈どうしよう…そしたら私とチルノちゃん敵同士じゃん!
あまり戦いたくないのに……ううん…でも協力するってサニーちゃん達には言っちゃったし。それにこの怯え具合…流石に見捨てるのは酷いよね。
多分チルノちゃんの琴線に触れるようなことしちゃったんだろうね。参ったなあ……
「……そっかじゃそこの三人と雌雄をつけたいから手出ししないでくれる?」
やっぱり大人に近いからか落ち着いているなあチルノちゃん。でも根本的に同じだから戦わないと気が済まないのか……
「でも私も協力するって言っちゃったし…それを破るのはできないかなあ」
今にも逃げ出したいって震えているし……
「いいよ大ちゃん。そこの三人をとっちめれば問題はないんだから邪魔しないで。大ちゃんは何も見なかった。いいね」
寒いはずの空気がさらに寒くなる。空気中の水分が一気に氷に変わって周囲吹雪の中できらめく。
あ…これ戦闘態勢に入っちゃった。もう人の言うこと聞かないんだから……
「ひっ…逃げろおおお!」
一斉に三人がチリジリに逃げ出した。一応三人とも別々の方向に逃げているから逃げるのがへたってわけではない。むしろ逃げ足速いね。タイミングも完璧だし。
「逃がさないよ」
でも今のチルノちゃん相手じゃダメだったね。
チルノちゃんが周囲を囲うように氷の壁を作った。流石にこれはやりすぎだよ。
ルナちゃんに攻撃をしようとしていたルーミアさんを食い止める。
「なんで邪魔するの?」
嫌味とかじゃなくて純粋になんでって顔で聞いてきた。うーん……
「見逃せないからかな?」
無抵抗だし戦いたく無いって子を無理やり攻撃するのは感心しないなあ…
「そーなのかー折角だし妖精食べてみたかったんだけれど」
妖精だから一回休みで済むんだけれど…わざわざ食べる宣言しなくてもいいじゃん。
「いいよ2人とも…まとめてかかってきて」
仕方がないなあ…2人のことは私が一番知っているし…相手してあげないと。
でも構えた私の前に立ったのは2人ではなくサニーちゃん達だった。
「だ、大丈夫!そっちの黒い方は私達がやるわ!」
三人で?大丈夫でしょうか…戦っているところか全然見たことないんですけれど……
「いいのですか?」
刀を懐から出して臨戦態勢に入る。チルノちゃんの方も氷の剣を作って応戦寸前だ。
「大ちゃんだけに…かっこはつけさせられないから!」
でもルーミアさん強いですよ?すごく……新月の日じゃないからまだマシだとは思うのですけれど…
「本当に…い、いいのサニー?」
「仲間を見捨てるようじゃ妖精をまとめるなんて出来ないでしょ!」
さっき思いっきり逃げようとしていましたけれど……
よく見ると三人とも震えていた。でもその目にはしっかり闘志が宿っていた。じゃあ、任せましょうか。
「まあ私は何人相手でもいいよー久し振りに運動もできるし」
悪役が似合いますね。半分面白がっている節もありますけれど…
黙って聞いていたチルノちゃんが飛び出す。それを合図に私も能力を使用。吹雪で視界が悪い極限環境での戦いが始まった。
「うふふ、なんだか面白そうねえ私も参戦しちゃおうかしら」
最初の一手はチルノちゃんからだった。その点で言えば私は最も不利な状態になっていると言える。
基本的に戦いは先手必勝。最初の一手で場合によってはやられることだってある。
素早く横に振りかざされた氷の剣を素早くテレポートで回避する。
だけれど吹雪の中だからすぐにチルノちゃんの場所を見失ってしまう。
だから吹雪を突き抜けて氷の粒が飛んできた時最初にしたのは回避じゃなくて攻撃。弾幕を攻撃してきた方向に向け打ち込み続ける。
効果なし。熱探知ができればよかったなあ…出来ないものは仕方ないけれどさ。
もう一回テレポート。ほんの少しの差でさっき私がいたところを氷の剣が斬り裂いた。
危ない…この状態でチルノちゃんはこっちの居場所がわかるか…
やっぱり冬に相手はしたくないです。夏に相手しましょうよ。私夏強いですよ。
チラッと横目でルーミアさん達の方を見る。弾幕と怒号が飛び交っているから多分大丈夫。叫ぶ気力があるなら全然平気だよ。
「よそ見している暇があるの?」
あ、やば……
お腹に蹴りを叩き込まれ地面に倒される。
肺から空気が無理やり吐き出されて一瞬呼吸ができなくなる。
だけれど体を止めるわけには……
横に体を転がし振り下ろされた剣を避ける。次の攻撃をされる前に両足で素早く蹴り上げ。
重たい感触とともにチルノちゃんが後ろに跳ね飛んだ。
お腹の少し下を蹴ったみたい。なんか骨盤の感触がした。
「もうやめようよ!チルノちゃん」
吹雪が視界を遮る。さっきより一段と強くなったみたいだ。
「こんなに楽しいことなのに?」
全然楽しくない!
そう叫ぼうとした。だけど叫ぶより先に体が動いた。
殺気が白いカーテンを抜けて飛び込んできた。
テレポート!少し離れた位置へ飛ぶ。
一安心…というわけにもいかなかった。足が積もった雪にはまり込んだ。抜け出せない!
「足元ちゃんと確認しないとね」
気づけば目の前にチルノちゃんがいた。
ーーーー斬られる‼︎
咄嗟に体を捻って弾かれた刀を前に突き出す。
少しだけ間に合わない。刀が剣のすぐ側を通過する。空振り。
どうしようやられる!
覚悟した。
だけれど私に当たるはずだった剣は重い音と共に真横に飛んで行った。
今まさに私を斬ろうとしていたチルノちゃんが真横に弾き飛ばされた。そのまま何度か地面をバウンドして雪の中に突っ込んだ。
その代わり私の前に現れたのは、意外な人だった。
「えっと…レティちゃん?」
白い半袖シャツと水色のスカートを着て首にマフラーをつけている少女がゆっくりと私の方に振り返った。
「なんだか面白いことしてるから私も交ざっていいかしら」
何事もなかった。チルノちゃんをぶっ飛ばしたのはそこに障害物があったからとしか思っていないような表情だった。
あ…もしかしてこの吹雪のせいで凶暴化している?天候によって戦闘狂になったりする子がいるってるのは知ってるけれど…
「交ざられても困るなあ……」
ごめん…また今度ね……せめて夏場にお願い。
「あら?歓迎されていないのかしら…じゃあ仕方ないわ。勝手に交ざることにするわ」
精一杯の笑顔…それはかなり狂気に歪んんでいた。風が吹き荒れ嵐のような天候になる。
いやだから交ざらないでって言ったんだけれど……
吹雪強くしないで!これ以上寒くなったら雪だるまが作れちゃう!
「うるさい…邪魔」
弾き飛ばされたチルノちゃんが復帰してきた。一瞬でレティちゃんとの距離が詰められ、火花が飛び散る。でもそれは火花じゃなかった。
氷の剣同士が擦れて飛び散っているのは火花ではなく氷のかけらだった。それらが妖力を持ち、触れ合うことで火花のように発光しているのだった。
一瞬だけレティちゃんの意識がチルノの方に集中した。
その一瞬を利用してその場から飛びのく。その瞬間、チルノちゃんが放った弾幕が地面を抉り取り爆風で2人を反対方向き弾き飛ばした。
「一時休戦でいこっか」
チルノちゃん側から提案が出る。うん、そうする。先にあっちを倒さないとなんかやばい気がしてきた。
「そうする…」
断る理由も無いしそうすることにした。
倒すための弾幕、命中させるのに特化したものを解き放つ。
追尾型だから避けるのは簡単にはいかないはず…だったのに。
弾幕は吹雪の壁に遮られ自爆。いくつかは自爆で開いたエアポケットから中に入り込んだけれどそれらも真っ二つに切り裂かれレティちゃんに当たることはなかった。
彼女の手にはさっきの剣が握られていた。一振りであの威力…侮れないね。
レティちゃんが持っている剣は日本刀のように薄く、チルノちゃんの剣より小さかった。まあ私のよりかは大きいけれどね!
チルノちゃんの方が叩き割る事をメインにしているのに対してこっちは斬るのを前提にしている。
当たったらやばそう。っていうか真っ二つに斬られちゃいそう。
それはそれで怖いなあ。
当たればの話だけれど……
テレポートで距離を詰める。取った位置はレティちゃんの後ろ。
背後に回ったところで思いっきり拳を叩きこもうとして腕を振りかざし……
「きゃっ‼︎」
思いっきり蹴り飛ばされた。テレポートを予測された?そんな……
反撃のために弾幕を展開する。当てるつもりはなくあくまでも意識を拡散させるためのものだった。
だけれどそれらは役割を果たす事なく全て氷漬けにされた。氷はチルノちゃんの特権だったはずなのに…向こうもできるの?
だとしたら厄介だなあ……
チルノちゃんがカバーで飛び込む。一瞬の交差。チルノちゃんが持っていた氷の剣が根元から折れた。
「無駄よ」
チルノちゃんの周辺に吹雪が吹き荒れる。私の周囲も真っ白に染まる。まさか吹雪を操っている?あ、でも不思議なことじゃないか…
空に舞い上がり高速で飛び回る。どうにかして雪を振りほどかないと雪だるまにされてしまう。ただでさえ体の熱が奪われて動きが鈍ってしまうというのに…
ある程度の高度まで上昇し背面飛行。
もちろんそれで逃げ切れるほど甘くはない。
弧を描くように降下、チルノちゃんと弾幕を撃ち合うレティちゃんの背後を取る。
雪が体にまとわりつく。体温で雪が溶けるのより早く雪が付着していく。
ナイフのような小さな刀を義手の手に持ち思いっきり斬りつける。
急所となるお腹めがけてだ。
一線。最初の一撃は体を捻る事でかわされる。間髪入れずにもう一回。小さな刀だからできる素早い切り返し。リーチがない分、連続性に優れるこっちの方が私は好き。
私の攻撃に合わせて折れた剣を再生させたチルノちゃんが飛び込む。連携攻撃。
蹴りと剣さばきが交差し、何回かの均衡の後ようやく肉を貫く感触がした。
私の刀がレティちゃんの腕に突き刺さっていた。
「ッチ…やってくれたわね‼︎」
冷気で素早く傷口を止血したらしく血はほとんど出ていなかった。
それに雰囲気も…殺意増しましになっちゃった?やばいかも……
「チルノちゃん…ちょっとやばいかな?」
「多分やばいわね…こりゃ骨が粉砕するわ」
粉砕は大げさだと思うよ。
急に吹雪が竜巻のように集まり、レティちゃんの周囲に集まり始めた。
吹雪…じゃなくてただの雪の竜巻が襲ってくる。
しかも私狙い。
本能が警告している。あれに飲み込まれたらやばいと……
逃げようと飛び上がったけれど全然逃げられない。元々飛ぶ速度は速くないから…
結果私とチルノちゃんと距離が開き別々で戦う羽目になった。
「大ちゃん!」
「ひとのこと心配できる状況じゃないでしょ」
両手を広げエアブレーキの要領で減速、体をねじりこみ方向を変え加速。強引な方法でジグザグに逃げ回る。それでも少しのタイムラグしか稼げないし直線飛行では竜巻のようなもののが速い。このままでは追いつかれちゃう。
だからとった行動は……接近。交戦しているチルノちゃんとレティちゃんの合間をすり抜ける機動で突っ込む。目的は二人の剣が接触し発生する衝撃波。
かなりの距離が取れた。
「大ちゃん‼︎ちょっと荒っぽいけど……」
チルノちゃんがそう叫んで周囲の冷気を吸い込み始めた。
青色の電撃のようなものがチルノちゃんを中心に放たれ、地面から何かが生えた。それらは一気に大きくなり…出来上がったのは巨大な氷の柱だった。
それも一本だけじゃない。レティちゃんを貫こうとして生えたものも含めたら10本だ。それらの合間を縫うように駆け抜け、しつこく追ってくるブリザードのようななにかを引き剥がそうとする。
時々離れた位置にある氷の柱が黒い何かが根元で光り倒壊している。多分ルーミアさんかな?
追いつかれそう…でもタイミングはここしか無い!目の前の柱の側面を飛び上がりながら一気に駆け抜ける。私に合わせて足場が生まれる。それを蹴り飛ばして加速する。こっちの方が普通に飛ぶより速くて便利だった。
足元で踏み台にされた氷の枝が折れる。尖ったものが下に向かって落ちるけれど大丈夫だよね?
下ではレティちゃんとチルノちゃんが戦っているらしく衝撃波がここにも伝わってきた。
氷の柱が大きく揺れた。
揺れたというより横にずれたという感じかな。一瞬大きく傾いて…そのまま地面に向かって横になっていく。
よく見ればチルノちゃんが柱にめり込んでいるのが一瞬だけ見えた。
「はあっ‼︎」
吹雪が周囲を白く染め上げ視界を隠す。追いつかれた。寒さが私の体を蝕もうとする。
でも一歩遅かったね。
テレポート。吹雪の中から脱出する。
吹雪が私を追従できずそのまま氷の柱から突き出た巨大な枝に接触。枝が粉砕され崩れ去る。同時に竜巻も衝撃で拡散した。
「やってくれたわね…」
レティちゃんがこちらに突っ込んでくる。どうやらチルノちゃんの方は雪で封じ込めたみたい。
目標を私に定め飛び出した。
「あ!待てっ‼︎」
雪の中に埋められたチルノちゃんだったけれど少しして追いかけてきてくれた。
逃げ回る私とほぼ同じ高度に到達。
でも攻撃をされる前にそのまま下に向かって加速。レティちゃんが覆いかぶさるように上から降下してきた。地面に向かって真っ逆さま。このままだと十数秒で地面に叩きつけられるだろう。
追いかけてくるレティちゃんとその後ろからさらにチルノちゃんが迎撃に入っている。
弾幕が撃ち出され、私を追い越していく。
タイミングを間違えるとさっきみたいにされる…だからもう少し引きつけて……
今‼︎
テレポート‼︎
地面すれすれのところで瞬間移動。でも向こうだってバカじゃないんだから引っかかるはずもない。急制動でどうにか地面との接触は避けていた。
「っ‼︎どこ?」
でもそれに意識を取られてこちらの動きを把握できなかったようですね。
前です!
移動したのは少し前方に移動した位置。だけれど移動する向きは真逆。だから…
相対速度でほぼ2倍近い速さで蹴りをレティちゃんに叩き込む。
同時にチルノちゃんの氷の剣が体を貫いた。チェックメイト。
集まっていた吹雪がその瞬間吹き飛ぶ。
相変わらず雲はかかっているけれどさっきのような吹雪ではなく、パラパラと粉雪が降るだけになった。
雪の上に倒れるレティさんの体はもうピクリとも動かなかった。流石に一回休みにはなっていないと思うけど…いや、やっぱり一回休みだね。
安らかに眠ってね。
「終わった…」
あー…すごく疲れた。あれだけでもう戦う気無くなるよ……
「……疲れたから今日は帰る」
チルノちゃんはそう言って空に飛び上がった。ボロボロの体なのによく動くよね。
サニーちゃんたち大丈夫かな?
遊んでスッキリしたチルノちゃんが見えなくなり、こっちも余裕が出てきた。
寒さで体の動きが鈍ってきているけれどちょっと見に行こう…静かになっているからあっちも終わったと思うんだけれど……
4人とも死屍累々の状態だった。いやほんと何があったの⁈
妖精の怪我は大した事じゃないからいいんだけれど…ルーミアさんまでそんなボロボロで……あ、これもしかして相討ちか。
相打ちに持ち込んだのか…三人とも結構すごいんだね。でも…やられちゃったら意味ないよ…
まあ一回休みじゃないだけ根性はあるかもしれないね。
「大丈夫?」
全員からの返事はない。返す気力すらないか気絶しているか…どっちにしてもここに放っておくわけにはいかないし……
でも三人も連れて行けるかなあ……
「なに他人の心配?」
「あれチルノちゃん帰ったんじゃ…」
「気になったから戻ってみたのよ。仕方がないわ助け呼んできて私は4人の介抱するからさ」
そう言ってチルノちゃんが4人を一箇所に集め始めた。
「いいの?宣戦布告したんでしょ?」
「凍死させるほどあたいは残酷じゃないもん」
「わかった。お願いねチルノちゃん」