古明地さとりは覚り妖怪である   作:鹿尾菜

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depth.183廻天楼閣 下

「なんなのよこれ‼︎」

サイレンがなったかと思えば急に地上から棒がせり出してくるなんて想像できないわよ!

左右に逃げてもぴったりそれらは追いかけてくる。

空に打ち上がるのは弾幕…なんてものじゃない。

もっと巨大で破壊力のある爆発。それが生身の体を揺さぶる。

たとえそれに当たらなかったとしても衝撃波で内臓が掻き回されそうになる。ほんとなんなのよ‼︎こんなの反則よ!

一つだけならともかくそれがいくつも…それこそ弾幕ごっこ並みの精度で撃たれるのだ。咄嗟に張った結界はあっさり破壊され、魔理沙も逃げ回るのに手一杯で協力するなんて無理だ。

それに当てる気で来ているからもっと嫌だ。あんな高速で飛び込んでくるものなんて避けようと思って避けられるものではない。張り直した2枚目なんかその直撃で粉々よ!

あんなのいくつも受けたくはないわ!

私を狙っているそれを見つけ回避しようと射角から逃げ出せば今度は別のところから棒のようなものが再び生えてくる。それの真上にはなんかごっつい大砲。さっきから撃って来ていたそれとは全く違うやつだ。それが私の方に振り向く。

反射的に体をひねって向きを変える。

『これが旧都の防御…』

 

「紫!どうにかしてよ‼︎」

その大砲が光った。

 

次の瞬間には私の体が衝撃波で吹っ飛んだ。いくら障壁を張ったからとはいえこれがいくつも来たら耐えきれないわ!

こんなの弾幕ごっこじゃない‼︎そもそもわたし達は招かれたはずよね!どうしてこうなってるのよ‼︎

こうなったら一時撤退よ‼︎

 

幸いなのはあれが固定砲台ってことね。

引けばその分精度も下がっているようだしさっきほど酷い目には遭わなかった。

だけど魔理沙がまだ残されたままだった。あれでは逃げ出すのも無理ってところね。仕方ないわ…

さっきより濃くなった弾幕の中に飛び込む。

何かが焼けた匂いが充満する中を通り抜け魔理沙の腕を掴む。

「魔理沙!」

 

「なんだ霊夢っ!」

 

「さっさと出るわよ‼︎」

有無を言わせず強引に引っ張る。流石に最初は抵抗したけれど流石に今の状況を冷静に考えたら無理と理解したのか抵抗がなくなった。

 

急降下。狙いをつけさせないように左右に何度も不規則に動く。

それでも位置を正確に把握してすぐそばに花を咲かせてくるのだから化け物と呼びたくなる。

ああもう‼︎

急降下で地面すれすれを飛びあれらの砲弾が飛んでこないところまで逃げる。

 

ようやくね…無駄に疲れたわ…

 

「な…なんだったんだあれ」

落ち着いてきたら冷や汗が出てきた。どうみても飛んできていたのは鉛の塊だしそれが爆発していたのだ。直撃しなくても破片で怪我をするってのは容易に理解できる。

私もたまにやっていたからなあ…薄い鉄の箱に火薬詰め込んで爆発させる遊び。今思えば危ないや…

『なんかあったのかい?』

人形越しににとりが聞いてきた。こいつなら何か知っているんじゃないかしら?

「地面から棒みたいなのが生えてきて…」

魔理沙が状況を端的に説明してくれる。

『ああそれか。災難だったな』

 

「どういうことだにとり?」

ちょっと魔理沙、そんな激しく揺さぶったら人形が可哀想よ。

 

『それらを作ったのは何を何を隠そう私らだからな』

 

「おい今なんつった?」

人形の頭を鷲掴みにする。このまま捻り潰そうかと思ってしまうほど殺意が湧いてきたわ。

「霊夢⁈落ち着けって人形が壊れる!」

ああそうだったわ…ごめんなさいね。

『私の大事な人形よ⁈壊さないで!』

 

『頼まれたから私は作っただけだよ』

 

「まあいいわ…だったらある程度あれの対策もできてるんでしょ?」

作った本人が対策できてないってことはまずないわ。だってそれらの弱点を知っているのだから。

『ああ…出来てるさ』

だけどその先を聞くより先に魔理沙が叫んだ。私の直感も危険と判断。

「なんだありゃ⁈」

上から降りてきたのは妖精?でも様子が…力なく下を向いているせいか顔が分からない。それに動き方もへんだし着ているものもボロボロ…

「っち…あれ妖精?」

私の言葉に妖精のような何かが顔を上げた。

その顔は土気色で所々腐っており、白目だったり目がそもそも顔から垂れ下がっていた。

怖いわよ!一瞬ちびった…かも。

「なんかゾンビみたいだな…」

 

「活性死者ってやつ?」

なんか聞いただけでもう相手したくなくなるわ。一応妖怪退治が仕事だからあんな感じのやつらたくさん見てきたけど…あれなまじ気持ち悪いわよ。

夜にあんなのが来たら軽く泣けるわ。

それに敵意丸出し。

 

こりゃやるしかないわね。でも空中はまだこちらの十八番よ。ある程度高さを制限されたところでそれは変わらないわ。

お祓い棒を構える。

 

一触即発。それどころか増えてきたわね。案内のお燐は一体どこにいるのよ。

 

覚悟を決めて飛び出そうとした直後だった。

妖精とは全く違う影が私達の合間に飛び込んできた。

 

「おーい‼︎2人ともごめんよ!」

私と妖精ゾンビの真ん中に割って入ってきたのは姿が見えなかったお燐だった。一体どこに行っていたと言いたくなったけれど彼女を見てふと思い出した。そういえばあの辺な奴に絡まれた後私達は先に勝手に行ってしまったのだということに……

 

 

妖精ゾンビもお燐を見るや否や慌てて頭を下げていた。言葉はないけれど謝っている?ってなるとこいつら湧いて出てきた敵ってことじゃなくて…

「この子たちは旧地獄の防衛を行う妖精達だよ。旧地獄で暴れているものがいたら一番先に現場に向かって対処するのさ。まあ…市街地だと鬼が先に片付けちゃうからそれ以外の場所での活動がほとんどだけれどね」

 

「どういうことよ猫」

 

「お燐だよ!…あたいが先導してなかったから敵と勘違いしちゃってるんだ」

何よそれ!私達が勝手に先行ったのがわるいの⁈ふざけんじゃないわよ!

「じゃあどうすれば良かったのよ…」

 

「一旦地上に降りて。話はそれからだよ」

地上?わかったわよ…

 

すぐに地面に降り立つ。大した高さがあったわけじゃないからそんな時間はかからなかったけれど地面に降り立つのでさえ少しガクガクしてきたわ。

やっぱり相当危なかったのね。今はまだ実感無いんだけれど多分相当危険だったわ。脳は理解していなくても体の方は正直なようね。

「何よ飛んじゃダメだったの?」

 

「警戒態勢だからねえ…あの状態で空を飛ぶと攻撃されるよ」

そういうのは先に言ってよね。無駄に体力使っちゃったわよ。

「聞いたことないんだけど」

 

『そう言えば言ってなかったわね。でも私たち妖怪の合間じゃ常識のようなものよ』

いや知らないわよあんた達の常識なんて。

「ここに来る人には徹底させる周知の事実さ」

じゃあなんで私達の時だけはそれを教えないのよ。貴女まさか図った?わざと教えないでいて私達を落とそうとしたとか…でもこいつはそんなことするようには見えない。多分純粋に忘れていたのね。

「旅行のしおりみたいなもので欲しかったぜ」

旅行ねえ…確かにしおりにしてくれてたらありがたかったわね。

「すまないねえ。用意できてないんだよ」

緊急事態だからかしら?

「っていうかあいつらなんなのよ」

 

「……!」

 

「ああ死霊妖精だよ」

死霊妖精?ゾンビ妖精とかじゃないんだ。

「見た目がその…あれなんだけど」

 

「ああ、目玉以外は特殊メイクさ。ああやっている方が気合が入るんだって」

はい⁇じゃあつまりあれってただの仮装?なんかそう考えたらよくできているというか…可愛いわね。

「へ…へえ…」

でも目以外って言ってなかった?まさか目は本気なの?

 

「……」

ねえなんでそこで黙るのよ!教えなさいよ!

 

「!!」

なんで慌てて目玉を元の位置に戻そうとしてるの⁈まさか本当に……

 

「あはは……ああ見えても死霊妖精。ちょっと特殊なんだよ」

苦笑いされても困るわよ。

あんな特殊性嫌だわ……

しかもあんな姿で襲ってくるんだから敵に回したくはないわ。ビジュアル的に……

「空飛んじゃダメなの?」

あんたがいるならもう向こうだって撃ってこないでしょ?流石に味方に連れられている人を撃とうなんて思わないはず。

「やめたほうがいいと思うよ。また撃たれるだろうし」

でもこの黒猫はそれを否定した。

「あんたがいるなら平気なんじゃないのか?」

 

「一度射撃を始めちゃうとみんなトリガーハッピーな子が多いからねえ…この前なんて攻撃中止って言ってから三十分撃ち続けたくらいだから」

それ命令聞いているようで聞いてないじゃない。そんなんでいいのかしら?まあそっちがいいって言うならいいんだけれど…それ誤射しちゃった時どうするのよ。

「そういう時は簡単さ。地上にいればいいんだよ。あれは地上を撃てないからさ」

あ、そうなの。じゃあやっぱりあの旧都を歩いて通らないといけないのね。

まあ飛んでばっかりじゃ足腰の筋肉も弱っちゃうからちょうど良い運動ね。

 

『旧都ねえ…霊夢、鬼には気をつけなさい』

 

「鬼?なんだか知らないけれど分かったわ」

鬼ってこの前神社を修復してくれた奴らでしょ。いいやつだとは思うんだけど…あ、酒と喧嘩は鬼の十八番って母さん言っていたわね。

それか……

 

 

 

 

 

「お?なんだお燐じゃないか」

旧都の通りでばったり勇儀さんと出くわした。珍しく酒を飲んでいないらしい。酒臭さが全くしない。でも片手に酒瓶もってるからそのうち飲むんだろうね。

「勇儀さんかい。今のところ何か変わったことは?」

旧都は今のところいつもと変わらないように見える。灼熱地獄が熱暴走しているからか全体的に気温高めなんだけれど…湿度も少し上がってきている。

「特にはねえな…ただまあ…ここの奴らもそろそろ不安になってきたって感じだな」

あーやっぱり?温度とか湿度とかって少しでもいきなり変動すると体に影響出るからねえ。それに…ここまであの子の神力が漏れてきていればねえ……

霊夢もさっき気づいたみたいだ。でも何も聞いてこないから何にも伝えていない。魔理沙の方は…まあ彼女は魔法使いだし管轄外だろうね。気づいた様子ないし。

「何が起こっているのかはわからないけれど何かが起こっているというのは勘がいいやつは気付くからな」

 

「早めに解決しないと混乱が起こりそう」

大したことない場合でも一度民衆が混乱すると何が起こるかわからない。制御に失敗すれば些細なことでも一気に暴徒になって秩序が回復不能なことになりかねない。

そういう例をさとりに散々教えてもらった。あたいには半分関係ないかなあなんて思ってたけれど……あたいがこんな心配することになるなんてねえ。

「こっちもその時はどうにか手を回す」

ありがたいねえ…

 

「それで、あそこで買い食いしている巫女はどうするつもりだ?」

 

「…え⁈」

慌てて振り返る。妙に2人が静かだと思ったら道の反対側で買い食いしてた。しかもそれあたいの財布‼︎さっき魔理沙がぶつかってきたからその時かっ‼︎

「ちょっと2人とも!早く行くよ」

 

「団子くらい食べさせなさいよ!」

 

「それにこっちにケーキってのがあるぜ」

あんたはなに人の財布から金出しているの‼︎怒るよ‼︎むしろもう怒ってる‼︎

「異変解決したらいくらでも食べていいから!」

自腹でね!

 

2人の腕を掴んで無理無理引きずる。

もうなんでこうなるのさ……

 

 

 

 

 

「何しようとしていた?」

急に周囲の視界がひらけた。身体中が妙に生暖かい。

「流石に…気づきますか」

久しぶりの光で目の焦点が合わないけれどどうやら私は諏訪子さんの目の前にいるようだ。覇気が体を揺さぶる。結構怒っているようだ…当たり前といえば当たり前か。

中途半端に神を読み取ってしまったためか想起してもそれは不完全なもの。全く使い物にはならないだろう。

「そりゃそれは私の使いだからねえ…何か動きがあればすぐに伝わるよ」

(それがわからないようじゃ…さとりもその程度みたいだね)

「へえ…そりゃどうも…」

急に体が解放され、一瞬だけ自由になる。でもその直後再び体が左右から押しつぶされる。

新たな場所に穴が空いた。…すっごく痛い。涙出てきそう……でも貫通しているわりにはその程度で済んでいるのだからまだ良いほうか。

「もうちょい大人しくしていてくれないかな。でないと…」

(抹殺しちゃうよ)

焦点があった視界の先で諏訪子さんがその手を私に振りかざす。その顔は無表情だった。

「っ……‼︎」

血飛沫が飛び散る。同時に心の声が聞こえなくなる。諏訪子さんのも…蛇の声も…

杭のようなものが打ち込まれたサードアイは完全にその機能を停止してしまっていた。

「あんたの体の方は半分くらいわかってきたからね。あんたの呪いならすぐに回復するから一時的な処置だけど……」

まあ…そうですね。私自身もサードアイがなくなることにはあまり躊躇しませんし。

「全て終わったらちゃんと帰してあげるから。我慢していてよね」

 

帰った先が灰になっていたら?

その問いを投げる前に私の体はまた闇に飲まれた。

 

モウ…テハ残ってない?

ううん…マダアル。


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