古明地さとりは覚り妖怪である   作:鹿尾菜

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庭渡久侘歌ってミスティアと絶対気が合いそう。


depth.185邪神炎上 上

「ふうん…これが灼熱地獄?」

 

目の前にあるのは人2人分の大きさの巨大な鉄の蓋だった。

やや埃や泥をかぶって汚れてはいるけれど磨けばそれは銅色の光沢を放ってくれる。その少し上には赤と青の二つのランプが縦につながって地面から伸びた某にくくりつけられていた。今はずっと赤を点灯させている。

これは通常時に使用する温度計が壊れた場合に施される処理。通常、赤ランプは内部温度が危険値を超えている。あるいは内圧が異常上昇しているのを表している。

じゃあ今のように壊れちゃったらどうするのか。そりゃ手動で測るしかないよ。外から温度計と気圧計を下ろすための貫通穴はある。そこからこうやって糸にくくりつけた温度計を下ろす。圧力計は今の所正常値だった。

 

私が中の状態を調べている合間に2人は入り口になっているその蓋を開けようとしていた。

「その入り口。今の温度はちょっとだけ高いから入らない方がいいよ」

そう言ったけれど開けてみればわかるといって開けようとする。でもその扉は開かなかった。

 

それお燐も言ってたけどね…高温と高圧が一気にかかったから膨張と変形が起こってるんだって。

『あちゃ…そんなに圧力かかってたか。もうちょっと設計強度あげるべきだったかな』

「これもにとりが作ったのか」

魔理沙が人形越しに向こうと話し始めた。

『お得意様だからね』

 

『こっちに設計図があるから言えるけどどんな力がかかったらこれが変形するのよ』

そんなに凄いのかな。設計図後で見せてね地上のお二人さん。

『実物を見てみないとなんとも言えないね』

 

「…どうするのよ」

 

「もう少しすれば人が入れる程度には冷めるよ。そうすれば収縮してある程度ましになるんじゃないかな?」

それかヒンジを解体して無理やりこじ開けるか。

 

「中の熱も波があるのか」

魔理沙が感心してた。多分だとは思うけどさ…

「だと思う」

そうじゃなかったらお燐が今のような超高温空間に入るなんてことは出来てないはずだしいろんなところがもっと悲鳴を上げているよ。

ただ六百度の熱風が吹き荒れているっぽいから温度が低くても注意が必要だね。

「じゃあ今のうちに聞こうかしら…」

ずっと黙っていた霊夢が口を開いた。真剣な表情で私を見つめてくる。そういえば霊夢の笑顔私見てないなあ……まあ笑顔になる必要もないんだろうけど。

「お姉ちゃんのこと?」

じゃあその分私は笑顔で居よう。2人とも真剣な顔じゃなんか雰囲気良くないしそんな雰囲気私は嫌い。嫌いなら作らなければ良い。

「当たり前でしょ」

そっかそっか…じゃあ話せるうちに話しておかないといけないかな。

「霊夢?」

魔理沙が置いてけぼりになっちゃっている。私もちょっと置いてけぼりなんだよね。

「さっきこの子は古明地って言ったでしょ」

うん!言ったよ。

「ああ言ったな…」

 

「……さとりの、私の母さんの苗字は古明地なの」

え?お姉ちゃんそれ教えちゃってたの?意外だなあ……

「そうなのか⁈」

 

「ええ、でも一度しか言わなかったし幼い記憶だったからのさっきまで忘れていたわ」

あ、そうなんだ。

一応サードアイを出す。能力じゃ姉に及ばないけど別に気にしていない。相手が考えていることが読めればそれだけでアドバンテージになるし。

すぐに2人の思考が入ってくる。ふーん……お姉ちゃんと紫が話しているところの回想かあ…えっと…まだ霊夢が拾われてきて日が浅い頃かな?

『霊夢、それは……』

ん?紫さんどうしたのかな?思い当たる節でもあったかな?っていうか覚えていたんだね。

ああそうか……

「ええ、あんたとさとりが話しているところを偶然聞いた記憶よ」

このとき2人はどんな話をしていたのかな?

「へえ……思い出したんだ」

ほぼ自力でそこまでたどり着いたんだね。じゃあ後は大丈夫かな。

「そうよ」

2人の視線が私のサードアイに移動した。瞬間魔理沙からはなんだこれ?霊夢は、ああやっぱりという心が伝わってくる。サードアイを見て霊夢は確信したみたいだね。へえ……あのときは混乱していたのか。確かに大事に思っていた先代巫女が亡くなって参っているところにさらにお姉ちゃんが妖怪だったなんてショックだったよね。

んーわかることはわかるんだけど……でも理解を示してもらえて満足?

どのような理由があろうと霊夢のやったことを許すつもりはないし一生その罪を背負って生きていかなきゃいけないんだからね。お姉ちゃんは許すかもしれないけど私は…紫含めて絶対許さない。

でも私の気持ちは置いておく。ここで怒ることじゃないから。

「その通り。お姉ちゃんは霊夢を育ててくれた人なのでした。続きは全てが片付いたらかな」

 

丁度温度が下がってきたところだった。これくらいなら人間も入れるかな。

「あらもうそんな時間?」

 

「なんだあんまり話す時間無かったな」

そういえば2人とも長袖なんだけど大丈夫かなあ…確かに地上は雪が降る季節なんだけど…でもここは地底だし制御の利かない灼熱地獄だよ?絶対そんな格好じゃ熱でやられちゃうと思うけど…

「服脱いだら?中暑いよ」

 

『こいしの言う通りよ2人とも熱対策はしておいて損はないはずよ』

 

「それもそうね…じゃあ上着置いておくけど勝手なことしないでね」

 

そんなことしないよ。上着なんて興味ないし。魔理沙もマフラーとか色々置いて行った方がいいよ。中すっごく熱いなんて状態じゃないから。

 

扉を無理やり上にこじ開ける。留め具は根元からへし折った。そうでもしないと開かなかったから。

開けた瞬間熱風が周囲に広がる。少し距離があるのにこんなに暑い…やっぱりこの中の環境はやばいかもしれない。

「私が付いていっても多分邪魔になるだけだから2人とも頑張ってね」

私は…異変を解決する側じゃないから付いてはいけない。それに行ったところで多分足手纏い。だってお空に攻撃することなんて私にはできないから

「薄情ね。まあ良いわ。さっさと終わらせてくるから」

なにかを察したのか霊夢は私の顔を覗き込んで、灼熱地獄に入っていった。少し遅れて魔理沙も入る。

「そんじゃな」

 

「行ってらっしゃい……」

 

静寂が私の周りに立ち込める。

灼熱地獄の中は相変わらず赤くなっていてここからじゃなにも見えない。

 

体を揺さぶる強い揺れが起こった。灼熱地獄が震えている。

「大丈夫だよね……」

 

私の問いに答えてくれる声はなかった。

 

 

 

 

 

 

「うわ…すっごい暑さ」

入ってすぐはまだ外気が来ていたから涼しいかなって思ってたのに奥に行くに連れてそんな気持ちはどこかに吹き飛んだ。今の私達は真夏でも体験することのない…例えるのであれば火山の火口に防護服なしで立っている状態と変わらなかった。

「ほんとだな。こりゃ水着でも持ってくるべきだったな…」

そうよね。でも私水着なんて持ってないわ。滝修行の時に使う服でもいいかしら。あれ結構風通し良いのよね。あーあ…失敗したなあ。すごく暑いわ。

『盟友達、中の様子はどうだ?』

人形のマイクが反応する。こんな場所でもちゃんと繋がるのってある意味すごいわね。だから思いっきり答えてやる。半分八つ当たりだけど。

「蒸し風呂。しかも超高温の」

 

『そりゃ災難だな。水着でも持っていった方が良かったかい?採寸込みで河童の水着(スク水)が100銭だよ』

 

「魔理沙は知らないけど私は遠慮しておくわ」

なんかあいつらの水着って肌に合わないのよね。露出面積は確かに少ないんだけど。

「へえ…でも今頼んでもこっちにすぐ来ないだろ?」

 

『あーやっぱりそこかあ…』

そこかあってそこしか問題ないでしょう。灼熱地獄がこんなところって分かっていればあらかじめ買ってきてたわよ。

 

「一応障壁である程度熱は遮断できてるが…こりゃ長居は禁物だな」

そうね。それにこれも万能じゃない。マシとはいえ湿度も高いからジメジメして辛いわ。あっちこっちで湯気でてるし。

「弾幕ごっこより先に熱でやられそうよ」

 

「そうだな…それにこんなところで落ちるのは悲惨だな」

 

下を指差しながら魔理沙が言った。

指差す方向になにがあるのかと下を見てみれば、そこにはやや白くなっているけれど何か赤い液体のようなものが流れていた。

「溶岩?確かに落ちたくはないわ」

あんなところに落ちたらさよならばいばいじゃ済まないわよ。

その溶岩の表面には時々人のようなものが浮いていた。黒い木炭が燃えているかのように、浮いては沈み時々消失していた。

「まさに地獄ね……」

 

「こんなところに落とされたかねえぜ……善行を積めって言うあの閻魔に賛同しちまうな」

全くね。しかしお空ってやつは一体どこにいるのかしら。一向に姿を現さないから困ったものね。

 

 

「……‼︎」

背中になにかが走る。ゾワゾワと嫌な感覚が背筋を撫でる。それを感じ取った瞬間私の体はバネのように真横に逃げていた。

魔理沙も少し私に遅れて回避した。

さっきまで居たところを何かが通過していく。

風?いや違う!あれは…熱風。それもかなりの高温ね。こっちまで熱がかかってきたわ。

 

「ほう…勘は鋭いようだな」

黒い影が私達の身体を包んだ。光は今下から出ている。なら…

私たちより少し下のところにその鳥は居た。

漆黒の翼をはためかせ、灼熱を放つ棒のようなものを右手に装着しながらもそいつはどこまでも冷めた表情で私達を見つめていた。

 

「あんたがお空ってやつか?」

 

「さあな……私がなんであろうと貴様らには関係が無いだろう」

なるほど、話をする気は無いようね。

「あんた…神様のくせに随分高飛車じゃない?」

まずはあいつがなんなのかを知るところからね。がむしゃらに戦ってもいいけど…あれはそれで倒せる自信がない。悔しいけどね…

「神?はっ!貴様らが言う神なんぞ神にあらず。ただの信仰を得たいだけの小物よ」

 

「へえ…言うじゃない…じゃああんたは信仰を必要としないのね」

鴉の目が赤く輝いた。逆鱗にでも触れた?表情も読めないしずっと危険としか感じないからどうなのかわからないのよ。

「当たり前だ小娘」

 

「なあ神様だかなんだか知らないけどいい加減温めるのやめたらどうだ?地上にだって負担がかかってるんだよ」

私の代わりに魔理沙が文句を言った。でも聞く耳は全く持っていないらしい。

鼻で笑われた。

なんか癪に障るわねあいつ……ただの傲慢か…それとも。

「地上か……燃やし尽くしても問題は…ないよね」

話している途中目の色が茶色に変わった?もしかして茶色の方がお空で、赤いのが神かしら。口調も少し変わっている。威圧的な態度は変わらないのに……

「あんた…なにを取り込んだの?」

今なら神の正体教えてくれるかもしれない。さっきより隙ありそうだし。

 

「「私の(我の)名は八咫烏」」

その瞬間周囲に恐ろしいほどの熱量が放たれる。熱風でも食らったかのように肌がチリチリと痛む。

 

八咫烏?聞いたことないわ…一体どんなやつなのよ。

「紫、八咫烏って分かる?」

向こうに聞こえないようこっそりと紫に尋ねる。

 

『八咫烏…少しだけなら聞いたことあるわ。太陽の化身とも呼ばれた神…いえ、神と呼ぶには禍々しいものだったかしら』

 

「ふうん……」

 

 

「話は終わったか小娘共」

目の色はまた赤色になっていた。まだ主導権争いが続いているのね。なら…勝機はありそう。

少なくともお空の方がどう考えているかによるけれど。

「兎も角これ以上暴れるのはやめて。ただでさえ地上に悪霊が吹き出していて迷惑してるんだから!」

 

「そんなの知ったことではないな」

 

やっぱりこいつ神なんてもんじゃないわ。紫の禍々しいが最も当てはまるわ。

一旦距離を取りスペルを展開する。最初から全力でいかせてもらうわ!

「魔理沙!」

 

「おうよ!」

2人でなるべく挟み撃ちになるように動き回る。

楯突くつもりか(邪魔をするの?)

 

弾幕を展開し動きを封じる。

いくら神様でも当たれば無傷じゃ済まないわよね。しかも体はただの妖怪なのだから。

 

「ふんっ…こんなもの」

動きが封じられても動じないらしい。やり辛いわね。

レーザーのような光の線が周囲の弾幕を根こそぎ吹き飛ばした。

 

「少し興が乗った。ちょっとは遊んでやろう」

私と魔理沙に向かって大量の弾幕が放たれた。

なによこいつ!私達の倍くらい出してるんですけど‼︎ルール違反!

『完全に遊んでいるわね…弾幕ごっこのルールすら知らないようだけど』

 

「なんなのよそれ‼︎ちゃんとルール把握しなさい!」

 

「私がルールだ!」

 

「理不尽!」

なによあいつ!そっちがその気ならこっちだってルール無視よ‼︎

動きを封じるお札を取り出し容赦なく放り投げた。

戦いはまだ始まったばかりだった。




ミスティア「ふう…準備よし…」

庭渡久侘歌「お、丁度かな?」

ミスティア「あ、いらっしゃい。何にします?」

庭渡久侘歌「んとね……八目鰻」

ミスティア「今用意するね」

庭渡久侘歌「……焼き鳥撲滅って謳ってるのよね」

ミスティア「え?ええ…そうですけれど」

庭渡久侘歌「私もそれに参加させて‼︎」

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