古明地さとりは覚り妖怪である   作:ヒジキの木

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depth.186 邪神炎上 中

放ったお札は鴉に近づく前に空中で燃え尽きた。

呆れた声しか出ない。あいつの周りは紙が燃える温度だっての?

「近づいたら火傷しちまいそうだぜ」

ほんとよ。あれじゃ接近戦は無理ね。それにだんだん頭も痛くなってきた。偏頭痛持ちではないはずなのだけど…

ともかくやるしかない。

魔理沙と協力して弾幕をいくつも展開する。

いくつもの弾幕が飛び交い、壁に当たったものはそのまま壁をえぐる。

普通であれば混乱したり逃げ出そうと動揺するというのに弾幕がいくつも飛び交う場所でその鴉はただ羽を休めていた。どれだけ慢心しているのか…

その場から一歩も動こうとはしない。

「くうう…」

ホーミングアミュレットを放つもののその全てを迎撃ないし防がれてしまった。命中するはずだった弾幕達があいつの展開した弾幕で相殺、あるいは迎撃されていく。

それだけでなく私達を狙ってレーザーやビーム、を解き放っている。容赦がない上にこの狭い空間で避けるには少し無理があった。咄嗟に結界で防ぐ。一発でただの結界が溶けた。割れる前に溶けるなんて…

そういえば相手は……ああそうか。

神力だから霊力との親和性は高い。いや、霊力は端的に言えば神力の仲間のようなものだから接触すると溶けるような反応を示すのだ。

 

でも今考えることではない。

体をひねり溶けかけた結界を使い弾幕の中を突っ切る。お札を展開しこじ開けた穴を突破口として弾幕の嵐から抜け出す。少し遅れて魔理沙も出てきた。

誘導弾幕が無かったのは幸運ね。

それに距離も取れた。ここからなら……

魔理沙の位置は…あら鴉に結構近い位置にいるわね。あの距離は魔理沙のレンジギリギリ…私に合わせて飛び込むつもりか。

 

「神霊『夢想封印 瞬』!」

スペル宣言。七色に光る光弾が飛び出す。夢想封印の純粋な強化型のスペルよ。耐えきれるものなら耐えてみなさい‼︎

「ほお…面白いものを使うな」

強い霊圧がかかっているはずなのにあの鴉は涼しい顔をして構えていた。なんてやつ!

「スペルカードよ!あんたは持ってないでしょうけど」

聞こえたかどうかはわからない。だけど鴉の頬がつり上がったのを見れば声は届いたらしい。

喋っている合間にも七色の光弾はそいつに向かっていく。

あんた自身は平気でも、その体の方は耐えきれない。分かっているのだろうか?

「ああ…だが、そんなもので止められると思うな」

弾幕に向かって腕を突き出した鴉。その腕に恐ろしいほど濃厚な力の本流が現れる。強すぎる力の流れは空間にも影響を与え腕周辺が歪み始める。

「それは慢心だぜ!」

だけどその力が放たれるより前に、いくつものホーミング弾幕とレーザーが真上から襲いかかった。

突っ込んだ魔理沙が一番無防備になるところに攻撃を加えつつ飛び込んだ。流石のこれには対処しきれないわよね。

いくつかの弾幕が炸裂しお空の体を傷つけていく。そのまま加速した魔理沙は鴉の隣を通過していく。

真下で反転、あらかじめ備えていたスペルを斬った。

「邪恋『実りやすいマスタースパーク』‼︎」

なにが実りやすいよ。あんたそのネーミングセンスほんとどうなの……

 

「……たわけ。想定済みだ」

二方向からの同時攻撃。命中すれば無事ではすまない筈だ。

迎撃するだろうと思ったけれどそいつは躊躇なく回避を選んだ。ハンデでもつけているのかと思ったけれど違ったようね。

コンマ数秒の差で魔理沙のマスタースパークがかわされる。

だけど私のやつは追尾式よ!

コースを修正し、7つの光弾は追いかける。

「まあ、純粋な妖怪相手ならこれも効いただろうな」

『眩しい!』

 

どうやらお空の意識の方には効果があるらしい。でも問題の方は神。多分光だけじゃどうしようもできないわね。

1発目が後ろ向きに放たれた妖弾の中に飛び込んで吹っ飛んだ。残り六発。

あいつ神だし。私のあれは対妖怪用。今度神様用の夢想封印作ろうかしら。

一瞬だけ興奮した意識を落ち着かせる。瞬間頭がズキズキ痛み始めた。

汗が首筋をつたう。不味いわね…結界があってもこれじゃ体の方がもたないわ。

魔理沙も似たようなものかしら…人にはこの空間は辛すぎるわ。こんなんだったら水を持って来ればよかった。

 

「うわわ‼︎」

さっきまであんな高飛車なことを言っていたやつと同じやつとは思えない声が聞こえる。

視線をあいつに戻せば、なんと最後の光弾が壁にめり込んで爆発しているところだった。まさかあの七つ全て迎撃したの⁈

想定はしていたけど…やっぱり化け物ね。いや…あれはお空の素の力の方ね。

でも普通の方法で避けられちゃうんじゃどうしようもないわ。ちょっと捻らないと……ああ面倒くさい‼︎

力技でゴリ押しできないのって一番腹たつのよ!

 

魔理沙が前に出てきた。どうしたのかしら…

手で合図している。誘い込め……そう、誘い込めねえ。わかったわよ。

あの様子じゃ夢想封印は効果薄そうだしあんたの策に乗るわ!

 

特製大型お札を引き出す。筒状に丸めて持ってきたそれを放り投げる。

空中に一度飛び出したそれらは、次の瞬間青白い火花を散らした。

お空がまた逃げ出す。させないわよ。

大型お札が丸まった状態から一斉に展開。一気にお空めがけて飛び込んだ。

接近している魔理沙のすぐ側を通過し、一部は折りたたまれ鳥のような形状に変化する。

 

逃げ回るだけじゃあれからは逃げられない。通常のお札の三倍の速さなんだからね!

 

反転急降下で逃げるつもりね…なら…

でも私の予想とは裏腹にその場で反転したお空がスペルを切った。

「ち、地霊符『マインドステラスチール』!」

え?スペル使えたの?という問いはすぐに吹っ飛んだ。そうか今はお空だったのね。

次々とお札が迎撃される。でかい分迎撃はしやすいのよね。やっぱいい的じゃない。

でも…そこにとどまっていたらいいマトなのは貴女よ!

 

魔理沙が背後に回る。お空は迎撃に夢中でまだ気づいていない。よしっ‼︎

「チェックメイト!恋符『マスタースパーク』‼︎」

 

ミニ八卦炉が火花を散らして特大ビームを放った。さっきからそれ酷使しすぎじゃないって思うんだけど大丈夫かしら。

「ッチ…小癪だな!」

鴉に気づかれた。

 

右の棒のようなものの先端から高熱のビームが放たれ魔理沙の攻撃と相対消失する。

片手でスペルを操作しながらあんな大火力を制御できるなんて……

こっちがを態勢立て直す時間さえくれないっていうのね。まあいいわ。時間は少し稼げた。私にとっては十分よ。

補助術式は組み終わった。位置も理想的。

「神技『八方龍殺陣』!」

ほんとは萃香をボコす為に組んだスペルカードだからルールすれすれなんだけど…この際気にしない!

 

私の攻撃に魔理沙も呼応する。

「それじゃあこれで最後!魔砲『ファイナルスパーク』‼︎」

それはマスタースパークの数倍のパワーを求めて生み出されたもの。私の二重結界二枚掛けすら貫通したとんでもないスペル。

それをミドルレンジで放った。この距離ならもう回避も迎撃もできないでしょ。

明らかに彼女の顔に狼狽が浮かんだ。それは誰の表情だったのだろう。

 

私の八方龍殺陣とファイナルスパークの本流が鴉の姿をかき消した。轟音が周囲に響き渡る。

爆風で私も魔理沙も吹き飛ばされる。

熱風が周囲に吹きあれ、飛び散った力の残留が壁を破壊する。内側に走っていた水脈まで壊したのか壁から大量の水が吹き出す。それらが周囲に湯気を立ち込めさせ、ただでさえ熱いこの場所を地獄に変えていく。

吹っ飛ばされた魔理沙が戻ってきた。私より近い位置にいたのにずいぶんピンピンしてるわね。こっちは息上がってるのに…それと同じ程度なんてね。

 

でも無事って訳ではなさそうね。度重なる無茶な運用に魔理沙の八卦炉も火を吹いていた。ありゃもうだめね。

「はあ…はあ…やったか?」

 

「やれたならいいんだけど…」

 

 

っ‼︎まずい‼︎

「境界「二重弾幕結界」‼︎」

勘がやばいと警告。咄嗟に体が動いていた。弾幕を結界のように壁にして私と黒煙の合間に作る。

呆気にとられた魔理沙を素早く回収し即座に離れる。

 

その直後目隠しがわりになっていた弾幕が一瞬で吹き飛んだ。太く直線的な軌道を描いて青白いレーザーが伸びていく。

威力を衰えさせる事なく壁にぶつかったレーザーはそこを真っ赤に溶かし抉り取っていく。

それがこちらに向かってくる。

エルロンロール。さらに霊弾をいくつも放って撹乱。

『霊っ…』

すぐそばを飛んでいた勾玉にビームが直撃。

小さな音を残して消失した。素早く体をひねって逃げる。服が燃えなかっただけマシね。

振り返れば、そこは火山が爆発した時のような惨状が広がっていた。もう眩しすぎて直視することさえ難しい。

だけど…はっきりとあいつの顔は見えた。

「化け物…」

あれだけの熱量を放っておきながらまだ涼しい顔している。

それどころか…さっきよりスッキリしている?

「どれだけの力を持っているのよ……」

 

熱気もすごいことになっている。

さっきより温度上がってるんじゃない?

灼熱地獄なんてよくわからない私でもわかる。このままだとまずい。

主にここにいる私達が…

 

 

「私は……」

その言葉はどう続いたのだろう?それを聞く前に彼女は口を閉ざしてしまった。そのまま宙を蹴りこちらに飛び込んでくる。

飛び込んできた彼女の瞳は茶色だった。

 

 

 

「神技『天覇風神脚』!」

 

「じゃあこっちもいくぜ!魔符『ミルキーウェイ』」

 

八卦炉が使えない魔理沙と切り札を使い果たした私、それでも止めるわけにはいかなかった。

流石にさっきのやつでダメージは入っているのか動きが鈍い。片手で障壁のようなものを展開しスペルを防ごうとしている。もしかして…もう一踏ん張り?

なら…残っているスペル全てを投入すれば……

いける‼︎

 

 

瞬間、全てが爆発した。熱風が吹き荒れ、鴉に命中するはずだった弾幕は一気に蒸発、消えていった。

「結界?」

弾幕が命中前に次々消失していく光景に魔理沙がそう呟いた、

「んーちょっと違うわね。熱を使った物理的な壁ってやつかしら」

 

 

「やはり勝手が違うな」

腕に取り付けられていた棒のようなものが、半分に割れて落下していく。

「……っ!」

爆発的な力が周囲に広がった。ペンチで心臓が圧迫されているかのような鋭い痛みが走る。

巫女は霊力を使うけれど本質的には信仰する神、あるいは所属する神社の神の加護を無意識的に受けている。だから加護を受けた神より強い神力を浴びると一時的に苦しくなる……昔先代巫女に教えてもらったことを思い出した。

つまりあいつは…博麗神社の神より強いってこと?

「喰らえ……」

恐ろしい量の力の本流が巻き起こった。本能が理解する。逃げないとまずい!

 

でも動いた瞬間体が鉛のように重くなった。

力が無効にされている?いや違う…これは……

さっきから流れていた汗はいつのまにか止まっていた。そうか…これ……

 

世界が回転する。あ…これやばいかも。

魔理沙が何か言っているけれどそれが聞こえない。

 

 

 

 

なんとかさっきの攻撃は堪えることができた。でももう私の体は力を使い切っちゃった。

それでもやめるわけにはいかない。だから飛び込んだ…神様の言う通りジリ貧になっちゃったけど。それでもここで負けるわけには……

なんで?

 

なんでだろうね。私物覚え悪いから忘れちゃった。

でも、ここで負けたら私のしてきたこと全部無意味だって言われそうな気がして…それ嫌でたまらないの。

 

「このままじゃ…」

身体中が鉛みたいに重い。弾幕が体を蝕む。防御結界が破け、飛び込んだ魔弾が右脚をズタズタに切り裂いた。すごく痛いし血が流れている。泣きたい…でもここでやられたくはない!ここでやられちゃったら…私は…

やはり私が出よう。今のままでは力なんぞ使いこなせるはずもなかろう。

神様の提案。

本当は認めたくない。さっきから時々意識が飛びかけている。それはこの神様が私の体を乗っ取ろうとしているから。気づいたのはついさっき。

神様だって気づいているはずなんだ。だからなるべく使いたくない…いや、今になって後悔すらし始めた。でもそれを言ったらこの神様だって同じだ。違う…選択肢なんてなかったから私より酷いはず。結局は私が引き起こした結果なんだって……

 

「私は……」

思い詰めるでない小娘。いずれ依代を作り出せるところまで体が馴染めば出て行くつもりだ。それまでの合間だ。貸してくれ

 

それは、私を追い出すための口実?信用できないんだけど…

 

我にとってこの体は狭すぎる。それに小娘に最適化されているのだ。乗っ取ったところで操りきれぬ。

 

そっか……じゃあ…

「いいよ。憑代が作れるまで貸してあげる」

絶対返してね?

「ああ…借りるぞ。霊烏路空」

 

入れ替わりに意識を落とす。次に覚めるときは全部終わった後か…謝らないとなあ。




霊夢の敗因
熱中症
魔理沙の敗因
スペル不足
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