古明地さとりは覚り妖怪である   作:ヒジキの木

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depth.188 神話大戦 上

どこまでも歪で壊れた存在。今の私は第三者から評価されるとしたらそう言われるのだろう。

でもそんな事をいちいち考えている余裕なんて無かった。そもそも今の私をさとりと認識してくれたのは誰だろう……誰もいないですね!悲しい……

お燐ですら内心さとりじゃないなんて言われましたし。さとりなんですけれど…おかしいなあ……なんでだろうなあ……

 

そういえばさっきから周りにうるさい鴉がいますね…邪魔なので吹っ飛ばしましょうか。

寄り道はしたくないですけれど……こればかりは仕方がありません。

ああ、タノシイ。

 

 

左右にいた天狗に向けて妖弾を撃ち出す。不意をついたらしく慌てて回避していた。

前を塞ぐのは…無視しましょう。喰べれるものではないですから。

 

 

守矢神社周辺を警戒していた白狼天狗から異形ななにかが天狗の領域に侵入したとの報告があってもう五分。1番乗りは私の隊。他はまだ見えない。

 

「椛隊長。あれですか?」

 

「ああ…あれだ」

千里眼でずっととらえ続けていたそれはしっかりとそこにいた。少し千里眼がブレるから幻影とかそう言った類じゃないかと思っていたけれど……

まさか実体としてそこにいるなんてなあ……

 

「見ればみるほど気持ち悪いですね」

 

一応人形をとってはいるもののそれは上半身のみ。黒に所々紫が混ざった髪。顔はよく見えないものの、直視しようとはどうしても思えなかった。

 

「どことなく…さとりに似ているな……」

思ったことを口にする。でもあれがさとりだとしたら一体何があったのだろうか?

「まさか…」

だよねえ…私もまさかなあなんだよね。

雰囲気が全然違うしあんな禍々しい神の気配振りまいているから違うとは思うんだけど……

「いずれにしてもあれを止めるのが先決だ」

 

あれのそばに近づく。なるべく攻撃範囲に入らないよう手探りで慎重に進路を塞ぐ。

「ここは天狗の領域だ!言葉が通じるのなら今すぐ引き返しなさい!」

 

「……はて?」

 

無視してそれは突っ込んできた。

後退しながら左右を取り囲む。無視するのであれば攻撃しても問題はない。全員の準備ができたら一斉に攻撃を……

 

「邪魔ですよ」

 

「……⁈」

 

攻撃‼︎タイミングが悪すぎるでしょ!

展開中の不意打ちで左右に展開していた部下が退避。包囲が崩れてしまう。

そのまま私の方向に突っ込んでくる。

引き抜いた刀に手をかける。飛び込んでくるそいつを斬ろうとして……

 

「邪魔しないでください」

それは間違いなくさとりさんの声だった。

お腹に衝撃。視界が回転する。何が起こったのかわからない。平衡感覚が完全に麻痺し空間失調になってしまう。気づいたら吹き飛ばされていた。体の向きを元に戻す。

 

「隊長!大丈夫ですか!」

 

「な…何があったの?」

 

「御柱ですよ!あいつ御柱で隊長を推し飛ばしたんです」

御柱?でもあれは八坂様しか使えないはずでは…まさか‼︎

「守矢神社が革命でも起こそうとしているのか?……いやそれよりあれは今どこ…」

 

「今追尾中です」

あれに攻撃の意思は見当たらなかった。攻撃はしてきたけれどそれは私達を追い払うのに留めていたし。私だって押し飛ばされた割には体に異常はない。ただ見た目がアレだし禍々しいし厄のような…すれ違うときに呪いのようなものを感じた。あれは放置しておくわけにはいかない。

 

それに個人的にもちょっと気になるところがあったし。

 

 

だけどそれはすぐに見失ってしまった。

 

 

 

さっきから追尾していた鴉はどこかへ消えた。木々の下を抜けるだけでこうも簡単に振り切れるなんて…仕方がないか。

それで私はどうしたい?そうだね…助けたい。何が何でも……

じゃあ…その障害は壊そう。そうだね壊そう。

邪魔をするものは敵……

 

じゃあここでしまっている扉は?こじ開ければいい……

 

 

 

 

 

 

『なんか突破した!』

その一報が入ったのは霊夢達を通して1時間経つか経たないかといったところだった。

同時に門の方で土煙が上がっているのが見えた。双眼鏡で状況を確認する。

それは…この世のものとは思えない何かだった。

 

触手なのかそれとも邪念の塊なのか…よくわからないものに覆われたそれは真っ直ぐに旧都に向かっていた。さっきの霊夢の件もあったけれどあれは仲間に見えないし近づけたやばいって本能が告げている。

「緊急事態‼︎第1種防衛態勢‼︎」

現場も勝手に武器を動かしたらしい。あれを近づけてはいけない。というよりもっと本能的なもの。怖いものから逃げたい。逃げられなければ追い払いたいという感情だろう。本来妖精はそんなの感じないはず…なのに……さとりと敵対した時以来ね。

「1番から3番砲台展開!4番から6番は待機!」

一番近いビルを展開。速度変わらず。距離と方位を伝える。

「長距離砲座群1番と3番展開!」

砲身が上を向いた状態でビルから連装砲が出てくる。

砲身が一旦水平になり、目標に向けて追尾を始める。

射程圏内。主砲発射用意……

「ファイア‼︎」

私の一言で放たれたいくつもの砲弾はその全てが「何か」に向かい…

 

「効いていない⁈」

全て弾かれた。

紫色の妖弾はその全てが侵入してきたものの展開した結界によって弾かれた。いくつも撃ち込むもその全てが弾かれる。このままでは埒があかないわ。

「ッチ‼︎あまり使いたくないけど…実弾装填!弾種HEAT弾!」

二番、三番砲が牽制を行ううちに一番砲が装填に入る。

 

ん?動きがゆっくりになった……

目標に高エネルギー反応⁈

 

まずい!

 

禍々しいと一言では言い切れない何か邪な気配が収縮し始める。遠くで見ているこっちまで強く感じ取れるのだ。やばい……

「何か」の上に木製の筒のようなものが出現する。

その先端が複雑に展開し、中央に寄せられたエネルギーがまばゆい光の玉となる。

放たれたそれはレーザー弾幕なんて生易しいものではなかった。

青白い線が展開しているビルを横殴りに貫き、一瞬でビルが焼き切れた。通過したところが少し遅れて真っ赤に融解、中の砲弾が誘爆したのか大爆発を起こし倒壊して行く。

その瞬間理解した。いや理解してしまった。あれを絶対にこっちに送ってはいけない。ただでさえ灼熱地獄が危ないって時なのに‼︎あんなのが暴れたら街で暴動が起きかねない。

「全防衛装置作動!あれをこっちに近づけないで!」

残っていた4番から6番兵装ビルを展開。それだけではなく塹壕と旧都の広場からも兵装を載せたビルがせり上がってくる。

そっちには河童がミサイルと呼んでいるロケット兵器を載せた車両がコンベアでビルの外周を移動する形で展開される。

ただ真っ直ぐ飛ぶだけの物だけどちゃんと撃てば当たる。

さらに地霊殿の左右にある盛り土からも巨大な大砲が出てくる。

「発射用意‼︎」

 

タイミングを合わせて……

 

「撃て‼︎」

フルファイア。妖弾だけでなく実弾も惜しみなく導入する。それでも進路は変わらない。いくら弾幕を濃くしても一向にひるむ様子もない。

「一点に火力を集中して‼︎」

 

「どうしたの⁈」

私がいるバルコニーにこいし様が入ってくる。

「やばいものが近づいてきてるんです‼︎」

 

「それって……」

また高エネルギー反応‼︎

二つの御柱のようなものが出現した瞬間、弾幕の一部が一斉に誘爆した。レーザーを使って迎撃したのだ。

続いて第二弾。展開していた御柱同士が二つにくっつき、巨大な棒のようになる。それがこちらに照準を合わせ……

 

「伏せて‼︎」

 

後ろからこいし様が私を突き飛ばす。

 

直後視界が青白くなって…突風が吹き荒れた。轟音が聴力を一時的に奪ったらしい。何も聞こえない。

光が収まったのを確認してすぐに体を起こす。

 

こいし様も起き上がる。

「あ……」

地霊殿の右側にあった盛り土が丸々消失し、赤く焼けただれ、煙を上げていた。土が熔解したのか真っ赤になって流れ落ちている。

そこにあったはずの大砲なんて見る影もない。

 

「早く攻撃止めて‼︎あれはお姉ちゃんだよ!」

こいし様が何か怒鳴っている。少しづつ聴力が回復してきた。

「お姉……ちゃん?あれさとり様⁈」

ようやく言っている事を理解した時には既にロケットや一部砲塔は弾切れの状態だった。

攻撃が止まったことを認識したさとり様はそのままこちらには目もくれず、旧都を通過して灼熱地獄の方に向かって行った。

「あれが…さとり様なんですか?」

 

「間違いないよ!お姉ちゃんを見間違えるはずないもん‼︎」

半信半疑な私を他所にこいし様が飛び上がった。あれを追いかけるつもりらしい。

「ちょっと待ってください!」

 

「エコーちゃんは霊夢達の看病お願い!」

看病⁈まさか……

もうどうしたらいいのかわからなくなって私は建物の中に戻った。

 

 

 

 

瘴気が直撃したらしく呪詛で燻っている瓦礫を押しのけていけばようやくお目当ての人物を見つけることが出来た。

こんなところでいつまでも倒れていないでおくれよ。それにいつまで寝ているふりをするつもりなんだい。

 

「起きろこのクソ野郎」

 

「クソ野郎とは失礼じゃないか」

 

いきなり黒い影があたいの首を絞め上げた。それが洩矢様のものだって気づくのに数秒かかった。力を奪われたんじゃなかったのかい‼︎

い、息ができない!く……

「いっておくけれどさとりに喰われた力は半分くらいだ勘違いするな」

珍しく真顔になったその神様は窒息する寸前であたいから影を離した。呼吸がうまくいかない。それでも息を吸うしかない。

「な…なんで……」

 

「そもそも私の専門は呪い。それも神の呪いだ。それが一つ二つしか無いなんてことはあり得ない。呪いの強弱合わせれば何十、何百っていう集合体なんだよ。だから…一部持っていかれたくらいじゃどうということはないんだよ」

怒っている。本能がそう感じ取った。

確かに怒るかもしれないけれど……それでも自業自得じゃないか。全部とは言わないけど……それでも悪いのはあんた達じゃないか!

「まさかあれほどとは思わなかったよ。私もちょっとやり過ぎちゃったとこがあるし……でもねえ…あれは取っちゃいけないものだなあ」

 

なんでこう神様って勝手なんだい!ほんと嫌になっちゃうね。

「それで……さとりが奪ったのはなんなんだい」

瓦礫の中から帽子を見つけて被り直したその神様はあたいに笑みを浮かべて言った。それはどことなく正気を疑うような…そんな笑みだった。

「一つは相手の奥底を全てさらけ出させてしまうもの。さとりの呪いを知りたくてそれを抱擁させた白蛇を使ってたんだけどそれごと喰われた。もう一つは……何だろうね。相手の精神を壊すのに特化したものかな」

それってよくさとりが想起でトラウマを引き出したり幻影をかけて相手の精神を直接攻撃しているやつと同じなんじゃ……

「さとりとの相性は抜群だね」

「ほんとだよ。挙句それらもさとりの中で性質が変わっちゃったらしいんだ。どうも自我が生まれているようにみえる」

どういうことか理解はできない。だけれどそれは結構まずいってことはよくわかった。それと怒りも込み上げてくる。

 

気づけばあたいは神様を殴りつけていた。体格差もあってか神様は思いっきり瓦礫に頭を突っ込む。あたいも指の骨が折れたかもしれない。それでも殴らずにはいられなかった。

「今は……今はこれでチャラにしておく。だからさとりとお空を助けておくれ…」

口から血を吐き出しながら起き上がった神様に怒鳴る。こんなんじゃ済まさないけれど今は置いておく。さとりもお空も止めなきゃいけないからね。なんでこう…厄介ごとばかり増やすかねえ‼︎

「お空?お空がどうかしたの?」

きょとんとした表情の洩矢様。まさか知らなかった?それもそうか…まだここまで実害は出ていないからね。

「神の力が暴走しているんだよ!意識が乗っ取られたし!」

 

「あちゃ…やっぱりあいつ企んでたか。一応力が暴走しないように制御装置を取り付けているんだけど…精神を乗っ取るなんて芸当出来たとは思えないんだけど」

 

「現に起こってるんだけどねえ…」

想定外だったのかもしれないけれど実際起こっている事だから…それを否定しちゃいけないよ。

「兎も角行かないと……」

 

「そもそもお空になんの神様を宿らせたんだい」

 

「神奈子が連れてきた神様…いやあれは封印されていたやつだから元神様かなあ……」

 

元神様?じゃあ荒神とかそういった類のやつなのかな。確かにそれっぽい感じはしなくもなかったけれど。

「名を八咫烏。太陽の化身であり地上を焼き尽くそうとしたやつさ」

 

「なんで地上を焼くんだい…」

 

「焼いた方が住み心地が良かったんだとさ。私が聞いたところじゃそんなもんだよ。本人が今どう思っているのかは知らないさ。神様だって万能じゃないんだから」

それもそうか……




地霊殿防衛装置

88式地対艦誘導弾
荷車に積まれた自動旋回型の投射装置。誘導システムが未完成のため無誘導。牛や馬で引いて移動する。
旧都広場に格納されていて戦闘時はコンベアでビル外縁部を囲うように設置される。

105ミリ列車砲(戦車砲転用)
レールがないのにカッパが作った為ほぼ廃品同様の値段で買ったもの。
地霊伝左右の盛り土に設けられた塹壕に収納されている。
自動装填装置が搭載されている。

405ミリ砲(艦載砲転用)
塹壕に格納されている。列車砲とは違い荷車の上に搭載されている。
馬や牛が引っ張って移動することも可能。
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